🇬🇧 T. Rex (T・レックス)

レビュー作品数: 3
  

スタジオ盤

Electric Warrior (電気の武者)

1971年 6thアルバム

 イングランド出身のロックバンド、T・レックス。1967年に結成して当初は「Tyrannosaurus Rex(ティラノザウルス・レックス)」と名乗っていましたが、1970年にT・レックスに改名。本作は改名後2作目、通算で6作目となります。このときのメンバーはマーク・ボラン(Vo/Gt)、ミッキー・フィン(Perc/Vo)、スティーヴ・カーリー(B)、ビル・レジェンド(Dr)の4人。プロデューサーにはトニー・ヴィスコンティ。ジャケットデザインはヒプノシスというデザイナー集団が手掛けました。
 T・レックス自体が、フロントマンであるマーク・ボランの人気によるところも大きいのではないかと思っています。薄化粧をして歌うボランを指してグラムロックと呼ばれ、デヴィッド・ボウイと並ぶグラムロックの雄として活躍しました。ヴィジュアル系のルーツですね。

 全曲がボランの作で、ボランブギーとも呼ばれるロックンロールは、なんとなく気だるい雰囲気で歌われています。オープニング曲は「Mambo Sun」。ミドルテンポの緩いサウンドに乗せて、囁くような歌声で気だるく歌います。続く「Cosmic Dancer」は、アコギを奏でながらストリングスがバックを飾ります。同時代にグラムロックの雄として名を馳せたデヴィッド・ボウイにも通じる雰囲気です。どちらが先かという議論はさておき。笑 続いてヒットした「Jeepster」はノリノリのロックンロール。古臭さもありますが、T・レックスの場合はそれが持ち味というか、魅力でもあると思います。ノリの良いサウンドとは対照的に、ボーカルは前半いまいちノってないというか気だるそうな感じですが、途中で火がつき終盤に向け盛り上がっていきます。コーラスワークが美しい「Monolith」はゆるくまったりとした雰囲気ですが、それが心地良い。「Lean Woman Blues」はブルージーの渋い楽曲。高いトーンで歌うボラン、囁く歌声の方が渋さが出せる気がしますが、そうしないのはこういう楽曲が大好きでテンションが抑えられないから…だったりするのでしょうか?
 レコード時代のB面、アルバム後半は「Get It On」で幕を開けます。本作で最もヒットした楽曲で、T・レックスの代表曲です。シンプルなフレーズの繰り返しなのですが、そのメロディがとてもキャッチーで、しかも後半に向けてどんどん盛り上がっていくので、高揚感を覚えます。サビの「Get it on」の連呼も耳に残りますね。ちなみにピアノはイエスのリック・ウェイクマンが弾いているのだとか。続いて「Planet Queen」はアコギが心地良い1曲。コーラスがR&B風です。「Girl」もアコギ主体のサウンドで、しっとりとした歌を歌います。「The Motivator」はミドルテンポで抜群のグルーヴ感を持つノリの良い1曲です。囁くような歌声は妖しげで魅惑的。「Life’s A Gas」はメロディアスな歌が魅力的な1曲。サウンドはスッカスカですが、メロディが良いです。ラスト曲「Rip Off」は本作で最も激しい楽曲です。ボランが荒れ狂っている。テンポは遅いですが、徐々にスピードを上げていきます。

 全体的に気だるく、そしてグルーヴ感が心地の良い作品です。楽曲の中では「Get It On」が突出していて、私はこれを目当てに聴くアルバムだと勝手に位置づけています。

Electric Warrior
T. Rex
 
The Slider (ザ・スライダー)

1972年 7thアルバム

 リンゴ・スターが撮影したというジャケットアートがカッコいい、T・レックスの7作目。メンバーは前作と同様で、プロデューサーも同じくトニー・ヴィスコンティです。
 「Metal Guru」や「Telegram Sam」のようによくわからない単語も出てきますが、語感を重視したのでしょうか。なお、前作よりもコーラスが強化されてマーク・ボランの低い声がサポートされているので、歌メロの良さが際立ち、またキャッチーさも増した印象です。

 オープニングを飾る「Metal Guru」は、出だしから賑やかなコーラスでキャッチーな始まりです。一緒に歌いたくなるような歌メロがとても魅力的で、グルーヴ感のあるサウンドが陽気な雰囲気を更に盛り上げます。アルバムの掴みから上々です。続く「Mystic Lady」はスローテンポで気だるい1曲。アコギ主体のシンプルなサウンドで、ボランの緩く歌うメロディが良いのです。「Rock On」は前曲同様スローテンポで気だるい雰囲気ですが、グルーヴ感のあるサウンドでメリハリをつけます。コーラスワークも相まって、気だるくも心地良かったりします。そして表題曲「The Slider」はスローテンポで重たい、ヘヴィメタル的なギターサウンド。そこに途中から加わるストリングス、そして色気のあるボーカルやコーラスが乗っかり、妖しい雰囲気を醸し出しています。ここまでスローテンポの楽曲が続きましたが、「Baby Boomerang」で少しテンポを上げてミドルテンポに。とてもシンプルなギターリフの反復が気持ちの良いノリを作り出します。「Spaceball Ricochet」はアコギを主軸にしたシンプルなサウンドに乗せてしっとりと歌う、メロディアスな1曲です。続く「Buick Mackane」は渋いギターを中心にグルーヴ感のあるサウンドを展開。
 アルバム後半のオープニングは「Telegram Sam」。ノリの良いキャッチーな楽曲で、ギターリフが非常にカッコ良い。またグルーヴ感のあるサウンドに身を委ねていると、身体が自然とリズムを刻んでいます。コーラスワークに彩られた歌メロもキャッチーで口ずさみたくなる、素晴らしい名曲です。スローテンポでブルージーな「Rabbit Fighter」を挟んで、ノリの良い「Baby Strange」。ギターの作るグルーヴ感が素晴らしいです。続く「Ballrooms Of Mars」は低いトーンで、メロディアスな歌を歌います。渋くて良い感じ。「Chariot Choogle」は一転、ヘヴィメタルばりの重くて不穏なサウンド。でもボランの歌やコーラスワークがあるから、ヘヴィネスを妖しさにうまく変えていますね。そして最後は「Main Man」。牧歌的な雰囲気で、コーラスによって心地良い浮遊感を生み出しながらアルバムを締めます。

 キャッチーな名曲が多く収録されています。また全体的にテンポが遅いものの、とても気持ちの良いグルーヴ感。ジャケットもカッコ良く、名盤だと思います。

 「30歳まで生きられないだろう」と日頃冗談めいて話していたらしいマーク・ボラン。不幸にもその予言どおり(?)、1977年に29歳の若さで交通事故死してしまいます。本作のあともヒット作をいくつか出すものの、ボランの死によってT・レックスは活動を終えるのでした。

The Slider
T. Rex
 
 

編集盤

Great Hits (グレイト・ヒッツ)

1973年

 あまりベスト盤が一番とは言いたくないのですが、一番聴きやすいのはこちらだったりします。マーク・ボラン在命中に発表された唯一のオフィシャルベスト盤『グレイト・ヒッツ』。
 選曲が良く(強いて言えば「Get It On」が欲しかったところですが)、14曲入っているものの40分弱とコンパクトに纏まっています。ベスト盤によくある曲順の違和感も特になく流れが自然なので、ベスト盤と言いつつもオリジナルアルバムのように聴ける作品になっています。私個人としてはこれが一番お気に入りです。

 オープニング曲はキャッチーな名曲「Telegram Sam」。グルーヴ感抜群の1曲で、ギターリフはシンプルなのに耳に残ります。またボランの気だるげに歌う語感の良い歌もキャッチーで、思わず口ずさみたくなります。このような雰囲気の楽曲が本作には沢山詰まっています。「Jitterbug Love」はメタリックなギターがメリハリを作りますが、コーラスワークが妖しい雰囲気で上書きするので重すぎない。ノリも良くて気持ちの良い1曲です。「Lady」はキャッチーな歌メロで一緒に歌いたくなりますね。ドラムの作り出すリズムが心地良いです。続く「Metal Guru」は語感が抜群に良い1曲。「メルグルー イージチューン」と口ずさみたくなります。はシンプルながら渋いギターや、ハンドクラップによるグルーヴ感が良い「Thunderwing」、少し古臭さがあるもののキャッチーなロックンロール曲「Sunken Rags」。全編ノリは良いものの比較的ゆったりテンポなのですが、「Solid Gold Easy Action」は数少ない疾走曲です。キャッチーで耳に残りますね。
 そしてアルバム後半は超名曲「20th Century Boy」で幕開け。映画『20世紀少年』でも使われ、耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。そもそも『20世紀少年』が本楽曲に影響を受けた作品ですね。メタリックなギターに、ボランの低音を派手なコーラスが飾っていてとてもカッコ良い。X JAPANもカバーしており、やはり日本人に馴染み深い楽曲だと思います。「Midnight」は金切音を立てるギターやパワフルなドラムが強烈な、ハードロックテイストの1曲。続く「The Slider」もカッコ良い。引きずるように重たいギターですが、妖しい歌とストリングスに惹き込まれます。アップテンポでノリの良い「Born To Boogie」を挟んで、「Children Of The Revolution」はスローテンポの1曲。ヘヴィなギターと鮮やかなストリングスが対照的なハーモニーを作り出します。2分足らずの気だるい「Shock Rock」を挟んで、ラスト曲は「The Groover」。グルーヴ感抜群のサウンドに、キャッチーなコーラスワークと、最後まで心地の良い楽曲群が並ぶのでした。

 スッカスカなサウンドに、気だるい歌唱。でもキャッチーなフレーズの宝庫で、またグルーヴィなサウンドは心地良いものばかり。そんな名曲が詰まった素晴らしい作品です。
 本作で主要な楽曲の多くを押さえられることから、本作と『電気の武者』だけ聴けば良いという意見もちらほら見かけます。そのとおりに従って聴いたのがまさに私だったのですが。笑 結局このベスト盤の出来があまりに良かったので、T・レックスをそれ以上開拓することがなかったのですが、それが良かったのか悪かったのか果たして…。

グレイト・ヒッツ (紙ジャケット仕様)
T. Rex
 
 
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