🇬🇧 Radiohead (レディオヘッド)

レビュー作品数: 5
  

スタジオ盤

The Bends (ザ・ベンズ)

1995年 2ndアルバム

 英国オックスフォードのロックバンド、レディオヘッド。メンバーはトム・ヨーク(Vo/Gt)、ジョニー・グリーンウッド(Gt/Key)、コリン・グリーンウッド(B)、エド・オブライエン(Gt)、フィル・セルウェイ(Dr)の5人組で、パブリックスクール時代に出会い、活動を続けています。なお本作からの付き合いであるプロデューサーのナイジェル・ゴッドリッチと、アートワーク担当のスタンリー・ドンウッドも、しばしば第6、第7のメンバーとして扱われています。なお、ジャケット写真は救命訓練用の人形とのこと。この写真はなんだろうとずっと疑問でした。

 本作はアコースティックギターが奏でる美しいサウンドをベースにしながら、シューゲイザーの影響を受けたであろう歪みまくった轟音ギターが所々に入り交じった作品です。本作はジョン・レッキーのプロデュース作ですが、ここでジョン・レッキーの元で参加していたナイジェル・ゴッドリッチとバンドが出会い、彼は次作以降のプロデューサーに就くことになります。

 アルバムは「Planet Telex」で開幕。エフェクターによって歪んだギターの音色が不思議な浮遊感を作り出します。でもどこか緊迫した雰囲気で、オープニング曲から中々にスリリングです。続いて表題曲「The Bends」。重厚で歪んだギターの音色。キャッチーなイントロは、邦楽でも聴いたような気がしてどこか懐かしさも覚えます。爽やかな印象のギターや力強いドラムの後ろで、何気にベースが良い仕事をしています。「High And Dry」ではトムの歌い方にU2のボノっぽさを感じます。この楽曲に限らず、U2からの影響が所々にうっすら見られます。アコースティックに奏でられるサウンドは心地良い。「Fake Plastic Trees」もアコースティックでゆったりとした雰囲気。ボーカルが消え入りそうで儚げです。後半の盛り上がりは感動的で、コード進行も心地良いです。「Bones」はコリンのベースが唸る唸る。そしてディストーションを効かせたギターも非常にヘヴィです。「(Nice Dream)」でゆったりとした雰囲気に落ち着きますが、終盤に向けて荒々しくなっていきます。続く「Just」は静と動が比較的はっきりしたグランジ風な1曲です。グランジだけでなくシューゲイザー等の影響も受けたであろう、歪んだジョニーのギターが非常にヘヴィです。スリリングな1曲です。「My Iron Lung」は美しいメロディを堪能できる1曲ですが、サビではぐちゃぐちゃに掻き乱します。ニルヴァーナにも通じる破滅的な感じ。そんな暴虐的な前曲とは対照的に「Bullet Proof…I Wish I Was」はアコギ主体でしっとりと聴かせます。優しくて儚げです。続く「Black Star」はバラード曲。耳心地の良いイントロからフェードインして始まる歌はメロディがとても美しい。ギターが奏でる音色も心地良くて良いです。サビが雄大な雰囲気の「Sulk」を挟み、ラスト曲「Street Spirit (Fade Out)」へ。ダウナーな雰囲気を作る美しいアルペジオ。メロディは美しくも、暗くて切ない歌が刺さります。

 本作はギターロックの傑作と名高い作品です。世間的に持ち上げられていますが、実は長らくその良さがわかりませんでした。でも次作『OKコンピューター』や、本作のルーツにあるであろう音楽を聴いてから改めて本作を聴くと、確かにこれは良いと思えるようになりました。
 そしてレディオヘッドは次作で大きく化けることになります。

The Bends
Radiohead
 
OK Computer (OKコンピューター)

1997年 3rdアルバム

 レディオヘッドの傑作で、1990年代名盤として真っ先に名が挙げられる作品です。しかしながら取っつきにくいのも確かで、浮遊感の漂うサウンドに乗るトム・ヨークの歌がとにかく暗いです。初めて聴いたとき、ピンク・フロイドを更に暗く冷たくしたような印象を受けました。次作『キッドA』の方がぶっ飛んでいて逆に取っつきやすく、『キッドA』でワンクッション置いてから本作に臨んだら、その良さが分かってきました。
 ギターロックの『ベンズ』と、その後の方向性を指し示したポストロックの名盤『キッドA』の間に挟まれた過渡期にありながら、立ち位置のよくわからない本作が絶大な支持を得ている…ということで、発売20周年を機に『OKNOTOK 1997-2017』と副題のついた新解釈(?)リマスターが2017年にリリースされました。本項ではこのリマスター盤をレビューします。

 『OKNOTOK 1997-2017』で「OK」と名付けられた1枚目は、1997年に発表されたオリジナルCD『OKコンピューター』のリマスター盤です。次作への片鱗を見せる浮遊感溢れる楽曲もいくつか収録。とても繊細です。
 「Airbag」で鬱々しく重たいオープニングを迎えます。ノイジーなのに美しさすら感じられる分厚いイントロが、とにかく強烈なインパクト。トムの悲壮感を纏った気だるいボーカルを、重苦しくも浮遊感のあるサウンドが彩ります。続く「Paranoid Android」も名曲ですが、このひたすらダークな楽曲をシングルカットする勇気よ。静かな前半はダークながらも神秘的な雰囲気が漂います。アコギの音色が心地良い。中盤からはヤケクソ感のあるボーカルとともに、演奏はとてもヘヴィに、そして暴虐的になります。その劇的な展開にも驚きです。ハイな展開の直後に、極めて鬱々しく重苦しくなり、また暴虐的な展開を見せて終わります。展開がめまぐるしいですが隙がなく、プログレにも通じる1曲で、とにかく凄い。続く「Subterranean Homesick Alien」では浮遊感を見せます。宇宙空間を彷徨うかのような雰囲気で、リズム隊がかろうじて地にとどめてくれる。そしてあまりにもダークで悲痛な「Exit Music (For A Film)」に続きます。これ、映画『ロミオとジュリエット』に採用されたそうですが、この楽曲の暗さに納得です。アコギ主体の静かなサウンドにトムの悲しげな歌。演奏はクワイアによって物悲しさを増し、歌も悲痛な叫びへと変わっていきます。続く「Let Down」では、絶望的で全く救いのない前曲と違って、ふわふわキラキラしたサウンドに乗る優しいメロディで癒してくれます。でもどこか哀愁が漂い、心から晴れやかな気分というわけではありません。続く「Karma Police」はアコギとピアノの弾き語りがメインですが、力強いリズム隊が目立ちます。特にフィル・セルウェイのドラムの存在感が強い。繊細な歌は、美しいメロディを聴かせてくれます。続いて淡々と語るだけの「Fitter Happier」。コンピュータボイスに歌詞を読ませたのだそうです。この1曲で一息ついた後、アップテンポでキャッチーな「Electioneering」。サイケデリックなギターにグルーヴ感抜群のベース、弾けるようなドラムとノリノリなサウンドです。でも歌だけは悲痛な感じに聴こえるというギャップがあります。気だるげな「Climbing Up The Walls」では、終盤に破滅的な不協和音を響かせて非常にノイジーです。一転して「No Surprises」は夢見心地のような綺麗で優しいサウンド。歌にも温もりを感じられ、ほっとできる1曲です。続いて、タイトルは「Lucky」ですが陰鬱な雰囲気の1曲を挟んで、ラスト曲「The Tourist」。鬱々としつつもどこかまったりとした安堵感も覚えます。アルバムは全体的に暗いですが、繊細で美しくもあり、どれも捨て曲なしです。

 『OKNOTOK 1997-2017』で「NOTOK」と名付けられた2枚目は2017年に新規追加されたディスクで、未発表3曲とシングルB面8曲から成ります。当時アルバムに収録しないと判断された(=NOT OK)楽曲群ということのようです。コレクターズエディションとかのラフミックス等を収録したボーナス盤とは少し立ち位置が異なるようです。
 「I Promise」はアコースティックに奏でられる楽曲で、とても美しいメロディです。変な捻りが少なくシンプルなアレンジで、しかし繊細な楽曲となっています。「Man Of War」は神秘的だけれど鬱々としたサウンドを展開。サビでのディストーションのかかったギターが重たい、ドラマチックな楽曲です。メロディは美しくも暗すぎる…。そして「Lift」はライブ経験でそのポテンシャルを感じながらも、アルバムに入れると売れ過ぎてしまって方向性が変わってしまうと危惧したバンド側があえて収録しなかった楽曲だそうです。少し切なさもありますが、明るくて優しいメロディは希望を感じられます…絶望的な楽曲が多いのでなおのこと。ここまでの3曲が収録されなかった未発表曲で、ここからはシングルB面の楽曲群。グロッケンの音色が綺麗な「Lull」で浮遊感を演出し、続くインストゥルメンタル「Meeting In The Aisle」では次作のような音響系へのアプローチが見られます。ひんやりとしたシンセが響き渡る僅か2分の「Melatonin」を挟んで、良曲「A Reminder」。静かで幻想的なサウンドは、程良いノイジーさを加えながらも癒しの空間を提供します。「Polyethylene (Part 1 & 2)」はセッションの様子を収録したのか、弾き語りの途中でぶつ切りして突如カウント。その後のヘヴィなリフは強烈。「Pearly*」は「OK」に収録された楽曲のように、ヘヴィなギターとダウナーな歌。攻撃性を内包しつつも暗く重い1曲です。「Palo Alto」はディストーションの効いたギターが重いですが、静と動のメリハリのある展開や躍動感のあるサウンドは比較的キャッチーです。最後は電子ピアノをバックに歌う「How I Made My Millions」でしっとりと終えます。

 「OK」と名付けられた本編は傑作。取っつきにくさはあるものの、聴けば聴くほど鬱々としたサウンドの中に見いだせる美しさや、ダウナーな雰囲気の虜になります。「NOTOK」は新解釈で追加されたディスク。名曲もあるものの、トータルで本作にこれが必須なのかと言えば、どちらとも言えません。一般的なデラックスエディション等のボーナスディスクと比べれば、よっぽど出来は良いですけどね。
 このリマスターは、闘病の末亡くなったトム・ヨークの元妻レイチェル・オーウェンに捧げるとコメントしています。20周年を機に名盤の立ち位置整理…だけではなくて、バンド、特にトムの心の整理も兼ねたリマスターなのかもしれません。

OK Computer OKNOTOK 1997-2017
Radiohead
 
Kid A (キッドA)

2000年 4thアルバム

 ポストロックの金字塔と呼ばれる2000年代トップクラスの名盤です。ギターをかき鳴らして美しくも鬱々とした前作『OKコンピューター』とは大きく変わり、感情を廃した無機質なコンピュータサウンドで聴く人を選ぶ作品ではあります。でも前作のような強烈な負のオーラがない上、ぶっ飛んでいて衝撃度は高く、そして高い中毒性も持ち合わせているので、私は本作の方が取っつきやすかったです(最終的には前作の方が好きになりましたが)。私は『キッドA』から『OKコンピューター』と逆のパターンでしたが、順当に『OK~』でハマった人のうち本作で失望した人も多かったようで、そんな人の受け皿としてコールドプレイが人気を獲得していくことになります。
 聴く人を選ぶとは言ったものの全世界で400万枚以上を売り上げるセールスを記録し、その成功は次作においても続いているので、この独特な世界観も世界で広く受け入れられているようです。一聴すると無機質に聞こえるサウンドも、聴けば聴くほど人間味が見えてくる気もします。

 オープニングを飾る「Everything In Its Right Place」は、まるでゲームオーバー音楽のような、暗くて抑揚のない鍵盤の音色で開幕。ボーカルも感情に乏しいように思えて、初めて聴いたときは無機質な感じが不気味でした。同じフレーズを淡々と反復していますが、時折混ざる機械音も含めて妙に心地良い。中毒性がとても高くて、最初のマイナスイメージが払拭できると何度も再生したくなる名曲に化けます。続いて表題曲「Kid A」は静かで実験的です。ボーカルは加工されていてぼやけた感じ。ボボン…ボボン…と響く心地良い低音が眠気を誘うようで、機械音による子守歌というイメージがあります。続く「The National Anthem」は終始楽曲をリードするヘヴィなベースリフがとてもカッコ良いです。このベースリフはコリン・グリーンウッドではなく、トム・ヨークが考えてトム自身が弾いたのだそう。後半、不協和音を起こしているホーンやサックスが非常にスリリングです。「How To Disappear Completely」ではアコギが鳴っていて、無機質な本作の中では前作に近い作風です。歌は鬱々としつつもエレギ等で演出される浮遊感が心地良く、音の海に浸れる癒し曲です。終盤は音が分厚くて、でも靄がかかったような幻想的な雰囲気があります。インストゥルメンタルの「Treefingers」はまるで宇宙空間か深海か、光の届かない空間をゆったり漂うような印象を受けます。とても幻想的です。「Optimistic」は本作では珍しい「ロックしている」楽曲です。ギター、ベース、ドラムというロックの基本構成。アフリカンビートも取り入れて躍動感を生みつつ、重たくて少しダークなメロディを聴かせます。終盤、フィル・セルウェイのドラムを中心に、激しさを増してスリリングな展開を見せます。そして「In Limbo」では3連符の心地良いリズムで浮遊感を演出。反復されるフレーズは耳に残ります。ノイジーなテクノ曲「Idioteque」はダークな雰囲気を放ちます。狂気を感じる1曲ですが、しかし強烈な中毒性もあります。そのまま続く「Morning Bell」。5拍子で刻まれるリズムは引っかかりを残します。前半は大人しいですが、終盤に狂気じみてくるのでスリリングです。最後の「Motion Picture Soundtrack」は穏やかな雰囲気です。無音を挟んで再び奏でられるサウンドはとても幻想的。

 ロックしている楽曲が少なく、加工された無機質なサウンドは、一聴しただけでは拒否感もあるかもしれません。でも何度も聴きたくなるような中毒性の高さに、いつしか虜になります。浮遊感がとても心地良くて、時々無性に聴きたくなる名盤です。

Kid A
Radiohead
 
Amnesiac (アムニージアック)

2001年 5thアルバム

 タイトルは『記憶喪失者』を意味します。
 前作『キッドA』から僅か8ヶ月のスパンでリリースされた本作。前作と同時並行でレコーディングされ、まるで兄弟のような作風です。でも無感情だった前作と比べると、人間味を感じられる楽曲が増えた印象です。本作も世界的な成功を収めました。

 アルバムは「Packt Like Sardines In A Crushd Tin Box」で開幕。エスニックな音が鳴り人間味を出しつつも、電子的なサウンドと淡々と反復するフレーズが作る、無機質な浮遊感をも持ち合わせています。抑揚に乏しい歌も無機質な感じを増長しますね。続く「Pyramid Song」はシングルカットされた楽曲。静かなピアノをバックにダウナーな歌メロ。途中から加わるフィル・セルウェイのジャズのような複雑なドラムと、悲壮感のある美しいストリングスが楽曲を盛り上げます。とても切ない雰囲気です。「Pulk/Pull Revolving Doors」はノイズまみれのインストゥルメンタル。電子音と逆再生のシンセをひたすらに繰り返します。ずっと聴いていると何かに蝕まれそうです。「You And Whose Army?」は名曲。前半は歌をフィーチャーしたようでほぼトムの歌だけ。でも無感情で淡々としています。ですが後半、楽器が増えてくると感情が溢れるかのように激しさを増します。「I Might Be Wrong」はジョニー・グリーンウッドとコリン・グリーンウッドの兄弟による複合リフが淡々と反復されますが、これが耳に残る良いリフです。ファルセットを用いた歌は掴みどころがなくふわふわとしています。「Knives Out」はイントロから引き込まれる名曲。これもシングルカットされました。ギター音は美しくて繊細、そしてどんどん闇に落ちていくかのような暗さ。哀愁漂うこの楽曲は『OKコンピューター』の頃のサウンドに近い気がします。「Morning Bell/Amnesiac」は前作収録曲のアレンジで、ドラムが消え、テンポもゆったりとしています。狂気は取り払われ、子守歌のような優しさや温もりがあります。「Dollars And Cents」はストリングスとジャズ寄りのドラムによって、雄大だけどスリルを味わえる楽曲に仕上がっています。「Hunting Bears」はインストゥルメンタル。ブルージーなギターの音色は、このアルバムの中では異色な感じがします。「Like Spinning Plates」は次作『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』に収録の「I Will. (No Man’s Land.)」を逆再生したメロディを流しているのだとか。ノイズが不気味な浮遊感というか、なんとも不思議な感覚を生み出します。ラスト曲は「Life In A Glasshouse」。ジャジーな渋い楽曲で、トランペットをはじめとしたサウンドに魅了されます。でもダークな雰囲気はレディオヘッドですね。

 実験的な作風ですが、前作が受け入れられた人には受け入れられることでしょう。いくつかあるジャズ風の楽曲も魅力的です。

Amnesiac
Radiohead
 
In Rainbows (イン・レインボウズ)

2007年 7thアルバム

 CDが斜陽でダウンロード販売が主流になりつつある中、公式HP上でリスナーが自由に価格を決められるという画期的な販売方法が採られました。レディオヘッドはオルタナティヴな姿勢を貫いていますね。価格は0~∞の間で決められ、気に入らなければタダにだってできる。そんな本作は平均4ポンド(約1000円)で購入されたのだそうです。その後CD等の形態でも販売されました。今はストリーミングが主流になりつつあるので状況も変わっているかと思いますが、リスナーが音楽に求める適正価格はこれくらいなんでしょうね。私はレンタルCDで聴くという邪道を往きましたが…。『OKコンピューター』等の売上には貢献したので許してください(白目)

 オープニング曲「15 Step」はダンサブルな1曲で、ノリの良いリズムに乗せて5拍子を自然に聴かせます。時折広がる幻想的な光景がレディオヘッドらしいですね。続く「Bodysnatchers」は個人的には本作のハイライト。彼らにしては珍しいアップテンポな1曲で、乱雑な感じですがロックしていますね。リズム隊が気持ちの良いノリを作り出して、ノイジーなギターが響きます。トム・ヨークの歌も高めのキーで、激しい演奏に埋もれない存在感を示します。一転して「Nude」ではゆったりとしたテンポで美しいメロディを聴かせます。イントロでストリングスを響かせたかと思えば、歌が始まるとボーカルをフィーチャーしたシンプルな演奏に。また、終盤のコーラスワークとエコーの効いたサウンドは神々しい印象を抱きます。「Weird Fishes/Arpeggi」はジョニー・グリーンウッドのアイディアで、アルペジオを楽曲の軸に置いた1曲です。これも名曲ですね。複数のギターが織り成すアルペジオは繊細で美しい一方、フィル・セルウェイの小気味良いドラムが生み出す疾走感をも持ち合わせています。後半は緊迫感に満ちて、とてもスリリングになります。「All I Need」は音数が少なくシンプルな印象ですが、後半の盛り上がる場面では分厚い音の壁が迫ってきて、強烈な緊張感を生み出します。「Faust Arp」は2分強の短い楽曲。アコギとストリングスが主体ですが、その優しい音色とは裏腹に、変拍子を多用して中々に複雑な構成です。「Reckoner」ではアルペジオとストリングスが美しいサウンドを奏で、ファルセットを多用したボーカルが心地良い浮遊感を生み出します。まったりとした雰囲気で浮遊感漂う「House Of Cards」を挟んで、躍動感のある「Jigsaw Falling Into Place」。ドラムやアコギがノリの良さを生み出し、サウンド全体でロックしています。でも歌は鬱々とした感じで、サビでは少しヤケクソ感が出ています。最後に「Videotape」。トム曰わく「最もポジティブな曲」だそうですが、重たいピアノに乗る歌は物憂げで、またパタパタッと響くリズムも悪い意味で印象に残るというネガティブな印象の強い1曲です。

 エレクトロニカ路線はほどよく残しつつ、『ザ・ベンズ』や『OKコンピューター』にも通じる繊細なギターロックにも回帰したような感じです。レディオヘッドにしては比較的明るめで、爽やかな印象の作品です。

In Rainbows
Radiohead
 
 
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