🇮🇪 U2 (ユーツー)

スタジオ盤②

テクノロジー路線

Achtung Baby (アクトン・ベイビー)

1991年 7thアルバム

 それまでのルーツミュージックへ傾倒した硬派なロックから一転、打ち込み中心のダンスミュージック的な要素を取り入れて音楽的に大きく変わったことから、旧来のファンからは賛否両論だったようです。しかしファン層を大きく広げたのも確かなようで、特に海外の人気ランキングだと『ヨシュア・トゥリー』や『WAR(闘)』を差し置いて本作が1位を取っているものもいくつか見かけました。
 プロデューサーはブライアン・イーノとダニエル・ラノワ。

 オープニング曲は「Zoo Station」。イントロこそノイジーですが、歌が始まると浮遊感のあるサウンドに、ダンサブルでノリの良いリズムが展開されます。ボノのボーカルは加工されており、テクノポップ風に無機質な感じを出そうとしているのでしょうか。ちなみにタイトルはドイツのベルリンにある駅名から取ったのだとか。「Even Better Than The Real Thing」はポップな1曲。ジ・エッジの柔らかいギターは浮遊感を作り出します。アダム・クレイトンのベースもカッコいい。そして本作のハイライト「One」。シングルで大ヒットしました。美しいメロディラインを持つ感動的なこの楽曲は人間関係を歌ったのだそうですが、その解釈は人によって異なります。ゲイをカミングアウトした男と父親の関係だとか、男女の関係をうたった離婚の歌だとか、バンドのことを歌っているだとか、様々。如何様にも解釈できるようにしているのかもしれませんね。続く「Until The End Of The World」はギターが印象的で、透明感があって柔らかい。エコーによって広がりを感じさせる雄大な「Who’s Gonna Ride Your Wild Horses」、哀愁漂うメロディが美しい「So Cruel」と、メロディアスな楽曲が続きます。そして「The Fly」では歪んだギターが聞いたこともない音色を奏でます。ダンサブルなリズムに乗せて、ファルセットを使った美しいパートと、加工されたノイジーなパートが交互に入れ替わり、せわしない印象。続く「Mysterious Ways」もノイジーでダンサブル。ギターの音色にまずインパクトがありますが、その裏でアダム・クレイトンのベースのグルーヴ感が凄い。歌もキャッチーで聴きやすいです。しっとりと歌を聴かせる「Tryin’ To Throw Your Arms Around The World」に続くのは後半のハイライト「Ultraviolet (Light My Way)」。神聖な雰囲気のオープニングから、浮遊感のあるカッティングとともに演奏が始まります。このワクワクする感じはU2節ですね。激しさはありませんが、ボノの包み込むような優しい歌が染み入ります。続く「Acrobat」は、本作では主張が控えめだったラリー・マレン・ジュニアのドラムが存在感を発揮する楽曲です。ノイジーなギターも印象的。ラスト曲「Love Is Blindness」は陰鬱ながらも美しいバラード。囁くようなボノの後ろで哀愁を掻き立てるギターが良いです。

 演奏だけでなく、ボノの歌い方も優しく柔らかくなりました。エコーによる空間的な広がりも相まって、包容力が感じられます。そんな中、ジ・エッジのギターは実験的な試みが様々なされています。初期のポストパンク時代の鋭利なナイフのような鋭さを考えると大きな変化ですが、親しみやすいので入門編としても向いているかと思います。

Achtung Baby
U2
 
Zooropa (ZOOROPA)

1993年 8thアルバム

 テクノロジー路線の2作目となる本作。タイトルの由来は『Zoo (楽曲「Zoo Station」や、本作レコーディングの最中に行っていた「ZOO TVツアー」より)』と『Eupopa (エウロペという名のギリシャ神話上の女性)』の造語です。病んだジャケットはEUの国旗でしょうか?
 プロデューサーにはフラッド、ブライアン・イーノ、ジ・エッジが名を連ねます。

 オープニング曲は「Zooropa」。ノイズをバックに冷たいピアノが鳴り、そこからファンキーなサウンドに乗せてひたすら陰鬱な歌が展開されます。後半に入ると陰鬱から少し抜け出して、浮遊感のあるサイケデリックなサウンドをバックにメロディアスな歌。トリップできそうです。「Babyface」ではキラキラとしたキーボードに、ディストーションを利かせた非常にヘヴィなギターが対照的。反復される歌には中毒性があります。続いて「Numb」は、賑やかなサウンドと対照的にジ・エッジがぼそぼそと呟く単調な楽曲…ですが、妙に印象に残ります。「Lemon」はリズム隊が強烈なグルーヴ感を生み出すダンスミュージックです。ボノがファルセットで歌うところやコーラスも含めてR&Bっぽくもありますが、合間合間にピアノパートが表れ、これがなかなか美しい。ここまでダンスミュージック色が強かったのですが、「Stay (Faraway, So Close!)」はグルーヴィなベースはあるものの、これまでのU2らしい楽曲。優しさに溢れ、温もりを感じられます。「Daddy’s Gonna Pay For Your Crashed Car」は前半はダンサブルですが重たくダークな雰囲気。後半はダンスミュージックの側面が強調されています。ファンキーなサウンドに似つかわしくない陰鬱な歌が展開される「Some Days Are Better Than Others」に続くのは、ダンスミュージックから離れて「The First Time」。暗鬱で哀愁漂う静かな楽曲で、しっとりと歌います。囁くように歌う「Dirty Day」は、静かでときにノイジーなサウンドにひんやりとした感触があります。ラストの「The Wanderer」は、カントリーの大御所ジョニー・キャッシュが歌います。無機質なサウンドに乗る渋い声のギャップが凄い。コーラスが美しいです。

 テクノ色の強い作品でダンサブルなサウンドが並ぶのに、雰囲気は陰鬱というギャップがあります。ガツンとくる楽曲は少なく、全体的に暗いものの、中毒性のある音世界に引き込まれると心地良く浸ることができます。

Zooropa
U2
 
Pop (ポップ)

1997年 9thアルバム

 テクノロジー路線の3作目。ポストパンク、ルーツミュージック、テクノロジーと3作毎に変わってきたアプローチ。過去の作品がそうであったように、3作目にあたる本作はこのテクノ路線を極めています。特に冒頭3曲が極端なディスコサウンド。
 プロデューサーにはフラッド、ハウイー・B、スティーヴ・オズボーンらが名を連ねます。

 オープニング曲「Discothèque」からディスコサウンド全開。サウンドこそテクノだったけれどU2らしいシリアスさのあった前作と比べ、どうしちゃったの?ってくらいはっちゃけています。これまでのU2のイメージからはかけ離れていますが、ダンサブルでカッコいい1曲です。続く「Do You Feel Loved」もダンサブルなサウンドですが、哀愁漂う歌メロはじっくり聴かせる感じ。そして「Mofo」は1曲目と同様ディスコサウンドに特化しています。グルーヴ感のあるサウンドはカッコいいですが、ボノの歌がなければU2だとはわからないかも。ここから極端なテクノ色は薄れ、「If God Will Send His Angels」はしっとりと聴かせる楽曲。続く「Starting At The Sun」は湿っぽいバラード。アコースティックギターとエレキギターが良い具合に絡み合っています。ドラムが少し軽いのが気になる…。「Last Night On Earth」では再びグルーヴ感のあるリズム隊が活躍するダンサブルな楽曲に。続く「Gone」はディストーションの効いたギターと、うねるベースがカッコ良い。「Miami」は単調で退屈なのですが、終盤で突如叫ぶのには驚かされます。ゆったりとした「The Playboy Mansion」、囁くように静かに流れる「If You Wear That Velvet Dress」と続き、切なげなバラード曲「Please」。リズム隊はグルーヴ感がありますが、その中で泣きのギターを奏でるジ・エッジの演奏がボノの歌と合わさって感情を揺さぶります。「Wake Up Dead Man」は単調なメロディですが、演奏が徐々に盛り上がっていく高揚感が良い。

 U2らしくない冒頭3曲が特にカッコ良いのですが、他の楽曲は出来はバラつきがあります。
 ここでテクノロジー路線は終了し、次作以降で原点回帰していきます。

Pop
U2
 

原点回帰

All That You Can't Leave Behind (オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド)

2000年 10thアルバム

 前作までダンスミュージックに傾倒したU2でしたが、本作では昔のU2が戻ってきたと、原点回帰した音楽性は旧来のファンに歓迎されたようです。攻撃性はありませんが、円熟味と安定感のある楽曲が並びます。ブライアン・イーノとダニエル・ラノワが再びプロデューサーに就きました。

 オープニングを飾る「Beautiful Day」が本作のハイライトでしょう。静かに始まって、サビでは一気に解放させるかのようなエネルギー。メロディアスな歌を、しゃがれ気味の声を振り絞るように歌うボノの歌唱には心を打たれます。あまりに美しい名曲です。続く「Stuck In A Moment You Can’t Get Out Of」はシンセサイザーの綺麗で優しい音色に、ラリー・マレン・ジュニアの力強いドラムはテクノロジー路線ではあまり見られなかった演奏ですね。メロディも美しいバラードです。「Elevation」はディストーションの効いたヘヴィなギターがパンチ力のあるロック曲。「Walk On」はミャンマーの民主化指導者で軟禁中のアウンサンスーチーに捧げた楽曲です。優しく包容力のある歌で染み入ります。続く「Kite」はゆったりとした1曲。間奏の、ジ・エッジのギターソロがエモーショナルで良いですね。シンプルなサウンドにボノの歌が映える「In A Little While」、カントリー調で優しい「Wild Honey」、ゆったりとした雰囲気の中でドラムがカッコいい「Peace On Earth」と続きます。「When I Look At The World」はギターの音色が良く、夢見心地を提供したかと思えば泣いたりと表現豊かです。「New York」は、ダンサブルなリズムを刻むドラムに静かな歌が乗ります。後半には溜めていたエネルギーを一気に解放。少しシリアスで、刺激的な1曲です。そして子守歌のように静かな「Grace」でアルバムを締めます。

 メロディアスで優しい楽曲が並ぶ本作は、聴き心地の良い作品に仕上がっています。但し刺激的なロック曲はほぼないので、後半になると冗長な印象も抱きます。

All That You Can’t Leave Behind
U2
 
How To Dismantle An Atomic Bomb (原子爆弾解体新書~ハウ・トゥ・ディスマントル・アン・アトミック・ボム)

2004年 11thアルバム

 いくつかのプロデューサーの手に渡るも納得のいくものが出来上がらなかったようで、最終的に『WAR(闘)』以来となるスティーヴ・リリーホワイトの手によって纏め上げられました。これがとても良い出来で、聴きごたえのある作品になりました。

 アルバムは「Vertigo」で開幕。「Uno, dos, tres, catorce! (1, 2, 3, 14!)」の掛け声で始まる軽快でノリの良いロックンロールです。切れ味の鋭いジ・エッジのギター、バキバキ唸るアダム・クレイトンのベース、ダイナミズムを生み出すラリー・マレン・ジュニアのドラムに、一緒に歌いたくなるようなボノの歌うキャッシュな歌。iPodのCMに採用された楽曲で、めちゃめちゃカッコ良く、U2の3本の指に入る超名曲です。正直本作を聴く理由はこれが聴きたいから。笑 実のところ「Vertigo」以外にストレートなロックは「All Because Of You」くらいで、アルバムの中ではやや異端な部類ですが、アルバムにアクセントを与える大事な楽曲です。「Vertigo」が突出しているものの、他の楽曲も佳曲揃いです。続く「Miracle Drug」は一転、メロディアスで哀愁漂う楽曲です。ボノのしゃがれ気味の歌唱が涙を誘い、ハードな演奏からはジ・エッジのギターが泣かせにかかってきます。あまりに美しい1曲です。美しくも切ない「Sometimes You Can’t Make It On Your Own」は、ボノが父の死を悼んだ楽曲。切ない歌唱は、この背景を知ってから聴くとより涙を誘います。メタリックでヘヴィな「Love And Peace Or Else」に続くのは「City Of Blinding Lights」。澄んでいて美しく、でもカラフルな印象も受ける音色は聴いていて心地良い。グルーヴィなベースやタイトなドラムは夢見心地の気分にメリハリを与えます。美しく爽やかなだけの楽曲ではなく、ブリッジで一瞬展開を変えてくるところとか、スリルも内包しています。「All Because Of You」はイントロで金切音を立てるギターに名曲の予感というか、ワクワクする感じを抱きます。歌が始まるとストレートなロックですが、ジ・エッジが所々浮遊感を演出して心地良い。そして歌はメロディアスで、とても切ない雰囲気です。「A Man And A Woman」、「Crumbs From Your Table」と切なくメロディアスな楽曲が続きます。そして「One Step Closer」は静かに優しく語りかけるようなバラードで、ボノの友人であるオアシスノエル・ギャラガーの言葉が元になったという楽曲です。そのオアシスにも似た雰囲気の次曲「Original Of The Species」は、ストリングスも用いた壮大なバラード。感動的な1曲です。ラストは「Yahweh」。青空を感じさせる、ラストに相応しい雄大で爽やかな曲です。なお英国盤と日本盤にはこのあと「Fast Cars」というラテン風なボーナストラックが付きますが、これは「Yahweh」で終わらせた方が良いです。

 地味なアルバムジャケットからは想像がつかないくらいに彩られた楽曲に満ち溢れています。メロディアスで円熟味のある楽曲は前作を継承しつつも、所々にロックしている楽曲が加わって緩急をつけており、聴き手を飽きさせません。でもこれだけの名曲を揃えながらも、それを霞ませる超名曲「Vertigo」のせいで、本作を手に取る回数はかなり多いものの、通しで聴いた回数は意外と少なかったり。笑

How To Dismantle An Atomic Bomb
U2
 
 
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