🇩🇪 Triumvirat (トリアンヴィラート)
レビュー作品数: 2
スタジオ盤
1974年 2ndアルバム
トリアンヴィラートはドイツのケルン出身のプログレバンドで、「ドイツのELP」とも呼ばれています。
ユルゲン・フリッツ(Key)、ディック・フランゲンベルク(B/Vo)、ハンス・バテルト(Dr)のトリオ編成で1969年に結成しました。フリッツの鍵盤演奏もキース・エマーソンに強い影響を受けていて、バンド編成もELPそっくりですね。スタジオレコーディング前にフランゲンベルクが脱退し、ハンス・パーぺ(B/Vo)が加入。そして1973年に1stアルバム『地中海物語』をリリースします。フリートウッド・マックのツアーに帯同して知名度を上げたトリアンヴィラートは、1974年に『二重えくぼの幻影』をリリース。なおパーペが結婚のため脱退し、フリッツの従兄弟であるヘルムート・コーエン(B/Gt/Vo)が加入しています。
フリッツによるセルフプロデュースとなる本作は、大作2曲だけのアルバムです。表題曲ではパーペが、「Mister Ten Percent」ではコーエンがベースを弾いています(両方のボーカルをコーエンが担当)。また、外部のオーケストラとブラスセクションを起用。ELPより音色の幅が広い印象です。
レコードA面を占める表題曲「Illusions On A Double Dimple」は6パートから成る組曲です。1分ほど流麗なピアノにコーエンが甘い歌声を聴かせたかと思えば、不協和音が響き、不安を煽るスリリングな第2パートが始まります。パーペのゴリゴリベースがカッコ良い。フリッツの弾くムーグとオルガンに聴き浸っていると、スリルは維持したままいつの間にか明るい雰囲気に変わっています。4分過ぎから第3パートへ突入、ドラムがスピード感のある複雑なリズムを刻み、スペイシーなムーグがリードする演奏パートです。ELPの『タルカス』っぽいですね。バテルトのダイナミックなドラムがカッコ良い。結構楽しい雰囲気で展開しますが、11分過ぎた頃から暗鬱でメランコリックなボーカルパートでアクセントを加えます。13分過ぎから第5パートに入り、アップテンポの明るいロック曲を展開。ノリノリの演奏に、心地良いコーラスワークと中々良い。しかし後半に進むにつれ陰りが見えてきます。最終パートは焦燥感を煽るようなスリリングな演奏バトルを披露。ここまでのメロディを時折引用しつつ、演奏は複雑さを極めます。しかしラスト2分は対照的に、キャッチーで分かりやすいメロディを奏でて楽曲は終焉。
レコードB面は「Mister Ten Percent」という、こちらもやはり6パートから成る組曲です。初っ端から複雑な鍵盤で幕を開け、そこにヘヴィなリズム隊が絡んでいく、息をつく暇もないスリリングな展開。3分間圧倒されっぱなしですが、突如第2パートの高速ピアノソロへと変わります。フリッツの凄まじい演奏に浸っていると吐き捨てるようなボーカルで第3パートへ。これも高速ドラムをはじめ焦燥感を煽り立てます。アクセントとしてサックスの味付けがお洒落。6分手前から第4パートになりますが、目まぐるしい展開は変わらずとてもスリリングです。7分からコーエンのベースソロでテンポダウンし、ようやく一息。ノイジーで難解な演奏を挟んで再び緊張感を高めていきます。11分半頃からアコギが心地良い第5パートへ突入。歌も含めてトラッドフォークというか牧歌的な感じですが、中盤はスペイシーなシンセが絡んでイエスっぽい。17分頃から最終パートで、比較的キャッチーな演奏なのに変拍子のせいで妙な違和感を残します。2分ほど明るい雰囲気が続いた後、突如として暗鬱な歌メロパートに。ブラスセクションやストリングスも加わり豪華な演奏で、ドラマチックな演出でエンディングに向けて盛り上がっていきます。少し盛り上げ切れていない感じもありますが、聴き終えた後の余韻は素晴らしい。
ネズミのジャケットアートが可愛らしいだけでなく、中身も魅力的。本家ELPを超えるほどのスリルで、ELP譲りの明るさを見せつつも、ダークさが垣間見えるメリハリのついた名盤です。
1975年 3rdアルバム
トリアンヴィラートのヒット作で、米国でもビルボード27位にチャートインした作品です。電球の中に入ったネズミのジャケットアートに一目惚れし、そこで初めてトリアンヴィラートというバンドを知りました。前作も可愛らしいネズミジャケですよね。
本作はコンセプトアルバムで、紀元前の共和制ローマにおいて奴隷蜂起した、トラキアの剣闘士スパルタカスを描いています。ハンス・バテルト(Dr)が歌詞を書き、ユルゲン・フリッツ(Key)がセルフプロデュース。なおヘルムート・コーエン(B/Gt/Vo)は本作を最後に脱退することになります。
アルバムは「The Capital Of Power」で幕開け。緊張感に満ちたスリリングな演奏ですが、途中から開放的な雰囲気に変わり、リズミカルで軽快な演奏で楽しませます。壮大なオープニングですね。続く「The School Of Instant Pain」は4部から成る6分強の組曲。フリッツの弾くピアノが憂いを帯びた美しい音色を奏で、そこにコーエンの歌が乗るシンプルな構成。そこに楽器が増えると、アップテンポながら少しだけ切なさのある爽やかな雰囲気に変わり、中盤は更にテンポアップして少しテクニカルな演奏をバックに歌っています。終盤は明るい雰囲気を保ちつつもELPばりのスリリングな鍵盤演奏を披露。ラストはバテルトのドラムソロを聴かせて締め括ります。「The Walls Of Doom」はインストゥルメンタルで、ELP色がかなり強いです。前半はゆったりめで、後半はテンポアップしつつもスペイシーな印象を持ち合わせています。「The Deadly Dream Of Freedom」はメロディアスなバラード。序盤は落ち着いた演奏をバックにコーエンが囁くような声で歌い、サビメロは感情たっぷりの歌で涙を誘います。「The Hazy Shades Of Dawn」はインストゥルメンタル。スペイシーなシンセが少しちゃっちい印象ですが、メロディは明るくキャッチーで聴きやすいです。
アルバム後半はインスト曲「The Burning Sword Of Capua」で開幕。疾走感に溢れるスリリングな演奏を聴かせます。リズム隊のコンビネーションが抜群で緊張感に満ちています。「The Sweetest Sound Of Liberty」はアコギが小気味良いメロディアスな1曲。ゆったりしたテンポとアコギの音で和らげているものの、骨太なベースに力強いドラムなど結構ロックしています。9分近い「The March To The Eternal City」は3パートから成る組曲。シリアスな雰囲気で始まります。哀愁漂う歌が始まると、メランコリックなピアノでしっとり聴かせます。反復するヘヴィなフレーズはどこかで聴いたことがあるような…。中盤はパーカッシブなドラムとクールなベースが魅せ、そこにフリッツが即興的な鍵盤演奏を展開、これがスリリングです。終盤はまた序盤と同じフレーズをヘヴィに聴かせ、哀愁漂う歌で終わります。そしてラストは表題曲「Spartacus」。これも3部から成る組曲で、序盤はメロディアスな歌で幕開け。歌が終わると疾走感に溢れるスリリングな演奏へと変わり、陽気な演奏をバックに歌うコーエンはまるでグレッグ・レイクのよう。お洒落なピアノが良いアクセントになっていますが、演奏も歌もELP色が強いですね。後半は変拍子を駆使した複雑な演奏で、目まぐるしく駆け巡ります。終盤に向けてキャッチーなメロディラインが浮き彫りになり、爽やかなフィナーレを迎えます。
前作よりも楽曲はコンパクトになり、キャッチーさも増した印象はありますが、反面スリルはやや減退。ELP色がより強まった印象も受けます。名盤と名高い作品ですが、個人的には前作ほどの魅力は感じませんでした。
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