🇯🇵 羊文学 (ひつじぶんがく)

レビュー作品数: 8
  

スタジオ盤①

インディーズ時代

トンネルを抜けたら

2017年 1st EP

 東京の下北沢を中心に活動するオルタナティヴロックバンド、羊文学。塩塚モエカ(Vo/Gt)、河西ゆりか(B)、フクダヒロア(Dr)によるスリーピースバンドです。2011年9月、塩塚の中学時代に5人組のコピーバンドを結成したのがキャリアのスタート。そこから受験に伴う活動休止やメンバーチェンジを経て、2017年1月に現在のメンバー体制になりました。本作でデビューした時のメンバーは20歳前後で、若く瑞々しい感性に溢れています。
 ポストきのこ帝国とも呼ばれる、オルタナ・シューゲイザーに強く影響を受けた音楽性が特徴です。

 オープニング曲「雨」は、イントロから幻想的なコーラスとザラついた荒々しい演奏が対照的な、シューゲイザー的な楽曲です。ノイジーかつ疾走感のあるスリリングな演奏と、塩塚のか細く儚げな歌声が魅力的ですね。「春」は躍動感のある演奏が爽やかな印象です。序盤はメリハリのあるギターが際立ちますが、河西のベースラインが中々良い。中盤には強引にリズムチェンジして3拍子へと変わり、「嫌い。」の一言から荒々しく変貌。場面転換の多い、起伏に富んだ1曲です。続く「うねり」はゆったりとしたペースで、アンニュイでイノセントな歌唱が存在感を放ちます。緩急ある演奏は時折、激しくノイジーに楽曲を盛り上げます。6分に及ぶスケール感のある楽曲です。「踊らない」はファルセットと地声を使い分けた焦燥感のある歌唱が印象的です。リズミカルで勢いのある演奏も相まって、一気に聴かせる歌詞も耳に入ってきます。「Blue.2」は暗く落ち着いた演奏で、中盤のノイジーな間奏が心地良く響きます。全体的にダウナーな空気ですが、終盤は感情的な歌唱が楽曲を大きく盛り上げます。ラストは「Step」。フクダのリズミカルなドラムを中心にしたシンプルな演奏に、憂いのある歌を乗せて切ない雰囲気。でも開放感のあるサビの持つ優しさに救われます。中盤の演奏はノイジーですが、終盤はまたシンプルな演奏に戻って寂寥感を残します。

 荒い演奏と透明感のあるアンニュイな歌声が、切なくて魅力的。6曲入り31分の、すっと聴ける手頃なEPです。

トンネルを抜けたら
羊文学
 
オレンジチョコレートハウスまでの道のり

2018年 2nd EP

 前作から僅か4ヶ月でリリースされた本作。でもその間にも著しい成長が見られ、より洗練された印象です。タイトルが文学的ですが、羊文学の全作詞・全作曲を手掛ける塩塚モエカは慶應大の文学部出身だそうです。

 アルバムは「ハイウェイ」で開幕。『東京オアシス』という映画にインスパイアされて作成されたのだとか。小気味良く刻むバンド演奏がリズミカルですね。塩塚の憂いのある歌声は、サビメロではポップなメロディを洋楽っぽい発音で歌い上げます。続く「ブレーメン」は疾走感に溢れる良曲です。フクダヒロアの刻む手数の多いドラムは程良くスリルを生み出し、歌メロは伸びやかな歌唱で爽快。中盤にはテンポアップして、躍動感溢れるスリリングな演奏をバックに「音楽をならして〜」の連呼が印象的です。終盤の轟音もカッコ良い。「涙の行方」は気だるげな演奏が心地良くて、そこにアンニュイな歌唱、憂いのあるメロディがよく似合いますね。終盤はドラムとハンドクラップが楽曲にメリハリをつけてくれます。これも良曲です。そしてアルバムを締め括る「マフラー」。本作のハイライト的な楽曲で、ドラマチックで涙を誘う名曲です。河西ゆりかのベースがダウナーな重低音を刻みますが、対照的に塩塚の歌唱はウィスパーボイスを活用して、解き放たれたかのような浮遊感があります。更に歌声にエフェクトをかけることで空間全体に広がり、メロディアスで美しい歌が世界をぐんと広げてくれます。終盤の「あの日々をアルバムに閉じ込めて」の部分は特に鳥肌が立ちました。

 楽曲数が少なく17分半しかありませんが、4曲いずれもクオリティが高くて良曲揃いです。

オレンジチョコレートハウスまでの道のり
羊文学
 
若者たちへ

2018年 1stアルバム

 羊文学初のフルアルバムです。メンバーの大学生活も終わりに近づき自分の青春時代・若者時代を記録として残したいと、その感性を缶詰のように詰めたとのこと。またテーマとしては「夏」を設定し、ストック曲の中からテーマに沿う楽曲をセレクトしていったようです。
 印象的なジャケット写真に惹かれて聴いてみたら、これが大当たりでした。聴けば聴くほどスルメのように良さが伝わってきます。

 1曲目なのに「エンディング」。フクダヒロアのドラムで始まるスローテンポの楽曲は、塩塚モエカのアンニュイな歌声もあってゆったりとして切ない感じがします。伸びやかなサビメロを轟音で盛り上げ、感情を高ぶらせます。続く「天国」は個人的に大好きな1曲。躍動感のあるノリノリの演奏をバックに、天国にいる誰かと電話を交わすというストーリーですが、「そっちはどう? 調子はどう?」と、親しい相手にフランクに語りかけるよう(このフレーズをひたすら反復するので中毒性も高いんです)。ファルセットを活用した歌はご機嫌だし、全体的にポップでキャッチーな仕上がりです。「絵日記」はタイトなドラムが緊張を高め、金属質なギターや強靭なベースがひりついた演奏を繰り広げます。焦燥感がありますが、歌声は儚げで、サビメロは清涼感もあります。早口パートを経て、かと思えばスローダウンして重厚感のある演奏パートへと変わったり、相反する要素を織り交ぜてスリリングで魅力溢れる楽曲に仕立てます。「夏のよう」はブルージーで渋い演奏に、消え入りそうな歌声というギャップ。歌詞とメロディがノスタルジックで、感傷的な気分を誘います。若干不安定で未完成な感の残るコーラスが、若さや青さを感じられて良い。そして「ドラマ」は「青春時代が終われば 私たち、生きてる意味がないわ」というグサリと刺さる歌で始まります。演奏も緊張感に溢れており、歌も暗鬱で悲しい気分になります。続く「RED」はノイジーな轟音で幕を開けます。オルタナ全開の、諦念のある演奏やメロディを繰り広げ、サビでの「もう駄目だ 逃げたい」の悲痛な叫びが強く印象に残ります。「Step」は『トンネルを抜けたら』の再録。イントロでの陰りのあるギターは切なくなります。リズミカルな演奏にアンニュイな歌を乗せますが、サビメロは諦めて開き直ったような、切ない爽やかさがあります。ブリッジ部分は轟音ギターでかき乱します。「コーリング」はエッジの鋭いギター、骨太なベース、ダイナミックなドラムが躍動感のある演奏を繰り広げます。歌が始まると一旦音数は減らしますが、サビに向かうにつれてどんどんスリリングになり盛り上げていきます。河西ゆりかのゴツいベースがカッコ良い。続いて「涙の行方」は『オレンジチョコレートハウスまでの道のり』より。気だるい演奏とアンニュイな歌が、心地良い空間を作り出します。そして8分に渡る「若者たち」。けたたましい轟音ギターがノイズで包み込みますが、その後一気にクリーンで静かな演奏へ変貌し、凄まじい静と動の対比を見せます。歌は素っ気ないというか素朴な印象ですが、後半に進むにつれてどんどん感情が篭もっていきます。「天気予報」は寂寥感のあるイントロからエンディングといった趣が表れています。歌が進むと躍動感のある演奏が盛り上げて感情を高ぶらせてくれますが、全体に漂う切ない感じがたまりません。爽やかですが、終盤は彼ららしく轟音を掻き鳴らしたりして楽曲に緩急をつけます。
 最後に14分以上の空白を挟んで、隠しトラック「天使たちの会話」。「天国」の間奏部分の没カットなのか、ギャルっぽいノリの電話のトークが収録されています。

 アンニュイで透明感のある歌と、轟音と気だるさの混じったオルタナ的な演奏のギャップが心地良い、素晴らしい名盤です。そして、(クオリティが低いわけではありませんが)不安定さや青さの残る完成されていない感じが、逆に何度でも聴きたくなる魅力にも繋がっているように思います。

若者たちへ
羊文学
 
きらめき

2019年 3rd EP

 「女の子」をテーマにしたEP『きらめき』。全作詞作曲を手掛ける塩塚モエカ曰く、いつまでもヘイトだけで楽曲を書けるわけでもないとあえてポップで女の子らしさを押し出した路線に挑戦したそうです。

 オープニングを飾るのは「あたらしいわたし」。軽快で躍動感のあるギターポップに伸びやかなボーカルを乗せて、爽やかでポップな仕上がりです。ファルセットと地声を行き来する歌唱が独特です。続く「ロマンス」はフクダヒロアのリズミカルなドラムが気持ち良く、キレのあるギターも爽快。そこに乗るのはポップなメロディで耳触りが良いですが、終盤では彼ららしいシューゲイザー的な轟音ギターを響かせたりします。「ソーダ水」はドラムソロから始まります。スローテンポのゆったりとした演奏の中で河西ゆりかのベースが心地良く響き、透明感のあるギターとコーラスも優しい。水の中をゆらゆら漂うような感覚です。続いて「ミルク」はシンプルなサウンドで始まりますが、徐々にリズミカルな演奏で盛り上げていき、終盤はドラマチックな印象に変わります。演奏はノリが良いものの、伸びやかなボーカルは憂いたっぷり。最後に「優しさについて」。陰りのあるイントロから、ゆったりとして無垢で透明感のある歌を聴かせます。起伏は少ないものの、塩塚の歌がフィーチャーされて心地良い。

 ポップさを押し出した冒頭2曲を過ぎると、ゆったりとして憂いのある楽曲が続きます。新しいことを取り入れつつもこれまでの路線からは大きく変わらず、故に安心感があります。

きらめき
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ざわめき

2020年 4th EP

 前作EP『きらめき』と対になる本作は、自分の内面と向き合うことに重きを置いた作品です。『ざわめき』のタイトルが示すように、心がざわつくような焦燥感があります。

 圧巻の「人間だった」で幕を開けます。リズミカルだけど陰りのある演奏に、一部パートにポエトリーリーディングも交えてメッセージ性の強い歌詞が強いインパクト。文明を拓いて自然を支配する力を得たのと引換に、人間らしさを失ってしまった人類へ警鐘を鳴らします。歌詞のインパクトが強いものの、美しく儚げな歌唱も鳥肌ものの名曲です。続く「サイレン」は自主制作盤からの再録。塩塚モエカのアンニュイな歌は、透明感のあるコーラスに彩られて美しいのですが、陰りのある演奏は楽曲が進むにつれて焦燥感を増し、ひりついていきます。スリリングな楽曲です。「夕凪」は映画『ゆうなぎ』のタイアップ曲。イントロにおけるノイジーな演奏と透明感のあるコーラスワークが対照的ですね。歌が始まるとノスタルジックなメロディがじんわりと沁みて、感傷的な気分を誘います。「祈り」はザラついたギターとは対照的に、伸びやかで透明感のある歌が美しい。全体的に憂いがありますが、そんな中で多幸感のあるコーラスワークも素敵です。またアウトロでのシューゲイザー的な轟音ギターが、煌めくような美しさを放っています。ラスト曲「恋なんて」は失恋の歌で、感情的で悲哀に満ちた歌い方が切ない。

 僅か5曲ですが名曲揃いで、聴きごたえのある作品です。そして本作を最後に、羊文学はインディーズからメジャーへと移籍します。

ざわめき
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