🇬🇧 Deep Purple (ディープ・パープル)

レビュー作品数: 5
  

スタジオ盤

Deep Purple In Rock (ディープ・パープル・イン・ロック)

1970年 4thアルバム

 英国イングランド出身のハードロックバンド、ディープ・パープル。1968年に結成し、初期は前衛的なアートロックを行っておりました。メンバーの入れ替わりが激しいのですが、脱退したメンバーが作ったレインボーホワイトスネイク等のハードロックバンドが成功を掴んだり、旧メンバーがブラック・サバス等のハードロックバンドに一時加入するなど、ハードロック界に多くの遺伝子を残しています。また「様式美」と呼ばれるハードロックにクラシックの要素を加えたスタイルも、黄金期の看板ギタリスト、リッチー・ブラックモア(ディープ・パープルおよびレインボー)の与えた影響が大きいでしょう。
 本作制作時では、中心となるリッチー・ブラックモア(Gt)、ジョン・ロード(Key)、イアン・ペイス(Dr)に加え、イアン・ギラン(Vo)とロジャー・グローヴァー(B)をメンバーに迎えました。第二期ディープ・パープルの幕開けとともに、ハードロックバンドとしての方向性を位置づけた作品が本作となります。なお、メンバーチェンジによりバンドを去った初代ボーカリストのロッド・エヴァンスはのちにハードロックバンド、キャプテン・ビヨンドを結成しました。

 メンバーの彫像が並ぶジャケットは、言わずもがなアメリカ大統領4人が彫られたラシュモア山のパロディですね。ディープ・パープルのセルフプロデュース作。

 荒々しい疾走曲「Spend King」で始まります。出だしからシャウト全開で凄まじい勢いに圧倒されます。ヘヴィなギターだけでなく、ハモンドオルガンにもソロパートがあってギターとタメを張ります。その裏でグルーヴ感のあるベースもなかなかカッコいい。ギランのシャウトがリードするヘヴィな1曲「Bloodsucker」を挟んで、長尺インプロヴィゼーションが特徴的な「Child In Time」。前半はゆったりとしていて、ロードのハモンドオルガンを主体に、ギランの泣き叫ぶかのような切ない雰囲気が漂います。中盤は長尺の激しいギターソロが強烈。ギターにハモンドオルガンが絡んでくると激しくなり、突如序盤のような静けさが訪れます。スリリングな1曲です。
 アルバム後半は「Flight Of The Rat」で幕開け。一見ストレートなロックンロールナンバーですが、間奏では長尺インプロヴィゼーション大会が展開され、なかなかスリリングです。続くスローテンポのヘヴィロック「Into The Fire」は荒々しいサウンドが特徴的ですね。「Living Wreck」は哀愁ある楽曲です。終盤に暴れ回るドラムがカッコいい。ラスト曲「Hard Lovin’ Man」は、タッタカタッタカと刻むリズムが心地良い疾走感を生み出します。安定のリズム隊の上で荒れ狂うギターとオルガンが聴きどころ。

 本作は音が荒いのですが、ハードロックの勢いを殺さずにパッケージしたライブ感のある仕上がりになっています。ハードロック志向を提案したリッチー・ブラックモアは、本作の成功によって次第にバンドの主導権を握るようになります。

Deep Purple In Rock (25th Anniversary Edition)
Deep Purple
 
Machine Head (マシン・ヘッド)

1972年 6thアルバム

 ハードロックの名盤として挙げられることも多い、ディープ・パープルの代表作。…に対する、神をも恐れぬ50点評価。名曲がいくつもありますが、この点数にした理由はほかでもない『ライヴ・イン・ジャパン』の存在です。ディープ・パープルの場合、ライブで楽曲を昇華・完成させる傾向があるので、一度ライブ盤を聴いてしまうとスタジオ盤がかなり物足りなく感じてしまうのも事実です。

 ディープ・パープルのセルフプロデュースとなる本作は「Highway Star」で幕開け。イントロから高揚感を煽りますね。CM曲にも起用されるディープ・パープルの代表曲です。歌詞は、自分の車は速くて最高だという笑ってしまう内容ですが。笑 疾走感があって、イアン・ギランもシャウト全開。リッチー・ブラックモアによる間奏の速弾きギターも凄まじいです。続く「Maybe I’m A Leo」以降が地味で、落差が激しいです…。正直、アルバム前半は「Highway Star」以外はパッとしません。
 アルバム後半は、「デッデッデー デッデッデデー」というギターリフが非常に有名な「Smoke On The Water」で幕開け。ギターリフにドラムが加わり、そしてベースが加わるという徐々に楽器が増えていく展開に、イントロだけでも非常にワクワクします。モントルーでの収録時に起きたハプニングを歌詞にしたもので、近くで開催していたフランク・ザッパのライブで発砲した人がいて、ライブハウスが燃え上がって湖が煙にまみれる…という歌です。とてもキャッチーなサウンドと、分かりやすい歌詞が特徴的。素晴らしいギターリフを携えた超名曲ですね。続く「Lazy」は歪んだヘヴィなオルガンが強烈。ギターとオルガンが掛け合いを行う即興的な演奏を展開。後半にボーカルパートがありますが、前半のスリリングなインプロヴィゼーションが聴きどころですね。ラストの「Space Truckin’」は疾走感のあるハードロック曲です。イアン・ペイスのドラムが心地良いリズム感を刻みます。また、一緒に歌いたくなるような、イアン・ギランのサビでの煽りも素晴らしい。

 名曲が揃っているのですが、勢いやスピード感、音の広がり、緊張感、洗練さ…といった数々の面で上位互換の『ライヴ・イン・ジャパン』を聴いた後だと、本作は小綺麗に纏まりすぎている印象。もっと言うとデモ版のようにすら聴こえてしまうため、どうにも物足りなく感じてしまいます。『ディープ・パープル・イン・ロック』よりサウンド的には洗練されてるはずなのに、ライブ盤の後に聴くとどうにも野暮ったい。
 楽曲的には割と充実していますので、もし本作を聴くつもりであればライブ盤に手を出す前のほうが良いかもしれません。素晴らしいライブを先に聴いてしまった方は、本作はガッカリするかも。笑

Machine Head
Deep Purple
 
Burn (紫の炎)

1974年 8thアルバム

 脱退したイアン・ギランとロジャー・グローヴァーの後釜にデヴィッド・カヴァーデイル(Vo)とグレン・ヒューズ(B/Vo)をメンバーに迎えた第三期ディープ・パープルの1作目。デヴィッド・カヴァーデイルのソウルフルな歌唱にグレン・ヒューズのコーラス、そして彼らの持ち込んだファンクなどの音楽によって、クラシックを基調としたハードロックに黒っぽさが加わりました。野暮ったさが抜けなかったディープ・パープルがスタイリッシュになりました。流石にライブ盤には劣るものの、そこまで見劣りしない出来の良さです。バンドの持っていた音楽と、新加入メンバーの持ち込んだ音楽との化学反応もプラスに働いています。

 ディープ・パープル屈指の名曲「Burn」で始まります。クラシカルな要素を盛り込んだ疾走曲で、CM曲としても有名ですね。カッコいいリフを刻むリッチー・ブラックモアのギターに負けじと、ジョン・ロードのハモンドオルガンも縦横無尽に暴れ回る。演奏パートが非常にスリリングでカッコいいのですが、カヴァーデイルも前任イアン・ギランに負けない鬼気迫るボーカルを披露し、存在感をアピールします。続いて「Might Just Take Your Life」はヘヴィなオルガンがリードします。ギランのボーカルだと野暮ったい1曲になっていたかもしれませんが、カヴァーデイルとヒューズのツインボーカルが洒落た雰囲気に仕立てています。続く「Lay Down, Stay Down」はパーカッションが心地良い疾走曲。ファンキーなサウンドに乗せて伸びやかなボーカルが素晴らしいです。「Sail Away」はカヴァーデイルの渋く色気のあるボーカルが魅力的な1曲。
 アルバム後半はファンク全開の「You Fool No One」で幕開け。イアン・ペイスによる、ラテンなリズムで刻まれるパーカッションが、身体を動かしたくなるような心地良さを提供します。グルーヴ感の強いベースもカッコいいですね。続いて軽快なホンキートンクピアノが特徴的な「What’s Goin’ On Here」では、ジャジーで少しゴスペル風な雰囲気を見せます。とてもオシャレな印象。そして「Mistreated」は哀愁の漂うブルージーな1曲で、あまりに渋いです。ディープ・パープルの遅い曲って正直イマイチな楽曲も多いのですが、これは格別。なお、後にブラックモアが結成するレインボーでも頻繁に歌われます。きっとブラックモアのお気に入りなんでしょうね。最後はインストゥルメンタル「”A” 200」でアルバムを締めます。終始スペイシーなサウンドが鳴り響き、ミステリアスな雰囲気です。

 イアン・ギランよりも、デヴィッド・カヴァーデイルの渋くてソウルフルな声のほうが好きな私としては、スタジオ盤の最高傑作は本作だと思っています。

Burn
Deep Purple
 
 

ライブ盤

Made In Japan (ライヴ・イン・ジャパン)

1972年

 第二期ディープ・パープルの傑作ライブ盤です。ライブバンドとしての実力を見せつけたディープ・パープルの最高傑作にして、数多あるハードロックバンドのライブ盤の中でもトップクラスのクオリティを誇る名盤です。スタジオ盤を遥かに凌駕するスピード感や音の広がりに圧倒されます。そして選曲が良く、入門作としても向いています。正直、第二期ディープ・パープルはこれさえあれば他を聴かなくて良いと思わせてしまう、スタジオ盤の価値を大きく下げてしまった戦犯でもあったりします。録音状態も非常によく、他の海外アーティストに日本公演の良さを広めることにも貢献したようです。

 初っ端からスタジオ盤を上回る勢いとテンションの「Highway Star」で盛り上げてくれます。これを聴くとスタジオ盤が聴けません。笑 イアン・ギランのシャウトも絶好調だし、前半の間奏で激しいソロを披露するジョン・ロードのハモンドオルガン、そして後半パートでは負けじと鬼神の如き速弾きを披露するリッチー・ブラックモアのギターソロがあまりに魅力的。そんな3人を支えるロジャー・グローヴァーのバキバキのベースとイアン・ペイスのスリリングなドラムも含め、何もかもがスタジオ盤を大きく上回っています。続く「Child In Time」では一気に静かになりますが、ギランの泣き叫ぶかのような歌が激しくなるにつれて演奏も激しくなります。前半は荒れたオルガンがリードしますが、中盤はギターソロの無双。非常にスリリングな演奏を披露します。ラストのカオスな展開もスリリング。「Smoke On The Water」ではイントロのギターリフを間違えてしまいますが、アドリブを噛ます場面もまた一興。一説には手拍子の拍の取り方が気に入らず、あえてアドリブを挟んだのだとも。そして何事もなかったかのように始まる演奏はスタジオ盤を上回るスリル。特にブリブリ唸るベースがカッコ良さ倍増です。「The Mule」は序盤に歌も入るものの、ドラムソロがメインの楽曲です。個の強いプレイヤーに囲まれているせいか、ペイスってそこまで個の強いドラマーではないと思っているのですが、その偏見もあってか意外なほど楽しませてくれます。「Strange Kind Of Woman」ではブラックモアのギターと、ギランのボーカルが即興で歌う場面も。ライブならではですね。「Lazy」はインストゥルメンタルかと間違うような、ギターとオルガンのスリリングな掛け合いが魅力です。ジャズっぽいというか。そしてラストの「Space Truckin’」は疾走感溢れる気持ち良いナンバー。これもスタジオ盤を遥かに上回る迫力ですね。中盤に長尺のインプロヴィゼーションが展開され、20分の大作になっています。即興パートは流石に長すぎて少しだれますが…。アルバム全体で迫力ある演奏で充実の80分です。

 リマスター盤にはボーナスが3曲が付きます。どれもライブ曲なので、アンコール的な感じで続けて聴けます。まずはUCC缶コーヒーのCM曲としても有名な「Black Night」。手拍子に乗せて楽しげな即興の後、イントロで強烈なリフを聴かせます。パワフルなドラムもカッコいい。音がキンキン鳴っているものの、音の聴き辛さよりもアツく迫力ある演奏による高揚感が勝ります。続く「Speed King」は序盤ラフな演奏ですが、途中に即興を挟んでテンションを高めていきます。最後は激しすぎて原形をとどめていません。笑 最後の「Lucille」はロックンロールの先人リトル・リチャードのカバー曲。ビートルズっぽいなと思ったら、ビートルズもカバーしていた楽曲でした。ノリの良いロックンロールです。

 ディープ・パープルの入門だけでなく、ハードロックの入門としてもライブ盤の入門としても最適な1枚です。

左:ボーナストラック無しですが新しいリマスターバージョン。
右:本項のレビューはこちらの25周年盤。

Made In Japan
2014 Remastered
Deep Purple
Made In Japan
25th Anniversary Edition
Deep Purple
 
Live In Paris 1975 (ディープ・パープル MKIII~ライヴ・イン・パリ 1975)

2001年

 第三期ディープ・パープルのライブ盤。イアン・ギランよりデヴィッド・カヴァーデイル派の私としては嬉しい作品です。第三期の楽曲と、第二期の人気楽曲が混在した選曲です。カヴァーデイルとグレン・ヒューズの歌う第二期の楽曲は違和感なくすんなり聴けます。ただし残念なのはリッチー・ブラックモアが脱退寸前ということで、プレイがかなり雑なこと。特に第二期の楽曲はギターの存在感がかなり薄いです。

 オープニングから「Burn」をぶちかまし、非常にハイテンションな幕開けです。ブラックモアのヘヴィなギターリフに、ジョン・ロードのオルガンが絡んでいき、イアン・ペイスの手数の多いドラムがしっかり支えます。カヴァーデイルとヒューズの歌も絶好調。演奏の切れ味も鋭く、流石のライブバンドです。続く「Stormbringer」はイントロから音の洪水のような、ヘヴィなサウンドがゴチャゴチャっと塊になって迫ってくる…凄まじい迫力でゾクゾクします。カヴァーデイルのソウルフルなボーカルも、間奏の鬼気迫るギターソロも魅力的。第三期の楽曲の良さを感じさせます。「The Gypsy」はヘヴィなオルガンで幕を開けますが、ギターも負けじと哀愁漂う音色を奏でます。この切ない雰囲気がたまりません。ツインボーカルはヘヴィなサウンドに負けずかなりパワフルです。「Lady Double Dealer」は出だしで一瞬トチりますが、何事もなかったかのように疾走し、荒々しい演奏で圧倒します。ヘヴィなオルガンがカッコいい。「Mistreated」では渋みのあるカヴァーデイルのボーカルが迫力満点で、突出して強い存在感を放ちます。間奏はオリエンタルな雰囲気。続く「Smoke On The Water」は、クレジットされていませんが「Lazy」を軽く演奏してから入ります。しかしここからが問題で、カッコいいギターリフを聴くはずの楽曲なのに、ブラックモアのやる気がないのか、本来ギターが刻むメロディをオルガンに譲っています。オルガンは強い存在感を放ちますが、ギターが雑。続く「You Fool No One」はインプロヴィゼーション大会によって20分くらいに拡張。カラフルなオルガン、そしてギターソロや、強烈なベース、ドラムソロなど見せ場があって、長さの中に面白みがあります。流石に少し長いですけどね。続く「Space Truckin’」も20分超え。長尺アレンジが2曲連続なので少しだれます。なお、いくつかの楽曲がメドレーのように入っていて、その中には『2001年宇宙の旅』で有名な「ツァラトゥストラはかく語りき」もあります。でもギターの存在感が薄く、バンドの主導権はロードに移ってしまったようです。そのロードのオルガンはアグレッシブで楽しいんですけどね。長尺の楽曲に挟まれあっという間に終わる「Going Down」を挟んで、ラストは「Highway Star」。原形をとどめない好き勝手な演奏をしていますが、雑然とした印象は否めず、即興演奏が悪い方向に働いていて少し残念。

 『ライヴ・イン・ジャパン』と比べると少し音は悪いものの、第三期ディープ・パープルを堪能できる迫力のライブ盤です。
 なお即興演奏によって、元々5分くらいの楽曲の多くが10~20分に拡張されています。1曲2曲アクセントであれば良いものの、これが数曲続くと若干冗長な感じも否めません。そういったわけで、前半は非常に楽しめるものの、後半になるにつれ若干の冗長さを感じる作品でもあります。

Live In Paris 1975
Deep Purple
 
 

関連アーティスト

 リッチー・ブラックモア(Gt)が脱退後に結成したバンド。

 
 ロッド・エヴァンス(Vo)が脱退後に結成したバンド。
 
 デヴィッド・カヴァーデイル(Vo)が脱退後に結成したバンド。
 
 デヴィッド・カヴァーデイル(Vo)と、元レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジによる1作限りのコラボ。
 
 
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