🇯🇵 椎名林檎 (しいな りんご)

レビュー作品数: 2
  

スタジオ盤

無罪モラトリアム

1999年 1stアルバム

 椎名林檎は日本のシンガーソングライターで、東京事変のボーカルとしても活動しています。1978年11月25日生まれ、埼玉県出身の静岡・福岡育ち。本名は椎名裕美子といいますが、ドラマーとして音楽活動を始めたことからビートルズリンゴ・スターに倣って「林檎」のペンネームを使い始め、そのまま芸名にしたのだそうです。
 「新宿系」を標榜する彼女。全作詞作曲を椎名自身が手掛けます。椎名が10代の頃から書き溜めてきた楽曲を集めた作品です。ディレクターの篠木雅博が外部のディレクターを招いたものの、旧来のディレクションに椎名が猛反発。椎名とアレンジャーの亀田誠治(B)の意向を尊重して好き勝手させた結果、170万枚という大ヒットを生み出すことになりました。

 アルバムのオープニングとなる「正しい街」はノイジーな演奏で幕を開けます。ベースを軸にした演奏はシンセやオルガンなど結構音色豊かなのですが、歌には強い哀愁が漂い、全体的に重く暗い雰囲気が漂います。ヴォコーダーを通して強く歪めた椎名の声をコーラスに使ってカオスな感じ。続いて代表曲「歌舞伎町の女王」。ドラムは椎名が叩いています。ダーティで退廃的な演奏に、巻き舌気味の独特の歌唱で歌うメロディは哀愁に満ちています。渋谷のレコード店でのバイト時代に、SMクラブのスカウトマンにしつこく声を掛けられたことから着想を得て作った楽曲だとか。「丸の内サディスティック」も人気の高い1曲で、物憂げですがオシャレな感じがします。ジャジーなピアノとドラム、それに対するゴリゴリベースが対照的。ピアノや鍵盤ハーモニカは椎名が演奏しています。アンニュイで艶っぽい歌唱で歌う歌詞には、敬愛する浅井健一/BLANKEY JET CITYのことが歌われています。「幸福論 (悦楽編)」はノイジーに歪んだギターを皮切りに、ヘヴィかつ疾走感のある演奏を展開。ボーカルは終始ヴォコーダーを通した歪んだ歌声でキンキンと歌い、時折音が割れるほどのノイジーな絶叫を繰り広げます。「茜さす 帰路照らされど・・・」はメランコリックで切ないメロディですが、サビでの巻き舌気味の歌唱は毒気がありますね。「シドと白昼夢」は、アンビエント風の心地良さと無機質なデジタルサウンドが同居する穏やかな雰囲気。ですがサビは場違いなバンド演奏が強烈なグルーヴを効かせて空気を一変させます。「積木遊び」はごった煮の楽曲ですが、これが中々面白いです。切れ味鋭いギターがメタル感を出しつつ、唸るブラスや強烈なベースにファンクっぽい要素も感じさせ、和風のダンス要素も見られます。歌はかすれ気味に儚さを出したり、巻き舌気味に攻撃的だったり、ヒステリックだったりと変化に富んでいますね。「ここでキスして。」は本作をヒットに導いたリードシングル。アカペラで若干ヒステリック気味でメロディアスな歌を聴かせたあと、強烈なグルーヴを効かせるベースを軸にした演奏に乗せてアンニュイな歌を乗せます。小さい頃ヒットチャートでよく耳にしていたので懐かしいです。「同じ夜」はアコギ主体のシンプルな演奏にヴァイオリンが時折不穏な音色を奏でます。そしてフィーチャーされる椎名の歌はどんどんヒステリックに。続いて「警告」はヘヴィなグランジ風かと思えば、オルガンも入ったりしてオールドロックな風合いも見せます。演奏全般クールでカッコ良いですが、メタリックなベースが特にカッコ良い。ラストのブレスが色っぽいですね。そして最終曲「モルヒネ」は牧歌的な雰囲気ですが幻覚的な音色も聞こえ、薬物中毒でラリった世界を表現しているのでしょうか。

 グランジやダンス、はたまたジャズも取り入れたジャンルレスの演奏をバックに超個性的な歌唱で存在感を放ちます。毒気の強さに長らく苦手意識がありましたが、レビューにあたり向き合ってみると意外と面白い作品だと気付きました。

無罪モラトリアム
椎名林檎
 
勝訴ストリップ

2000年 2ndアルバム

 椎名林檎最大のヒット作となる『勝訴ストリップ』は250万枚以上を売り上げました。椎名を支える制作陣が彼女のブランドイメージを築き上げるのを手伝い、カリスマ的な人気を発揮しました。またアルバムはシンメトリーに徹底してこだわって作られており、楽曲タイトルの付け方や字数も1曲目と13曲目、2曲目と12曲目…と対称的になっているほか、収録時間の55分55秒にもこだわりが見えます。全作詞作曲を椎名一人で担い、亀田誠治(B)と椎名の共同編曲という前作同様のスタイル。プロデューサーには井上うに。前作よりも売れたのに、前作以上にメジャー路線から離れて個性を爆発させています。
 ナース服でガラスをぶち破るPVが強烈な「本能」や、「ギブス」「罪と罰」を先行シングルとしてリリースしています。

 「虚言症」は金属質なベースや歪んだギターなどのヘヴィでノイジーな演奏をバックに、力強さにヒステリーが混じったような歌唱で存在感を発揮します。ごちゃついた印象。「浴室」は無機質な反復を繰り返すダンスビートを中心に、淡々とした雰囲気。ですがサビでは浮遊感を見せます。そして後半はノイズを強めて毒気が増します。心地良さと不快さが同居する、印象的な1曲です。続く「弁解ドビュッシー」はイントロから暴力的なギターとベースを轟かせます。ヴォコーダーを通した歌も攻撃的ですね。由来としては、椎名がフェイバリットにドビュッシーを挙げると「何で?」と聞かれることが多く、「ドビュッシーを好きなことに説明とか弁解なんてあるかよ!」という思いで勢い任せに作ったのだとか。続いて先行シングル「ギブス」。静かに始まりアンニュイな歌を聴かせる楽曲ですが、盛り上がり方はドラマチックというよりノイジーな印象。サビではヒステリック気味に感情を表現します。「闇に降る雨」は不穏なストリングスとデジタルサウンドを組み合わせたダンサブルなイントロを経て、歌が始まると疾走感を落とします。全体的に暗く重たい雰囲気。一転して「アイデンティティ」は村石雅行の爽快なドラムで幕を開ける疾走曲。不快なノイズも混ざってごちゃついていますが、勢いに満ちたパンキッシュでグランジーなバンド演奏が爽快です。そして「罪と罰」は巻き舌でヒステリック気味に歌う歌唱が際立ちますが、ヘヴィで暴力的な演奏もカッコ良い。ゲストミュージシャンとして、椎名が敬愛するBLANKEY JET CITYの浅井健一(Gt)が参加。また、味のあるオルガンの音色も心地良いですね。「ストイシズム」は加工した椎名の声を楽器のように用いたテクノポップ風の楽曲です。ピコピコとした楽しげな音色も虚しく、どこか退廃的で不気味な雰囲気が漂います。「月に負け犬」は静と動の対比が強烈なグランジ風の楽曲です。ヘヴィな演奏は鈍器で殴るようなベースが凶悪でカッコ良い。「サカナ」はメロウで低血圧気味に進行しますが、徐々に暴力的な側面が表出。様々な音がうまく結びつかず、騒がしくて混沌とした印象を与えます。ラストはブツ切りで次曲「病床パブリック」が突然始まります。ノイジーで暴力的な疾走曲で、バンドサウンドは全般歪んだ音だし、加工したボーカルが低いキーで歌うさまは狂気を感じます。「本能」は最大のヒット曲。当時、PVが強烈なインパクトだったことに加えて、メランコリックな歌メロは毒気のある歌い方で、なんとなく怖いという固定イメージを当時から長らく抱くことになりました。毒気はありますが、でも跳ねるようなジャジーなドラムはオシャレだったりするんですよね。そしてラスト曲「依存症」は6分を超える大作。メロディアスなサビメロは切ないですね。アンビエント風の静かなサウンドがサビで暴力的なノイズに呑まれるさまがレディオヘッドにも通じるかも。スケール感のあるアウトロも聴きどころです。

 エレクトロニカ要素も取り入れつつノイズを強めた楽曲群は、全体的に暗い雰囲気が漂います。曲によってはノイズがかなり辛いですが、暴力的なバンドサウンドが活きた楽曲はカッコ良いです。
 このあと1年半の活動休止へ。弥吉淳二(Gt)との結婚、出産、離婚を経て、カバーアルバム『唄ひ手冥利〜其ノ壱〜』をリリースします。

勝訴ストリップ
椎名林檎
 

 
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