🇺🇸 Dream Theater (ドリーム・シアター)

レビュー作品数: 3
  

スタジオ盤

Images And Words (イメージズ・アンド・ワーズ)

1992年 2ndアルバム

 プログレメタルの草分け的なメタルバンド、ドリーム・シアター。米国マサチューセッツ州ボストン出身です。ラッシュからの影響を公言している彼らは、ラッシュのようにテクニカルでメタリカのようにヘヴィな超絶技巧の演奏を得意とします。
 1985年にジョン・ペトルーシ(Gt)、ジョン・マイアング(B)、マイク・ポートノイ(Dr)、ケヴィン・ムーア(Key)の4人編成で結成しました。当初は「The Majesty」というバンド名だったそうですが、デビューにあたり同名のバンドが既に存在したことからドリーム・シアターに改名してデビューします。チャーリー・ドミニシをボーカリストとして起用し1stアルバム『ホエン・ドリーム・アンド・デイ・ユナイト』をリリースするも、ドミニシはバンドとの不和で解雇。その後ジェームズ・ラブリエ(Vo)を迎えた布陣でリリースしたのがプログレメタルの傑作『イメージズ・アンド・ワーズ』です。ドリーム・シアターの出世作となりました。デヴィッド・プレイターによるプロデュース。

 名曲「Pull Me Under」で開幕。薄暗い雰囲気のイントロは徐々にヘヴィさを増していきます。そしてザクザクとヘヴィで鋭利なリフを展開。歌メロを終えると加速し、そしてリズムチェンジ。スリリングな楽曲ですが、ラストはぶつ切りなのがイマイチ…。「Another Day」は一転して美しいバラード。ピアノをバックにラブリエの美しい歌メロを堪能できます。泣きのギターやメロウなサックスも感傷的な気分にさせます。「Take The Time」はスペイシーなシンセから始まるヘヴィな楽曲で、変拍子の嵐が吹き荒れます。歌が始まるとファンキーなリズムに乗せて攻撃的な歌唱を見せつけますが、その後はメタリックな展開に。リズムが複雑すぎて先の展開が全く読めません。続いて「Surrounded」。序盤はしっとりとした雰囲気ですが、徐々に明るくなっていきます。シンセの使い方が1980年代っぽくて少し時代を感じさせます。終盤の速弾きはスリリングですね。そして「Metropolis – Part I: ‘The Miracle And The Sleeper’」はドリーム・シアター最強の1曲。パート1とありますが、この楽曲の続編は『メトロポリス・パート2: シーンズ・フロム・ア・メモリー』というアルバムになります。ちなみに副題のミラクルとスリーパーは兄弟で、続編のキーとなります。さて9分半に渡るこの楽曲はイントロから緊迫した空気感で、ヘヴィで複雑なリズムを刻みます。演奏バトルが中心で、中盤のペトルーシのギターとムーアのキーボードのユニゾンが凄まじい。強引なリズムチェンジもスリリングです。「Under A Glass Moon」もテクニカルな1曲。ヘヴィかつ躍動感のあるリズム隊が疾走感を生み出しますが、リズムチェンジも多くて複雑。演奏力の高さを見せつけてくれます。「Wait For Sleep」は鍵盤主体の切ないバラード。短いながらも一息つける癒やしの瞬間です。そして最後に控える「Learning To Live」は11分半の大作。ザクザクとしたギターや一撃が重たいドラムなどヘヴィですが、シンセの音色は華やかですね。とにかく複雑で難解な演奏を展開しますが、中盤ではスパニッシュギターで癒してくれる場面も。またメロディアスな歌やキャッチーなシンセサイザーなど、前面に出てくるメロディは耳触りが良く、バックの演奏の難解さを和らげてくれます。

 7分を超える楽曲が5曲もあるテクニック偏重の作品で、スリリングな演奏に圧倒されます。個人的には「Metropolis – Part I: ‘The Miracle And The Sleeper’」と「Pull Me Under」が好みです。

Images And Words
Dream Theater
 
Metropolis Pt. 2: Scenes From A Memory (メトロポリス・パート2: シーンズ・フロム・ア・メモリー)

1999年 5thアルバム

 3rdアルバム発表後にキーボーディストが交代し、4thアルバムリリースから2年後の1999年にまたもキーボーディスト交代。名プレイヤーのジョーダン・ルーデスを迎え入れました。ラインナップはジェームズ・ラブリエ(Vo)、ジョン・ペトルーシ(Gt)、ジョン・マイアング(B)、マイク・ポートノイ(Dr)とジョーダン・ルーデス(Key)。
 本作は名盤『イメージズ・アンド・ワーズ』の収録曲「Metropolis – Part I: ‘The Miracle And The Sleeper’」の続編で、ドリーム・シアター初のコンセプトアルバムとなります。同曲からの引用もあるので知っているとより楽しめますが、本作から聴いても良いでしょう。ポートノイとペトルーシのセルフプロデュース。

 登場人物はニコラス(主人公)、催眠療法士、ヴィクトリア・ペイジ、ミラクル(エドワード・ベインズ議員)、スリーパー(ジュリアン・ベインズ)。悪夢に悩まされる青年ニコラスは催眠療法士のもとを訪れます。催眠にかけられて呼び起こされた悪夢は、実はニコラスの前世である少女ヴィクトリアだと判明。このヴィクトリアを巡るストーリーが展開されます。

 まずは「Act I (第1幕)」と題した前半パート。
 「Scene One: Regression」では時計のチクタク音をバックに催眠療法士が眠りへと誘います。ニコラスは眠りにつき、少女ヴィクトリアの意識が呼び起こされます。楽曲自体はアコースティックで牧歌的な雰囲気です。
 「Scene Two: I. Overture 1928」はインストゥルメンタル。「Metropolis – Part I」のフレーズから始まるのが嬉しいですね。ヘヴィなスラッシュメタルを聴かせたかと思えば、メロディアスでリズムチェンジを駆使した変態的な展開など、超絶技巧を見せつける楽曲で聴きごたえがあります。新加入ルーデスの実力を見せつけるキーボードプレイも魅力的です。前曲からそのまま続けて「Scene Two: II. Strange Deja Vu」。ヘヴィでテクニカルな演奏で、途中からドライブ感を増してカッコ良いです。ニコラスとヴィクトリアのセリフパートを、ラブリエが少し表現を変えて歌い分けています。さてストーリーはというと、ニコラスが毎晩夢に見る風景…とある家の部屋の中で、鏡に映る少女ヴィクトリアを見つけます。心が引き裂かれそうになりながらも真実を知りたいと欲するヴィクトリアと、同じような感情を抱く自分に奇妙なデジャヴを感じ、ここでニコラスは自身がヴィクトリアの生まれ変わりなのだと気付くようです。
 「Scene Three: I. Through My Words」はピアノ主体の、優しくも切なさを感じさせる演奏。ニコラスからヴィクトリアに向けた言葉が紡がれます。ニコラスはヴィクトリアと運命を共有しているのだと、2人の強く深い絆を確かめます。続いて、前半パートのハイライトとなる「Scene Three: II. Fatal Tragedy」で一気に場面転換。ニコラスは真相を知るべく別の家へと赴くと、そこにいた老人から少女が殺されたことを知ります。そのショッキングな様子を、悲壮感たっぷりのヘヴィな演奏で表現します。歌メロやキーボードは哀愁たっぷりで、リズム隊やギターがズシンと響きます。後半はテンポアップし、リズムチェンジしまくりの演奏やギターとキーボードの演奏バトルがスリリングでカッコ良いです。
 11分超の「Scene Four: Beyond This Life」は出だしからピリピリと緊迫した演奏で迫力満点。歌が始まると不穏な雰囲気に。「殺人、エコーズヒルで少女が射殺され最悪の結末に。犯人は自殺と見られる」という新聞の見出しで始まり、強い怒気混じりのボーカルで現場の様子を描写します。犯人のポケットには、彼がヴィクトリアの愛を失ったであろう遺書らしきメモが見つかります。
 「Scene Five: Through Her Eyes」ではゲストボーカルのテレサ・トーマソンが美しい歌声でヴィクトリアを表現。アコースティックでゆったりとした演奏です。ニコラスが悲劇的なヴィクトリアに感情移入すると、扉が大きく開きます。

 ここからは「Act II (第2幕)」と題した後半パート。13分近い「Scene Six: Home」は『ロード』、『リロード』あたりのメタリカを想起させる、民族音楽的な怪しさを持つグルーヴィなオルタナメタルを展開。歌詞の中では初めてスリーパーとミラクルが登場、スリーパーは自堕落した男として描かれます。スリーパーの彼女だったヴィクトリアはミラクルに悩みを打ち明け、ミラクルと愛し合うようになります。ミラクルはスリーパーの兄で、苦悩しつつも弟を裏切ることにしヴィクトリアを選ぶのでした。楽曲後半の喘ぎ声はミラクルとも関係を持ったということでしょうか。間奏を挟み、ニコラスは記憶の鍵を開けて謎に迫ります。
 「Scene Seven: I. The Dance Of Eternity」はインストゥルメンタルで、タイトルは「Metropolis – Part I」の歌詞のラストフレーズからの引用です。超絶技巧という言葉が相応しい、とにかく凄いとしか言いようのない人間離れした演奏にただただ圧倒されます。メンバーそれぞれ見せ場がありますが、マイアングのベースソロがありえない…。笑 超絶演奏から麗しいピアノが始まると「Scene Seven: II. One Last Time」へ。気だるげに始まりますが、後半に向けてメランコリックな雰囲気を纏いながら盛り上がっていきます。スリーパーにきちんと別れを告げたのか惨劇の謎は残ったまま。ヴィクトリアは「最後にもう一度、今日は一緒に横になりましょう」と言いますが、これは後ほど出てくるキーワード。ニコラスはスリーパーの家を訪れると、ここがヴィクトリアの命を奪った家だと悟ります。
 続いて「Scene Eight: The Spirit Carries On」。ニコラスはこれまで死に怯え、死とは終わりだと思っていましたが、魂は続くと信じて明日死んでも大丈夫という心境に変わります。心に平穏が訪れ、ヴィクトリアの記憶と共存していこうと考えます。そんなニコラスの心の平穏を表現するように、アコースティックで優しい演奏で始まり、徐々に盛り上がっていきます。コーラスも含めて、後半の盛り上げ方はとても感動的。
 そしてラスト曲「Scene Nine: Finally Free」。アコースティックな音に乗せて、催眠療法士が「Open your eyes, Nicholas.」とニコラスを催眠から起こして終わり……ではなく、おどろおどろしい雰囲気に変わって物語は更に続きます。ミラクルではなくスリーパー(ジュリアン)を選んだヴィクトリアに復讐を決意したミラクル。そして弟に罪を擦り付けるために自殺に見せかけたメモを残します。このあと効果音で事件が再現されるのですが、スリーパーが撃たれてヴィクトリアの叫び声。そしてミラクルは「Open your eyes, Victoria.」と言い放ってヴィクトリアを銃殺(このセリフがキーです)。「最後にもう一度、今日は一緒に横になりましょう」と出て来ますが、「Scene Seven: II」でのヴィクトリアのセリフ、実はスリーパーが死に際にヴィクトリアへ語りかけたセリフだったんですね。悲劇の真相が明かされました。……そこから場面は変わり、ニコラスの自宅。ニコラスはニュースを見ながらくつろいでいると、催眠療法士が押しかけ「Open your eyes, Nicholas.」と言い放ち、ニコラスの驚く声とノイズで終わります。「Open your eyes」という共通のキーワードで表されるように催眠療法士はミラクルの生まれ変わりで、ニコラスは催眠療法士に殺されてしまうという衝撃の結末を迎えます。転生しても同じ結末が待ち受けているのでした。

 初めて聴いたとき、重たいサウンドに77分という長さが中々辛かったのを覚えています。今でも聴くのに気合いが必要な作品ですが、完成度の高さには感服。テクニカルな演奏は凄まじいのですが、曲以上によく練られたストーリーが魅力的です。ちなみに本作から8th『オクタヴァリウム』まで、アルバムの最後の音が次作の最初の音に繋がるという仕掛けが施されています。あちこちにこだわりを感じますね。

Metropolis Pt. 2: Scenes From A Memory
Dream Theater
 
Six Degrees Of Inner Turbulence (シックス・ディグリーズ・オブ・インナー・タービュランス)

2002年 6thアルバム

 ドリーム・シアターの2枚組アルバムで、Disc1はヘヴィかつ実験的な楽曲が並び、Disc2は42分にも渡る長大な組曲が丸々占めています。Disc2の壮大なタイトル曲は精神病の6つの症例をテーマとして扱っているのだとか。メンバーは前作に引き続きジェームズ・ラブリエ(Vo)、ジョン・ペトルーシ(Gt)、ジョン・マイアング(B)、マイク・ポートノイ(Dr)、ジョーダン・ルーデス(Key)。
 
 
 Disc1は、いきなり14分近い大曲「The Glass Prison」で幕開け。3パートから成る非常にヘヴィな組曲です。前作のラスト曲で流れたノイズ音から始まり、重厚なイントロは途中から加速、這うようにヘヴィな音を立てながら疾走するスリリングなスラッシュメタルを展開します。メロディよりもヘヴィネスを重視、メタリカっぽい。6分手前から場面転換し、グルーヴを重視したミドルテンポの重苦しい演奏へ。野太いコーラスに戦車のように鈍重なリフなどとてもヘヴィです。時折トリッキーなリズムを刻みます。9分40秒辺りからベースソロを挟んで場面転換、キーボードやギターなど速弾きソロを次々と披露してテクニックを見せつけます。凄すぎる。続く「Blind Faith」も10分超の大作。ゆったりとして神秘的な雰囲気が漂いますが、徐々にヘヴィさが表出。後半は変拍子に乗せてヘヴィな演奏を展開します。「Misunderstood」、これも9分半あります。アコギでしっとりと始まり憂いを見せますが、中盤に向けて徐々に怪しげに。そしてヘヴィな演奏が支配します。終盤はかなり実験的で、サイケというかアヴァンギャルドというか、よくわからない音楽を展開します。そして14分近い「The Great Debate」はDisc1最長の楽曲。議論のように喋る声をよそに演奏を展開、どんどん激しくなっていきます。途中からラブリエよる歌メロが加わりますが、ヘヴィで激しい演奏のせいか攻撃的な印象が強いです。後半から雰囲気が変わり、うねるベースにパタパタとしたパーカッションがリズミカル…ですが変拍子が加わりリズムには乗れないですね。そして複雑でテクニカルな演奏を見せつけます。ラストの「Disappear」は美しくも暗く冷たい雰囲気で、レディオヘッドっぽい。不安になる暗さです。

 Disc2はアルバム全体が「Six Degrees Of Inner Turbulence」という42分の壮大な組曲です。さすがに1曲がポツンとあるのではなくて、組曲を成す8つのパートに分解されています。まずはインストゥルメンタル「I. Overture」で、シンフォニックで壮大な幕開け。大仰でクサく、ゲーム音楽のオープニングを聴いているかのような印象です。ルーデスの美しいピアノで始まる「II. About to Crash」は明るい雰囲気で心地良いです。しかし後半暗い影を落とすこの楽曲のテーマは「躁鬱病」だそうです。「III. War Inside My Head」はヘヴィな3連符を展開、ラブリエの歌もかなり攻撃的。続く「IV. The Test That Stumped Them All」では超速のスリリングな演奏を展開します。複雑でテクニカルな演奏はメガデスを想起させます。ピリピリとした高いテンションはとてもスリリングでカッコ良い。「V. Goodnight Kiss」はゆったりとしつつも強い憂いを帯びています。後半メロディアスなギターやシンセが美しいですが、その後はバックで流れる効果音が怖い…。「VI. Solitary Shell」は明るくキャッチーな楽曲。ドリーム・シアターらしくない気がしますが、ほのぼのとした良曲です。「VII. About to Crash (Reprise)」はアメリカンな乾いたギターが爽やかで、跳ねるようなリズムも気持ち良いです。そして後半は複雑な演奏が展開され、明るかった空気に徐々に暗雲が立ち込めます。そして組曲の締め「VIII. Losing Time/Grand Finale」。シンフォニックな演奏で壮大な雰囲気ですが、大仰さが少し悪目立ちしてる感じは否めなかったり…。
 
 
 42分の組曲があると知って「これは聴かなきゃ!」という思いに駆られ聴いた本作。表題曲は結構強烈ですが、実験的なDisc1は「The Glass Prison」以外あまりピンと来ませんでした。

Six Degrees Of Inner Turbulence
Dream Theater
 
 
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