🇬🇧 Sex Pistols (セックス・ピストルズ)

レビュー作品数: 2
  

スタジオ盤

Never Mind The Bollocks, Here's The Sex Pistols (勝手にしやがれ!!)

1977年 1stアルバム

 ロンドン・パンクムーヴメントの旗手、セックス・ピストルズ。そんなセックス・ピストルズ唯一のスタジオ盤にして、ロンドンパンクの大名盤です。原題は『金玉野郎なんざ気にするな、俺らセックス・ピストルズだ』といったニュアンスでしょうか。

 ブティック「SEX」を経営するマルコム・マクラーレンがニューヨーク・パンクに影響を受け、ブティックに出入りしていたアマチュアバンドに介入して言動やファッションを味付けしてデビューさせたという、そんな意図的に作られたコマーシャルなパンクロックバンドがセックス・ピストルズです。アマチュアバンドをやっていたスティーヴ・ジョーンズ(Gt)、ポール・クック(Dr)に、「SEX」の店員グレン・マトロック(B)、オーディションで加入したジョニー・ロットン(Vo)の4名でセックス・ピストルズを結成。なおグレンは作曲に大きく貢献したものの、本作のレコーディング時には脱退しており、シド・ヴィシャス(B)が代わりに加入。しかしシドの技術が拙かったため、録音時はスティーヴがベースも代わりに演奏しているそうです。
 ロンドンパンクを興した最初期のバンドながらもアルバムは売れるべくじっくり制作されたようで、他のパンクバンドにリリースを先を越される中で、満を持してのリリース。ギターのオーバーダビングにより音が分厚く、勢いをうまくパッケージしています。クリス・トーマスとビル・プライスによるプロデュース作。

 オープニング曲は「Holidays In The Sun」。切れ味抜群のスティーヴのギターに、行進するかのように始まったかと思えばマシンガンをぶっ放すかのようなポールのドラム。イントロから非常にスリリングです。攻撃的なのにメロディはキャッチー。でもジョニーの歌はメロディなんてガン無視して歌います。爽快なロックンロールといった印象で、掴みはバッチリです。続く「Bodies」も強烈です。ヘヴィなギターは強烈ですが、クセになりそうな反復。そこに乗る、叫び散らすジョニーのボーカルはパンクで、コーラスが爽快です。でも歌詞は中絶を歌っていて、結構生々しいです。「No Feelings」はイントロのギターリフが冴えまくり、ジョニーが早口ボーカルでまくし立ててきます。勢いに満ち溢れた楽曲です。「Liar」もキャッチーで、「ライライライライ…」の歌は口ずさみたくなりますね。カミソリギターも魅力的ですが、それ以上に叩きつけるような力強いドラムが凄い。続いて英国国歌と同名の「God Save The Queen」。でもその中身は英国女王を侮蔑した内容で、神よ無能な女王をお救いください、英国に未来はない…というニュアンスの、皮肉たっぷりの歌詞を展開。仮に日本で「君が代」というタイトルで皇室批判なんてやったら、不敬罪なだけでなく世間からのバッシングも尋常でないと思いますが、そんなことが許される英国って凄いなと思います。続く「Problems」も演奏陣が強烈。力強いドラムに唸るベース、切れ味鋭いギターが攻撃的なロックンロールを展開。ジョニーの人をおちょくるようなボーカルもやけに耳に残りますね。
 アルバム後半の幕開けは「Seventeen」。僅か2分のロックンロールで、攻撃的ですが爽快です。続く「Anarchy In The U.K.」はセックス・ピストルズの代表曲。カッコ良いイントロから、メロディガン無視の人を食ったような歌唱。俺はアンチ・キリストで無政府主義者だと叫ぶ過激な歌詞で、MI5(英国の保安局)からも目を付けられていたのだとか。ミドルテンポの気だるげな「Submission」を挟んで、俺たちは空っぽだと叫ぶ「Pretty Vacant」。ノリの良いロックンロールです。「New York」は少し暗くて攻撃的なサウンド。歌は相変わらずおちょくるような感じですね。ラスト曲は「E.M.I.」。契約破棄となったレコード会社EMIに対する皮肉を歌っています。ギターリフがとてもカッコ良いです。ラストは吐き捨てるような「グッッバァイ!」で終わります。

 過激で攻撃的な歌の数々を、メロディなんてあってないようなものとばかりジョニーが適当に歌います。ただし楽曲はキャッチーで意外と聴きやすく、現代の音に慣れた耳で聴くと、キャッチーなロックンロールです。パンクの入門盤としても向いているでしょう。ロンドンパンクの原点にして、個人的にはパンクアルバムの頂点に立つ大傑作です。

 本作のツアー中、ジョニー・ロットンは「ロックは死んだ」と言い放って1978年に脱退、セックス・ピストルズはスタジオ盤1枚だけを制作して早々に解散してしまいました。当のジョニーはその後は本名ジョン・ライドンを名乗り、パブリック・イメージ・リミテッドを結成。ロンドンパンクの担い手は、今度は自らの手でパンクロックの解体に向かうのでした。また、解散後のシド・ヴィシャスは薬物の過剰摂取で1979年に21歳の若さで亡くなりました。しかも恋人の刺殺疑惑付で…真相はわかりませんが。彼の死もまた、セックス・ピストルズを伝説的なものにした要因かもしれません。

Never Mind The Bollocks, Here’s The Sex Pistols
Sex Pistols
 
 

ライブ盤

Filthy Lucre Live (勝手に来やがれ)

1996年

 1996年に再結成を果たしたセックス・ピストルズ。シド・ヴィシャス(B)は薬物の過剰摂取で1979年に亡くなっており、このライブ時点のメンバーはジョニー・ロットン(現ジョン・ライドン(Vo))、スティーヴ・ジョーンズ(Gt)、グレン・マトロック(B)、ポール・クック(Dr)のラインナップです。

 「filthy lucre」とは「恥ずべき利益」とか「金銭」という意味だそうです。要は「金儲けのための再結成ライブです」と堂々と謳っているんですね。綺麗事を言わず、割り切っていて逆に清々しいです。キーは下げてるし、元々あってないようなメロディを歌うものですから、歌メロだけを聴くと滅茶苦茶に聴こえます。スタジオ盤はまだヤケクソなりに、(編集ゆえか)歌メロとして聴ける作品でしたが…。でもバックはとてもしっかりしていて、こなれた分厚い演奏に、合いの手の掛け声も素晴らしい。観客も一緒に歌っているので、臨場感が伝わってきます。

 「Bodies」でライブが開幕。まずは演奏の分厚さに圧倒されます。ジョンの歌はメロディ無視で原曲とは全然別物ですが、バックのコーラスはしっかりとメロディを守っています。「Seventeen」「New York」と続きますが、ヘヴィな演奏が強烈です。サウンドが会場によく響き、ライブの臨場感が伝わってきます。「No Feelings」は切れ味抜群のギターリフからドラムが炸裂。演奏を聴こうと耳を傾けると、ジョンのヘッタクソな歌が邪魔をするのですが。笑 原曲よりテンポが早く勢いに満ちていて、とても爽快なロックンロールです。続く「Did You No Wrong」はリズム隊、特にベースがカッコ良い1曲です。そして個人的に大好きな1曲「God Save The Queen」。勢いに満ちたパンク曲で、破壊力抜群のサウンドが良い。そしてジョンも饒舌というか、攻撃性も保ちつつノリノリに歌うので楽しい気分にさせてくれます。「Liar!」も勢いがあります。ジョンがちゃんと歌わないので、コーラスがフォローしている感じ。ロック曲「Satellite」を挟んで、モンキーズのカバー曲「(I’m Not Your) Steppin’ Stone」。ノリの良い1曲で、ダーティな演奏に「アイアイアイアイアー」のキャッチーなコーラスのギャップが中々面白い。そして「Holidays In The Sun」は本ライブのハイライト。イントロのドラムはマシンガンの乱射のようで非常にスリリング。野太く漢臭いコーラスもライブのノリで楽しく、聴いていると跳ねたくなるようなノリの良さです。「Submission」で気だるさを出しながらも、続く「Pretty Vacant」は爽快なギターを中心に、激しい演奏で躍動感を出してきます。とてもノリが良いです。そして一旦ラストの「EMI」。ヘヴィながらキャッチーなリフを中心としたノリノリの演奏に、一緒に叫びたくなるような「EMI」の連呼が実に爽快です。そして「EMI」で締めたあとにはアンコールの「Anarchy In The UK」「Problem」。この2曲のアツいこと。「Anarchy In The UK」では切れ味抜群のギターに、吐き捨てるような歌唱。そしてサビでは観客が大合唱。とてもアツいですね。大歓声の中続く「Problem」は凄まじいハイテンションです。勢いがあって緊張感のある演奏に圧倒されます。そして聴き終えたとき、もう終わりなの?という気分にさせてくれます。

 初期衝動で始まったパンクも、20年経つと技術も身に付いてベテランのロックレジェンドになってしまうんですよね。円熟味のある演奏。でもベテランになってもパンクの姿勢は崩さないようで、本作リリースから10年後の2006年にはロックの殿堂入りを果たすも、殿堂入りを蹴った初のバンドでした。
 あれやこれや言いましたが、聴いているととても楽しい作品です。後半になるにつれてどんどんテンションが上がってくるので、ジョン・ライドンの歌がどうだとか、円熟味がどうこうなんて大した問題じゃないんです。歴史に残る名盤1枚しかリリースしなかったバンドが出す作品ってだけでワクワクさせてくれるんです。

Filthy Lucre Live
Sex Pistols
 
 

関連アーティスト

 脱退したジョニー・ロットン(Vo)が本名ジョン・ライドンを名乗り結成した、ポストパンクバンド。

 
 セックス・ピストルズ解散後、『バッド・レピュテーション』にポール・クック(Dr)とスティーヴ・ジョーンズ(Gt)が参加。
 
 
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