🇯🇵 Mr.Children (ミスター・チルドレン)

レビュー作品数: 5
  

スタジオ盤

Atomic Heart

1994年 4thアルバム

 Mr.Children、通称ミスチル。トータルセールスは6,000万枚以上に上り、日本でも最大級の成功を収めたロックバンドです。桜井和寿(Vo/Gt)、田原健一(Gt)、中川敬輔(B)、鈴木英哉(Dr)の不動のメンバーで、1992年のメジャーデビューから現在まで、第一線で活動を続けています。
 デビュー当初からプロデューサーの小林武史とタッグを組んで、ヒット曲の数々を生み出してきました。ミリオンシングルを2曲収録した本作は累計343万枚以上を売り上げ、ミスチル史上最大のヒット作となりました。また、桜井と小林の趣味か、ミスチルは洋楽への影響が多く見られますが、本作はタイトルにピンク・フロイドの『Atom Heart Mother (邦題:原子心母)』のオマージュが見られます。

 「Printing」は、次曲のイントロ的な感じです。短いインスト曲で、ノイズや環境音など実験的な雰囲気。そのまま続く「Dance Dance Dance」は鋭利さもあるダンサブルな楽曲で、個人的には本作のハイライトです。切れ味鋭いギターに加えて武骨なベース、力強くもスコンと爽快なドラムが、荒削りながらもグルーヴ感のある楽曲を繰り広げます。キャッチーさも兼ね備えながら、クールでカッコ良いんですよね。続く「ラヴ コネクション」はリズミカルなドラムに支えられ、ブラスが楽曲を賑やかに彩ります。黒っぽくて少しファンキーな感じ。そして「innocent world」はミスチル初のオリコン1位を獲得したミリオンシングル。イントロから高揚感を掻き立てます。爽やかさを持ちつつも、哀愁漂うキャッチーなメロディが魅力の楽曲です。「クラスメイト」は、AORやシティポップ的な雰囲気の落ち着いた楽曲です。オルガンやホーンがメロウな空気を演出。続いて「CROSS ROAD」はミスチル初のミリオンヒットシングルで、本楽曲と「innocent world」で爆発的な人気を獲得しました。素朴なバンド演奏・牧歌的なメロディに対して、バックを彩るシンセ等は都会的な洗練された感じというギャップ。7分近い「ジェラシー」は、打ち込みを駆使したダウナーな楽曲です。ダークで陶酔感のある演奏に、エフェクトをかけた歌が加わってサイケ的な幻覚感があります。実験的ですが中々カッコ良いですね。続く「Asia (エイジア)」もダークな雰囲気があります。シリアスな印象の歌唱に加えて力強いドラムが楽曲を引き締め、そしてシンセストリングスが冷たくドラマチックに演出します。短曲「Rain」は雨音のSEで、次曲への繋ぎでしょうか。そして「雨のち晴れ」はファンク色の強い楽曲で、強烈なグルーヴで思わず踊り出したくなります。ファンキーなギターに強靭なベース、軽快なパーカッションが気持ち良い。そして「Round About 〜孤独の肖像〜」はシリアスな雰囲気の楽曲ですが、シンセの味付けが少し古臭くて時代を感じさせます。中川の弾く爆音ベースが強い存在感を放ち、これがカッコ良いんです。ラスト曲は「Over」ビートルズのようなポップなメロディとハーモニーを重視した楽曲に、愛する人との破局を悔いるような切ない歌詞が刺さります。

 代表曲「innocent world」を収録しているほか、個人的には「Printing」からの「Dance Dance Dance」の流れが好みです。

Atomic Heart
Mr.Chrldren
 
深海

1996年 5thアルバム

 Mr.Childrenが最も尖っていた時期の、最もダークでロックしているアルバムです。暗い作風ではあるものの、本作も274万枚以上を売り上げました。また、アナログサウンドを意識して作ったそうです。
 この時期のミスチルはシングルのミリオンヒットを連発していましたが、そんなヒットシングルの多くの収録を見送って陰鬱な楽曲や社会を風刺した歌詞などを纏めた、緊張感溢れるコンセプトアルバムに仕上げました。収録が見送られたシングル曲は次作『BOLERO』に収められることになりますが、この次作と2枚組になる可能性もあったそうです。本作では桜井和寿と、プロデューサーの小林武史の洋楽趣味が爆発していて、楽曲からはピンク・フロイドの影響を強く感じます。

 インストゥルメンタル「Dive」で幕開け。次曲に向けて、徐々に深海へと潜っていくかのようなSEに加え、重厚感のあるチェロの音が、光の届かない深海を表現するかのよう。そのまま続く「シーラカンス」は本作最高のアルバム曲です。間奏の田原健一の弾くヘヴィに引きずるようなギターに、鈴木英哉の叩くドスンドスン響くドラムなど、とてもカッコ良いです。歌パートも、ダウナーでヒステリックな歌唱がスリリングで魅力的。ちなみにピンク・フロイド楽曲へのオマージュやフレーズの引用がいくつも見られる点も、個人的にこの楽曲が大好きな理由の一つです。更に途切れずに次曲「手紙」に繋がる展開も美しい。ピアノとアコギを中心にした短曲ですが、哀愁のメロディの美しさや、感傷的な歌唱、切ない歌詞が沁みます。一転して「ありふれたLove Story ~男女問題はいつも面倒だ~」はフォーキーかつポップで、ほっと一息つける楽曲です。田原の弾くマンドリンが、ブリティッシュトラッドのような印象に仕立てます。そして途中からロック的なダイナミズムを取り入れつつ、ビートルズにも似たポップなメロディで盛り上がりを見せます。「Mirror」はグロッケンを用いて、ポップで優しい雰囲気。これもアルバムの箸休め的な楽曲でしょう。「Making Songs」は録音風景を収めた短い楽曲で、次曲に繋がるイントロのような位置づけです。そして名曲「名もなき詩」。彼らの中では売上歴代2位のシングルで230万枚以上を売り上げました。楽曲としてもミスチル史上最高の1曲だと思っていますが、楽曲のパワーが強すぎて本作では若干浮いているというジレンマ。そのため「Making Songs」で馴染ませているのでしょう。楽曲としては、ダイナミズム溢れるリズム隊に加えて、キャッチーなサビメロが魅力的です。個人的には後半の早口パート…からの転調して大サビ、という展開が特に好みです。そんな強烈な楽曲の次は、ラフで肩の力を抜いた小曲「So Let’s Get Truth」。アコギとハーモニカによる弾き語りで、軽快で牧歌的、そして少しレトロな感触の佳曲です。「臨時ニュース」は短いインスト曲で、1995〜96年にかけて行われた、フランスの核実験を伝える臨時ニュース番組という内容です。そのまま続く「マシンガンをぶっ放せ」では冒頭から核実験を批判する歌詞で、前曲と合わせてフランスへの批判をあらわにしています。ガレージロック的な荒削りなバンドサウンドに乗せ、歌では世の不条理に対して行き場のない怒りをぶつけます。音も姿勢もロックしていてカッコ良いんです。「ゆりかごのある丘から」は9分近い楽曲です。スローテンポな楽曲で、メロウなギターやサックスが、ダウナーながらも心地良い空間を提供。桜井は諦めのような寂寥感漂う歌を歌います。切なさが込み上げてきます。アウトロやヘリコプターのSEがまんまピンク・フロイド。笑 続く「虜」はブルージーでメロウなナンバー。ギターだけは個人的にキング・クリムゾンを思い起こしました。後半からはゴスペルっぽいコーラスが加わって盛り上げるものの、楽曲に漂う陰鬱さは払拭できません。そしてシングル「花 -Mémento-Mori-」、これも大好きな1曲です。陰鬱なアコギを弾きながら、ダウナーでやるせなさが漂う歌が刺さります。「ため息色した 通い慣れた道」とか「同年代の友人達が 家族を築いてく」といった歌詞のフレーズが特に好み。後半の荒々しいパートを挟むからか、大サビは少し吹っ切れたような印象です。最後に、タイトル曲「深海」。冒頭は、ピアノも歌も海の底から、遠くから歌っているかのようなエフェクトをかけています。ピンク・フロイドの影もちらつく演奏に、メロディアスな歌を乗せます。後半から徐々に盛り上がっていく展開は鳥肌もので、美しく感動的なフィナーレを迎えます。最後は深海から浮上するかのような泡がブクブクとする効果音で終えます。

 ダウナーでスリリング、かつアルバムに統一感があり、非常に高い完成度を誇ります。最高傑作とも問題作とも言われる作品で、私はミスチルをいくつか聴いた中では本作が最高傑作だと思っています。

深海
Mr.Chrldren
 
BOLERO

1997年 6thアルバム

 前作『深海』がコンセプトを重視して多くのシングル曲の収録を見送ったことから、代わりに本作にキャッチーな大ヒットシングルが数多く収められました。実質ベスト盤的な豪華さがあります。累計328万枚以上を売り上げ、『Atomic Heart』と合わせてトリプルミリオンを2作も抱えるモンスターバンドとなりました。

 「prologue」はストリングス等を用いた短いインストゥルメンタルで、ボレロのような雰囲気です。続く「Everything (It’s you)」は当時の最新シングル曲。最初はアコースティックな風味のある楽曲で、途中からトロンと幻覚的なギターが響きます。歌には哀愁や寂寥感が漂いますが、焦がれるようなサビメロが印象的ですね。間奏のエモーショナルなギターソロは、田原健一と桜井和寿がそれぞれ弾いているのだそう。「タイムマシーンに乗って」は破壊力のあるオルタナ色の強いイントロを経て、楽曲はオールドロック風味に変化。鈴木英哉の叩く爆音ドラムがカッコ良く楽曲にメリハリをつけます。「Brandnew my lover」はデジタル色を取り入れつつ、メタリックなバンド演奏がスリリングです。イントロを過ぎると全体的にダウナーな雰囲気ですが、サビでは攻撃的に歌います。「【es】 〜Theme of es〜」はシングル曲。アコギの弾き語りで始まり、ストリングスやベース、ドラムと加わって楽曲を盛り上げます。ストリングスの影響で、優雅でスケール感がある印象です。そして「シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜」は大ヒットシングルで、カラオケ世代の定番曲でしょう。実はノンタイアップだそうで、純粋に楽曲の持つパワーだけで売れたんですね。躍動感ある明るいイントロから高揚感を掻き立てますが、歌が始まるとシンプルな演奏に変わって、歌メロの良さを引き立てます。そしてサビメロは抜群のキャッチーさなので歌いたくなりますね。素晴らしい名曲です。「傘の下の君に告ぐ」はリズミカルで若干パンキッシュな楽曲です。資本主義のもたらす虚栄と、踊らされる日本に対する風刺をきかせています。「ALIVE」はデジタル色のあるダウナーで暗鬱な楽曲です。最後の転調まで暗いトーンを引きずり、本作に暗い影を落としますが、アルバムの中では良いメリハリになっています。「幸せのカテゴリー」は中川敬輔のベースがリードする、オールドロック風味の楽曲。素朴なポップさがあります。そして「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」はキャッチーなシングル曲です。躍動感溢れるアグレッシブでカッコ良い演奏に乗せて、努力の報われない社会に対するやるせなさを桜井がダミ声気味に歌います。また「退屈なヒットチャートに ドロップキック」というフレーズが印象的ですが、これは当時のビーイングブームや、あるいは自身のミスチル旋風に対しての皮肉でしょうか。続いて表題曲「ボレロ」。ローファイなサウンドにダウナーな歌で淡々と進行しますが、途中からラヴェルのボレロのようなオーケストラが、バックで徐々に盛り上げていきます。オーケストラ色が強めの1曲ですね。最後は彼らの代表曲「Tomorrow never knows (remix)」。タイトルはビートルズの同名曲からの拝借でしょうが、オマージュ元の有名さにも負けない名曲に仕上がり、本楽曲はMr.Children最大のヒットシングルとなりました。鉄琴の音色でイントロは優しく、そこから桜井のシリアスな歌が始まります。そして2番からは力強いバンド演奏で光が差し込むかのよう。そして大サビで転調し、感情たっぷりの歌唱で魅せてくれます。暗闇から希望に向かって進んでいくような展開が素敵です。ちなみに本作収録にあたり、シングルでは打ち込みだったリズムを生ドラムに差し替えています。

 シングルはキャッチーで明るめですが、アルバム曲は暗めの楽曲もあり、アルバム全体にメリハリをつけます。ただやはり、シングル曲が強すぎるのでベスト盤感覚が強いですね。

BOLERO
Mr.Chrldren
 
DISCOVERY

1999年 7thアルバム

 Mr.Childrenは1997年から1年半ほど活動を休止。活動休止前の音源で、活動休止中に『ニシエヒガシエ』をリリースしたりしつつ、1998年後半に活動再開。そして翌年に本作リリースに至ります。復帰後初のアルバムなのにヘヴィかつダークな作風で売上も落ち、世間的には本作〜次作頃までミスチル低迷期と見なされているようです。
 今作からは桜井和寿が「Pro Tools」という音声編集/ミキシングソフトを用いて、ある程度完成形に近いところまで作成できるようになりました。これまではプロデューサーの小林武史が大きく関与していましたが、今作以降、小林の関与は少なくなったのだそう。そんな本作は、桜井のフェイバリットであるU2へのリスペクトが多く見られます。ジャケットアートはまんま『ヨシュア・トゥリー』だし、「終わりなき旅」はU2の代表曲「I Still Haven’t Found What I’m Looking For (終わりなき旅)」の邦題そのままですね。

 アルバムはタイトル曲「DISCOVERY」で幕開け。田原健一のギターは暗くて緊張感のあるフレーズを奏で、1曲目からシリアス路線だと示すかのよう。リズム隊もどっしり構えています。歌メロもキャッチーさは少ないですが、ギターの反復するフレーズが妙なトリップ感を生み出すんですよね。ヘヴィながら、風格を感じさせるカッコ良さがあります。7分近い「光の射す方へ」はシングル曲ですが、これまでのシングル曲と比べるとキャッチーさは控えめで、アルバム曲のようなマニアックさを感じます。ヘヴィな演奏は、デジタル感があるかと思えばアコギが鳴っていたり。「Prism」はカップリング曲。透明感のあるギターが素敵で、まばゆい星空のような、暗さの中に美しさを見い出せます。鈴木英哉のドラムも楽曲にダイナミズムを持ち込んで魅力的なものにします。歌メロも素朴ながら良い感じ。続く「アンダーシャツ」はヒップホップやファンクのようなリズム感を取り入れたグルーヴィな楽曲で、田原のギターはファンキー、中川敬輔のベースは重低音を爆音で響かせます。ホーンを取り入れてアナログ感があるかと思えば、スペイシーなシンセも飛び交います。そしてシングル曲「ニシエヒガシエ」。Pro Tools導入により、桜井がリズム隊以外をほぼ一人で手掛けたのだそうです。サンプリング等を駆使したデジタルサウンドと、荒々しいバンドサウンドを両立、更に吐き捨てるようなボーカルスタイル等、刺々しくてとてもカッコ良い。ヘヴィかつ攻撃的で、かと思えば間奏で急激にダウナーになって沈んでいきます。個人的に大好きな1曲ですが、癖の強いロック曲なのであまりシングル向けではないかも。一転して「Simple」は、アルバムの小休止的な位置づけでしょうか、牧歌的でホッとできる楽曲です。ギターやアコギがまったりとした空気を作ります。中川の弾くベースラインが心地良いですね。そして「I’ll be」は9分に及ぶ大作で、後にシングルカットされました。アコギとピアノで静かにこじんまりと始まり、序盤はゆったりと浸れます。3分手前辺りから桜井の歌に力が入って、リズム隊が楽曲を静かに盛り上げます。ストリングスも加わってスケールアップし、鈴木のドラムも爆音かつダイナミックになります。ちょっと長いですが、ドラマチックな楽曲ですね。続いて「#2601」では再びシリアスかつ攻撃的で棘のある作風に。ダーティなハードロックにデジタルサウンドを取り入れた楽曲で、ヒステリックな歌唱もスリリングです。一転して「ラララ」は毒の抜けたような、アコギが心地良い牧歌的な楽曲です。素朴でポップな楽曲で、リズミカルなベースがポジティブな気持ちにさせてくれます。そしてミスチル屈指の名曲「終わりなき旅」。先述のとおりU2楽曲の邦題そのままですが、オマージュ元を超えるくらいに素晴らしい出来の、ミスチル屈指の名曲に仕上げました。ストリングスによる装飾に加えて9回もの転調によるドラマチックな演出、そして7分を超えるスケール感と貫禄溢れる演奏による、壮大なロックバラードです。暗く緊張感溢れる楽曲はサビでの転調で感動を誘いながら盛り上がり、更に大サビでのトドメの転調により、ラストは希望の光が見えます。個人的には序盤の「カンナみたいにね 命を削ってさ 情熱を灯しては」のフレーズが好きです。さて、そんな名曲の後のラスト曲「Image」は、静かなアコースティックサウンドでしんみりとスタート。ですがそのままでは終わらず、途中からバンドサウンドとオーケストラが楽曲を派手に盛り上げます。

 「終わりなき旅」という突出した名曲を抱えながらも、アルバム全体ではヘヴィでロック色が強く統一感があります。大衆向けではないものの、中々魅力的な作品ですね。

DISCOVERY
Mr.Chrldren
 
Q

2000年 9thアルバム

 ライブアルバム『1/42』を挟んでリリースされた9作目の『Q』。潜水服を着ているのは桜井和寿で、精神的にどん底だった『深海』期からの脱出、という意図があるそうです。ダーツの合計点でテンポを決めたり、くじ引きでコード進行を決めたりと、ユニークな楽曲制作がなされました。
 本作はオリコン2位となり『Atomic Heart』から続く連続1位の記録は途絶えたうえ、売上累計も『DISCOVERY』の半分。一般的には失敗作と見られていますが、コアなファンには最高傑作に挙げる人も多く、賛否が大きく分かれる作品です。

 オープニング曲「CENTER OF UNIVERSE」は、アコースティックな雰囲気でゆっくりと始まります。まったりとした楽曲に、中川敬輔のベースが心地良い。ですが2番に入ると大きくテンポアップして、躍動感あるドラムや桜井の早口ボーカルと、忙しなくも高揚感を掻き立てます。シンセの味付けもあって、希望を抱かせる雰囲気。続く「その向こうへ行こう」はゆったりテンポで、デジタルサウンドなのにローファイ感があり、サビではオーケストラが彩りを与えます。楽曲展開が強引で、妙に引っかかりフックをかけます。蠢くベースが中々カッコ良い。「NOT FOUND」は、本作では数少ないシングル曲。アコギからブルージーなバンドサウンド、そこにストリングスによる味付けで優雅さを加えます。後半盛り上がるパートでの、鈴木英哉のドラムが魅力的。「スロースターター」は田原健一のギターが渋く泥臭くて、70年代初期のハードロックっぽい仕上がりです。桜井のしゃがれ気味な歌唱も楽曲の雰囲気にぴったりですね。「Surrender」はカップリング曲を起用。アコギとピアノ、ストリングスが暗い空気を醸し出します。感傷的な桜井の歌が沁みますね。そして「つよがり」は王道バラードで、ピアノイントロが名曲感を醸し出します。オーケストラが楽曲を飾り立てますがそこまで派手さはなく、楽曲には素朴さも残ります。「十二月のセントラルパークブルース」はレトロ感のあるブルージーな楽曲。リズム隊はダイナミズムに溢れていて、ピアノの味付けが旧き良きロックンロールのような印象を抱かせます。そんな楽曲に合わせて、メロディ弱めで一定のトーンで歌う桜井の歌も、古いロックンロール感がありますね。桜井が精神的に落ちていた『深海』期を振り返った楽曲なんだとか。そして「友とコーヒーと嘘と胃袋」はユニークな1曲。シンプルながらグルーヴ感溢れるリズミカルな演奏に乗せ、歌は飄々としています。ですが怒気混じりの語りパートを挟むと、歌はべらんめえ口調というか独特の口調に。「ロードムービー」はシンプルで素朴ながらも良質なポップ曲です。優しく穏やかな歌が心地良くて魅力的です。「Everything is made from a dream」は冒頭はオーケストラが特徴的、かと思えば唐突な場面転換を挟みます。おもちゃ箱のような、バロックポップ曲ですね。そして「口笛」は2000年代ミスチルの方向性を示すかのような名バラードです。序盤は素朴ながらもメロディアスな印象で、サビに向けて盛り上げていきます。感傷的なサビメロを盛り上げる力強いドラムなどの演奏も良いですね。ベタですが良曲です。「Hallelujah」は7分近い大作。少しダークかつ不思議な浮遊感が漂いますが、サビでは急に地に足ついたような引き締まった演奏に。終盤はゴスペル風のコーラスの反復が印象的ですね。ラスト曲は「安らげる場所」。ピアノとストリングスが主体の、静かでしっとりとしたバラードでアルバムを締め括ります。

 アルバムとしては統一感がないものの、実験的で面白い楽曲も多いです。そしてシングル「口笛」が良いですね。

 再婚した桜井が、社会批判ではなく日常の幸せを歌い始めたことや、本作のあとベスト盤をリリースしたことも相まって、ミスチルはここから低迷期を脱してポップロックバンドとして復活を遂げます。

Q
Mr.Children
 
 
 類似アーティストの開拓はこちらからどうぞ。