🇬🇧 Emerson, Lake & Palmer (エマーソン、レイク&パーマー)

レビュー作品数: 6
  

スタジオ盤

Emerson, Lake & Palmer (エマーソン、レイク&パーマー)

1970年 1stアルバム

 エマーソン、レイク&パーマー(またはエマーソン・レイク・アンド・パーマー)は英国出身のプログレバンドで、通称ELP(またはEL&P)。元ザ・ナイスのキース・エマーソン(Key)、元キング・クリムゾンのグレッグ・レイク(Vo/B)、元アトミック・ルースターのカール・パーマー(Dr)の3人から成り、バンド名は彼らのファミリーネームを並べています。メンバー全員が他のバンドでキャリアを積んだスーパーグループと呼ばれていました。なおレイクは結成時に、エマーソンかジミ・ヘンドリックスかどちらに声をかけるか迷ったそうで、後者だったらまったく違ったグループになったでしょうね。ギター不在のELPは、エマーソンによるモーグ・シンセサイザーが特徴的なバンドとなりました。
 本作はデビュー作にしてレイクによるプロデュース作。レイクが目指した「キング・クリムゾンより売れるバンドを作る」という目標は、『クリムゾン・キングの宮殿』を上回るチャートアクションをした本作で早々と達成するのでした。

 オープニングを飾る「The Barbarian」はバルトークの「アレグロ・バルバロ」をアレンジしたインストゥルメンタル。ギター不在なのにヘヴィな重低音が圧倒し、ダークな雰囲気を作ります。そして細かく刻むドラムに乗せて高速ピアノが軽やかに暴れ回ります。スリリングな1曲です。「Take A Pebble」は12分半に渡る大曲。レイクの憂いのあるボーカルが哀愁を誘います。歌メロも良いですが、それ以上にエマーソンの流麗なピアノソロが美しく魅力的な楽曲ですね。また中盤、レイクの弾くアコギパートは牧歌的で癒されます。続く「Knife-Edge」はヤナーチェクの『シンフォニエッタ』第1楽章と、バッハの『フランス組曲第1番』を組み合わせてアレンジしたのだとか。ヘヴィなオルガンから展開が目まぐるしく、怪しげな印象を抱きます。
 レコード時代のB面、アルバム後半は「The Three Fates」で幕開け。3パートから成る組曲で8分近くあります。序盤は荘厳なパイプオルガンに圧倒されますが、中盤はエマーソンの流麗なピアノの独壇場で、恍惚感に浸ることができます。終盤はパーマーのドラムが加わってジャズっぽい雰囲気に。「Tank」は7分近いインストゥルメンタル。チープなサウンドがファミコンやスーファミ時代のゲーム音楽を思わせ、その世代には刺さるのではないでしょうか。中盤ではパーマーのドラムソロが炸裂します。ラスト曲「Lucky Man」はレイクの歌をフィーチャーしたアコースティックな1曲です。終盤はシンセが響き渡りますが、前半はあまりELPらしさは出ていないかも。でも純粋にメロディがよくて、本作ではこれが一番良いと思います。

 後の作品と比べると華やかさに欠けますが、3人それぞれの見せ場も用意された、名刺代わりのデビュー作です。

Emerson, Lake & Palmer
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Tarkus (タルカス)

1971年 2ndアルバム

 ELPの代表作の一つ『タルカス』。ジャケットに描かれた、アルマジロと戦車を悪魔合体したような空想の怪物がタルカスで、ジャケットを広げてみるとストーリーが描かれています。火山から生まれ、マンティコアやプテラノドンのような怪物と対峙し、最後は海に帰っていく…表面に描かれた骨はマンティコアでしょうか?なお「Tarkus」とはキース・エマーソンがふいに思いついた単語だとか。

 レコード時代はA面丸々占めていた20分強の大作「Tarkus」。全7部から成る組曲で、本作のタイトルにもなっている名曲です。イントロからオルガンやシンセなど彩り豊かなエマーソンの鍵盤が圧倒します。カール・パーマーの手数の多いドラムはジャズのようですね。3分手前くらいから第2部。テンポを落とし、グレッグ・レイクのイケボで歌メロをじっくり聴かせます。6分半辺りから第3部に入り、テンポアップしてバタバタ。8分辺りから唐突な場面転換で第4部に突入。歌は少し変なメロディです。歌が終わるとオルガンとドラム、そしてギターまでも加わり暴走。再び歌で締めて、第5部は3連符を駆使したスリリングなインストゥルメンタル。そして13分辺りから始まる第6部はスローテンポで、荘厳な雰囲気を醸し出します。後半の、レイクによるブルージーなギターが良いアクセントです。最後の第7部はチープな音色でファンファーレのようなメロディを奏で、このまま大団円…かと思いきや、最後の最後に第1部のテーマを復唱し、スリリングに終焉。最後まで場面転換が目まぐるしく、20分超という長さを感じさせない名曲です。
 レコード時代のB面は小品集。2分足らずの「Jeremy Bender」は、ホンキートンクピアノに乗せて牧歌的な雰囲気です。歌はややおふざけ感があるかも。「Bitches Crystal」はパーマーの手数の多いドラムが煽り立てますが、3連符を駆使したピアノは優雅な雰囲気に浸らせてくれます。続く「The Only Way (Hymn)」はパイプオルガンが荘厳な雰囲気。後半はクラシック風の流麗なピアノで魅せてくれます。地味なインスト曲「Infinite Space (Conclusion)」を挟んで、ヘヴィロック曲「A Time And A Place」。ハモンドオルガンが激しく唸りを上げ、またレイクもシャウトの嵐。そして最後の「Are You Ready, Eddy?」は、頭の悪そうな(褒め言葉)ロックンロール。楽曲はスタンダードなロックンロールですが、不協和音だったり悪ノリ感溢れる歌唱だったり、おふざけ感が出ています。表題曲で複雑な組曲を魅せながらもこういうお遊びは良いですね。

 やはり表題曲が圧巻。ゲーム音楽のようにも聞こえますが、ELPが昔の著名なゲーム音楽家らに大きな影響を与えているので、似ているように聞こえるのも必然かもしれません。
 最近はあまり聴いていないものの、一時期お酒のつまみに頻繁に聴いていた日々を思い出します。

Tarkus
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Trilogy (トリロジー)

1972年 3rdアルバム

 3作目となる本作は初来日とほぼ同時期の発売で、当時は来日記念盤的な扱いだったようです。キース・エマーソン(Key)とグレッグ・レイク(Vo/B)、カール・パーマー(Dr)の3人を模したジャケットアートはヒプノシスによるもので、サルバドール・ダリに依頼しようとしたところ金額が折り合わずにヒプノシスを起用したのだとか。

 オープニング曲「The Endless Enigma (Part One)」は即興的なピアノ演奏で始まり、実験的な雰囲気が漂います。レイクの力強い歌が響きますが、オープニングにしては少し弱い気がします。間にエマーソンによるピアノ小曲「Fugue」を挟んで「The Endless Enigma (Part Two)」。盛り上げて終焉といった短い楽曲ですが、3曲セットで1つの大曲なのでしょう。続いて「From The Beginning」はアコギによる穏やかな演奏にレイクの歌が乗ります。ミックス具合から、歌よりもアコギがメインのようです。後半にメロウなエレキギターも加わりますが、まったりしています。「The Sheriff」はパーマーのドラムソロから始まる楽曲。キャッチーなメロディを活かして歌メロに浸ることができる1曲です。ラストはホンキートンクピアノが好き勝手に暴れて終わり。そして本作はハイライトとなる「Hoedown」は、アーロン・コープランドのバレエ曲『ロデオ』のアレンジ。スペイシーなシンセから、疾走感に溢れるノリノリなサウンドが展開されます。エマーソン無双といった感じで、ヘヴィな鍵盤がとてもスリリングです。
 アルバム後半は9分に渡る表題曲「Trilogy」で開幕。序盤は綺麗なピアノとレイクの渋い歌メロをフィーチャーした大人しい楽曲といった印象を受けますが、中盤に向けてピアノがテンポを上げ、そして突如シンセに変わって豹変。華やかなムーグシンセが暴れ回ります。リズムチェンジを駆使して先の展開が読めないスリリングな1曲です。そして荒いオルガンとレイクのシャウトによるヘヴィな「Living Sin」を挟んで、8分の大曲「Abaddon’s Bolero」。ボレロとつくように淡々と反復しながら徐々に盛り上がっていく楽曲です…が、冗長な印象は否めません。

 『タルカス』と『恐怖の頭脳改革』という名盤に挟まれ、地味な立ち位置の本作。全体的に派手さに欠けますが、スリリングな「Hoedown」と表題曲は突出していて聴きごたえがあります。

Trilogy
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Brain Salad Surgery (恐怖の頭脳改革)

1973年 4thアルバム

 ELPのスタジオ盤最高傑作『恐怖の頭脳改革』。でも売れ行きはそこまで良くなかったそうです。
 SF画家H・R・ギーガーによるジャケットアートは、頭蓋骨風の扉が観音開きになっていて、開くと中からメドゥーサが現れるという仕掛けになっています。もし買うなら、仕掛けを再現した紙ジャケの方が楽しめるかと思います。

 オープニング曲となる「Jerusalem」は英国の賛美歌をアレンジした楽曲。グレッグ・レイクが厳かな賛美歌を歌い、一方キース・エマーソンのキーボードは力強く、カール・パーマーのドラムは激しい。終盤の壮大さは鳥肌ものです。続く「Toccata」はヒナステラのピアノ協奏曲第1番をアレンジしたインストゥルメンタルで、許可を取りに来たエマーソンに対してヒナステラはその出来映えを賞賛したそうです。ヘヴィに唸るオルガンやスペイシーな音色のムーグシンセが暴れ回り、手数の多いパーカッションもバタバタと激しく、とてもスリリングな楽曲です。ただ当時最先端のシンセの音色は、現代だと少し古臭く感じるかもしれませんね。「Still…You Turn Me On」は激しい前曲から一転して、アコギが美しいバラード。そして「Benny The Bouncer」はおバカなロックンロール(褒め言葉)。ファミコンのようにチープなシンセをバックに、がなり声で歌います。お遊び曲で息抜きした後のラストは、30分に渡る大作「Karn Evil 9」。全3楽章から成る組曲ですが、レコード時代は長すぎてレコード片面で収まらず、第1楽章の途中でフェードアウト/フェードインがあるのがその名残です。面白いのがフェードイン直後に「Welcome back my friends to the show that never ends (終わらないショーに戻ってきてくれてありがとう、我が友よ)」と、レコードB面を聴いてくれたことを歓迎してくれるんですよね。CD世代なので後からこの仕掛けを知るという…。さて第1楽章はサーカスショーのように賑やかでキャッチーなサウンドに魅了されます。華やかなエマーソンの鍵盤に目がいきますが、レイクの弾くベースやエレキギターも中々良い仕事をしているのです。終盤ではドラムソロも披露。続いて第2楽章はジャズのような流麗なピアノで始まります。即興的な演奏が繰り広げる動と静の移り変わりが激しく、次の展開が読めないスリルがあります。第3楽章は祝福してくれるかのような歌で始まります。歌が終わっても華やかで賑やかな演奏で楽しませてくれます。

 ELP最高傑作のロックンロール・サーカスショー「Karn Evil 9」が圧巻。30分という長さですが、優れた構成力で変化に富んでいて飽きさせません。そのほかにも優れた楽曲が多く、『展覧会の絵』とともにELP入門盤としてオススメできます。

Brain Salad Surgery
Emerson, Lake & Palmer
 
 

ライブ盤

Pictures At An Exhibition (展覧会の絵)

1971年

 ムソルグスキーの『展覧会の絵』をアレンジしたライブ作品で、ELP入門に最適な1枚です。元々発売予定はなかったそうですが、無視できないレベルに海賊盤が横行したため、仕方なく海賊盤を回収して公式として発表したという経緯があります。しかしながら売れ行きは凄まじかったようで、その人気は英米のみならず日本でもオリコン2位を記録するなど、ELP人気に拍車をかけた名ライブ盤です。

 歓声とともに始まる「Promenade」。これはキース・エマーソンのアレンジで、エマーソンの奏でるシンセやパイプオルガンが、聴き馴染みのあるメロディを奏でます。そしてカール・パーマーの高速ドラムから「The Gnome」に突入。グレッグ・レイクのヘヴィなベースも加わって、エマーソンの鍵盤と合わせて重厚な演奏を繰り広げます。スペイシーなムーグシンセは途中ヒスったりしながらスリルを提供。2回目の「Promenade」はレイクによるアレンジで、囁くような歌が乗ります。そして「The Sage」はレイクのオリジナル曲。アコースティックギターが美しく、しっとりとした歌と合わせて染み渡ります。続く「The Old Castle」では少し不安定なドラムとメタリックなベースの刻むノリの良いリズムに乗せて、スペイシーなキーボードが暴れ回ります。そのまま「Blue Variation」に流れ込むと、今度はハモンドオルガンがリードします。楽曲はブルージーなロックンロールっぽい。3回目の「Promenade」はエマーソンのアレンジ。躍動感のあるドラムが、エマーソンの分厚い鍵盤を盛り上げます。そして「The Hut Of Baba Yaga」はとてもスリリングな1曲です。テンポも速く、そして緊迫感も凄まじい。間にELPオリジナルパート「The Curse Of Baba Yaga」が挟まります。序盤は即興的な演奏を繰り広げ、後半は緊迫感を増して、レイクの叫びも加わって演奏バトルの様相。とてもスリリングで、緊張感はピークに達します。そのテンションを保ったまま再び「The Hut Of Baba Yaga」の主題を演奏して終了。最後に「The Great Gates Of Kiev」で大団円といった感じの歌メロ。終盤でシンセが壊れたかのような不協和音を奏でますが、レイクの美しい歌で締め括ってくれます。
 そして最後におまけのように付属する、チャイコフスキーの『くるみ割り人形』をアレンジした「Nutrocker」。慣れ親しんだメロディをノリの良いロックンロールにアレンジしていて、これが一番キャッチーで分かりやすいですね。

 クラシック音楽を、当時最先端のシンセサイザーで大胆にロックアレンジするという、ELPのバンドスタイルを分かりやすく伝える名ライブ盤です。スタジオ盤に負けない出来の良さで、これを入門盤としても良いかもしれません。

Pictures At An Exhibition
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Welcome Back My Friends To The Show That Never Ends ~ Ladies And Gentleman (レディース・アンド・ジェントルメン)

1974年

 ELP全盛期の集大成となるライブ盤です。米国カリフォルニア州にある、アナハイム・コンベンション・センターでの公演を収録しています。
 発売当時はレコード3枚組で、その関係で「Tarkus」が途中で切れるためフェードアウト・フェードイン処理されていたそうです。CDでは繋がっていますね。1時間50分の大ボリュームなので、通しで聴くと流石に少しだれますが、途中休憩を挟んで聴くと楽しめると思います。

 ライブ1曲目は「Hoedown」。オリジナルよりもずっと速い!キース・エマーソンの速弾きキーボードを、カール・パーマーの忙しないドラムと、グレッグ・レイクのヘヴィなベースが支えます。スペイシーな音色が飛び交います。続いて「Jerusalem」ではレイクの厳かな歌が響き渡ります。荘厳なオルガンを弾きながらシンセで掻き乱すエマーソンは何なんだ…笑 そして「Toccata」が続きますが、『恐怖の頭脳改革』の曲順で嬉しいですね。荒っぽい鍵盤は緊迫感を煽り、迫力のパーカッションは音で説き伏せるかのよう。続いて27分半に渡る「Tarkus」。パーマーの走り気味で手数の多いドラムがスピード感を生みます。エマーソンも色鮮やかな音色をきちんと再現していてお見事。レイクの見せ場と言えば、イケボな歌と、歌パートで他2人が静かになった時に強く主張できるベースでしょうか。中盤くらいから2人に張り合って、ゴリゴリとベースを唸らせています。そして目まぐるしく場面転換しながら3人は好き勝手に暴走。スタジオ盤以上にハチャメチャやっててスリリングです。後半レイクはエレキギターを聴かせた後、古巣キング・クリムゾンの「Epitaph」をアカペラで歌ってます。その後は組曲の最終パート…のはずですが、インプロヴィゼーション大会が始まります。正直、パーマーの単調なドラムは長尺インプロではやや冗長ですが…。とはいえ、ライブならではのお遊びも入れて楽しませてくれます。この壮大な大曲が終わると「Take A Pebble」。レイクの歌にもスポットライトが当たっていますが、やはり前半の目玉はエマーソンの流麗なピアノでしょう。後半はレイクによる「Still… You Turn Me On」と「Lucky Man」のアコギ弾き語りを内包しています。

 ここからはCD時代のディスク2枚目。12分に渡る「Piano Improvisations」は、文字どおりエマーソンによるピアノ即興演奏。クラシックだけでなくジャズピアノの素養もあるエマーソンの即興は、ジャズバーで聴いているかのような親しみやすさやコンサートのような格式高さなど、ピアノ1つで様々な顔を見せてくれます。終盤はベースとドラムが加わって締めくくります。短い「Take A Pebble (Conclusion)」を挟んで、「Jeremy Bender / The Sheriff」へ。ホンキートンクピアノに乗せて牧歌的な雰囲気を見せた後、後半はテンポを上げてノリノリになります。そしてラスト曲にして本作のハイライト「Karn Evil 9」。演奏は35分に及びます。緩急織り交ぜながらコロコロと場面転換していきますが、疾走パートではパーマーが前のめりに叩くため、つられて他の2人も加速している感はあります。ギターレスのバンド故に、時折ベースから持ち替えて奏でられるレイクのギターが染みること。パーマーのドラムソロも間に演奏され、3人満遍なく見せ場が用意されています。歓声を挟んで続く第2楽章はジャジーですね。長尺演奏の中で、少し一息つける時間だったりします。そして第3楽章に入り、祝福するかのような歌が始まります。このまま締めに入るのかと思えば、激しくて緊迫感のある演奏を展開。そして最後にレイクの歌で大団円を迎えます。

 ELPのベストとも言える選曲。ライブならではのノリも含めて楽しませてくれます。

Welcome Back My Friends To The Show That Never Ends ~ Ladies And Gentleman
Emerson, Lake & Palmer
 
 

関連アーティスト

 グレッグ・レイクが所属していたプログレバンド。

 ELP解散後、カール・パーマーらが結成したプログレバンド。
 
 
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