🇩🇪 Kraftwerk (クラフトワーク)
レビュー作品数: 11
スタジオ盤①
実験音楽(クラウトロック)時代
1970年 1stアルバム
クラフトワーク(ドイツ語読みだとクラフトヴェルク)は西ドイツ(当時)のデュッセルドルフ出身の音楽ユニットで、電子音楽においては絶大な影響力を誇ります。前衛的な電子音楽を奏でるスタイルを指して最初期はクラウトロック(ドイツのプログレ)に位置づけられます。ニューウェイヴムーブメントにおいては本来オールドウェイヴ側のグループですが、その音楽性は多くの新鋭バンドに影響を与え、またニューウェイヴのピコピコした電子音楽を最も連想させるグループでもあることから、本サイトではニューウェイヴとして取り扱います。
ラルフ・ヒュッター(Key/Gt)、フローリアン・シュナイダー(Fl/Vn/Perc)を中心に1967年に前身となるOrganisation(オルガニザツィオーン)を結成、1970年にクラフトワークに改名します。アンドレアス・ホーマン(Dr)を迎えていますが在籍期間は短く、直後にクラウス・ディンガー(Dr)へと交代しています。本作はエンジニアのコニー・プランクとラルフ、フローリアンの共同制作で、ジャケットデザインはラルフが担当。
8分近い楽曲「Ruckzuck」で幕開け。電子的なフルートの音色で始まり、尺八のような吹き込む音が電子的に加工されて不思議な感覚を生み出します。躍動感のある演奏が晴れやかで気持ち良いです。淡々としていますが、2分過ぎからテンポアップ。そして突然終わりが訪れたかと思えば、違ったフレーズで再び始まります。メロディ不在で無機質ですが、タカタカ速いドラムはやけにスリリング。実験的ですが中々面白い楽曲です。続く12分の大作「Stratovarius」。タイトルは某シンフォニックメタルバンドを想像しますが笑、こちらの方がずっと先ですね。序盤はノイズのような不協和音がどこかエキゾチックな感も出していたりします。かと思えば3分過ぎたあたりから急に生活音(ガレージでの作業音?)を挟んで、鈍重でメタリックな楽曲へと変貌。キンキンとした金属的なギターと、淡々とフレーズを刻むギターがスリリングな演奏を繰り広げて、どんどんテンポを上げて緊張を高めていきます。緊張が張り詰めた後はヴァイオリンと電子音が残って微かな音を立てますが、そこからノイズとパワフルなドラムがどんどん緊張を高めます。おそろしくスリリングですが、ラストはぶつ切り。アヴァンギャルドな作風で、序盤は良さがわかりませんが、中盤以降は難解ながらもかなりスリリングなため悪くはありません。
「Megaherz」は何かのスイッチを入れる効果音から始まり、重低音が蠢いて不協和音が徐々に空間全体に広がります。耳障りなノイズはオルガンに強いエフェクトをかけているのでしょうか?2分過ぎからは一転して穏やかになり、アンビエントのような、ゆったりとして神秘的な浮遊感が漂います。フルートにエフェクトを重ねて神秘的な色合いを見せますが、徐々に分厚い重低音に呑み込まれていく感覚。実験的です。「Vom Himmel hoch」は工業的な音がブオーンブオーンと響く、前衛的な楽曲です。時折爆発音が入りますが、何を表現しようとしているのかよくわかりません。4分辺りからドラムが加わり、この実験的な演奏をまとめ上げて躍動感のあるスリリングな楽曲へと変えていきます。ドラムソロを奇怪な効果音で装飾しているような感じでしょうか。途中2分ほどドラム不在になり、変な効果音で遊んでいますが、終盤でドラムが戻ってきてロック的なダイナミズム溢れるドラムを披露します。
全編に渡り実験的なインストゥルメンタルを繰り広げます。前半2曲はスリリングかつロック的な要素もかろじて見られるため、これらが聴きどころでしょうか。
1972年 2ndアルバム
前作の後もメンバー交代が続き、結局ラルフ・ヒュッター(Key/Gt/B)、フローリアン・シュナイダー(Fl/Vn/Gt)の2名だけとなりました。改造した楽器で実験的な取り組みを行う2人に他メンバーがついていけず定着しなかったようです。本作はラルフとフローリアンの2人と、エンジニアのコニー・プランクを中心に制作されました。なおクラウス・ディンガー(Dr)と、前作発表後に加入したミヒャエル・ローター(Gt)は本作前には既に脱退しており、この2人はノイ!を結成しています。
レコードでいうA面は2曲で、そのうちの大半を占めるのが17分半の大作「Klingklang」。金属を叩く音がいくつも無造作に響き渡り、仏具の鈴のような音も鳴るため、瞑想できそうな不思議な感覚です。2分辺りから場面が変わり、迫りくるベースと電子パーカッション、フルートやピアノが楽曲を構成。単調な演奏で派手さはありませんが、ひたすら繰り返し反復する演奏は心地良くてトリップ感があります。少しずつテンポアップしてフルートもメロディを奏でるようになってきますが、非常に緩やかな変化のため冗長な感じ。10分頃には非常に高速な楽曲になっていますが、テープ処理で無理やりスローダウンして終了。11分辺りから別の場面へ移行します。幽玄で瞑想的な、落ち着いた演奏が繰り広げられますが、やはり単調で眠くなります。14分過ぎからはテンポの速い楽曲へと変貌、電子音楽な感じとロック感の強いハードなギターが両立したスリリングな演奏を展開。部分的にはこの終盤が聴きどころでしょうか。続く「Atem」は3分程度の楽曲。深い呼吸音を少し加工し、風が吹くような感じに仕立て上げていますが、他には何の楽器も鳴りません。
ここからレコードでいうB面。「Strom」はギターにディストーションをかけて強いノイズを放つと、途端に神秘的でどこか怪しげな楽曲へと変わります。中盤から楽曲を包み込むエフェクトをかけた鍵盤(?)が厳かな感じで気を引き締めますが、テープループをいくつも重ねて反転させたりなどの趣向が凝らされているようです。「Spule 4」はギターが散発的にフレーズを奏で、ベースが淡々と鳴る実験的な1曲。エフェクトと弾き方の組み合わせを色々試すかのような感じです。10分近い楽曲「Wellenlänge」も前曲の実験的な流れを継いでいます。単調なうえに音数少なく静かですが、中盤のギターとベースの掛け合いあたりから聴けるものになり、後半はテンポアップして少しずつスリリングになっていきます。ラスト曲は「Harmonika」。加工されたハーモニカで重厚な音を奏でています。これも実験的な印象が強いです。
実験的な色合いがとりわけ強く、聴かせることより試すことに主眼が置かれた印象で、個人的には全然ついていけませんでした。ちょっと単調かなと思った1曲目が、通して聴いたら一番マシな楽曲だったという。笑 加工されたサウンドは時折仏教的な世界観を連想させる音を放ったりしています。
1973年 3rdアルバム
ジャケットに写っているのはラルフ・ヒュッター(写真左)とフローリアン・シュナイダー(写真右)で、今作も2人とエンジニアのコニー・プランクによって制作されています。相変わらず実験的なアプローチがされているものの、リズムマシンやヴォコーダーの導入など、『アウトバーン』で確立するクラフトワークらしい電子音楽のアプローチが既に見られます。
なお1st『クラフトワーク』から本作までの初期3作品は、ラルフとフローリアンともに再発を拒否しており、著作権保護の緩かったイタリアでブート盤を経て1995年に正規盤CDが発売されています。また、初期3作品はボーカル不在(本作のみ、歌詞のないヴォコーダーを通したボーカルが入る)なのも特徴です。
オープニング曲「Elektrisches Roulette」はピロピロした電子音が鳴り響き、前作との違いを感じさせます。浮遊感のある電子サウンドに牧歌的なフルート、そして加わる躍動感溢れるダイナミックなドラムなど、スリリングかつ爽快な楽曲ですね。終盤はこれまでの彼ららしくテンポアップし倍速くらいに加速する展開へ。3分程度の「Tongebirge」は、フルートとカラフルな鍵盤が鳴り響きます。ピロピロと忙しなかったり、かと思えば幽玄の景色を見せてくれたり。幻想的な1曲です。「Kristallo」はチープなシンセサイザーに加えて力強くビートを刻むリズムマシンがとてもダンサブルで、実験的な色合いも残るものの、ニューウェイヴにも通じる斬新なシンセポップがこの1973年時点で既に表現されつつあります。最終盤ではテープの逆再生にテンポアップなど色々と遊んでいます。「Heimatklänge」はピアノの深みのある音にフルートかわ絡んで、美しくてゆったりとしています。フルートは徐々に何重にも重ねて、分厚いハーモニーで心地良く包み込んでくれます。
アルバム後半は「Tanzmusik」(=Dance Music)で幕開け。これが『アウトバーン』以降にも通じる電子音楽で、リズムマシンを用いた無機質ながらもノリの良いビートに乗せて、鍵盤が優しい音色を聴かせます。そして有機的なパーカッションやハンドクラップもあるので人の温もりを感じられるんですよね。タイトル通りダンサブルで爽快な楽曲です。ラストは14分に渡る大作「Ananas Symphonie」。弦楽器がエキゾチックな香りも見せたかと思えば、ヴォコーダーを通した歌にダンサブルなビートが加わってテクノポップ的な色合いを見せます。そこから幻想的な場面へと変わり、幽玄な世界から徐々にトロピカルな雰囲気になり、波のようなエフェクトが心地良さを助長。波のようなノイズが徐々に大きくなって呑み込まれたあとは、牧歌的で優しいメロディにゆったりと癒やされます。
実験的とされる初期3作品では最も聴きやすい1枚で、後のクラフトワークに通じる作風が見えます。
テクノポップの萌芽とヒット
1974年 4thアルバム
クラフトワーク4枚目となる本作は世界的なヒットとなり、電子音楽を初めて大衆に浸透させた作品として高く評価されています。反復する電子音を取り入れたバンド初の作品ですが、まだギターやフルート、ヴァイオリンといった有機的な楽器も用いられています。この時点のメンバーは、ラルフ・ヒュッター(Vo/Syn)、フローリアン・シュナイダー(Vo/Syn)に加えて、ヴォルフガング・フリューア(Perc)、クラウス・レーダー(Vn)。
レコード時代のA面を丸々占める22分超の大作「Autobahn」で幕を開けます。エンジンをかけクラクションを鳴らすオープニング、そしてヴォコーダーで歪めたボーカルによる「Autobahn」の連呼が楽器のように響きます。リズミカルな重低音はムーグベースが用いられているのだそう。スペイシーかつ心地良いリズムですがゆったりとしたこの主題部分は、高速道路を走っている感じはしないスローペースですが、3分半頃からテンポアップして程良い爽快感が得られます。淡々としたミニマルなリズムがトリップ感を生み出し、メロディアスな音色を奏でるフルートやギターは、景色が流れ去っていくかのような感覚です。6分半過ぎからまたゆったりとしたテンポに戻り、8分過ぎからは加速。無機質でミニマルなリズムに風切り音のような効果音が、高速の疾走感を与え、地味に中毒性があるんですよね。この無機質で実験的なサウンドはポストパンク先取りな感じ。シンセが心地良く鳴り響く13分過ぎから、ゆったりとしたメインテーマへ再び回帰しますが、キリキリとしたノイズが入ったり、少し変化が見られます。16分辺りから静けさが支配し、更にゆったりとした歌を聴かせると、スペイシーなシンセサイザーが爽快なテンポで晴れやかなメロディを奏でます。ミニマルなフレーズを反復しながら徐々に加速し続け、気持ちの良いエンディング。
レコード時代B面、アルバム後半は3分半〜6分半のインストゥルメンタルが並びます。「Kometenmelodie 1」は彗星の音楽という意味の単語で、響き渡るシンセサイザーがスペイシーな色合いを見せます。但しドラマチックとは無縁で、無機質な宇宙で淡々と進む彗星の様子を客観的に表現しているかのよう。続く「Kometenmelodie 2」は前曲とは逆に、彗星を眺め沸き立つ人の主観が入ったかのように、シンセサイザーがキラキラと煌めいてメロディアスです。明るいトーンで聴きやすい楽曲ですね。少しゲームのBGMっぽい。笑 そして「Mitternacht」は厳かなオルガンにスペイシーなノイズが入りますが、クラウスの電子ヴァイオリンが使われているそうです。そして足音のような水滴のような音が不気味に響き、ダークな雰囲気が支配します。最後の「Morgenspaziergang」だけはノイズを鳴らすだけの実験的な演奏でよくわかりませんが、後半は牧歌的なリコーダーの音色が懐かしさを感じさせます。
表題曲「Autobahn」は長いですが、中毒性のある名曲です。プログレの文脈でもオススメできます。
左:2009年リマスター盤。
右:オリジナルジャケットの旧盤。
1975年 5thアルバム
タイトルは「Radioactivity (放射能)」と「Radio-Activity (ラジオでの活動)」のダブルミーニングとなっており、それぞれのテーマに沿った楽曲が並びます。オリジナルジャケットはDKE38型国民ラジオ(ナチス時代に安価に大量生産されたラジオ受信機の一つ)が描かれており、2009年リマスターでは放射能マークのジャケットに差し替えられています。なおドイツ語盤と英語盤が制作され、本作以降も同様です。
本作でのメンバーは、ラルフ・ヒュッター(Vo/Syn)、フローリアン・シュナイダー(Vo/Syn)、ヴォルフガング・フリューア(Perc)、カール・バルトス(Perc)。本作よりラルフとフローリアンによるセルフプロデュース体制で以降続きます。それまでの作品で使用されたフルートやヴァイオリン、ギターは本作では使用されず、ミニムーグやオーケストロン、シンセサイザーや電子パーカッションを用いられています。
オープニングを飾る「Geiger Counter」は無機質なバスドラムの反復が心臓の鼓動のようにも聴こえますが、徐々にノイズを伴ってテンポアップ。ごくシンプルな演奏なのに、煽られているかのようなスリルがあります。そのまま始まる表題曲「Radioactivity」。これがとても素晴らしい名曲で、透明感のある鍵盤とクワイアのような包み込むサウンドで、イントロからメランコリックでひんやりとした空気が漂いますが、どこか神秘的で美しくもあります。そんな演奏と合わさって、単調なメロディを繰り返すだけの歌すら憂いを感じ魅力的です。時折ツーツツーといった無機質なノイズがアクセントとして楽曲を引き締めています。ここから放射能ではなくラジオをテーマにした「Radioland」へ。おふざけのような電子音が時折入ったり、ポンポン鳴るパーカッションとブツブツ呟く歌がまるでお経のようですが、そんな笑える要素すら呑み込む強い哀愁が楽曲全体に漂います。メロトロンに似た音色が楽曲を包み込み、憂いを感じさせます。ノイズやヴォコーダーの多用がラジオっぽい。「Airwaves」はローファイな鍵盤がキャッチーかつメロディアスなフレーズを奏で、憂いに満ちています。ですが打ち込みのようなリズムトラックはとてもダンサブルでノリノリ。躍動感があり、ミニマルな反復も心地良いです。1分にも満たない「Intermission」がピンポンパンポンといった効果音でひと息つけると、その効果音がプツプツ途切れて「News」へ。ナレーションにヴォコーダーを通したのか、機械的な気持ち悪いボイスに、コンピュータサウンドのような電子音が鳴り響きます。
アルバム後半は1分足らずの「The Voice Of Energy」で幕を開け、ヴォコーダーを通して機械的なトークを繰り広げます。そのまま続く「Antenna」は歪んで陶酔感のあるボーカルが、サイケデリックで酔いそうな感覚を生み出します。おふざけのような効果音が酔いや目眩をより強めます。「Radio Stars」はヴォコーダーで歪めたボーカルが楽器のように響き渡ります。そして何と言っても特徴的なのがスペイシーな効果音で、終始鳴り続けるので、ずっと聴いていると気が狂いそうになります。「Uranium」は1分半程度の楽曲で、クワイアのような音色がひんやりとした感覚を生み出します。「Transistor」はシンセサイザーがファンファーレのようなキャッチーなメロディを奏でるインストゥルメンタル。オルゴールのような音も混じって幻想的です。そして最後に「Home Sweet Home」…ではなく「Ohm Sweet Ohm」。オームの法則のOhmですね。笑 サウンドは電子的ですがメロディラインは牧歌的な楽曲で、始めはスローペースな打ち込みといった趣ですが、徐々にテンポアップしていきます。テンポはどんどん上がり続け、終盤になるとかなり速い楽曲になっています。
電子音がおふざけのように鳴りつつも、アルバム全体をヨーロッパ大陸的な哀愁が包み込みます。完成度も高い名盤です。
左:2009年リマスター盤。
右:オリジナルジャケットの旧盤。
テクノポップの確立と世界的な影響
1977年 6thアルバム
本作は機械的なボーカルにミニマルな演奏、それでいてメロディアスな電子音楽スタイルを確立した名盤と言われています。ちなみにこの時期、クラフトワークの大ファンであるデヴィッド・ボウイとイギー・ポップがコンタクトしてきており、「Trans-Europe Express」の歌詞にも2人の名前が出てきます。なおブライアン・イーノとのコラボも話題に上がったそうですが、実現には至りませんでした。
ジャケットが4人のメンバーが並んだ肖像画のようなものが国際盤で、ドイツ盤はモノクロのメンバー写真になっています。そして2009年リマスター時には、アイコンのようにシンボライズされた電車のイラストに改められました。メンバーは前作に引き続きラルフ・ヒュッター(Vo/Syn)、フローリアン・シュナイダー(Vo/Syn)、ヴォルフガング・フリューア(Perc)、カール・バルトス(Perc)で、このラインナップで『コンピューター・ワールド』まで続きます。
「Europe Endless」で開幕。チープなシンセサイザーが繰り出す電子音は、ファミコンやゲームボーイといった昔のゲーム機を連想させ、これらゲーム機で遊んだ世代には懐かしさを覚えるのではないでしょうか。10分近い楽曲で、電子音のミニマルな反復、そしてダンサブルな電子パーカッションと、電車のガタゴト揺れる音を表現したかのような中毒性の高い演奏が特徴的です。メロディアスですが晴れやかな主旋律は、列車から眺める雄大な景色を表現しているかのようです。8分近くある「The Hall Of Mirrors」はまさにゲーム音楽。電子音がレベルアップ時のような効果音を反復し、そこから怪しげなダンジョンへ突入…という楽曲ではないのでしょうが、クラフトワークが表現したかった世界観とは違う光景が目に浮かびます。笑 力強く響くティンパニのような打楽器も、怪しげで神秘的な雰囲気を助長します。歌メロは哀愁が漂います。続く「Showroom Dummies」は比較的キャッチーなシングル曲。チープな音色ですが、強い哀愁が漂うメロディラインは魅力的です。ダンサブルな反復も妙に中毒性があるんですよね。
レコードでいうB面の開幕は表題曲「Trans-Europe Express」。線路を走るかのような単調かつミニマルなリズムに乗せて、加工された無機質なボーカルが未来的なイメージ。そしてオーケストロンと呼ばれる楽器がメロトロンにも似た音で哀愁のメロディを奏でますが、ローファイというかアナログなサウンドが、ノスタルジックで寂寥感を掻き立てます。ダークで哀愁に満ちつつも、淡々と反復するフレーズは癖になる中毒性がありますね。そのまま途切れず続く「Metal On Metal」。元は1曲でしたが、2009年リマスター時に「Metal On Metal」と「Abzug」という2曲に分かれました。リマスター後の「Metal On Metal」パートは、金属的なパーカッションを無機質に淡々と奏でるインストゥルメンタルです。続いて分離独立した片割れの「Abzug」。「Trans-Europe Express」のフレーズをひたすら反復する、リプライズ的な楽曲です。全体的にダークで哀愁漂うこの楽曲のラストは、駅に到着したかのようなブレーキ音で終えます。続くインストゥルメンタル「Franz Schubert」では、哀愁はあるものの、少し晴れやかな雰囲気が戻ってきます。「Europe Endless」にも似たフレーズを反復し、そこにオーケストロンが哀愁のあるメロディを奏でます。ゲームのBGMっぽくて懐かしい感じがします。途切れず続くラスト曲「Endless Endless」は1分ほどの小曲で、機械的なボーカルの反復で終えます。
ひたすら反復されるチープな電子音が全編を支配し、感情を抑圧したような抑揚のないボーカルも無機質ながら温もりを感じます。昔のゲーム機で育った世代には心地よいのではないでしょうか。
左:2009年リマスター盤。
右:オリジナルジャケット(国際盤)の旧盤。
1978年 7thアルバム
ロボットのようなパフォーマンスや、テクノカットと呼ばれるもみあげをバッサリ切った髪型。サウンドもテクノポップの完成形で、前作よりもミニマルでダンサブルに、そしてよりメリハリがついた印象です。後に訪れるシンセポップ/テクノポップブームの火付け役になったほか、米国の黒人ゲイコミュニティにも広がってデトロイトテクノというジャンルを拓くことにも繋がります。
日本でもテクノポップやテクノカットブームが訪れますが、その火付け役はクラフトワークに影響を受けたイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)だったようです。赤い人民服を着たYMOはクラフトワークのオマージュでしょう。その本家となる本作ジャケットは赤いシャツを着たメンバー4人が同じポーズで並ぶものが有名ですが、2009年のリマスター時には真っ赤な背景にタイトルだけのものが採用されました。変更後もクールでカッコ良いですね。
オープニング曲は「The Robots」。浮遊感のある電子音と加工されたボーカルは、チープで無機質な単調さを持ちながらも、未来的で、そして温もりさえ感じます。シンプルな歌は口ずさみたくなるほどキャッチーで耳に残りますね。そしてシーケンサーを活用したサウンドに電子パーカッションの組み合わせは中々ダンサブルで、聴き心地良くて中毒性があります。続く「Spacelab」はタイトルのとおり宇宙のような浮遊感を与えながら、ダンサブルなビートを刻んで中々心地良い。ですが主旋律は暗くて物悲しい雰囲気が漂っています。少しだけ入るボーカルはヴォコーダーを通して極端に加工され、歌というよりも楽器のように扱われています。SF感満載です。「Metropolis」は上昇するようなシンセサイザーが鳴り響いた後に、ダンサブルなリズムを刻むメランコリックな楽曲へと変わります。ノリノリなのに憂いに満ちていますね。終盤はサイレンのようなシンセが特徴的。
ここからレコードB面、アルバムは後半に入ります。アルバム後半ではラスト曲を除きボーカルは加工しておらず、若干ですが歌の比重も大きくなっています。とは言っても主役はあくまでシンセサイザーですが…。シングルヒットした「The Model」はノリの良いリズムを刻みますが、全体的には哀愁が漂います。歌も憂いに満ちていますが、他の楽曲とは異なりちゃんとしたメロディラインがあって、キャッチーな仕上がりですね。そして「Neon Lights」は9分に渡る楽曲です。素っ気ないドラムが妙に印象に残るイントロを経て、牧歌的で優しい歌を聴かせます。歌メロだけ聴くと田舎な光景が浮かびますがバックでは終始電子音が鳴り、間奏ではネオンの光のようにキラキラとした音色が楽曲を彩ります。ラストは表題曲「The Man-Machine」。チープで単調な電子音の反復はリズミカルで、ファンクのようなグルーヴがあります。そして加工されたボーカルによる「シモシモシモ…シマシーン」の連呼は中々に強いインパクトがあります。
最低限のボーカルとミニマルな電子音は無機質ながら、不思議と温もりを感じさせます。特にオープニング曲「The Robots」の中毒性が強く、これは脳内ループします。
左:2009年リマスター盤。
右:オリジナルジャケットの旧盤。
1981年 8thアルバム
この時期社会的に台頭し始めたコンピュータをテーマに取り扱ったコンセプトアルバムです。ですがクラフトワークはこの当時コンピュータを所有しておらず、制作にあたって電子楽器は用いられているもののコンピュータは用いられていません。
本作を伴うツアーは大規模なもので、その経験から体力づくりに熱心に取り組むことになります。そこでサイクリングにのめり込んだラルフ・ヒュッター(Vo/Syn)が1982年に生死をさまよう大事故に遭い、アルバム制作ペースも落ちていきます。また、ヴォルフガング・フリューア(Perc)はクレジットされているものの、本作も次作もレコーディングには参加しなかったようです(脱退は次作リリース翌年の1987年)。
タイトル曲「Computer World」でアルバムの幕開け。ピコピコとリズミカルで楽しい演奏が繰り広げられますが、トーンの低い歌は少しシリアスな雰囲気も漂います。続いてキャッチーな名曲「Pocket Calculator」。歌詞は英独仏日と各国版が用意されていて、日本語歌詞のものは「Dentaku (電卓)」というタイトルが付いています。スーファミ等のレトロゲームのようなサウンドが懐かしく、そしてリズミカルな演奏はとてもノリノリです。電卓というよりレジのバーコード読み取り音のようなピポピポとした効果音も楽しいですね。「Numbers」は様々な言語で数字を数えるだけの歌詞で、ヴォコーダーを用いてかつ抑揚のない機械的な声で歌います。終盤聴ける「イチ、ニ、サン、シ」には思わずニヤけますね。メロディはありませんが、躍動感のある電子パーカッションは魅力的ですね。「Computer World 2」は、「Computer World」のバックで流れていたメランコリックな旋律が前面に出てきて、物悲しい空気が漂います。でも無機質なリズムはダンサブルでノリが良いですね。早口で喋る機械的な声がとても気になります。
ここからアルバム後半へ。7分超の「Computer Love」は少し陰のある主旋律とアンニュイな歌がメランコリックな印象に仕立て上げますが、ダンサブルな演奏やミニマルな反復が合わさって心地良さも生み出しています。続く「Home Computer」はどこかエキゾチックな怪しさを放ちますが、ダンサブルなビートはノリノリで爽快。時折浮遊感のある神秘的なフレーズを奏でたりしながら、未来的で可能性に満ちたコンピュータの神秘を表現しているかのようです。ラスト曲「It’s More Fun To Compute」はスリリングかつエキサイティングなダンスチューンです。序盤からシンセが緊張を高めますが、相変わらずダンサブルでノリの良い演奏。そして途中からメロディは強い哀愁が満ちてきます。
ダンス色を増してノリの良い演奏と、これまでも放っていた哀愁が良い具合にブレンドされています。キャッチーな名曲もあり、魅力的な名盤です。