🇬🇧 Eurythmics (ユーリズミックス)
レビュー作品数: 1
編集盤
1991年
イングランドのシンセポップデュオ、ユーリズミックス。メンバーはアニー・レノックスとデイヴ・スチュワートの2人です。ユニット名は、オーストリアの思想家ルドルフ・シュタイナーによって提唱された運動芸術「オイリュトミー (Eurythmy)」より。
音楽教育を受けたのちにレストランで働きながらフォーク/ソウルシンガーを目指して活動していたアニーと、子供の頃からギグに足繁く通ってマーク・ボランと楽屋でセッションしたりミック・ジャガーとも顔馴染みという、行動力とコミュ力の塊デイヴ。2人は意気投合してザ・キャッチ、後継のザ・ツーリスツというバンドで活動しつつ恋人関係になります。ザ・ツーリスツ解散後は創作活動に専念するため、恋人関係を解消して1980年にユーリズミックスを結成しました。アニーは男装の麗人というビジュアルで売り出していくことになります。
全米・全英ともに1位を獲得した大ヒットシングル「Sweet Dreams (Are Made Of This)」を皮切りに、1980年代に数多くのヒット曲を生み出したユーリズミックス。その軌跡を押さえたベスト盤が本作です。全米300万枚以上、全英200万枚以上の大ヒットとなりました。なおオリジナルの国際盤は18曲入り、米国盤は14曲入りという違いがあります。
アルバムは「Love Is A Stranger」で幕開け。ピコピコとしたチープな脱力シンセに、ダンサブルなリズムビートが効いています。アニーの音域は広く、オペラのような高音や、ソウルフルな低音を自在に駆使して歌い上げます。続いてヒット曲「Sweet Dreams (Are Made Of This)」。シンセは怪しげながら少し暗いムードを作り、メランコリックなメロディラインを歌います。コーラスワークが魅力的ですね。「Who’s That Girl?」はシンセサイザーが、チープな音色とは裏腹に強い哀愁を醸し出します。ソウルフルな声によるメランコリックな歌と合わせてダークな雰囲気に浸っていると、時折リズミカルになったりして、心地良く浸れます。「Right By Your Side」はノリの良い楽しげな楽曲で、トロピカル風味に溢れています。ここまでの哀愁漂うアルバムの流れにアクセントを与える、バカンスを楽しむかのような陽気な1曲です。「Here Comes The Rain Again」はシーケンサーの無機質でチープな音と感情的なストリングスの音色が対照的。リズミカルでノリが良いものの、楽曲には切ない雰囲気が満ちています。そして彼らの代表曲の一つ「There Must Be An Angel (Playing With My Heart)」。個人的には化粧品のCM曲のイメージが強いですが、これがユーリズミックスを聴いてみようと思ったキッカケでした。冒頭のスキャットが強烈なインパクトを持っていますが、ダンサブルな演奏も合わせて楽しめる楽曲です。歌声はソウルフルだったり、裏声を駆使したコーラスと合わせて神々しい雰囲気を聴かせたり、ゴスペル風になったりと様々な表情を見せます。ちなみに間奏のハーモニカ演奏はスティーヴィー・ワンダーによるもの。続いてソウルフルな「Sisters Are Doin’ It For Themselves」。重低音が蠢くグルーヴィかつ跳ねるようにファンキーな演奏に乗せて、「クイーン・オブ・ソウル」ことアレサ・フランクリンがゲスト参加した歌はとてもソウルフルで圧倒的。サビメロでは合唱するなど賑やかでノリノリです。「It’s Alright (Baby’s Coming Back)」は憂いを帯びたメロディラインを聴かせますが、演奏はホーンが賑やかに盛り上げます。後半に向かうにつれてソウルフルに変わり、力強く牽引します。「When Tomorrow Comes」はイントロから明るくも切なさのある演奏で引きつけますが、少し時代を感じさせます。「You Have Placed A Chill In My Heart」は力強いリズムビートが輪郭をくっきりさせてメリハリをつけます。ビートが主体の演奏をバックに、だみ声気味のソウルフルな歌を聴かせます。「The Miracle Of Love」はエフェクトのかかったギターとまったりとしたシンセがメロウな雰囲気を作り出します。メロディアスでゆったり浸れる1曲です。続く「Sex Crime (1984)」は映画『1984』の主題歌。小気味良いリズムや陶酔感のある歌が気持ち良く、そしてやたら連呼されるSex Crimeが耳に残りますね。キャッチーで中毒性の高い楽曲です。「Thorn In My Side」はアコギや優しいエレキで始まり、シンセポップ感は後退しますが、リズミカルなドラムや賑やかなホーンにダンスやR&Bといった彼ららしさが残ります。爽やかな楽曲ですね。「Don’t Ask Me Why」は円熟味のあるメロディとリズミカルな演奏が対照的。ストリングスが哀愁を引き立てます。「Angel」はアコギが優しく響くメロウな楽曲です。低音の効いた歌は渋いですね。後半に向かうにつれてドラマチックに引き立てます。「Would I Lie To You?」はホーンやバンド演奏が躍動感ある演奏を繰り広げ、高揚感を掻き立てます。アニーの歌もパワフルだし、途中でエンジンをふかす効果音を入れたりと、エネルギッシュで元気を貰える1曲です。続いて「Missionary Man」。アニーがクリシュナ教宣教師と結婚してわずか半年後に離婚した経験にインスピレーションを得たのだそう。力強いビートに乗せて低音キーの歌を淡々と歌いますが、時折パワフルにシャウトします。ラスト曲は「I Need A Man」。骨太な演奏はロック感がありつつも、彼ららしいダンサブルな楽曲に仕上がっています。パワフルなシャウトやソウルフルなだみ声で、力強い演奏に張り合っています。
1990年にユーリズミックスは活動停止するも、1999年に一時的に再結成。本作では活動停止前までのヒット曲が詰まっています。本作序盤(キャリア初期)はシンセポップにソウルフルな歌声を乗せた楽曲スタイルでしたが、中盤からはR&B/ソウル色の強い楽曲も増えます。
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