🇬🇧 Peter Gabriel (ピーター・ガブリエル)

レビュー作品数: 5
  

ジェネシス&メンバーソロ紹介動画

動画にまとめていますので、ぜひご視聴ください!

 
 

スタジオ盤

Peter Gabriel (ピーター・ガブリエル I)

1977年 1stアルバム

 ピーター・ガブリエル。本名ピーター・ブライアン・ガブリエル、1950年2月13日生まれ。英国のプログレッシヴロックバンド、ジェネシスの初代ボーカリストです。プログレ畑出身ですが、新しいものへ意欲的に取り組み、その姿勢というか感性はどちらかというとニューウェイヴ的です。そのためポストパンク/ニューウェイヴに位置づけました。
 本作はジェネシス脱退後のソロ1作目で、パンク全盛期にリリースされたプログレ作品です。この時点ではまだオールドウェイヴ側ですね。アリス・クーパーや、キッス『地獄の軍団』、ルー・リード『ベルリン』等の名盤を手掛けた名プロデューサー、ボブ・エズリンのプロデュース作です。サポートミュージシャンにはキング・クリムゾンのロバート・フリップやトニー・レヴィンらが名を連ねます。

 「Moribund The Burgermeister」はヘンテコポップな楽曲に、サビを飾る壮大な演出。「Solsbury Hill」は牧歌的な楽曲です。アウトロの混沌さにジェネシス時代を想起させますが、毒気は少なくてシンプルに良い曲です。「Modern Love」はパワフルな歌唱を見せますが、キャッチーなメロディラインと明るい雰囲気で、楽しい気分にさせてくれます。「Excuse Me」は寓話的な雰囲気があって、ジェネシス時代を感じさせる1曲です。「Waiting For The Big One」は7分超の楽曲です。軽やかなピアノを中心としたジャズ風の演奏は、大人びた雰囲気を感じます。終盤をリードするギターの音色も哀愁があって良い感じ。そして余韻に浸る間もなく、オーケストラを採用した派手なイントロの「Down The Dolce Vita」に驚かされます。神秘的なイントロから、徐々に盛り上がる「Here Comes The Flood」はサビで哀愁を纏いながら力強い歌唱。メロディが良く、名曲だと思います。

 比較的地味な印象を持ちますが、佳曲が揃います。
 なお本作は通称『Peter Gabriel 1』または『Car』と呼ばれています。なぜ通称が付いているかというと、邦題では『ピーター・ガブリエル I』から『ピーター・ガブリエル IV』と連番が振っていますが、原題は1stから4thまでが全て『Peter Gabriel』と同じ。だから区別するために、それぞれに通称がついています。

Peter Gabriel 1: Car (Remastered)
Peter Gabriel
 
Peter Gabriel (ピーターガブリエル II)

1978年 2ndアルバム

 邦題は連番が振っていて分かりやすいのですが、原題は『Peter Gabriel』のタイトルで前作と同じなので、通称『Peter Gabriel 2』または『Scratch』と呼ばれています。
 本作はキング・クリムゾンのロバート・フリップがプロデュースしました。前作に引き続きロバート・フリップやトニー・レヴィンらがサポートメンバーを務めています。前作がややオーバープロデュース気味だった反動もあるのか、本作の出来としては地味な印象は否めません。

 オープニングを飾る「On The Air」は明るくてアグレッシブ。煌びやかなキーボードが明るい雰囲気を作ります。ギターやベースがヘヴィでカッコいいです。続いて、変拍子が用いられて奇妙な感覚を生む「D.I.Y.」にキャッチーさを見出せます。また「White Shadow」が良い感じ。シンセサイザーが浮遊感のあるサウンドを作り出していて心地よい。また、終盤のロバート・フリップのエレキギターが哀愁を漂わせています。華やかというほどではないものの地味な本作の中では光ります。「Exposure」はガブリエルとロバート・フリップの共作で、フリップのソロでもバージョン違いを収録しているそうです。変な感じの楽曲ですが、良くも悪くもインパクトがあります。ただ全体的にはあまりパッとしない雰囲気で、その中で終盤に突如テンポを上げて疾走感のある「Perspective」が気持ちよい。グラムロック的な雰囲気も感じます。

 前作と違ってジェネシスの影は振り切ったようです。次作で名盤を作り上げますが、本作においてはまだ過渡期といった印象です。

Peter Gabriel 2: Scratch (Remastered)
Peter Gabriel
 
Peter Gabriel (ピーター・ガブリエル III)

1980年 3rdアルバム

 通称『Peter Gabriel 3』または『Melt』。溶けた顔のジャケットアートはデザイナー集団ヒプノシスによるものです。
 後にU2を有名にすることになるスティーヴ・リリーホワイトのプロデュース作。ゲストにはケイト・ブッシュや、キング・クリムゾンからロバート・フリップやトニー・レヴィン、古巣のジェネシスからはフィル・コリンズジャムからポール・ウェラー…等々が参加する豪華っぷりです。
 これまではオールドウェイヴというか時代を追いかける側でしたが、本作においてアフリカ音楽を大胆に取り入れ、一気に時代の最先端へ躍り出ました。

 オープニング曲「Intruder」から怪しさたっぷりです。イントロでの引っ掻くような音、ダークな雰囲気。そしてこの楽曲の革新的な部分は、イントロからなんだこれはと思わせるドラム音。1980年代の音楽ではよく耳にするドラム音ですが、「ゲートリバーブ」と呼ばれるエコー処理を施す手法です。フィル・コリンズとエンジニアのヒュー・パジャムによって作られ、スティーヴ・リリーホワイトと本作によってゲートリバーブは広められることになります。衝撃的な前曲に続く「No Self-Control」はアフリカ音楽を取り入れたプリミティブなパーカッションが強烈です。サックスによる短いインストゥルメンタル「Start」を挟んで、「I Don’t Remember」はロバート・フリップの影響か、サウンドが『ヒーローズ』の頃のデヴィッド・ボウイっぽい。キャッチーなメロディで耳に残ります。しっとりとした「Family Snapshot」はサックスが良い感じ。間髪入れず始まる「And Through The Wire」。前曲から繋がっているような印象を受けるこの楽曲はとてもキャッチーで聴きやすいです。ケイト・ブッシュの囁きが心地よい「Game Without Frontiers」、キャッチーな歌メロと疾走感のある演奏が爽快な「Not One Of Us」を挟んで、「Lead A Normal Life」。マリンバが民族音楽的な雰囲気を作り、ピアノが神秘的で美しい音色を奏でます。そして名曲「Biko」。アフリカ音楽に最接近した、部族的な音楽。でも歌メロはキャッチーさも持ち合わせています。南アフリカ共和国において、アパルトヘイト(白人至上主義の人種差別政策)に反対して立ち上がった若者スティーヴ・ビコ。彼は当局に捕らえられて拷問の末亡くなってしまいますが、「Biko」ではそんなビコの勇姿を称え「ロウソクの火を消せても大きくなった炎は消せない」と、人種差別政策を行う当局を批判しています。

 革新的なアプローチで、内容も面白い本作はポストパンクの名盤です。ピーター・ガブリエルの楽曲単体で見ると代表曲をいくつも有する『So』に負けますが、アルバム全体のクオリティの高さはこちらに軍配が上がります。最高傑作は本作も『So』も甲乙つけがたいです。

Peter Gabriel 3: Melt (Remastered)
Peter Gabriel
 
Peter Gabriel (ピーター・ガブリエル IV)

1982年 4thアルバム

 通称『Peter Gabriel 4』または『Security』。デヴィッド・ロードのプロデュース。
 ワールドミュージックへアプローチし、時代の最先端を進むピーター・ガブリエル。前作よりもポップさに振っていて、でも内省的な雰囲気も合わせ持っています。ポップ路線では次作で完成を見ますが、本作もなかなかクオリティが高いです。

 オープニング曲の「The Rhythm Of The Heat」はアフリカンビートを取り入れて、パーカッシブなサウンドを聴かせます。終盤で疾走してからの強烈なスリルがたまりません。続く「San Jacinto」は、シンセサイザーが静かで神秘的な雰囲気を醸し出します。中盤から終盤にかけては壮大な雰囲気。「I Have The Touch」はワールドミュージックの要素を取り入れたポップな楽曲です。古巣のジェネシスも後に似たようなサウンドの楽曲を出すことになるので、旧メンバーへも影響を与えたのでしょうか。「The Family And The Fishing Net」は全体的にダークな雰囲気を持ちながら、音色だけはピコピコと民族音楽的な楽しさを持っています。そして「Shock The Monkey」がキャッチーでなかなか楽しい。個人的には本作で最も好みな1曲です。ダンサブルなビートを利かせて、キャッチーなフレーズの反復。フワーンという音の演出も妙に耳に残るんですよね。続く「Lay Your Hands On Me」はタイトルの反復が耳に残るキャッチーさ。後半の、プリミティブでダイナミックなドラムに魅力を感じます。しっとりと聴かせる「Wallflower」のあと、底抜けに明るくポップな「Kiss Of Life」。加工されたドラムサウンドは、手数が多くてとても面白く、またキャッチーなシンセサイザーも魅力的です。

 ジェネシスもピーター・ガブリエルもそれぞれの道を歩んでしばらく経ちます。ジェネシス在籍時とは全く音楽性が変わってしまったのに、異なる道を辿ってポップ化したジェネシスと本作に所々似通っている部分があります。本作の制作にはジェネシスメンバーは関わっていないのに不思議。違う道を歩んでもメンバーの根底にある音楽センスが似てるのかな?などと嬉しく思います。

Peter Gabriel 4: Security (Remastered)
Peter Gabriel
 
So

1986年 5thアルバム

 ようやく『Peter Gabriel』のタイトルから脱したかと思えば『So』。レコード会社からの圧力でタイトルを付けたそうですが、「ドレミファソラシド」の「ソ」から取ったそうです。またタイトルだけでなく、ジャケットアートでは何かしら加工されてきたイケメン顔がようやく普通に拝めるようになったのも大きな変化でしょう。笑
 本作においては名曲「Sledgehummer」がシングル全米1位を獲得。面白いのが、古巣のジェネシスが「Invisible Touch」で初のシングル全米1位を取った翌週に、それを引きずり降ろしたのがこの「Sledgehummer」でした。ジェネシスというのは面白いバンドで、脱退して危機に陥るほど本家はヒットし、またソロ活動もヒットするという…。

 本作はピーター・ガブリエルとダニエル・ラノワの共同プロデュース。
 オープニングは「Red Rain」で開幕。陰鬱な雰囲気で、とてもメロディアス。癖の強かったガブリエルのボーカルも、この頃になるとかなり聴きやすい気がします。バックの演奏ではグルーヴィなベースがカッコいいですが、これはトニー・レヴィンによるもの。続いて「Sledgehammer」は本作のハイライト。いや、ガブリエルソロの最高傑作と言えるかもしれません。イントロの尺八の音色に「何だこれは?」と思わせますが、楽曲が始まるとノリの良いサウンドと、キャッチーな歌が惹きつけます。「(テッテー) スレーッジハマー!」と耳から離れません。「Don’t Give Up」ではケイト・ブッシュとデュエットを果たしています。彼女の囁くような歌声で「Don’t give up」と言われたら、諦めずに頑張りたくなりません?笑 ガブリエルよりもケイト・ブッシュの方が印象が強い1曲です。これら3曲が強烈に本作を牽引している印象です。
 「That Voice Again」「Mercy Street」はそこまで特筆すべきものを感じませんが、続く「Big Time」はキャッチーなサウンドが惹きつけます。ダンサブルで、コーラスもあって華やかな1980年代ポップを体現しています。「We Do What We’re Told (Milgram’s 37)」はこれまで追求してきたアフリカンなリズムを感じさせながら、暗くて重たい雰囲気の漂う1曲です。同じフレーズを反復する「This Is The Picture (Excellent Birds)」を挟んで、「In Your Eyes」はメロディアスな1曲です。ローリー・アンダーソンのコーラスに異国の風を感じながら、壮大な雰囲気。

 前衛的なアーティストから、ワールドミュージックを取り入れたポップミュージシャンに変わったことで受け入れられ、世界中で大ヒットしました。個人的にはオープニング3曲が非常に好みで、それ以降も良い曲はあるものの多少落差も感じていたり。
 癖の強いピーター・ガブリエルの作品群では取っつきやすい作品ですので、まずは本作を入門にどうぞ。

So: 25th Anniversary Edition (Remastered)
Peter Gabriel
 
 

関連アーティスト

 古巣のプログレバンド。初代ボーカリストとしてカリスマ的な人気を誇りました。

 
 ジェネシスのバンド仲間達。
 
 ロバート・フリップやトニー・レヴィンが初期作品のプロデュースやサポートメンバーとして関わりました。
 
 「Don’t Give Up」ではデュエットを披露。
 
 
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