🇺🇸 Kansas (カンサス)

レビュー作品数: 4
  

スタジオ盤

Song For America (ソング・フォー・アメリカ)

1975年 2ndアルバム

 カンサスは米国カンサス州出身のプログレッシヴロックバンドです。1969年に前身となるバンド「ホワイト・クローヴァー・バンド」を結成し、1973年にカンサスに改名。1974年にデビューを果たしました。
 メンバーはスティーヴ・ウォルシュ(Vo/Key)、ケリー・リヴグレン(Gt/Key)、ロビー・スタインハート(Vo/Vl)、リチャード・ウィリアムス(Gt)、デイヴ・ホープ(B)、フィル・イハート(Dr)。1972年にイハートが英国に音楽留学した際にプログレに衝撃を受け、プログレハード路線へ転向したそうです。
 ジェフ・グリックスマンとワリー・ゴールドによるプロデュース作。

 オープニング曲は「Down The Road」。陽気なロックンロールですが、ヴァイオリンがいるのが特徴的ですね。そして強烈な存在感を放つベース。ここでボーカルを取るのはスタインハートですが、それ以外はウォルシュがボーカルを取ります。続いて表題曲「Song For America」。本作の評価ポイントは間違いなくこの楽曲です。10分に渡る大作で、彼らのプログレへの傾倒がよくわかります。そして3分に渡る壮大なイントロが素晴らしく、ファンタジー風ゲーム音楽のよう。個人的にはファイアーエムブレムとか思い浮かべます。強烈な存在感を放つベースやカラフルな音色のキーボードはイエスELPの影響でしょうか。楽曲を彩るヴァイオリンも良い。陽気な歌メロパートよりも幻想的な演奏パートに惹かれる1曲です。「Lamplight Symphony」も8分強の大曲。シンセサイザーを中心にダークな雰囲気を作り、また歌には哀愁が漂います。中盤はベースを中心に疾走し、ヴァイオリンらが強烈な緊張感を演出。終盤は序盤の雰囲気に似た、しっとりとした哀愁あるバラード。緩急あって聴きごたえのある1曲です。
 アルバム後半は「Lonely Street」で幕開け。プログレ風味はなく、渋くてブルージーなロックです。泥臭いこの楽曲は、前半の幻想的な音楽とは全然雰囲気が違います。続く「The Devil Game」はヴァイオリンやキーボードが陽気な雰囲気を作ります。変拍子が使われているものの、比較的シンプルなロックンロールです。最後は12分に渡る大作「Incomudro – Hymn To The Atman」。哀愁ある雰囲気で始まり、スリリングな中盤パートへ。ライブ映えしそうなドラムソロを挟んで、終盤は哀愁漂う歌メロは静かですが、それを終えるとラストに向けて緊迫した演奏バトルを繰り広げます。なかなかスリリングです。

 ロックンロール志向のウォルシュと、プログレ志向のリヴグレンの2人によるパワーバランスが本作では拮抗していて、大作とシンプルなロックンロールが見事に分かれています。その中でも表題曲は突出していて、カンサスを聴くのであれば押さえておきたい楽曲です。

Song For America
Kansas
 
Leftoverture (永遠の序曲)

1976年 4thアルバム

 プログレ志向の強かったケリー・リヴグレンが楽曲の大半を手掛けた、カンサスの代表作『永遠の序曲』。プロデューサーはジェフ・グリックスマン。プログレ志向が強いものの、英国プログレのように複雑怪奇ではなく、少しテクニックを交えつつも比較的キャッチーな仕上がり。そんな作風が功を奏したのか、400万枚以上を売り上げました。

 「Carry On Wayward Son」で開幕。カンサスと言えばこの楽曲で、CM等でも流れていた気がします。コーラスワークから始まり、ヘヴィで印象的なフレーズを奏でるギターリフ。そしてピアノをバックに哀愁漂う歌が始まります。サビの盛り上がり方もキャッチーで、爽やかな印象を抱きます。産業ロックと揶揄されるメロディアスな路線に転向するきっかけになったのはこの楽曲のヒットもあったのではないでしょうか。続く「The Wall」はイントロから強烈な哀愁が漂います。アコギの奏でるシンプルなサウンドに乗せた歌メロも哀愁たっぷり。幻想的なアウトロも美しい、メロディアスな1曲です。続く「What’s On My Mind」は荒っぽいギターを中心としたハードロック。「Miracles Out Of Nowhere」は複雑な構成でプログレらしい1曲。変拍子の嵐、そしてコロコロと場面転換が激しく、牧歌的なパートがあったかと思えばオルガンが荘厳な雰囲気を演出し、その後スリリングに疾走する…なかなかインパクトがあります。
 アルバム後半のオープニングを飾る「Opus Insert」。スペイシーなイントロから掻き分けて出てくるスティーヴ・ウォルシュのカラッとしてハキハキしたボーカル。中盤はコミカルな行進曲。終盤の壮大なシンセサイザーも強烈です。底抜けに明るくポップな「Questions Of My Childhood」を挟んで、哀愁漂う「Cheyenne Anthem」。前半は比較的シンプルなサウンドで、主導権を握る楽器がコロコロ変わります。後半はアンサンブル中心で、テンポアップして明るい雰囲気に変わっていきます。そしてラスト曲「Magnum Opus」はメンバー全員が作曲に関わっていて、6パートから成る組曲でトータル8分半。開幕はシリアスな雰囲気で、ベースソロがヘヴィ。哀愁の歌メロを挟んで3分過ぎたあたりからの疾走パートは非常にスリリングです。のちのドリーム・シアターにも通じる、ヘヴィで複雑、そして緊迫感のある展開。神秘的なパートを少し挟んでまた疾走する。とてもカッコ良い1曲です。

 カンサスの入門作にして、米国プログレの代表作です。湿っぽくて複雑な英国プログレとは異なり、スティーヴ・ウォルシュのカラッとして陽気なボーカルやキャッチーな展開に、アメリカンな空気を感じます。

Leftoverture
Kansas
 
Point Of Know Return (暗黒への曳航)

1977年 5thアルバム

 前作に引き続きジェフ・グリックスマンによってプロデュースされた本作も、前作同様400万枚を超える大ヒット。楽曲はややコンパクトになりポップになりましたが、複雑で難解な楽曲も兼ね備えています。名曲が多く、個人的にはカンサスの最高傑作だと思います。

 オープニングを飾るのは表題曲「Point Of Know Return」。本作の中でも「Dust In The Wind」に並ぶ名曲です。明るいイントロに始まりスティーヴ・ウォルシュのボーカルが爽快です。そしてロビー・スタインハートの軽快なヴァイオリンも気持ち良い。少し変則的なリズムを取りつつもキャッチーさは失わず、また3分という短い時間に纏め上げています。プログレポップな名曲と言えるでしょう。続く「Paradox」はイントロが少し複雑で、しかし畳み掛けるような勢いで圧倒してきます。でもノリは良いんですよね。歌が始まると、爽やかでキャッチーな印象に変わります。ヴァイオリンが作る程よい緊張感も心地良く、なかなかの名曲です。「The Spider」はスリリングなインストゥルメンタル。オルガンを主体に、ヘッドフォンで聴いていると目が回るような、複雑な展開を仕掛けてきます。続く「Portrait (He Knew)」は古臭いハードロック風のオルガンから、ヴァイオリン等の楽器が加わって賑やかに盛り上げます。歌が始まると渋くブルージーなロックに変貌。ヴァイオリンの味付けがなければブルースロックですね。ウォルシュの高い声は少し浮いているかも。「Closet Chronicles」は6分半の楽曲で、本作では2番目に長い楽曲です。哀愁漂うメロディアスな歌が良く、後半は複雑さを交えながら壮大になっていきます。程よくチープな音色で奏でる壮大な音楽が、昔のゲーム音楽みたいで懐かしい感じがします。
 アルバム後半は「Lightning’s Hand」で始まります。ボーカルを取るのはスタインハート。ヘヴィなサウンドで複雑なリズムを刻む、本作で最も難解な1曲です。英国プログレ勢に負けない複雑さで、凄まじい緊張感があります。続いて名曲「Dust In The Wind」。ヘヴィで複雑な前曲とは対照的に、哀愁のある美しい歌メロで勝負するシンプルな楽曲です。温もりに溢れるアコギの音色、味付けに優雅なヴァイオリン。そしてコーラスワークによって、とても美しい楽曲になっています。CM等にも採用されていました。続く「Sparks Of The Tempest」はまたヘヴィな楽曲に戻ります。唸るベースが強烈ですが、オルガンやギターもヘヴィです。「Nobody’s Home」は壮大なイントロから一転して、歌が始まると比較的シンプルなサウンドになります。ヴァイオリンとピアノが良い味を出していて、メロディの良さが引き立ちます。ラスト曲「Hopelessly Human」は本作最長の7分強。大作は息を潜めてだいぶコンパクトになりました。でも7分に濃縮されていてドラマチックな楽曲です。ダークな雰囲気の歌メロ、そして間奏は複雑でスリリングです。

 変則リズムを入れてプログレを活かしつつも、ポップでコンパクトな楽曲で敷居を低くしています。取っつきやすく、それでいて聴きごたえのある名盤です。

Point Of Know Return
Kansas
 
 

ライブ盤

Two For The Show (偉大なる聴衆へ)

1978年

 カンサスのセルフプロデュース作となるライブアルバムです。当時のベストとも呼べる選曲で、再現度の高い演奏、そして観客も演奏中は静かなのでスタジオ盤のように聴けます。
 レコード時代は2枚組14曲入りでしたが、CD化に際して録音時間の関係で「Closet Chronicles」が省かれ13曲入りに(なお、省かれた「Closet Chronicles」はベスト盤に収録)。そして2008年のリマスター時には2枚組24曲入りと大幅にボリュームアップしました。私の持っている音源が13曲入りのCDバージョンのため、これをレビューします。

 ライブのオープニングを飾るのは「Song For America」。原曲よろしくヴァイオリンやシンセサイザーの彩り豊かな音色が心地良く、スティーヴ・ウォルシュの歌は爽やかです。演奏はやっぱりゲーム音楽っぽくて、だからこそ好きです。笑 続いて「Point Of Know Return」でポップな楽曲を披露。少し歌声の高音が辛そう。軽やかなヴァイオリンの音色が爽やかです。「Paradox」ではハードでテクニカルな演奏を展開。疾走感に溢れていて、演奏はスリリングです。「Icarus – Borne On Wings Of Steel」はややシリアスな雰囲気。哀愁のあるメロディが良いです。続く「Portrait (He Knew)」は観客の手拍子の中で3拍子のリズムでゆったりと展開。終盤のテンポアップにはニヤリとしますね。そのまま続けざまに「Carry On Wayward Son」。わかりやすいキャッチーなリフがくるとワクワクしますね。高音が少し歌えてないのは気になりますが、演奏は素晴らしい。ゴリゴリ唸るベースもカッコ良いです。9分近い大曲「Journey From Mariabronn」では、シリアスで凄まじい緊張感を放つ演奏を展開。序盤と終盤は悲壮感が漂います。中盤は悲壮感というよりスペイシーな浮遊感があるかも。続いて名曲「Dust In The Wind」ではアコースティックギターに切り替えて、温もりのある演奏。メロディが良いため、シンプルな演奏に乗せて歌うウォルシュの歌声が心に響きますね。最後にアコギソロをサービス。「Lonely Wind」は電子ピアノの独壇場。鍵盤の奏でる綺麗な音色に浸れます。歌が始まると壮大で、美しいメロディを堪能できます。ここからは怒涛のメドレー。「Mysteries And Mayhem」でアグレッシブで複雑なサウンドを展開。ハードロックテイストのノリの良い1曲です。そのまま「Excerpt From Lamplight Symphony」へ。中近東風の少し怪しげな雰囲気を醸しながら、徐々に緊張感を高めます。ドラムがスリリング。そしてメドレー最終曲「The Wall」で壮絶な悲壮感を演出。その後の哀愁たっぷりの歌が染み入ります。最後はメロディアスな演奏でメドレーを締めます。ラスト曲は「Magnum Opus」。ヴァイオリンとキーボードが即興演奏を繰り広げてから始まります。各楽器にスポットライトを当てたかのような前半。そして歌が終わって後半からはアンサンブルを活かした展開です。とてもスリリングな演奏バトルに圧倒されます。

 複雑な展開を難なくこなす、聴きごたえのあるライブ盤です。ベスト選曲なので、入門盤にも向いているかもしれませんね。

Two For The Show: 30th Anniversary Edition
Kansas
 
 
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