🇬🇧 Roger Waters (ロジャー・ウォーターズ)

レビュー作品数: 2
  

スタジオ盤

Amused To Death (死滅遊戯)

1992年 3rdアルバム

 ピンク・フロイドのフロントマンにしてバンドを成功に導いた男、ロジャー・ウォーターズ。イングランド出身、1943年9月6日生まれ。父親は第二次大戦で戦死、母親は共産党員という出自で、その影響かウォーターズは反政府感情の強い社会主義者だそうです。また完璧主義者でもあるという。ピンク・フロイドで『狂気』以降バンドの主導権を握ると、社会批判的な歌を多く発信していき大成功を掴みました。1983年の『ファイナル・カット』後にバンドは空中分解し、ウォーターズは1985年にピンク・フロイドを脱退。しかし残るメンバーとは裁判沙汰になり、裁判では和解したものの不和状態が続くことになります。脱退劇と並行して1984年には初のソロアルバムを発表し、ウォーターズはソロとしての道を歩み始めます。
 本作はソロ3作目。テレビ普及の弊害で、湾岸戦争や天安門事件などの出来事がエンターテイメントの一種だと歌い、批判を展開します。政治色が強いですが、『ザ・ウォール』のようなエンターテイメント性に満ちたロックオペラ作品で、アルバムとしては聴きやすいです。ジェフ・ベックやイーグルスのドン・ヘンリー、TOTOのスティーヴ・ルカサーやジェフ・ポーカロをはじめ、数多くの豪華ミュージシャンを呼んで制作されました。プロデューサーにはマドンナを手掛けたパトリック・レナードを迎えています。

 「The Ballad Of Bill Hubbard」で開幕。虫の鳴き声からメロウなサウンドが始まります。ジェフ・ベックの弾くギターは、デヴィッド・ギルモアのような雰囲気を再現していてピンク・フロイドっぽいです。一瞬のノイズとともに始まる「What God Wants, Part I」は、女性ボーカルとともにSEを交えています。途中から力強いドラムが加わり、影があるけどキャッチーなサウンドに乗せて、ウォーターズが説教臭い歌唱を展開します。声はしゃがれていますが、ピンク・フロイドの全盛期のような雰囲気を感じられます。嬉しいですね。そして唐突に「Perfect Sense, Part I」で雰囲気が変わります。ピアノと虫の鳴き声でしっとりとした雰囲気の中、呟くような歌声。途中から主導権を渡し、P.P.アーノルドによるソウルフルな歌声が染み渡ります。「Perfect Sense, Part II」はウォーターズの哀愁のある歌声、そして多重コーラスによる壮大な展開に圧倒されます。爆発音の演出とか『ザ・ウォール』っぽいですね。「The Bravery Of Being Out Of Range」はライブ録音のような奥行きのあるサウンド。演奏は豪華な感じです。「Late Home Tonight, Part I」でまたガラリと雰囲気が変わり、鳥のさえずりとアコギによる静かな雰囲気。ストリングスで徐々に盛り上げていきます。終盤はダイナミックなドラムと歓声が響きます。そして突如の爆撃音を挟んで「Late Home Tonight, Part II」へ。短いながら、なんとなく虚しさを感じさせます。「Too Much Rope」では独り言のような歌から徐々に説教を垂れるかのように盛り上がっていきます。徐々にフェードインしてくる「What God Wants, Part II」は2曲目で聞いたキャッチーなメロディが再び。攻撃的なウォーターズの歌と、女性コーラスがキャッチーです。「What God Wants, Part III」はダークでメロウなサウンドが往年のピンク・フロイドっぽい。そしてジェフ・ベックの泣きのギターに痺れます。電話のコール音のあと「Watching TV」へ。アコギ主体の内省的な雰囲気ですが、時折激しい感情が垣間見えます。静かでジャジーな「Three Wishes」を挟んで、8分半に渡る「It’s A Miracle」。しっとりとした雰囲気のメロディアスな楽曲で、囁くようなコーラスが響きます。最終盤の唸るギターに、どこか「Echoes」を思わせるような気がします。そして最後に、9分に及ぶ表題曲「Amused To Death」。前半に派手さはなく静かに展開しますが、中盤サウンドが盛り上がります。そして終盤は呟くような感じで終わります。

 『ザ・ウォール』には少し劣るものの、SEやコーラス等を駆使したキャッチーなロックオペラで、聴きごたえがある作品です。特にウォーターズ主導期ピンク・フロイドのファンなら、本作は聴いておいて損はないでしょう。
 なお2015年の再発時にはジャケットを改めています。洗練されつつも不気味なジャケットに惹かれます。

Amused To Death (Remastered)
Roger Waters
 
 

ライブ盤

In The Flesh - Live (イン・ザ・フレッシュ)

2000å¹´

 『死滅遊戯』発表後、しばらく目立った活動をしていなかったロジャー・ウォーターズが、1999年に突如ライブツアーを敢行。本作は2000年に行われた米国公演を収めたライブ盤で、ピンク・フロイドの往年の名曲の数々を聴ける名盤です。2枚組で2時間近い大ボリュームです。喧嘩別れしてしまった本家のライブでは聴けないであろう、ロジャー・ウォーターズがボーカルを取るピンク・フロイドのライブがここで聴けます(ソロ楽曲も含みます)。逆にウォーターズのボーカルよりもデヴィッド・ギルモア、リック・ライト、ニック・メイスンの演奏に主眼を置くなら本家のライブを聴くと良いでしょう。

 ディスク1枚目は、ウォーターズのワンマンバンドと化した全盛期ピンク・フロイドの名曲オンパレード。オープニングは「In The Flesh」。ヘヴィなサウンドに分厚いコーラス陣、そして老いて少し丸くなったけど相変わらず攻撃的なウォーターズの歌声。説教臭いウォーターズのボーカルはまさにピンク・フロイドって感じです。ヘリコプターのSEで始まる「The Happiest Days Of Our Lives」を挟んで、そのまま名曲「Another Brick In The Wall, Part II」へ。『ザ・ウォール』のハイライトって感じでライブが進みますね。ダークだけどキャッチーな楽曲。子どもの声のコーラスや、長尺のギターソロもアツいです。「Mother」ではアコギに代わってしっとりとした雰囲気。後半、ソウルフルな女性ボーカルが哀愁の歌メロと合わさって染み入ります。続いて、爆撃のSEから始まる短い楽曲「Get Your Filthy Hands Off My Desert」、行進曲のようなリズムでどこか哀愁のあるメロディを歌う「Southampton Dock」と続きます。そして短いながらも名曲「Pigs On The Wing, Part I」。アコギとオルガンでしっとりと聴かせ、すかさず名曲「Dogs」へ。本ライブ最長の1曲です。原曲の持つ緊迫した雰囲気を見事に再現していて鳥肌ものです。犬の鳴き声のSEもばっちり再現しているんですよね。笑 ギルモア不在なのに、ギターソロも高いクオリティです。「Welcome To The Machine」はウォーターズの歌声が原曲より攻撃的な気がします。緊張感のある楽曲ですが、分厚いコーラス陣は豪華で壮大ですね。そして名曲「Wish You Were Here」。イントロの折り重なるギター、そして美しいメロディ。しみじみとしていて、ぽっかり空いた空虚感。とても切ないです。「Shine On You Crazy Diamond, Pts. I-VIII」は原曲(Pts. XIまで)より1パート少ないです。演奏メインの楽曲ですが、オリジナルメンバーでない演奏にさほど違和感はありません。胸を締め付けるような、切なくて円熟味のある演奏に痺れます。「Set The Controls For The Heart Of The Sun」はピンク・フロイド最初期の実験的な楽曲。儀式のような呪術的な雰囲気です。

 ディスク2枚目は、ピンク・フロイド時代に加えてソロ楽曲も交えています。名盤『狂気』のハイライトをなぞるかのようです。まずは「Speak To Me/Breathe (In The Air)」で妖しくも浮遊感に満ちた心地良いサウンドを展開。分厚いコーラスで豪華ですね。続いて名曲「Time」。きっちり時計のSEも流してくれます。コーラスは原曲を踏襲しつつ、でもライブなので臨場感が凄い。聴き浸ってしまいます。そしてレジの効果音で始まる「Money」。のっけからベースリフにワクワクします。捻くれているけどキャッチーなメロディに魅せられます。サックスやギターソロも渋いですね。そしてここからウォーターズのソロ曲。しっとりとした「5:06 AM (Every Stranger’s Eyes)」に始まり、「Perfect Sense (Parts 1 And 2)」では虫の鳴き声のSEが響く静かなサウンドを背景に、序盤は囁くような歌が展開されます。中盤はソウルフルな女性ボーカルが見事で、終盤は壮大な楽曲へと変化していきます。迫力が凄い。ゆったりとした楽曲が多いのもありますが、「The Bravery Of Being Out Of Range」は比較的ロック色が強い印象。「It’s A Miracle」は鬱々として憂いのある楽曲。最終盤のギターの唸りが鮮烈です。淡々とした「Amused To Death」を挟んで、再びピンク・フロイド曲へ。「Brain Damage」はコーラス陣のおかげで原曲の雰囲気を保ちつつも豪華な感じ。鬱々としていますが奇妙な安心感があります。そして「Eclipse」で壮大に締めて、会場からは大歓声。その後名曲「Comfortably Numb」が始まりますが、憂いのあるメロディと泣きのギターがたまりません。最後は初出の楽曲「Each Small Candle」。メロウで、ダークに盛り上がる楽曲でライブを締め括ります。

 ピンク・フロイドの『狂気』から『ファイナル・カット』までのベスト選曲に、ウォーターズのソロ楽曲をいくつか加えたようなライブです。ピンク・フロイドファンなら聴いておいて損はない出来で、聴きごたえがあります。

In The Flesh – Live
Roger Waters
 
 

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