🇺🇸 Slayer (スレイヤー)

レビュー作品数: 4
  

スタジオ盤

Reign In Blood (レイン・イン・ブラッド)

1986年 3thアルバム

 スラッシュメタルの帝王とも呼ばれる米国カリフォルニア州のバンド、スレイヤー。スラッシュメタル四天王(Big 4)の一角としても知られます。
 ケリー・キング(Gt)、デイヴ・ロンバート(Dr)が意気投合し、トム・アラヤ(Vo/B)とジェフ・ハンネマン(Gt)を誘って1981年に結成しました。1983年に『ショウ・ノー・マーシー』でデビューし、1985年に2nd『ヘル・アウェイツ』をリリース。そして1986年にスラッシュメタルの傑作である本作をリリースするのでした。

 リック・ルービンによってプロデュースされた本作は、全10曲で30分満たないアルバムです。収録時間だけ見ると物足りないアルバムのように思うかも知れませんが、実際のところ「普通のアーティストが60分かけるところを30分で演奏しました」というくらいに、全曲が凄まじいスピードで異常なほどに凝縮されています。非常に攻撃的で、濃縮されたエネルギーをぶつけてくるので、たった30分でも十分すぎるほど濃厚です。

 オープニング曲「Angels Of Death」からあまりに強烈。超高速の演奏からの絶叫に驚かされます。重低音を超速で刻む攻撃力の高いギターとベース、ツーバスを刻む非常にパワフルなドラムとあまりに強烈な演奏陣と、終始叫びっぱなしのボーカルでインパクト大です。中盤でテンポを落としてようやく並のバンドくらいの速度になりますが、終盤でスイッチが入ったかのように急加速。あまりにスリリングな楽曲です。続く「Piece By Piece」も重たくメタリック。力強くて速いドラムが煽りに煽り、聴く人の心拍数を上げてきます。「Necrophobic」は2分にも満たない楽曲ですが、まるで倍速再生したかのような恐ろしく速い楽曲です。トムの歌は早口すぎて聞き取れません。「Alter Of Sacrifice」も超高速路線は同様。前半は反復されるギターリフが短いながらも不安を煽り、特に印象的です。楽曲後半で徐々にテンポを落としていきます。「Jesus Saves」は前曲から途切れず続くので遅いスタートを切りますが、後半でまた加速。笑 引きずるように重たいギターが強烈です。「Criminally Insane」も最初の数十秒だけ遅いですが、やはり加速。遅くても非常に重たいのですが、その重さで激走するのだから攻撃力が凄まじいのです。「Reborn」ではおどろおどろしいギターリフが刻む中で疾走。間奏での、金切音を立てるギターソロが強烈。イントロのドラミングが魅力的な「Epidemic」、変則的なリズムチェンジが魅力的な「Postmodern」と続きます。そして突如の雷鳴とともに始まる「Raining Blood」はイントロから鳥肌ものの演奏です。鋭利なギターに刻まれて、ツーバスの雨に打たれ、とにかく圧倒されます。リズムチェンジも慌ただしくて、収拾がつかなくなった頃に雷の音で強制終了。後には不気味な雨音だけが残ります。思考が追いつく頃には終わってしまっているという印象です。笑

 とにかく笑ってしまうくらい速い。人を寄せつけない超攻撃的なオーラがあるものの、ぶっ飛びすぎていて逆に強烈なインパクトを残してくれますので、ヘヴィメタル初心者にもある意味では向いていると思います。ヘヴィメタルトップクラスの名盤です。

Reign In Blood
Slayer
 
South Of Heaven (サウス・オブ・ヘヴン)

1988年 4thアルバム

 前作『レイン・イン・ブラッド』がスラッシュメタルの傑作で、メンバーもこれを超えられないとわかったため、本作では敢えてスピードを落とし、ヘヴィさはそのままにメロディを重視したそうです。遅くなったと賛否両論の本作ですが、前作があまりに速すぎただけで、本作も他のバンドと比べてそこまで遅いとは思いません。しかも表題曲に関して言えば個人的にはスレイヤーでも屈指の1曲だと思っています。リック・ルービンとスレイヤーのプロデュース。
 不気味なジャケットアートですが、スレイヤーの他の作品より気持ち悪さは少なく、普通に好みです。というより他の作品が不安を煽る、呪いの絵画のようなジャケットばかり…。

 「South Of Heaven」で開幕。おどろおどろしい邪悪なイントロは聴いていてゾクゾクします。歌が始まるとともに煽ってくるドラムもスリル満点でとてもカッコ良い。引きずるように重たい楽曲ですが、リズムチェンジによってメリハリがあり、スレイヤーでも屈指の名曲だと思います。続く「Silent Scream」は疾走曲。ツーバスがドコドコ響く超速の1曲で、速いスレイヤーを期待する人にうってつけの楽曲でしょう。「Live Undead」ではデイヴ・ロンバートのドラムをフィーチャーしたかのような、テクニカルなドラムが存在感を放ちます。終盤では加速して疾走。続く「Behind The Crooked Cross」は少しキャッチーな雰囲気ですが、歌のバックでテクニカルなドラムの強烈な存在感が凄い。間奏ではやはり加速し、強烈なギターソロを披露します。「Mandatory Suicide」はベースが唸ること。ズシンと響くヘヴィな演奏ですが、トム・アラヤの歌はメロディ重視で比較的聴きやすいです。「Ghosts Of War」では、イントロで自身の「Chemical Warfare」を引用しています。ここで音量の小ささに騙されて音量を上げると、後から始まる爆音疾走曲に圧倒されることになります。笑 「Read Between The Lies」ではイントロから迫り来る重たい塊。他のバンドだったらこれでも十分疾走曲ですが、スレイヤーの中では中速くらいでしょうか。重さが際立ちます。続く「Cleanse The Soul」では凄まじく疾走。気持ち良いくらいに暴れ回っています。「Dissident Aggressor」はテンポを落としますが、炸裂するドラムが重たくもカッコ良いこと。サウンド、特にドラムがあまりに重たいのですが、ボーカルと合わさってギターがキャッチーなメロディを奏でるので、意外と聴きやすいです。ラストは「Spill The Blood」。不穏なアルペジオに始まり、ダークでヘヴィなギターはあまりに重たい。不気味な1曲でアルバムを締めるのでした。

 トムの歌唱スタイルは叫び一辺倒からメロディ重視のものへと変わりました。また、全編を通してデイヴのドラムプレイが魅力的です。
 世間で言われる「(スレイヤーにしては)遅い」というのは確かにそうなのですが、ヘヴィさに重点を置いて邪悪な印象の強い本作は名盤ですので、前評判に偏見を持たずに聴いたほうが良いと思います。特に、表題曲「South Of Heaven」のあまりに素晴らしいこと。

South Of Heaven
Slayer
 
Seasons Of The Abyss (シーズンズ・オブ・ジ・アビス)

1990年 5thアルバム

 本作は『レイン・イン・ブラッド』の圧倒的な速さと、前作『サウス・オブ・ヘヴン』で培ったヘヴィさ重視の楽曲をうまい具合にミックスした作風で、ファンからの評価も高い作品です。リック・ルービン、アンディ・ウォレス、スレイヤーのプロデュース。

 超疾走曲「War Ensemble」で始まります。鮮烈なオープニング曲で、強烈なツーバスとザクザクと切り込んでくるダークなリフが炸裂します。トム・アラヤの叫びまくる歌も含めて、破壊力抜群で圧倒されます。続く「Blood Red」もおどろおどろしい邪悪なギターリフが強烈で、でもキャッチーさも兼ね備えています。そしてそのままなだれ込むように続く「Spirit In Black」は疾走曲。前半は非常に力強いドラムが魅力的です。間奏のギターソロを挟んで後半は更に加速。音の塊がもの凄い勢いで蹂躙していきます。凄い。ミドルテンポの「Expendable Youth」でヘヴィなリフを聴かせた後の「Dead Skin Mask」は「South Of Heaven」を彷彿とさせるおどろおどろしいダークなリフ。連続殺人犯エド・ゲインをテーマにしたそうで、終盤に響く女性の声があまりに不気味な1曲です。そして唐突に始まる疾走曲「Hallowed Point」。攻撃力が高い1曲で、スローテンポな前曲との対比もあって恐ろしく速いです。「Skeletons Of Society」はイントロのドラムとリフの組合せが重たくもカッコいい。サビでのコーラスワークは不気味です。「Temptation」は疾走したりブレーキをかけたりと忙しい楽曲です。スピーカーの左右交互に振り分けられたボーカルが頭を揺さぶってきます。「Born Of Fire」は本作最速でしょうか?速い速い。そして表題曲「Seasons In The Abyss」。邪悪な雰囲気を醸すスローテンポな楽曲で、中盤にリズムチェンジしてメロディアスな歌を展開します。終盤は混沌とした雰囲気でフェードアウト。

 楽曲だとキラーチューン「War Ensemble」が突出していますが、速い楽曲と遅く重たい楽曲がアルバムに緩急を生み出し、アルバムトータルの完成度は高いです。

Seasons Of The Abyss
Slayer
 
 

ライブ盤

Decade Of Aggression (ディケイド・オブ・アグレッション)

1991年

 スレイヤーのライブ盤で、CD2枚組のボリュームです。CD2枚組ライブ盤は巷によくありますが、スレイヤーの場合は1曲1曲の音の密度が半端ではないので、この大ボリュームのライブを通しで聴くのはかなりしんどかったりします。非常にスリリングなんですけどね。スタジオ盤同様にリック・ルービンがプロデュースしました。

 CD1枚目は1991年の米国フロリダ公演より。重厚な「Hell Awaits」から始まりますが、途中から急加速。あまりに速すぎる演奏に圧倒されます。トム・アラヤの歌は速すぎて聞き取れませんね。前曲から途切れず続く「The Anti-Christ」。これも疾走曲で、間奏のギターソロが凄い。終盤のトムの野太い絶叫も強烈です。「War Ensemble」はタイトルを高らかにコールするところからアツい。分厚く攻撃力のある疾走曲で、出だし3曲からぶちのめしてきます。続く「South Of Heaven」からは殺人的な疾走曲メドレーが始まります。スタートとなく本楽曲では遅いスタートですが、このダークな雰囲気はゾクゾクします。スタジオ盤よりもギターの殺傷能力が高いのも魅力的。そのまま途切れず続く「Raining Blood」も切れ味が鋭いこと。疾走しますが最後までやらないので少し消化不良かも。またも途切れず「Alter Of Sacrifice」が始まり、そのままメドレーの最終曲「Jesus Saves」へ。少しテンポを落とし、ヘヴィなリフで切り刻んできます。そして中盤から驚異の急加速。息を付く間もないメドレーでした。その後は「Dead Skin Mask」、「Seasons In The Abyss」とミドル~スローテンポのヘヴィな楽曲が続きます。重苦しくも「Suicide」の連呼が妙にキャッチーな「Mandatory Suicide」を挟んで「Angels Of Death」。何より凄いのはライブでもあの絶叫をほぼ再現してしまうこと。切れ味鋭い超速の楽曲を最後に持ってくるとは恐れ入った…。凄まじいテンションです。

 CD2枚目は1990年の英国ロンドン公演と1991年の米国カリフォルニア州での公演を収録。CD1枚目に名曲が固められているため、2枚目の選曲自体はそこまでパッとしないのですが、息をつく暇すら与えない疾走曲続きで凄まじいテンションです。「Hallowed Point」で超速スタート。金切音を立てるギターが強烈です。「Die By The Sword」はトムの野太い叫びが強烈なインパクトな疾走曲です。また、いくつか疾走曲を挟んだ後の「Postmodern」はCD2枚目では数少ないミドルテンポ曲。変則的なリズムが魅力的で、終盤は加速して凄まじい早口になります。笑 「Expendable Youth」もミドルテンポ。疾走曲での疲れを癒やし…てはくれず、ヘヴィな音の塊がぶつかってきます。ラストは「Chemical Warfare」で、ドラムが凄まじく力強い疾走曲です。最後まで途切れないテンションが凄まじいライブです。

 とても聴きごたえのあるライブ盤です。疾走曲メドレーとか、恐ろしいテンション。ただアルバム通しで聴くには音が分厚すぎて辛いので50点。1曲1曲はスリリングで魅力的なのですが、体力気力のあるときでもどんどん精神力を削ってくるので、通しで聴くのはしんどいです…。『レイン・イン・ブラッド』を連続3周しても余裕って人には、本作は最高のライブ盤だと思います。

Decade Of Aggression
Slayer
 
 
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