🇬🇧 Jethro Tull (ジェスロ・タル)

スタジオ盤②

トラッド三部作

Songs From The Wood (神秘の森~ピブロック組曲)

1977年 10thアルバム

 パンク全盛期に、時代に逆行するかのようにフォーク路線へシフトするジェスロ・タル。本作と『逞しい馬』、『ストームウォッチ~北海油田の謎』までトラッド三部作と呼ばれ、トラッド音楽をロック調に仕立てた魅力的な音楽を展開します。個人的に本作は『天井桟敷の吟遊詩人』に次ぐ傑作だと思っています。狩人に扮したイアン・アンダーソンのジャケット写真も、楽曲のイメージにマッチしていて魅力ですね。
 メンバーはイアン・アンダーソン(Vo/Flu)、マーティン・バレ(Gt)、ジョン・エヴァン(Key)、ジョン・グラスコック(B)、バリモア・バーロウ(Dr)の5人に加え、これまでの作品でオーケストラアレンジを務めてきたデヴィッド・パーマー(Key)が正式メンバーとして加わります。アンダーソンのセルフプロデュース作。

 アルバムは表題曲「Songs From The Wood」で幕開け。これが出色の出来で、単曲ではジェスロ・タル最高の1曲だと思っています。特に美しい歌メロが素晴らしい。コーラスワークを駆使したとても伸びやかな歌で始まり、そこから牧歌的なアコースティックサウンドが加わります。後半に向かうにつれて少し複雑なリズムを刻むヘヴィな演奏へと変わっていき、特に低音部を引き締めるグラスコックのベースが魅力的。「Jack-In-The-Green」はアコースティックな小曲。アンダーソンが全ての楽器を演奏していますが、ジェスロ・タルの特徴であるアコギとフルートの組合せが心地良いですね。続いてアップテンポ曲「Cup Of Wonder」。メロディがポップで高揚感を煽ります。トラッドに影響を受けたサウンドは、森の音楽隊とでもいうか、親しみのある優しい音色を奏でます。「Hunting Girl」はフルートにオルガン、ヘヴィなバンドサウンドと、色々な音色が次々と主導権を握る忙しい楽曲です。展開は複雑ですがノリは良く、またそれぞれの楽器が耳に残るフレーズを刻むため、聴きやすい楽曲へ仕上がっています。「Ring Out, Solstice Bells」はエヴァンとパーマーによる鍵盤に、バーロウのベルなど多幸感のある音色が魅力。後に『ザ・ジェスロ・タル・クリスマス・アルバム』にも再録されますが、クリスマスのような雰囲気があります。
 アルバム後半は「Velvet Green」で開幕。序盤は中世のような雰囲気で、時折エレキギターがアクセントを与えます。中盤、カウントを合図にリズムをガラリと変え、後半でまた元のメロディに。複雑な構成の1曲です。牧歌的な「The Whistler」は、ぱっと聴いた感じワルツを刻んでいるようですが、リズムを取ってみるとかなり複雑。続いて8分半に渡る大曲「Pibroch (Cap In Hand)」。邦題のタイトル『ピブロック組曲』ですね。バレのギターソロで始まり、ヘヴィな音色をバックにスローテンポの哀愁漂う歌を披露します。中盤は長い間奏の中で哀愁パートだったり牧歌的なパートだったりを内包していますが、終盤に荘厳な音色とともに歌が戻り、また鈍重な演奏を披露して締めます。最後はアコースティック曲「Fire At Midnight」。序盤は少し神秘的な雰囲気も漂いますが、エレキギターが加わると賑やかな印象に。そしてアンダーソンの優しい歌声には癒されます。

 表題曲をはじめ、森の中で音楽を聴いているかのような、開放的なアコースティックサウンドがとても魅力的です。傑作としてファンの人気も高いですね。個人的にもジェスロ・タルで2番目の傑作だと思います。

Songs From The Wood (Steven Wilson Remix)
Jethro Tull
 
Heavy Horses (逞しい馬)

1978年 11thアルバム

 前作に続くトラッド三部作の二作目です。馬小屋のような農家のガレージのような場所で演奏する表題曲「Heavy Horses」のPVが強烈に印象的で、相変わらず髭もじゃの老けて小汚いおっさんのような格好をしています…が、まだ30代前半で実は若いんですよね。メンバーは前作と同じラインナップで、イアン・アンダーソンのセルフプロデュース作。

 オープニング曲は「…And The Mouse Police Never Sleeps」。アンダーソンによるアコギと優しい歌声で開幕。音色はアコースティック主体の優しい音色なのに、リズムがあまりに複雑で緊迫感があります。特にバリモア・バーロウの煽り立てるようなドラムや、終盤の不気味なボーカルパートの反復がスリリングです。「Acres Wild」ではカーヴド・エアのダリル・ウェイがヴァイオリンで参加。優美で牧歌的、そして躍動感のあるリズムが心地良い楽曲です。「No Lullaby」は8分近い大曲。マーティン・バレのギターとジョン・グラスコックのベースがヘヴィな音色を響かせ、またバーロウの手数の多いドラムもスリリング。静かに聴かせる場面ではストリングスが癒してくれますが、加速してロック色を強めるとカッコ良い演奏に魅せられます。続く「Moths」はアコースティック曲。アンダーソンのフルートと、デヴィッド・パーマーのストリングスアレンジが楽曲を美しく彩ります。そして、気だるくルースな「Journeyman」でアルバム前半は終了。
 アルバム後半、「Rover」は音色が豊かですが、アコースティックな雰囲気は崩していません。温もりのある音色が奏でる、寂寥感のあるメロディが切ない気持ちにさせます。「One Brown Mouse」はアコギの音色が心地良い、牧歌的な雰囲気。ですが途中から細かく刻むドラムがスリルを生み出し、徐々に躍動感のある楽曲へと変わっていきます。そして本作のハイライトとも言える、9分に渡る表題曲「Heavy Horses」。哀愁たっぷりのヘヴィなメインテーマがとても耳に残ります。ジョン・エヴァンの優しいピアノに乗せてアンダーソンの渋い歌声、そしてパーマーの優雅なストリングスが引き立てます。中盤からは馬が駆け抜けるかのように疾走しますが、ダリル・ウェイのヴァイオリンと力強いバンドサウンドの対比が見事。終盤はテンポを少し落とし、哀愁のメインテーマを聴かせます。素晴らしい。最後に「Weathercock」。民謡のようなメロディですが、アンダーソン作のオリジナル曲です。渋くもアコースティックな音色が心地良く、そして終盤はエレキギターでメリハリをつけます。

 前作の延長線上にある作品ですが、2つの大曲の印象が強いためか、前作よりハードな印象のトラッド作品です。そして哀愁漂う表題曲、これがとても魅力的なのです。

Heavy Horses (Steven Wilson Remix)
Jethro Tull
 
Stormwatch (ストームウォッチ~北海油田の謎)

1979年 12thアルバム

 トラッド三部作の三作目。ただトラッド三部作には位置づけられるものの、トラッド色は薄らいでヘヴィなサウンドが前面に出ています。
 ジョン・グラスコック(B)は心臓病を患い、レコーディング途中で脱退。その後間もなく亡くなってしまい、残念ながらグラスコックの遺作となってしまいました。「Orion」と「Flying Dutchman」、「Elegy」の3曲をグラスコックが弾き、それ以外はイアン・アンダーソンがベースを弾いています。また、長らくアンダーソンのセルフプロデュースが続いていましたが、本作ではロビン・ブラックを共同プロデューサーとして起用しています。

 オープニング曲「North Sea Oil」は開幕アンダーソンのフルートが鳴り響きます。軽快なサウンドに、マーティン・バレの弾く哀愁たっぷりのギターも魅力的ですね。時折エコーを効かせてズンと響くバリモア・バーロウのドラムもスリリングです。続く「Orion」はメロディに強烈な哀愁が漂います。そしてツーバスが響く非常にヘヴィなサウンドも中々強烈です。3分に満たない「Home」はデヴィッド・パーマーのストリングスが優しい歌メロを引き立てます。そしてバレのギターも哀愁たっぷり。続いて「Dark Ages」は9分に渡る大曲。ヘヴィメタルばりに重たい雰囲気で幕開け。中盤のヘヴィなリフはブラック・サバスを想起させますが、重たいリフをノリの良いリズムで持ち上げます。後半のギターソロもスリリング。そして「Warm Sporran」はインストゥルメンタル。グルーヴ感の強いリズムに乗せて、フルートやマンドリンが民族音楽のような音色を奏でます。
 アルバム後半はヘヴィなサウンドの「Something’s On The Move」で幕開け。グルーヴ感のあるファンキーなリズムに、ヘヴィな音色が乗ります。アンダーソンによるフルートと独特の枯れた歌声が辛うじてジェスロ・タルらしさを残していますが、彼ららしくない新しい音楽へ挑戦した感じ。逆に「Old Ghosts」は彼ららしいトラッド曲ですが、アコギが少なくエレキが主導する点に変化が見られます。「Dun Ringill」はアコギが鳴り響くアコースティックな小曲。そして8分近い大曲「Flying Dutchman」。幽霊船をテーマにしたこの楽曲。メインテーマは優しく牧歌的ですが、時折入るストリングスに悲壮感がありますね。後半は演奏を堪能できますが、アンダーソンのフルートと合わせてグラスコックのベースが良い。終盤は哀愁たっぷりのメロディを聴かせます。ラスト曲「Elegy」はインストゥルメンタル。優しく柔らかな音色がどこか切ないです。

 この時のメンバー仲は酷かったようで、本作の後にアンダーソンとバレを残して全員脱退。そんな仲の悪さがあったのか、時代の波に逆らえなかったのか、トラッド主体のサウンドはヘヴィな楽曲へと変化しています。

Stormwatch
Jethro Tull
 
 

ライブ盤

Bursting Out: Jethro Tull Live (ジェスロ・タル・ライブ)

1978年

 『逞しい馬』に伴うツアーの模様を収めた、ジェスロ・タルのライブ盤です。スイスのベルン公演のほかヨーロッパ公演のいくつかを収めたようですが、公演等の詳細はクレジットされていません。2枚組で約1時間半のボリュームです。
 メンバーラインナップは、イアン・アンダーソン(Vo/Flu)、マーティン・バレ(Gt)、ジョン・グラスコック(B)、ジョン・エヴァン(Key)、デヴィッド・パーマー(Key)、バリモア・バーロウ(Dr)。
 
 
 モントルー・ジャズ・フェスティバルの創設者クロード・ノブスによるMCのあと、「No Lullaby」でライブ開幕。フルートとギターがスリリングな演奏を披露し、パワフルで躍動感溢れるリズム隊も強烈。その後は静かに聴かせる、静と動の激しい1曲です。続く「Sweet Dream」もヘヴィなリフが冴え、ツーバスも聴く者を圧倒します。アンダーソンによるメンバー紹介を挟んで、アコースティック曲「Skating Away (On The Thin Ice Of The New Day)」。優しい音色にキャッチーなメロディが爽快です。アコギ主体ですが、アコーディオンやマリンバなどの音色も心地良いですね。のどかで牧歌的なトラッド曲「Jack In The Green」で癒やされ、続く「One Brown Mouse」もアコースティックな優しい雰囲気。ですが細かく刻むバーロウのドラムを中心に、徐々にスリルを高めていきます。エヴァンとパーマーのキーボード2名体制による、色鮮やかな鍵盤の音色も魅力です。「A New Day Yesterday」はバレのギターとグラスコックのベースが、ヘヴィでブルージーなリフを奏でます。ブラック・サバスにも通じる雰囲気。そのまま続く「Flute Solo Improvisation / God Rest Ye Merry Gentlemen / Bourée」。最初はアンダーソンのフルートの独壇場で、激しい演奏に時折奇声を上げています。笑 その後優しいメロディにグロッケンが加わると、会場の手拍子でノリノリ。Bouréeの時には会場の反応も良く、臨場感があって楽しいです。続いてジェスロ・タル屈指の歌メロが魅力な「Songs From The Wood」。コーラスを駆使したメロディアスな歌が爽やかですが、原曲よりコンパクトに纏めているのが少し残念。そして大曲「Thick As A Brick」。原曲はアルバム1枚を占める超大作ですが、ライブでは4分の1程度に収めています(それでも約12分)。でもこちらは違和感も物足りなさも無く、うまく纏めている印象。優しいアコースティックパートから、ロック色の強いスリリングなパートへ。ヘヴィなサウンドに時折哀愁の歌メロが切ないです。中盤の演奏パートでは、主導権をかけたバトルを繰り広げるギターとフルート、それを煽る超パワフルなドラムなどもアツいですね。終盤はポップな鍵盤を中心に、明るく楽しげな雰囲気です。そして最後にアコースティックパートに戻って静かに締めます。会場の歓声が凄い。

 Disc2はアンダーソンによるMC(一部ピー音が入ってる。笑)を挟んで、「Hunting Girl」で幕開け。オルガンとギターの掛け合いも耳に残るフレーズが印象的だし、ツーバスドコドコなドラムや力強いベースも中々のインパクトです。「Too Old To Rock ‘N’ Roll: Too Young To Die!」は演歌ばりの強烈な哀愁が漂うイントロから、そんなの無かったかのように優しい歌が始まります。ですがサビではやはり強い哀愁が…。終盤はテンポアップしてコミカルな雰囲気も出してきますが、全体的にメロディアスで涙を誘う魅力的な楽曲です。「Conundrum」はインスト曲。スリリングな演奏を聴かせる楽曲で、後半ではバーロウのドラムをフィーチャーしています。続いて「Minstrel In The Gallery」。序盤のアコースティックパートを終えた後のバレのエレキギターが聴きどころでしょう。鋭利なギターが冴え渡り、ヘヴィなリズム隊や荒ぶるフルートも高揚感を煽ります。「Cross-Eyed Mary」は渋さのあるヘヴィなハードロック曲です。バーロウのドラムがとにかく凄まじい。「Quatrain」はバレのギターを中心とした短いインスト曲ですが、ノリが良くて楽しい雰囲気。そこから一気に引きずるように重たい「Aqualung」へ。鈍重なリフだけでなく、グラスコックとバーロウのヘヴィなリズム隊によって、原曲以上に重たくズシンと響きます。そして中盤の疾走パートはご機嫌ですね。元の素材も良いものの、これはライブで化けた1曲だと思います。アンコールを挟んで始まる「Locomotive Breath」、これもライブで化けた1曲でしょう。とにかく超パワフルなリズム隊が驀進する機関車のようで、とてもスリリングです。そして最後の「The Dambusters March」は『暁の出撃』という航空戦記映画のテーマ曲らしいです。ファンファーレのような明るいメロディで、途中リズムチェンジしてスリルを与えながら、楽しげなライブを締め括ります。
 
 
 一部楽曲は作り込まれたスタジオ版の方が良かったりもしますが、全体的にはスリリングな演奏で魅力的に仕上がっており、なにより当時のベスト選曲です。楽曲紹介等よく喋るアンダーソンが楽しませてくれるし、迫力の演奏も魅力のライブ盤でオススメです。

Bursting Out: Jethro Tull Live
Jethro Tull
 
 
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