🇬🇧 New Order (ニュー・オーダー)

スタジオ盤②

再結成~解散騒動

Get Ready (ゲット・レディー)

2001年 7thアルバム

 1993年に6th『リパブリック』発表後、メンバー間の確執が決定的になり、事実上の解散状態に。8年空けてのリリースとなりました。1993年にライブを行った後、1998年に再びライブを行うまでの間、メンバーは口も利かなかったそうです。
 スティーヴ・オズボーンがプロデュースする本作は、テクノポップ色は薄れ、ロック色の強い作品に仕上がっています。洒落たジャケットが特徴的ですが、これまでもジャケットアートを担当したピーター・サヴィルの作で、モデルの女性はニコレッテ・クレビッツ。センスあるジャケットが魅力的です。

 オープニング曲「Crystal」がカッコ良いです。静かな歌はドーン・ジーという女性歌手で、そこから突如始まるダンサブルな楽曲とバーナード・サムナー(バーニー)の優しい歌。バーニーのノイジーながら爽やかさも感じられるギター、そしてピーター・フック(フッキー)の際立つ高音ベースも痺れますね。「60 Miles An Hour」もアップテンポで聴きやすいギターロック。ダンサブルなビートが爽快で、キャッチーでメロディアスな歌も耳に残ります。間奏での、バンドサウンドに乗せたジリアン・ギルバートの分厚いシンセも魅力的。続く「Turn It Away」ではスマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンがボーカル参加しています。メランコリックな歌メロがとても切ないですね。憂いに満ちたメロディを主軸に置いたサウンドは、間奏ではノイジーな一面を見せます。「Vicious Streak」は暗い雰囲気のエレクトロニカ。無機質な打ち込みのリズムや電子音とは対照的に、ベースやギターが人間味というか哀愁を作り出しています。切ない気分になる1曲です。「Primitive Notion」は本作では「Crystal」に次いで好みですね。物悲しいフレーズを奏でるベースリフで始まり、アグレッシブでダンサブルなドラムがカッコいいハードな1曲です。荒々しいバンドサウンドを彩るシンセサイザーはひんやりと冷たくて、哀愁に満ちたバーニーの歌は哀愁と合わさって、刹那的でいながら幻想的な感覚を生み出します。「Slow Jam」はローファイなギターロックのよう。テンションの低い歌はダウナーですが、温もりや優しさを感じられるのはバーニーの声質によるものでしょうか。続いて「Rock The Shack」。スティーヴン・モリスのシンプルながらノリの良いドラムが軽快なリズムを作り出します。ノイジーなギターも強烈ですね。プライマル・スクリームよりボビー・ギレスピー(Vo)とアンドリュー・イネス(Gt)がゲスト参加しています。「Someone Like You」は疾走感のある楽曲です。テクノポップな浮遊感のあるシンセに、ビートの効いたリズムが爽快。ギターやベースがリードするロックパートに時折主導権を譲りながら、勢いを保ちます。でも歌は相変わらず強い憂いに満ちています。「Close Range」はスペイシーなサウンドで浮遊感がありますが、それを現実に引き戻させるパンチのきいたドラム。終盤の強烈なベースも夢見心地を覚ますのには十分ですね。そしてラスト曲の「Run Wild」は、アコースティックでしっとりとした優しい楽曲です。ダンサブルな感じがほとんどない、彼らには珍しいタイプの1曲。純粋にメロディの良さを味わえて、ドーン・ジーとの優しいデュエットで癒されます。

 全体的に憂いに満ちたギターロック的な仕上がりで、キーボード主体のテクノポップは本作ではあまり見られません。しかし出来映えは素晴らしく名盤だと思います。ジャケ買いしても外れなしです。

Get Ready
New Order
 
Waiting For The Sirens' Call (ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール)

2005年 8thアルバム

 前作発表後の2001年、難病を抱える娘のためにジリアン・ギルバートが脱退(何年も前から既にライブは不参加だったそうです)。代わりにサポートメンバーでもあったフィル・カニンガム(Gt/Key)が正式メンバー加入します。
 2002年には翌年リリースの報が出たそうですが、遅れに遅れて2005年のリリースになりました。やっつけ仕事と思われても仕方ない、シンプル極まりないジャケットですね…。プロデューサーとして名を連ねるのはスティーヴン・ストリート、ジョン・レッキー、スチュワート・プライス。ちなみに日本盤にはボーナストラックとして「Krafty」の日本語Verが収録されています。

 「Who’s Joe?」で開幕。切ないギターロック曲で、荒廃した雰囲気の暗いイントロから悲しい気持ちを誘います。バーナード・サムナー(バーニー)のメランコリックな歌も、楽曲の切ない空気にマッチしています。「Hey Now What You Doing」も陰のある雰囲気ですね。イントロをはじめ大きく動くピーター・フック(フッキー)のベースが印象的。エレキギターだけでなくアコギが小気味良く鳴り響くのがアクセントになっています。そして表題曲の「Waiting For The Sirens’ Call」。優しく癒してくれる楽曲で、歌には円熟味と憂いがありますが、メロディは程よくポップな印象です。派手さはないけど魅力的な佳曲ですね。ラストのアコギも素敵です。続いて「Krafty」は、ダンサブルな楽曲に、可愛らしさすら感じるポップなメロディが魅力の1曲。ですがポップとは言うものの、ニュー・オーダー特有のメランコリックで切ない感覚も持ち合わせています。「I Told You So」はリズムを強調した楽曲で、どこかヒップホップっぽい感じです。ダンサブルな「Morning Night And Day」はメロディも比較的キャッチーで、ノリも良くトーンも明るい1曲です。「Dracula’s Castle」は暗鬱なピアノで幕を開け、初期ニュー・オーダーのようにフッキーの高音ベースがリードするため暗い印象。ですがダンサブルなリズムを取り入れて、暗さの中にノリの良さがあります。口笛から始まる「Jetstream」はアナ・リンチをゲストボーカルに招いています。リズミカルですがどこか気だるげな雰囲気があります。前作でもコーラスを担当したドーン・ジーがコーラスを務める「Guilt Is A Useless Emotion」はダンサブルな楽曲。ノリの良いサウンドに、どこか陰を感じます。そして「Turn」が中々の良曲です。イントロからキレのあるドラムにゴリゴリベース、そしてギターの奏でるメロディアスなフレーズ。切なさに満ち溢れていますが、一方で清涼感も感じさせます。ラスト曲「Working Overtime」は一気に趣向を変えて、ガレージ色の強いロックンロールに仕上がりました。彼ららしくない珍しい楽曲ですね。バーニーのやる気のなさそうな歌唱もあってかオアシスっぽい感じもします。

 メランコリックな楽曲群が揃っていますが、突出した楽曲には欠ける印象です。何かしらのキラーチューンが欲しかったところ…。

 本作の後の2007年には、フッキーが一方的にニュー・オーダーの解散を発表。しかし残りのバーニーとスティーヴンは、フッキーが脱退したという考えのもとバンドを続けていく決意を表明。元々メンバー仲は良くありませんでしたが、ここで完全に決別してしまいました。

Waiting For The Sirens’ Call
New Order
 

新体制での再々結成

Lost Sirens (ロスト・サイレンズ)

2013年 9thアルバム

 2011年、ニュー・オーダーは再結成ライブを実施。バーニーことバーナード・サムナー(Vo/Gt)とスティーヴン・モリス(Dr)、フィル・カニンガム(Gt/Key)に、ジリアン・ギルバート(Key/Gt)も10年ぶりに復帰。しかし決裂したピーター・フック(フッキー)抜きでの再結成で、彼の後釜にはトム・チャップマン(B)。自身抜きで再結成した新生ニュー・オーダーに対し、フッキーは批判的な声明を発表しています。
 そんなゴタついた経緯があっての本作ですが、『ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール』時代に録音された楽曲のアウトテイク集で、メンバーの総意で特に編集せずにリリースしたそうです。そのため演奏しているのはバーニー、スティーヴン、フィルと、脱退したフッキーを含むラインナップです。編集盤っぽいですが、一応9thアルバムの位置づけみたいですね。

 オープニング曲「I’ll Stay With You」が良い感じ。爽やかで高揚感を煽るイントロ、しかし歌が始まるとメランコリックで哀愁を感じさせます。とても切ないのに、ノリの良いリズムビートをはじめ爽やかさな印象を兼ね備えています。「Sugarcane」はダンサブルな楽曲で、これも良曲ですね。キャッチーでリズミカルなサウンドは爽快で、メロディもポップで聴きやすいです。ただ、バーニーの落ち着いて憂いのある声質ゆえか、少しだけ切ない感覚を持ち合わせています。メロウでムーディな「Recoil」は、ピアノやストリングスが強い憂いを帯びています。薄らスパニッシュな味付けもされているような気がして、少し毛色の異なる印象を受けます。続く「Californian Grass」はメロディアスなギターロック曲です。ダウナーな歌に、陰のあるシリアスな演奏。アコギやエレキギターをかき鳴らし、武骨なベースも相まって時折ヘヴィな側面を見せます。「Hellbent」は『トータル~ベスト・オブ・ジョイ・ディヴィジョン&ニュー・オーダー』が初収録。ハードでメリハリのある演奏。メロディアスな歌はダークな雰囲気も感じられます。「Shake It Up」は攻めたダンスチューン。アグレッシブでノリノリな演奏に合わせて、バーニーも年齢に不相応なチャラい感じ。落ち着いた楽曲も多い中でこの楽曲はかなり若返った印象です。バーニーのアカペラから始まる「I’ve Got A Feeling」。グルーヴ感が強くパンチのある演奏で、これも若々しさを感じられます。一方で歌はメランコリックで、聴いていると切ない気持ちになります。最後の「I Told You So (Crazy World Mix)」は前作収録曲のリミックス。オリジナルはヒップホップっぽい印象を受けましたが、こちらはエスニックな香りも漂い妖しげな魅力を発揮。こちらの方がアレンジが好みです。

 前作のアウトテイク集ながら、個人的には前作よりも好みでした。省いたのが勿体ないくらいの、惹かれる楽曲もいくつか収録されています。

Lost Sirens
New Order
 
Music Complete (ミュージック・コンプリート)

2015年 10thアルバム

 バーニーことバーナード・サムナー(Vo/Gt)、スティーヴン・モリス(Dr)、フィル・カニンガム(Gt/Key)、ジリアン・ギルバート(Key)、トム・チャップマン(B)という、ピーター・フック抜きの編成による作品です。ゲストボーカルを分厚くすることで穴埋めを図ったのか、シンセポップユニット ラ・ルーのエリー・ジャクソン、キラーズのブランドン・フラワーズ、イギー・ポップらを招いています。ニュー・オーダーと、スチュワート・プライス、そしてケミカル・ブラザーズのトム・ローランズがプロデュース。

 「Restless」で開幕。ダンサブルなドラムパターンが印象的で、バーニーの歌声は低くて憂いのある雰囲気です。この楽曲をはじめいくつかの楽曲で聞けるストリングスは、ジョー・ダッデル指揮、管弦楽団マンチェスター・カメラータが演奏しています。続く「Singularity」は、珍しく神経質に細かく刻むリズムがスリリングです。ダンサブルな演奏に変わると細かく刻むリズムに爽快な印象が加わりますが、全体的にはどこか不穏でダークな空気が支配しています。メロディも曇天のような憂いを帯びて、晴れない感じ。ダンスチューン「Plastic」はデジタルサウンドにグルーヴ感抜群のダンスビートが効いています。洗練されていてとてもクールですね。エリー・ジャクソンのコーラスも良いアクセントになっています。壊れた電子音で始まる「Tutti Frutti」も、グルーヴィでカッコ良いダンスチューンです。トリップ感満載のサウンドに、浮遊感のある心地良い歌声。これもエリー・ジャクソンがゲスト参加。続く「People On The High Line」はキレのあるビートがとても爽快で、リズムビートに加え重低音もよく効いていてノリノリです。エリー・ジャクソンのアンニュイで儚げなボーカルが、バーニーと絡んで心地良い感覚を生み出しています。「Stray Dog」でドスの利いた低音で歌うのはパンクのゴッドファーザーことイギー・ポップ。ノリの良いサウンドとは対照的に、いつか吼えるんじゃないかと近寄りがたい歌唱にスリルを覚えます。続く「Academic」はキャッチーでメロディアスな1曲。バンドサウンドが前面に出たサウンドはメリハリがあり、そしてメランコリックな歌も良い。往年のニュー・オーダー的な楽曲で、魅力に溢れています。「Nothing But A Fool」はエキゾチックで妖しげな香りが漂い、途中からダンスビートが加わり盛り上がっていきます。サビでは晴れやかなトーンへと変わり、ストリングスの演出もあって多幸感に包まれます。続いて「Unlearn This Hatred」でまた洗練されたダンサブルな楽曲をぶち込みました。前身から数えて40年近いキャリアがあるとは思えない最近のEDMって感じで、カッコ良い曲に仕上がっています。「The Game」も強烈なダンスビートで牽引。ですが中盤アンニュイでじっくり浸れるパートを挟むことで、ニュー・オーダーらしい憂いを感じさせます。アウトロの哀愁のギターも良い味を出していますね。最後は「Superheated」。軽快で爽やかな楽曲ですが、ブランドン・フラワーズをフィーチャーした歌も含めて彼ららしさが薄くて少し残念だったりもします。

 現行最新作。1980年代のチープさ(ある意味それが彼ららしさで一番の魅力でしたが)は無く、1990~2000年代の憂いに満ちたメロウな楽曲ばかりの作品とも違う、洗練されたノリの良いEDMが多い印象です。彼ららしいメランコリックな楽曲もありつつ、今どきのカッコ良いダンス曲も多く並ぶ好盤です。フッキー不在の穴を感じさせない、まだまだニュー・オーダーは健在だと示してくれる出来の良い作品に仕上がりました。

Music Complete
New Order
 
 

編集盤

Substance (サブスタンス)

1987年

 ニュー・オーダーのシングルベストです。オリジナルアルバムにはシングルを収録しなかった、またはシングルと別バージョンで収録したニュー・オーダー。そのためシングルベストの本作とオリジナルアルバムでは楽曲が被らないのが嬉しいところです。Disc1はシングルA面、Disc2はシングルB面を並べています。ただ、Disc2はそこまで魅力的な楽曲がない印象。ベスト盤が数多く出ているニュー・オーダー、本作は記録としての側面が強いかもしれません。
 
 
 Disc1は「Ceremony」で始まります。ジョイ・ディヴィジョン時代もライブで歌われていましたが、イアン・カーティスの自殺によって世には出ませんでした。ニュー・オーダーの楽曲としてバーニーことバーナード・サムナーの声でリリースされた、ジョイ・ディヴィジョンとニュー・オーダーを繋ぐ楽曲です。メインメロディを奏でるフッキーことピーター・フックのベースが印象的。晴れやかながら陰を感じるサウンドにバーニーのとても暗い歌が、彼らの悲しみを物語っています。続く「Everything’s Gone Green」ではダンサブルなサウンドに変わります。チープな仕上がりに人間味があって、ニュー・オーダーの進む路線がここに垣間見えます。後半無駄に長い感じもしますが…。「Temptation」も、バーニーのドヘタクソな歌をはじめ決してうまくない演奏です。しかし下手さゆえに無機質なダンスサウンド的アプローチに人間味が出て、温もりのある演奏と歌を聴かせます。そこが魅力のひとつかもしれません。そしてニュー・オーダーを成功に導いた代表曲「Blue Monday」。本作の聴き所は間違いなくこの1曲です。イアン・カーティスの訃報をメンバーが知った憂鬱な月曜日を歌った歌詞と、対照的にダンサブルでノリノリなサウンド。ドラムマシーンを用いたバスドラムが強烈なインパクトを放つイントロに、ピコピコとチープなサウンドを奏でるキャッチーな楽曲です。英国インディー史上最大のヒットシングルとなり、クラブシーンにも大きな存在感を放つようになりました。「Confusion」あたりから、下手なりにもダンス曲がかなりこなれてきた感じがあります。ビートがとても心地良くて、雰囲気もかなり明るくなりました。ピコピコサウンドを軸にしつつ、メタリックなベースがカッコ良い。独特のリズムパターンにフックのある「Thieves Like Us」は少し陰を感じます。ニュー・オーダーは華やかなようでメランコリックな楽曲が多いんですよね。
 ここまではオリジナルアルバムに収録されなかったシングル群でしたが、ここからはオリジナルアルバムに収録された楽曲のアレンジ違いが見られはじめます。まず『ロウ・ライフ』収録の名曲「The Perfect Kiss」ロングバージョン。分厚く華やかなシンセに彩られた歌メロは抜群にポップで、またダンサブルなビートも爽快です。なお本作収録verはシングルともアルバムとも違うミックスらしいですね。「Sub-Culture」は『ロウ・ライフ』版と比較して憂いが薄まり、女性コーラスや所々に入るSEが派手で華やかな印象に仕上げています。ちょっとコレジャナイ感が…。アルバム未収録の「Shellshock」はノリノリのダンス曲。メロディもキャッチーです。続いて『ブラザーフッド』に収録された、エスニックな香り漂う「States Of The Nation」とキャッチーな名曲「Bizarre Love Triangle」のロングバージョン。この頃になるとすっかり垢抜けていますね。ヘタウマバーニーも甘い歌声という魅力を獲得しています。「True Faith」では、ノリの良いサウンドに乗るメランコリックな歌。音色に少し時代を感じます。 

 Disc2はシングルB面が並びます。A面曲のインストゥルメンタルも多く、正直1回聴けば十分な楽曲も多かったりします。「In A Lonely Place」はジョイ・ディヴィジョン時代に作られた楽曲。民族音楽的な不気味なリズムに、チープな音色だけど荘厳な雰囲気を持ち、そしてどん底のように暗い1曲です。イアン・カーティスに似せたバーニーの歌声が深く沈みゆきます。スペイシーなシンセで幕を開ける「Procession」は疾走感に溢れる1曲。演奏も歌も拙いですが、勢いがあって爽快です。フッキーのベースが唸る「Cries And Whispers」はテンポの速さに比例しないテンションの低さが印象的。演奏だけは後半に向かうにつれてどんどんノイジーになっていきます。「Hurt」はチープなサウンドで陰鬱さもありますが、ダンサブルなリズムビートを導入して 無理矢理盛り上げている感じがします。陰鬱な印象はフッキーのベースによるところも大きいですね。「The Beach」は大ヒット曲「Blue Monday」のインストで、「Confused Instrumental」は「Confusion」のインスト…というかリミックスでしょうか。冗長で退屈な印象は否めません。レゲエの影響を感じる「Lonesome Tonight」を挟んで、緊迫感のあるインスト曲「Murder」。スティーヴン・モリスのタムを多用したドラムを中心に、緊張を高める不穏なギターやゴリゴリベース。不気味でとてもスリリングなゴシックロックを展開します。続いて、「Thieves Like Us」のインスト「Thieves Like Us (Instrumental)」、「The Perfect Kiss」のリミックス「Kiss Of Death」、「States Of The Nation」のリミックス「Shame Of The Nation」と、インストやリミックスが続きます。この辺は聞き流してしまいますが、ラスト曲「1963」は聴いておきたい名曲です。暗殺されたジョン・F・ケネディにインスパイアされた楽曲だそうです。ダンサブルで華やかなサウンドに哀愁を纏い、「ジョニー…」と悲しげで憂いに満ちたバーニーの歌が響きます。メロディラインの美しさが魅力的です。
 
 
 Disc1はキャッチーなシングルA面曲が並び、聴き所満載です。シングルB面曲の並ぶDisc2は「1963」以外はそんなにパッとしません…。ニュー・オーダーの入門とするにはボリュームがかなり多いし、入門かつ普段聴きに適したベストなら『トータル~ベスト・オブ・ジョイ・ディヴィジョン&ニュー・オーダー』が決定盤だと思います。リリース当時の位置づけはさておき、今から聴くとするなら結成から全盛期のシングルを纏めた記録という、コアなファン向けのベスト盤ではないでしょうか。

Substance
New Order
 
Total: From Joy Division To New Order (トータル~ベスト・オブ・ジョイ・ディヴィジョン&ニュー・オーダー)

2011年

 ジョイ・ディヴィジョンとニュー・オーダーのトータルベスト。ベスト盤ばかりのニュー・オーダーですが、ジョイ・ディヴィジョン時代も含めた軌跡を記録したトータルベストはありそうでなかったんですね。選曲をみても入門盤にふさわしいどころか、オリジナルアルバムを含めてもこれが彼らの決定盤だと思います。ベストが一番って邪道ですけどね。
 ジャケットは「O」だけ書かれていますが、ジャケットを広げると「TOTAL」と書かれています。それにしてもシンプル極まりないですけどね。

 アルバムはジョイ・ディヴィジョン時代からスタート。しいて言えば「Disorder」も欲しかったところですが、それでも選曲は素晴らしいです。1曲目「Transmission」はフッキーことピーター・フックの主張の激しいベース音から開幕。そこにエコーをガンガン掛けたスティーヴン・モリスのドラムがノリの良いリズムを刻み、そしてバーニーことバーナード・サムナーのギターが音を広げ、イアン・カーティスのダウナーな歌が始まります。鳥肌の立つオープニング曲です。続いてジョイ・ディヴィジョン最高傑作「Love Will Tear Us Apart」。軽快なギターと浮遊感の漂うシンセサイザー、そして歌うようにメロディを奏でるベース。終始軽快なドラムも爽快ですね。でも刹那的な儚さを感じてしまうのはイアンの死が見えているからでしょうか。そしてアルバム曲から「Isolation」。バーニーのシンセが前面に出た、後のニュー・オーダーを感じさせるテクノポップな1曲です。サウンドはチープですが、これが不思議とクセになります。「She’s Lost Control」はリズムを強調したアレンジ。鬱々とした暗すぎる歌とは対照的に、ノリの良いダンサブルなサウンドがやみつきになります。そして「Atmosphere」は神秘的でスケール感のある楽曲です。プリミティブなパーカッションが楽曲を支えます。
 ここからはジリアン・ギルバートを迎えてニュー・オーダーとして再出発。「Ceremony」はジョイ・ディヴィジョン時代に作られていながら、イアンが亡くなったためにニュー・オーダーに引き継がれた、両バンドを繋ぐ楽曲です。空元気というか晴れやかな音ですが、歌には強い悲しみを感じます。「Temptation」はノリノリでダンサブルなニューウェイヴサウンド。初期ニュー・オーダーの特徴とも言える、バーニーのヘッタクソで調子外れな歌が聞けます。続いて、ニュー・オーダーの代表曲で世界的なヒットを飛ばした「Blue Monday」。イアンが亡くなった日の心情を歌った楽曲ですが、そんな暗い歌詞とはミスマッチなノリの良いダンサブルなサウンドは強烈に耳に残ります。特にドラムマシンを用いたバスドラムの刻むビートがとても強いインパクトで、そこにピコピコサウンドが乗って気持ちの良いグルーヴを生み出します。何度も何度もリピートをかけたくなる、非常に強い中毒性を持った1曲です。「Thieves Like Us」もドラムパターンが気持ち良い。チープなシンセはどこか安心感を覚え、またバーニーの下手な歌も不思議と癒されるのです。「The Perfect Kiss」、これも個人的に大好きな1曲です。キャッチーな歌メロに、シンセを中心とした煌びやかなサウンドで、とても華やかです。リズムもノリノリでとても爽快ですが、どこか切なさを感じます。バーニーのヘタウマな歌も味があって良い。「Bizarre Love Triangle」はドラム音に時代を感じさせます。派手なサウンドのクラブ路線もこなれてきて、米国ビルボードのクラブ・プレイ・チャートで4位を記録するなど大ヒットしました。「True Faith」は哀愁を感じる歌メロをダンサブルなサウンドで飾り立てます。「Fine Time」は派手さを極めて底抜けにゴキゲンなハウス。でも突然変異じゃなくて、ちゃんと順を追って進化しているんですよね。続いて「World In Motion」はシンセの音色に1990年代の邦楽のような古臭さを感じ、また喧しいコーラスにも笑ってしまいます。ただ、ダンサブルなリズムはとても気持ち良いです。「Regret」ではこれまで控えめだったギター音が戻ってきて、ダンスとロックの融合という初期ニュー・オーダーを取り戻した印象。爽やかさの中に少し憂いを帯びた歌メロもたまりません。「Crystal」でダンスロック色は更に強まり、特にギターやベースが強い存在感を放ちます。またアルバム通しで聴くと、バーニーのボーカルも随分上手くなったなぁと感慨深いです。「Krafty」はポップな感じ。ダンサブルなノリとメランコリックなメロディは残しつつ、どこか可愛らしさも感じられます。そしてラストの「Hellbent」は未発表曲。サウンドは賑やかですが、これまでの楽曲と比べるとどこかダークな雰囲気です。

 CD1枚に纏まった、重たすぎず満足感のある丁度良いボリューム。ジョイ・ディヴィジョンとニュー・オーダーの軌跡を上手く纏めた素晴らしいベスト盤です。

Total: From Joy Division To New Order
New Order
 
 

関連アーティスト

 ニュー・オーダーの前身となるバンド。

 
 
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