🇬🇧 The Jam (ザ・ジャム)

レビュー作品数: 6
  

スタジオ盤

In The City (イン・ザ・シティ)

1977年 1stアルバム

 ザ・ジャムはポール・ウェラー(Vo/Gt)、ブルース・フォクストン(B/Vo)、リック・バックラー(Dr)の3ピースロックバンドで、本国英国では絶大な人気を誇ります。ポール18歳、残る2名は21歳という若さで1977年にデビューし、1982年に解散しました。結成は1972年に遡り、当初は4人組だったそうです。
 ザ・ジャムはザ・フーやキンクス等のモッズに強い影響を受けていて、パンクというよりモッズ・リバイバルの文脈で語られることが多いです。スーツに身を包んだモッズ風のスタイルも、破れたシャツや安全ピンといったパンクスの好む衣装とはひと味違いますね。後にR&B色を強めることからポストパンク/ニューウェイヴに位置づけられることもありますが、多くの人がそう位置づけるように本サイトでもロンドンパンクにカテゴライズしました。
 本作は、プロデューサー兼レコードエンジニアとして5作目までザ・ジャムと付き合うヴィック・カッパースミス=ヘヴンと、次作まで手掛けるクリス・パリーによる共同プロデュース作です。

 つんざくようなギターと、パワフルなカウントで「Art School」の幕開け。シンプルですが疾走感溢れる爽快なロックンロールで、ノリの良いサウンドからは洗練されたスタイリッシュな感覚が滲み出ています。続く「I’ve Changed My Address」は明るくパンキッシュなロックンロールです。ベースがブンブン唸りを上げ、テンポ速く煽るようなドラムも爽快。ポールの歌もカッコ良いです。「Slow Down」ビートルズもカバーした曲で、原曲は1958年にラリー・ウィリアムズが発表。軽快かつパワフルなロックンロールで、メロディは古いのでしょうが、パンクを通過したサウンドで奏でられるこの楽曲はスタイリッシュに聴こえます。「I Got By In Time」はリズミカルなロックンロールで、ポールのソウルフルな歌が入ると渋さが加わります(18歳という若さなんですけどね)。そして「Away From The Numbers」は4分の楽曲ですが、2〜3分台の楽曲が並ぶ本作においては最長という。笑 力強い演奏をバックに歌う哀愁のメロディが魅力的ですね。全編を通して力強いシンバルが炸裂し、そして時折ダイナミックに叩くリックのドラムもカッコ良いんです。1分半の小曲「Batman Theme」はバットマンのテーマ曲をカバー。重くて速いグルーヴィな演奏がとてもカッコ良いんです。
 レコードでいうB面オープニングを飾る表題曲「In The City」は、本作の先行シングルです。切れ味の鋭いギターとブイブイ力強く唸るベースが魅力的で、ドラムはタイトに刻みます。歌メロには程良い哀愁が漂いこれもまた良いんですが、歌を終えたあとに引き締める演奏が実にカッコ良い。「Sounds From The Street」は力強いリズム隊が前面に出て、歌よりも目立っています。メロディはリラックスした感じ。「Non-Stop Dancing」はキレのあるギターと力強いリズム隊がリズミカルな演奏を展開します。重低音を響かせて楽曲にメリハリをつけるブルースのベースが特にカッコ良い。「Time For Truth」はダダダッと軽快なリズムが爽快。コーラスワークも駆使した歌はポップな雰囲気です。そして「Takin’ My Love」はシンプルで爽快な高速ロックンロール。速くてノリノリな楽曲で楽しませてくれます。最後に「Bricks And Mortar」。ガチャガチャした演奏をバックに、ドスの効いた歌声が響き渡ります。アウトロはノイジーな演奏でグワングワン揺さぶってフェードアウトしていきます。

 トータル32分、実にノリの良い作品です。粗削りな感じはあるもののスタイリッシュな仕上がりで、他のパンクバンドと比べても上手いと思います。

In The City
The Jam
 
This Is The Modern World (ザ・モダン・ワールド)

1977年 2ndアルバム

 前作から僅か半年でスピードリリースされた本作ですが、後年ポール・ウェラー自身が振り返って「半分ぐらいの曲は失敗作」と語るように、その出来についてはファンからも賛否両論だそうです。前作に引き続き、ヴィック・カッパースミス=ヘヴンとクリス・パリーの共同プロデュース。

 タイトル曲「The Modern World」で開幕。荒削りなギターに躍動感あるリズム隊を組み合わせたパンキッシュな楽曲で、ノイジーなギターがザクザク刻んできます。でも歌メロにはどこか憂いがあります。続く「London Traffic」はリック・バックラーの高速ドラムにブルース・フォクストンのバキバキのベースが、焦燥感を煽り立てます。シンプルな楽曲に「London traffic」を連呼するスタイルがクラッシュを想起させます。「Standards」はわかりやすくキャッチーなイントロから始まります。ポールのパワフルな歌唱を力強いリズム隊が支えます。そして「Life From A Window」はリックのシンバルを多用したドラムが騒がしくてハードな演奏ですが、アコギを取り入れたサウンドは、ギターポップのような爽やかさをも見せてくれます。「The Combine」はぶっといベースがよく動き回り、気持ちの良いグルーヴです。ノイジーで爽快な演奏が魅力的。続いて「Don’t Tell Them You’re Sane」。切れ味鋭いギターを鳴らして、激しいシンバルが炸裂。攻撃的な演奏とは裏腹に、少し感傷的な歌メロを聴かせます。
 アルバムは後半へ突入。「In The Street, Today」はプリミティブでダイナミックなドラムを中心に、キレのある疾走感溢れる演奏でメリハリをつけます。カッコ良いのに、僅か1分半でサクッと終えてしまいます。続いて「London Girl」は巻き舌気味な歌唱にセックス・ピストルズを意識したのでしょうか?演奏はブルースの弾く爆音ベースが躍動感たっぷりで気持ち良いです。「I Need You (For Someone)」はベースリフで幕開け。メロディアスなポップ曲で、ポールの歌をコーラスで彩ります。演奏は力強いですが、それ以上に歌メロの良さが際立ちます。「Here Comes The Weekend」もパンキッシュで力強い演奏を奏でつつ、少し哀愁のあるメロディアスな歌を聴かせます。「Tonight At Noon」は透明感あるアコギを鳴らして、そこにパワフルなリズム隊が絡んでいきます。憂いのある歌メロと、途中から加わる歪んだエレキギターによって、透明感のある楽曲に強い哀愁が立ち込めていきます。そしてラスト曲「In The Midnight Hour」。R&B歌手のウィルソン・ピケットのカバー曲で、躍動感溢れるドラムをはじめ力強い演奏が爽快です。荒っぽくてカッコ良い。

 前作よりも歌メロに趣向が凝らされていて、イマイチな前評判に身構えて聴くと意外に良い感じでした。

This Is The Modern World
The Jam
 
All Mod Cons (オール・モッド・コンズ)

1978年 3rdアルバム

 タイトルの『All Mod Cons』とは、住宅広告に使われた慣用句「all modern conveniences (近代設備完備)」の略だそうで、モッズとかけてこのタイトルを使ったみたいです。パンク譲りの力強さを残しつつも、楽曲スタイルとしてはパンクを脱してモッズを押し進め、ファンからは最高傑作に挙げられることも多い作品です。本作からヴィック・カッパースミス=ヘヴン単独でのプロデュース。

 アルバムは軽快なタイトル曲「All Mod Cons」で幕開け。乾いたギターを鳴らし、唸りを上げて存在感の強いベース、独特のリズムでフックをかけるドラムなど演奏に魅せられますが、爽やかな歌メロもキャッチーです。続く「To Be Someone (Didn’t We Have A Nice Time)」はポール・ウェラーとブルース・フォクストンの歌とコーラスを駆使したメロディが特にポップですね。でも切れ味鋭いギターをはじめ、演奏はエッジが効いています。「Mr. Clean」は静と動が比較的明確で、特にリック・バックラーの力強いドラムが楽曲に強いメリハリをつけています。「David Watts」はキンクスのカバー曲で、原曲譲りのキャッチーなメロディラインが耳に残りますね。テンションの高いリズム隊が緊張を高めますが、ポールの弾くシンプルなピアノが少し緊張をほぐします。そして「English Rose」は波打つ音をバックに、アコギだけの静かで穏やかな演奏を聴かせます。アンニュイな歌は憂いを帯びつつ、リラックスした感じにも聴こえます。名曲「In The Crowd」は冒頭、ポールの牧歌的でポップな歌メロに重きを置いています。そこからすぐに力強くノイジーな演奏が加わりますが、メロディの良さが焼き付いているからか、演奏よりも歌に意識が向かいます。アウトロではエフェクトをかけたコーラスにサイケ感があるものの、演奏は輪郭がくっきりとして疾走感に溢れています。
 アルバム後半のオープニングは「Billy Hunt」。シンプルかつパワフルなパンキッシュな楽曲で、『イン・ザ・シティ』路線のファンにもきっちりアプローチ。爽快な演奏もさることながら、キャッチーな歌メロが耳に残る良曲です。なお米国盤だと「The Butterfly Collector」という楽曲に置き換わっています。続いて「It’s Too Bad」はキャッチーで躍動感溢れる気持ちの良い演奏で始まりますが、それ以上にキャッチーでポップな歌メロで魅せます。爽やかなサウンドはギターポップにも通じますね。「Fly」はアコースティックパートとバンド演奏パートが交互に繰り返され、静と動のメリハリをつけます。静のパートはアンニュイで落ち着いていますが、動のパートはテンポも上げて、空を羽ばたいていけそうな躍動感。「The Place I Love」はメリハリがあってカラッと陽気な演奏が高揚感を煽ります。ポップな歌メロは少し哀愁があって、演奏と合わさって爽やかな印象です。時折アクセントとして加わるオルガンも良い感じ。「’A’ Bomb In Wardour Street」は超骨太なベースとパーカッシブなドラムが、スカスカでシンプルかつ、パンキッシュな爽快感を生み出します。そして「Down In The Tube Station At Midnight」。鉄道の効果音で始まり、細かく刻む神経質なドラムに煽られながら主張の強いベースが軸を作ります。ダイナミックなリズム隊が大きく牽引、そこにパワフルかつソウルフルな歌唱を乗せています。珍しくメロディアスなギターを聴けるのも特徴的。終盤に鉄道が出発して、バンド演奏が残るという演出もカッコ良いです。

 パンク色も一部に残しつつモッズに影響を受けたポップな歌メロの良さを前面に出しています。歌唱も柔らかな感じになっていて、爽やかな良曲が揃っています。

All Mod Cons
Deluxe Edition (CD+DVD)
The Jam
All Mod Cons
The Jam
 
Setting Sons (セッティング・サンズ)

1979年 4thアルバム

 当初は「戦争を経て大人になった3人の少年時代の友情」を描くコンセプトアルバムになる予定でした。完成形では、彼らが成長とともに離れ離れになるというストーリーが一部の楽曲で見られる程度だそうです。全英4位を獲得してヒットしたうえ、本作の4ヶ月後にはシングル「Going Underground」(アルバム未収録。デラックスエディションに収録)で初の全英1位を獲得するなど、ザ・ジャムは大きな飛躍を遂げ、更に勢いづいていくことになります。

 オープニング曲は「Girl On The Phone」。チリリンチリリンと呼出音から、弾け出すようなパワフルなバンド演奏が始まります。ノリの良さで半ば強引にキャッチーさを作り出しているものの、かなりトリッキーで複雑な楽曲展開です。続く「Thick As Thieves」もブルース・フォクストンとリック・バックラーによる力強いリズム隊が、パワフルに驀進していきます。疾走感溢れる爽快な演奏が高揚感を掻き立てますが、明るいメロディラインはポップでもあります。「Private Hell」はバッキバキのベースリフで幕を開け、鋭いギターも含めて、ひりついたポストパンク的な演奏を繰り広げます。ブルースの骨太なベースもやたら動き回り、ポール・ウェラーのメロディアスな歌のバックで焦燥感を掻き立てます。そして「Little Boy Soldiers」は憂いのあるアルペジオと歌でしんみり始まりますが、それも一瞬で、力強く強靭な演奏と爽やかな歌へ。銃声や爆撃音を挟んで空気が一変、ティンパニやチェロなど重厚な演奏へ。その後もあまりに目まぐるしく場面が変わり、楽曲構成はプログレ的ですが、僅か3分半しか経過していないことに驚かされます。「Wasteland」は爆音ベースやドラムと、軽やかなギター&牧歌的な歌メロが対照的ですね。また、オルガンやリコーダーの演出がノスタルジーを生み出しています。
 アルバム後半に入り、「Burning Sky」は躍動感ある楽曲です。程良い疾走感を持つ楽曲は爽やかなんですが、少し怪しげなフレーズを弾くマッチョなベースが独特で、妙に耳に残るんです。「Smithers-Jones」はメロディアスで耽美な歌メロをストリングスが彩ります。ラストに薄っすらギターが加わるまではバンド演奏不在で、終始ストリングスが演奏しています。続く「Saturday’s Kids」では一転して、キンキンとしたギターを皮切りに、ビート感の強いノリの良いバンド演奏が繰り広げられます。明るく朗らかな歌メロはポップですが、ポールの渋い歌声と、力強いバンド演奏で引き締めています。続く「The Eton Rifles」は緊張がほとばしるイントロを経て、ポップな歌メロが始まると明るく前向きな雰囲気へ。各楽器の音量が大きいですが、それでも埋もれない歌は声質のおかげかメロディの良さのおかげか…。そしてアルバムを締め括る「Heat Wave」はマーサ&ザ・ヴァンデラスのカバー曲。後にポールとともにスタイル・カウンシルを結成することになるミック・タルボットがピアノを弾いています。パワフルで勢い溢れるバンド演奏が圧倒しますが、洒落たピアノが楽曲にアクセントを加え、そこに乗るR&Bっぽいキャッチーな歌メロは楽しそうです。とてもカッコ良い1曲です。

 リッケンバッカー製の爆音ベースが際立ち、ビート感のあるサウンドを聴かせます。初期のように疾走感のある楽曲が多く、それでいて初期衝動ではなく完成された楽曲の数々は爽快です。

Setting Sons
Deluxe Edition (2CD)
The Jam
Setting Sons
The Jam
 
Sound Affects (サウンド・アフェクツ)

1980年 5thアルバム

 ビート感の強いサウンドは保ちつつ、サイケ的な楽曲づくりやホーンを取り入れるなどの様々な試みがなされています。なおタイトルは「Sound Effects (効果音)」をもじったもので、ジャケットはBBCによる効果音レコードのパロディなのだそう。英国とニュージーランドでチャート2位を獲得し、また欧州や米国にも波及しています。ヴィック・カッパースミス=ヘヴンとザ・ジャムの共同プロデュース。

 「Pretty Green」はブルース・フォクストンの弾く極太なベースが楽曲の低音を支え、途中からザクザクとしたギターが加わるととてもスリリングに。緊張が漂う演奏は焦燥感を煽りつつも、メロディのおかげか持ち前の爽やかさが同居して爽快です。「Monday」は怪しげなベースリフに加えて、どことなくエキゾチックな雰囲気が漂う楽曲はサイケ色があります。そしてポール・ウェラーの歌メロは甘くてポップなんです。続く「But I’m Different Now」はパンキッシュでキレッキレの爽快な楽曲です。リック・バックラーの叩くパワフルなドラムに牽引され、ビート感の強い勢い溢れる演奏で駆け抜けます。「Set The House Ablaze」は陰りのあるフレーズを反復する鋭利なギターをはじめ、爆音ベースやドコドコ轟くドラムが焦燥感を煽り、ひりついたポストパンク曲に仕立てています。ゾクゾクするほどにカッコ良い楽曲です。そして名曲「Start!」は全英1位獲得シングルで、ビートルズの「Taxman」そっくりの跳ねるようなベースラインが特徴的です。本作制作にあたりポールは『リボルバー』(とマイケル・ジャクソンの『オフ・ザ・ウォール』)からの影響を明言しており、確信犯ですね。笑 シンプルですが、リズミカルな演奏はやみつきになります。「That’s Entertainment」も人気シングルで、アコギをかき鳴らしてメランコリックなメロディを歌います。リズム隊は他の楽曲よりは抑えめですが、それでもアコースティックと呼ぶにはやや主張強めで良い感じ。終盤には部分的に逆再生のようなサイケデリックな演出もなされています。
 アルバム後半のオープニング曲は「Dream Time」。逆再生を用いたサイケ全開なイントロを経て、そこからパンキッシュで明瞭なバンドサウンドが飛び出してきます。歌メロもキャッチーかつ爽やかですね。続く「Man In The Corner Shop」は、ノスタルジックな音色を奏でるギターを爆音ベースで上塗りしていきます。歌メロも郷愁を感じさせますが、終盤は演奏の音量を上げて差し迫るようなスリルがあります。そして実験的な楽曲「Music For The Last Couple」。静かなパーカッションによる即興的な演奏を1分ほど挟んで、躍動感のあるバンド演奏を繰り広げます。リズムがトリッキーで妙な引っ掛かりがあり、強引な楽曲展開も奇怪ですが、サラッと聴かせるキャッチーさも持ち合わせているという、不思議な楽曲です。「Boy About Town」は咳払いを入れてから(これも「Taxman」のオマージュでしょうか?)、イントロなしに歌を始めます。弾けるようなリズム隊に、少し哀愁のあるポップな歌メロが爽やかで爽快。華やかなブラスも取り入れてキャッチーですね。最後の「Scrape Away」ではバンド演奏はくっきりしているものの、エフェクトをかけたうえに陶酔感のあるボーカルがサイケデリックな感覚を生み出しています。低音を刻むベースもトリップ感の演出に一役買っていますね。

 ポップなメロディとパワフルなリズム隊というザ・ジャムの良い部分は残しつつ、楽曲の幅が広がってとても魅力的です。ポール・ウェラー自身も、本作をザ・ジャム時代での最高傑作に挙げているそうです。

Sound Affects
Deluxe Edition (2CD)
The Jam
Sound Affects
The Jam
 
The Gift (ザ・ギフト)

1982年 6thアルバム

 ポール・ウェラー(Vo/Gt/Key)、ブルース・フォクストン(B/Vo)、リック・バックラー(Dr)の3人によるザ・ジャム。変わらぬメンバーでデビューから5年間駆け抜けて英国では人気絶頂期を迎えていましたが、結果的に本作がラストアルバムとなってしまいました。ザ・ジャム唯一の全英1位獲得アルバムで、ファンクやR&B等を取り入れてブラックミュージックに接近。プロデューサーとしては新たにピーター・ウィルソンを起用し(いくつかの楽曲でオルガンを弾いています)、ザ・ジャムと共同制作となります。

 「Happy Together」は歓声のようなコーラスで始まり、伸びやかでソウルフルな歌を披露します。ラテンっぽいノリの良さ。演奏は、力強いベースとドラムが勢いをつけてくれます。「Ghosts」は小気味良いドラムを軸に、穏やかな演奏に乗せてソウルフルな歌を聴かせます。トランペットが華やかに彩りを与えます。続く「Precious」はファンク色の強い楽曲で、程良い疾走感に強烈なグルーヴを持つ演奏で楽しませてくれます。跳ねるようなベースにパーカッシブなドラムと、躍動感ある演奏に乗せられて踊り出したくなります。トランペットやサックスはゴージャス感がありますが…。「Just Who Is The 5 O’Clock Hero?」は6/8拍子で刻むリズミカルな演奏で、時折入るアコギがアクセント。少し憂いのある歌メロに浸れます。そして「Trans-Global Express」は太鼓と呼ぶべきダイナミックで野性味溢れるドラム、パワフルに刻むグルーヴィなベースと華やかなトランペットでノリノリです。時折サイケな演出を加えつつも、ジャングルが似合いそうなワイルドさがあります。
 アルバムは後半に突入。「Running On The Spot」はタイトなドラムを刻みながら爽快に駆け抜けます。グルーヴ感あるベースも気持ち良いですね。続いて「Circus」はブルース作のスリリングなインストゥルメンタル。ファンク色の強いベースが力強く楽曲を支え、ダイナミックなパーカッションにギターやシンセが彩りを与え、トランペットが時折ゴージャス感を出してきます。「The Planner’s Dream Goes Wrong」はザ・ジャムっぽくない、派手派手のトロピカルな演奏が繰り広げられます。そこに場違い感のある爆音ベースが絡むのが彼ららしいですね。一転して「Carnation」は憂いに満ちていて、ブラスを取り除いた純粋なバンドサウンドで聴かせてくれます。間奏のエレピも感傷的な気分を誘う良い演出です。そして名曲「Town Called Malice」は「悪意という名の街」という邦題で知られる、全英1位獲得シングルです。モータウン風のリズミカルで踊り出したくなるような演奏に、オルガンが気持ち良く絡んでいきます。間奏のベースソロも魅力的ですね。ポールの歌も絶好調で、ノリノリの演奏にメロディアスな歌を聴かせます。最後に表題曲「The Gift」。躍動感ある演奏にオルガンが良いアクセントとなっています。中盤のハンドクラップとか、とにかくノリが良くて爽快です。

 楽曲はカッコ良いのですが、トランペットやサックスがやや過剰装飾な感は否めません。前作からガラリと変わってしまった印象です。
 そして本作リリースの同年末、1982年にザ・ジャムは解散。その後ポール・ウェラーはスタイル・カウンシルを結成することになります。

The Gift
Deluxe Edition (2CD)
The Jam
The Gift
The Jam
 
 

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