🇬🇧 Led Zeppelin (レッド・ツェッペリン)

スタジオ盤②

硬質化とポップ化

Presence (プレゼンス)

1976年 7thアルバム

 元々『Obelisk (オベリスク)』というタイトルで発表予定だった本作。ヒプノシスによるジャケットに描かれた、モノリスのような謎の黒い物体を囲む家族。この黒い物体のオブジェをゲリラ的に各所に配置して話題性を持たせようと計画していたところ、スタッフがメディアにリークしてしまったために計画は失敗。そしてアルバムタイトルも変更を余儀なくされますが、デザイナーの「このバンドには絶対的な存在感がある」という発言を気に入ったジミー・ペイジによって本作は『Presence (プレゼンス=存在感)』と名付けられました。
 ペイジが強い主導権を発揮して作り上げた本作は、短期間のレコーディングで集中的に制作され、かなりヘヴィな仕上がりです。ギター、ベース、ドラム(と一部ハーモニカ)というシンプルなロック編成で、キーボード等の楽器は使われていません。印象的なギターリフでそのまま1曲を作り上げる手法が取られていますが、ヘヴィでタイトな作風は裏を返すと単調な印象も抱きます。コアなファンには最高傑作の評価を与えられることも少なくない本作は、意外なことにオリジナルアルバム8枚の中では最も売上が少ないのですが、それは本作の後に間もなくしてリリースされた映画サントラ兼ライブ盤の『永遠の詩(狂熱のライヴ)』に流れていってしまったためとも言われています。

 1曲目を飾る「Achilles Last Stand」は本作のハイライト。というよりこのアルバムを価値あるものにしているのは、あまりに凄まじい緊張感を放つこの楽曲の存在に依るところが大きいです。10分半に及ぶ大作ですが、1秒たりとも隙がなく、集中して聴いているとあっと言う間です。タッタカタッタカとタイトに刻むジョン・ポール・ジョーンズの硬質なベースと、ドタバタと豪快に暴れ回るジョン・ボーナムのドラムが強烈な緊張を生み出します。そしてペイジのメタリックで鋭利なギターがスリルを更に増長。交通事故で両足を折る大怪我を負ったロバート・プラントが、復帰明けのレコーディングでこの楽曲を聞いてひっくり返ったというエピソードから「Achilles Last Stand」という名がついたと言われています。プラントもぶっ飛んだという神懸かった演奏も凄まじいですが、そのプラント自身も怪我からの復帰明けとは思えないほどの存在感を見せます。4人の起こした化学反応が生んだ、後期レッド・ツェッペリンの超名曲です。続く「For Your Life」はヘヴィで鈍重な楽曲。ブイブイ唸るベースが引き締めようとしますが、スローな演奏は気だるげな印象が強いです。正直前曲との落差を感じてしまいますが、泥臭くてグルーヴィな演奏は意外に心地良く、これ単品ではそれほど悪くはありません。そして「Royal Orleans」はファンキーな楽曲で、リフが強烈に耳に残ります。ヘヴィさを保ちながらも跳ねたリズムでノリが良く、自然と身体がリズムに乗せられます。本作では「Achilles Last Stand」に次いで好きです。
 アルバム後半は「Nobody’s Fault But Mine」で始まります。イントロと「アアーアアーアーアー アアーアアーアーアー」の歌を過ぎると突如始まるド迫力の演奏。ゴリゴリベースに力強いドラムがメタリックでスリリングなヘヴィロックを繰り広げます。楽曲展開が変な感じでフックをかけてきます。プラントの吹くハーモニカも荒ぶっていますね。「Candy Store Rock」はタイトルのとおり(?)、キャンディストアのようなポップさを内包。プラントのポップな歌メロや跳ねるような曲調は陽気なのですが、演奏だけ聴くと意外にヘヴィで驚かされます。続く「Hots On For Nowhere」もキャッチーでポップな楽曲です。リズム隊が生み出すノリの良さが陽気な歌にピッタリで、特にボーナムのドラムが聴きどころです。そしてラスト曲「Tea For One」、残念ながらこれが頂けない。アルバムを締めるのに相応しいブルージーなナンバーですが、どう聴いても自身の「Since I’ve Been Loving You」の焼き直しで、しかも原曲に遠く及ばないという…。

 ファンキーなリズムの佳曲もいくつかありますが、アルバム全体だとやや単調な印象も。ですがそれを吹き飛ばす強烈な衝撃を与えてくれる「Achilles Last Stand」という超強力な1曲が、本作を輝かせてくれます。

Presence
Deluxe Edition (2015 Remastered)
Led Zeppelin
Presence
(2015 Remastered)
Led Zeppelin
 
In Through The Out Door (イン・スルー・ジ・アウト・ドア)

1979年 8thアルバム

 レッド・ツェッペリンの解散前最終作。ジミー・ペイジが主導権を握った前作とはうってかわり、本作はジョン・ポール・ジョーンズ主導で制作された作品です。ハードロックではなくポップ寄りな作風で、「レッド・ツェッペリン唯一の迷作」などの不名誉な評価も見かけます。ZEPは試験的なアルバムを出した後に次作で名盤を作り上げ、試験的な前作の評価も上がるというパターンが多いのですが(『III』の後の『IV』、『聖なる館』の後の『フィジカル・グラフィティ』)、試験的な本作の発表後に、ドラマーのジョン・ボーナムの急死によってバンドは解散してしまうことになってしまいます。その結果本作の評価はイマイチのまま。でもそんな評価に惑わされることなかれ。『聖なる館』のように、陽気でリラックスして聴ける作風が好きな人にはすんなり受け入れられる名盤だと思います。
 ヒプノシスによってデザインされたジャケットアートは全部で6種類。当時は茶色い外袋に入れて封をされていて開けてみるまで分からない…という、CD複数枚商法の走りのような、ガチャのようなアイディアで売られたようです。

 華やかさとハードさのバランスを上手く保った「In The Evening」で幕を開けます。オリエンタルな空気を纏ったこの楽曲は『フィジカル・グラフィティ』の空気感に近いか。ギターリフとシンセサイザーが単調な旋律を奏でながらも、これが妙にクセになるんです。ロバート・プラントの力強い歌唱もカッコ良いですね。終盤突如メロウな展開が訪れますが、再び始まるヘヴィな演奏に魅せられます。続く「South Bound Saurez」はジョーンズのピアノが跳ねていて、キャッチーで心地の良い1曲です。歌メロもポップですが、ドラムだけは結構パワフルな印象。そして「Fool In The Rain」も陽気な楽曲。前半パートは同じフレーズをひたすら反復しますが、これがまったりしつつ楽しげな雰囲気に満ちています。そして中盤、突如として賑やかなサンバが繰り広げられますが、その変貌っぷりにビックリですね。リズミカルでノリノリな演奏を繰り広げた後、終盤はまた前半と同様のフレーズを繰り返します。なおドラムのリズムはTOTOのジェフ・ポーカロに影響を与え、名曲「Rosanna」を生み出すに至ったんだとか。そして続くのは「Hot Dog」。ピアノやドラムがノリノリで軽快なロックンロール曲で、脳天気な歌も気分が明るくなります。そういえばZEPはこういう底抜けに明るいロックンロール曲って意外と少ない気もします。
 アルバム後半は10分超の大作「Carouselambra」で幕開け。シンセサイザーを使用した楽曲で、前半はプログレハードにも通じる作風、後半はテクノポップを先取りした感じの仕上がりです。ジョーンズの奏でるシンセサイザーは明るくキャッチーで、浮遊感に溢れています。それとは対照的にボーナムのドラムはかなりヘヴィで、チャラい(?)楽曲を引き締めます。よく動き回るベースも中々魅力的。そして本作のハイライトとも言えるZEP屈指のバラード「All My Love」。プラントが、病気で早くに亡くなった息子カラックを想って作った楽曲です。プラントの辛い経験が切ない歌唱に表れていて、また枯れた渋い声で歌うメロディアスな楽曲がとても染みるんです。聴いていると熱くこみ上げてくるものがあります。歌が魅力的な楽曲ですが、何気にペイジのギターも随所で良いフレーズを弾いています。そしてラスト曲「I’m Gonna Crawl」。RPGのオープニングのようなシンセサイザーのイントロで幕を開けたあとに始まるのはブルージーな楽曲。感情たっぷりに歌うプラントのエモーショナルな歌が印象的です。

 1977年に息子が夭逝したことにより、悲嘆にくれたプラントは一時期表舞台から姿を消し、バンドも活動休止状態に。長い休息を経て1978年5月、再度バンドは集まって制作を再開。そして本作の制作に至ったのでした。ジョーンズによる陽気な作風が目立ちますが、それ故になおのこと「All My Love」におけるプラントの悲しみが際立って聴こえてきます。

 そして1980年、ボーナムの急死という悲劇がバンドを襲い、レッド・ツェッペリンは新ドラマーを検討するも、最終的に「解散」という選択肢を選んだのでした。

In Through The Out Door
Deluxe Edition (2015 Remastered)
Led Zeppelin
In Through The Out Door
(2015 Remastered)
Led Zeppelin
 

解散とボーナム追悼盤

Coda (最終楽章(コーダ))

1982年 9thアルバム

 ジョン・ボーナムの死後、解散を選んだレッド・ツェッペリン。しかし1980年の解散後も、レコード会社との契約の都合でもう1枚アルバムを出さなければならなかったため、未発表曲集として解散後に本作をリリースすることになります。亡きボーナムに捧げてかドラムが目立つようなミックスになっていて、彼のダイナミックなドラムプレイを楽しめるとともに、レッド・ツェッペリンには彼のドラム無しには続けられなかったと痛感します。

 非常にノリの良い「We’re Gonna Groove」で始まります。ベン・E・キングのカバー曲で、1970年のロイヤル・アルバート・ホールでのライブ音源を収録したものです。この頃はロバート・プラントの歌も絶好調ですね。ジョン・ポール・ジョーンズのベースが非常に強烈なグルーヴ感を生み出しており、跳ねるような爽快感を持っています。「Poor Tom」は『III』のアウトテイク。神経質に叩きまくるボーナムのドラムに強烈な存在感があります。その上に乗るのがアコギなので、なおのことドラムが際立ちますね。続く「I Can’t Quit You Baby」は『I』の収録曲ですが、ここではライブ音源を収録。ブルージーで混沌とした雰囲気は残しつつ、ジミー・ペイジの荒々しいギターやドスンドスン響くドラムなど、ライブならではの迫力があります。「Walter’s Walk」は『聖なる館』のアウトテイク。疾走感に溢れておりとてもカッコ良い。尖りまくったキレッキレのギターに、うねるグルーヴィなベース、ドラムセットがぶち壊れるんじゃないかってくらいに破壊力抜群のドラムなど非常に強烈。プラントの声はこの時点で既に高音が出なくなっている様子ですが、渋さを持っていて痺れるんですよね。
 アルバム後半は「Bonzo’s Montreux」を除いた全てが『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』のアウトテイク。まず「Ozone Baby」はヘヴィなドラム・ベースとは裏腹に、ポップなメロディが印象的。グルーヴィなベースはとてもカッコ良いですね。歌の方も「ウーウー」とプラントのキャッチーな歌唱が耳に残ります。「Darlene」も軽快でポップな曲調が聴き心地の良い1曲です。ピアノをはじめご機嫌な感じが伝わってきますね。ですが相変わらずドラムは馬鹿みたいにパワフルで、ポップさの中にスリルを加えてくれます。続く「Bonzo’s Montreux」は1976年にスイスのモントルーのスタジオで録音したボーナムのドラム・パーカッションソロにペイジが少し電気的な加工を施したものだそうです。これがド迫力の演奏で、ドスンドスンと響きます。ラスト曲「Wearing And Tearing」は非常にグルーヴ感のある疾走曲です。ここまで速い楽曲はZEPではほとんど無いですね。音の塊が迫り、プラントは終始攻撃的なシャウト。それでいてノリも良い…。ラストも破壊力抜群な締め方でカッコ良いんです。『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』に入っていたら、誰も「迷盤」なんて評価しなかったでしょう(今のままでも好きですけどね)。そんな名曲をアルバムに収めずに未発表にしていたなんて…。

 未発表曲集だからといって侮ることなかれ。エネルギーに満ち溢れた非常にパワフルな作品で、聴かないのは勿体ない出来の良さ。ベスト盤には収録されていないので、これとベスト盤を買えばひと通りの入門にはなるかと思います。

Coda
Deluxe Edition (2015 Remastered)
Led Zeppelin
Coda
(2015 Remastered)
Led Zeppelin
 
 

編集盤

Mothership (マザーシップ)

2007年

 レッド・ツェッペリンのベスト盤です。初リリースは2007年ですが、2014~2015年のリマスターシリーズを踏まえて2015年にその音源で再リリースされています。ベスト盤は過去にもいくつか出ていますが、最新リマスター音源を用いてリイシューされたベスト盤が本作だけなので、一応公式側におけるベスト盤の決定盤は本作なのだろうと思っています。他のスタジオ盤やライブ盤同様に、ジミー・ペイジのプロデュース。このギタリスト兼プロデューサーの強い拘りが、ベスト盤でさえレッド・ツェッペリンに駄盤を生ませなかったのだと思います。
 『レッド・ツェッペリン I』から『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』まで満遍なく名曲が採用されていて、本作と『最終楽章(コーダ)』を揃えれば、レッド・ツェッペリンの名曲はひととおり押さえられることができます。また選曲がかなり良くて、アルバムの流れも比較的自然なので、ベスト盤特有の「あの名曲がない」「曲順が悪い」等の不満がほとんど無いです。強いて言えば「The Song Remains The Same」のあとに「The Rain Song」が欲しかったところですが、重箱の隅をつつくレベルの不満なので、初心者向けの最適なベスト盤に仕上がっているかと思います。
 
 
 Disc1は『レッド・ツェッペリン I』の1曲目と同じく「Good Times Bad Times」で幕開け。出だしの力強い一音から、何が始まるのかとワクワクさせてくれる名曲ですね。泥臭くもヘヴィなサウンドで、ジョン・ボーナムのドタバタ暴れるドラムや、間奏でキンキンとソロを弾くペイジのギターが強烈です。「Communication Breakdown」は軽快な疾走曲。印象的なリフを弾くギターに、縦横無尽に動き回るベース、跳ねるようにダイナミズムに溢れるドラムと誰もがカッコ良い。そしてロバート・プラントのハイトーンを活かした歌もキャッチーで耳に残ります。続く「Dazed And Confused」は静と動の対比がはっきりとした、混沌とした初期の代表曲。初っ端から怪しげに音階を刻むジョン・ポール・ジョーンズのベースが強烈。静かな演奏の中でプラントの歌が響きますが、時折爆発的な演奏が炸裂。その後ヴァイオリンの弓でギターを弾く幻覚的な演出をしつつ、中盤からは一気に火がついて加速。とてもスリリングな名曲です。「Babe I’m Gonna Leave You」も静と動の対比が強烈。アコギ主体の静かな演奏をじっくり聴いていると、フラメンコのような躍動感ある演奏でフックをかけ、また中盤からはドラムセットが壊れるくらいのパワフルなドラムをぶちかましてきます。
 ここからは『II』収録曲。「Whole Lotta Love」はハードロックのお手本のような楽曲ですね。カッコ良いギターリフで幕を開け、ゴリゴリとしたベース、シャウト気味で存在感のあるボーカル、リズミカルで気持ちの良いドラムが加わって高揚感を煽るオープニングの展開が最高にカッコ良い。中盤はサイケデリックで、官能的なプラントのボーカルに、グワングワンと揺さぶるギターでトリップできそうです。「Ramble On」は牧歌的な雰囲気が漂いますが、サビに当たる部分では躍動感に溢れる爽快な演奏を繰り広げます。メロディもキャッチーですね。続く「Heartbreaker」は、ペイジのギターとジョーンズのベースが展開するリフがとてもカッコ良い。中盤は荒っぽいギターソロを披露。若干の音質の悪さも相まって、鋭く尖った暴力的なサウンドは非常にスリリングです。
 『III』からは2曲を収録。ヴァイキングを題材にした「Immigrant Song」はキャッチーなリフとプラントの咆哮が耳に残る有名曲です。これは『伝説のライヴ』で大化けするので、是非ライブ演奏を聴いてほしいですね。「Since I’ve Been Loving You」は大人びた雰囲気の渋い名曲です。哀愁に満ちたブルージーな演奏に、色気たっぷりのボーカルも渋くてとても魅力的。ジョーンズの弾くオルガンも良い味を出していますね。そして後半はボーカルとドラムを中心に、ドラマチックに盛り上げるので感動的なんです。
 そして名盤『IV』の楽曲が続きます。「Rock And Roll」はストレートなロックンロール。躍動感溢れるパワフルでノリノリな演奏とキャッチーな歌は、聴いていると楽しい気分になりますね。続く「Black Dog」はプラントの歌と演奏が掛け合いを行いながら盛り上がっていきます。決して速くはないですがカッコ良いですね。「When The Levee Breaks」は王者の風格が漂う、緊張感に満ちた名曲。ボーナムの重たく響くドラムや、ハーモニカとギターの歪んだ音が緊張を強いてきます。そしてスケール感のある演奏と、哀愁漂う歌をカッコ良く聴かせてくれるんです。そしてレッド・ツェッペリン屈指の名曲「Stairway To Heaven」、邦題「天国への階段」。イントロのアルペジオとリコーダー演奏が寂寥感に満ちています。そしてボレロのように同じフレーズを反復しながら徐々にテンポアップして盛り上がっていき、序盤アコースティックに始まったのに終盤はスリリングなハードロック曲になっています。終盤のプラントのハイトーンは圧倒的です。
 
 
 Disc2は中期~後期の名曲群が並びます。『聖なる館』の名曲「The Song Remains The Same」で幕開け。邦題「永遠の詩」と呼ばれるこの楽曲は本サイトの名前の由来です。笑 ZEPを知って最初の頃に好きになった楽曲で、個人的には思い入れが深い楽曲ですね。イントロのギターが高らかに始まりを告げ、躍動感に満ちたリズム隊と合わさって高揚感を煽り立てます。ダイナミックかつ陽気な演奏に、高音キーのキャッチーな歌メロで多幸感に満ちた印象を与えます。「Over The Hills And Far Away」はアコースティックで牧歌的な雰囲気で始まりますが、爽やかなサビメロではグルーヴィで躍動感に満ちた演奏を展開。ポップな歌メロは耳触りが良く、リラックスして聴ける楽曲です。「D’yer Mak’er」はZEP流レゲエ曲。ボーナムのドラムが非常にパワフルで、リズミカルでリラックスした演奏に若干のスリルを加えてくれます。「No Quarter」はジョーンズの趣味に溢れたスペイシーなサイケ・プログレ曲。ポワンポワンと微睡むようなキーボードが、ダークで幻想的な世界を作り出します。アンニュイな歌も含めてゆったりと聴ける楽曲ですね。
 ここから『フィジカル・グラフィティ』の楽曲が続きます。プラントはこの頃喉を痛めていて、歌唱はざらついた印象です。「Trampled Under Foot」はファンキーでリズミカルなのですが、その演奏はヘヴィで強い緊張に満ちています。鍵盤とギターの絡みがスリリングでカッコ良い。「Houses Of The Holy」はポップなメロディラインとグルーヴィな演奏が気持ち良いですが、ギターやベースはゴリゴリとした質感で楽曲を引き締めます。そして中期屈指の名曲「Kashmir」。中東音楽を取り入れた怪しげなメロディを、ストリングスやブラスで飾り立て、全体的に荘厳で貫禄のある楽曲に仕上げています。漢の哀愁漂う歌唱もカッコ良いし、終盤恐ろしいほどの緊張感を放つドラムもスリリングで素晴らしい。ドラマチックでスケール感溢れる名曲です。
 続いて『プレゼンス』収録曲。「Nobody’s Fault But Mine」はヘヴィでメタリックな楽曲です。ゴリゴリした武骨なベースにパワフルなドラムが強烈。そして「Achilles Last Stand」は後期の名曲。初めて聴いたときにあまりに強い衝撃を受けたのですが、大怪我からの復帰明けレコーディングでこの楽曲を聴いたプラントがその凄さにひっくり返ったというエピソードから「Achilles Last Stand」の名が付いたのだとか。10分半の大作ながら1秒たりとも隙を許さない、凄まじい緊張感を放つ楽曲です。メタリックなギター、タッタカタッタカと硬質なベース、ドタバタ忙しなく暴れるドラムと、そんな演奏にも負けない存在感を放つプラントの歌唱。とにかくカッコ良いのです。
 そして残るは『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』の楽曲です。「In The Evening」はオリエンタルな雰囲気が漂います。ギターとシンセが奏でるフレーズはひたすら反復するものの、これが癖になる中毒性を持っています。そしてラストは名バラード「All My Love」。枯れた歌声は渋さという新たな魅力を獲得していて、とても切なくメロディアスな歌を届けます。幼い息子を亡くしたプラントの悲しみが楽曲に満ち溢れており、そんなエピソードを知ったうえで感傷的な歌を聴くと涙腺が緩んでしまいます。
 
 
 私はオリジナルアルバムを全て聴いてから本作を聴くという真逆な聴き方をしてしまいましたが、レッド・ツェッペリンの取っ掛かりには適した名ベスト盤だと思っています。本作だけでも十分楽しめてしまうため、本作から入るとオリジナルアルバムに手を伸ばすのを躊躇うかもしれない…という意味で罪な作品ではあります。本作も非常に優れた出来ですが、オリジナルアルバムもそれぞれがとても高いクオリティを持っていますので、相対評価でこれくらいの点数に留めておきます。笑 気になった方は是非オリジナルアルバムにも手を伸ばして頂きたいです。

Mothership (Remastered)
Led Zeppelin