🇬🇧 Yes (イエス)

レビュー作品数: 29
  

スタジオ盤①

サイケデリックロック~プログレ黎明期

Yes (イエス・ファースト・アルバム)

1969年 1stアルバム

 イングランドのプログレッシヴロックバンド、イエス。リーダーのクリス・スクワイア(B)とジョン・アンダーソン(Vo)を中心に、バンドを命名したピーター・バンクス(Gt)、手数の多いドラマーのビル・ブラッフォード(Dr)、そしてトニー・ケイ(Key)の5人で1968年に結成しました。
 英国のバンドで初めて米国の老舗レーベルであるアトランティック・レーベルと契約するなど、業界の過剰な期待とは裏腹に、大した成果は得られませんでした。
 コーラスワークの多用という、後の作品でも貫かれるバンドの特徴が本作で既に見られますが、ただ本作で展開されるのはサイケデリックロックであり、プログレバンドとしての才覚はここではまだ見られません。

 ポール・クレイのプロデュースで、ジャケットのロゴ案はピーターの発案。
 オープニング曲は「Beyond & Before」。コーラスワークを駆使していて心地良いものの、1曲目にするにはかなり弱いです。「I See You」はバーズのカバー曲。ビルの叩くドラムがジャズ風の演奏を聴かせます。7分近い演奏で、演奏はなかなかスリリングで聴きごたえがあります。続いて「Yesterday And Today」は静かで優しいサウンドをバックに、ジョンが囁くような声で歌います。「Looking Around」はトニーのハモンドオルガンが軽快に、そしてクリスのベースがゴリゴリとヘヴィな音色を奏で、後のプログレ時代の音作りが表れている気がします。楽曲構成に難解さはないですけどね。
 レコードB面、アルバム後半は「Harold Land」で幕開け。タイトルに冠したのはジャズ・サックス奏者の名前です。楽曲としては弱いものの、少し捻った構成は後のプログレ時代の片鱗が垣間見えます。続いて「Every Little Thing」ビートルズのカバーですが、長尺のイントロなどアレンジが加えられていて別物の楽曲として生まれ変わっています。スリリングな演奏が繰り広げられ、本作では突出して出来が良いです。バンドとしての方向性もこの楽曲が指し示しているような気がします。ゆったりとした「Sweetness」を挟んで、ラスト曲は「Survival」。ジャズチックな楽曲で、オリジナル曲では最も優れています。ジョンの優しいボーカルがメロディアスな歌を紡ぎ、癒されます。これもバンドの方向付けに一役買っている気がします。

 部分的には光るものもあったりしますが、アルバム全体でみると、バンド名をアルバムに冠している割にはパンチ力に欠けるというのが正直なところです。バンド側も思うところがあったのか、3rdアルバムで『The Yes Album』と再度バンド名を冠した作品を出しており、1stよりも3rdの方が断然優れています。

Yes (Expanded & Remastered)
Yes
 
Time And A Word (時間と言葉)

1970年 2ndアルバム

 プロデューサーにトニー・コルトンを迎えた本作は、オーケストラとロックの融合が図られています。この時期いくつかのバンドで同様の試みがなされています。前作より良い曲が増え、聴きやすさは増しました。

 リッチー・ヘイヴンスのカバー曲「No Opportunity Necessary, No Experience Needed」で開幕。オーケストラを大胆に導入したイントロから始まる演奏はヘヴィで、クリス・スクワイアの異様に目立つベースと、トニー・ケイのオルガンが印象的です。耳に残るキャッチーさがあります。続く「Then」はビル・ブラッフォードのドラムが緊迫感を煽ります。全体的にヘヴィでシリアスな空気が漂いますが、ジョン・アンダーソンの歌がサビに達すると光が射したかのような晴れやかさが一瞬表れます。「Everydays」は静寂が支配して儚い印象を抱きますが、後半は非常にヘヴィ。スリル満点の演奏が聴けます。続く「Sweet Dreams」は初期の名曲の一つ。ブイブイと唸るあまりに主張の激しいベースは笑えるほどですが、メロディはポップで耳に残ります。
 後半は「The Prophet」で幕開け。曲調がころころ変わる楽曲です。完成度はそこまで高くないものの、複雑な構成の大作を模索しているように見えます。この路線が次作以降で完成して名曲群を生み出すんですね。オーケストラをバックにしっとりとした歌を聴かせる「Clear Days」を挟んで、シリアスな雰囲気の「Astral Traveler」。ボーカルが変に加工されていてグワングワン揺さぶってきます。最後は名バラード「Time And A Word」。メロディラインの美しさは心に響くものがあり、語感も心地良いです。ただ、後年の素晴らしいライブを先に聴いていると、ジョンの声が低くて聞き取りづらい印象で、またオーケストラが少し煩わしい。後年のライブアレンジの方が圧倒的に良いですが、あえてオリジナルバージョンの魅力を挙げるとすれば爆音ベースでしょうか。笑

 いくつか初期の名曲を収録している本作。ただ、これら名曲は後年のライブでも聴けるうえ、ライブバンドとしても名高いイエス。最初期の楽曲は後年のライブ演奏のほうが洗練されているので、ライブ盤をお持ちであれば、あえて本作で聴かなくても良いという感じはします。

 なお、プロデューサーのトニー・コルトンと、オーケストラの導入に否定的だったピーター・バンクスの折が合わず、結果としてピーターのギターの大半がオーケストラに差し替えられ、そのままピーターの解雇へと繋がりました。メンバーチェンジの激しいバンドで、同一ラインナップで2作以上作られることはないのですが、それはこの時期から始まっていたようです。

Time And A Word (Expanded & Remastered)
Yes
 

プログレ黄金期

The Yes Album (イエス・サード・アルバム)

1971年 3rdアルバム

 解雇されたピーター・バンクスに代わり加入したスティーヴ・ハウ(Gt)。彼の加入が大きく、作曲にも大きく貢献し、1stと2ndでバンドが模索していた複雑な構成を、新加入のスティーヴの技術力とアイディアを加えて開花させました。また共同プロデューサーに就いた、イエス第6のメンバーとも言われるエディ・オフォード。彼の力量もあって、サウンドプロダクションはとても良いです。収録曲の大半がライブの定番曲という本作の完成度の高さは名盤に相応しく、プログレバンド黄金時代の幕開けを感じさせる作品です。
 自信の現れか、1stでバンド名を冠した作品を出したにもかかわらず『The Yes Album』と再度バンド名を冠しています。なお、ジャケットにはメンバー写真と、宙に浮く生首。ピーター・バンクスを表したものだとも言われており、そうだとしたらセンスを疑いますが…。

 オープニング曲の「Yours Is No Disgrace」は10分近い楽曲。長尺でも飽きさせない構成力は流石で、構成は複雑なもののキャッチーで聴きやすく、抜群のドライブ感があります。ジョン・アンダーソンの陽気な歌の裏側で繰り広げられるスリリングな演奏。バキバキ唸るクリス・スクワイアのベースの存在感は相変わらず強烈ですが、新加入のスティーヴも負けじとギターソロで演奏バトルに参加します。ビル・ブラッフォードは手数の多いドラムを叩き、トニー・ケイのキーボードも音色が広がりました。続いてスティーヴのアコースティックギターソロである「The Clap」はとても軽快な楽曲で、ライブの定番です。なお本来「Clap (手拍子)」とすべきところ、誤植で「The Clap (淋病)」となってしまったようで、後年のライブでは「Clap」というタイトルに変わっています。続いて、ライブの最終曲として演奏されることの多い「Starship Trooper」は3部構成の組曲。序盤は突き進むかのような演奏とメロディアスでキャッチーな歌メロ。中盤は雰囲気を変えますが、無理のない自然な繋ぎ方。スティーヴのアコギが軽快で、ジョンとクリスのコーラスが美しい。そして終盤のインストパートは、まるで宇宙空間を旅するかのよう。いつまでだって浸っていたいと思わせる心地良さがあります。イエス5本の指に入るであろう名曲です。
 アルバム後半に入り、2パートから成る組曲「I’ve Seen All Good People」。前半は牧歌的で美しい歌メロで、ジョンの高音は絶好調。また、イエスの武器の一つであるコーラスワークが発揮されています。後半は陽気でノリの良いパートに変貌。キャッチーな歌メロはそらで歌えてしまうくらい、分かりやすいメロディと同じフレーズの反復。楽しい1曲です。続いて小曲「A Venture」。ライブの選曲で聴かないのはこの楽曲くらいですね。他の名曲群に隠れて少し地味ですが、悪くはありません。ラストは9分の大曲「Perpetual Change」。イントロのギターとオルガンに圧倒され、そこにベースとドラムのリズム隊が加わりスリルを増強する。イントロが終わると一気に静かになりますが、メロディアスな歌は心地良い。静と動の対比が激しく、リズムチェンジによる場面転換もスリリングです。あっという間で長さを感じさせません。

 収録曲6曲のうち3曲が10分近いのですが、優れた構成力で全く飽きさせずに聴かせてくれます。ほとんどの楽曲がライブの定番なのでライブで聴いても良いですが、サウンドプロダクションも飛躍的に上昇したため、本作もこれはこれでとても聴きごたえがあります。

サード・アルバム
(スティーヴン・ウィルソン・リミックス)
Yes
The Yes Album
(Expanded & Remastered)
Yes
 
Fragile (こわれもの)

1971年 4thアルバム

 次作『危機』に次ぐ傑作として挙げられることの多い作品で、個性強烈なメンバーのギリギリの関係を表してか、タイトルは『Fragile (こわれもの)』。オルガンの音色にこだわったトニー・ケイと、多彩な表現力を求めるバンドの対立からか、トニーは脱退してしまいます(約10年後に復帰しますが)。そしてリック・ウェイクマン(Key)が加入して、イエスの黄金期を飾るラインナップが完成します。更にジャケットアートを担当したロジャー・ディーンはイエスのシンフォニックな楽曲によく似合う幻想的な絵画を作り、イエスのジャケットと言えばロジャー・ディーンといったイメージがあります。イエス以外にも幻想的なジャケットアートを提供し、プログレバンド御用達のデザイナーとなりました。
 本作においては5人のアンサンブルが奏でられるのは4曲で、その合間に個々人のソロ楽曲を挟むという構成です。ソロ曲は引き立て役といったところ。前作に引き続きイエスとエディ・オフォードの共同プロデュース。

 アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』のエンディング曲にも採用された、イエスの代表曲「Roundabout」で開幕。イントロのスティーヴ・ハウの美しいアコギから雪崩れ込むように演奏が始まります。その中では爆音ベースが一際目を引きますが、個性の強いメンバーに埋もれまいとするクリス・スクワイアの意地でしょうか。歌メロも美しい名曲で、またスリリングな演奏もあって8分半の長さを感じさせません。ただ、ライブの定番曲なので、後年のライブのこなれた演奏のほうがベストテイクだとは思っています。続いて新加入のリックのキーボードソロ「Cans And Brahms」。ブラームスの交響曲第4番第3楽章を多重録音で表現しています。続いてジョン・アンダーソンのソロ「We Have Heaven」。ボーカリストのソロ楽曲だからアカペラ…ということはなく、控えめながらもドラムやギターは聞こえます。ボーカルの多重録音でコーラスを表現し、ジョンの存在感をアピールします。そして8分近いバンド曲「South Side Of The Sky」。ヘヴィロック的な重厚なサウンドの前半と終盤の合間に、美しいピアノソロや高音コーラスで哀愁漂う中盤パートが挟まれています。
 アルバム後半は、ビル・ブラッフォードのソロ「Five Per Cent For Nothing」で始まります。「無益の5%」という邦題の付いたこの楽曲は、前任のマネージャーへ払い続けるロイヤリティを皮肉ったものだそうですが、正直言えば本作におけるこの楽曲こそ「無益の5%」だと思います…。続いてバンド曲「Long Distance Runaround」は小曲ですが、ヘヴィな演奏に乗るキャッチーな歌メロは耳に残ります。そのまま途切れずにクリスのソロ楽曲「The Fish (Shindleria Praematurus)」に続きますが、ライブでも2曲セットで演奏されることが多いです。なおクリスのソロ曲のタイトルは彼のあだ名から来ていて、遅刻常習犯のクリスが長風呂を言い訳に使ったことからこのあだ名が付いたのだとか。ソロ楽曲では頭ひとつ抜き出た完成度です。そしてスティーヴ・ハウのソロ「Mood For A Day」。アコギ1本でシンプルに聴かせますが、優れたメロディセンスが発揮されています。前作の「Clap」と並んでライブでよく演奏される楽曲です。最後に12分弱の大作「Heart Of The Sunrise」。本作中最もハードな楽曲で、ギターとベースのヘヴィなリフが特徴的。静と動の対比が激しくスリル満点で、長さを感じさせず一気に聴かせます。本作においては「Roundabout」に次ぐ出来の良さです。

 ソロ楽曲は箸休め的な感じですが、その中ではクリスとスティーヴの作品がそれぞれ頭ひとつ抜き出ている感じです。個人的にはこの2人がイエスのサウンドの屋台骨だと思っています。
 バンド楽曲は出色の出来ですが、アルバム全体でみると5人のアンサンブルが奏でられる楽曲が少ないです。世間では『危機』に次ぐ地位を得ているものの、少し過大評価な感はあります。聴きやすいのは確かですけどね。

こわれもの
(スティーヴン・ウィルソン・リミックス)
Yes
Fragile
(Expanded & Remastered)
Yes
 
Close To The Edge (危機)

1972年 5thアルバム

 イエスの最高傑作と名高く、またプログレ作品の中でも1、2を争うくらい人気の高い作品が本作です。前作と同じラインナップで制作された本作にはたったの3曲しか入っていませんが、約20分+10分+10分という非常に濃密な構成で、しかも全曲がライブの人気曲という充実っぷりです。ここから数作は大作主義が続きます。
 アルバムの流れとしては曲順に「?」がつくものの、これだけの大曲を一切だれることなく聴かせる構成力の高さや、自己主張の強い各楽器がぶつかり合って崩壊寸前ギリギリのところで保っているという、凄まじい緊張感が評価されているようです。
 ロジャー・ディーンによるジャケットは緑に染められたシンプルなものですが、内ジャケットには幻想的な世界が描かれていて、表題曲の世界観を表しているのでしょうか。とても美しいです。丸みを帯びたyesのバンドロゴも、本作から採用されています。

 表題曲「Close To The Edge」はバンドの最高傑作で、プログレ最高峰の1曲です。ヘルマンヘッセの『シッダールタ』に着想を得たと言われています。目まぐるしく変わる本楽曲は4パートから成る組曲で、高い緊張感を維持したまま19分弱を一気に聴かせます。最初の6分は「The Solid Time Of Change」と名付けられたパートで、鳥のさえずりから雪崩れ込むように、各楽器が俺が俺がとせめぎあい、非常にスリリングな演奏を展開。ジョン・アンダーソンの陽気な歌が始まると、演奏バトルは少し落ち着きを見せます。6分から8分半までは第2パート「Total Mass Retain」。第1パートの歌から違和感なく繋がります。メロディアスな歌は魅力的です。そして第3パート「I Get Up, I Get Down」は静かで幻想的な世界へ。激しい演奏は息を潜め、浮遊感のある演奏に乗せて美しいコーラスワークを展開。そしてリック・ウェイクマンの鮮烈なキーボードソロから次の第4パートへ繋ぐ瞬間、12分~15分頃が恐ろしいほどの緊張感があります。14分過ぎからは第4パート「Seasons Of Man」。前のパートから途切れず続く、最も緊張感のあるパートで、激しい演奏バトルを繰り広げながら疾走します。そして激しさがあったからこそ感動する、ラストの大団円とも言える「I get up, I get down」のコーラスの美しさと、鳥のさえずりのアウトロの癒やし。至福のひと時です。なお、これらの異なる4つの楽曲を「Close To The Edge」という最高の組曲に纏め上げたのは、実はプロデューサーのエディ・オフォードによるテープ編集の賜物でもあります。メンバーは耳コピを重ねてライブに臨んだそうですが、本作ツアー前にビル・ブラッフォードが脱退し、このラインナップによる演奏は本作でしか聴くことは出来ませんでした。ビルの、各楽器を纏めることなく自由奔放に叩く不安定なドラムが生み出す緊張感は、後任ドラマーとして加入するアラン・ホワイトの「皆を支えます」的な安定したアプローチとはかなり質が異なります。この楽曲だけはビルが叩いて完成だと思っています。
 続く「And You And I」も4つのパートから成る組曲です。『イエス・サード・アルバム』の頃のような、牧歌的で心穏やかになれる名曲です。スティーヴ・ハウのアコギが優しい。中盤はメロトロンによる浮遊感のある世界観を作ります。これ自身もクオリティは決して低くはないものの、前後2曲がイエストップクラスの超名曲なので、アルバムの流れで聴くと相対的に、少し落差を感じたりもします。
 そしてライブのオープニングの定番「Siberian Khatru」は軽快な疾走曲。表題曲にも劣らないイエスで1、2を争う屈指の超名曲です。ちょっと長めのハードロックといった感じで、4分の15拍子という少しトリッキーなリズムを刻みますが、本作の中では抜群にとっつきやすい1曲ですね。激しい演奏をよそに陽気な歌を奏でるジョンのボーカルとメンバーによるコーラスワークは、一緒に口ずさみたくなるとてもキャッチーな歌メロ。というかアルプス一万尺に似てる。笑 タイトルにつく「Khatru」や、歌詞に出てくる単語の羅列の意図はジョンにしかわかりませんが、語感を重視しただけで深い意味はないのではないかと思っています。

 とにかく強烈な個性を放つ3曲。アルバムとしての流れはさほど良くないものの、恐ろしいほどの楽曲のクオリティの高さでカバー。長尺なのに、あっという間に聴かせてしまう緊張感の持続は見事です。

危機
(スティーヴン・ウィルソン・リミックス)
Yes
Close To The Edge
(Expanded & Remastered)
Yes
 
Tales From Topographic Oceans (海洋地形学の物語)

1973年 6thアルバム

 イエスの問題作であり、かなり人を選ぶものの個人的には最高傑作と思っている作品です。意味不明なタイトルですが、ロジャー・ディーンの描いた幻想的なジャケットも相まって、なんとなく想像を掻き立てられる名(迷?)訳だと思っています。

 前作『危機』で素晴らしい大作を披露したイエスに対する期待も高かったのか、英国においては予約だけでゴールドディスクを達成、米国でもゴールドディスクを達成したようです。出来上がったのは20分前後の楽曲×4曲の計84分の2枚組の大作です。元々60分程度の作品でしたが、当時レコードの制約で1枚には収まらず、コンパクトに纏めるか2枚に引き伸ばすかという選択肢のうち後者を選択したイエス。冗長で難解という批判的な意見も多く、それは間違っていません。ただし、各楽器のソロパートが重視されていて各パートの見せ場がある。そして前作以上に美しいフレーズが散見されています。真剣に向き合うには冗長なパートが多く、聞き流すには勿体ない美しいフレーズの宝庫。そんな作風が本作の評価を二分しています。
 前作で脱退したビル・ブラッフォードの代わりにアラン・ホワイト(Dr)が加入。このラインナップも名盤が多く、前作までのメンバーではなく本作メンバーを黄金のラインナップと呼ぶ人もいます。ジョン・アンダーソンが『あるヨギの自叙伝』という本に着想を得て、スティーヴ・ハウと結託して楽曲の大半を作り上げました。この難解な本作に反対したのがリック・ウェイクマンで、レコーディングも途中から参加しなくなってしまい(「Ritual」の最後のピアノはアランが弾いています)、ソロでも成功していたリックはついに脱退してしまいました。

 スケール感のある名曲「The Revealing Science Of God」で『海洋地形学の物語』は開幕。ジョンによるお経のような歌メロから始まりますが、徐々にコーラスや演奏が盛り上がってスリリングになっていきます。そしてクリス・スクワイアのメタリックなベースとアランの躍動感あるドラムを皮切りに、華々しいキーボードが幕開けを告げ、スティーヴのギターが負けじとメロディを奏でる…。大海原への旅立ちを感じさせる素晴らしいオープニングです。そして始まるメロディアスな歌は口ずさみたくなります。リズムチェンジして時折スリリングな顔を見せますが、全体的にはゆったりした楽曲で、メロトロンやキーボードなどカラフルで幻想的な印象です。4分おきくらいに緊張感が高まるのですが、84分の長旅ですから緊張感は持続させずに1分ほどで緊張は解け、緊張が解けると美しい音色とメロディに浸らせます。本作中最も魅力的な楽曲で、個人的にはイエス史上3本の指に入ります。
 続く「Remembering」は、緩急は一応あるものの、比較的ゆったりとしたメロディアスな楽曲です。前曲から似たような雰囲気で続くため、気づくとこの物語の世界に浸っています。前半はふよふよと海中をゆったりと漂うかのような感覚で、音に身体を預けてぼんやり聴いているととても心地良いです。でも前半は起伏に乏しく、真剣に聴くには少し退屈かもしれませんね。中盤からは、スティーヴの牧歌的なアコギパートと、クリスのベースを主体にしたドライブ感溢れるスリリングなパートが続き、聴きごたえがあります。ラストの美しいコーラスも感動的です。
 3曲目の「The Ancient」は実験的です。アランのパーカッションがプリミティブなサウンドを展開し、スティーヴのエレキギターが主線を奏でます。しかしリックの存在感が途端に薄くなり、メロトロンを適当に弾くだけ。彼のやる気がどんどん無くなっていくのがよくわかります。笑 緊張感はあるものの味付けのないサウンドを延々展開されるので、正直本作における苦行でもありますが、各楽器に味付けされたドラムソロと捉えると結構面白味を見出せるかも。そして何より本楽曲の聴きどころは、ラスト5分のアコースティックパート。これがイエス史上最高クラスに美しいのです。ライブではここだけを抜き出して「Leaves Of Green」と名付けられていました。前半をすっ飛ばせばこの美しさだけを味わえますが、より大きな感動を得るためにも(?)美しさに至るまでの茨の道に是非チャレンジして頂きたいです。
 最後の「Ritual」はライブでも演奏されることの多い名曲です。序盤こそ5人のアンサンブルを興じ、スリリングな疾走パートで圧倒しますが、全体的には各楽器のソロパートが重視されている楽曲です。ジョンの歌う歌メロはコーラスワークもあってか、あまりに美しいです。歌が一旦終わると「Amazing Grace」のようなフレーズを奏でるクリスの長尺ベースソロ。続いてノリの良いドラムが主導するパートを経て、非常に高い緊張感を放つスティーヴのギターソロ、そしてアランのパーカッションソロ。各楽器をフィーチャーしたスリリングな演奏を展開します。荒れ狂う嵐のような激しい演奏が終わった後には静寂が訪れ、ジョンの穏やかで優しい歌に癒されます。そして大トリというか、最後の最後のギターパートの凄まじい緊張感は感動ものです。

 全体像を理解するのに相当苦労する作品ですが、それが見えたとき、80分超の物語の世界に誘ってくれる素晴らしい作品に変貌します。私の場合は途中で寝たりしつつ、20回くらい聴いた頃からようやく全体像が掴め、そこからは珠玉の作品に変わりました。プログレが好きな人よりは、イエスというバンドが好きな人におすすめしたい作品です。冗長な部分も含めて1曲も欠かせない、通しで聴きたい愛すべき名盤だと思っています。

海洋地形学の物語
(スティーヴン・ウィルソン・リミックス)
Yes
Tales From Topographic Oceans
(Expanded & Remastered)
Yes
 
Relayer (リレイヤー)

1974年 7thアルバム

 脱退したリック・ウェイクマンの穴埋めに、スイス人キーボーディストのパトリック・モラーツが加入しました。そんな交代劇をリレーに例えて『リレイヤー』というタイトルに込めたんでしょうか…。クラシックの素養があるリックとは異なり、ジャズフュージョン寄りのパトリック。そんな彼の影響で、イエスの中では最もアヴァンギャルドな作品となっています。また、前任に比べネガティブな評価も見られるアラン・ホワイトのドラムですが、難易度の高い本作を叩く彼の実力も相当なものだと実感できる作品でもあります。クリス・スクワイアのベースとも相性もバッチリです。
 約20分+10分+10分の3曲40分強という構成は『危機』と同様です。『危機』は楽曲の完成度の高さ、全編を通しての高い緊張感が魅力でしたが、本作は楽曲の完成度の高さと、緩急メリハリのあるアルバムの流れの良さが魅力的です。録音状態の悪さがやや難点でしょうか。前作と同じくエディ・オフォードとイエスの共同プロデュース作です。

 戦争と平和をテーマにした「The Gates Of Delirium」は22分弱の大作。序盤は歌メロパートが続きますが、ジョン・アンダーソンの号令のあとに始まる、8分あたりから15分過ぎまでの壮絶な楽器バトルが非常にスリリングです。この瞬間だけは「Close To The Edge」を上回っています。パトリックの華やかなキーボードに戦いを挑むスティーヴ・ハウの切れ味抜群のギター。裏ではヘヴィに唸るクリスのベース。そんな演奏バトルを支えるアランのドラム。途中にリズムチェンジを交え、雷鳴や銃撃のようなドラムやマシンガンのようなギター。そしてキーボードがヒステリックな音色からファンファーレのように変わると、あまりに激しい演奏パートは終わって静まり返り、突如暗闇から光が指したかのような美しいパートがやってきます。「Soon」という名でシングルカットもされた美しい歌メロパート。ジョンの澄んだ歌声が響き渡り、スティーヴのギターもあまりに美しい。メロトロンによって美しさを更に際立たせます。なお『イエスショウズ』収録バージョンはより鋭さが増していて、こちらもおすすめです。
 「Sound Chaser」は最もアヴァンギャルドな疾走曲で、イエスの中では異色のナンバーです。これも凄まじい緊張感。ジャズ・フュージョン的なアプローチはパトリックの加入による影響かと思いますが、加入時のセッションで本作を披露されてビックリしたとパトリックが語っていますので、彼抜きで原形は出来ていたんですね。疾走ドラムに絡むブイブイ唸るベース、その上を即興的なキーボードが絡みます。そしてスティーヴはいつになくヘヴィなギターソロを奏でます。緩急忙しい上に異様な緊張感が張り詰めています。終盤、声で楽器を表現したかのような「チャッチャッチャー チャッチャ」も強烈なインパクトを残します。
 ラストの「To Be Over」は穏やかで、イエスの牧歌的な側面が色濃く出た楽曲です。最もイエスらしい楽曲ですね。優しく幻想的な音世界で、前2曲で疾走した後の緊張感をほぐしてくれます。ラストの分厚いコーラスは救われるかのようで、天にも昇るようなギターがその感覚を増幅します。極上の癒しです。

 『危機』と同様の構成ながら、曲順に関してはこちらの方がしっくりきます。雰囲気は異なるものの、激しい演奏のぶつかり合いをイエスに期待する方は、前作『海洋地形学の物語』よりもこちらの方が断然おすすめです。なお、本作のあとメンバー皆がそれぞれソロアルバムを出すという試みがあり、ソロで手応えを掴んだのかパトリックは1作限りで脱退。その後の出戻りはありませんでした。

リレイヤー
(スティーヴン・ウィルソン・リミックス)
Yes
Relayer
(Expanded & Remastered)
Yes
 
Going For The One (究極)

1977年 8thアルバム

 ソロ活動を経てパトリック・モラーツの脱退。そしてまたリック・ウェイクマンが戻ってきました。ジョン・アンダーソン(Vo)、クリス・スクワイア(B)、スティーヴ・ハウ(Gt)、アラン・ホワイト(Dr)、リック・ウェイクマン(Key)の黄金時代のラインナップ。なお、これまでイエスを支えたプロデューサーのエディ・オフォードの手を離れ、バンドのセルフプロデュース。ジャケットアートにもロジャー・ディーンではなくヒプノシスを採用と、これまでのイエスから心機一転といったところどしょうか。メンバーの仲も最高に良かったようで、ギスギスした感じはなく、息の合った美しいアンサンブルを奏でています。スイスのモントルーで録音されましたが、きっと環境も良かったんでしょうね。録音状態も非常に良く、澄んでいるけども色鮮やかな音色がとても心地良いです。

 イエス流ロックンロール「Going For The One」で幕を開けます。天にも舞うようなご機嫌なギターに、色鮮やかなキーボード。ジョンのハイトーンボイスも絶好調で、全作品の中でもキーの高さはトップクラスでしょうか。流石にライブだとキーを下げていますけどね。コーラスワークも美しく、幸せになれる1曲です。続く「Turn Of The Century」はスティーヴのアコースティックギターをフィーチャーした綺麗な曲で、静かな空間に響き渡るかのようなサウンドプロダクションも良い。澄んだジョンの声にもよく合います。また、リックのピアノも美しく、心が洗われるかのよう。中終盤で曲調が変わり、晴れやかな雰囲気に変わっていきます。クリス作の「Parallels」が続きますが、ソロパートをスティーヴが譲ったという衝撃的な作品です。笑 教会から、スタジオにいるメンバーと電話回線で繋いで録音したようで、鮮烈なチャーチオルガンが全編に渡って主線を奏でるのが印象的な楽曲です。主役は譲ったものの、エレキギターもご機嫌な音色で存在感を放ちます。アップテンポで、ポップなメロディで聴きやすい1曲です。
 そして、アルバム後半1曲目はポップな小曲「Wonderous Stories」。ジョンの歌メロが美しく、また後半に向かうにつれて演奏は賑やかに、色鮮やかになります。高音が目立つからか、対照的なベースの低音も結構存在感があります。なお、シングルカットされてヒットしました。さて、ここまでコンパクトな楽曲が続きますが、最後に控えるのはイエス屈指の名曲で、15分半の大作「Awaken」です。前々作『海洋地形学の物語』を15分に纏めた~というような評価も見たような気がしますが、『海洋地形学の物語』から無駄な部分を省いて、リックのキーボードでしっかり味付けするとこのような作品が出来上がるのかもしれません。ジョンの(ほぼ)アカペラのあとの、緊張感のある演奏とコーラスを伴った美しい歌メロ。そしてリズムを変えてワルツを刻み、チャーチオルガンが鮮烈に鳴り響く瞬間。これが涙が出そうになるほど美しい。中盤は静寂の中で静かな演奏。その演奏は徐々に盛り上がっていき、再びジョンの美しい歌に繋ぎます。コーラスやチャーチオルガンに彩られて神々しさすら感じます。徐々に天に昇っていくかのような、至福の瞬間。そして聴き終えたあとの余韻も含めて、極上の幸せを与えてくれます。

 全編に渡って優しい雰囲気が包み込んでおり、リックのキーボードがとても美しい。キャッチーなメロディにも溢れていて、プログレ全盛期イエスの入門作に相応しい作品かと思います。

Going for the One (Expanded & Remastered)
Yes