🇺🇸 Nirvana (ニルヴァーナ)

レビュー作品数: 6
  

スタジオ盤

Bleach (ブリーチ)

1989年 1stアルバム

 ニルヴァーナは米国ワシントン州のシアトルで1987年に結成しました。生粋のパンクスだったカート・コバーン(Vo/Gt)とクリス・ノヴォセリック(B)が意気投合して活動を開始。ドラマーは紆余曲折ありながらも、チャド・チャニング(Dr)を迎えて本作でデビューしました。カート曰く「パンクは音楽的に自由」で、苦悩からの解脱を意味する「ニルヴァーナ(涅槃)」はパンクの考え方に近いということでこのバンド名になったようです。
 インディーレーベルからのリリースで、制作費は僅か600ドルで作られました。ガレージロックのような荒削りな音楽性で、次作以降と比較すると完成度はそこまで高くありませんが、所々にカートの優れたメロディセンスが表れています。ジャック・エンディーノのプロデュース。

 これでもかという低く重たいサウンドを奏でる「Blew」で幕を開けます。地を這うようなヘヴィなベースにノイジーなギター。カートの歌声もがさついてダーティな印象です。「Floyd The Barber」は力強いドラムとベースのコンビが凶悪な印象ですが、このドラムはチャド…ではなくメルヴィンズのデイル・クローヴァーが叩いています。契約の関係でメンバーにはなれなかったようです。続く「About A Girl」は本作のベストトラック。重く暗い本作のなかで、明るさというかポップさを感じられる数少ない楽曲です。カートのメロディセンスが光る1曲で、キャッチーながら切なさを纏った歌はとても魅力的で口ずさみたくなります。ノイジーにうねる重低音が強烈な「School」。ヘヴィで武骨なサウンドに絶叫ボーカルが乗る、スリリングな楽曲です。「Love Buzz」はオランダのバンド、ショッキング・ブルーのカバー。クリスの怪しげなベースリフが楽曲をリードし、ノイジーなギターが掻き立てます。ギターがヒスっている「Paper Cuts」はリズム隊も強烈。ここでもパワフルなドラムを叩くのはデイル・クローヴァーなんですよね…。カートの歌は呪術的な雰囲気を見せた直後、呻き声のような絶叫を繰り広げます。アングラ臭がプンプンしていて、売れる気なんて更々ない印象ですが、強烈なインパクトを残します。ハードコア的な楽曲「Negative Creep」は、とてもヘヴィな重低音で蹂躙しながら疾走します。カートの絶叫しっぱなしの歌も強烈な、超攻撃的な1曲です。「Scoff」はゴリゴリとしたリフに合わせた強烈なドラムが蹂躙します。本楽曲ではチャドが叩いていますが、これは良い感じ。メロディよりも凶悪なリズムビートに魅力を見いだせます。続く「Swap Meet」は極悪なリフがとにかく強烈。ゴリゴリと抉るようにヘヴィなリフがカッコ良いです。そのノリを継承して加速させたような印象の「Mr. Moustache」。低音ギターと強烈なベースがゴリゴリとうねり、ひたすら反復する…とてもカッコ良くて中毒性があります。そして「Sifting」では沸々と湧く怒りのエネルギーを抑えるかのような不気味さがあり、サビではヒステリックに叫び散らします。ここまでがオリジナル収録曲のようです。
 ここからボーナストラック。「Big Cheese」はヘヴィでダーティな曲調、そこに唸るような歌が乗りますが、部分的にはメロディアスな印象も受けます。他の楽曲が叫び散らすタイプが多いのもあって際立ちますね。ラストは「Downer」。地を這うようなベースと煽るような疾走ドラムによって、ダウナーというよりも焦燥感を煽るような印象を受ける楽曲です。

 全体的にとてもヘヴィで轟音で掻き鳴らされるサウンド、そしてときに呻き声のように叫ぶボーカル。欲求不満を抱えた若者たちの代弁者として現れたニルヴァーナは、本作ではそこまで成功はしませんでしたが、次作で思いもしなかったであろう大成功を掴むことになります。
 なお本作の後チャド・チャニングは技術力不足で解雇されますが、オーディションの末に後任となったデイヴ・グロール(Dr)が非常にパワフルなドラムを刻むので、2ndアルバム以降と本作を聴き比べると、ドラムが若干パワー不足な感じが否めません。

Bleach (20th Anniversary Deluxe Edition)
Nirvana
 
Nevermind (ネヴァーマインド)

1991年 2ndアルバム

 メジャーレーベルに移籍し、メジャー第1弾となる本作はシアトルのローカルバンドだったニルヴァーナを世界的に有名にした大名盤です。紙幣に釣られる全裸の赤ん坊という、欲望を全面的に表現したようなジャケットアートは、レコードショップ等で目にした人も多いのではないでしょうか。
 デイヴ・グロール(Dr)の加入によってパワフルなドラムを得たニルヴァーナ。売れたいと願っていた彼らの思いもあって、前作よりも聴きやすいサウンドプロダクションで制作されました。ブッチ・ヴィグのプロデュース。レーベル側は20万枚程度売れることを期待したそうですが、結果的に全世界で3000万枚以上を売り上げるという予想を遥かに上回る大ヒットとなり歴史的な作品になりました。バンドはそのプレッシャーに大いに悩まされることになります。当初バンド側もこのサウンドプロダクションを気に入っていたそうですが、反主流側の旗手であり続けたかったのに、意図と反して主流側に回ることになってしまったため、後にこのサウンドプロダクションは失敗だったと語っています。特にカート・コバーンは、人気のきっかけとなった「Smells Like Teen Spirit」を徹底的に嫌います。
 「静かなヴァース(≒Aメロ)とヘヴィなコーラス(≒サビ)の繰り返し」という静と動の強烈な対比はピクシーズの影響を強く受けており、カート本人も公言しています。楽曲単位だけでなくアルバムでも静と動の対比が明確で、飽きさせない構成になっています。

 オープニングを飾る「Smells Like Teen Spirit」は彼らの代表曲で、この楽曲の爆発的なヒットによってニルヴァーナは意図せずメインストリーム側へ回ることになります。シンプルなのに強く耳に残るギターリフ、そして鬱屈な感情を一気に爆発させるかのような極端な静と動の対比で、とにかく破壊力抜群。ダーティでノイジーなのにキャッチーさも兼ね備えていて、スリリングでとても魅力的です。なお「teen spirit」とはシャンプーの名前で、当時の彼女に「Kurt smells teen spirit (カートはティーンスピリットの匂いがするわ)」と言われたそのフレーズを気に入ったそうです。ちなみにピクシーズの曲をカバーしているときに生まれた曲だとか。続く「In Bloom」はクリス・ノヴォセリックのメタリックなベースが印象的。サビではバタバタとマシンガンのようなドラムやノイジーなギターが魅せますね。気だるげ…というより無力感と怒りを孕んだ歌唱も耳に残ります。「Come As You Are」は鬱々とした楽曲です。印象的なリフはキリング・ジョークの「Eighties」そっくりで、バンド側もシングルカットを悩んだそうですが、結果としてこれもヒット。当然キリング・ジョークからは文句をつけられますが、借りを返すかのようにデイヴがキリング・ジョークの作品に参加しています(ニルヴァーナ解散後しばらくしてからですが)。これら2曲のゆったりとしたテンポ(重たいですけどね)でトーンダウンした後、疾走曲「Breed」で爆発させます。クリスの爆音ベースがうねりまくり、デイヴの力強く炸裂するドラム、カートのザラザラした荒々しいギターと攻撃的な歌唱。どれもがヘヴィですが、勢いに溢れていて爽快です。「Lithium」でまたトーンダウン。ベースを軸に、鬱々としてアンニュイな歌唱でメロディアスな歌を聴かせますが、サビではダーティでヘヴィな印象へと様変わり。この対比が強烈ですが、メロディだけ切り取っても優れたセンスを発揮していると思います。「Polly」はアコギでしっとり聴かせる楽曲。ダウナーで鬱々とした歌メロはとても魅力的です。暗くて救いのない感じですが、このメロディも良いんですよね。続いて、本作中最も激しい疾走曲「Territorial Pissings」で爆走します。ニルヴァーナの持つパンク精神が現れていて、マシンガンのようなドラムと、ノイジーなギター、そんな激しいサウンドすらも掻き消しそうな絶叫ボーカル。強烈なインパクトを残します。「Drain You」は個人的に後半のハイライト。耳に残るキャッチーなメロディがとても好きですね。サウンドは轟音ですが、メロディに関して言えば本作中最もポップだと思います。中盤だけは不穏でダークな感じで、ポップさの中に狂気も孕んでいます。続いてクリスのゴリゴリベースがカッコ良い「Lounge Act」。歌は暗いのですが、跳ねたリズムが軽快で気持ち良いです。終盤カートの歌はキーを上げて絶叫モードに切り替わり、スリルを大きく増します。「Stay Away」では、デイヴのドタバタドラムに絡むクリスのゴリゴリベースで高揚感を煽り立てます。勢いに満ちた演奏をバックに静と動の対比の激しい歌唱を見せ、サビではまたも絶叫しっぱなしです。そして「On A Plain」で終わりが近い雰囲気を醸し出します。ノイジーだけどどこか開放的なサウンド、歌はキャッチーだけど暗い影を落とします。最後は「Something In The Way」で、ダウナーな雰囲気で鬱々と呟くように歌を聴かせます。それまでの激しい演奏は嘘のように静まり返り、歌はとにかく暗く沈んでいます。
 その後には隠しトラックがあって、長い空白を挟んで突如始まる「Endless Nameless」。『ブリーチ』のように荒削りなサウンド、そしてカートがメロディなんて捨ててしまったかのように叫び散らす楽曲で、強烈なインパクトを残すノイジーな楽曲が展開されて終わります。

 個人的にはイライラが溜まった時の怒りを代弁してくれる存在として本作を聴くことも多いです。ノイジーな割に意外とキャッチーで聴きやすい仕上がりです。大名盤。

Nevermind
(20th Anniversary Deluxe Edition)
Nirvana
Nevermind
(20th Anniversary)
Nirvana
 
In Utero (イン・ユーテロ)

1993年 3rdアルバム

 前作が爆発的な大ヒットをして図らずもメジャーバンドの仲間入りをしてしまい、大いに悩んだバンドの出した答えは、メジャー路線に歩み寄らないアングラ回帰でした。前作のプロダクションを嫌い、アングラ志向のサウンドにすることでこれなら売れないだろうというような反主流な姿勢も感じられます。前作がなんだかんだキャッチーさを内包していたので、前作からの変化にファンは戸惑ったようです。しかし賛否はあるもののまたもや大ヒットし、全世界で1500万枚以上のセールスを記録しました。反体制を歌っていたのに体制側に取り込まれる苦悩や、プレッシャーに耐えられず悩み続けたカート・コバーンは、ドラッグに溺れて1994年4月5日、ショットガンで自殺。享年27歳。若きカリスマの突然の死によって、本作がニルヴァーナのラストアルバムとなってしまいました。
 ピクシーズの『サーファー・ローザ』等を手掛けたスティーヴ・アルビニのプロデュースで、アルビニはエフェクトやオーバーダブを嫌い、生々しい演奏を特徴とするプロデューサーだそうです。そして出来上がったサウンドは全体的に音がヘヴィで、特にドラムが重たい。ノイズも織り混ぜて荒々しく仕立てられています。全体を支配する暗鬱な絶望感と怒り。ときにヒステリックに叫ぶボーカル等を含めて、カートの心を反映していたのかもしれません。

 不協和音を刻むノイジーな「Serve The Servants」で始まります。がさついて荒々しいギターや、一撃一撃が重たいドラムがカッコ良いです。それでいながら、気だるげに歌うカートのメランコリックで暗い歌メロがとても切ない。続く「Scentless Apprentice」はデイヴ・グロールのパワフルなドラムで幕開け。ノイジーなサウンドをバックに、カートの悲痛にも似たヒステリックな叫びが強烈なインパクトを与えます。音も割れそうなくらいノイジーで、売れるつもりなんてない破滅的な楽曲なのに、その危うさに魅力を見いだせるという不思議。静と動の対比がくっきりした「Heart-Shaped Box」。鬱々としつつもメランコリックで美しいメロディを聴かせますが、サビではノイジーなサウンドで荒れています…それでもメロディの良さで惹かれるんですけどね。グワングワン唸るクリス・ノヴォセリックのベースも良い感じ。そして「Rape Me」では、意図せず大ヒットしてしまった「Smells Like Teen Spirit」を心底嫌ったカートが、同じようなメロディで「Rape me, my friend (俺を犯してくれ、友よ)」と歌っています。反主流側なのに大成功して主流側になってしまうという彼らにとっての汚点を、この楽曲で上書いて塗り消そうとしたようにも見えます。歌詞は強烈なインパクトですが、悲壮感に溢れたメロディはとても良いんですよね。ダーティでカッコ良い「Frances Farmer Will Have Her Revenge On Seattle」も、メロディにはノイジーな演奏でも掻き消せない強い哀愁が漂います。静かでシンプルながらも歌メロが優れる「Dumb」は、カートの歌に憂いが満ち溢れています。ケラ・シャリーによるチェロがその憂いを増幅させている気がします。そして2分足らずの「Very Ape」は本作で数少ない疾走曲。強烈な緊迫感で、キンキンと警告音のように緊張を高めるギターに、ゴリゴリとしたメタリックなギターリフとベース、そしてバタバタとしたドラムが一体となって焦燥感を煽りまくります。とてもスリリングです。続く「Milk It」も強烈で、静寂から突如大音量のパワフルなドラムと轟音ギター、カートの絶叫。歌とは呼べない代物ですが、とてもヘヴィで強いインパクトを与えます。「Pennyroyal Tea」は哀愁たっぷりのメロディがとても切ない。静と動の対比が強烈な演奏に載せて、やるせなさのような悲壮感が漂い涙を誘います。疾走曲「Radio Friendly Unit Shifter」ではキンキンと音の割れた耳障りなギターに、デイヴのパワフルなドラムが炸裂。でもこれがゾクゾクするようなスリルを生んでいます。「Tourette’s」も同様にキンキンとして前曲とサウンドは似た疾走曲。でも歌うカートの熱量が全然違うのも面白いです。こちらは終始絶叫しっぱなしで、自暴自棄のようで聴いていて不安な気分になります。そしてラスト曲の「All Apologies」がしっとりと聴かせる楽曲です。「他にどうしたらよかったんだ、とにかく謝るよ」と歌い、アルバムのラスト曲にしてカートの最期も予見させます。ノイジーな楽曲が数多く並ぶ本作においてひときわ美しくて儚いこの楽曲。まともに向き合うと涙が出てくるくらいの切なさを持った、とても素晴らしい1曲です。

 一聴すると人を寄せつけない感じの荒さや激しさですが、危うさに惹きつけられるのかメロディが良いからか、聴くたびに魅力を増すような、そんな作品です。『ネヴァーマインド』と甲乙つけがたい素晴らしい名盤です。

In Utero
(20th Anniversary Deluxe Edition)
Nirvana
In Utero
(20th Anniversary)
Nirvana
 
 

ライブ盤

MTV Unplugged In New York (MTV・アンプラグド・イン・ニューヨーク)

1994年

 1993年に録音されたライブ作品で、カート・コバーンの死後発表された最初の作品です。
 グランジの、反体制側のヒーローだったニルヴァーナがアコースティックなサウンドを奏でるという、迷走している感もあります。ただし元々ノイジーなサウンドの裏に優れたメロディをもった楽曲も多く、そのメロディの良さを十分に堪能できる作品でもあります。バンド側はどう思ったかわかりませんが、結果的にはとても優れたライブ作品に仕上がったといます。
 カバー曲も半数近くあり、カートがファンだったというヴァセリンズのカバーや、ミート・パペッツ等をカバーしていますが、特筆すべきはデヴィッド・ボウイの「The Man Who Sold The World」でしょうか。オリジナル楽曲では『ネヴァーマインド』や『イン・ユーテロ』からの選曲が多めですが、轟音でノイジーさに隠された元々のメロディの良さがアコースティックになって際立っており、特に『イン・ユーテロ』の楽曲群で顕著に感じます。

 アコースティックライブは「About A Girl」で開幕。原曲もそこまでノイジーではないですが、アコースティックサウンドでよりクリアで聞きやすいサウンドになりました。テンポも落とした穏やかな演奏によって、メロディアスで哀愁漂う歌メロの良さが際立っています。「Come As You Are」は印象的なリフはやや音量控えめで、カート・コバーンの歌をフィーチャーしています。アンニュイで切ない歌唱が魅力的ですね。続いて「Jesus Doesn’t Want Me For A Sunbeam」はヴァセリンズのカバー。アコーディオンを弾くのはクリス・ノヴォセリックで、ベースはデイヴ・グロールに任せています。ノスタルジックで感傷的な雰囲気です。「The Man Who Sold The World」は前述のとおりデヴィッド・ボウイのカバー。カートが歌っても様になるというか、そこまでアレンジされたわけでもないのに原曲を超えるくらいに良い出来になっています。原曲は妖しい雰囲気がありますが、こちらは原曲の暗鬱な雰囲気を残しつつ少しキャッチーになって聴きやすい。私デヴィッド・ボウイのファンですが、この楽曲はニルヴァーナ版の方が好みだったり。笑 「Pennyroyal Tea」はアコースティックになったことでノイジーさが取っ払われ、純粋にメロディの美しさが際立つ良アレンジになりました。カートのポップセンスってやはり優れていたのだなと思います。「Dumb」は原曲同様に、チェロが哀愁の歌メロをうまく引き立てています。ゆったり揺られるようなサウンドの心地良さと、やるせなさのような切ない歌メロがなんとも言えない感傷的な気分にさせます。「Polly」は原曲もアコースティックなのであまり違いも違和感もないですが、「On A Plain」はノイジーながらも開放的なバンドサウンドがバッサリ無くなって少し物足りない感じがします。そして「Something In The Way」で鬱々と呟くように歌います。アコースティックサウンドにチェロのアクセントが良い味を出しています。
 ここから3曲はミート・パペッツのカバーで、演奏には同バンドのカート・カークウッド(Gt)、クリス・カークウッド(B)も参加。「Plateau」では繊細なアコギが心地良い音色を奏でますが、歌は淡々とした印象です。カートのアンニュイな歌唱が印象的な「Oh, Me」でゆったりと浸った後は、「Lake Of Fire」で絞り出すような感情剥き出しの歌唱へと振れ幅大きく変わります。曲調は相変わらずゆったりなのですが…。
 そして自身の楽曲へと戻り「All Apologies」。本作で最も魅力的な1曲だと思います。元々原曲もサビの轟音以外は穏やかな楽曲でしたが、アコースティックな本作ではサビでもバックは控えめで、歌メロの美しさがより響きます。強い憂いを帯びていて、とても切なく儚い楽曲です。最後にブルースミュージシャンのレッドベリーの「Where Did You Sleep Last Night」をカバー。哀愁漂う暗鬱な雰囲気で淡々と進みますが、終盤でカートの歌は悲痛な叫びへと変わります。これがとても強烈な訴求力を持っています。

 ゆったりと和やかな雰囲気で、ニルヴァーナの普段と違う一面が見られます。激しさを求める方には少々物足りないかもしれませんが、美しいメロディの数々はニルヴァーナの新しい魅力を発見できます。50分強のリラックスした時間を提供してくれる良ライブ盤です。

MTV Unplugged In New York
Nirvana
 
Live At Reading (ライヴ・アット・レディング)

2009年

 グランジバンドとしてのニルヴァーナのライブを聴ける作品で、全24曲入の濃厚な仕上がりです。1992年に行われた、レディング・フェスティバルと呼ばれる野外フェスでの公演を収録した作品で、映像作品も出ています。
 全体的に荒々しく音質もイマイチですが、迫力ある演奏が繰り広げられます。スタジオ盤では抑え気味のミックスをされているクリス・ノヴォセリックのベースが、本作ではゴリゴリ鳴り響いてとてもカッコいいです。またドラムはデイヴ・グロールが叩いているので、『ブリーチ』の楽曲はスタジオ盤よりもパワフルなドラムで聴くことができます。そしてまだこのライブ時点では発表前の『イン・ユーテロ』からも「Tourette’s」、「All Apologies」、「Dumb」の3曲を収録。

 オープニングを飾る「Breed」では若干キーを下げていますが、荒々しくて迫力の演奏を聴くことができます。カート・コバーンの歌はライブだとそこまで上手くなかったり…。クリスのベースがグワングワン唸っていてカッコ良い。「Drain You」も哀愁を漂わせながらもノイジーなサウンドで、カートのメロディアスな歌メロを掻き消すくらいの轟音にまみれています。楽曲の軸を作るボンボン唸るベースや、歪みまくってドロドロした感じのギターがカッコ良いです。「Aneurysm」はダーティで勢いがありますが、途中スピードダウンしたりして印象づけます。歌メロはひねていますね。続く「School」は地を這うようなベースに激しいドラムが強烈。攻撃的な歌唱は吐き捨てるかのようです。クリスの強烈なベースソロで開幕する「Silver」はカートが吹き出していますね。高音と低音の極端な歌唱はあまりに奇妙で印象に残ります。引きずるように重い「In Bloom」はダーティですが、キャッチーなメロディに魅せられます。この辺からメロディの魅力的な選曲が増え、ライブは盛り上がっていきます。「Come As You Are」は鬱々とした雰囲気を生み出す暗いベースを中心に、シャウト気味のメランコリックな歌メロでじっくり聴かせます。カートのメロディセンスが光る1曲ですね。「Lithium」では会場が合唱しますが、こういうところはライブならではの醍醐味ですね。ミドルテンポのゆったりとした曲調ですが、シンプルながら跳ねるようなリズムもとても心地良い。そしてサビはシャウトと轟音で掻き乱します。実にカッコ良いです。アコギをかき鳴らす「About A Girl」はキャッチーな歌が魅力。中盤からはノイジーな演奏へと変わりますが、歌メロはポップで聞きやすいです。そして疾走曲「Tourette’s」では異様な緊迫感に包まれます。終始怒鳴るかのようにシャウトしていて、演奏も激しくて超攻撃的です。一気に駆け抜けた後は「Polly」で一気に鬱モードへ。前曲とテンションの落差が激しいですが、このダウナーでアンニュイな楽曲もまた魅力的なのです。続いて「Lounge Act」で少し勢いをつけます。これも憂いを帯びていますがキャッチーですね。そして代表曲「Smells Like Teen Spirit」。これが結構ラフというか、「あれ、こんな曲だっけ?」と拍子抜けするくらいやる気がない印象。ノリの良いリズム隊に対してメチャクチャな演奏をするカートのギター。他の楽曲はそこまで崩していないし、カートが徹底して嫌った楽曲ということもあるので、わざと反抗しているでしょうか?残念です。「On A Plain」は通常モードに戻って、ノイジーでスリリングな演奏を繰り広げます。「Negative Creep」で更にノイジーでヘヴィになります。歌メロなんて無いかのようなシャウト気味の歌に、キンキンと音の割れたギター。地を這うように重たいベースと力強いドラムで蹂躙します。「Been A Son」もキンキンとしたノイズが耳障りな感じ。続く「All Apologies」では雰囲気を変えて、哀愁のメロディをしっとりと聴かせます。音質は悪いし途中ギターをミスったりもしていますが、あまりに美しい歌メロに魅せられます。そして「Blew」ではヘヴィなベースとドラム、ノイジーなギター。荒々しくもグルーヴィな演奏でグワングワン揺さぶります。
 ここからはアンコールです。ゆったりと聴かせる「Dumb」には哀愁が漂います。スリリングなイントロで始まる「Stay Away」が続きますが、疾走感に溢れていてカッコ良い。パタパタとしたデイヴのドラム、グルーヴィなクリスのベースが強烈です。「Spank Thru」はカバー曲かと思うくらいポップな印象ですが(後半は彼ららしくヘヴィにはなるものの)、ニルヴァーナ最初期の楽曲みたいですね。続いて「The Money Will Roll Right In」はファングのカバー。ダーティで怪しげに唸るベースリフが強烈な1曲です。歌はやる気なさげな印象。「D-7」はワイパーズのカバー。スローテンポでどんよりした演奏に、粘着質で恨みがましい歌を披露しますが、後半一気にテンポアップ。ダーティな疾走曲へと変貌します。最後に疾走感「Territorial Pissings」。スリリングな演奏で楽しませてくれますが、歌はヘタクソだなぁ。笑

 楽曲の美しさを魅せる『MTV・アンプラグド・イン・ニューヨーク』とは異なり、轟音でノイジーなサウンドで、グランジバンドとしてのニルヴァーナ本来のサウンドを聴かせる迫力のライブ盤です。但しそこまで上手くはありません。

Live At Reading
Nirvana
 
 

編集盤

Incesticide (インセスティサイド)

1992年

 ニルヴァーナのB面や未発表曲、カバー曲を集めた編集盤です。『ネヴァーマインド』の大成功の後、なかなか次作を出さないバンドに業を煮やして、レーベル側が勝手に出した作品のようです。アルバムとしての統一感はなく、特定の楽曲目当てで聴いてもいいかな程度。私は1回聴けば十分でした。
 カート・コバーン(Vo/Gt)とクリス・ノヴォセリック(B)は固定メンバーですが、ドラムがかなり流動的です。

 重たい楽曲「Dive」で始まります。ディストーションをきかせたギターはひたすらにヘヴィで、「Dive Dive Dive Dive in me」と繰り返すシャウトもカッコ良い。これと次曲はダン・ピーターズがドラムを担当しています。「Silver」はひたすら繰り返す「Grandma take me home!」の連呼が耳に残りますね。ローテンションで始まりますが、途中からキーを上げてノリノリです。「Stain」はチャド・チャニングの叩くドラムがあまり面白くなかったり…。クリスのメタリックなベースが唸ります。「Been A Son」はノリ良くテンポも早いのですが、少し陰鬱な雰囲気を持ったメロディアスな1曲です。カートのメロディセンスが光りますね。ローファイでガレージ色の強い「Turnaround」は、デイヴ・グロールの力強いドラムがスリリング。荒々しくて勢いに満ちていますが、歌はやる気がなさそうな感じ。「Molly’s Lips」「Son Of A Gun」は彼らが好んでいたというヴァセリンズのカバー曲。いずれもノリが良くてキャッチーなので聴きやすいです。「(New Wave) Polly」はどうニューウェイヴなのか謎ですが、パンクアレンジされた高速の「Polly」を聴くことが出来ます。面白いですが、個人的には鬱々とした原曲の方が好みです。「Beeswax」は非常にヘヴィなサウンドに、デスボイスのような歌唱でとてもノイジーな楽曲です。終盤は絶叫しています。「Downer」はクリスのうねるようなベースが強烈。ダウナーという割に勢いに満ちたサウンドで、リズム隊が焦燥感を煽ります。早口で呟くような歌が辛うじてダウナーでしょうか…しかしサビでは怒鳴るように攻撃的です。メルヴィンズのデイル・クローヴァーのドラムが炸裂する「Mexican Seafood」を挟んで、悪い意味で強烈なインパクトを残す「Hairspray Queen」。イントロからうねるベースに圧倒されますが、カートの歌が狂っていてとにかく気持ち悪い。シャウトなのに粘着質というか、奇声が絡みついてくるような感覚です。続く「Aero Zeppelin」は緊迫感に溢れる演奏メインの1曲です。デイルの叩くドラムは中盤とても激しく、次に何をするのかわからないというスリルがあります。引きずるような重たさと気だるさが同居する「Big Long Now」を挟んで、ラスト曲「Aneurysm」。暗く緊迫した雰囲気の疾走曲で、ノイジーなサウンドを奏でます。シャウトしっぱなしの歌は排他的ですが、サビメロは意外にキャッチーだったりします。

 良曲もあるものの全部が名曲という訳でもなく、アルバムの流れもそこまで魅力がないので、コアなファン向けという印象が強いです。本作を聴くのはひととおりの作品を聴いた後で良いと思います。

Incesticide
Nirvana
 
 
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