🇬🇧 Yes (イエス)

スタジオ盤②

プログレ混迷期~解散

Tormato (トーマト)

1978年 9thアルバム

 前作と同じメンバーで、セルフプロデュース、そしてジャケットアートもヒプノシス…と前作を継承した制作。「tor(岩山)」と「tomato」をもじった造語『トーマト』と、トマトをぶちまけたジャケットにやっつけ仕事のような感じもしますが。ロンドンでパンクの嵐が吹き荒れた1977年~1978年、往年のプログレバンドは「オールドウェイヴ」として攻撃対象となってしまい軒並み苦戦する状況で、イエスも大作を捨てて小品で勝負せざるを得なくなりました。そうした理由でリアルタイムではネガティブな評価も多かったようです(ポップ化したことでアメリカでは売れたようですが)。意外と小品の中にきらりと光る良曲が多く、後追いの観点で聴いたときにはポップな楽曲の多さもあって、個人的には聴く回数も比較的多いです。ただメンバー仲は既に険悪になっていたようで、10周年の大々的なツアーを敢行しますが、その後ジョン・アンダーソンとリック・ウェイクマンの脱退という危機的状況に陥ってしまいます。

 オープニング曲は「Future Times/ Rejoice」。変則的なリズムを刻むイントロ。その後は行進するかのようなアラン・ホワイトのドラムに乗せて陽気な歌が始まります。でも演奏は緊張感に満ちている感じ。轟くという言葉が合いそうなクリス・スクワイアのベースも強烈。続く「Don’t Kill The Whale」はキャッチーさで目を引きますが、文字どおり捕鯨に反対するメッセージソングです。クジラの鳴き声のようなポリムーグの表現が見事です。リアルタイムで聴いていたであろう世代からの評判は良くないみたいですが、シリアスさとキャッチーさが良い具合にミックスされた名曲だと思います。中世のような雰囲気漂う美しい小曲「Madrigal」を挟んで、ハードロックテイストな1曲「Release, Release」。影のある攻撃的な雰囲気はパンクの台頭に影響を受けているのでしょうか?緊迫感のある1曲ですが、終盤は明るい雰囲気で締めます。やっぱり根はポジティブなバンドなんだと思います。
 アルバム後半の幕開けは「Arriving UFO」。UFOというテーマは、この時代の流行だったようです。歌メロパートは弱いのですが、間奏のキーボードや、宇宙人語のようなギターが面白い。終盤のリズム隊のヘヴィさも中々スリリングです。続く「Circus Of Heaven」はジョンの歌をフィーチャーしたメロディアスな楽曲です。終盤にはジョンの幼い息子もゲスト参加。「Onward」は美しいバラードで、最近のライブでも披露されることが多い楽曲です。ジョンの歌声とクリスのコーラスをフィーチャーし、ミニマルに刻むギターは自己主張を控え、バックをオーケストレーションが彩ります。ラスト曲「On The Silent Wings Of Freedom」はベースが主軸となる楽曲で、クリス節全開です。前半はインストゥルメンタルで、後半に歌メロを含むものの、疾走感のあるスリリングなリズム隊を楽しむ楽曲ではないかと思います。

 ジョンの歌声はどんどんと若返っていき、少年のような声です。ポップな楽曲とマッチして聴きやすい作品となりました。強烈な1曲には欠くものの、ポップな佳曲が揃った良作です。

Tormato (Expanded & Remastered)
Yes
 
Drama (ドラマ)

1980年 10thアルバム

 前作『トーマト』の制作においてメンバー仲が険悪になり、リック・ウェイクマンの二度目の脱退、そしてフロントマンのジョン・アンダーソンの脱退というバンド存続の危機を迎えたイエス。クリス・スクワイアによる妙案で、新進気鋭のユニットバグルスを吸収合併するという奇策に出ました。まさにタイトルが示すように「ドラマ」のような出来事ですね。2作ぶりとなるロジャー・ディーンのジャケットアートも、過去の栄光を取り戻そうという気概を感じます。前作同様イエスのセルフプロデュース作。
 トレヴァー・ホーンをボーカルに、ジェフ・ダウンズをキーボードに迎えて制作された本作は、バグルスのもつテクノポップ要素をうまく取り入れて名盤に仕上がっています。しかしフロントマン交代に批判的な反応も多く、ライブではトレヴァー・ホーンはかなり冷たく迎え入れられたようです。

 オープニング曲は10分半に渡る「Machine Messiah」スティーヴ・ハウのギターとクリスのベースはヘヴィメタルのような鈍重なリフを奏で、アラン・ホワイトの叩くドラムも重たい。そんなヘヴィなイントロから一転、ジェフの華やかなキーボードやトレヴァーの歌でキャッチーなテクノサウンドが展開されます。ジョンそっくりに歌うトレヴァーのボーカルは全く違和感なく聴けます。ヘヴィさとキャッチーさが入り乱れ、また変拍子や頻繁な場面転換など、ドラマチックにその表情を変える名曲です。1分強の小曲「White Car」を挟んで始まる「Does It Really Happen?」は、ポップな歌メロと対照的な、メタリックなベースがあまりに強烈な存在感を放つ1曲です。イエスの楽曲を、バグルス流テクノサウンドで味付けしたかのようです。ラストはベースとドラムのリズム隊が絶好調。
 レコードでいうB面、アルバム後半は「Into The Lens」で始まります。バグルス色の強い1曲で、歌い出したくなるキャッチーなメロディと頭に残る「I am a camera, camera, camera」なんて強烈なフレーズ。でも特別変なわけではなく、思えばジョンも「Arriving UFO」とかSFだのファンタジーだのを歌っていたので同じような感じなんですよね。強烈な歌メロがインパクト大ですが、演奏に耳を傾けると演奏陣も非常にスリリングな演奏を展開しています。何気に8分半もあって、そんなに長い曲だったのかとビックリです。トレヴァーの伸びやかなボーカルが印象的な「Run Through The Light」を挟んで続くのは、本作の目玉「Tempus Fugit」。この「Tempus Fugit」がイエスで五本の指に入る超名曲で、正直これだけのためにも聴く価値があります。5分半の軽快な疾走曲で、ドライブ感抜群で非常に爽快。そのなかにイエスの火を途絶えさせまいとする、クリス、スティーヴ、アランのとても強い想いを感じます。歌詞やコーラスの中で「Yes」と頻繁に出てくる点などにもその想いが表れており、イエスの新しい代表曲になりえた1曲です。しかしその思いも虚しく1981年にイエスは解散してしまいます(2年後に奇跡の復活を遂げますが)。

 ボーカルがジョンでないことで不当に低い評価をされる本作。またジョン復帰後はジョンが本作を嫌ったため、近年のジョン不在のライブまで、ほとんど演奏されることがありませんでした。しかし収録された楽曲のクオリティは高いので、聴かないのは勿体ないです。クリス、スティーヴ、アランの3人は危機的な状況下で、そして元バグルスのトレヴァーとジェフはベテランバンドの次なる一作という強烈なプレッシャーの下で、素晴らしい名盤をリリースしてくれたと思います。

Drama (Expanded & Remastered)
Yes
 

再始動~産業ロック期 (90125イエス)

90125 (ロンリー・ハート)

1983年 11thアルバム

 ドラマのツアー後、1981年にイエスは解散。その後スティーヴ・ハウエイジア結成で早々に非常に大きな成功を得ます。残ったメンバーのうちクリス・スクワイア(B)、アラン・ホワイト(Dr)は元レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジとのセッションを実施。「XYZ (ex Yes Zeppelin)」というバンド結成を進めていましたが断念し、その素材は後の『キーズ・トゥ・アセンション』などの試行錯誤のすえ、トニー・ケイ(Key)、そしてフロントマンにトレヴァー・ラビン(Vo/Gt)を据えた新バンド「Cinema (シネマ)」としてのプロジェクトを進めていました。しかし、出来上がったデモを「ジョンに歌わせたらどうか?」とクリスが発案。ジョン・アンダーソン(Vo)が呼び戻されて歌ってみたところ見事にマッチ。ジョンが復帰して旧イエスメンバーが4人揃ったことから、「トレヴァー・ラビンを新人として迎えた新生イエス」として売り出されることになってしまいました。トレヴァー・ラビンは不憫ですね…。

 多くの楽曲をトレヴァー・ラビンが作曲しており、イエスとは180度異なるキャッチーでソリッドなサウンド(いわゆる産業ロック的な音楽性)ですが、元々違うバンドとしてデビュー予定だったのだから致し方ありません。なお、もう一人のトレヴァーであるトレヴァー・ホーンが本作をプロデュース。『ドラマ』の後は裏方に篭ってしまいましたが、元々プロデューサー志向だったそうです。ちなみにトニーはレコーディングにほとんど参加しておらず、セッションミュージシャンのチャールズ・オリンズが大半のキーボードを弾いています。

 シングルカットされた「Owner Of The Lonely Heart」が大ヒット。イエスの楽曲で唯一全米1位を記録し、1980年代を代表する名曲となりました。イエスと言えばこの曲を思い浮かべる人も多いと思います。ソリッドなギターに、メロディアスなベース。キャッチーな歌メロはトレヴァー・ラビンの活躍あってですが、それを彩るコーラスワークの美しさはイエスらしさが残っています。続く「Hold On」はまったりとしたメロディアスな楽曲でジャーニーにも通じますが、さり気なく変拍子を混ぜ込んでいます。「It Can Happen」はシタールによってほんのりインド音楽風。コーラスが美しいです。続いて「Changes」はコーラスワークやポリリズム等にプログレ時代の面影を垣間見ることができる名曲です。イントロからトリッキーなリズムにワクワクします。歌メロも耳に残るんですよね。
 アルバム後半のオープニングを飾るのは「Cinema」。スリリングな演奏を繰り広げるインストゥルメンタルです。僅か2分で終わってしまうのが残念。続く「Leave It」はトレヴァー・ラビンが先導するアカペラが印象的な名曲。コーラスの美しさを前面に押し出したキャッチーな歌メロが魅力的で、口ずさみたくなります。爽やかな楽曲「Our Song」は、底抜けに明るいシンセの音色に時代を感じますが、ポジティブ全開です。「City Of Love」はアメリカハードロック的な1曲で、ヘヴィなサウンドと、コーラスワークに彩られたメロディアスな歌が展開されます。最後に「Hearts」で、ゆったりとしたリズムで穏やかな歌を奏でて終わります。

 これまでのイエスとは全く異なる音楽性ですが、バンド史上最大のヒット作でもありバンドの復帰作となりました。都会的で洗練されたハードポップ作品で完成度も非常に高いのですが、牧歌的で大仰な1970年代プログレ期イエスが好きな人には若干の抵抗感のある作品でもあります。イエスなんだけどイエスとは別物というか…。1980年代ハードポップ好きなら間違いなく好きになるでしょう。

90125 (Expanded & Remastered)
Yes
 
Big Generator (ビッグ・ジェネレイター)

1987年 12thアルバム

 前作のラインナップで制作された2作目です。トレヴァー・ホーンがプロデューサーから降りてトレヴァー・ラビンがプロデューサーを兼任するという交代劇もありました。また、制作された本作の内容に失望して、ジョン・アンダーソンが二度目の脱退。元イエスのメンバーに声をかけてバンドを結成しますが、イエスの命名権をクリス・スクワイアが持っていたため、イエスではなくアンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウを名乗って活動するというお家騒動に発展することになります。

 本作は「Rhythm Of Love」をはじめとして、ニューウェイヴ的なハードポップサウンド全開のアルバムです。プログレ時代イエスファンすらも納得させるくらい非常にレベルの高い仕上がりだった前作『ロンリー・ハート』。そんな前作と比べると楽曲の出来も弱い…というのが第一印象で、個人的にずっと好きになれず敬遠していたのですが、レビューにあたり聴いてみると、所々にハッとするものは感じられました。
 なお、この路線の元凶をトレヴァー・ラビンに背負わせる風潮があるものの、本作でラビンが原曲として持ち込んだ楽曲は「Love Will Find A Way」の1曲だけで、この楽曲も本作のなかではかなりクオリティの高い1曲です。

 オープニング曲は「Rhythm Of Love」。ハードポップ全開で、コーラスワークが美しい。終盤のギターはとてもご機嫌です。でも、ありふれたこのタイトルを聞くと真っ先にスコーピオンズの楽曲の方が浮かぶんですよね…。続いて表題曲「Big Generator」。ハードなサウンドで、味付けは「Owner Of A Lonely Heart」にも似ていますが、メロディがそこまで強くないのが残念。ゆったりとした雰囲気の「Shoot High Aim Low」は比較的地味なものの、メロディはなんとなく耳に残ります。「Almost Like Love」はアラン・ホワイトの力強くも軽快なドラムで幕開け。アップテンポのリズムに乗せて、ジョン・アンダーソンのポップな歌メロが心地良く、前半の楽曲では最も好みの1曲です。
 アルバム後半は「Love Will Find A Way」で幕開け。ストリングスに始まり、メロディアスな演奏です。程よく哀愁の漂うポップなメロディは聴きやすいです。「Final Eyes」は序盤がアコースティック主体で、中盤から音色は華やかになっていきます。ただ全体的には牧歌的な雰囲気でほのぼのとしており、往年のイエスを思わせます。「I’m Running」は7分半の、本作では最も長い1曲。クリスのベースから始まり、トロピカルな雰囲気に。疾走したりリズムチェンジを駆使したりと場面転換があまりに忙しく、非常にスリリングな1曲で、本作では最も魅力的です。所々にポリスのような雰囲気も感じます。最後はジョンの歌をフィーチャーした「Holy Lamb (Song For Harmonic Convergence)」でアルバムを終えます。

 ソリッドなギターや美しいコーラスワーク、強調されたドラムなど『ロンリー・ハート』路線を継承しつつも、『ロンリー・ハート』のように強烈な楽曲がないです。どちらかというと聴けば聴くほど味わいが出るスルメ的な感じでしょうか。サウンドに敬遠してほとんど聴かず、全くフックがない作品だと勝手に思っていましたが、メロディは所々に魅力的なものが散りばめられている気もします。

Big Generator
Yes
 
Union (結晶)

1991年 13thアルバム

 残念ながらイエス3大駄盤の一つだと思っています。断片的にはポップな楽曲が並ぶものの纏まりに欠け、所々に良い曲があるのに方向性がバラバラなため、通しで聴くのはかなりしんどいです。更に制作の経緯を知ってしまったことで、むしろ嫌いな作品です…。

 分家バンドABWHと和解して、ABWHがイエス本家に合流。8人となったイエスが作り上げた作品は『結晶』という美しい邦題が付けられましたが、邦題を付けた人も苦渋の決断だったのではないでしょうか。原題の『Union』が示すとおり、ボーカリストのジョン・アンダーソンで辛うじて繋がった『(同君)連合』というのがまだ本来のニュアンスに近いのではないかと思っていますが、そのタイトルすらも実態を表していない気がします。
 ABWH側が新作『Dialogue(仮称)』を作ろうとしたものの曲が足りず、本家の90125イエス側がいくつか楽曲提供。とはいえ8人全員で作曲やレコーディングした楽曲は1つもなく、クレジットも完全に分かれています。挙げ句スティーヴ・ハウのソロや、ビル・ブラッフォードとトニー・レヴィンのインプロヴィゼーション(もはやキング・クリムゾンでしょうか?)が入っていたりと、とにかく取っ散らかった印象の強い本作。無駄に豪華なゲスト陣を迎えていますが、メンバーが仲違いを起こして使い物になる録音が少なかったのをカバーするためだとか…。あまりに酷い。
 プロデューサーに就いたジョナサン・エリアスが、この収拾のつかない素材の断片を頑張って纏め上げましたが、バンドの妥協を強く感じる作品です。

 イントロ無しにいきなり歌から始まる「I Would Have Waited Forever」。ソリッドなサウンドにコーラスワークも含め、キャッチーで聴きやすいです。「Shock To The System」はグルーヴ感の強いハードポップ曲。90125側の曲かと思いきや、ABWH側の曲なんですね。続いてスティーヴのソロ「Masquerade」。彼のアコギは癒されます。続いて90125側が提供した「Lift Me Up」。シングルヒットしましたが、イエスらしさを感じず、別のハードロックバンドの楽曲のようです。「Without Hope You Cannot Start The Day」は少し複雑だけどあまり印象に残りません…。「Saving My Heart」はR&B色の強い楽曲。イエスらしさは感じないものの、これはこれで良曲。「Miracle Of Life」は本作で最も良い楽曲でしょう。トレヴァー・ラビン流のプログレ。複雑なリズムを刻むヘヴィなパートや牧歌的なパート、歌メロ重視のパートと場面転換が激しく、スリリングです。「Silent Talking」はヘヴィなサウンドの核はカッコいいのですが、装飾が少し煩わしい…。「The More We Live – Let Go」はクリスと、後にイエスに加入するビリー・シャーウッドの共作。コーラスは綺麗な1曲です。静かな演奏にカンボジア語の詩が入る「Angkor Wat」を挟んで、ABWH流ハードポップ「Dangerous (Look In The Light Of What You’re Searching For)」。ジョンの歌をフィーチャーした、爽やかな「Holding On」を挟んで、ビルとトニー・レヴィンによる1分にも満たないインプロ楽曲「Evensong」。そして最後は「Take The Water To The Mountain」。パーカッションが鬱蒼と広がる森のような光景を感じさせます。静かに始まり、同じフレーズを反復しながら徐々に盛り上がりますが、ラスト曲にしては地味という印象は否めません。

 90125イエスの楽曲がなければ、オープニング曲以外かなり地味な出来で、90125イエスの楽曲に救われつつも、アルバムとしては纏まりを欠いてしまうというジレンマ。
 8人イエスによる豪華ライブツアーを行いましたが、メンバー仲は結局うまくいかず、ビル・ブラッフォードは脱退。またレーベル側の都合などもあってリック・ウェイクマン、スティーヴ・ハウは不参加。お家騒動を挟んで、結局『ビッグ・ジェネレーター』以前の体制に戻ったのでした。

Union
Yes
 
Talk (トーク)

1994年 14thアルバム

 前作『結晶』ツアーのあとビル・ブラッフォードが脱退。更に脱退の意思がないのに声が掛からなかったスティーヴ・ハウが不参加。またリック・ウェイクマンも収録に参加できず、結局90125イエスのメンバーに戻ってしまいました。ちなみにキーボードはトニー・ケイが残りましたが、彼はハモンドオルガンのみの担当で、それ以外のキーボードはトレヴァー・ラビンが担当。ギターにボーカルに一部キーボードを弾くトレヴァーはプロデューサーも兼任。そうして制作された本作は、組曲「Endless Dream」が聴きどころでしょう。レーベルの戦略で「Close To The Edge」の続編と謳われたそうですが、本作が商業的に失敗すると、そんな続編設定はメンバーによって否定されたそうです。ちなみにバンドロゴはロジャー・ディーンではなく、ピーター・マックスのデザインを採用。
 自分が主体的に関わっていない歌を歌うことに不満を感じて『ビッグ・ジェネレーター』後にジョン・アンダーソンが脱退…そんな過去のいざこざを意識してか、本作制作時にはトレヴァーはジョンに歩み寄り、ほぼ全曲トレヴァーとジョン(と一部クリス・スクワイアも)の共作。

 美しいコーラスワークで始まる「The Calling」。明るく爽やかな曲調で、ポイントポイントで変速リズムを混ぜ込むイエス流ハードポップです。アラン・ホワイトの叩くドラムの音が気持ち良く、クリスのベースは相変わらずバキバキと主張。トレヴァーの爽やかなギターと、リックではなくトニー・ケイのキーボードが楽曲を彩ります。爽やかな名曲です。続く「I Am Waiting」はジョンの美しい歌声をフィーチャーした楽曲です。トレヴァーのギターは穏やかで優しい。ゆったりと牧歌的な雰囲気が漂いますが、終盤は分厚いコーラスで神々しい雰囲気になります。続く「Real Love」は9分近い大曲。怪しい異国風の序盤から徐々にヘヴィさを増します。全体的に怪しくダークな雰囲気。「State Of Play」はハードロックナンバーで、ソリッドなギターを中心としたヘヴィなサウンドと程よい疾走感は爽快。サビでの、キャッチーでメロディアスな歌メロが良いです。「Walls」ではスーパートランプのロジャー・ホジソンがゲストボーカル参加。1980年代の香り漂う非常にポップな1曲ですが、イエスらしからぬ楽曲でもあります。続いて「Where Will You Be」は3拍子の心地良いリズムに乗せてジョンの歌が響くメロディアスな1曲。
 そしてここからラストまでの3曲は本作の目玉、組曲「Endless Dream」です。組曲1パート目の「Silent Spring」はヘヴィな演奏を披露するインストゥルメンタルです。2分足らずですが、往年のプログレ時代に通じるスリルを味合わせてくれる、激しくて素晴らしい演奏に圧倒されます。そのまま組曲2パート目「Talk」に繋ぎます。序盤は美しいピアノに静かな歌。時折ヘヴィなパートも見せながら、中盤では実験的な感じを出しています。そして終盤に入り、一瞬ヘヴィさを増して疾走感を出してきたかと思えば、すぐさま美しいコーラスワークによる感動的な演出。ラスト曲で組曲3パート目は「Endless Dream」。静かな歌があるものの、アウトロ的な感じの短い1曲です。

 商業的には失敗しほとんど売れなかったそうですが、90125イエスの体制において唯一プログレ時代の面影を感じさせてくれる1枚です。特に組曲「Endless Dream」は聴きどころです。
 ジョンとトレヴァーの確執が決定的になり、イエスでの仕事を終えたとしてトレヴァーは本作ツアー後に脱退することになります。そして次作ではトニーに声は掛からず、脱退扱い。そして待ってましたとばかりにスティーヴとリックが復帰することになりました。

Talk
Yes