🇬🇧 Echo & The Bunnymen (エコー&ザ・バニーメン)

レビュー作品数: 5
  

スタジオ盤

Crocodiles (クロコダイルズ)

1980年 1stアルバム

 英国リヴァプール出身のポストパンクバンド、エコー&ザ・バニーメン(通称エコバニ)。「エコー」と名付けられたドラムマシンを用いていたことがバンド名の由来だそうです。どうしてもアニメ『TIGER & BUNNY (通称タイバニ)』を連想してしまうのですが、命名に何か影響を与えたのでしょうか?笑
 イアン・マッカロク(Vo)、ウィル・サージェント(Gt)、レス・パティンソン(B)と件のドラムマシンで1978年に結成。後にピート・デ・フレイタス(Dr)を迎えて本作でデビュー。エコバニはネオサイケというジャンルの開拓者として知られます。一部でネオサイケ御三家とかリヴァプール御三家とか呼ばれているみたいですが、御三家に挙がるバンド名が人によってまちまちなので、あまりメジャーな括り方ではないのでしょうかね。

 楽曲ごとにプロデューサーが異なり、ビル・ドラモンド、デイヴィッド・バルフ、イアン・ブルーディーという名が連なります。
 オープニング曲は「Going Up」。イントロからひんやりと冷たくも神秘的なサウンド。そこからスリリングなドラムがフェードインしてきて始まります。全体的に陰鬱な雰囲気ですが、エフェクターによって音像のぼやけたギターが浮遊感を演出します。アウトロは陰鬱なフレーズをひたすら反復。続く「Stars And Stars」はイントロからしてひたすら陰鬱で、淡々とした歌も暗い雰囲気。シンプルながらもメロディアスなフレーズを刻む間奏のギターが良い感じ。「Pride」は焦燥感に溢れています。エッジの効いたギターのカッティングがカッコよく、そしてベースは骨太に唸りを上げ、力強いドラムが強烈なビートを刻みます。そこにシロフォンの音色が加わることで、神秘的な雰囲気を作り出します。「Monkeys」は、陰りのあるメロディアスな1曲。そして表題曲「Crocodiles」はひりついた疾走曲。ベースとドラムがグルーヴ感を生み出し、ギターのカッティングがザクザクと切り込んでくる、疾走感もあってスリリングな1曲です。メロディは弱いですが、緊張感溢れる演奏は中々魅力的ですね。
 レコード時代のB面、アルバム後半は先行シングル「Rescue」で幕を開けます。リズム隊とくにベースがとても骨太で、ギターは控えめながら若干のサイケ感を醸します。独特のメロディラインが印象的で、ちょっと変なメロディなのに妙に耳に残るという不思議。続く「Villers Terrace」は哀愁を纏ってメロディアスな楽曲。アクセントとして加わる鍵盤の音色が綺麗ですが、少し時代を感じる側面もあります。そして「Pictures On My Wall」はエコバニの1stシングル曲。アコギとシンセを織り交ぜて、エキゾチックなサイケ感と、ダークかつ幽玄な感覚を両立させています。オルガンが不気味。この頃のマッカロクの歌い方は荒っぽいですね。「All That Jazz」はビート感のあるドラムが気持ち良い1曲で、暗鬱な本作の中では比較的明るい印象を受けます。ロック色が強くてカッコ良い。ラスト曲「Happy Death Man」はダイナミズム溢れるドラムと、不協和音を鳴らすピアノによって混沌とした印象を受けます。でも歌メロが意外にキャッチーで耳に残るんですよね。中盤はシンセブラスによって賑やかに彩られています。

 1980年代特有の、残響感のあるサウンド処理は空間の広がりを見せますが、同時に寒々しい印象を持ちます。全体的に暗くて冷たい感じ。ただ、新鋭バンドにしては洗練されています。
 当時はU2と比較され、U2よりもエコバニの方が人気が勝っていたそうです。今や世界有数のロックバンドまでのし上がったU2とは大差をつけられてしまいましたが…。

Crocodiles
Echo & The Bunnymen
 
Heaven Up Here (ヘヴン・アップ・ヒア)

1981年 2ndアルバム

 本作はエコー&ザ・バニーメンの2ndアルバムです。前作のプロデューサーはバンド側と音楽性が違ったことから外され、新たなプロデューサーとしてヒュー・ジョーンズを迎えています。本作はファンから好意的に受け入れられ、全英10位を獲得しました。

 オープニング曲は「Show Of Strength」。ウィル・サージェントがリードギターを、イアン・マッカロクがリズムギターを担当し、エキゾチックな音色と神経質そうなギターを絡ませます。そこに大音量ながら淡々としたベース、ダイナミズムに溢れたドラムが入って、終盤は恐ろしいほど緊張感を醸します。また、イアン・マッカロクの歌は耽美な感じ。「With A Hip」はリズム隊が焦燥感を煽り立て、特にピート・デ・フレイタスの力強いドラムが強烈ですが、ビートが気持ち良くてダンサブルに感じる瞬間も。チャカチャカと小気味良いギターも爽快。続く「Over The Wall」は6分に渡る楽曲です。シンセを用いて、ダークかつヘヴィな感触。そして中盤、手数の多いドラムによって緊張感高まる場面はスリリングなんですが、マッカロクの歌は耽美で、そのギャップでより引き立っている気もします。「It Was A Pleasure」はひねた感じの楽曲で、スリリングなリズム隊や、チャカチャカかき鳴らすギターが緊張感ある演奏を繰り広げます。そして「A Promise」はマッカロクの耽美な歌が特徴的。小気味良いリズムギターと、エキゾチックなリードギターが楽曲を爽やかに仕立てます。
 アルバム後半は表題曲「Heaven Up Here」で幕開け。比較的テンポが速く、張り詰めた演奏は焦燥感を煽ります。間奏ではトリップ感のあるギターにサイケな感覚がありますが、その裏でレス・パティンソンが武骨なベースを鳴らしています。2分半ほどの「The Disease」は、徐々にフェードインするように始まります。アクセントとして入るピアノが暗い雰囲気。これから盛り上がりそうな場面で終わってしまって消化不良ですが、続く「All My Colours」はイントロからプリミティブなドラムが迫力満点。力強く明瞭なドラム以外は、音像のぼんやりとした演奏・コーラスで、それらが寂寥感のあるメロディを奏でます。そして「No Dark Things」は怪しげですがポップさもあるリフを鳴らすパートと、小気味良くギターをかき鳴らすパートを交互に繰り返して楽曲にメリハリをつけます。「Turquoise Days」は音数少なく、静かな空間にリズムを刻みます。ドラムが倍速になると徐々に音量を上げて高揚感を煽っていきます。そして最後は「All I Want」。リズム隊が常に焦燥感を煽りながら、緊張を高めたり緩めたりしてメリハリある演奏でスリルを味合わせてくれます。

 小気味良くかき鳴らすギターがカッコ良く、ボーカルも耽美な歌唱スタイルが定着しました。前作よりも完成度が高く聴きやすいです。

Heaven Up Here
Echo & The Bunnymen
 
Porcupine (ポーキュパイン(やまあらし))

1983年 3rdアルバム

 エコバニ人気絶頂期の作品で、彼らの中では最高位である全英2位を獲得しました。アイスランドで撮影された寒々しいジャケット写真のように、楽曲も冷たさの中に美しさを感じさせるものが多いです。ライバル的な存在のU2もその後「New Year’s Day」で雪中のPVを見せますが、影響を与えたんでしょうか。
 当初レコーディングされた楽曲は、レーベル側から非商業的だと判断され、後から、インド人ヴァイオリン奏者のシャンカールの弾くストリングスがオーバーダビングされています。これによりエキゾチックな風合いが増しました。イアン・ブルーディーのプロデュース作。

 名曲「The Cutter」でアルバムの幕開け。エキゾチックなイントロから不思議な魅力を感じます。そしてうねるベースとタイトなドラムに、切れ味の鋭いギターが目立ちますが、ギターはカッティングで空間を切り裂くだけでなく、間奏では幻想的な空間を演出します。間奏の壮大でキャッチーなシンセサウンドも魅力的。続く疾走曲「The Back Of Love」も、キャッチーさとヒリヒリした緊張感で魅力的な1曲です。スリルを生み出すチャカチャカと軽快なギターカッティング、グルーヴィなベースと高揚感を煽るドラム。また、イアン・マッカロクのアツい歌唱はU2に通じつつ、ナルシスティックなところはキュアーのようでもあります。「My White Devil」は所々にシロフォンを用いて幻想的な感覚を生み出しつつ、エスニックなフレーズを用いるところにサイケ感が表れています。終盤に向かうにつれてテンションが高まっていきます。「Clay」は歌メロが比較的キャッチーで、疾走感ある演奏はリズミカルで爽快。アコギとエレキを織り交ぜた小気味良い音が飛び交いますが、全体に漂う残響感によってどこか寒々しい感覚を合わせ持っています。そして表題曲「Porcupine」。中東やインドのようなエキゾチックで怪しげな雰囲気を醸し出す、サイケ全開の楽曲です。でも、それら音楽から連想されるような暑い感じはなくて、どこかひんやりとした感触。後半はリズムチェンジして、ピート・デ・フレイタスの力強いドラムをはじめ、ビート感を増してキレが鋭くなります。
 ここからアルバム後半に突入。「Heads Will Roll」は、暗鬱なアコギのアルペジオから一転して、アグレッシブな演奏が始まります。レス・パティンソンの骨太なベースが楽曲を支え、アコギとエレキの絡みが美しい。間奏ではヴァイオリンが中東っぽいフレーズを鳴らし、非西洋的な異国の雰囲気が漂っています。「Ripeness」は、軽快なカッティングが爽快な疾走曲です。緊張感がありますが、比較的明るい雰囲気。エスニックな、どことなく妖しさのあるメロディも光ります。続く「Higher Hell」は民族音楽的な要素を取り入れつつ、テンション低くて暗い雰囲気です。冷たい演奏は時にノイズを織り交ぜて起伏を持たせています。終盤の多重コーラスが、不気味に焦燥感を掻き立てます。「Gods Will Be Gods」は追い詰められるような感覚とトリップ感を両立した楽曲です。同じフレーズを繰り返しながらも、少しずつテンションを高め続けて、どんどん焦燥感を煽ります。スリリングな演奏に圧倒されますが、ラストはバッサリ終わるという唐突な展開に唖然。そしてラスト曲「In Bluer Skies」はリズミカルなハンドクラップが軽快に鳴りますが、怪しげなメロディのせいで、軽快さよりも神秘的な印象の方が強いです。

 キャッチーな「The Cutter」や「The Back Of Love」を携えた、エコバニの傑作と名高い作品です。過去のサイケデリックロックがインド音楽へアプローチしたように、同様のエキゾチックな雰囲気を纏いながらも、ニューウェイヴ特有のひんやりとして冷たい空気が全体を覆っています。

Porcupine
Echo & The Bunnymen
 
Ocean Rain (オーシャン・レイン)

1984年 4thアルバム

 全英4位を獲得した本作は、エコー&ザ・バニーメンの最高傑作に挙げられることも多い作品です。ストリングスを大胆に導入して方向転換が図られたほか、名曲「The Killing Moon」を収録しています。ギル・ノートンとアンリ・ルストー、バンドの共同プロデュース。美しいジャケット写真は、イングランド南西のコーンウォールにあるカーングレイズ洞窟だそうです。

 オープニング曲は「Silver」。アコギの軽快なサウンドをストリングスで華やかに引き立てて、キャッチーさを増しました。間奏ではエキゾチックなギターソロが健在ですが、ストリングスが少し鼻につくかも…。続く「Nocturnal Me」はメランコリックで暗鬱なワルツを刻みますが、ストリングスが壮大に引き立てます。「Crystal Days」は明るいトーンの楽曲で、時に爽やかに、時にガチャガチャとノイジーにバンドサウンドを鳴らしています。ストリングスのバランスがちょうど良い感じ。「The Yo Yo Man」もワルツを刻む1曲で、アコースティック主体のメランコリックな演奏はイアン・マッカロクの耽美なボーカルを引き立てます。そして「Thorn Of Crowns」はエキゾチックなメロディが強調され、怪しげな感触です。リズム隊が焦燥感を煽ったり、咆哮のような歌などカオスな楽曲ではありますが、ミックスによりリズム隊の音量が抑えられるなどポップさを意識したようなアレンジがなされています。
 アルバム後半はエコバニ屈指の名曲「The Killing Moon」で幕を開けます。シタールなどを用いて怪しげな雰囲気を醸しつつ、マッカロクの耽美な歌が始まるとメロディの良さに魅せられます。ゴリゴリしたベースや冷たい質感のピアノなど、メランコリックな歌メロや主旋律以外にも聴きどころ満載です。続く「Seven Seas」は、明るさと切なさを内包したメロディアスな楽曲です。これもストリングスが彩りますが、分厚いコーラスワークのおかげでバランスが良く、良い具合にポップさを引き出しています。「My Kingdom」は毒気も少なく、アコギが引き立つギターポップ的な爽やかさ・切なさを帯びています。間奏のギターソロがアツいですね。そして最後に表題曲「Ocean Rain」。マッカロクの静かに囁くようなアカペラで始まり、少しずつ演奏が加わって、途中からはバンドサウンドとともにストリングスが楽曲を盛り上げます。

 これまでのようなひりついたバンドサウンドは後退し、キャッチーさを増してポップになりました。アルバム前半は華美なストリングスが鼻につきますが、後半はメロディの良さが引き立つ良曲が揃っている印象。

Ocean Rain
Echo & The Bunnymen
 
Echo & The Bunnymen (エコー&ザ・バニーメン)

1987年 5thアルバム

 バンド名を冠した本作は全英4位・全米51位を獲得し、アメリカでも売れた作品になります。ローリー・レイサムがプロデュースに携わった本作はストリングスが多用されていた前作とは異なり、キーボードが多用されているのが特徴です。本作後にイアン・マッカロクがソロ活動にシフトするため脱退、ピート・デ・フレイタスが1989年に交通事故で亡くなるなど、本作以降にバンドに危機的状況が訪れることになります。

 アルバムは「The Game」で幕開け。晴れやかでどこか切なさのあるイントロ。そして歌や演奏には攻撃性がなくなって、優しさやポップ要素が出てきている印象を受けます。「Over You」は透明感のあるキーボードによって、キラキラと明るい雰囲気に仕立てています。ですが歌はメランコリックで、どこか切ない感じ。メロディの良さが際立つ良曲です。続く「Bedbugs And Ballyhoo」は、ダンサブルなドラムにオルガンが絡んで、リズミカルでノリノリ。ジャムセッションのような即興感にオシャレさも持ち合わせていますが、でも不思議と暗いムードも漂っています。そして「All In Your Mind」は緊張感のあるスリリングな演奏に、これまでのエコバニっぽさが表れています。そして鍵盤の味付けによって、ひねくれポップ感が出ています。「Bombers Bay」は、明るさの中に諦めのような切なさが立ち込めます。マッカロクの穏やかな歌が優しいですね。続いて「Lips Like Sugar」はキャッチーな良曲です。ダイナミズムのあるドラムから高揚感を煽り、分厚いベースが響きます。ギターと鍵盤がカラフルに楽曲を彩って、そしてマッカロクの耽美なボーカルが耳に残るサビメロで魅力を発揮します。「Lost And Found」は透明感のある演奏に、ノスタルジックでメランコリックな歌が乗ります。靄のようなエフェクトによって包み込むようなサウンドが心地良いですね。続く「New Direction」は程良く緊張感を保った楽曲で、かつてのようなキレのある楽曲で楽しませてくれます。躍動感もあって高揚感を掻き立てます。そして「Blue Blue Ocean」では力強いドラムが楽曲を引き締めます。キーボードの音色に時代を感じますね。「Satellite」は躍動感があってリズミカルな楽曲です。爽快なバンドサウンドが繰り広げられ、骨太なベースやチャカチャカとかき鳴らすギターが気持ち良いです。ラストの「All My Life」はゆったりとしたテンポで、アコギも取り入れて柔らかな感触です。ストリングスが使われているので前作の延長といった趣ですね。歌も穏やかで、まったりしています。

 円熟味を帯びて丸くなった印象ですが、メロディの良い楽曲が多いです。

Echo & The Bunnymen
Echo & The Bunnymen
 
 

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 イアン・マッカロクの古巣クルーシャル・スリーより、元メンバーのジュリアン・コープが結成。

 
 
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