🇬🇧 Yes (イエス)

ライブ盤①

Yessongs (イエスソングス)

1973年

 リリース当初はレコード3枚組という、当時にしては大ボリュームのライブ盤でした。全13曲、約2時間の長編ライブは今ですらなかなかのボリュームですが、ライブバンドとしても実力のあったイエスだからこそできた業かもしれません。
 本作は1972年に録音されたもので、一部楽曲でビル・ブラッフォードがドラムを叩いていますが、ビルが脱退してアラン・ホワイトに交代した直後のライブからの選曲が大半です。正直なところ、アランは加入直後のためドラムがこなれておらず(なんでも加入後1週間程度でツアーに駆り出されたとか)、この時点では面白味が少ないのと、他のメンバーの演奏も結構粗削りな印象を受けます。音質もそこまで良くないですしね。後年の円熟味のある完成度の高いライブを聴いてしまうとそれと比べて粗いので、個人的にはベストライブ盤には挙げられませんが、当時としてはきっと鮮烈なライブ盤だったに違いありません。3枚組という高額だったのにもかかわらずかなり売れたそうで、当時のイエス人気が窺えます。
 
 
 ストラヴィンスキーの「火の鳥」から流れ込むように始まる「Siberian Khatru」はイエスライブ定番のオープニング。このアップテンポな楽曲は本当に名曲だと思います。ジョン・アンダーソンの脳天気な歌が、リズミカルでノリの良い演奏と合わせて明るい気分にさせてくれます。スティーヴ・ハウのギターは少し荒っぽいですね。続くヘヴィな「Heart Of The Sunrise」もカッコいいですね。切れ味抜群な演奏で疾走するイントロに圧倒され、静かなパートではゴリゴリとしたクリス・スクワイアのベースが際立ちます。緩急が交互に訪れるスリリングな構成は鳥肌ものですね。「Perpetual Change」はビルがドラムを叩いています。構成力の高い楽曲ということもありますが、変化に富んだドラムで楽しいんですよね。終盤ではドラムソロも披露してくれます。牧歌的な「And You And I」はアコースティック色を消していますが、美しいハーモニーとコーラスワークを聴かせ、ゆったりと癒してくれます。ここからはメンバーソロコーナーで、まずはスティーヴのアコギソロ「mood For A Day」。穏やかで憂いのあるメロディが心地良い。続いてリック・ウェイクマンによる「Excerpts from ‘The Six Wives of Henry VIII’」。リック自身のソロアルバム『ヘンリー八世の六人の妻』からのメドレーで、いくつかの鍵盤を使い分けつつ、手癖でピロピロ鳴らして派手なパフォーマンス。そしてバンド演奏に戻して、代表曲「Roundabout」。アンコールでのラストの定番ですが、本作ではレコードの収録時間の関係もあってか、中盤に位置しています(CDだとDisc1のラストではありますが)。キャッチーで、ドライブ感があって魅力的な楽曲です。

 CDでいうDisc2は「I’ve Seen All Good People」で開幕。アコースティックで牧歌的な前半を終えると、後半は陽気でノリノリなロックンロール。程よくハードな演奏に、口ずさみたくなるようなキャッチーな歌で楽しませてくれます。続く「Long Distance Runaround/The Fish」はビルがドラムを担当。トリッキーで手数の多いドラムを聴くことができます。また後半パートはクリスのベースが主役で、ゴリゴリと硬質な演奏がとてもカッコ良い。クリスとビルのコンビネーションというか演奏バトルが、楽器は少ないのにスリルを生み出してくれるんです。そして大作「Close To The Edge」は、テープの切り貼りで生み出された奇跡的なスタジオ録音をメンバーが耳コピして(メンバーの多くが楽譜を読めなかったそうてす)、ライブで再現してしまうんだから大したものです。とはいえ13分半からの一番スリリングなパートが雑然とした感がありますが…。このライブではアランが叩いていますが「ビルが叩くClose To The Edgeのライブがどうしても聴きたい!」という方は、約20年後にリリースされるアンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウのライブ盤『イエス・ミュージックの夜』がおすすめです。続いて、観客もノリノリの「Yours Is No Disgrace」。軽快なピアノと、手拍子したくなるようなリズミカルなドラムが爽快。ドライブ感に満ちていて明るく爽やかですが、中盤は即興も兼ねて少し緊迫した雰囲気に。スリリングで楽しい楽曲ですね。ラストを締め括るのは「Starship Trooper」で、ライブ定番のラスト曲となります。3部から成る組曲で、序盤は爽快でキャッチーなメロディが魅力。中盤はカントリーっぽい陽気な曲調で、終盤はひたすら同じフレーズを反復するものの、ぐいぐいと突き進んで移り変わる景色を眺めているような感覚。幻想的な世界を見せてライブを終えるのでした。
 
 
 『イエス・サード・アルバム』、『こわれもの』、『危機』からの選曲ですが、大半の曲が何十年経っても定番曲として奏でられます。そのため、こなれた演奏を聴ける後期のライブ盤でカバーできるじゃん!というのが持論です。ただし若かりしイエスメンバーの、粗いながら勢いある演奏を聴ける作品で、後年のライブと比較さえしなければ単体でもレベルの高い作品ですので、聴いてみても楽しいかと思います。

Yessongs
Yes
 
Yesshows (イエスショウズ)

1980年

 ライブアルバム第二弾で、2枚組作品。クリス・スクワイアによる選曲・ミックスで、録音時期はリレイヤー期~トーマトツアーからの選曲です。『イエスソングス』と重複しないような選曲になっており、重複を避けたことで定番曲の多くが外れることになりました。そのため選曲面では他のライブ盤に若干見劣りするものの、他のライブ盤ではあまり聴けない「The Gates of Delirium」と「Ritual」という2つの大曲がとても魅力的です。
 
 
 定番のストラヴィンスキー「火の鳥」の引用から始まるオープニング曲は「Parallels」となっていますが、クリス選曲ライブの1曲目がこれなのはクリス作の楽曲だからでしょうか。同様にクリスの弾くベースの音量も大きめなミックスとなっています。笑 リック・ウェイクマンの華やかなチャーチオルガンが終始鳴り響き、負けじとスティーヴ・ハウのギターも主張、スリリングな演奏バトルが繰り広げられます。キャッチーな歌メロも良いですね。「Time And A Word」は初期の名曲。メロディアスな歌がとても魅力的な楽曲で、ゆったりと浸らせてくれます。そのまま「Going For The One」へメドレーのように繋がるのですが、繋ぎ方が妙に不自然。これの答えは『ライヴ・イヤーズ』を聴くとよくわかるんですが、メドレーで本来別の曲に繋がるところ、繋ぎ先を強引に「Going For The One」に変えてるんですね。ノリノリのロックンロールで、スティーヴのご機嫌なギターがワクワクした気分にさせてくれます。イエスの楽曲でもキーの高さは屈指ですが、ジョン・アンダーソンはハイトーンボイスで見事歌いきります。そして本作の目玉である「The Gates Of Delirium」。20分を超えるこの複雑な大作をライブで難なく再現する演奏力は流石で、更にスタジオ盤を上回る非常にスリリングな演奏を聴くことができます。序盤から切れ味抜群で、気迫に満ちた演奏と歌で圧倒。そして一番の聴きどころは、8分前後のジョンの号令から始まる混沌とした演奏バトル。パトリック・モラーツのキーボードとスティーヴのギターが主導権を奪い合い、特にギターはカミソリのようにキレッキレ。クリスもゴリゴリとしたベースで暴れ回っています。アラン・ホワイトのドラムだけが、力強くも安定したリズムで支えています。そして16分過ぎからの美しいパート「Soon」。スティールギターの音色とジョンの歌声は極上の癒やしを与えてくれます。少しだけ音質が悪いですが…。

 2枚目の始まりは「Don’t Kills The Whale」で、キャッチーなメロディを奏でます。ムーグシンセのキャッチーな音色と、力強くリズミカルなドラムが印象的ですね。ベースもぐわんぐわん暴れ回っています。そのまま即興演奏を始めて盛り上がったところで、本ライブ盤もうひとつの大曲「Ritual」に繋ぎます。こちらも本作の聴き所でしょう。他の楽曲同様にベースがかなり強調されたミックスとなっていて(ていうか爆音ベースに圧倒されます)、スタジオ録音と比べるとヘヴィさとスピード感を増して非常にスリリング。メロディアスな歌はしっとり聴かせるのですが、演奏は白熱していてとてもカッコ良く、スタジオ盤で退屈だと感じた人にもこちらはオススメできますね。なお30分近く渡る楽曲はレコード時代は片面に収まらず、前後編で2分割されています。原曲より速いのに原曲より長尺の演奏には即興も含まれており、クリスが吠えていますね。最後は大歓声で、実際のライブではラスト曲だったんでしょうか?そしてラストは「Wonderous Stories」は締めには弱いかもしれませんが、キャッチーで聴きやすい楽曲です。煌びやかなシンセとポップなメロディが魅力的。そして大音量ベースが唸ります。笑
 
 
 本作の目玉「The Gates of Delirium」と「Ritual」が素晴らしいです。また他のライブ盤が2時間前後の作品が多い中で本作は約80分と比較的コンパクト。個人的には割と好みのライブ盤です。

Yesshows
Yes
 
Something's Coming: The BBC Recordings 1969–1970 (BBCセッション1969~1970 サムシングス・カミング)

1997年

 イエスのオリジナルメンバーによる、最初期のライブ音源を纏めたライブ盤です。タイトルに銘打っているようにBBCラジオ向けの音源ですが、音質はあまり良くないし、観客の歓声や拍手もなくて(楽曲によっては疎らにありますが)臨場感に乏しい印象です。ちなみに元メンバーのピーター・バンクス(Gt)が選曲やライナーノーツに関わっているみたいですね。メンバーラインナップはピーターをはじめ、ジョン・アンダーソン(Vo)、クリス・スクワイア(B)、トニー・ケイ(Key)、ビル・ブラッフォード(Dr)。
 ちなみにジャケットは複数種類あるうえに、曲順や曲目も微妙に異なるのだとか…とても紛らわしい…。
 
 
 映画『ウエストサイドストーリー』挿入歌のカバー「Something’s Coming」で幕開け。トニーのヘヴィなオルガンと、ビルのスリリングなドラムで始まります。音質の悪さに加えて演奏もハードで荒っぽいですが、ジョンの歌とクリスのコーラスワークはキャッチーです。続いてバッファロー・スプリングフィールドのカバー「Everydays」。静かな演奏の中でハモンドオルガンが響き渡りますが、中盤ハードな演奏を見せるそのギャップがスリリングですね。破壊力のあるドラムに、ピーターのギターもハードな印象です。「Sweetness」はメロディアスな歌もの。ジョンの歌声は優しくて癒されますね。「Dear Father」はイントロから唸るベースがカッコ良い。メロディアスなコーラスワークも美しいのですが、音が割れまくる音質の悪さが残念です。続く「Every Little Thing」ビートルズのカバー。イントロからスリリングな演奏バトルを展開します。キャッチーな歌メロはビートルズの賜物ですが、原曲より数段魅力的な良カバーですね。本作のこれまでの楽曲と比べても一際輝いています。但し音質はイマイチ…。私の手持ちのCDだと「Something’s Coming」の別テイクが続きます。イントロのドラムソロはじめ演奏のキレが増していて、音質も多少マシになっています。こちらの方が1曲目のテイクよりも魅力的です。続いてナレーターによる楽曲紹介を挟んで始まる「Sweet Dreams」。キャッチーなメロディが魅力の、初期の名曲ですね。ハードな演奏も良いですが、やはりポップな歌メロに意識が向きます。「(Intro) Sweetness」は1分ほど楽曲の解説が続き、そこからゆったりと牧歌的な歌が始まります。やはり音の悪さが残念。「Looking Around」はノリノリで軽快な楽曲です。比較的音の分離が良く、メンバーそれぞれのキレのある演奏を楽しめる好演でしょう。

 Disc2は、楽曲紹介と観客の拍手から「Astral Traveller」が始まります。緊迫感に溢れた演奏は中々スリリングです。「Then」もシリアスで緊迫した空気に満ちていますが、サビでは明るい側面も見せます。間奏も中々良いのですが、音質の悪さゆえにガチャガチャした感じもします。「Every Little Thing」はDisc1のそれとは別テイク。スリリングなドラムで幕を開け、激しい演奏バトルを展開。音量のバランス的には歌よりも演奏の方が目立っている印象です。「Everydays」の別テイク。静と動のメリハリが強烈に効いていて、スリリングな演奏を展開します。「For Everyone」は高揚感を煽る程よくハードな演奏。明るい歌メロはよく聞くと「Starship Trooper」の中間パートのメロディで、これを練り上げたのが件の名曲なんですね。「Sweet Dreams」「Then」の別テイクをそれぞれ演奏した後は「No Opportunity Necessary, No Experience Needed」。原曲はオーケストラを大胆に導入していますが、こちらではオーケストラのない骨太なバンド演奏を展開。音が悪いのは残念ですが、ゴリゴリとしてハードな質感のカッコ良い演奏で、本ライブにおける意外な収穫だと思います。最後の「Beyond & Before」はジョンとクリスの美しいコーラスワークの聴ける牧歌的な1曲。まったりとしていますが演奏はハードで、メリハリがあります。
 
 
 ライブといいつつ臨場感に乏しいし音質は良くなく、個人的にはほとんど聴きません。但し普段の定番には入らない最初期の楽曲の中には、意外と面白いものもあったり。マニア向けの作品ではないでしょうか。

Something’s Coming: The BBC Recordings 1969–1970
Yes
 
House Of Yes: Live From House Of Blues (ハウス・オブ・イエス)

2000年

 近年の傑作名盤『ラダー』を引っさげたツアーのライブ盤で、ライブハウス「ハウス・オブ・ブルース」での公演を収めています。「Siberian Khatru」や「Starship Trooper」など定番曲の一部を外した選曲ですが、『ラダー』に名曲が多いので、かなり魅力的で楽しめるんですよね。
 メンバーラインナップはジョン・アンダーソン(Vo)、スティーヴ・ハウ(Gt)、クリス・スクワイア(B)、アラン・ホワイト(Dr)、ビリー・シャーウッド(Gt)、イゴール・コロシェフ(Key)。結構このメンバーは魅力的な演奏をしてくれるのですが、『ラダー』と本作でしか聴けないのが少し残念です。
 
 
 歓声とともに「Yours Is No Disgrace」で幕開け。少しゆっくりめの円熟味のある演奏ですが、締めるところは締めてスリリングですし、決して悪くありません。メンバーのコーラスを駆使したキャッチーな歌メロやスティーヴのギターもご機嫌で良いですね。そしてイゴールのキーボードが良い味を出していて、リック・ウェイクマンほどクセが強くなく、しかし華やかな音色で彩ります。この後クビになるのが勿体ないくらいで、他メンバーとも相性の良いプレイヤーだと思うんです。続いて「Time And A Word」はジョンの歌とピアノだけのシンプルなアレンジ。1番だけで僅か1分で終わってしまいますが、メロディアスで胸に響きます。「Homeworld (The Ladder)」は『ラダー』の名オープニング。神秘的で雄大、でもリズム隊はしっかりと引き締めています。そして開放的で上昇していくかのような感覚を与えてくれるサビメロの美しさに心を奪われるんです。往年の名曲のように、スケール感があってかつ複雑な展開もあり、演奏面でも大いに楽しませてくれます。終わった後の歓声やトークの距離感が近くて、臨場感があります。「Perpetual Change」はちょっとゆったりめで、キャッチーな歌メロを楽しませます。イゴールのピアノ装飾がさり気なくも良い味付けです。中盤の加速パートは程よくスリリングな印象。そして「Lightning Strikes」は『ラダー』の中でも飛び抜けてキャッチーな名曲。小気味良いアコギと軽快な歌で始まり、ノリノリのリズム隊と華やかなシンセが加わるととても楽しい気分になります。口ずさみたくなるようなポップなメロディも魅力的ですね。「The Messenger」はワールドミュージックの要素を取り入れた楽曲。メロディは若干弱いですが、リズミカルな演奏に心地良く揺られます。僅か1分ほどの「Ritual (Nous Sommes Du Soleil)」は、大曲からメロディアスな歌メロパートだけをフィーチャー。落ち着いた歌を聞かせた後は、定番曲「And You And I」。アコギの心地良い音色と牧歌的なメロディでのどかな雰囲気ですね。後半、手拍子が加わるくらい軽快になりますが、牧歌的な雰囲気は崩さずに終始癒してくれます。

 ここからDisc2、ライブ後半に突入。「It Will Be A Good Day (The River)」は幽玄で大自然をイメージする優しい楽曲です。小気味良いリズムとメロディアスな歌がとても心地良い空間を演出してくれます。続いて軽快な名曲「Face To Face」。キレのある爽快な演奏で自然と身体がリズムに乗り、またキャッチーなメロディは思わず口ずさみたくなります。魅力的なポップ曲です。そして本作随一の大曲「Awaken」。天の声のようなジョンの美しい歌声から、厳かで緊張感のある演奏で気持ちを徐々に高ぶらせます。また全編通してピアノやオルガンが魅力的な楽曲ですが、イゴールが見事リックの代わりを務め、時に華やかに、時に神聖な雰囲気で楽曲を魅力的に飾り立てます。涙が出るほど美しい演奏と歌メロ、そして終盤の多幸感のある演出はまるで天国のよう。聴き終えた後の余韻も含めて至福の名曲です。「I’ve Seen All Good People」はキャッチーな歌メロが魅力の定番曲ですね。前半はアコギの美しい音色と心地良い手拍子に乗せて、牧歌的な歌でまったり。後半はテンポアップしてノリノリのロックンロールになり、キャッチーな歌で楽しませます。歌が終わると観客からの強烈なイエスコール。「Cinema」は約2分のインストゥルメンタルで、華やかで煌びやかな印象。そのまま続く「Owner Of A Lonely Heart」はハードポップ時代の名曲ですね。ソリッドなギターを聞かせますが、若干丸くなった感じ。とはいえ抜群にキャッチーな歌メロは健在です。最後にプログレ時代指折りの名曲「Roundabout」。ハードでノリノリな演奏で、クリスのゴリゴリベースも絶好調。キャッチーなメロディも魅力で、やはりイエスのライブの締めはこの楽曲ですね。
 
 
 比較的まったりムードのアットホームな雰囲気で、スリルよりも多幸感を重視した演奏と、ポップでメロディアスな歌が中心です。往年の名曲と並べても違和感のない『ラダー』の名曲群を堪能できます。

House Of Yes: Live From House Of Blues
Yes