🇬🇧 The Clash (ザ・クラッシュ)

レビュー作品数: 6
  

スタジオ盤

The Clash (白い暴動)

1977年 1stアルバム

 クラッシュは英国のパンクバンドで、1976年に結成されました。セックス・ピストルズのライブに衝撃を受けたミック・ジョーンズ(Gt)がポール・シムノン(B)に声をかけ、ジョー・ストラマー(Vo)を別バンドから引き抜いて結成。本作録音時のドラマーはテリー・チャイムズ(Dr)でしたが、脱退してトッパー・ヒードンが以降のドラマーを務めます。また録音時には解雇されていたものの、オリジナルメンバーにはキース・レヴィン(Gt)がいました。彼は後にパブリック・イメージ・リミテッドを結成します。
 クラッシュの音楽性はロックンロールに回帰しており、そこに疾走感と攻撃性、レゲエのエッセンスをうっすら加えたような感じです。ミッキー・フットによってプロデュースされた作品ですが、僅か4000ポンドという低予算で録音された本作はあまりにスッカスカな音作りです。同時期のセックス・ピストルズの1stと比べると、あちらがコマーシャル性があって勢いをパッケージしているのに対し、サウンドプロダクションに大きな差を感じます。プロダクションはガッカリですが、収録された楽曲は良いものばかりで、聴けば聴くほどその良さが際立ってきます。

 オープニング曲「Janie Jones」からテンションが上がります。あまりにスッカスカな音ですが、結局プロダクション云々も、聴き始めてノッてくればあまり気にならないんですよね。音がシンプルゆえにシムノンの無骨なベースや、チャイムズのバスドラムが響いたりとカッコ良いんです。続く「Remote Control」はキャッチーな歌メロが爽快。ノリの良いハンドクラップだったり、陽気で楽しい楽曲です。「I’m So Bored With The USA」はジョーンズのメタリックなギターが鋭利なサウンドを作ります。でもストラマーの酒やけ声で歌うメロディはキャッチーで聴きやすい。そして日本盤では表題曲となる「White Riot」、これぞパンクって感じの1曲です。荒々しく勢いのある演奏をうまく収録しています。がなるような歌は上手くはないけどキャッチーで、僅か2分の短さですが強烈に印象に残る名曲です。「Hate & War」も勢いがあって一気に聴かせます。叫び散らす歌に疾走感のある演奏…ノリが良くて爽快です。「What’s My Name」は少し影を感じます。サビメロに合わせて音階を上るように刻むベースが気持ち良いです。ロックンロールへの愛を感じる「Deny」を挟んで、「London’s Burning」はキャッチーな名曲。ビート感が気持ち良く、また口ずさみたくなるメロディで親しみやすいです。
 アルバム後半「Career Opportunities」も勢いに満ちています。スタンダードなパンク曲ですね。シンプルながら耳に残るサウンドに、歌詞をギュッと詰め込んでいるような印象。続いて、ドライブ感のあるサビメロが爽快な「Cheat」。そして「Protex Blue」はまくし立てるように勢いのある1曲です。ギターはかなりメタリック。レゲエ曲のカバー「Police & Thieves」はとてもスカスカな楽曲です。シンプルすぎる演奏でストラマーの歌メロが際立ちますが、それぞれの楽器も音数が少ない割に意外と魅力的なんです。独特のメロディ運びの「48 Hours」で賑やかしたあとは、少し哀愁のある「Garageland」。ノリの良さにブルージーな哀愁をうっすら加えています。アルバムは最後まで勢いがあって爽快です。

 ストイックにロックンロールを奏でているのが伝わってきます。音はスカスカですが、名曲の詰まったクラッシュの名盤です。
 
 
The Clash (パール・ハーバー’79)

1979年

 こちらはUS盤。UK盤とUS盤で収録されている楽曲が異なります。同じジャケットなので買うときには紛らわしいですね。日本盤はジャケットを差し替えた上で『パール・ハーバー’79』の邦題が付いたので多少区別できるかな。
 米国では当初『白い暴動』は発売されませんでしたが、2ndアルバム『動乱』発表の1年後に、一部を未発表曲等に差し替えてリリース。それが3rdアルバム『ロンドン・コーリング』の成功の足掛かりとなったようです。このUS盤には日産のCMでも使われた「I Fought The Law」が入っているため楽曲的には良いですが、新録曲と既存曲で若干音の仕上がりが違うこともあり、アルバム全体の纏まりはオリジナルのUK盤の方が良い気がします。なおUS盤で新たに収録された楽曲はトッパー・ヒードンがドラムを叩いています。

 鋭利なギターが強烈な「Clash City Rockers」で開幕。これはUK盤には入っていない楽曲ですね。荒々しくもノリの良い演奏に乗せて、ストラマーが酒やけ声でがなるように歌います。US盤にもきっちり収められた「I’m So Bored With The USA」(=米国にはもう飽き飽きだよ)、「Remote Control」と続いた後は、新録「Complete Control」。軽快なノリのロックンロールですが、メロディにはうっすら哀愁も感じさせます。パンク曲「White Riot」はUK盤のものよりキーを落としていますが、これはシングルバージョンを収録しているのだそうです。「(White Man) In Hammersmith Palais」はレゲエ調の楽曲。ジョーンズのギターはキレがありますが、全体的にはレゲエの陽気なリズムで楽しげです。勢いのあるパンク曲「London’s Burning」を挟んで、本作のハイライトにしてクラッシュ屈指の名曲「I Fought The Law」。ロックンロールバンドのクリケッツのカバー曲となります。ヒードンの躍動感溢れるドラムが高揚感を煽り立て、疾走感もあり爽快です。またキャッチーなメロディも魅力的ですね。
 アルバム後半はUK盤収録曲を曲順を変えて収録。UK盤の1曲目「Janie Jones」は、US盤だと後半のオープニング曲になっています。その後は「Career Opportunities」、「What’s My Name」、「Hate & War」、「Police & Thieves」と並びます。そしてUS盤新録の「Jail Guitar Doors」はレゲエやブギーっぽい楽曲。キャッチーな歌声はビートルズっぽくもあります。そしてラストはUK盤と共通の「Garageland」で締め括ります。

 纏まりの良さならUK盤、突出した名曲「I Fought The Law」を聴きたいならUS盤。手に取った方を聴けばよいかと思いますが、個人的にはUK盤の方が好みですね。
 
 
左:個人的にオススメの、オリジナルUK盤。
右:「I Fought The Law」が聴けるUS盤。

The Clash (2013 Remastered)
The Clash
The Clash (US Version)
The Clash
 
Give 'Em Enough Rope (動乱(獣を野に放て))

1978年 2ndアルバム

 サウンドプロダクションが大幅に向上した本作。米国のハードロックバンド、ブルー・オイスター・カルトを手掛けたサンディ・パールマンをプロデューサーに迎えて制作され、『白い暴動』にあったようなチープさが取り払われました。聴きやすいサウンドに仕上がっていますが、第一印象としてはパンクではなくハードロック。シンプルでやや単調なメロディはパンクなんですけどね。なお、クラッシュの持ち味のひとつにジョー・ストラマーの酒焼けしたかのような声がありますが、サンディ・パールマンはこの声が好みではなかったようです。
 前後2作に埋もれて地味な扱いをされることも多いのですが、サウンドは聴きやすいです。一聴すると本作のぶっ飛んだ名曲「Tommy Gun」だけが突出している印象ですが、よくよく聴けば他も佳曲揃いです。

 オープニングを飾る「Safe European Home」はノリの良い楽曲。ミック・ジョーンズのメタリックなギターがザクザクと切り込んできて、前作とのサウンドプロダクションの違いが明白です。ですがシンプルな楽曲構成はパンクで、本質は変わっていませんね。「English Civil War」はシンプルなリフから徐々に盛り上がっていきます。序盤のトッパー・ヒードンのドラムの入りが高揚感を煽り、ワクワクさせてくれますね。ノリの良いロックンロールです。そして本作のハイライト「Tommy Gun」。タカタカタッ タカタカタッと軽快なドラムに、爆裂するギター。緊張感に溢れるイントロですが、ストラマーの歌が始まると楽しげな楽曲という印象に。歌メロはとてもキャッチーで口ずさみたくなります。続いて、ゲストのアレン・ラニアーの弾く軽快なピアノが鳴り響く「Julie’s In The Drug Squad」。ポール・シムノンのベースが、ドラムと合わさり軽快なノリを作り出しています。クラッシュは次作以降様々な音楽を取り入れて、パンクに収まらない広がりを見せるのですが、この楽曲にその予兆を感じさせます。「Last Gang In Town」はシムノンのメタリックなベースがよく唸る。音はメタリックですがメロディラインはキャッチーでポップ。親しみやすい歌メロも魅力的ですね。
 アルバム後半は「Guns On The Roof」で開幕。シンプルだけど鋭利なギターリフと変化に富んだドラムが印象的です。終始シャウト気味の歌は単調な感じで、演奏の方が楽しめます。「Drug-Stabbing Time」はメロディアスなイントロが注意を引きますが、始まってみれば軽快でノリの良い1曲です。サックスの味付けが良いですね。「Stay Free」ではジョーンズがボーカルを取ります。ヘタウマな歌ですが、他の楽曲のバックボーカルで聴き馴染みがあるので違和感はないですね。演奏はシンプルですが、前作のようなスカスカ感はありません。そして「Cheapskates」は珍しく憂いや哀愁の漂う楽曲です。とはいえリズムは軽快で、爽やかさの中に哀愁を混ぜたような印象。最後は「All The Young Punks (New Boots And Contracts)」。「人生なんて笑い飛ばせ 泣く必要なんてないから」、「今を生きろ 死ぬ必要なんてないから」の歌詞が良いですね。

 「Tommy Gun」がとてもキャッチーで耳に残る疾走曲で爽快です。とは言え他も佳曲揃いで中々の好盤です。

Give ‘Em Enough Rope (2013 Remastered)
The Clash
 
London Calling (ロンドン・コーリング)

1979年 3rdアルバム

 パンクの枠に収まらない広がりを見せたロックの名盤として紹介されることの多い作品です。CD化で1枚になりましたが、発表当時はレコード2枚組だった、65分に渡る本作。多くの楽曲がファンの手に届くよう、レコード会社を騙して(12インチシングルをアルバムのおまけとして付けるという建前で)1枚ものと同じ値段で2枚組を出したようで、クラッシュのファン思いな側面が窺い知れるエピソードですね。そしてポール・シムノン(B)がベースを叩きつけるあまりに有名なジャケットは、実はエルヴィス・プレスリーのパロディですが、本作自身も有名になりすぎて本作のパロディジャケットも散見されます。
 ミック・ジョーンズ(Gt)と、外部プロデューサーのガイ・スティーヴンスによる共同プロデュースとなる本作。レゲエやスカ、ロカビリー等の幅広い音楽を吸収して、アルバム全体でもとてもバラエティに満ちています。散漫な印象も受け、また全19曲というボリュームもあって、最初の1枚にはあまり向かないかもしれません。取っつきやすさでは1st『白い暴動』の方が上です。しかしながら、実にバラエティ豊かな楽曲群を持つ本作は聴けば聴くほど発見があって、豊富なアイディアの宝庫で長く聴くのに適しているのではないかと思います。

 レコード時代のA面は、表題曲「London Calling」で幕開け。少しシリアスな雰囲気で、終始強烈な緊迫感を作り出すサウンド。歌詞では戦争への警鐘を鳴らしています。ジョーンズのギターとトッパー・ヒードンのドラムが同じタイミングでリズムを刻むため一撃が強烈で、またシムノンのベースはメタリックに唸りを上げます。痺れるカッコ良さです。「Brand New Cadillac」は少し緊迫したロックンロール。ジョー・ストラマーの力強い酒やけ声は迫力があります。「Jimmy Jazz」はアコースティックでジャジーなロックンロール。グルーヴ感のあるベースや、小気味良いアコギにドラムがリラックスした雰囲気を作ります。疾走感というかまくし立てるような「Hateful」を挟んで、レゲエ風の「Rudie Can’t Fail」。陽気で軽快なノリが心地良いです。
 ここからはレコードB面。「Spanish Bombs」は軽快なサウンドで、口ずさみたくなるような親しみのあるメロディが魅力的。…ですがノリの良い曲調とは裏腹に、歌詞のテーマはスペイン内戦を歌っていたりします。華やかなホーンが鳴り響く「The Right Profile」は陽気な雰囲気ですね。ヒードンのノリの良いドラムもあり、身体が自然とリズムを刻みます。続く「Lost In The Supermarket」は細かく刻むドラムが若干の緊張感を生みますが、ジョーンズの甘い歌声によってポップな印象に仕上がっています。彼の歌はストラマーとはまた違った魅力がありますね。「Clampdown」はノリの良いリズムにキャッチーな歌メロが印象的。そしてシムノンがボーカルを取る「The Guns Of Brixton」。抑揚の少ない気だるげな歌声ですが、レゲエのリズムと遊び心のあるサウンドで結構楽しませてくれます。
 レコード時代はここから2枚目、C面へ突入。「Wrong ‘Em Boyo」はオルガンやホーンが鳴り、まったりした雰囲気の30秒。それが一旦終わるとテンポアップし、コミカルで軽快な楽曲へと変わり楽しませてくれます。「Death Or Glory」は歌メロがかなりキャッチーで、サビでは一緒に歌いたくなります。統率の取れた演奏はシンプルですが、間奏等は自由気ままに楽しんでいる感じがありテクニックでも魅せてくれます。続く「Koka Kola」は煽り立てるかのような疾走感があります。コーラスを駆使したサビメロはメロディアスな印象。「The Card Cheat」はピアノとブラスにエコーを掛けぼんやりとした音像で、壮大な感じのあるポップ曲。尖った表題曲とは対角に位置しそうな楽曲ですね。
 レコードD面は「Lover’s Rock」で開幕。ファルセットを用いたコーラスで甘い印象のある楽曲です。カウントで始まる「Four Horsemen」はどことなくビートルズを思わせる軽快なポップ曲。歌うようなシムノンのベースも中々印象的です。続く「I’m Not Down」もポップで軽快。ですが楽曲展開が凝っていて侮れない。ポップさの中に聴きごたえのある演奏を聴かせます。「Revolution Rock」はとても陽気なレゲエ曲。トロピカルな南国の風を感じさせる楽しい1曲です。そしてラストは「Train In Vain」。ジョーンズの歌う爽やかでキャッチーな楽曲です。最後までだれずに聴かせます。

 名曲の揃った素晴らしい作品です。トータル65分のボリュームで楽曲もバラエティにも富んでいるものの、散漫に感じさせないギリギリのラインを保っています。

 パンクという形式を捨て、普遍的なロックに近づきましたが、ジョー・ストラマーが「Punk is attitude, not style. (パンクは姿勢であってスタイルではない)」と表明したように、既成概念にとらわれず自分の信念に従うDIY精神溢れる本作は、精神的にはパンク作品なのでしょう。但しパンクの代表バンドであるセックス・ピストルズの解散と先鋭的なポストパンクへの移行、クラッシュがスタイルとしてのパンクを捨てたことで、ロンドンパンクの熱狂は終息するのでした。

London Calling (2013 Remastered) (2CD)
The Clash
 
Sandinista! (サンディニスタ!)

1980年 4thアルバム

 全36曲、トータル2時間半近い作品です。レコード時代は3枚組で、CD化しても2枚組の大ボリューム。前作から僅か1年でこれだけの楽曲を揃えたのだから、やりたいことに満ち溢れていたのでしょう。なお同じ楽曲のダブバージョンを改題して収録していたりします。多くの楽曲はセルフプロデュース作ですが、ダブバージョンはマイキー・ドレッドによるプロデュース。
 サウンドプロダクションはニューウェイヴ化した印象で、前作よりも更に色々な音楽を吸収しています。姿勢はさておき、サウンド的にはパンクと呼べない代物に仕上がっています。ボリューム満点ですがあまりに曲数が多く、個人的には散漫な印象は否めません。単曲だと良い楽曲も多いんですけどね。なおタイトルは、ニカラグアの左翼組織、サンディニスタ民族解放戦線より。政治的な主張も強い作品だそうです。
 
 
 レコードA面のオープニングを飾る「The Magnificent Seven」はファンキーな1曲。エコーが効いて、キラキラとしたニューウェイヴ全開のサウンドです。当時まだ真新しかったラップ・ヒップホップを取り入れた楽曲で、ロックバンドが最初に作ったラップ曲なのだとか。「Hitsville UK」はポール・シムノン(B)のベースがグルーヴ感抜群。またトッパー・ヒードン(Dr)のドラムも軽快なリズムで高揚感を煽ります。ミック・ジョーンズ(Gt)とゲストのエレン・フォーリーのデュエットで、柔らかくポップな印象。ニューウェイヴ的なキラキラした味付けのレゲエ曲「Junco Partner」を挟んで、クラッシュ流テクノポップ「Ivan Meets G.I. Joe」。ヒードンが歌う楽曲で、SF風のチープな効果音と軽快なリズムで楽しませてくれます。お遊び感満載で、結構好みです。そして2分足らずの軽快なロックンロール「The Leader」。歌詞詰め詰めですが、ジョー・ストラマー(Vo)はこういう楽曲がよく似合う。ピアノやストリングスが主導する華やかな「Something About England」でA面終了。
 B面は「Rebel Waltz」で開幕。ジョーンズの優しいギターに癒されます。全体的に夢見心地のような浮遊感があります。「Look Here」は疾走感の強いジャズ曲。とてもお洒落で、程よくスリリングなので聴きごたえがあります。「The Crooked Beat」はレゲエ曲。細かく刻むドラムとやけに目立つベースがスリリングです。抑揚のないボーカルはベーシストのシムノンが担当。続く「Somebody Got Murdered」は疾走感に溢れる軽快なパンク曲。ジョーンズの甘い歌声が魅力的ですね。ノリの良いサウンドで高揚感を煽ります。「One More Time」は気だるげなレゲエ曲。ストラマーの歌の反復が幻覚的な雰囲気を作ります。またプロデューサーのマイキー・ドレッドも歌に参加。「One More Dub」は前曲のダブバージョン。デジタルで無機質な感じで、バスドラムがずしんと響きます。
 レコードだと2枚目前半にあたるC面へ突入。ラップ曲「Lightning Strikes (Not Once But Twice)」はシャリシャリとした質感で、耳に優しくないサウンドが少し残念。ですがファンキーなノリは爽快です。「Up In Heaven (Not Only Here)」はメロディアスなポップ曲。少し哀愁のあるメロディが切ないですね。ゆったりとした「Corner Soul」を挟み、トロピカルで南国の香りが漂う「Let’s Go Crazy」が続きます。「If Music Could Talk」はメロウなサックスによって大人びた雰囲気のあるレゲエ曲。まったりとした気分を味わえます。「The Sound Of Sinners」は強烈にエコーのかかった楽曲。序盤は強い哀愁が漂いますが、徐々にノリノリの楽曲へと変わっていきます。

 CDの区切りだとここからDisc2、レコードだとD面。「Police On My Back」はサイレンのように警告音じみたギターが強烈。ですが緊迫しているのはイントロだけで、歌が始まると陽気で楽しげなアップテンポ曲といった印象です。「Midnight Log」はヒードンの軽快なドラムと、軽いタッチのピアノが気持ち良いロックンロール。ですが陽気なサウンドと裏腹に、ストラマーの歌は低血圧気味というか、あまりエンジンがかかっていない印象。音と声をいじくって加工された「The Equaliser」はプログレ的で、そしてどことなくエスニックな感じもします。鉄琴のキラキラした音色が特徴的な「The Call Up」を挟んで、「Washington Bullets」はマリンバのトロピカルな音色とポップなメロディが魅力。ですがまったりとした雰囲気とは対照的に、その歌詞はチリやキューバ、ニカラグアなどの革命や紛争に言及し、政治色がかなり強いです。アルバムタイトルの『サンディニスタ!』もこの楽曲の中で歌われています。続く「Broadway」はレゲエのようなジャズのような、落ち着いた雰囲気の1曲。
 レコードだとE面で3枚目突入。「Lose This Skin」はタイモン・ドッグ作&ボーカル。彼はクラッシュ加入前にストラマーが所属していたザ・ワンオーワナーズ時代のバンドメイトです。ラッシュのゲディ・リーのような歌声に、トラッド色の強い牧歌的な雰囲気の演奏で、バラエティ豊富な本作の中でも若干浮いているかも。「Charlie Don’t Surf」はオルガンの音色とぼやけた音像でサイケデリックな1曲。幻覚的なサウンドで揺さぶられるような感覚です。「Mensforth Hill」は「Something About England」の音源を加工した楽曲。酔いそうなくらい強烈に歪められたサウンドとスペイシーなエフェクトで、サイケデ全開の楽曲です。続く「Junkie Slip」はまるで民族音楽のよう。反復する怪しげな歌は地味に中毒性があり、またスリリングなパーカッションも魅力的です。ひねたポップ感覚が面白い「Kingston Advice」を挟んで、「The Street Parade」はグルーヴ感の強い楽曲。様々な音がぼんやりと幻覚的な雰囲気を作る中、シムノンのベースが冴えます。
 最後にF面ですが、ボーナストラック集のような位置付けでしょうか?開幕「Version City」はジャジーなピアノが大人びたムードを作りますが、リズム隊は軽快でノリが良いです。これ以降はアレンジ曲が並び、まず「Living In Fame」は「If Music Could Talk」のダブバージョン。ベースが際立ちますね。この楽曲ではマイキー・ドレッドがボーカルを取ります。「Silicone On Sapphire」は「Washington Bullets」のダブ。スペイシーなエフェクトをガンガンにかけて、宇宙空間を漂うかのような幻惑的な浮遊感に溢れています。「Version Pardner」は「Junco Partner」のダブ。揺れるリズム感が心地良いですが、幻覚のような音はやや狂気じみています。「Career Opportunities」は『白い暴動』収録曲の再録。サポートでキーボードを担うミッキー・ギャラガー、その彼の息子ベンとルークが歌っています。子どもの声で歌う、ほのぼのとした1曲に仕上がっています。最終曲「Shepherds Delight」は『白い暴動』収録曲「Police & Thieves」のダブ。まったりとしたインストですが、最後はおどろおどろしい轟音が響いて不気味に終わります。
 
 
 通しで聴くにはあまりに多すぎる曲数がネックで、特に終盤は結構だれます。ですが良い楽曲・良いメロディも多いので、その日の気分で部分的に聴くのが一番良い聴き方でしょうか?散漫ではあるものの、中々面白い作品だと思います。

Sandinista! (2013 Remastered) (3CD)
The Clash
 
Combat Rock (コンバット・ロック)

1982年 5thアルバム

 ジョー・ストラマー(Vo)、ミック・ジョーンズ(Gt)、ポール・シムノン(B)、トッパー・ヒードン(Dr)のラインナップでの最後の作品となりました。グリン・ジョンズを共同プロデューサーに招いて制作された本作は、クラッシュで最も商業的に成功したアルバムとなり、全英2位、全米7位を記録。

 オープニング曲は「Know Your Rights」。ハンドクラップと淡々としたヒードンのドラムが延々と続きます。音数が少なく非常にシンプルですが、それ故にストラマーの歌…というよりメッセージが響きますね。「殺されない権利」、「貯蓄の権利」、「言論の自由」の3つの権利があることを知れと言いつつ、その権利もむなしく理不尽な現実を訴えているような感じです。続く「Car Jamming」は躍動感のあるパーカッションに、ジョーンズのキレのあるギターがカッコ良い。レゲエに影響を受けつつ独自の進化を遂げている気がします。「Should I Stay Or Should I Go」はジョーンズの歌う楽曲。シンプルな演奏ですが、途中テンポアップする展開だとか楽しませてくれます。「Rock The Casbah」はクラッシュのシングルで唯一全米チャートトップ10入り(最高8位)した楽曲です。ホメイニ政権下イランがロックを禁止したことを受け、シャリーフは好かないだとか反対する歌を歌います。ただ政治面を抜きにしても、キャッチーなメロディは印象に残ります。続いて「Red Angel Dragnet」はシムノンの歌う1曲。彼の歌は抑揚があまり無く、歌というより演説のようです。そして「Straight To Hell」はシンプルなレゲエ曲。パーカッションが作るリズムが心地良く、まったり聴き入ってしまいます。
 アルバムは後半に突入。「Overpowered By Funk」はタイトルどおりファンキーでノリの良い楽曲です。シンセも用いて、本作中最もニューウェイヴ色が強いですね。ひたすら反復するリズムに中毒性があります。ストラマーとバックボーカルの掛け合いが面白い「Atom Tan」、円熟味のある演奏でじっくりと聴かせる「Sean Flynn」を挟んで、「Ghetto Defendant」は詩人アレン・ギンズバーグをゲストボーカルに招いたレゲエ曲。シンプルでグルーヴ感のあるサウンドです。地味ながら、歌うようなベースが印象的な「Inoculated City」を挟んで、ラスト曲「Death Is A Star」。アコースティックな雰囲気で、歌は囁くような感じで静かに終わります。

 全体的にシンプルな音作りで、前作のニューウェイヴ的な煌びやかさも落ち着いた印象です。アルバム前半は楽しめますが、後半はかなり地味な印象で、やや力不足な感は否めません。

 なお、本作リリース直前にストラマーが失踪。マネージャーのバーニー・ローズが、ツアー集客の話題作りのためにストラマーに吹き込んだのだそうです。しかし芝居のつもりが本当に失踪してしまい、しばらく連絡がつかなくなりました。ストラマーはしばらく後に復帰するものの、この後もバーニー・ローズの暴走によってクラッシュは崩壊を辿ることになります。

Combat Rock (2013 Remastered)
The Clash
 
Cut The Crap (カット・ザ・クラップ)

1985年 6thアルバム

 クラッシュのラストアルバムですが、ファンからも批評家からも不評で、商業的にもほとんど振るわなかった作品です。
 前述のジョー・ストラマー失踪事件の最中に、トッパー・ヒードン(Dr)がアルコール中毒の悪化により脱退。またマネージャーのバーニー・ローズが一方的にミック・ジョーンズ(Gt)を解雇してしまいます(一説によるとジョーンズの地位を狙ったのだとか)。残ったメンバーはストラマー(Vo)とポール・シムノン(B)、そこに新メンバーのヴィンス・ホワイト(Gt)を迎えています。またバーニー・ローズが作曲にも口を出し、しかし結果は惨憺たるものに…。ストラマー自身、本作を「無かったことにしてくれ」という趣旨の発言をしているそうで、クラッシュの作品として認めずにストラマーのソロアルバムと見なすファンも多いそうです。

 オープニング曲は「Dictator」。イントロの連打するドラムに期待が高まりますが、隙間なく詰め込まれた音色に、ホーンなどで過剰装飾されたド派手なサウンドは、クラッシュらしさから少し遠いかもしれません。「Dirty Punk」はディストーションの効いた切れ味のあるギターと、ノリの良いリズムを刻むダンスビートで爽快な1曲。中々カッコ良いです。「We Are The Clash」はまんまセックス・ピストルズ。笑 ストラマーも歌い方次第でジョニー・ロットンっぽくなるんですね。合唱も結構ワクワクさせてくれます。ヘヴィなギターや、グルーヴ感のあるシムノンのベースも良い感じ。「Are You Red..Y」はドラムマシーンが前面に出たダンサブルな楽曲。シンセもバリバリ鳴っていますが、軽くならず全体的に程よくヘヴィで締まっている印象。「Cool Under Heat」はイントロこそヘヴィなギターが鳴りますが、歌が始まるとキャッチーな楽曲になります。サッカーの歓声のような合唱が過剰装飾って感じ。続く「Movers And Shakers」は骨格部分はパンクですね。メタリックなサウンドは良いとして、また大合唱。流石にワンパターンで飽きてきます。
 アルバム後半、ゆったりとしつつファンキーな感じのある「This Is England」。本作では、先行シングルとして唯一ヒットした楽曲です。続く「Three Card Trick」はノリの良いレゲエ曲で、割とすっきりしたシンプルなアレンジに好感を持てます。「Play To Win」はドライブ感のあるサウンドが気持ち良いですが、また合唱…。「Fingerpoppin’」はドラムマシーンにハンドクラップも加わった、ノリの良いダンスチューン。ファンキーなベースも良いですね。そして「North And South」、これが中々良いんです。サウンドこそニューウェイヴ全開ですが、楽曲構成に初期のパンク曲の雰囲気が出ていて嬉しくなります。アグレッシブなストラマーの歌唱も良い。ラスト曲「Life Is Wild」も同様で、初期パンクに回帰した感じがあります…が、こちらはまた大合唱が入って煩わしい。

 過剰装飾されたキャッチーな楽曲の数々。ダンスチューンは面白いし、煌びやかなサウンドもまあ許せたとして、全編を通して合唱が煩わしいです。1、2曲なら歓迎なんですけど「どれもこれも合唱入れときゃいい」みたいな安直なアレンジがいちいち鼻につきます。ただ、楽曲を選んで聴けば中々良い佳曲も入っているとは思います。

 本作が振るわなかったこともあってか、クラッシュは1986年に解散してしまいます。ファンからは本作は無かったことにされていますが、名盤をいくつも生み出したクラッシュというバンドは高く支持され、2002年にはロックの殿堂入りを果たします。このとき再結成が期待されたものの、同年末にジョー・ストラマーが心臓発作で病死してしまったため、再結成は叶いませんでした。

Cut The Crap
The Clash
 
 

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 最初期のメンバー、キース・レヴィンが結成したポストパンクバンド。

 
 
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