🇯🇵 石鹸屋 (せっけんや) / ゼッケン屋 (ゼッケンや)

レビュー作品数: 4
  

石鹸屋同人作品:東方アレンジ

石鹸屋のお歳暮2

2006年 お歳暮

 東方音楽同人サークル、石鹸屋。2010年にはメジャーデビューも果たしました。hellnian(Dr)が主宰するサークルで2005年に結成しました。メンバーはhellnian、秀三(Gt/Vo)、秀三の実弟 厚志(Vo)(初期はACE名義)、イノ(B)。
 本作は石鹸屋の通算4作目で、東方アレンジとオリジナル楽曲の混在させた作品です。冬のコミックマーケット71で頒布されました。

 オープニング曲「さっきゅんライト」は「フラワリングナイト」のアレンジです。冒頭から「瀟洒!瀟洒!瀟洒!瀟洒!」の連呼で強烈なインパクトを放ちますが、これは筋肉少女帯の「サーチライト」のパロディ。粗削りなバンド演奏にメランコリックな歌メロを展開します。中盤は早口パートで緩急つけ、中毒性のある名曲ですね。原曲は十六夜咲夜のテーマ曲ですが、十六夜咲夜のコスプレをした「ガイ長」こと秀三との相性も良いです。
 「二足歩行の天狗walkin’」は「天狗が見ている ~ Black Eyes」のアレンジ曲。リズミカルなドラムを中心に、ガレージロック風のエッジの効いた荒っぽい演奏を繰り広げます。間奏は即興的ですが、そこでもhellnianのドラムがリードします。
 「歯を磨く」は石鹸屋オリジナル楽曲で、オルタナ風味の1曲です。ゆったりとしたテンポですが、サビではテンポアップして緩急つけます。感傷的で憂いのある歌が切ないですね。
 「もう歌しかうたえない」は同名楽曲のアレンジ。イントロからギターがカッコ良く、そこからゴリゴリと重低音を唸らせるパンキッシュな演奏を展開。暴力的な演奏と対照的に、コーラスを駆使した歌メロは原曲踏襲のメランコリックな雰囲気です。
 続いて「無何有の郷 ~ Deep Mountain」をアレンジした「無何有の雪桜 お歳暮版」。「お歳暮版」と銘打っていますが、『東方弾打團』収録の通常版は秀三が歌い、本作では厚志が歌っています。スローテンポで重厚な演奏に乗る、厚志のイケボがカッコ良い。終盤から倍速にテンポアップして、スリリングに焦燥感を煽ります。
 7分近い「背中」は石鹸屋のオリジナル曲。静かな演奏に乗せて、低音キーの渋い歌を聴かせますが、サビでは激しい演奏とアツい歌唱で盛り上げます。オルタナ的でスケール感のある楽曲で、アウトロが魅力的です。
 僅か5秒ほどの、次曲に続くイントロ(?)というかセリフ「事件は永遠亭で」を挟んで続くのは「ってゐ! ~えいえんてゐVer~」。石鹸屋の代表曲です。「シンデレラケージ ~ Kagome-Kagome」のアレンジで、パンキッシュな演奏に乗せて原曲準拠のメロディを歌ったかと思えば、途中や野太い声で「ってゐ!ってゐ!ってゐ!ってゐ!ってゐ!ってゐ!」の連呼で強烈なインパクトを与えます。
 「続・咲夜バースト」はネタ曲枠。アニメ『The World of GOLDEN EGGS』をパロったコントが繰り広げられます。
 ラストに電波ソング「魁! リグル伝説」。「幻視の夜 ~ Ghostly Eyes」と「蠢々秋月 ~ Mooned Insect」に「恋のミクル伝説」を掛け合わせています。

 粗削りなバンド演奏に、独特の歌声がカッコ良いですね。「さっきゅんライト」と「ってゐ! ~えいえんてゐVer~」が突出していますが、中々中毒性のある楽曲が詰まっています。

石鹸屋のお歳暮2
石鹸屋
 
TOHOHUM

2008年 4thアルバム

 イノの脱退に伴い、サポートをしていたイガラシ(B)(当時ササキ名義)がメンバーに加入します。そして制作された本作は、お歳暮シリーズを含めると通算7作目となります。『東方風神録』の楽曲が比較的多いものの、選曲はまばら。ですがアルバムトータルの統一感は高いです。夏のコミケC74で頒布されました。

 アルバムは「Demystify Feast」をアレンジした「Demystify」で幕開け。重低音を響かせるヘヴィなイントロからしてカッコ良いですね。力強いイケボは、サビメロでは哀愁を醸し出します。そして間奏では粗削りな演奏を倍速にして緩急つけます。
 続いて本作のハイライトとも言える名曲「lose one’s faith」。「信仰は儚き人間の為に」のアレンジ曲で、メタリックかつダーティなイントロから引き込まれます。カッコ良いのはタイトな演奏だけでなく、原曲踏襲のメランコリックなメロディラインを歌う厚志のイケボも魅力たっぷりです。ストレートなロック曲で、とてもカッコ良い。
 「KAGUYA THE HIPPIE ~みちのく編~」は「竹取飛翔 ~ Lunatic Princess」をアレンジした箸休め的な短いインストゥルメンタルです。秀三のギターがメロディを奏でますが、イガラシのうねるベースも中々良い。
 そして「妖怪の山 ~ Mysterious Mountain」をアレンジした「ナイト・オブ・マウント」で再び緊張を高めます。hellnianのドラムが焦燥感を煽り、秀三のメロディアスな歌が感傷的な気分を誘います。
 「フィルム・エンド」は「風神少女」をアレンジした楽曲で、ブルース色がかなり強く、じっくり聴かせてくれます。秀三の歌メロは哀愁たっぷりだし、ブルージーなギターは渋い。
 「KAGUYA THE HIPPIE ~コスモ編~」は、みちのく編と比べるとhellnianのパーカッションが際立つアレンジに仕上がっています。
 続く「バトルフィールド・アシンメトリック」は「神さびた古戦場 ~ Suwa Foughten Field」のアレンジ。ダイナミックなドラムに粗削りなギターなど、イントロから高い緊張感で高揚感を掻き立てます。伸びやかな歌唱を披露するサビがカッコ良い。
 そして「明日ハレの日、ケの昨日」をアレンジした人気曲「ミシャグジ・エンパイア」。「良うござんす」などの合いの手や、サビの「ケケケの昨日 ケの昨日」などは中毒性の高い電波ソング感がありますが、ダーティなロックンロールといった趣の演奏と合わさると、引き締まっていてカッコ良いんですよね。
 続いて「亡き王女の為のセプテット」をアレンジした「after」、これがとても良く、個人的には大好きな楽曲です。どことなくポリスの「Every Breath You Take」にも通じるシンプルな演奏に、秀三の優しい歌唱はほのぼのとして、牧歌的な雰囲気すら醸しますが、hellnianの書く歌詞を聴くと熱く込み上げるものがあるんです。長寿の吸血鬼レミリア・スカーレットにとっては、長い年月も退屈で変わらない日々に映る。でもレミリアを取り囲む周りの人間は短い一生を終えて、最後には一人残される…。そんな解釈を挟めそうな最後の一文「一人きりで」に、とてつもない重みと深い哀愁を感じます。原作や二次創作ありきで考えると、切なすぎる楽曲です。
 優しい前曲と対照的にヘヴィな演奏を繰り広げるのは「オレンジ・キャット・ファルセット」。「ティアオイエツォン(withered leaf)」のアレンジ曲です。鈍器で殴られるかのような、轟くような重低音が魅力的。
 ラスト曲は短いインスト「KAGUYA THE HIPPIE ~ダメ、ゼッタイ!!編~」。リズミカルですが、即興的な感じもあります。

 名曲が揃っていて水準が高いうえ、短いインストゥルメンタルを挟んで緩急をつけたアルバムの流れも良いんです。長く聴き続けている、お気に入りの作品です。

TOHOHUM
石鹸屋
 

 

ゼッケン屋同人作品:東方アレンジ

Zekken No.1 Dry Eye Party

2007年 1stアルバム

 石鹸屋のメンバー「ガイ長」こと、秀三(Gt/Vo)の個人サークルがゼッケン屋です。石鹸屋の活動と並行しながら、本作でソロ活動もスタートします。2020年にはオリジナルフルアルバムもリリースしています。
 ゼッケン屋としては最初の作品となる本作は東方アレンジ作品で、冬のコミケC73で頒布されました。ジャケットアートはクイーンの『ジュエルズ』のパロディですが、十六夜咲夜のコスプレと仮面という秀三の出で立ちもモチーフにしています。

 僅か7秒の環境音「インビテイション」で幕を開けたあと、「芥川龍之介の河童 ~ Candid Friend」をアレンジしたゼッケン屋の代表曲「ハイコートポロロッカ」が始まります。石鹸屋とは異なる趣で、ラテン風味の妖しげで情熱的な演奏を繰り広げます。アコギの小気味良い音色が気持ち良い。
 続く「バトルフィールド・グルーヴ」は「神さびた古戦場 ~ Suwa Foughten Field」をアレンジしたインストゥルメンタル。石鹸屋の「バトルフィールド・アシンメトリック」のデモ音源とも言えそうな、ハードさ控えめの演奏を展開します。ギターの音色がエモーショナルで魅力的。
 「京都千秋」は「レトロスペクティブ京都」をアレンジしたインスト曲。楽曲を引き締めるアコギと、叙情的なエレキギターの対比が魅力的です。じっくりと聴き入ることのできる良アレンジですね。
 続いて「少女綺想曲 ~ Dream Battle」をアレンジした「博麗ちゃん境内から落下す」。ハンドクラップがよく似合う、リズミカルでグルーヴの強いファンキーな演奏。語感重視の単語の羅列(ニュアンスで意味はなんとなく伝わりますが)といった独特の歌詞が特徴的です。
 「栗星(チルノと)」は「クリスタライズシルバー」のアレンジ。エレキギターが主旋律を奏で、アコギがリズムを刻みます。秀三の謎のセリフが入ってキワモノ感が出てきますが、演奏だけならかなり聴きごたえがありますね。
 そしてゼッケン屋の人気曲「ヤクプリ」。「厄神様の通り道 ~ Dark Road」をアレンジした楽曲で、骨太なベースを軸に、怪しげですがリズミカルな演奏を展開します。テンポの速い演奏に乗る低音キー主体の歌はテンション低めですが、サビはキャッチーかつメロディアスな印象です。
 続いて、「ネクロファンタジア」をアレンジした「境界へと至る病」。一定のリズムを刻むバスドラムが気持ち良いですが、オルタナ感の強いギターは憂いや諦めを感じさせ、秀三の歌もアンニュイで感傷的です。そしてサビメロの歌唱は寂寥感たっぷりでとても切ないんです。派手さはありませんが、とても刺さります。
 「バックホーム永遠亭」は「狂気の瞳 ~ Invisible Full Moon」のアコースティック・インストアレンジ。まったりとしてアットホームな感覚で聴ける、素朴で温もり溢れる良曲です。
 続く「シャンハイ・コーリング~幻想は燃えている」は「上海紅茶館 ~ Chinese Tea」のアレンジ。ハミングを駆使した頭サビで幕を開けた後、程よくハードでラテンフレーバーも交えた賑やかな演奏が始まります。ノリが良くて気持ち良い。
 「ミルキーウェイ(Autobahn)」は「恋色マスタースパーク」のアレンジ。秀三の甲高い歌声を引き立てるアコギ弾き語りですが、比較的テンポが速く、アコギをかき鳴らす音も小気味良いです。シンプルながら中々魅力的ですね。
 そして最後に「おてんば恋娘」をアレンジした「➈、変(こい)のセカンドライフ」。原曲の面影は薄く、スローテンポで重厚な雰囲気が漂います。ダンディで耽美な歌唱も特徴的。

 アコギを随所に織り交ぜて、石鹸屋に比べるとソフトなロックに仕上がっています。リラックスして聴ける楽曲も多いですね。

Zekken No.1 Dry Eye Party
ゼッケン屋
 
Zekken No.2 Killer Decoration

2010年 2ndアルバム

 石鹸屋と並行したゼッケン屋の活動、その2作目です。ジャケットアートは秀三を模しつつデヴィッド・ボウイの『ヒーローズ』をパロったもの。このジャケットアートが好みです。笑 一部楽曲で石鹸屋のイガラシ(B)と、同人サークル狐夢想屋の狐夢想がサポートしています。

 僅か20秒足らずの「インビテイションⅡ」は、お正月の定番曲「春の海」のギターインスト。
 そして「霊知の太陽信仰 ~ Nuclear Fusion」をアレンジした「世界のウジウツ」が始まります。霊烏路空(れい「うじうつ」ほ)でウジウツでしょうか。笑 エキゾチックな風合いのダンサブルなナンバーで、グルーヴィなベースやワウワウ鳴るギターが気持ち良い。時折野太いコーラスを交えてノリノリです。
 続く「THE LEGEND OF HAKUREI-CHANG」は「少女綺想曲 ~ Dream Battle」のアレンジ。ダーティなイントロから、陰りのあるひりついた楽曲を繰り広げます。重低音を効かせた演奏、メランコリックな歌メロが中々魅力的です。
 「春よ舞い上がれ深空に」は「春の湊に」のアコースティック・インストアレンジで、温もりのある柔らかなアコギがとても心地良いんです。春風のような心地良さに哀愁が混ざって、切なくて魅力的なアレンジに仕上がりました。
 「ムラサオペラ」は「幽霊客船の時空を越えた旅」をスパニッシュ風にアレンジした楽曲です。終盤はそこにメタル要素も加わります。
 そして「エクステンドアッシュ ~ 蓬莱人」をアレンジした「イッツホーライ」。ビート感のある力強い演奏で、ドラムとゴリゴリのベースが際立ちます。秀三の歌は少し調子外れですがキャッチーですね。
 「暗闇ガールはロンリネス」は「暗闇の風穴」のインストゥルメンタルアレンジ。鋭利なギターをはじめ、張り詰めた緊迫感のある演奏はスリリングです。
 続いて、狐夢想がアレンジを手掛ける「タンデムテイル」。原曲は「ティアオイエツォン(withered leaf)」です。ピコピコとした電子音にメリハリのあるダンスビート、そして秀三の歌声にもエフェクトをかけたテクノ風です。
 ここからは「魔界地方都市エソテリア」をアレンジした2曲が続きます。「Esoteria(Prelude)」は1分足らずのイントロ的な扱いですが、落ち着いて憂いのあるギターの調べが美しい。続く「エソテリアン・ヒステリア」は重厚感たっぷり。全体的に強い憂いに支配されており、緩急メリハリのついた演奏がドラマチックに引き立てます。サビメロはとてもスリリングです。
 最後に「博麗ちゃん境内から落下す(Live at the Genso Olympic Auditorium)」。前作収録曲のライブアレンジで、アドリブも交えてとてもノリノリです。

 前作に比べるとアレンジの幅が広がりましたが、その分アルバムとしての統一感はやや減退。また、突出した楽曲には欠ける印象があります。

Zekken No.2 Killer Decoration
ゼッケン屋
 
 

関連アーティスト

 COOL&CREATEのライブサポートとして参加。

 
 
 類似アーティストの開拓はこちらからどうぞ。