🇯🇵 supercell (スーパーセル)

レビュー作品数: 3
  

スタジオ盤

supercell

2009年 1stアルバム ※supercell feat.初音ミク名義

 supercellは日本の同人音楽サークルです。作詞作曲を行うryoとイラストレーターの119(ひけし)を中心に結成、その後何名かのイラストレーターが加入してメジャーデビューまでに11名の大所帯となっていました。2007年に発売したばかりの音声合成ソフト 初音ミクを用いて、ryoが同年ニコニコ動画に投稿した「メルト」が1年以内に300万回再生される大反響を生み、ボーカロイド黎明期にボカロブームを大きく牽引。ryoが119(ひけし)と出会い意気投合するという、supercellの結成の契機にもなっています。ですが初音ミクの起用はたまたま歌い手(≒ボーカリスト)が知り合いにいなかったからという理由らしく、次作以降は流動的ながらゲスト扱いでボーカリストを起用しています。
 本作は2008年にコミックマーケット74で自主制作盤がリリース。翌年、自主制作盤に「メルト」と「初めての恋が終わる時」を加えてメジャー盤がリリースされました。件の楽曲以外にも「ワールドイズマイン」や「ブラック★ロックシューター」など、1年以内に100万回再生を達成したボカロブーム初期の名曲群が収められています。

 オープニング曲は「恋は戦争」。AメロBメロは大人しいのですが、サビでは初音ミクの高音ボーカルとは対照的に、ヘヴィに歪んだギターがノイジーな音を奏でます。ややスローテンポのヘヴィな1曲です。「ハートブレイカー」は激しいながらも清涼感のある演奏が気持ち良い疾走曲。爽やかな印象が強いですが、メロディには少し切なさを内包しています。続いて「メルト」。2015年には1000万回再生に達するなど、ボカロ曲ではトップクラスに知名度のある名曲です。抜群にキャッチーなメロディに甘酸っぱい歌詞は青春って感じです。可愛らしい歌声で歌う「メルト 溶けてしまいそう」というキャッチーなフレーズは口ずさみたくなりますね。メリハリのある演奏もとても爽快です。「ブラック★ロックシューター」は哀愁漂う楽曲。ゆったりとしたバラードと見せかけて加速し盛り上げるパターンは、後の名曲「君の知らない物語」や「さよならメモリーズ」にも見られますね。激しい演奏にアクセントとして加わるピアノが洗練された印象に仕上げ、そしてストリングスが哀愁の歌メロを引き立てています。「くるくるまーくのすごいやつ」は打ち込みダンスミュージック。ダーティな印象ですが、時折ピコピコサウンドも鳴っていたり面白い。ノリノリの演奏を聴いていると身体が自然とリズムを取り始めるというか、とてもダンサブルです。「ライン」はピアノ伴奏だけのアカペラで始まり、途中からバンド演奏が加わります。全体的にノスタルジックな雰囲気の歌メロをフィーチャーしています。転校か卒業か、好きだった人と離れたくないという歌詞が甘酸っぱいですね。続いて「ワールドイズマイン」。supercellで最初に好きになった楽曲がこれでした。「世界でいちばんおひめさま」のフレーズが強烈で、ワガママでツンデレな可愛らしい歌詞が魅力的。そして、それを歌う初音ミクもかなり人間味のある歌い方をしていて、人工的なボーカルソフトだと思わせないのは流石だと思います。ryoの優れた手腕が垣間見えます。「初めての恋が終わる時」は哀愁のバラード…と見せかけてやっぱり疾走します。笑 メロディは強い憂いを帯びていて、軽快な演奏なのに切ない雰囲気が上回ります。ストリングスの演出も良いですね。「嘘つきのパレード」はダーティで陰のあるロック曲。全体的に躍動感のある仕上がりになっていて、ダーティでハードなギターが特にカッコ良いです。「その一秒 スローモーション」は間奏の、バンド演奏に乗せた軽快なピアノが印象的。そして「ひねくれ者」は軽快な楽曲の揃った本作では数少ないスローテンポ曲。しっとりとした雰囲気です。最後に1分に満たない「またね」。ピアノと歌だけのシンプルな構成で静かに締め括ります。

 キャッチーで甘酸っぱい楽曲が揃っていて聴きごたえがあります。初音ミク関連作品は数えるほどしか聴いていませんが、名曲が詰まったベスト盤的な印象です。

supercell (CD+DVD) (通常盤)
supercell feat.初音ミク
 
Today Is A Beautiful Day

2011年 2ndアルバム

 ガゼル名義でニコニコ動画へ投稿していた歌い手のnagi(後にやなぎなぎ名義でソロデビュー)をボーカルに迎えて制作された本作。アニメ『化物語』のテーマ曲に起用された「君の知らない物語」をはじめ、いくつかアニメやゲームのタイアップを獲得しています。その成果もあってか、本作はオリコンチャートで3位を記録しました。妻に薦められて知った作品で、個人的に思い入れのある楽曲も多かったりします。nagiの柔らかく儚げなソプラノボーカルがとても親しみやすく、かつ生バンド志向へ変わり躍動感があって聴きやすいので、supercellでは一番好みです。全ての作詞作曲編曲をryoが行っています。

 綺麗なピアノの音色で始まる「終わりへ向かう始まりの歌」。歌とピアノだけのシンプルな構成ですが、優しいメロディを囁くように歌うnagiのアンニュイで美麗な歌声だけで魅せられます。このボーカルあってこその良曲です。続いてsupercellの代表曲「君の知らない物語」。軽やかなピアノと歌に加わる、躍動感と清涼感を持つバンド演奏。そして切なさを含んだキャッチーなメロディは、nagiの触れたら壊れそうな儚い歌声によってその魅力を十二分に発揮していると思います。歌詞は甘酸っぱくて青春しています。「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」というフレーズは、「あれがデブね あれ平らげた」だったり数多くの替え歌があるくらいに有名ですね。笑 「ヒーロー」も切なさを纏った軽快なロック曲。青春真っ盛りな歌詞は少しこっぱずかしい気持ちになりますが、キャッチーなメロディは魅力的です。「Perfect Day」はアコギに乗せてnagiの歌が際立つしっとりとした1曲。サビではヘヴィなサウンドが儚げな歌メロを盛り上げます。ダーティなギターで始まる「復讐」は鈍重でメタリックな1曲。感情を押し殺したような歌とヘヴィさを抑えたAメロBメロで不穏な空気を生み出し、サビメロではその怒りをぶつけるかのよう。でもnagiの柔らかい声質はダーティな楽曲には少し弱いかも。続く「ロックンロールなんですの」は個人的にお気に入りの1曲。初期衝動とも言えるような勢い任せの荒々しい演奏は切れ味抜群だし、不思議と色気も感じる攻撃的な歌唱にも痺れます。とてもカッコ良い楽曲です。「LOVE & ROLL」はダンス色の強い1曲。序盤は大人しいですが、途中からダンスビート全開。ご機嫌なサウンドに対して儚げな歌がアンマッチですが、意外に悪くないです。メロウな「Feel so good」はブルージーなギターにジャジーなピアノなど、かなり渋い印象を受けます。お洒落で大人びた感じ。「星が瞬くこんな夜に」は「君の知らない物語」のような切ない疾走曲。冒頭ゆっくりめの歌から加速し、煌びやかな演奏を展開していく様は、星の瞬く美しい夜空を表現しているかのようです。バンド演奏に加わるストリングスとピアノが美しい音色を提供してくれます。キャッチーでメロディアスな歌メロは、nagiの焦がれるような歌唱によって魅力的に仕上がっています。続いて、哀愁のピアノで始まる「うたかた花火」。静かでしっとりとした1曲で、ノスタルジーを感じますね。2番からストリングスやリズム隊が加わり、終盤転調するなどベタに盛り上げます。アンニュイな声で囁くように歌う「夜が明けるよ」は、歌をフィーチャーした1曲。前半はアコギだけのシンプルさで、途中からリズム隊などが加わるものの音数は少なく、静かにnagiの歌に浸れます。コーラスワークも心地良いですね。そして名曲「さよならメモリーズ」。ピアノ伴奏にメロディアスな歌で王道バラード…と見せかけ、直後から軽快に疾走します。歌詞は少し気恥ずかしくなる甘酸っぱい青春を描いてますが、とても魅力的なメロディにこの歌詞が良く合うこと。そしてnagiの焦がれるような歌唱がとても切なくなります。最後に告白して「ああ やっと言えた」で締めるベタな演出が結構涙腺にくるんですよね。歌メロに魅力が詰まっているものの、そんな歌を引き立てる、清涼感溢れるバンド演奏も良い。最後に2分の短い「私へ」。ピアノ伴奏に歌だけのシンプルな構成で、「君の知らない物語」のリプライズ的な1曲です。件の楽曲と同じメロディに違う歌詞を充て、儚げな歌をしっとりと聴かせて終わります。

 前作も優れた作品でしたが、nagiというボーカリストを獲得して唯一無二の魅力を放つ大傑作が出来上がりました。キュッと切ない気分になる青春恋愛ソングが詰まっています。supercellはまずこれからオススメします。

Today Is A Beautiful Day
supercell
 
ZIGAEXPERIENTIA

2013年 3rdアルバム

 約2000名の応募の中からオーディションの末、こゑだを新ボーカリストに起用。当時まだ高校生だったそうですね。ryoはこの頃の体制を「第三期supercell」と語っています。
 前作以上にバンドサウンドに傾倒し、全体的にヘヴィで毒気の強い作品になりました。こゑだのヒステリック気味なボーカルスタイルを最大限活かすための路線変更かと思われます。ちなみにアルバムタイトルは「ジガエクスペリエンティア」と読みます。

 2分足らずの「Journey’s End」で開幕。プチプチというノイズの響く、暗鬱な雰囲気のサウンドに、囁くようなダウナーな歌。不気味な雰囲気ですが、その後ノイズを取り払って美しいピアノやストリングスに癒されます。そして最後に時計の音が響き、不穏な余韻を残して次曲へ。「No.525300887039」は鈍重でゴリゴリとしたリフが強烈な、メタリックな1曲。こゑだのボーカルはヒステリックで強い狂気を帯びていて、引きずるようにヘヴィで暗い楽曲の雰囲気にぴったりです。終盤不協和音で締め括ります。そして「Mr.Downer」でメタル色は更に強まります。ゴリゴリとしたリフに、ストリングスで大仰に盛り上げる展開がメタル。タイトルどおりダウナーな雰囲気で、サビでは若干ヤケクソ気味の狂気じみた歌唱で圧倒します。「My Dearest」はこゑだボーカルでの初シングル。nagi用に作っていたのか毒気の少ない清涼感のある楽曲で、nagiの影を追っている感じがしつつも届いていない印象です。少し残念。続く「従属人間」はキレのあるリフにノリノリのビートで、ヘヴィながらも爽快。そして早口な歌はAメロBメロでは可愛らしく歌うものの、サビでは豹変してまくし立てるかのように攻撃的になります。ドラムが強烈なビートを刻む「ホワイト製薬」は、ダーティで力強い演奏が炸裂するヘヴィメタルサウンドがとてもカッコ良い。強い毒気に満ちたブラックな歌詞を歌う、こゑだのボーカルスタイルも歌詞にぴったりのダーティな感じですが、どこか色気を感じられたりもします。個人的にsupercellに求める路線とは全く異なりますが、メタラー目線で見るととても魅力的な1曲です。「拍手喝采歌合」は疾走曲。「歌合(うたあわせ)」とは平安から鎌倉時代の遊びだそうで、そんな歌のテーマに合わせてか、和風な香りのカッコ良いロック曲に仕上がりました。キンキン鳴るギターやマシンガンのようなドラムが強烈です。続く「Yeah Oh Ahhh Oh!」はダーティなロックンロール。ブルージーだけどノリの良いビートを利かせます。歌は楽しげですが、どこか狂気というかダークさが漂います。「百回目のキス」は哀愁が漂いますが、ボーカルのせいか恨みがましい印象を与えます。7分に渡る「銀色飛行船」はヘヴィなサウンドは控え、ピアノとストリングスが主体のシンプルな演奏です。歌メロをフィーチャーした1曲ですが、こういう楽曲だと残念ながら前任ボーカルnagiが恋しくなります。「The Bravery」は勢い溢れるバンドサウンドに、憂いを帯びたボーカルが乗ります。清涼感のあるキャッチーな作風はどことなくnagi時代を思わせますが、サウンドのヘヴィさは増していて、癖の強いこゑだのボーカルと演奏がうまく馴染んできた感じです。ゆったりとしたテンポの「僕らのあしあと」は郷愁漂うブルージーな1曲。音色や楽曲の展開がどことなくミスチルの「終わりなき旅」に似ているような。渋い演奏をストリングスで彩り、そこに哀愁漂う歌唱…ノスタルジックで切ない気分になります。「告白」は躍動感のある演奏が爽快。歌は憂いに満ちていますが、サビは明るい感じです。ボーカルの癖が強くて少し違和感を覚えますが…。そして「時間列車」は幻覚的なサウンドと疾走感のある演奏が特徴的。ですが心地良さよりも、不安や焦燥感を覚えるんですよね。ラスト曲は「We’re Still Here」。ピアノ伴奏と歌だけの、シンプルでメロディアスなバラードです。アルバム全体的に毒気の強い楽曲が多いのですが、毒の抜けた美しいこの楽曲で締め括ります。

 大きくイメージチェンジを図ったのか、前作までとは異なりダーティでヘヴィな印象です。彼らに期待する清涼感のある青春恋愛ソングは消え去り、別バンドのように変貌したこの路線変更が個人的にはどうにも抵抗感がありました。ヘヴィなのに70分超という収録時間の長さも若干きついです。
 単曲でみるとカッコ良い曲もあるし、こゑだの個性的なボーカルを活かして完成度の高い作品には仕上がっていますので、ヘヴィな演奏と知った上で手にしていれば印象は大きく変わったかもしれません。

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