🇺🇸 Kiss (キッス)
レビュー作品数: 10
スタジオ盤
1974年 1stアルバム
米国ニューヨーク出身のハードロックバンド、キッス。アメリカンハードロック黎明期から活動し、総売上枚数は1億枚を超えます。メンバーのキャラクターも立っていて、本作ジャケット写真で左から順に、右目に星をあしらった「The Starchild」ことポール・スタンレー(Gt/Vo)、ネコのメイクの「The Catman」ピーター・クリス(Dr/Vo)、悪魔メイクの「The Demon」ジーン・シモンズ(B/Vo)、レスラーのマスクのような「The Spaceman」エース・フレーリー(Gt/Vo)。白塗りメイクに奇抜な衣装、火吹きの派手なパフォーマンスなど、世間一般の抱く「ヘビメタ」のイメージ形成にも大いに影響しているのではないでしょうか。
1970年にシモンズとスタンレー、その他メンバーでウィキッド・レスターというバンドを結成。しかしバンドの継続困難になり、シモンズとスタンレーは脱退してハードロック路線の新しいバンドで活動することを決意。そこにクリスが加わり、後にオーディションを経てリードギタリストのフレーリーが加入。1973年にバンドはキッスを名乗ることになります。翌1973年に本作『地獄からの使者~キッス・ファースト』を発表、収録曲は後のライブで演奏される楽曲ばかりで名曲揃いですが、当初は鳴かず飛ばずのセールスだったとか。ケニー・カーナーとリッチー・ワイズによるプロデュース。
アルバムは「Strutter」で開幕。スタンレーがボーカルを取る骨太なロックンロールで、ヘヴィなギターリフがカッコ良いですね。メロディもキャッチーで魅力的です。「Nothin’ To Lose」はシモンズとクリスが歌います。カラッと陽気なアメリカン・ロックンロールですね。古臭いけど、コーラス含め楽しい雰囲気。ピアノの味付けも良いアクセントになっています。「Firehouse」はスタンレーのボーカル。ヘヴィだけど若干もっさり気味か。ベースが効いていてグルーヴ感抜群です。ライブではシモンズの火吹きパフォーマンスが定番だそうです。シモンズの歌う「Cold Gin」もスローペースで緩い感じ。途中ちょっとトリッキーなドラムを挟んだりして場を持たせつつ、3分手前辺りからのフレーリーのギター、これがめちゃくちゃカッコ良いんです。「Let Me Know」はアメリカンなロックンロール。明るくノリの良い楽曲で、古臭いけど良いんですよね。終盤に雰囲気を変えて渋カッコ良い演奏で魅せます。
レコード時代のB面、アルバム後半はボビー・ライデルのカバー曲「Kissin’ Time」で幕開け。フレーリー以外の全員で歌っています。クリスの力強いドラムをはじめ、ヘヴィでキレのある演奏は中々聴きごたえがあります。「Deuce」はシモンズの歌う楽曲で、ライブのオープニング曲として定番だそうです。演奏のノリが良く、そしてツインギターが特に魅力的ですね。スタンレーの刻むヘヴィなリフは耳に残るし、フレーリーは終盤高らかにリードギターを鳴らしていてカッコ良いです。「Love Theme From Kiss」はインストゥルメンタル。スローテンポでまったりとしています。そして「100,000 Years」はシモンズのベースソロで始まるグルーヴィな楽曲。ボーカルを取るのはスタンレー。うねるベースがとにかく良く、リズミカルな演奏に思わず乗せられてしまいます。ラスト曲はクリスの歌う「Black Diamond」。ダーティなリフに激しいシャウトが強烈です。でもハミングで親しみやすさもあったり。後半テンポを大きく落として、激しい演奏からのダウナーで混沌とした低音を響かせて不気味に終了。
少し古臭いですが魅力的な楽曲が詰まったハードロックの名盤ですね。キッスの他の作品もそうですが、30分ちょいの短い作品が多くてサクッと聴けるのも良いです。
1974年 2ndアルバム
日本語が書かれたジャケットが印象的な本作。キッス作品の邦題には「地獄」と付くのが定番ですが、そのキッカケは本作が元ネタだったみたいです(スコーピオンズの「蠍団」シリーズとか、ハードロック界のダサい邦題は割と好きだったりしますが、邦題を見てもどの作品を指すか分からないのが玉に瑕)。「カ」と書かれているのは所属レーベルのカサブランカ・レコードを指しているそうです。
前作に引き続きケニー・カーナーとリッチー・ワイズのプロデュース。前作よりも重低音が効いていますが、若干高音が篭もり気味のサウンドプロダクションで、もったりした印象を受けるのが残念。
アルバムは「Got To Choose」で幕開け。イントロはキンキンとした金属質な印象ですが、ポール・スタンレーの歌が始まると、鈍重なリフを力強く刻みます。でもどこかもったりとした印象は否めません。続く「Parasite」はジーン・シモンズが歌います。ひたすら重低音を反復するダーティなリフがとにかくカッコ良いですが、これが後にデビューするガンズ・アンド・ローゼズっぽく聞こえました。アンスラックスがカバーしたりと、後発バンドへの影響力の大きさを感じさせます。「Goin’ Blind」もシモンズボーカル。哀愁のバラードでとにかく渋い。スタンレーとエース・フレーリーのメロディアスなギターが良いですね。そして表題曲「Hotter Than Hell」は、スタンレーの歌う骨太なロックです。スローテンポでヘヴィなリフを響かせますが、タイトルを背負うには少し地味かも。「Let Me Go, Rock ‘N’ Roll」でようやく待望のアップテンポ曲。シモンズの歌うノリノリのロックンロールで、演奏はキレ味抜群です。フレーリーのご機嫌なギターソロに、シモンズのヘヴィなベースがカッコ良い。僅か2分ちょいですが魅力的な1曲です。
アルバム後半は「All The Way」で幕開け。ミドルテンポの骨太なロック曲で、ノリの良いリズム隊が心地良いです。サウンドはヘヴィですが、メロディは明るくカラッとしていてアメリカンな感じです。「Watchin’ You」はヘヴィなツインギターが強烈です。戦車のように鈍重で力強い重低音を響かせ、ピーター・クリスも重たいドラムをバタバタと叩いています。カウベルの音色が少し息抜きでしょうか。続く「Mainline」はキャッチーで明るい歌メロが魅力の1曲。イーグルスのドン・ヘンリーのような少ししゃがれたクリスの歌声が、歌メロの良さを引き立てている感じがします。スタンレーの歌う「Comin’ Home」はノリの良い楽曲。グルーヴ感のあるベースなど重低音がよく効いています。最後の「Strange Ways」はクリスが歌います。ヘヴィで地を這うようなギターリフが強烈で、これが終始同じフレーズを反復。鈍重ですがカッコ良いです。
くぐもった感じの音処理も相まって、全体的に地味な印象は否めません。手にするのは他の作品を聴いてからで良いでしょう。ちなみに本作も発売当時は話題にならなかったそうで、ブレイクまでもう少し時間を要することになります。
1975年 3rdアルバム
モノクロにスーツ姿のクールなジャケットは、パンク/ポストパンクを先取りしたのような印象も受けますね。トレードマークの白塗りメイクはキワモノ感がありますが。笑 僅か13ヶ月の間に3枚のオリジナルアルバムをリリースすることになり、3枚目となる本作はニール・ボガートとキッスの共同プロデュース作。ノリの良いロックンロールが多くて取っつきやすい好盤です。
アルバムリリース後にツアーを開始したキッスですが、同じ頃デトロイトのラジオ局で「C’mon And Love Me」が連日かかり、キッス人気に火がついたことをいち早く察知してデトロイトでライブを敢行。このライブは『アライヴ!~地獄の狂獣』に収められていますが、これを契機にキッスは大ブレイクすることになります。
オープニング曲「Room Service」は、ポール・スタンレーの歌う脳天気でノリノリなロックンロール。少しパンキッシュな印象も受ける、心地良い疾走感が魅力的ですね。メロディもキャッチーで、オープニングに相応しい1曲です。「Two Timer」は金属質でヘヴィな楽曲。メタリックなギターは前作譲りですね。ジーン・シモンズが歌っています。続く「Ladies In Waiting」もシモンズのボーカル。かなりヘヴィですがノリが良いロックンロールです。一定のリズムを刻むヘヴィなベースがカッコ良く、また時折エース・フレーリーのギターソロも魅せてくれます。ピーター・クリスがボーカルの「Getaway」になると更にテンポアップし、キレのある演奏ながらも軽快なノリで楽しませてくれます。シャウトも強烈ですね。続く「Rock Bottom」はフレーリーによるアコギのアルペジオが意外ですが、これがとても美しくて心が洗われるかのようです。後半はまるで別の楽曲のようにガラリと雰囲気を変えて、スタンレーの歌うハードなロックンロールに変貌。ヘヴィなギターリフがカッコ良い。
アルバム後半は、キッス人気に火をつけた「C’mon And Love Me」で幕開け。ノリの良いロックンロールで、時折色気を見せるスタンレーの歌が特徴的ですね。続く「Anything For My Baby」は疾走感に溢れる軽快な楽曲です。スタンレーのシャウトとクリスのドラムによって、サビメロはダイナミックな印象を受けます。「She」はテンポダウンし、鈍重なサウンドをどっしり聴かせる1曲。グルーヴィなベースなど聴きどころもありますが、若干ダレる感じ。「Love Her All I Can」はイントロからヘヴィなギターリフで、ゾクゾクさせてくれます。テンポも比較的速めで爽快な印象。ヘヴィな演奏に支えられて、フレーリーのギターもご機嫌ですね。最後はシモンズの歌う「Rock And Roll All Nite」。ライブでも締めの曲として人気の楽曲です。メンバーのコーラス含めキャッチーな歌メロ、ロックンロールしてるノリの良い演奏など、スカッと爽やかにアルバムを締め括ります。
僅か30分でサクッと聴けるうえ、軽快ながらキレのあるロックンロールが多くて楽しい作品です。
1976年 4thアルバム
『アライヴ!~地獄の狂獣』で得た人気を不動のものにした、キッス最高傑作として名高い名盤です。本作からは「Beth」がシングルヒットしたほか、キッスの名曲も多く収録されています。
アリス・クーパーを手掛け、名プロデューサーとして名を馳せることになるボブ・エズリンがプロデュースしました。シンプルなロックンロールだったキッスの音楽に、ギターオーケストレーションやSEなどの仕掛けを持ち込み、音楽の幅を大きく広げることに成功しています。またボブ・エズリンは高い技術レベルを要求したそうでメンバーとの対立もあり、その結果エース・フレーリーのギターソロパートを一部ディック・ワグナー(サポートミュージシャン)が弾いたりしています。レコーディングがよほど辛かったか、本作限りのコラボでしたが名盤に仕上がりました。
アルバムは名曲「Detroit Rock City」で開幕。少し前に話題になった漫画『デトロイト・メタル・シティ』の名前の元ネタでしょう。1分半ほどSEを鳴らした後に始まるイントロがとてもカッコ良い。ヘヴィなギターリフにうねるベース、力強いドラムにシャウト気味のポール・スタンレーの歌、メンバーのコーラス…どれもカッコ良い。ノリノリな演奏を時折マフラー音が駆け抜ける奔放さ。その一方でギターオーケストレーションを採用してメロディアスな音色も奏でます。最後は衝突音からそのまま「King Of The Night Time World」へ。これもノリノリの楽曲なので爽快です。スタンレーの歌からはアメリカンな陽気さが伝わってきますね。メロディもとてもキャッチーで取っつきやすいです。「God Of Thunder」は力強く踏み締めるようなヘヴィなサウンドをバックに、ジーン・シモンズがドスの利いた迫力ある歌を歌います。時折聞こえる無邪気な子どもの声はデヴィッド・エズリン/ジョッシュ・エズリンとクレジットされているので、プロデューサーの息子たちでしょうか。雷を鳴らすような効果音も、タイトルに相応しい演出ですね。続く「Great Expectations」はメロディアスな1曲。前曲とは変わってシモンズが渋く哀愁漂う声で歌います。ブルックリン少年合唱団も起用し、チャイムの音色も相まって毒気のない神々しさを見せます。とても美しい。なおアコギはディック・ワグナーが弾いています。
アルバム後半のオープニングは「Flaming Youth」。スタンレーの歌うアップテンポ曲です。メリハリのあるリズムに乗せて、キャッチーなメロディをひたすら反復するので、口ずさみたくなる良曲ですね。「Sweet Pain」はシモンズの歌う1曲。キレッキレのギターソロはフレーリー…ではなくディック・ワグナーだそうです。「Shout It Out Loud」はカラッとしたノリの良いアップテンポ曲です。メロディがとてもキャッチーで、メンバー揃って歌うサビは良い意味で産業ロック的。聴いていると元気になれます。「Beth」はピーター・クリスの歌うバラード。バンドサウンドはありませんが、ニューヨーク・フィルハーモニックを起用したオーケストラ、ボブ・エズリンの弾くピアノやシンセなど、とても美しい演奏がメロディアスな歌を引き立てます。クリスのしゃがれ声がまた哀愁を誘うこと。良い楽曲です。続く「Do You Love Me」はシンプルだけどノリの良いドラムだけをバックにスタンレーが一人歌います。途中から楽器とメンバーのコーラスが加わり、抜群のノリで楽しませてくれます。終盤はチャイムが鳴って結構ドラマチック。そして最後は「Rock And Roll Party」。ライブ会場の盛り上がりを遠くから録音したかのようなインストゥルメンタルです。
これまでのストレートなロックンロールから一皮むけた、完成度の高い名盤です。名曲揃いですので、キッスはまずこちらからどうぞ。
2012年に「Resurrected」と題したリミックス盤が出ています。レビューは旧盤を聴いての印象ですが、リミックス盤を少し試聴した感じだとかなり手が加わって迫力ある印象を受けたので、新たに聴くならリミックス盤が良いかと思います。
1976年 5thアルバム
邦題のせいで『Rock And Roll “Fire”』と勘違いしそう。笑 プロデューサーにエディ・クレイマーを迎えて制作された本作は初期3作に立ち返ったストレートなロックンロールで、外部ミュージシャンを起用せずにメンバー4人だけで演奏しています。『地獄の軍団』と『ラヴ・ガン』に挟まれて地獄地味な作品ですが、本作からは「Hard Luck Woman」がシングルヒットしています。
オープニング曲は「I Want You」。ポール・スタンレーが囁くような優しい歌声で美しいアコギの弾き語り…そんな安息も束の間、突如ヘヴィなハードロックへと変貌するので驚かされます。ギターソロが折り重なりますが、最初スタンレーが弾き、続いてエース・フレーリーが弾いています。「Take Me」はスタンレーの歌うロックンロール。演奏のノリは良いのですが、歌メロが一本調子で若干地味な印象です。続いてジーン・シモンズの歌う「Calling Dr. Love」。演奏は重低音が効いており、ヘヴィなベースがカッコ良い。フレーリーも悠々とギターソロを弾いています。歌にはエフェクトをかけていて、幻覚的な感覚があります。「Ladies Room」は少し憂いのあるロックンロール。ブイブイ唸るベースをはじめ相変わらずノリは良いですが、全体的にメロディアスな印象です。続く「Baby Driver」はピーター・クリスがしゃがれた声で力強く歌う、ミドルテンポのヘヴィなナンバー。歌だけでなく、クリスのドラムも激しくてダイナミズムがあります。
アルバムは後半に突入。「Love ‘Em And Leave ‘Em」はイントロからキレがあって、シモンズの野太い歌が始まるとドラムが全体を牽引するノリの良い楽曲です。フレーリーのギターソロも良いですね。「Mr. Speed」はギターで始まりベースとドラムが加わるというイントロに惹かれます。本編はスタンレーが陽気に歌う、旧き良きスタンダードなロックンロールといった趣です。「See You In Your Dreams」はシモンズの歌う軽快なロックンロール。明るい雰囲気で、コーラス含めてキャッチーな歌メロは耳に残ります。「Hard Luck Woman」はクリスの歌うバラード。スタンレーの弾く12弦ギターを中心に穏やかな演奏で、歌メロも優しくて癒されます。ハードロックな作品ですが、毒気のないこの楽曲が良いアクセントになっていますね。ラスト曲「Makin’ Love」はスタンレーの歌うアップテンポなロックンロール。本作中最もノリが良く、キレ味抜群のギターリフはとてもカッコ良い。間奏ではフレーリーが速弾きギターソロを見せつけてくれるし、爽快で楽しい楽曲です。
前半はパッとする楽曲が少なく、後半に良曲が固まっている偏った印象です。アルバムトータルだとバランスが悪い感じがしますが、ラスト2曲「Hard Luck Woman」と「Makin’ Love」は名曲なので、これは聴いてもらいたいです。
1977年 6thアルバム
『地獄の軍団』と並び傑作として名高い本作は、ロンドンパンクのセックス・ピストルズをリスペクトして命名されたのだとか(Sex→Love, Pistols→Gun)。引き続きエディ・クレイマーをプロデューサーに起用し、前作の路線を押し進めた作品となりました。エース・フレーリーが初めてリードボーカルを取った「Shock Me」が収録されていますが、一方でメンバー間の確執も広がり、ピーター・クリスがフルでレコーディングに参加した最後の作品となりました。
オープニングから疾走曲「I Stole Your Love」で飛ばしていきます。ポール・スタンレーのボーカルが良く合う、勢いのあるパンキッシュなロックンロール。クリスのドラムもドタドタと躍動感があります。「Christine Sixteen」はジーン・シモンズの歌う楽曲。エディ・クレイマーの弾く軽快なピアノと、力強くハードなバンドサウンドの対比がよいですね。韻を踏んだ語感の良い歌が結構ポップで耳に残ります。「Got Love For Sale」はゴリゴリとメタリックな質感のロックンロール。シモンズの歌は結構キャッチーだし演奏もノリノリですが、終始ゴリゴリと抉るように鳴り響くベースがヘヴィな印象を抱かせます。そして「Shock Me」はフレーリーがボーカルを担当。歌はちょっと気の抜けた感じがしますが、でもギターソロは流石で魅力的です。全体的にヘヴィな演奏や手数が比較的多いドラムも中々良い。そして「Tomorrow And Tonight」はスタンレーの歌うカラッとして陽気なロックンロール。メロディもキャッチーです。
アルバム後半は表題曲「Love Gun」で幕開け。イントロからカッコ良くて惹かれますね。スタンレーのメロディアスな歌も勿論良いですが、単調なリズムを反復するベースとドラムが心地良い中毒性を生み出している気がします。そして飽きないように時折3連符で「ダダダダ!ダダダダ!ダダダダダダダダダダ!」と、小気味良いドラムが最高です。「Hooligan」はクリスの歌う1曲。シンプルなロックンロールですがノリが良く、特にドラムが強調されていてダイナミックな印象を受けます。「Almost Human」はベースがかなり強調されており、グルーヴ感が強烈。シモンズの野太い声とメンバーの消え入りそうなコーラスが、このヘヴィな演奏と合わさると独特の幻覚的な感覚を生み出します。続く「Plaster Caster」もシモンズのボーカル。ヘヴィなベースソロで始まり、徐々に盛り上がっていきます。韻を踏んだ語感の良い歌がキャッチーですね。最後の「Then She Kissed Me」はザ・クリスタルズのカバー曲で、オリジナルは「Then “He” Kissed Me」で性別が違います。スタンレーの歌う少しほのぼのとした1曲で、ハードなサウンドですが優しくポップなメロディに癒されます。
名曲が多くてクオリティも高い作品です。歌メロはキャッチーだし、ノリの良いサウンドは重低音が効いてグルーヴィなのも魅力的。『地獄の軍団』に並ぶ1枚としてオススメできる名盤です。
なおメンバー間の確執も表面化し、人間関係は最悪な状態に。そんな状況を打破すべく、この後メンバー4人それぞれがソロアルバムの制作に専念してライブも休止することになります。
1979年 7thアルバム
険悪化した関係を修復するためにメンバーそれぞれがソロアルバムを出し、その後ヴィニ・ポンシアをプロデューサーに迎えてキッスとしてのアルバム制作を開始。ですがメンバー全員が顔を合わせることはなかったそうです。
本作からはディスコを取り入れた「I Was Made For Lovin’ You」が大ヒット。この名曲を目当てに聴いてみても良いかもしれません。ですがこれまでとは色々変わり、アルコールと麻薬中毒でほとんど演奏ができなくなっていたピーター・クリスは「Dirty Livin」のみ参加、それ以外のドラムはアントン・フィグが担当しています。またソロで自信をつけたエース・フレーリーのボーカル曲が3曲に増えた一方でジーン・シモンズのボーカルは僅か2曲しかありません。
アルバムは代表曲「I Was Made For Lovin’ You」で幕開け。ボン・ジョヴィを手掛けて名をあげるデズモンド・チャイルドが作曲に携わっています。ディスコを取り入れたナンバーで、少し前にキヤノンのCMソングとして使われており、私はそこで知りました。ポール・スタンレーがリードボーカルを取るほか、リズムギターもベースもスタンレーが担当。ハミングやファルセットを駆使した歌メロはとてもキャッチーで耳に残りますね。続く「2,000 Man」はローリング・ストーンズのカバーで、フレーリーがボーカルを担当。歌メロが始まるまで原曲の要素は皆無で、キッス流のノリの良いハードロックに仕上げた良質なカバーですね。歌メロ聴いて、ストーンズだとわかるという。笑 力強い歌唱ながらも気だるさが漂い心地良さを感じられます。なおドラム以外の楽器は全てフレーリーが弾いているそうです。「Sure Know Something」はスタンレーの歌うメロディアスな楽曲です。後半のギターソロはスタンレーによるもの。「Dirty Livin’」はクリスが唯一参加した楽曲。歌もドラムもクリスが担当しています。明るくリズミカルで、キンキン唸るフレーリーのギターも中々良い。
アルバム後半はシモンズの歌う「Charisma」で幕開け。ヘヴィなリフが印象的ですが、メロディはひねくれポップというか少し変な感じ。続く「Magic Touch」はスタンレーの歌うヘヴィな楽曲。陰のあるメロディで哀愁を漂わせています。「Hard Times」はフレーリーの歌う陽気なロックンロール。ヘタウマな歌はご愛嬌ですが、ノリが良くて楽しいです。「X-Ray Eyes」はシモンズの歌うロックンロール。爽やかでキャッチーな歌メロなので、産業ロック的な印象を抱きます。最後はフレーリーの歌う「Save Your Love」。カラッとしたアメリカンなロックンロールですね。ノリの良いリズム隊やギターソロは中々良いですが、ヘタウマな歌が妙に引っ掛かります。笑
「I Was Made For Lovin’ You」がずば抜けて突出していますが、アルバム全体的には散漫な印象は否めません。「2,000 Man」とかちょいちょい良い曲はありますけどね。
次作ではクリスは参加せず解雇になってしまいます。1980年代のキッスはメンバーチェンジやノーメイク、ヘヴィメタル化など大きな変化を遂げてまたも人気を獲得。その後またメイクを復活させ、オリジナルメンバーでの再結成やメンバーチェンジを繰り返しながら、結成から一度も解散せずに今まで続いています(解散宣言と撤回はあったようです)。ですが体力的に限界か、2019年現在引退ツアーを敢行しており、ツアー終了で活動を終える予定となっています。