🇬🇧 Phil Collins (フィル・コリンズ)
レビュー作品数: 4
ジェネシス&メンバーソロ紹介動画
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スタジオ盤
1981年 1stアルバム
フィリップ・デヴィッド・チャールズ・”フィル”・コリンズ。英国ロンドン出身の1951年1月30日生まれ。プログレ/ポップバンドのジェネシスのドラマー兼2代目ボーカリストとして、ジャズ・フュージョングループのブランドXの凄腕ドラマーとして、(ソロでの成功後は)俳優やプロデューサーとしても活躍するフィル・コリンズ。来た仕事を基本的に断らず「世界で一番忙しい男」と呼ばれたそうです。
ソロでの活動はトータル1億5千万枚以上を売り上げ、バンド活動のジェネシスをも上回る成功を得ました。英国の香り漂うジェネシスとは異なり、モータウンのR&Bに影響を受けたポップさ全開のサウンドです。ヒュー・パジャムとの共同プロデュースとなる本作でヒットを飛ばし、全英1位、全米7位を獲得。この成功をバンド活動に持ち帰り、ジェネシスもコリンズ主導でポップ化して大きな成功を掴むことになります。
本作では数多くのミュージシャンを招いていますが、中でも大半の楽曲でギターを弾くダリル・ステューマー(Gt)は、コリンズの作品や本家ジェネシスのライブサポートメンバーとしても貢献することになります。またエリック・クラプトン(Gt)も一部楽曲に参加。
アルバムは「In The Air Tonight」で開幕。打ち込みサウンドをバックにややダウナーな雰囲気で淡々と歌います。抑揚のない楽曲ですが、しかし終盤にはゲートリバーブで加工された強烈なドラムを前面に出してきて、コリンズの歌もパワフルになります。「This Must Be Love」はアフリカ音楽を少し取り入れたリズミカルなパーカッションを中心に、まったりとした雰囲気です。「Behind The Lines」はジェネシスのカバー。原曲はド派手で疾走感のあるインストパートが魅力の1曲でしたが、こちらはグルーヴ感のあるサウンドに乗せて歌メロパートをフィーチャーしています。ホーンで華やかに彩られ、そしてとてもファンキーなリズム隊…まるで別物ですが、これが意外とクセになります。「The Roof Is Leaking」は終始鈴虫のようなSEが鳴っていますね。コリンズの歌とピアノ+αのシンプルなサウンドですが、哀愁を感じさせながらも独特のリズム感で印象に残ります。「Droned」はインストゥルメンタル。神秘的な序盤から徐々にスピードアップしていくスリリングな1曲です。コリンズのドラムだけでなく流麗なピアノやヴァイオリンも緊張感を放ちます。そのまま続く「Hand In Hand」もインスト曲。パーカッションに浮遊感のあるシンセが神秘的で雄大な景色を想起させます。途中から加わるゲートリバーブを用いた強烈なドラムやホーン、これらが楽曲を華やかに彩り、そして刺激を提供してくれます。
アルバム後半は「I Missed Again」で幕開け。ホーンを多用したR&B色の強い1曲で、キャッチーな印象です。間奏でのサックスソロがメロウですね。「You Know What I Mean」は2分半の短いバラード。しっとりとした歌声をフィーチャーするピアノ伴奏。そして後半はストリングスが加わり、華やかに盛り上げます。続く「Thunder And Lightning」はリズミカルで、ホーンが華やかな1曲。ドラムが生み出すリズムが気持ち良く、聴いていると自然と身体が動き出します。ファルセットを用いた「I’m Not Moving」もグルーヴ感が抜群ですね。これもR&B色の強い1曲です。「If Leaving Me Is Easy」はサックスに色気がありますね。メロウで、ゆったりと聴かせます。そしてラスト曲「Tomorrow Never Knows」はビートルズのカバー。原曲よりテンポは落としていますが、原曲の持つ目の回るようなサイケデリックなサウンドはコリンズなりに再現されています。ぐわんぐわんと揺さぶってきます。
ボーカリストとしてのフィル・コリンズだけでなく、楽曲によってはドラマーとしてのコリンズをフィーチャーし、彼の魅力を伝える作品に仕上がっています。
なお最新リマスターにおいては、オリジナルアルバムの一連のジャケットを同じ構図で全て撮り直したようで、老けたコリンズのジャケットになっています。見比べてみると面白いです。
1982年 2ndアルバム
前作『夜の囁き』のあと、ジェネシスで『アバカブ』をリリース。そしてまたソロ活動を行い本作をリリースしました。前作に引き続きコリンズとヒュー・パジャムの共同プロデュース。ギターは前作に引き続きダリル・ステューマー(Gt)を起用。
本作の目玉はなんと言っても、スプリームスのカバー曲「You Can’t Hurry Love」(邦題「恋はあせらず」)でしょう。突出したこの楽曲だけが目当てなら正直ベスト盤でも十分だったりしますが、他のアルバム曲も粒揃いです。
「I Don’t Care Anymore」で開幕。タムタムを多用したドラムが印象的な1曲です。後半になるにつれてコリンズの歌はどんどんヒートアップしていきますね。柔らかく幻想的なシンセの音色はジェネシスにも通じますが、コリンズが弾いているようです(勿論ドラムもコリンズ)。「I Cannot Believe It’s True」はホーンが華やかな、ポップな1曲。序盤はメロウな楽曲にホーンだけが浮いているような印象もありますが、ホーンに引っ張られて全体も明るい雰囲気になっていきます。「Like China」はやけに乾いたギター音で始まりますが、ダリル・ステューマーはこんな乾いたギターも弾くんですね。さて楽曲の方は、リズミカルなサウンドと少しひねたポップなメロディが、独特のノリを生み出しています。これがクセになりそうな中毒性を持っていて、中々楽しい1曲です。続く「Do You Know, Do You Care?」では少しダークさを出しています。でも親しみやすさがあるというか、ポップさと神秘性を含んだダークさで心地良くもあります。続いて本作のハイライト「You Can’t Hurry Love」。本家スプリームス以上のヒットを記録した名カバーでしょう。高揚感を煽るリズミカルなサウンド、またタンバリンやグロッケン等の楽器のチョイスが少しクリスマスっぽい印象。コリンズの歌うメロディは一度聴いたら忘れられないキャッチーさです。
レコードでいうB面、アルバム後半のオープニングは「It Don’t Matter To Me」。派手なホーンに飾られて、アップテンポでキャッチーなメロディを展開。元気になれる1曲です。ちなみにフェニックス・ホーンズという、アース・ウィンド・アンド・ファイアーのバックバンドを担当したホーンセクションを起用しています。「Thru These Walls」はメロウでゆったりと聴かせます。ゲートリバーブを用いたドラムやパーカッションが印象的。「Don’t Let Him Steal Your Heart Away」はピアノ伴奏だけの歌から、ストリングス等が加わり華やかに、ポップになっていきます。続いて「The West Side」はメロウなインストゥルメンタル。メロウで色気のあるサックスには聴き浸ってしまいますが、ホーンセクションが加わるとスリリングな演奏が繰り広げられています。ラスト曲「Why Can’t It Wait ‘Til Morning」は囁くような優しい歌声を、ピアノ伴奏とストリングスで彩ります。穏やかに優しくアルバムを締めます。
ポップな楽曲の数々で聴きやすい作品です。ソロでの成功をジェネシスに持ち帰って反映するので、バンドとソロの区別がつかなくなっていきます。
1985年 3rdアルバム
世界で2500万枚以上を売り上げた大ヒットアルバムです。中古CDショップでもよく見かけるので、相当に売れたことが窺えます。これまで同様フィル・コリンズとヒュー・パジャムの共同プロデュース。様々なミュージシャンを招いていますが、バックボーカルには元バンドメイトのピーター・ガブリエルや、ポリスのスティングらが参加しています。
バンド活動ジェネシスでの『ジェネシス』と『インビジブル・タッチ』の合間に本作をリリースしましたが、コリンズのソロの大成功に引っ張られて、ジェネシスもポップバンドとしてのスターダムを登りつめていました。ソロもバンドもこの頃が全盛期ですね。
アルバムは名曲「Sussudio」で開幕。ドラムマシーンを用いたダンサブルなリズムに、シンセやホーンセクションを用いた、底抜けにポップな1曲です。この「Sussudio」という単語は、コリンズが楽曲制作中にふと浮かんだ意味のない単語だそうで、楽曲中では女性名として使われています。強烈に耳に残るキャッチーさで、「スッスッスーディオ」って口ずさみたくなりますね。続く「Only You Know And I Know」も疾走感とグルーヴ感のある爽快な1曲です。ホーンとシンセが入り混じった派手なサウンドに、コリンズの親しみやすい歌声でのポップなメロディ。これもキャッチーで良い楽曲です。「Long Long Way To Go」はしっとりとした雰囲気。少しひんやりとした神秘的なサウンドをバックに、ゆったりとした歌を聴かせます。一転して「I Don’t Wanna Know」は目の覚めるような、キレのあるハードポップ曲。コリンズの力強いドラムや、ダリル・ステューマーのギター/キーボードが映えます。「One More Night」は囁くような優しい歌声のメロディアスな楽曲。ひたすら「one more night」を連呼するためやや冗長に感じますが、終盤のドン・マイリックによるサックスは惚れ惚れします。「Don’t Lose My Number」はゲートリバーブを用いたドラムが疾走感を生み出します。リズミカルで気持ち良いです。「Who Said I Would」もアップテンポの楽曲で、勢いに満ちています。電子ドラムに派手なシンセ、更にアース・ウィンド・アンド・ファイアーのホーンセクションも起用してキャッチーさ全開。1980年代という時代を感じさせる華やかな1曲です。「Doesn’t Anybody Stay Together Anymore」はダイナミックなドラムが印象的。ドラムで聴かせる、ドラマーとしてのコリンズの魅力を発揮しています。続く「Inside Out」は、ゆったりとしてメロディアスな歌を聴かせます。演奏は強弱かなりメリハリつけており、力強い演奏でハッとさせたかと思えば、静かに歌を引き立てたり。「Take Me Home」もメロディアスで、キャッチーなサビメロは耳に残ります。後半に向け徐々に盛り上がる展開も良い感じ。バックの演奏、特にドラムも聴きごたえがあります。「We Said Hello Goodbye」はストリングスのイントロの後、ピアノ伴奏でしっとりとした歌が始まります。そして後半に向け盛り上げていきますが、王道の展開ながらぐっと来るんです。メロディアスな名曲です。
冒頭の「Sussudio」をはじめ、高水準のポップな名曲の数々。キャッチーで聴きやすい名盤です。フィル・コリンズの入門盤にどうぞ。
1989年 4thアルバム
小柄で禿げてるけど、ひょうきんなエンターテイナー、フィル・コリンズ。そんな彼の顔写真アップのジャケットの中では割とキマっている1枚だと思いますが如何でしょうか。笑 2016年リマスターではジャケ写を撮り直したこともあって、だいぶ老けたけど渋みのあるジャケになっている気がします。
本作もコリンズとヒュー・パジャムの共同プロデュース。こちらも大ヒットし、特に本国の英国においては本作が最大のヒット作となりました。社会的なメッセージを込めた楽曲が収められているのが特徴だそうです。
オープニング曲「Hang In Long Enough」は、目の覚めるような華やかなホーンが鮮烈。これまでの作品同様にフェニックス・ホーンズを起用しています。そして、コリンズによるパンチの効いたドラムとシャウト気味の歌、ダリル・ステューマーのギターが、程よくハードに仕上げます。ノリが良くて爽快です。「That’s Just The Way It Is」は北アイルランド紛争を歌った反戦バラード。穏やかでメロディアスな印象です。デヴィッド・クロスビーをゲストボーカルに起用しています。「Do You Remember?」もメロウでじっくり聴かせる1曲。ゆったりとしていて癒されます。続く「Something Happened On The Way To Heaven」は少し緊迫感のあるホーンで始まります。ポップだけど少し憂いのあるメロディライン、コーラスやホーンセクションによる華やかな演出、そしてノリの良いリズム隊。キャッチーな名曲です。「Colours」は南アフリカのアパルトヘイト政策について歌った、9分に及ぶ大作。メロウなバラードで始まったかと思えば、アフリカ音楽のようなパーカッションを挟んで、華やかでグルーヴ感のあるキャッチーな1曲に変わります。でも全体にうっすらと哀愁を感じさせます。「I Wish It Would Rain Down」はエリック・クラプトンがギターで参加しています。イントロの歌うようなギターは強い存在感があって流石。感情たっぷりのコリンズの歌もドラマチックです。そして大ヒット曲「Another Day In Paradise」。優しくメロディアスな1曲。でも穏やかな歌に反して、ホームレスという社会問題に切り込んだシリアスな歌詞です。道端で懇願するホームレスの女を無視した男に対して「今はパラダイスにいる君も僕も、そうでない日があるかも(自分がそうなるかもしれないよ)」と、その姿勢について諭すかのようです。続く「Heat On The Street」はノリの良いポップな1曲。コーラス隊のハミングが心地良いですね。「All Of My Life」は色気のあるサックスを中心としたジャジーな雰囲気で始まります。しかしハモンドオルガンやメロウなギターが主導するオールドロック的な一面も見せます。渋味のある1曲ですね。続いてインストゥルメンタル「Saturday Night And Sunday Morning」。1分半の短い演奏ですが、ホーンセクションとパーカッションがスリリングな演奏を披露します。「Father To Son」はメロウな1曲。囁くような優しい歌声でゆったりとした歌を聴かせます。そして「Find A Way To My Heart」は程よい哀愁を感じさせつつも、明るく爽やかにアルバムの最後を締め括ります。
AORにシフトした1枚で、前作のような底抜けの明るさは少し落ち着き、円熟味が大きく増した印象です。まったりと聴かせる楽曲が多く、BGMとしても適しています。
関連アーティスト
フィル・コリンズのバンド活動。ドラマーとして、ピーター・ガブリエル脱退後の2代目ボーカリストとして活躍。
フィル・コリンズの参加したフュージョンバンド。
ジェネシスのバンド仲間達。
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