🇬🇧 Anderson Bruford Wakeman Howe (アンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウ)

レビュー作品数: 2
  

スタジオ盤

Anderson Bruford Wakeman Howe (閃光)

1989年 1stアルバム

 アンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウ(以下ABWH)はイエスの派生バンドです。
 『ビッグ・ジェネレーター』発表後に本家イエスを脱退したジョン・アンダーソン(Vo)が、イエスの旧メンバーであるビル・ブラッフォード(Dr)、リック・ウェイクマン(Key)、スティーヴ・ハウ(Gt)に声をかけて結成したのがABWHです。当初はイエスを名乗ろうとしていましたが、クリス・スクワイア主導のイエスが存在していたため名乗れず、苦し紛れにこのようなバンド名となりました。ABWHは、1作を発表後に本家イエスと和解・合流します。その後8人メンバーによる問題作『結晶』を発表するに至ります。

 クリス・スクワイアの代わりに、元キング・クリムゾンのトニー・レヴィンをベースに迎え、サポートにマット・クリフォード(Key)やミルトン・マクドナルド(Gt)らも参加して制作された本作。組曲が組まれておりプログレを感じられる要素もありますが、ピアノの美しい音色やポップなメロディなど、肩の力を抜いて聴けるような作品で、決して敷居は高くありません。モダンにしたプログレ期イエスといったところでしょうか。ロジャー・ディーンによるジャケットアートも含めて、1980年代のイエスが受け入れられなかった人の受け皿のような位置づけですが、本家イエスを知らない人でも十分に楽しめる作品だと思います。本作を聴いてから本家イエスを遡ってみても良いかもしれません。クリス・キムゼイとジョン・アンダーソンの共同プロデュース作。

 オープニング曲は3つのパートから成る組曲「Themes」。透明感のあるピアノを中心に、強烈な電子ドラムが加わります。ジョンのハイトーンボイスは天に導いてくれるかのよう。終盤のやや唐突なリズムチェンジは組曲の切れ目ですね。そこからのギタープレイは聴きどころです。続いて「Fist Of Fire」ではアフリカンなパーカッションが一見神秘的な雰囲気を作りますが、華やかなキーボードで明るくポップに飾られているところにイエスをらしさ感じます。「Brother Of Mine」も3パートから成る組曲です。ジョンの美声に始まり、キャッチーなメロディを紡ぎます。途中強引なリズムチェンジが入った後、別のメロディが歌われますが、やはりキャッチーで聴きやすい。「Birthright」は荘厳で神秘的な雰囲気ですが、後半はプリミティブなドラムに華やかなキーボードで賑やかになります。「The Meeting」はリックの美しいピアノをフィーチャーし、ジョンが歌う綺麗な楽曲。癒されます。続く「Quartet」は4パートから成る組曲。スティーヴの牧歌的なギターに始まり、途中主導権をリックに譲りますが、全体的にほのぼのとした雰囲気。前曲から一転して「Teakbois」は場違いなくらいにポップなので驚かされます。ラテンのリズムで底抜けに陽気な楽曲で、ディズニーとかにありそうな雰囲気。続いて4パートから成る組曲「Order Of The Universe」。長尺のイントロに浸っていると、キャッチーな歌メロが始まります。他の楽曲と比べてサウンドはソリッドで、90125イエスの作風に似ているかも。最後はアコギ主体の「Let’s Pretend」でしっとりと締めます。

 プログレ期イエスよりもモダンで、90125イエスよりも牧歌的。美しい楽曲が並び、BGMにも真剣に向き合うにも適したとても聴きやすい作品です。
 個人的にはABWHにイエスを期待して聴いてしまい、メンバーにならなかったクリス・スクワイアの不在を物足りなく感じてしまいますが(特にコーラスワーク)、しかしクオリティの高い作品ではあるので一聴の価値ありです。

Anderson Bruford Wakeman Howe
Anderson Bruford Wakeman Howe
 
 

ライブ盤

An Evening Of Yes Music Plus (イエス・ミュージックの夜)

1993年

 ビル・ブラッフォードの叩く「Close To The Edge」のライブが聴きたい…そんなイエスファンの長年の夢物語が叶った、ABWHのライブ盤です。曲目を見てもイエスの懐メロ大会でファンには嬉しいところ。1989年のツアーを収めたもので、DVDも出ていますが、DVDも合わせてオススメです。なおツアータイトルにイエスと銘打ったことから、クリス・スクワイア率いる本家イエスとの間で裁判沙汰になりました。しかし後に和解し、イエスにABWHが合流してお家騒動は収束しました。
 さて本ライブ盤ですが、スタジオ盤に参加したトニー・レヴィン(B)は残念ながら病欠で、代打でジェフ・バーリン(B)が参加。またサポートにジュリアン・コルベック(Key)、ミルトン・マクドナルド(Gt)が参加。
 
 
 ベンジャミン・ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」から続けて「Jon Anderson Solo: Time And A Word/Owner Of A Lonely Heart/Teakbois」が始まります。アコギをバックに、ジョン・アンダーソンが癒し声で美しいメロディを歌うメドレーです。この人、若い頃よりも老いるほどに美声になっていくんですよね(当時まだ中年ですが)。特に聴きどころは「Time And A Word」パートでしょう。原曲よりもキーが高くて、メロディの美しさを際立たせています。続いて「Steve Howe Solo: Clap/Mood For A Day」スティーヴ・ハウの定番ソロ曲ですね。アコギの優しくもご機嫌な音色は、イエスのライブでほっとするひと時です。そして「Rick Wakeman Solo: Madrigal/Catherine Parr/Merlin The Magician」。リック・ウェイクマンは自身のソロ作品から選曲。映像だとローブを纏って魔術師のような出で立ちです。手癖で鍵盤を弾く驚異の速弾きはリックにしか出来ない芸当でしょう。少し煩わしさもありますが。笑 そこから美しいピアノに乗せたバンド曲と、ビル・ブラッフォードのドラムソロを続けざまに披露する「Long Distance Runaround/Bill Bruford Solo」。ビルが叩くのは電子ドラム。スネアはまるでマシンガンのようで、タムはエコーを効かせた独特の響きです。そのまま続く「Birthright」はアフリカンビートを取り入れたパーカッションが神秘的な雰囲気を作り、そこにジョンの高音が響き渡ります。終盤のキーボードも印象的。そして「And You And I」、「I’ve Seen All Good People」というイエスのライブ定番曲が続き、イエスの良さを再認識させてくれます(ABWHのライブなのに)。本家イエスに残っているため当然不参加のクリス、彼のコーラスワークが無いのが少し残念ですが、ジョンとスティーヴでコーラスをうまく対応しています。

 ディスク2枚目に入り、本作の最大の聴きどころ「Close To The Edge」。本作をオススメする最大の理由はこの1曲にほかなりません。ビルのトリッキーなドラムが非常にスリリングです。アラン・ホワイトの安定したドラムがなければイエスというバンドは続かなかったでしょうが、アランでは決して出せない、バンドを下支えする気のない奔放なプレイが作る破綻寸前のスリル。アランも好きですが、唯一この楽曲だけはビルが叩いて完成という気がします。中盤のキーボードソロが、これでもかと原曲を遙かに超えて自己主張する点だけ気になりますが笑、全体で見ると素晴らしい名演だと思います。そしてABWHのライブだと思い出したかのように「Themes」。軽やかなピアノにトリッキーなドラムで明るく爽やかな印象。ベースが結構強烈。途中リズムを変えてくるところがスリリングです。「Brother Of Mine」はキャッチーでメロディアスな歌とは裏腹に、リズムチェンジを駆使した変態的な楽曲で、前曲と合わせてロジャー・ディーンの描くジャケットアートの世界観のような神秘的な世界へ誘います。イエス屈指のハードロックソング「Heart Of The Sunrise」ではスティーヴのギターが活躍。ヘヴィな演奏を聴かせます。「Order Of The Universe」では華やかな長尺イントロに癒されます。歌メロもキャッチーで聴きやすく、中盤からは元気が出るアップテンポ曲になります。そしてイエスライブ定番曲「Roundabout」。スティーヴ大活躍の1曲ですね。イントロのギターからワクワクします。アランのドラムで聴き慣れているので、ビルの叩くライブ演奏は新鮮な印象。ジェフ・バーリンのベースも存在感があって良い。ラストは定番の「Starship Trooper」。カラフルな音色でドライブ感のある名曲です。イエスライブで安心して聴ける楽曲の一つで、いつまでも浸っていたい、ライブが終わらないで欲しいと思わせてくれます。終盤は単調なパートにアレンジを加えてとてもスリリングな演奏で終えます。最高。
 
 
 正直『イエスソングス』よりもよっぽど出来の良いライブです。というかイエスはライブバンドなので『イエスソングス』を上回るライブはいくつもありますけどね。あえて分家バンドのライブを推す理由はただ一つ、ビル・ブラッフォードの「Close To The Edge」が聴ける。このことに価値を見出せる方は是非聴いてみてください。本家も合わせると、『キーズ・トゥ・アセンション』に次ぐ名ライブ盤だと思っています。

An Evening Of Yes Music Plus
Anderson Bruford Wakeman Howe
 
 

関連アーティスト

 バンドの本家。

 
 スティーヴ・ハウ(Gt)のソロ活動。
 
 
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