🇬🇧 The Rolling Stones (ザ・ローリング・ストーンズ)

ライブ盤

Get Yer Ya-Ya's Out! The Rolling Stones In Concert (ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト)

1970年

 『ベガーズ・バンケット』、『レット・イット・ブリード』という名盤を相次いでリリースし、その直後の米国ツアーで行われたニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでの公演を収録。公式初のライブアルバムです。ミック・テイラー加入直後のラインナップで、ミック・ジャガー(Vo)、キース・リチャーズ(Gt)、ミック・テイラー(Gt)、ビル・ワイマン(B)、チャーリー・ワッツ(Dr)。ロバと写っているジャケット写真はドラマーのチャーリー・ワッツ。
 私は1CD盤しか持っていませんが、40周年記念のデラックスエディションでは楽曲が追加されて3CD(+DVD)というボリューム満点の内容です。

 ノリの良い名曲「Jumpin’ Jack Flash」で幕開け。初めて聴く人は超有名曲「(I Can’t Get No) Satisfaction」と混同しそうですが、似たギターリフを持つ別の曲で、こちらも定番の有名曲です。オリジナルアルバム未収録のシングル曲のため、ベスト盤やライブ盤でしか聴けないという。リフがカッコ良く、勢いがあって爽快ですね(この後のライブ盤と比べるとそれでも若干控えめな印象ですが)。続いてチャック・ベリーのカバー曲「Carol」。旧き良きロックンロールで、ギターなどの演奏もご機嫌でノリが良いです。軽快なピアノを弾くのは6人目のストーンズことイアン・スチュワート。「Stray Cat Blues」は若干テンポを落として、少し気だるさが出てきます。ですがミック・テイラーのギターは切れ味鋭いですね。「Love In Vain」はブルースミュージシャンのロバート・ジョンソンのカバー曲。穏やかなアコースティックサウンドに、ミック・ジャガーの歌が響き渡り、音数は少ないのに雄大な印象を抱きます。途中からバンド演奏が加わるものの、全体的にゆったりと聴けます。そして中盤の聴きどころである「Midnight Rumbler」が続きます。原曲も加速したり急に速度を落としたりとリズムチェンジが印象的な楽曲ですが、ライブでも即興感があって楽しい楽曲です。とにかくノリが良く、会場も含めて盛り上がりは最高潮に達します。そして歓声が落ち着いてきた頃に観客の女性が「Paint It Black」と連呼しますが、これはローリング・ストーンズの名曲。そんなリクエストをスルーして始まるのは、これまた名曲「Sympathy For The Devil」。原曲はサンバのようなパーカッションやフッフーという合いの手が印象的ですが、ライブアレンジは尖った部分は削ぎ落として、普通に聴きやすいアレンジに仕上がっています。原曲ではキンキンと鋭利な音を立てていたギターもこのライブでは大人しくて聴きやすく、キャッチーなメロディを活かしたロック曲に仕上がっています。でもリズム隊の生み出すノリの良さは爽快です。「Live With Me」は少しダーティな雰囲気のヘヴィなリフがカッコ良い。気だるさと爽快感の同居するロック曲です。続く「Little Queenie」はチャック・ベリーのカバー曲。緩くて心地良いロックンロールで、ピアノによるアクセントが良い感じ。ライブ終盤に入り、定番の「Honky Tonk Woman」が始まります。緩いのですが、キャッチーなメロディと心地良いリズムに揺られるのがなんとも心地良いのです。そしてラストにはアップテンポ曲「Street Fighting Man」。軽快ですが緩さも内包しているので、リラックスして聴けます。キャッチーなメロディも魅力的ですね。

 ライブ盤と言えど50分弱の短い時間に収まりますので、サクッと聴けるのも魅力の作品です。デラックスエディションだとまた違うのかもしれませんが。笑 傑作オリジナルアルバム群を聴いた後の次の一作品にオススメできます。

Get Yer Ya-Ya’s Out! The Rolling Stones In Concert
(Deluxe Edition) (3CD+DVD)
The Rolling Stones
Get Yer Ya-Ya’s Out! The Rolling Stones In Concert
The Rolling Stones
 
Love You Live (ラヴ・ユー・ライヴ)

1977年

 1975~77年の公演を収録したライブ盤です。ミック・テイラー脱退後で、メンバーラインナップはミック・ジャガー(Vo)、キース・リチャーズ(Gt/Vo)、ビル・ワイマン(B)、チャーリー・ワッツ(Dr)、ロン・ウッド(Gt)。ビリー・プレストン(Key)、イアン・スチュワート(Pf)、オーリー・ブラウン(Perc)もクレジットされていますが、オーバーダビングだったようです。ちなみにジャケットアートはアンディ・ウォーホルの作。
 
 
 アーロン・コープランド作の「市民のためのファンファーレ」をオープニングSEとして流し、大歓声の中でライブは「Honky Tonk Woman」で幕開け。ギターリフはとても気だるげですが、観客の手拍子もあってか心地良い緩さに浸れます。徐々にテンションを上げていく感じ。続く「If You Can’t Rock Me/Get Off Of My Cloud」はノリノリのロックンロールで、チャーリーのドラムがパタパタと軽快なリズムを刻みます。中盤からは即興的な演奏をバックにメロディ無視のミックの歌(というか歌詞をシャウトしてるだけ)が展開されます。でも高いテンションなので楽しい雰囲気に引っ張られるんですよね。続いて名曲「Happy」。キャッチーなギターに加えてキースのご機嫌な歌が展開されます。原曲よりも速くてノリノリ。とてもスリリングで楽しめます。「Hot Stuff」は強烈なグルーヴ感に溢れる1曲。キースとロンのファンク色の強いギターがカッコ良く、パタパタと忙しないパーカッションも心地良いノリを増長させます。そしてノリノリのロックンロール「Star Star」。キンキン鳴るキレッキレのギターにブイブイと唸るベース、そしてキャッチーな歌メロなど魅力たっぷりです。ピアノの味付けも軽快な印象を増しますね。原曲も大好きですが、ライブだと更に勢いに満ちて化ける印象で、個人的には本作のハイライトです。一転「Tumbling Dice」で一気に気だるげなムードに。ミドルテンポながらも結構尖っていて、ヘヴィなオルガンやキレのあるギターなど演奏はスリリングです。「Fingerprint File」はかなりファンキーでグルーヴ感に満ちた1曲。メロディは弱いですが、中毒性のある強烈なグルーヴに魅せられます。「You Gotta Move」はブルース曲のカバー。スローテンポで非常に気だるげですが、観客の手拍子を聞くにノッてるんでしょうか。続いてメロウな「You Can’t Always Get What You Want」。スタジオ盤と異なりコーラス不在なのが少し寂しいです。ゆったりとした演奏ですが、間奏でのロンのギターソロは強烈なインパクト。また終盤の合唱も良いですね。

 続いてDisc2、前半(レコード時代C面)は全てカバー曲で、ちょっと息抜きムード。まずはマディ・ウォーターズのカバー「Mannish Boy」で開幕。ヘヴィでブルージーなギターを中心に気だるい雰囲気です。ここでのミックの歌はとても野太いですね。続く「Crackin’ Up」はボ・ディドリーのカバー曲。リズミカルで軽快な演奏が特徴の、牧歌的なナンバーです。MCを挟んで、ハウリン・ウルフのカバー「Little Red Rooster」。スローテンポで緩い楽曲です。そしてチャック・ベリーのカバー「Around And Around」。スタンダードなロックンロールですが、会場の手拍子もあってとてもノリノリですね。演奏もキレがあります。ここまでの気だるげな空気を吹き飛ばし、テンションを一気に上げていきます。
 ここからはストーンズのオリジナル曲が並び、ハイテンションな演奏で楽しませます。「It’s Only Rock ‘N’ Roll (But I Like It)」はキャッチーな歌メロに、メンバーの野太くノリの良いコーラス、そして軽快な演奏が爽快ですね。ピアノの味付けも軽快な印象を強めています。続く「Brown Sugar」は力強いドラムのせいか、音の塊というか爆裂的なエネルギーに満ち溢れている印象。ギターのキレ味も抜群です。原曲よりも若干速く、ノリの良さが更にプラスされていてとにかくカッコ良い。「Jumpin’ Jack Flash」も原曲を超えるテンションの高さで、元々のカッコ良さに更に磨きが掛かっています。躍動感に溢れる魅力たっぷりの1曲で、後半のハイライトですね。終わった後に花火を打ち上げ、会場の熱気は最高潮です。最後に「Sympathy For The Devil」。ミックの歌は力強いし演奏もパワフルですが、原曲の取り憑かれたような狂気性は少なく、陽気でリズミカルな雰囲気で楽しませてくれます。後半は野性味があるというか、ハイテンションに遊び倒しています。
 
 
 スタジオ盤よりもハイテンションな楽曲の数々で楽しませてくれる作品です。ライブバンドとして定評のあるストーンズ、スタジオ盤で気に入った方は手にとってみることをオススメします。

Love You Live (2009 Remastered 2CD)
The Rolling Stones
 
 

編集盤

Forty Licks (フォーティ・リックス)

2002年

 ローリング・ストーンズ結成40周年を記念して制作された40枚入りベスト盤です。タイトルも含めて分かりやすいですね。なお10年後に50曲入り『GRRR! ~グレイテスト・ヒッツ1962-2012』が出ており、新たに聴くのであれば後者を薦めますが、本作は曲順に少しランダム性があって一応差別化要素はあります。
 
 
 Disc1は1964年~1971年までの20曲が並んでいます。リリース順ではなくランダムに並んでいるのが特徴的です。まずは「Street Fighting Man」で開幕。キャッチーかつ躍動感のある楽曲で、アコギに加えてシタールも鳴り響いています。「Gimme Shelter」はミック・ジャガーと、ゲストのメリー・クレイトンのデュエットが印象的な楽曲。特にメリー・クレイトンのソウルフルな歌唱が鳥肌ものです。続いて、ローリング・ストーンズと言えばこの曲「(I Can’t Get No) Satisfaction」。1965年の作品なので録音は古臭いですが、キース・リチャーズの弾くダーティなギターリフは、一度聴いたら忘れられない強い魅力があります。ノリの良いリズムに乗せて、歌メロも口ずさみたくなるようなキャッチーさを持っています。続く「The Last Time」も最初期の楽曲で、古臭い録音が気にならないくらいキャッチーな歌メロが、心地良く魅力的です。「Jumpin’ Jack Flash」は「(I Can’t Get No) Satisfaction」に似たリフを持っていますが、より洗練された名曲です。ギターで始まり、ベースそしてドラムと楽器が増えていくイントロがカッコ良く、ノリも良い上にメロディもキャッチーです。ベースが際立っているなーと感じますが、そんなときは大体ビル・ワイマンじゃなくてキースが弾いているんですよね(これもそう)。笑 続いて「You Can’t Always Get What You Want」は序盤や終盤での、ロンドン・バッハ合唱団による荘厳なコーラスが神々しい印象を抱きます。ですが本編はゴスペル風の女性コーラスもあり、賑やかで楽しげな雰囲気。メロディもキャッチーですね。緩くて明るいトーンのロックンロール「19th Nervous Breakdown」を挟んで、「Under My Thumb」はブライアン・ジョーンズの叩くマリンバが印象的。少し憂いを帯びた歌メロは聴きやすいです。「Not Fade Away」はザ・クリケッツのカバー曲。リズミカルなビートと、ハーモニカが特徴的ですね。ブラスが強烈な「Have You Seen Your Mother, Baby, Standing In The Shadow?」を挟んで、名曲「Sympathy For The Devil」。マラカスやコンガなどが心地良いサンバのリズムに乗せて、「Woo Woo」の不気味な連呼がヤミツキになる中毒性の高い楽曲です。そしてキースによる、キレッキレのキンキン鳴るギターが強烈なインパクト。カッコ良いです。「Mother’s Little Helper」はフォーキーなサイケ曲です。小気味良いリズムやアコギは軽快な印象ですが、幻覚的なギターがどこかエキゾチックな雰囲気を醸し出しています。「She’s A Rainbow」はCM等でも耳にするメロディアスな名曲ですね。ゲストのニッキー・ホプキンスの弾く美しい鍵盤の音色、耳心地の良いポップな歌メロを引き立てるストリングスなど、キャッチーで魅力的です。続く「Get Off Of My Cloud」は軽快でキャッチーな楽曲。サビメロが耳に残ります。「Wild Horses」はアコギが心地良いカントリー調のバラード。憂いのあるメロディと、アコースティック基調の優しい演奏に癒されます。「Ruby Tuesday」は口ずさみたくなるようなメロディアスな歌メロが惹きつけますね。ポップなメロディを歌うミックの歌唱は優しくて、全体的にほのぼのとした雰囲気です。そして「Paint It Black」は個人的に初期の名曲。ブライアンの弾くシタールがエスニックな印象を与え、そしてこれがリズム隊と合わさると煽り立てるような緊張感が漂い、とてもスリリングです。「Honky Tonk Women」も名曲。リズムは至極シンプルでスタンダードな感じですが、キャッチーな歌メロとそれを引き立てる黒っぽいコーラスが良い。カウベルやサックスなども楽曲を彩ります。「It’s All Over Now」はR&Bグループ、ザ・ヴァレンティノスのカバー曲。軽快でどこか牧歌的な雰囲気が漂います。続いて「Let’s Spend The Night Together」。私はデヴィッド・ボウイのカバーから逆輸入で知りました。緊張感溢れるデヴィッド・ボウイ版の方が私は断然好みですが、キャッチーなメロディは本家ストーンズの賜物ですね。ゲストのジャック・ニッチェが弾くピアノが軽快で、またキースの弾くベースがブイブイと低音を唸らせています。
 
 
 Disc2は1971年~1997年までの楽曲16曲と、4つの新曲がやはりランダムに並びます。年代の幅がかなり広いので、楽曲の統一感はないですね。「Start Me Up」はイントロでトリッキーなリズムを刻みます。1981年の大ヒット曲で、録音がDisc1とは結構違いますね。ノリの良い演奏とハンドクラップがご機嫌です。「Brown Sugar」はイントロのギターリフがとてもカッコ良い、ストーンズ5本の指に入る軽快な名曲です。ゲストのボビー・キーズの吹くサックスが楽曲を華やかに引き立て、また歌も賑やかでとても楽しそうです。「Miss You」はディスコを取り入れた楽曲で、チャーリー・ワッツのドラムとビルのベースが、リズミカルでダンサブルなビートを生み出しています。「Beast Of Burden」はまったりとした雰囲気ですが、前曲同様リズムビートは強烈な印象。「Don’t Stop」は本作における新曲で、爽やかな印象のイントロは1990年代以降のサウンドですね。晴れやかだけど少し切なさを合わせ持った、軽快なロック曲です。「Happy」はキースがリードボーカルを取る名曲。軽快なイントロ、ご機嫌な歌メロやホーンによる華やかな演出など、聴いていると文字どおりハッピーになれる楽曲です。歌詞は「愛が欲しいんだ、ハッピーでいたいから」ってストレートな内容で分かりやすいですね。続く「Angie」は哀愁たっぷりの名バラード。ミックの歌う切なげな歌がとにかく魅力的で、アコギやピアノ、ストリングスなどの美しい演奏が歌メロを引き立てています。そんな美しさに浸っていると、キレのある「You Got Me Rocking」が始まります。音の分離も良く、メリハリのある洗練されたサウンドに野太い歌が響きます。ストーンズらしい(良い意味での)下品なサウンドはなくなってしまい、ミックの歌にだけその要素を残しています。「Shattered」はスッカスカですが爽快感のある楽曲。反復するリズムが中毒性を生み、音数の少なさ故に際立つミックの歌も妙に耳に残ります。時期的にもパンクやニューウェイヴの影響を受けてる感じがします。そして「Fool To Cry」は憂いに満ちた楽曲で、メロウな演奏に癒されます。ファルセットを多用したコーラスが特徴的ですね。「Love Is Strong」はミックが低く囁くように歌っています。演奏はモダンな印象ですが、それ故にレトロ感のあるハーモニカの音色が際立ちますね。「Mixed Emotions」は疾走感がありますが、音数の少なさと切なげなメロディから少し寂寥感を覚えます。続く「Keys To Your Love」は新曲で、シンプルかつメロウな印象。「Anybody Seen My Body?」はクールでちょい悪な感じで始まりますが、サビはメランコリックで切なく聴かせます。女性コーラスも、哀愁を演出するのに良いアクセントになっています。新曲「Stealing My Heart」は晴れやかですが少し憂いを帯びたモダンなロック曲。クリーンで軽快な演奏に乗る、円熟味のあるミックの歌がどこか哀愁を誘います。後年の楽曲が連続していましたが、続く「Tumbling Dice」で一気に1970年代初頭まで逆戻り。個人的にも好きな楽曲だし泥臭くてストーンズらしい1曲ですが、アルバムの流れで聴くと一気に古臭くなります。「Undercover Of The Night」はニューウェイヴ全開の1曲。強烈なリズムビートがカッコ良く、とてもダンサブルです。ギターもキレがあって良い。続く「Emotional Rescue」もダンサブルな楽曲です。ファルセットで歌うミックの歌も合わせて、ディスコミュージックっぽい印象。そして名曲「It’s Only Rock ‘N’ Roll (But I Like It)」。ストレートな演奏に「知ってるさ、ただのロックンロールだって。けど大好きだ」と歌うロックンロール愛に溢れたストーンズらしい楽曲ですね。キャッチーなメロディも魅力的です。ラストは新曲「Losing My Touch」。ピアノ主体のしっとりとした演奏をバックに歌うのはキース。渋く円熟味のある声で、ミックとも違う魅力を放っていますね。
 
 
 キャリアの長いローリング・ストーンズ、どこから手を付けるべきか当たりを付けるのには役立ちます。ただその後お気に入りのオリジナルアルバムに巡り会えたら、本作を聴く機会は減るかもしれません。
 私がストーンズで一番最初に聴いたのはこの作品でした。そこから『ベガーズ・バンケット』等の傑作群に手を出しハマっていくのと反比例して、本作はほとんど聴かなくなっていたので『GRRR! ~グレイテスト・ヒッツ1962-2012』の購入に伴い売ってしまいました。残った音源を改めて聴いた感想として、Disc1は割と良いですが、Disc2はそこまで好みじゃないかなぁ。

Forty Licks
The Rolling Stones
 
GRRR! (GRRR! ~グレイテスト・ヒッツ1962-2012)

2012年

 ローリング・ストーンズ結成50周年を記念して、レーベルの垣根を越えて制作されたベスト盤です。入門に向いている作品ですが、「レーベルを越えて」というところに壁があるのかAmazonを見ると若干プレミア化しつつあるみたいで(2019年11月現在)、またデジタル配信もされておらず、レンタルするか安く買えるチャンスを望むしかなさそうですね。
 ボリューム満点ですがバージョン違いが多いのが曲者で、まず40曲入り2CDのエントリー・エディション。50曲入りのデラックス・エディションについては、3CDデジパック、3CDブックレット/ポストカード付Boxセット、1枚もののBlu-ray Audio、5枚組レコードがあります。更に80曲入りスーパー・デラックス・エディションと、バージョンは多岐に渡ります。私が買ったのは3CDデジパックで、これをレビューします。
 なお、ぼってりした唇にベロを出したロゴが有名なストーンズですが、本作のジャケットでその正体がゴリラだったと判明します。笑
 
 
 Disc1は1960年代の楽曲が概ね年代順に並んでいます(多少前後はありますが)。カバー曲に始まり、徐々に進化していくんですね。
 「Come On」はストーンズのデビューシングルで、チャック・ベリーのカバー曲。1963年の作品なので流石に古臭いですね。シンプルな演奏です。「Not Fade Away」はザ・クリケッツのカバー曲です。かき鳴らすギターとハーモニカの掛け合い、そして終始躍動感のあるパーカッション。リズミカルな演奏は古臭いながらも魅力を放っています。「It’s All Over Now」はザ・ヴァレンティノスのカバーで、牧歌的でポップな歌メロが印象的。ノリが良くて軽快です。ハウリン・ウルフのカバー「Little Red Rooster」はブルースナンバー。気だるげな雰囲気で淡々と進行します。「The Last Time」はミック・ジャガーとキース・リチャーズ共作の初シングル。心地良い緩さがあり、メロディも聴きやすいです。そして初期ストーンズの大傑作「(I Can’t Get No) Satisfaction」。ストーンズを世界的なバンドに押し上げるキッカケとなった楽曲で、ミックとキースの2人によるソングライティングはここから本格化します。ダーティなギターリフがとかく強烈ですが、歌メロのキャッチーさも負けていません。「Time Is On My Side」はジェリー・ラゴヴォイの書いた楽曲のカバー。3拍子のゆったりとしたリズムに揺られます。「Get Off Of My Cloud」は軽快でキャッチーな楽曲。勢いのあるサビメロが結構耳に残るんですよね。「Heart Of Stone」はゆったりとした3拍子を刻みます。独特の低音はブライアン・ジョーンズの弾くバリトンギターだそうです。続く「19th Nervous Breakdown」は軽快でノリの良いロック曲。明るいメロディや賑やかな演奏で楽しませてくれます。「As Tears Go By」はアコギとストリングスだけのシンプルな演奏ですが、ミックの歌う穏やかな歌と合わさって、優しく癒してくれます。そして名曲「Paint It Black」。ブライアンの弾くシタールがエスニックな印象を醸しつつも、チャーリー・ワッツのドラムを中心に緊張を強いる演奏で、ストーンズにしては珍しくかなりスリリングです。多くのアーティストにカバーされる人気曲ですが、とりわけHR/HM系に人気が高いようです。続く「Under My Thumb」は前曲とは逆にポップな感じで、マリンバなど優しい演奏が印象的ですね。「Have You Seen Your Mother, Baby, Standing In The Shadow?」はストーンズで最もタイトルが長いのだそう。ブラスセクションなどの賑やかな演奏はごちゃついていて、サイケデリックで幻覚的な感覚を生み出しています。「Ruby Tuesday」はメロディアスでポップな名曲。憂いのあるメロディラインが美しくて魅力的です。「Let’s Spend Night Together」はノリの良い楽曲で、ピアノの音色が良いアクセントになっています。個人的にはデヴィッド・ボウイがカバーしたバージョンが好み。「We Love You」はサイケ全開の1曲。ラリったようなファルセット気味の歌にノイズ混じりの演奏が、ちょっと酔いそうな幻覚的な浮遊感を生み出します。
 
 
 Disc2は1960年代末から1970年代中盤までを網羅。一番脂の乗っている時期で名曲揃いなので、個人的にはこのDisc2だけ単品でちょくちょく聴きます。笑
 まずは名曲「Jumpin’ Jack Flash」で、「(I Can’t Get No) Satisfaction」にも似た名ギターリフがとってもカッコ良いです。ノリも良いのですが、どこか気だるさがあってリスナーに緊張を強いず、緩く楽しめるのが魅力です。「Honky Tonk Women」は気だるげな楽曲。緩く心地良い演奏に、ソウルフルなコーラスワークが特徴のキャッチーな歌メロ。これも中々の良曲です。そして強い中毒性を持つ「Sympathy For The Devil」。シェケレ(マラカスのような楽器)やコンガなど、サンバを取り入れたパーカッシブなリズムに加えて「Woo, woo」の連呼は脳内ループし、ヤミツキになります。キースの弾くベースラインもカッコ良いし、後半のキンキン鳴るキレッキレのギターもとにかく強烈です。「You Can’t Always Get What You Want」はシングルバージョンで、ロンドン・バッハ合唱団による神々しいコーラスはイントロでは省略されています(後半にはちゃんと登場します)。アコースティックで泥臭いサウンドに、ソウルフルな女性コーラスによる賑やかで楽しげな楽曲に仕上がっています。「Gimme Shelter」はミックとメリー・クレイトンのデュエット曲。泥臭い演奏をバックに歌う、メリー・クレイトンのソウルフルな歌唱が鳥肌もので、彼女の歌唱に圧倒されます。「Street Fighting Man」はアコギに始まり、躍動感のあるドラムが入り込んでくるイントロからワクワクします。ノリの良い楽曲ですが、そこにエスニックな要素を加えるブライアンのシタールがアクセントになっています。「Wild Horses」はカントリー調のバラード。キースが弾く12弦ギターとスライドギターがまったりとした雰囲気を作りつつ、ミックの歌が渋くも哀愁を漂わせています。「She’s A Rainbow」はサイケ期の名曲。CMソングとしても馴染みのあるメロディアスな歌が魅力的で、またゲストのニッキー・ホプキンスの弾くエレピも美しいですね。ストリングスアレンジは後にレッド・ツェッペリンを結成するジョン・ポール・ジョーンズが担当。続く「Brown Sugar」は抜群にキャッチーなギターリフで一気に引き込みます。ノリノリだけど、どこか気だるげで心地良い演奏はとても楽しいです。ゲストのボビー・キーズの吹くサックスも賑やかで良いですね。そして「Happy」はキースの歌うご機嫌な名曲。口ずさみたくなるようなキャッチーな歌だけでなく、明るいトーンの賑やかな演奏も魅力的で、聴いているとハッピーな気分にさせてくれます。「Tumbling Dice」はミドルテンポの気だるげな楽曲。ホーンに分厚いコーラスなど賑やかで楽しく、それでいてルースでまったりと心地良く聴けます。「Angie」は哀愁たっぷりの名バラードです。メロディがとにかく美しく、感情たっぷりに歌うミックの歌メロを引き立てる切なげなアコギとピアノもたまりません。ストーンズのバラードでは指折りの名曲です。続く「Rocks Off」はイントロのギターからご機嫌なロックンロールを展開。躍動感があるのに気だるさが抜け切らないのがストーンズらしくて、そこが良いんですよね。途中からブラスセクションも加わって賑やかで楽しいです。「Doo Doo Doo Doo Doo (Heartbreaker)」は、ハードロック的なミック・テイラーのギターがとにかくカッコ良いですね。黒っぽいコーラスワークも含めた歌メロも、キャッチーで惹かれます。良質なロックンロールが続きましたが、ここで「It’s Only Rock ‘N’ Roll (But I Like It)」というロックンロール愛に溢れた1曲が来ます。これも口ずさみたくなるキャッチーな歌メロと、ご機嫌な演奏が楽しい気分にさせてくれます。Disc2ラストは「Fool To Cry」。哀愁たっぷりのメロディアスなバラードをしっとりと聴かせます。
 
 
 Disc3は1970年代終盤~当時の最新曲からセレクト。また未発表の新曲2曲も収録されています。
 「Miss You」はディスコブームに乗っかった1曲。チャーリーの刻むダンスビートが気持ち良いんです。ハーモニカの音色も中々良いですね。「Respectable」はパンキッシュな疾走ロックンロール。ハードな演奏でいつになく速いですし、歌もシャウト気味で激しいですが、本質の部分は取っつきやすいロックンロールですね。ドラムがやけに強調されたメロウな「Beast Of Burden」を挟んで、「Emotional Rescue」はダンサブルな楽曲。ロン・ウッドの弾くベースとチャーリーのドラムが、強烈なダンスビートを生み出しています。ミックがファルセットを多用しているのも特徴的ですね。「Start Me Up」はエコー処理がもろに1980年代って音ですね。少しだけトリッキーなイントロを過ぎると、メリハリのあるリズミカルな演奏とハンドクラップで楽しませてくれます。「Waiting On A Friend」はギロをはじめとしたパーカッションと、メロウなサックスによってまったりとした雰囲気です。少しエコーが効きすぎてる感はありますが…。そして「Undercover Of The Night」はニューウェイヴ全開のとてもカッコ良い楽曲です。ダンサブルで中毒性の強いリズムビートに魅せられ、またキレのあるギターもクールな印象です。「She Was Hot」はテンポの速いロックンロールで、ニューウェイヴ的なカラフルな味付けがされていますね。明るく華やかですが、テンポの速さゆえに少し煽られているかのようなスリルを感じます。「Street Of Love」は静かに始まりますが、徐々に盛り上がっていくメロディアスなバラード。間奏のギターソロが中々良いです。「Harlem Shuffle」はボブ&アールというR&Bデュオのカバー曲。シンセの比重が大きく、またエコーをかけまくった歌などもストーンズらしくなくて若干イマイチな印象。疾走感がありますが歌はどこか切なげな「Mixed Emotions」を挟み、ここから1990年代へ。モダンなサウンドになり晴れやかな雰囲気の「Highwire」、続く「Love Is Strong」はモダンな演奏にハーモニカという旧き良きロックンロールの要素を混ぜ込んでいます。ミックの歌は低く囁くような感じです。「Anybody Seen My Baby?」はダーティでちょい悪っぽい雰囲気で始まります。ですがサビメロはやけにメランコリックで、女性コーラスも合わさって哀愁を誘います。終盤のギターも哀愁たっぷりですね。「Don’t Stop」は40周年ベスト『フォーティ・リックス』収録曲。晴れやかでクリーンな演奏で、ミックの円熟味のある歌は渋い印象。
 そしてここからは新曲。「Doom And Gloom」は珍しく緊張感のあるイントロで幕開け。歌は力強く、でもリズム隊は親しみやすさを発揮。爺さんになってもまだまだ元気にロックンロールしてるよと楽曲で表明してくれているかのようです。最後に「One More Shot」はノリの良いロックンロールで、身体が動き出すかのような心地良いグルーヴを持っています。ちょっとだけAC/DCっぽい印象を受けました。
 
 
 長いキャリアのどこから開拓するかを見定める入門盤として、あるいは50年の軌跡を振り返る記録としてオススメできます。私は50曲入りデラックスエディションを買いましたが、Disc2だけは普段聴きにも適している印象です。

GRRR! (50 Tracks Deluxe Edition 3CD)
The Rolling Stones
GRRR! (40 Tracks 2CD)
The Rolling Stones