🇯🇵 SPOOL (スプール)

レビュー作品数: 3
  

スタジオ盤

sink you

2013年 1stミニアルバム

 日本のガールズロックバンド、SPOOL。全作詞作曲を手掛けるこばやしあゆみ(Vo/Gt)を中心に、安倍美奈子(B)、aran(Dr)(当時は稲垣亜蘭名義)の3人が高校の軽音楽部で出会い、活動開始。当時は「ecoのみ焼き」と名乗り、aranはギター担当でドラムマシンを用いていたそうですが、高校卒業した2年後(2012年頃)にSPOOLと改名した頃からaranがドラマーに転向。1st demo『since1991』リリース後、翌2013年に自主制作盤として本作をリリースしました。
 1枚500円のミニアルバムで、たまたま再入荷のタイミングを見かけて入手。Spotifyでは「sway, fadeaway」のみ配信されていました。

 「sway, fadeaway」は後にフルアルバム『SPOOL』にも再録される楽曲ですが、こちらで聴けるバージョンはまだまだ粗削りな感じです。ジャケットに描かれた海の底のように落ち着いた音色を奏でると、そこから荒々しく疾走。篭り気味の音質、そしてコーラスワークや歌にも拙さが残りますが、あどけない歌は新鮮で魅力だったりします。続く「don’t forget sway fadeaway」ニルヴァーナにも似たパンキッシュな演奏に乗せて、こばやしのヘタウマで不安定な歌が可愛らしく聴こえます。間奏では幻想的な落ち着きも見せますが、後半に向けてまたノイジーに盛り上がっていきます。「sea bed」は水の中で聴いているかのような残響感のあるサウンドに、落ち着いてゆったりとした歌メロを聴かせます。海の中をふよふよ漂うような、心地良い浮遊感に包まれます。「水のゆくえ」は僅か2分のインストゥルメンタル。こばやしのギターが単調なフレーズを反復して、心地良くて中毒性のある楽曲を展開。後半aranのドラムがリズムを変えて楽曲に緩急をつけます。そして最後は「夢からさめて…」。単調ですが落ち着いていて心地の良い1曲で、ギターに埋もれそうな声で優しく歌います。淡々と反復するフレーズに浸っていると、終盤にヘヴィで荒々しい側面を一瞬だけ見せてスリルを感じさせ、そして元の穏やかな曲調へ戻って終わります。

 5曲入り僅か19分であっという間です。まだまだ粗削りですが、こばやしのギターを中心に心地良いフレーズを聴かせて、浮遊感のある演奏で包み込んでくれます。

 
SPOOL

2019年 1stアルバム

 こばやしあゆみ(Vo/Gt)、安倍美奈子(B)、aran(Dr)のスリーピース・ガールズバンドだったSPOOL。自主制作盤の発表やライブ活動をこなす中でショウジスミカ(Gt)と出会い、2018年にショウジが加入したことでSPOOLは4人体制となりました。
 そしてセルフタイトルとなる本作は紙ジャケット仕様で、歌詞カードは手作り感満載。ニルヴァーナソニック・ユースらUSオルタナ・インディに影響を受けつつ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン等のシューゲイザーも取り込んでいます。こばやしの歌声や楽曲の雰囲気はどことなくthe brilliant greenにも似ている気がします。
 私が知ったときには在庫切れを起こし始めていて、急いで購入しました。結果的に素晴らしい作品・バンドに出会えて良かったと思っています。

 オープニング曲は「nightescape」。ニルヴァーナの「Scentless Apprentice」から引用したドラムに、メランコリックなアルペジオ。そして僅か4行の歌詞を、こばやしが儚げな声で恨みがましい雰囲気で歌います。歌よりも演奏が中心で、メロウなギターに時折轟音ギターを混ぜて、ヘヴィでダークな楽曲に仕上がっています。そして名曲「Be My Valentine」。私がSPOOLを聴くきっかけになった楽曲がこれでした。彼女らのルーツであるマイ・ブラッディ・ヴァレンタインへの敬意から「Valentine」というキーワードを入れた「Be My Valentine (私の恋人になって)」というタイトルになったのだとか。シューゲイザー全開のこの楽曲は、ニルヴァーナっぽいドラムに乗せて、気だるく浮遊感に溢れる心地良い歌声が幻想的に広がります。そして歌声が埋もれそうなほど歪んだ演奏はノイジーで、時折不穏で不快な響きを聴かせます。不安定でありながら、サビで聴かせるメロディアスな歌の心地良さがたまらなく良いんです。「Let me down」はバンド活動が停滞していた時期に書いた楽曲だそうで、落ち込んだ気分を表現したといいます。こばやしの暗く消え入りそうな低音や儚げなサビメロはとても切なく、聴いていると深く沈んでいきます。強弱メリハリのついた演奏は落ち込んだ気分を増長させて不安を煽ります。続く「Shotgun」は頭サビで「頭ブチ抜かれ」というワードが強烈ですが、これはカート・コバーンを意識したのだとか。沈んでいくメランコリックなメロディが切なくて、そして耳に残ります。今にも消えてしまいそうな儚い歌唱を引き立てるコーラスワークも中々魅力的で、暗い楽曲に透明感を加えます。「Winter」はイントロからノイジーな轟音ギターがコーラスと合わさって心地良い浮遊感を生み出します。こばやしの歌は強くエコーがかかり、空間全体にぼやけたサウンドが広がって、憂いを帯びていますがとてもドリーミーです。冬というよりは、ゆらりゆらりと水中をあてもなく漂うかのようなイメージが浮かびます。「_ _ _ _ _ _」はインストゥルメンタル。ノイジーなのにキラキラとした雰囲気もあり、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのような音世界が広がります。タイトルは切り取り線のようなイメージで区切りをつける意図があるようで、この楽曲を堺にアルバムの雰囲気が変わります。
 後半戦、「sway, fadeaway (angel version)」は『sink you』からのリアレンジで、格段に出来が良くなりました。透明感があり、ドリーミーで温かい楽曲です。程よい疾走感に加えて幻想的なサウンドが心地良く、そしてなんと言っても分厚いコーラスワークが魅力的で、これが多幸感を生み出しています。続く「blooming in the morning」は演奏スタイルが変わり、輪郭が比較的ハッキリとしてきました。ギターの音色は温かく、加えて終始ファルセットで囁くように歌うこばやしの歌が気持ち良いです。安倍のベースラインも中々良い。「springpool」はaranの軽快なドラムが牽引して爽やかさが出てきました。儚げな歌はコーラスによって透明感があります。「mirrors」は毒気のない優しくほのぼのとした空間が心地良く、歌もどこか可愛らしい雰囲気で進行します。ですが途中リズムチェンジを挟むと、一瞬ダークな側面が顔を見せます。そして「モ ル ヒ ネ」で再びダークで諦めのような空気が支配します。ゆったりと漂うような気だるい演奏は時折煌めき、こばやしの儚げなウィスパーボイスが深く沈んでいきつつ心地良くもあります。終盤のハイライト的な名曲ですね。ラスト曲「No, thank you (alternative mix)」は他の楽曲と大きく雰囲気が異なり、ノイジーなギターを中心に、非常に強い緊張が漂うパンキッシュな演奏を繰り広げます。声量の乏しい歌声はヴォコーダーを通すことでトゲトゲした攻撃的な雰囲気に。スリリングで暴力的な楽曲で、この名盤を締め括ります。

 邦シューゲイザーを探していたときに辿り着いた作品ですが、これが素晴らしい傑作でした。全体的に内省的でドリーミーなサウンド。前半の深く深く沈んだ楽曲が特に魅力的ですが、後半に少し明るさを出して救いを差し伸べてくれます。

SPOOL
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cyan/amber

2020年 2ndアルバム

 cyan(水色)とamber(琥珀色)という対称的な色合いを軸に、前半はcyanの寒色・喪失感をイメージした楽曲が並び、後半はamberの暖色・生や希望をイメージした楽曲が並びます。そして「opening」と「ending」という小曲で挟み込むことで、全体的に纏りのあるコンセプチュアルな作品に仕上がりました。楽曲構成だけでなくパッケージにも拘りを見せていて、透明なフィルムに水色と琥珀色を用いたイラストや歌詞を乗せ、それを幾重にも重ねるとジャケットアートが完成するという仕掛けになっています。ジャケットに干渉しないよう、CD盤面のデザインも最低限でほぼ無地に近いです。フィジカルとしても手に取りたいデザインですね。
 前作に強く見られた、歌をかき消すほどの浮遊感に満ちたギターはやや抑え気味になり、歌メロを引き立てた楽曲も増えました。シューゲイザーというよりも、彼女らのルーツであるUS・UKのオルタナ/インディを幅広く取り入れて昇華しているような印象です。
 メンバーは変わりなく、全作詞作曲を手掛ける「あみちゃん」こと こばやしあゆみ(Vo/Gt)、「あべちゃん」こと安倍美奈子(B)、「あらん」ことaran(Dr)、「スミちゃん」ことショウジスミカ(Gt)。

 僅か30秒のインストゥルメンタル「opening」で幕開け。雑踏を抜けて階段を下っていくと、その先に「cyan」が展開されます。歌は前作とは違ってクッキリとした輪郭です。低血圧で不機嫌そうな、アンニュイで憂いに満ちたこばやしの儚い声はとても魅力的です。サビで聴かせる、不安定で焦がれるような歌はthe brilliant greenにも似ていますね。演奏はノイジーですが、グルーヴィなベースをはじめ程良い躍動感があり、キャッチーでメロディアスな歌メロを引き立てます。続く「あめ」は可愛らしい歌で始まります。安倍の骨太なベースも特徴的ですね。徐々に勢いを増していく楽曲はJ-POP的なAメロ→Bメロ→サビの反復のようには進まず、メロディを変えながらぐんぐんと進んでいきますが、敬愛するソニック・ユースからの影響が大きいとか。楽曲が進むにつれてどんどんと緊張の糸が張り詰め、気付くと終盤には轟音を響かせるノイジーな演奏と力強い歌唱へと変わっています。そしてリードシングル「スーサイド・ガール」。歌メロを重視した楽曲で、色っぽく包容力のある歌声はZARDを彷彿とさせますが、ZARDをもっと不安定にしたような印象。笑 分厚いコーラスワークも温かく、ポワンポワンとしたギターも優しいのですが、後追い自殺を図ろうとするかのような歌詞はどこか諦めのような寂しさも内包しています。「ghost」も前曲同様に、ギターがアンビエント風の幻想的な音色を奏でます。アンニュイな歌は消え入りそうな雰囲気で、歌をかき消すほどの分厚いコーラスによって音像がぼやけています。終盤での躍動感あるaranのドラムと安倍のベースが、楽曲に変化をつけてくれます。
 そしてアルバムの流れを変える「amber」。アコースティックで、チープな機材で録音したようなサウンドです。囁くような歌声と合わさって、子守唄のような心地良さを提供してくれます。そして明瞭で小気味良いドラムから「come for me」が始まります。全編英語詞の楽曲です。スピーカーの左右交互に現れるコーラスがとても幻想的で、多幸感に包まれます。時折キュッキュッとカモメの鳴き声のようなギターも特徴的ですね。最後はオルゴールのようなレトロな音で締めます。続く「アリスとテレス」は「うさぎの耳♪」で始まる素朴で可愛らしい歌が魅力的です。最初はシンプルな演奏ですが、安倍のグルーヴィなベースが心地良い。2番から躍動感のある演奏に変わり、比較的アップテンポな印象です。盛り上がってきたかと思うとあっさり終わってしまうので、少し物足りないですね。そして「天使のうたごえ」はアンビエント風の落ち着いた演奏がレディオヘッドっぽい。タイトルにもあるように、ウィスパーボイスを用いて天使のような神々しさを感じます。神秘的なのですがどこかに不安定さがあるのか、優しく癒やされるような楽曲なのに少し怖さも感じる気がします。歌詞にあるように「完全じゃない 完璧じゃない」、でも「翔べる気がする」と背中を押してくれるようです。ラストは短いインストゥルメンタル「ending」。前曲「天使のうたごえ」を逆再生で流して不思議な感覚を与えつつ、「opening」と対称となるような階段を登っていくような効果音で『cyan/amber』の物語を締め括ります。

 前作よりも歌を引き立てて、インディロック感は保ちつつもキャッチーさが増しました。取っつきやすくなり、これもまた名盤だと思います。

cyan/amber
SPOOL
 
 
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