🇺🇸 Heart (ハート)

レビュー作品数: 3
  

スタジオ盤

ハードロック時代

Dreamboat Annie (ドリームボート・アニー)

1975年 1stアルバム

 ウィルソン姉妹を中心とした米国ワシントン州シアトル出身のハードロックバンド、ハート。初期はレッド・ツェッペリン直系のサウンドを奏で、1980年代にはスタジアムロックに転身して大ヒットしました。そんなハートの歴史は古く、1967年に前身となるザ・アーミーを結成、当時はロジャー・フィッシャー(Gt)とスティーヴ・フォッセン(B)らが中心でした。1969年にホーカス・ポーカスに改名、翌年にはホワイト・ハートを名乗ります。1972年にアン・ウィルソン(Vo)が加入し、翌年には現バンド名のハートに改名しました。メンバーチェンジを行って1974年にはアンの妹ナンシー・ウィルソン(Gt/Vo)が、翌年にはマイケル・デロージャー(Dr)が加入してラインナップが揃います。
 ジャケットにウィルソン姉妹が写った本作はハートのデビューアルバムで、シングル「Magic Man」の成功を受けて、マイク・フリッカーのプロデュースにより制作されました。カナダで録音・リリースされたのち、翌年に本国米国でもリリースされます。

 アルバムは「Magic Man」で幕開け。泥臭くて骨太なバンド演奏の中で、アンが艶やかでパワフルな歌声で緩急つけて歌い上げます。続く「Dreamboat Annie (Fantasy Child)」は1分強の小曲で、波の音をバックに、アコギの柔らかい音とアンの静かな歌をゆったり聴かせます。そのままアコギを奏でる「Crazy On You」は、フォーキーな演奏から泥臭いハードロックへと変わります。演奏は心地良い疾走感があり、また突き抜けるパワフルなボーカルも爽快。歌もキャッチーで耳に残りますね。「Soul Of The Sea」は6分半に渡る楽曲です。前半は落ち着いた雰囲気で、これもさざ波の効果音が入っています。ロジャーのエレキとナンシーのアコギが絡んでまったりムードを作り、ストリングスが楽曲を引き立てます。中盤から場面転換して、小気味良い演奏を繰り広げますが、アンの歌は熱が入って強烈にシャウト。終盤はまた序盤と同様の穏やかさを取り戻します。そして表題曲「Dreamboat Annie」。マイケルの小気味良いドラムとスティーヴの優しいベースが心地良さを作り出します。2分の短い楽曲ですが、アコースティックな雰囲気でまったりとしています。
 レコード時代のB面は「White Lightning & Wine」で幕開け。ブルージーで気だるげなロックを展開しますが、アンのパワフルな歌声でメリハリをつけます。ドスが効いて非常にパワフルな終盤のシャウトには圧倒されますね。「(Love Me Like Music) I’ll Be Your Song」はまったりと落ち着いた楽曲で、アコギと絡むスチールギターがバカンス気分を提供してくれます。続く「Sing Child」はギターリフがつんざく、泥臭いハードロック曲です。重低音の聴いたバンド演奏に張り合うアンのパワフルな歌声は、ロバート・プラントを彷彿とさせますね。なお中盤のフルートはアンによるもの。「How Deep It Goes」は12弦ギターがキラキラとドリーミーな雰囲気を作り、アンの囁くような歌は優しいです。中盤からはバンド色も加わりつつ、フルートやストリングスによる優しい音色が心地良く、歌もメロディアスで浸れます。そして最後は「Dreamboat Annie (Reprise)」。本作中3曲ある「Dreamboat Annie」では一番長いです。ピアノやオーケストラ、分厚いコーラス等によって優しく彩られています。

 アコースティックでフォーキーな楽曲も多いですが、いくつかあるハードロック曲がアルバムを引き締めます。

Dreamboat Annie
Heart
 
Little Queen (リトル・クイーン)

1977年 3rdアルバム

 前作『ドリームボート・アニー』のリリース後にレーベルと契約で揉め、何曲か収録した『マガジン』をリリース。レーベル移籍後も前レーベルからの妨害を受けながら、決別して制作した本作は名曲「Barracuda」を収録した傑作アルバムです。ラインナップはアン・ウィルソン(Vo)、ナンシー・ウィルソン(Gt/Vo)、ロジャー・フィッシャー(Gt)、スティーヴ・フォッセン(B)、マイケル・デロージャー(Dr)に加えて、ハワード・リース(Gt/Key)が加入。ジャケット左の黒髪の女性がアン、右側の金髪の女性がナンシーです。

 ハートの名曲「Barracuda」でアルバムの幕開け。メタリックな重低音を唸らせながら駆け抜けるようなスリリングなリフに、女ロバート・プラントとも評されるアンのパワフルかつ色気のある歌声が乗ります。終盤のギターソロなんかも含めレッド・ツェッペリンの「Achilles Last Stand」あたりを彷彿とさせるカッコ良い楽曲です。なおレーベルがありもしないアンとナンシーの肉体関係の作り話を流したので、アンが憤慨して、怒りに任せて歌詞を書いてこの楽曲が出来上がったのだそう。続く「Love Alive」はアコースティックでトラッド風の楽曲を展開。前半は落ち着いていますが、後半にはダイナミズムを取り入れて盛り上がっていきます。これがなかなか良いのです。「Sylvan Song」はアコースティックな小曲。カエルの鳴き声など自然音をBGMにマンドリンをかき鳴らす、優しく牧歌的なインストゥルメンタルです。そのまま「Dream Of The Archer」に続きますが、トラッド風の優しいサウンドと、アンとナンシーの美しいコーラスワークによって神秘的な楽曲に浸れます。と言うかレッド・ツェッペリンの「The Battle Of Evermore」にそっくり。笑 そして「Kick It Out」は躍動感のあるロックンロールです。ハードなサウンドに、高音キー主体のアンの突き抜けるような歌はとても爽快です。
 アルバム後半は表題曲「Little Queen」で幕を開けます。骨太なベースにファンキーなギターなど、ファンク色の強いグルーヴィな楽曲で、聴いていると踊りたくなる魅力があります。中盤は哀愁を醸すパートで緩急をつけ、終盤でまた抜群のグルーヴを効かせます。「Treat Me Well」は渋い哀愁の漂う楽曲です。アコギをバックにしんみり歌い、リズムチェンジをかましてハーモニカを吹かします。「Say Hello」はコインの効果音や笑い声などが聞こえる和やかムードに、フォーキーなアコギを小気味良く鳴らして楽しげな雰囲気。リズミカルなドラムも楽曲を賑やかにしてくれます。静かにフォーキーな楽曲を聴かせる「Cry To Me」を挟んで、ラスト曲はややサイケな「Go On Cry」。淡々と反復しながら進行する様はピンク・フロイドっぽいかも。後半テンポアップするとスリルが倍増します。

 ハート独自のカラーも出しているものの『III』〜『聖なる館』あたりのレッド・ツェッペリンの影響が色濃く、これらが好きな人にはたまりません。名盤です。
 ちなみにアンとマネージャーのマイケル・フィッシャー、そしてナンシーとロジャーが恋人関係にありましたが、それぞれ破局して1979年にはロジャーが脱退。その後はウィルソン姉妹中心のバンドになりますが、ハードロック冬の時代の訪れとともにハートも低迷期を迎えます。

Little Queen
Heart
 

産業ロック/グラムメタル化&最盛期

Heart (ハート)

1985年 8thアルバム

 1980年代前半のハートは低迷していましたが、起死回生を図り、サヴァイヴァーらを手掛けてヒット作を連発したロン・ネヴィソンをプロデューサーに迎えました。外部ライターを起用してゴージャスでキャッチーな作風に振り切った本作は全米1位を獲得し、ハート最大のヒット作となりました。この時点のメンバーはアン・ウィルソン(Vo)、ナンシー・ウィルソン(Gt/Vo)、ハワード・リース(Gt/Key)、マーク・アンデス(B)、デニー・カーマッシ(Dr)。

 オープニングを飾る「If Looks Could Kill」からギラついています。ド派手なギターがギュインギュインと唸り、シンセが彩ってゴージャスな印象。アンの歌はピリピリと緊張が張り詰めていてスリリングです。続く「What About Love」はゆったりテンポの壮大なバラードです。アンのパワフルかつ感情たっぷりの歌唱をメインに据えて、演奏も豪華です。「Never」はキラキラとした華やかなシンセが時代を感じさせます。ファンキーで躍動感ある演奏にポップなメロディで明るい印象で、サビでの「ネェーヴァー!ネェーヴァー!」が耳に残りますね。そして「These Dreams」は全米1位を獲得した大ヒットシングルで、ナンシーがリードボーカルを取ります。若干ハスキーな声で優しくメロディアスに歌い上げるナンシーの歌唱は、パワフルなアンとは違った魅力を見せます。「The Wolf」はイントロからギラギラしたギターで始まり、ヘヴィですがリズミカルでノリの良い楽曲を展開。そんな演奏をBGMにしてしまうくらいに存在感のある、アンのパワフルな歌唱が強烈です。
 アルバム後半は「All Eyes」で幕開け。晴れやかなギターと程よい疾走感で爽快な楽曲です。力強い歌も爽やかな印象。続く「Nobody Home」はゆったりとした楽曲で、ドリーミーなシンセを軸に優しくメロディアスな歌を歌います。間奏のギターソロだけ場違いな感じですが、エモーショナルでこれが中々良かったりします。「Nothin’ At All」は楽曲全体は比較的穏やかですが、デニーのリズミカルなドラムのおかげで明るい印象に仕上がっています。続いて「What He Don’t Know」。ドラムやアンの歌唱がかなりパワフルですが、対照的にアコギの柔らかい音色が緩衝材となって、全体的には爽やかな印象を与えます。最後の「Shell Shock」はメタリックなロックンロール。重低音を響かせながらもノリの良い演奏に乗せて、男性顔負けのパワフルなシャウトを見せます。キャッチーで爽快です。

 ハートの知名度を大きく上げた本作はファン人気も高いですが、良くも悪くも1980年代特有のギラギラした装飾が目立ちます。アルバム前半に魅力的な楽曲が固まっています。

Heart
Heart
 

 
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