🇩🇪 Kraftwerk (クラフトワーク)

  

スタジオ盤②

クラブミュージックへの接近

Electric Café (エレクトリック・カフェ) / Techno Pop (テクノ・ポップ)

1986年 9thアルバム

 当初『テクニカラー』、その後『テクノ・ポップ』の仮題で制作がスタートしましたが、ラルフ・ヒュッターの自転車事故でアルバム制作ペースは鈍化。また、新しいアルバム制作やツアー、新しい試みに飢えていたヴォルフガング・フリューア(Dr)は、本作には参加せずに翌年脱退してしまいます。
 本作では、クラブミュージックシーンに強い影響を与えたクラフトワークが、逆輸入的にテクノやエレクトロファンクを取り入れています。デジタルな電子機器へと変わり、サウンドの質感も変わりましたね。
 なお2009年リマスターに伴い、ジャケット変更こそありませんでしたが、アルバムタイトルが『エレクトリック・カフェ』から当初のタイトル予定だった『テクノ・ポップ』に改題(回帰)。他にも「The Telephone Call」は8分近いアルバム版から4分弱の短いシングル版に差し替え、そして当時B面曲だった「House Phone」を新たに加えています。本項ではリマスター版『テクノ・ポップ』をレビューします。

 「Boing Boom Tschak」は「ボイン ブン チャ」とタイトルをひたすら無機質に唱えますが、そこにキレのあるダンサブルなビートが合わさり、これがクセになる中毒性。とてもノリの良いダンスチューンです。続くリマスター盤のタイトル曲「Techno Pop」。8分近いダンサブルな楽曲で、ノリの良いビートとDJのようなコールで始まります。主旋律は憂いを帯びていますが、爽快なビートに躍動感のある重低音がとてもダンサブルです。中盤以降はメロディがあまりなく、リズミカルなビートで楽しませてくれます。「Musique Non-Stop」はシーケンサーを用いたリズミカルな演奏に「ミュージック ノンストップ」のフレーズを様々なトーンで反復。残響が妙なトリップ感を生み出しており、中毒性のあるダンスミュージックですね。そして本作のハイライト「The Telephone Call」。これまでのクラフトワークのような、特有の哀愁に満ちたメロディが魅力的なんです。ちなみにボーカルにカール・バルトス(Perc)をフィーチャーしたクラフトワーク唯一の楽曲だとか。哀愁が特徴的ですが、それでいてクラブミュージックを取り入れたリズムビートは強い躍動感に溢れていて、メランコリックなのに不思議とノリノリです。ピポピポといった電話のコール音もユニークですね。「House Phone」は「The Telephone Call」をアレンジしたインストゥルメンタルで、跳ねるようなメリハリのあるビートは爽快ですね。「Sex Object」は野太い声にエフェクトをかけた「Yes / No」で始まりますが、そこからは彼ららしくない重厚なストリングスが楽曲を彩り、珍しくギターも加わっていますね。でもリズムビートは相変わらずダンサブルだし、中盤からはダンスミュージックらしい展開もあり、そこに彼ららしさが表れています。最後に旧盤のタイトル曲「Electric Café」。」メランコリックなメロディを奏でつつも、跳ねるようなビートでノリノリ。メロディか和音か、どこか「Trans-Europe Express」を想起させつつ、それと比べると格段に洗練されたダンスミュージックといった感じに仕上げています。

 ダンス色を更に強めた作品で、「The Telephone Call」とそのアレンジ「House Phone」が出色の出来です。それ以外にも中毒性のある楽曲が並びます。

左:2009年リマスター盤『テクノ・ポップ』。
右:旧盤『エレクトリック・カフェ』。

Techno Pop
(2009 Remastered)
Kraftwerk
Electric Café
Kraftwerk
 
The Mix

1991年 10thアルバム

 1987年に脱退したヴォルフガング・フリューア(Perc)の後任としてフリッツ・ヒルパート(Perc)が加入。またカール・バルトス(Perc)も本作と同年に脱退しており、クレジットされていません。ラインナップはラルフ・ヒュッター(Vo/Syn)、フローリアン・シュナイダー(Vo/Syn)、フリッツ・ヒルパートの3名体制での作品となります。
 アナログ電子機器で演じられてきた往年の名曲を、デジタル機器で演奏・再構築。なおこの時期のシーンはリミックスアルバムがブームを迎えていますが、本作はリミックスという位置づけではなくオリジナルアルバムとして数えられます(ラルフはライブ盤の一種と捉えているようです)。これまでと同様、ラルフとフローリアンによるセルフプロデュース。

 名曲「The Robots」で幕開け。オープニングこそ原曲とさほど変わらない印象ですが、そこからデジタルな演奏に変わって洗練された印象です。元々ノリの良い楽曲ですが、キレが増してグルーヴ抜群な上に、オシャレ度も増したクラブミュージック風に仕上がっています。なお元々6分ほどでしたが、本アレンジでは9分近くになっています。ここから『コンピューター・ワールド』からのアレンジが続きます。「Computer Love」はリズムビートが強調されたノリの良い演奏に加え、ピコピコサウンドもチープではなく洗練されてクールですね。続く「Pocket Calculator」はリズミカルなビートに、チープさを残したピコピコ音が魅力的。奥行きのあるサウンドは、ライブ会場でサーチライトのような光の演出とともに演奏されている場面が思い浮かびます。チープで面白いのに、クールでカッコ良いという。そのまま途切れず続く「Dentaku」。突然始まる日本語に思わずニヤけますね。「ボクハオンガクカ デンタク カタテニ」と口ずさみたくなります。「Pocket Calculator」は各国バージョンありますが、日本語歌詞バージョンの「Dentaku」が採用されたのは嬉しいです。「Autobahn」は23分近い原曲を9分半にリアレンジ。でもさほど物足りなさはなく、これくらいのボリュームで丁度良いのかもしれませんね。リズムビートはヒップホップ的で1991年当時の音に変わっていますが、メロディや楽曲の雰囲気は紛れもなく「Autobahn」です。なお本アレンジでは、通り過ぎる車の効果音がスポーツカーのように速そうです。笑 続いて「Radioactivity」は派手派手なダンスリミックスといった印象で、メランコリックで神秘的な原曲とは毛色を大きく変えています。これは原曲の方が断然好みではありますが、ダンサブルなアルバムの作風にはよく馴染んでいます。ここから『ヨーロッパ特急』からの選曲が続きますが、「Trans-Europe Express」ではレトロなオーケストロンに代わって、洗練されたシンセサイザーが重厚な音を奏でます。ピコピコとしたリズムトラックが電車の走るような音を再現、原曲の雰囲気を保ちつつもより洗練されています。カッコ良いですね。「Abzug」に移って、ミニマルでリズミカルな演奏の上で悲壮感のある和音が哀愁や不安感を煽ります。「Metal On Metal」で金属的な音やノイズによるミニマルなリズムを刻み続け、終盤は重厚なオーケストラでまとめに入ります。最後は鉄道の到着音で『ヨーロッパ特急』組曲を終えます。そして「Home Computer」は「It’s More Fun To Compute」の要素も含めて8分程度に延長。無機質でひんやりとしていますが、心地良い浮遊感をもったダンサブルな演奏です。ラスト曲「Music Non Stop」は『エレクトリック・カフェ』より、「Musique Non-Stop」と「Boing Boom Tschak」が組み合わさっています。ノリの良いビートに乗せて、加工された電子的なボイスが語感良くリズミカルに飛び交います。

 名曲をかけ集めている上に、リアレンジされて全体的に洗練されており、入門盤としても向いているでしょう。但し本アレンジの全てが必ずしも上位互換でもなく、アナログ録音の原曲もまた違った輝きを放つため、他のオリジナルアルバムにも目を向ける機会を与えてくれる良質な作品だと思います。

左:2009年リマスター盤。
右:オリジナルジャケットの旧盤。

The Mix
(2009 Remastered)
Kraftwerk
The Mix
Kraftwerk
 
Tour De France Soundtracks (ツール・ド・フランス)

2003年 11thアルバム

 1983年に発表されたシングル『Tour De France』の新録音を含んだ、『エレクトリック・カフェ』以来実に17年ぶりとなる完全新作オリジナルアルバムです(『The Mix』はリミックスに近い)。本作はツール・ド・フランス100周年を記念して制作され、ツール・ド・フランス公認のサウンドトラックです。母国ドイツでは初めて1位を獲得。なおこれまでは国際盤とドイツ語盤のように分かれていましたが、本作は1バージョンの中に仏独英3ヶ国語がミックスされています。
 この時点でのメンバーはラルフ・ヒュッター(Vo/Syn)、フローリアン・シュナイダー(Vo/Syn)、フリッツ・ヒルバート(Syn/Perc)、ヘニング・シュミッツ(Syn/Perc)。ライブではメンバー横一列に並んで、各メンバーの前にノートPCが乗る卓だけがあるというシンプルな演奏スタイルに変わっています。

 僅か30秒のインストゥルメンタル「Prologue」で始まり、すかさず「Tour De France Étape 1」へ。4つ打ちのダンサブルなビートが心地良いのですが、幻想的で時折メランコリックなサウンドと無機質なボーカルが、全体にひんやり涼しく疾走感を与えます。6分半ほどの「Tour De France Étape 2」になると、前曲と似たような毛色ながらも華やかさが少し増し、クールなダンスミュージックといった色合いが強まった感じがします。「Tour De France Étape 3」に突入すると緊張が高まり、白熱したロードレースを体感できます。スリルに没頭しているとあっという間に終わってしまい、そのまま「Chrono」へ。程良い緊張を保ちながらも、不思議な浮遊感と4つ打ちのリズミカルなビートが合わさって爽快ですね。ここまでの5曲で一連の組曲が終わります。そして8分に渡る楽曲「Vitamin」。ゆったりとしたテンポで、やや金属質な音が目立つダンスチューン。歌はそこまで多くないですが、珍しくヒップホップの要素を取り入れています。「Aéro Dynamik」はグルーヴ感溢れるダンスチューン。特に主旋律はなくて反復するビートで聴かせる楽曲ですが、ヴォコーダーの使い方など随所にクラフトワークらしさが見えます。個人的にはこれが前半(中盤?)のハイライト。そのまま続く「Titanium」は前曲と似た楽曲ですが、「ッピーン ッピーン」と弦を弾くような金属質な音が特徴的ですね。「Elektro Kardiogramm」は吐息をミックスしてリズミカルな演奏に乗せています。淡々としていますが、時折不協和音が掻き乱します。そして本作最長の「La Forme」は9分近い楽曲です。スペイシーな浮遊感とダンサブルなパーカッションで幕を開け、本作では最もメロディアスで幽玄な主旋律を聴かせます。音色のせいかチャイナっぽさも少し感じますね。無機質なリズムトラックは時折跳ねるようなベースやバスドラムが入って、ワクワクするような感情を掻き立てます。ひんやりとした質感の小曲「Régéneration」を挟んで、ラストはタイトル曲「Tour De France」で、冒頭や中盤では再び吐息をミックス。ピコピコしたビートにメロディアスな旋律など、往年のクラフトワークを彷彿とさせます。キャッチーでキレがあって聴きやすく、本作のハイライトでしょう。

 クールな作品ですが、メロディで聴かせる部分は少なく、大きな盛り上がりには欠ける印象です。

 本作が現行最新作ですが、2008年には共同創始者のフローリアン・シュナイダーが脱退&2020年に病死しており、今後新作は難しいかもしれません。現在はラルフ・ヒュッターを中心に活動しており、2021年にはロックの殿堂入りを果たしました。

Tour De France Soundtracks
(2009 Remastered)
Kraftwerk
 
 

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 最初期のメンバーとして所属していたクラウス・ディンガーとミヒャエル・ローターが結成。

 
 
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