🇮🇹 Area (アレア)
レビュー作品数: 3
スタジオ盤
1973年 1stアルバム
アレアはイタリアのプログレ/ジャズロックバンドで、1972年に結成しました。エジプト生まれのギリシャ人でエキセントリックなカリスマ、デメトリオ・ストラトス(Vo)を中心に、ジュリオ・カピオッツォ(Dr)、パトリツィオ・ファリセッリ(Key/Synth)、ヤン・パトリック・ジヴァス(B)、ヴィクター・エドゥアルド・ブスネッロ(Sax)、パオロ・トファーニ(Gt/Synth)のラインナップで本作が制作されました。
アレアは自称「International POPular Group」を標榜したそうですが、ポップを名乗りながらもポップに程遠いエキセントリックな音楽性は、後のポストパンクバンドポップ・グループを思わせます(音楽性そのものは似ていませんが…)。また、本作のタイトルはナチス時代にアウシュヴィッツ収容所に掲げられたスローガン。政治主張も強いようで、「International POPular Group」とは皮肉かもしれませんね。ジャケットの謎の人形(?)も不気味です。
アルバムは「Luglio, Agosto, Settembre (Nero)」で開幕。これが強烈な1曲で、この1曲のためだけに聴く価値があります。女性のナレーションからストラトスの超個性的なエキセントリックなボーカル。そこからブスネッロによる、民族音楽的な要素を吸収したサックスの音色が強烈に耳に残るのです。テクニカルなドラムや唸るベース、味付けのキーボードやギター。それらが緩急自在に暴れ回り、時に即興的な演奏を繰り広げます。初めて聴いたときは悪い意味でインパクトがありましたが、これがやみつきになる中毒性で、非常にスリリングな1曲です。続く表題曲「Arbeit Macht Frei」は8分に渡る楽曲で、ジャズに影響を受けたであろうカピオッツォのテクニカルなドラムソロで開幕。そこから各楽器が好き勝手に奏でる即興演奏を展開。中東のような、エキゾチックな香りが漂うスリリングなジャズです。後半に少しだけ出てくるストラトスのボーカルは強烈な存在感を放ち、その後はヘヴィなギターが主導する演奏が展開されます。「Consapevolezza」は渋さというかブルージーな雰囲気を感じます。でもテクニカルな演奏は健在で、時折リズムチェンジしてスリルを生み出します。後半のサックスソロに色気を感じますが、スリリングなリズム隊のサポートもあるからでしょうかね。
アルバム後半の1曲目は「Le Labbra Del Tempo」。イントロからサックスを中心にユニゾンするフレーズが心地良いです。歌が始まると演奏は静かになりますが、静かにしているときでさえ熱気のこもった演奏は、じっと静かにし続けることはなく、ストラトスのボーカルとともに時折アツい演奏をぶつけてきます。「240 Chilometri Da Smirne」は高い緊張感の演奏を聴けますが、特にブスネッロのサックスとカピオッツォのドラムがスリリング。ラスト曲「L’Abbattimento Dello Zeppelin」は特に難解。かつてパブで働いていた頃にレッド・ツェッペリンの「Whole Lotta Love」を演奏してくれとオーナーに請われ、アレアはその曲を知らないままに即興演奏したことがあり(オーナーから全然違うと怒られ解雇されたそうですが)、そのときの演奏がこの楽曲の土台にあるんだとか。似てはいないですね。
ジャケットも音楽も、初めて触れたときは拒否反応の方が大きかったです。デメトリオ・ストラトスという唯一無二のボーカルは人を選ぶと思います。でも、こういう良くも悪くも強烈なインパクトを残す作品って、嫌悪感がクリアになるとやみつきになる名盤に変わるんですよね。
高い演奏力を活かした演奏はロックというよりジャズ寄りの作品で、スリリングな演奏は非常に聴きごたえがあります。
1975年 3rdアルバム
ヤン・パトリック・ジヴァス(B)がPFM加入のため脱退、またヴィクター・エドゥアルド・ブスネッロ(Sax)も脱退しました。代わりにアレス・タヴォラッツィ(B)が加入しています。イタリア国内で音楽批評家賞を受賞した作品で、ファンからも最高傑作の呼び声が高いです。
オープニング曲は「L’elefante Bianco」。デメトリオ・ストラトスの強烈な存在感を放つボーカルと、電子ピアノの演奏で突如始まります。歌が終わるとシンセサイザーがエキゾチックな香りを漂わせ、ジュリオ・カピオッツォの手数の多いドラムとタヴォラッツィのうねるベースが支えます。続く「La Mela Di Odessa (1920)」はイントロから高音がヒスっていて少し耳障り…。それが終わると非常にスリリングな演奏を展開。テクニカルなドラムを土台に、キーボードやギターが次々と表れてはスリリングな演奏を披露。中盤からは仕切り直しと言わんばかりにリズムを変えて、ホーンのような華やかな音色。ストラトスは歌というより語りに近いですね。続く「Megalopoli」はキャッチーなメロディが飛び出します。テクニカルな演奏はそのままに、キーボードのポップなメロディと、ストラトスにしては比較的取っつきやすい歌が良い。疾走感のあるスリリングな演奏パートも爽快ですね。非常にカッコ良いです。
後半は「Nervi Scoperti」で開幕。ノリの良いドラムに乗せて、キャッチーで爽快なメロディは耳に残りますね。その後の展開では特に、パトリツィオ・ファリセッリの狂気的なピアノソロが非常にスリリングです。「Gioia E Rivoluzione」はストラトスの強烈なボーカルで始まり、アコギとエレキの絡み合う小気味良いサウンドに浸ることができます。普通なロック曲を堪能できる珍しい楽曲ですね。かと思えば次の「Implosion」は耳障りなノイズで始まるというギャップ。その後ほのかにエキゾチックな、妖しげで熱気のある演奏を展開。後半に向けてスピードを上げていくのでスリリングです。ラスト曲「Area 5」は2分強の即興演奏。これは難解です…。
幾分かキャッチーさも兼ね備え、少し敷居の低くなった作品です。でも変態的でテクニカルな演奏は相変わらずで、スリリングな演奏に圧倒されます。
ライブ盤
1975年
『クラック!』と同じラインナップで、デメトリオ・ストラトス(Vo)、ジュリオ・カピオッツォ(Dr)、パトリツィオ・ファリセッリ(Key/Synth)、パオロ・トファーニ(Gt/Synth)、アレス・タヴォラッツィ(B)で臨んだライブです。ライブでも全くブレない高い演奏力を見せつけてくれます。
ライブの開幕は「Luglio, Agosto, Settembre (Nero)」。オリジナルと違って女性の語りもヴィクター・エドゥアルド・ブスネッロのサックスもありませんが、オルガンやキーボードの洪水が音に厚みを持たせています。むしろオリジナルよりまろやかで聴きやすいかもしれない。ストラトスの超個性的なボーカルや、カピオッツォのテクニカルなドラムは相変わらずスリリングで、リズムチェンジ等を交えた変態的な演奏を繰り広げます。続く「La Mela Di Odessa (1920)」はインタープレイの応酬。好き勝手な演奏は変速を交えながら纏まっていきますが、それがとてもスリリングです。オリジナル曲よりも長めの11分。途中にリンゴをムシャムシャかぶりつくという…自由だなぁ。リンゴを食べ終えた後(笑)の後半パートは、ノリの良いフレーズをひたすら反復するので中毒性があります。そしてストラトスの語りのようなボーカルも含めて良い。「Cometa Rossa」は中東風のエキゾチックなイントロ。徐々に加速してブレーキをかけて…と、変速の複雑な演奏を息ぴったりに合わせます。そしてストラトスのこぶしの効いた歌が轟く。ヨホホホ…といななく。このエキセントリックなボーカルは人を選ぶと思いますが、圧倒されます。続いてアルバムタイトルになった「Are(A)zione」は15分に渡る即興演奏。手数の多いドラムが静かに抑えながらも煽り立てるような緊迫した空気を作り出し、序盤はキーボード主体の即興をスリリングに引き立てます。中盤はギター主導の演奏になりますが、やはりドラムが尋常でない緊張感を生み出します。後半ストラトスの歌というか、ボーカルという楽器が加わる頃にはバンド一体のサウンドで楽しませてくれます。終盤にはベースソロも用意されていて、各楽器を引き立てる1曲に仕上がっていますが、やはりカピオッツォという稀代のドラマーが強い存在感を放ちます。最後に「L’Internazionale」。ベースが終始ヘヴィにうねります。独特なリズム隊とは裏腹に、飛び抜けてキャッチーなメロディを奏でるシンセサイザーはポップです。でもポップなメロディを即興演奏でぶち壊していくという。会場の盛り上がりが凄いです。
スリリングな演奏がたっぷりで、トータル40分強ですが充実したライブ盤に仕上がっています。個人的にはアレアの決定盤となる作品だと思っています。
関連アーティスト
ヤン・パトリック・ジヴァス(B)の脱退後の活動。
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