🇬🇧 This Heat (ディス・ヒート)

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スタジオ盤

This Heat (ディス・ヒート)

1979年 1stアルバム

 ロンドン出身の実験的なポストパンクバンド、ディス・ヒート。パンク版キング・クリムゾンといった趣の、アヴァンギャルドで唯一無二の独自な音楽性で、ポストパンクシーンにおいても強い存在感を放ちます。
 カンタベリー系プログレのクワイエット・サンで活躍するチャールズ・ヘイワード (Dr/Key/Vo)と、同バンドのセッションに参加したチャールズ・バレン (Gt/Cl/Va/Vo)が意気投合。クワイエット・サン解散後もヘイワードとバレンは仕事を続け、そこに演奏経験は無いものの直感的な音楽センスを持つ芸術家ギャレス・ウィリアムズ (B/Gt/Key/Vo)が加わり、1976年にディス・ヒートは結成しました。バンド名は、同年に英国を襲った記録的な熱波に由来します。結成から2年半ほどかけて様々なスタジオでレコーディングされた楽曲をまとめて本作のリリースに至ります。テープループを用いたり大量のマイクを使った録音などにより、異様で不気味な雰囲気を醸し出します。

 大半が実験的なインストゥルメンタルで構成されます。まずは短い「Testcard (Blue)」で幕開け。小さい音で電子的なノイズを鳴らすだけですが、突如爆音で「Horizontal Hold」が始まるとぶっ飛ばされます。暴力的でノイジー、それでいて無感情なサウンドは、即興的で全く先の読めないスリリングな楽曲を展開します。ふとした瞬間に無音を挟んで困惑させたり、かと思えば速弾きで圧倒したり、規則性のないまま唐突に終焉を迎えます。恐ろしく焦燥感を煽る演奏は『太陽と戦慄』期のキング・クリムゾンを彷彿とさせます。続く「Not Waving」は7分を超える本作最長の楽曲です。ドラムレスのこの楽曲は、冒頭で無感情な不協和音・ノイズを静かに鳴らして不穏な時間が流れていきます。3分辺りから憂いのある歌が始まりますが、特に歌をフィーチャーするわけでもなく、どこかエキゾチックな雰囲気が漂います。「Water」は様々な打楽器を鳴らす楽曲で、序盤は何故か仏教的なイメージを持ちました。中盤からノイジーな重低音が加わるとパーカッションもアグレッシブに変わっていきます。そして「Twilight Furniture」はプリミティブでダイナミズムのあるパーカッションが静かに高揚感を煽りますが、キーボード(?)は単音でテンション低めというか暗鬱な雰囲気。歌もありますが音量低めのミックスで、脇役といった感じです。時折パーカッションが前面に出てくるとダイナミックでスリリングです。
 アルバム後半の幕開けとなる「24 Track Loop」はディス・ヒートの代表曲の一つです。電子音が淡々と反復され、無機質で不気味なのに、リズミカルなので妙に心地が良いんです。中盤からは音量を増して焦燥感を煽り、エレクトリックな響きがとてもスリリングです。「Diet Of Worms」はキリキリと高音で不快なノイズを立てます。正直この楽曲は苦手ですね…。続いて「Music Like Escaping Gas」は高音で鳴る笛のような音がひんやりとした感覚を与えます。中盤からはギターを鳴らしてエキゾチックな雰囲気があり、低音で静かに囁く歌も相まってどことなくお経のようにも聞こえます。そして「Rainforest」は暴力的なノイズを鳴らすスリリングな楽曲です。音質の悪さが爆発音のようにも聞こえ、ハイハットを連打する金属質なドラムも焦燥感を煽ります。「The Fall Of Saigon」はどこかの部族の儀式のような、非西欧的な楽曲です。プリミティブでエキゾチックなサウンドをバックに、不気味な合唱を展開します。後半にノイジーなギターが加わると、見知らぬ第三世界から戻ってこれたような気がして不思議と安心感が生まれました。そのままラスト曲「Testcard (Yellow)」へ。冒頭と同じく電子的なノイズをひたすら鳴らし続けるだけの楽曲で、徹頭徹尾、人を寄せ付けない実験的な音楽を貫き通すのでした。

 無機質で実験的。理解不能なのに、焦燥感を煽る楽曲はとてもスリリングで、強烈なインパクトを残します。

This Heat
This Heat
 
Deceit (偽り(ディシート))

1981年 2ndアルバム

 本作はディス・ヒートの2ndにしてラストアルバムで、アルバムタイトルはバンド名の語呂合わせだそうです。ライブ録音された即興演奏だったり様々な素材を組み合わせて、著名なレゲエ・ミキサーのマーティン・フレデリックのサポートも得ながら制作されました。前作よりは歌も所々フィーチャーされるようになり、民族音楽のような呪術的な雰囲気も増します。ジャケットが不気味で敬遠してしまいますが、前作よりもこちらの方が評価が高いみたいです。

 オープニング曲「Sleep」は、シタールのような弦楽器に民族楽器のようなパーカッションを鳴らして、エキゾチックでサイケデリックな雰囲気を醸します。前作と違って歌も普通に聴ける感じ。続く「Paper Hats」も非西欧的な雰囲気ですが、冒頭は比較的メロディアスに始まります。ですが突如絶叫に変わるので一筋縄ではいきません。更に2分過ぎた辺りから超加速して、ハイテンションな即興演奏が繰り広げられます。そしてリズムチェンジして、その後の先の読めない展開もスリリング。「Triumph」はサックスやクラリネットのような音をヘヴィに鳴らして、重く暗鬱な空気を作り出します。打楽器の多用で民族音楽的な印象。そして「S.P.Q.R.」はハイテンションの疾走曲です。ギターや金物を多用するドラムが緊張を一気に高め、それでいて規則正しい4つ打ちのビートが心地良くもあります。コーラスを駆使した歌は呪術的でキャッチーとは程遠いのですが、それでも本作の中では抜群に取っつきやすい楽曲ですね。「Cenotaph」はギター・ベース・ドラムという、珍しくスタンダードな構成です。暗鬱でひねくれたフレーズを聴かせる楽曲は若干ゴシックロック寄りでしょうか。合唱するように歌うメロディは、比較的メロディアスな気がします。
 レコードでいうB面は「Shrink Wrap」で幕開け。インド音楽のような要素を取り入れて1960年代サイケのようでありながら、電子的な加工を施してニューウェイヴ感も取り入れています。ヤケクソな歌にPILのようなパンク感がありますね。「Radio Prague」は実験的な楽曲で、木琴などの打楽器で生活音を表現しているかのような感じです。続く「Makeshift Swahili」は恐ろしいものが迫りくるような、ダークでヘヴィなイントロで圧倒します。シャウトしっぱなしの歌は強い怒りを感じます。中盤で場面転換して雰囲気を変えると少し緊張は解かれますが、それも束の間、演奏は再び一気に緊迫してラストまでスリルを保ちます。「Independence」は東洋音楽のようなメロディにレゲエのようなリズム感を取り入れて、独特のエキゾチックな感覚を生み出します。「A New Kind Of Water」は強い緊張が張り詰めて憂いも感じさせますが、力強いドラムが時折ダイナミックなプレイで魅せます。憂いのある歌メロも比較的取っつきやすいです。そして最後の「Hi Baku Shyo (Suffer Bomb Disease)」とは「被爆症」のこと。静かな空間に実験的な音を鳴らす楽曲ですが、時折出てくるチャルメラのようなメロディに思わずにやけてしまいます。

 暗鬱で緊張に満ちた民族音楽のような楽曲が詰まっています。相変わらず孤高の姿勢ですが、時折、比較的キャッチーな楽曲も顔を見せてくれます。

 ギャレス・ウィリアムズの脱退により1982年にディス・ヒートは解散。2001年には3人が集結してリハーサルを行いますが、直後にウィリアムズが病死してしまい、このとき再結成は叶いませんでした。そこからしばらく後、チャールズ・ヘイワードとチャールズ・バレンの2人で「This Is Not This Heat」名義で再結成して、2016年〜2019年までの間活動しています。

Deceit
This Heat
 
 
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