🇬🇧 Joy Division (ジョイ・ディヴィジョン)

レビュー作品数: 3
  

スタジオ盤

Unknown Pleasures (アンノウン・プレジャーズ)

1979年 1stアルバム

 ジョイ・ディヴィジョンはイングランドのポストパンクバンドで、1976年に結成しました。メンバーはイアン・カーティス(Vo)、バーニーことバーナード・サムナー(Gt/Key)、フッキーことピーター・フック(B)、スティーヴン・モリス(Dr)。
 パンクバンドとしてスタートを切ったジョイ・ディヴィジョンですが、彼らをポストパンクバンドの代表格に押し上げたのは、本作と次作でプロデューサーについたマーティン・ハネットの功績が非常に大きいと思います。強烈なエコー処理によって独特の空間を演出し、張り詰めた緊張感と陰鬱な空気を醸し出す傑作に仕上がりました。初期のシングルと比較するとサウンドプロダクションもかなり異っていて、ど素人で技術のない彼らの魅力を十二分に引き出した奇跡的なプロダクションだと思います。当時はそれほどヒットしなかったようですが、イアンの死後に評価されました。
 なお、黒い背景に白い波形が記されたジャケットアートが印象的ですが、これはピーター・サヴィルの作。世界で初めて観測されたパルサー(一定間隔でパルス状の電波を発する天体)の波形が、このジャケットアートに採用されています。このジャケットアートもジョイ・ディヴィジョンの魅力の一つです。

 アルバムの開幕は「Disorder」。スティーヴンのドラムがイントロから高揚感を煽ります。淡々と同じフレーズを反復するバーニーのギターは軽快な印象で中毒性があり、フッキーの縦横無尽に動くベースはドライブ感があります。基本的にはスッカスカのサウンドですが、それを魅力的なものにしているのは強烈なエコー処理で、酔いそうなほどグワングワンと揺さぶって浮遊感を生み出します。イアンのボーカルは鬱々としていて低血圧そうな感じですが、最後に熱さが表出。普段おとなしいけど怒らせたら怖い…みたいな二面性を感じます。続く「Day Of The Lords」は本作で最もシリアスな楽曲で、全体的に重たい空気感のある本作でも特に暗い。ギターとベースの奏でる、金属的で冷たくヒリヒリするサウンドに、イアンの渋い声が響きます。「Candidate」もテンションは低いです。強烈なエコー処理によって、静かで暗い空間でポツンと歌っているかのような、不気味な静けさがあります。続く「Insight」でテンポが少し上がり、ダウナーなサウンドにノリの良さがあります。でも鬱々とした印象を与えるのはイアンのボーカル。SEによって暗い空間に不思議な浮遊感を作り出しています。「New Dawn Fades」はバキバキとメタリックなベースが強烈。哀愁漂うギターに乗るイアンの歌が切ない。イアンの歌は下手くそで音も外れていますが、迫真の歌唱は鳥肌もので、人の心を動かすのに上手い下手は関係ないのだと思いました。
 アルバム後半は「She’s Lost Control」で開幕。強烈なエコーの効いたスティーヴンのドラムが独特の雰囲気を作り出しますが、それ以上に強烈なのはフッキーの高音ベース。音合わせをしたときにベースの音が低くて聞こえないからキーを上げたというエピソードがあるそうで、音楽素人的な彼らの発想が逆にバンドの音楽を特徴づけました。ダウナーなのにグルーヴ感があって気持ち良い楽曲です。「Shadowplay」は本作では数少ない疾走曲です。ヘヴィでダークな雰囲気が全編を支配しますが、勢いによる爽快感も兼ね備えています。少ない音数をエコー処理で補っていて迫力満点。強烈にうねるベースがグルーヴィな「Wilderness」を挟んで続く「Interzone」は疾走曲です。こちらは他の楽曲と違って暗さが少なく、彼らの原点であるパンク的な1曲です。ラストを飾る「I Remember Nothing」は、アルバム全体に漂う鬱々とした雰囲気がもろに出ている楽曲です。最後の最後にドラムスティックを放り投げる音でしょうか?それすら強いエコー処理で、何かが崩れ落ちるかのような緊迫感を生み出します。

 ひたすらダウナーで鬱々としています。演奏は下手くそでスッカスカなのに、強烈エコー処理で不穏な静けさや張り詰めた緊張感を作ります。強烈な中毒性でやみつきになる…そんな奇跡的な傑作を生み出したのはプロデューサーのマーティン・ハネットの手腕でしょう。ジャケットも含め、トータルでとても魅力的な名盤です。

 なお、リマスターのボーナスディスクにはライブ盤を収録。音はよくないし、あえてこれを目当てにする必要はないと思いますが、スタジオ録音からはなかなか感じ取れないジョイ・ディヴィジョンの意外な「アツさ」がよく伝わってきて、彼らも根っこはパンクバンドなんだと感じさせられます。

Unknown Pleasures (Collector’s Edition)
Joy Division
 
Closer (クローサー)

1980年 2ndアルバム

 本作がリリースされたときには既にフロントマンのイアン・カーティスはこの世を去っており、これがジョイ・ディヴィジョンの遺作となってしまいました。ツアーによる疲労で持病のてんかんが悪化したこと、妻と愛人との三角関係に悩んでいたこと等が重なり、自殺してしまいます。享年23歳。そしてメンバー1人でも欠けたらジョイ・ディヴィジョンは名乗らないと決めていた彼ら。残されたメンバーはイアン・カーティスの死後、新たにニュー・オーダーを名乗って活動を継続します。イアンの死という悲しい出来事を乗り越えたニュー・オーダーは、後にこの出来事をモチーフにした「Blue Monday」という名曲を生み出すのでした。

 ピーター・サヴィルによるジャケットアートは、イタリアのアッピアーニ家の墓所の写真が採用されております。収録された鬱々とした楽曲の数々も含め、アルバム全体にイアンの死を想起させるような要素が散りばめられており、イアンの死と切っても切り離せない作品だと思います。

 アルバムは全体的にシリアスな空気が支配していますが、真新しい試みも見られます。1曲目の「Atrocity Exhibition」ではスティーヴン・モリスの民族音楽的なパーカッションが強烈な中毒性を生み出します。バーニーことバーナード・サムナーのギターはマシンガンを放つかのように攻撃的で、フッキーことピーター・フックのベースはソロも用意されていて存在感がある。そこに乗るイアンのボーカルは、前作より少し歌心があるように思います。続く「Isolation」は強烈なベースを軸に、バーニーがキーボードに持ち替えてチープな音色のシンセを聴かせます。強烈なノリの良さのおかげか、サウンドのチープさはさほど気になりません。この路線を極めていったのが後のニュー・オーダーでしょう。続く「Passover」は強烈なエコーが効いたドラムが淡々とリズムを刻み、イアンが鬱々とした歌を聴かせます。続く「Colony」は中毒性の強い楽曲です。ギターとベースが同じリフを奏で、ドラムも一体になって同じリズムを刻みます。ひたすら単調なリズムの反復ですが、これがやみつきになります。「A Mean To An End」はロック色の強い、躍動感のあるアグレッシブなサウンド。しかしイアンのボーカルは低血圧というか、いまいちノらないギャップがあります。
 レコードでいうB面は、ダウナーな雰囲気の「Heart And Soul」で始まります。スカスカな音で単調なリズムを反復しますが、これが妙にクセになります。イアンの下手な歌は、エコーによって脳内に直接語りかけるかのよう。続く「Twenty Four Hours」は疾走感のある、けれどダークな1曲です。非常に緊迫感に満ちていて、攻撃的なサウンドは焦燥感のようなものを感じます。そして本作の楽曲群のなかでも突出しているのはラスト2曲でしょう。まずは「The Eternal」で、それまでメインで鳴っていたギターの音が消えて急に静かになります。アルバムの流れで聴くと、焦燥感に満ちた前曲から突如事切れたかのような感じ。不気味な静けさで、ピアノが強烈な悲しみを生み、またイアンの穏やかなボーカルは諦めが感じられます。続くラスト曲「Decades」も、バックを彩るのは悲しげな音色のシンセサイザー。下手だけれども、そんな下手さを感じさせない荘厳で悲しげな空気に飲み込まれます。どうしようもない悲しみが襲ってくるかのようです。

 歌詞にも葬式の光景がうたわれていたり、死を想起させるメッセージが散りばめられていて、イアンの目には既に先の死が見えていたのでしょうか。前作にあったドロドロとした雰囲気はなくなりましたが、聴き終わったあとにはなんとなく後味の悪さが残る、どうしようもない暗さ。しかしとても美しい作品です。

 なお、リマスターではボーナスディスクとしてライブ盤が付属します。これも1stアルバムのボーナスディスク同様に音はよくなく、あえて目当てにする必要はありませんが、意外なアツさを感じられるライブです。

Closer (Collector’s Edition)
Joy Division
 
 

編集盤

Substance (サブスタンス)

1980å¹´

 バンドがニュー・オーダーに引き継がれてしばらく経った後に発表されたジョイ・ディヴィジョンのシングルベスト盤です。ジョイ・ディヴィジョンはシングルをアルバムに収録しなかったので、これを買ってもオリジナルアルバムと被らないのは嬉しいところです。唯一「She’s Lost Control」のみ『アンノウン・プレジャーズ』と被りますが、これもアルバムとは別バージョンが収録されております。
 活動期間は短いながらも、音楽性の変遷が本作でよくわかります。はじめはパンクバンドとしてスタートを切り、そのエネルギーは徐々に内向きに、内省的になっていきます。

 デヴィッド・ボウイに憧れており、デヴィッド・ボウイの楽曲「Warszawa」から取ってバンド名を「Warsaw」と名乗っていた時期もあったよう。本作の1曲目「Warsaw」はその名残でしょうか。勢いのあるパンク曲で、オリジナルアルバムと聞き比べると音楽性の違いにびっくりします。続く「Leaders Of Men」もイアン・カーティスの歌い方がパンク的。「Digital」はスカスカなサウンドがとてもチープですが、同じフレーズの反復で中毒性があります。イアンのシャウト気味のボーカルも妙に耳に残ります。「Autosuggestion」からはダウナーな雰囲気で、スッカスカのサウンドに強烈なエコーを効かせた彼ららしい楽曲が表れます。続く「Transmission」が名曲です。ピーター・フックの大音量のベースが鬱々とした雰囲気を作りますが、スティーヴン・モリスのノリの良いドラムとバーナード・サムナーの軽快なギターの音色が高揚感を煽ります。イアンの歌は下手なのに、メロディがキャッチーで耳に残ります。「She’s Lost Control」はオリジナルアルバムとは別バージョンで、アルバム収録のものがボーカル重視のようなミックスですが、本バージョンは打ち込みのようなドラムをフィーチャーしたアレンジ。個人的にはこちらではなくオリジナルアルバムの方が好みです…。インストゥルメンタル「Incubation」を挟んで良曲「Dead Souls」。前半は演奏オンリーで、淡々と同じフレーズを反復しますが、これがクセになる。続いて名曲「Atmosphere」。民族音楽的なドラムや神秘的なシンセサイザーによって作られる穏やかで心地良いサウンドに、イアンの渋い低音ボイスが響きます。そして本作の目玉はなんと言っても「Love Will Tear Us Apart」でしょう。1980年代の名曲として名高いこの楽曲はジョイ・ディヴィジョンとしての最後のシングルで、彼らの代表曲です。メタリックなベースと小気味良いギター、そして躍動感のあるドラム…イントロからワクワクさせてくれます。シンセサイザーとロックの融合を果たした楽曲で、メロディアスな歌もとても心地良い。亡きイアン・カーティスの墓石には、妻デボラによって「Love Will Tear Us Apart」が刻まれています。

 ここからはCD化に際して追加された楽曲です。うち「As You Said」と「Love Will Tear Us Apart (Pennine Version)」が2015年リマスターで更に追加されました。ここからはイマイチな楽曲も多いですが…。チープながら長尺の演奏にチャレンジした「No Love Lost」、疾走パンク曲「Failures」、うねるベースが強烈な「Glass」…ここまでパンク色の強い楽曲が並びます。ダウナーですがリズムチェンジで緩急つける「From Safety To Where…?」に続いて「Novelty」はミスマッチ感のある1曲。とても軽快なリズムに乗せて、でも歌は全然楽しそうじゃないので笑えてきます。「Komakino」はメタリックなリフが強烈。ドラムのリズムと合わせて、中毒性のある反復が印象的です。「As You Said」は後のニューオーダーに見られるような打ち込みデジタル音楽で、1980年代の音楽を予見していたかのようです。「These Days」はスカスカな音でノリの良いロックを奏でます。雰囲気はやや明るく、キャッチーなメロディラインが印象的。最後に「Love Will Tear Us Apart (Pennine Version)」ですが、タイトなドラムを中心としたダンサブルなアレンジ。おまけみたいな楽曲で、原曲には敵いませんね。

 正直、楽曲の出来はかなりバラつきがあります。ただ、ジョイ・ディヴィジョン最高の1曲「Love Will Tear Us Apart」、この楽曲のためだけにも聴く価値のあるアルバムです。でも、それも別のベスト盤で聴けたりするんですけどね。

Substance
Joy Division
 
 

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