🇬🇧 Yes (イエス)

スタジオ盤③

プログレ黄金期再結集

Keys To Ascension (キーズ・トゥ・アセンション)

1996年 15thアルバム

 トレヴァー・ラビン脱退後、イエスはスティーヴ・ハウ(Gt)、リック・ウェイクマン(Key)を招集し、元からのジョン・アンダーソン(Vo)とクリス・スクワイア(B)、アラン・ホワイト(Dr)によるプログレ黄金期のメンバーで再結集しました。トニー・ケイには声が掛からず脱退扱い…。また、久しぶりにロジャー・ディーンのジャケットアートを採用。この幻想的なジャケットも、プログレ黄金期の再来を象徴していますね。

 さて本作はライブパートとスタジオパートを収録し、かつライブパートについては次作『キーズ・トゥ・アセンション2』と合わせて完全な形になるという変則的なアルバム作品です。一応15thアルバムに位置づけられているようなのでスタジオ盤として扱いますが、正直スタジオパートはおまけ的な位置づけでライブこそがメインの作品です。これらのスタジオパートだけを集めた編集盤『Keystudio』というものも出ていますが、欲しいのはそっちじゃなくてライブだけの編集盤なんだ…!中身は最高なのに売り方が微妙という本作はイエスのセルフプロデュース。
 公式が出してくれないので、私は本作の1枚目の後、次作の1枚目を挟んで、また本作の2枚目のライブ2曲を並べるという感じで、自作のプレイリストを勝手に作って聴いています。これで最高のライブ盤の出来上がり。笑

 ディスク1枚目、ライブのオープニングを飾るのは定番の「Siberian Khatru」。やはりこの1曲で始まってこそイエスのライブ。オリジナル曲より演奏レベルが高い上にクリアな音質で聴きやすく、そして当時のライブ盤『イエスソングス』と比較してメンバーの演奏もこなれており、安心して聴けます。聴き終えた後の余韻も素晴らしい。続いて「The Revealing Science Of God」は本作のハイライト。リリース当時リックが毛嫌いしていた『海洋地形学の物語』から約20年ぶりに演奏され、『海洋地形学の物語』が最高傑作と信じてやまない私にとっては大収穫です。オリジナルよりも音質が良いからか、リックが本気を出しているからかクリアで瑞々しい印象で、コーラスを交えたジョンの歌も絶好調です。スリリングなパートのメリハリもつけながら、穏やかなパートの癒し効果は増していて、より魅力的な楽曲に仕上がっています。続いてサイモン&ガーファンクルのカバー「America」。オリジナルアルバムには収録されなかったものの、シングルやコンピレーション盤でカバー曲として1971年初出。オリジナル曲は3分半なのに、イエスの手に掛かると10分半の大作に。笑 メロディアスな歌はサイモン&ガーファンクルの功績ですが、演奏重視な点はイエスの実力でしょう。陽気で楽しい1曲です。続いて『トーマト』より「Onward」。スティーヴのアコギがあまりに美しく、そしてジョンの癒し声が乗ると、優しくて聴き惚れてしまいます。クリスのコーラスも欠かせませんね。汚れのない美しさを感じられる1曲です。そして大作「Awaken」。リックの軽やかなピアノが綺麗。オリジナル収録の『究極』も音質は相当良かったのですが、20年近く経つと技術の進歩で更にクリアな音質ですね。エコー処理もプラスに働いて、オリジナル曲よりも神々しさが増しています。救われるかのような、至福の時間を提供してくれます。

 ディスク2枚目はライブ2曲とスタジオ新録2曲の変則的な内容です。まずはライブの「Roundabout」。アコギのイントロからワクワクさせてくれます。そしてクリスの爆音ベースも健在。ABWHでは聴けなかった強烈な存在感のベース、そしてコーラスワーク。そのコーラスも含めて歌はご機嫌で、演奏もリラックスした雰囲気です。そしてライブの締めは定番の「Starship Trooper」です。やはりこの楽曲で終えてこそですね。スペイシーで、そして抜群のドライブ感です。終盤に向けてどんどん加速してスリルを増していきます。そして演奏終わりの大歓声。素晴らしいライブでした。
 そしてここからはスタジオパート。3パートから成る組曲で10分近い「Be The One」。スタジオ盤のご機嫌な演奏を聴いてからこちらを聴くと、ジョンの歌声に老いというか円熟味を感じます。少し影のある雰囲気だからでしょうか?切なくメロディアスで、そして緊張感のある楽曲です。続いてラスト曲「That, That Is」は7パートから成る組曲で、20分近い大作です。スティーヴの哀愁漂うアコギで始まり、呪術的なコーラスを挟んで疾走感溢れる歌メロパートへ。テンポダウンして複雑なリズムを刻みながら徐々にメロディアスになっていきます。終盤の疾走パートが爽快です。

 ライブパートでは往年の名曲が演奏されますが、これがとにかく良い!イエスのライブ作品は数多くありますが、個人的には本作に勝るものはありません。なおスタジオパートには新曲2曲があるものの、こちらは聴くことはほとんどありません(出来は悪くないんですけどライブが良すぎて…)。ライブパートが1970年代の再来なら、スタジオパートはABWHや90125イエスを受け継いでいて1980年代イエスの延長。本作と次作で身辺整理し、これから進むべき道を模索したのかもしれません。
 ライブパートが非常に良い出来なので、ライブパート目当てで手に取って頂きたい作品です。

Keys To Ascension
Yes
 
Keys To Ascension 2 (キーズ・トゥ・アセンション2)

1997年 16thアルバム

 前作『キーズ・トゥ・アセンション』の続きで、2枚揃えてライブが完成します。前作同様ライブパートとスタジオパートがそれぞれ入った変則的な作品で、前作ではおまけ的な位置づけだったスタジオパートが本作ではアルバム1枚分のボリュームに増えました。また、今回プロデューサーとしてビリー・シャーウッドを迎えて、イエスと共同名義でプロデュース。

 ディスク1枚目はライブパートで前作の補完になります。主要な楽曲は前作に偏っているため、前作のほうが楽しめる楽曲が多い印象ですが、決して悪いというわけではありません。1曲目は定番曲「I’ve Seen All Good People」。牧歌的な前半と、一緒に歌いたくなるような陽気な後半。全編を通して分厚いコーラスワークがとても心地良いです。続く「Going For The One」ではキーをかなり下げています。原曲がイエスでもトップクラスに高いキーのため、流石に老いには勝てなかったのでしょうか。南国を連想させる優雅で緩やかなサウンドに、コーラスの美しさ。原曲の持つスリルは失いましたが、リラックスできる楽曲に仕上がっています。そして本作のハイライト「Time And A Word」。原曲も元々メロディは良い楽曲でしたが、篭もったようなプロダクションがイマイチでした。本作においてはリック・ウェイクマンによる美しいピアノアレンジや、ジョン・アンダーソンのクリアなハイトーンボイス等もあって、原曲を遥かに上回る美しいバラード曲として生まれ変わりました。あまりの素晴らしさに涙が出てきます。間違いなく本ライブがこの楽曲のベストテイクです。そして大作「Close To The Edge」が続きますが…遅い。笑 丁寧な演奏を重視したのかスピード感がイマイチ。ちなみに年々遅くなっていきます。ギリギリの緊張感が魅力の楽曲ですが、本ライブではリラックスした印象で、かつ一番盛り上がるパートではリックのキーボードの音のチョイスが微妙にしっくりこないので、原曲かABWHのライブの方が良いです。大トリのコーラスは美しいんですけどね。続く「Turn Of The Century」スティーヴ・ハウのアコギが活躍します。綺麗なサウンド、そして美しい歌声とコーラスワーク、それを見事に切り出したクリアな録音。心が洗われるかのような美しさです。最後は定番の「And You And I」。牧歌的な楽曲は、円熟味の増したこの時のイエスが演じるにはピッタリの1曲でしょう。

 ディスク2枚目はスタジオ新録曲が並びます。1曲目の「Mind Drive」がスタジオパートの聴きどころでしょう。19分近い大作です。レッド・ツェッペリン解散直後のジミー・ペイジと、クリス・スクワイア、アラン・ホワイトが1981年に新バンド「XYZ (ex Yes Zeppelin=元イエス、元ツェッペリン)」を作ろうとして断念しており、そのセッションの際に生まれた楽曲を完成させたものになります。使えるものは何でも使えの精神。笑 基本軸はゴリゴリ唸るベースを活かした非常にスリリングな演奏で、そこに牧歌的でゆったりとした美しいパートが顔を出す、変化に富んだ魅力的な楽曲です。続く「Foot Prints」はアランのドラムを中心とし、コーラスワークを活かした楽曲です。間奏では少し複雑なリズムで魅せますが、メロディが単調でやや冗長な印象。「Bring Me To The Power」フィル・コリンズジェネシスっぽいイントロから、クリスのベースが生み出すグルーヴィなサウンド。歌が始まるとイエスですね。7分半の中にいくつか場面転換があるものの、キャッチーさも兼ね備えた魅力的な1曲です。続いて「Children Of Light」は2パートから成る組曲。前半はアフリカンビートに影響を受けた雰囲気で、後半はスティーヴの天にも昇るかのようなギターを活かした浮遊感のあるインストゥルメンタルです。そしてラストはメロウなインストゥルメンタル「Sign Language」で締めます。

 前作『キーズ・トゥ・アセンション』を買った方や買おうとしている方は、是非セットで抑えておきたい作品です。ライブパートだと「Time And A Word」、スタジオパートだと「Mind Drive」が魅力的です。前作がライブメインだったのに対して、本作はライブよりもスタジオパートの方に力が入っている印象です。

Keys To Ascension 2
Yes
 
Open Your Eyes (オープン・ユア・アイズ)

1997年 17thアルバム

 イエスはキーズ・トゥ・アセンションのリリースに伴うライブツアーを予定していましたが日程がなかなか定まらず、日程が決まるとリック・ウェイクマンが自身のソロツアーとブッキング。そんなトラブルもあってリックは4度目の脱退、ライブツアーもキャンセルになってしまいます。クリス・スクワイア(B)が自身のソロプロジェクト用に、マルチプレイヤーのビリー・シャーウッド(Gt/Key)と組んで制作を進めていたのが本作の元ネタですが、これを急遽ツアーキャンセルの風評対策も兼ねて、イエスの新作としてリリースすることになります。そんな経緯に加えて、やっつけ仕事のようなジャケットアート、何を楽しめばよいのか。残念ながらファンの間でも、イエス屈指の駄作として悪評高い作品です。
 なお、ゲストミュージシャンとして元TOTOのスティーヴ・ポーカロ(Key)、次作で正式メンバーになるイゴール・コロシェフ(Key)が参加。

 オープニング曲は「New State Of Mind」。ソリッドなサウンドは90125イエスの再来のようです。コーラスワークの美しさは相変わらずですが、ややパワー不足感は否めません。続いて表題曲「Open Youp Eyes」。部分的にインド音楽風味をうっすらと感じさせる、アッパーなハードポップ曲です。爽やかでカッコ良いです。「Universal Garden」スティーヴ・ハウの美しいアコギで始まり、ビリーのシンセが彩ります。ダークな雰囲気とポップなメロディが交互に表れます。「No Way We Can Lose」はアラン・ホワイトのドラムがノリの良いリズムを刻み、心地良い雰囲気です。「Fortune Seller」は個人的に本作のハイライト。リズムチェンジにより少しトリッキーで、またクリス・スクワイアのベースが唸ります。イゴールのオルガンも面白いですね。プログレ風味も少し感じつつ、基本はキャッチーなハードポップで聴きやすいです。「Man In The Moon」はエスニックで少し怪しげなメロディが興味を引きます。あまりイエスらしくはないですが、割と面白くて耳に残ります。幻想的なイントロからファンキーな楽曲を展開する「Wonderlove」はポップで明るいですね。アコギと歌だけのシンプルな「From The Balcony」を挟んで、ポップな「Love Shine」で明るい気分にさせてくれます。スローテンポですが力強く踏みしめるような「Somehow, Someday」が続き、ラスト曲は「The Solution」。リズムチェンジを駆使したトリッキーな楽曲ですが、メロディが弱い気がします。数分の空白を挟んで、隠しトラック「The Source」が展開されます。長尺ですが、鳥のさえずりに時折コーラスが入るというだけの冗長な楽曲です。

 ソリッドなハードポップサウンドは、音だけ聴けば耳に心地良いし、楽曲単位ではいくつか輝くものもあります。しかし残念ながら、アルバムトータルでは聞き終えた後にあまり印象に残りません。90125イエス派の人にはもしかすると響くかもしれませんが、これからイエスを聴こうという人は、本作は後回しでよいと思います。

Open Your Eyes
Yes
 
The Ladder (ラダー)

1999年 18thアルバム

 エアロスミスボン・ジョヴィを手掛けたことで知られる名プロデューサー、ブルース・フェアバーンを迎えて制作された本作。制作中にブルース・フェアバーンは亡くなってしまうため、彼の遺作となりました。1970年代イエスと1980年代イエスを融合させた傑作で、1990年代以降のイエスでは最高の作品だと思っています(本作よりも『キーズ・トゥ・アセンション』の方を高評価にしていますが、これはライブパートの評価)。
 イゴール・コロシェフ(Key)を正式メンバーに迎え、ジョン・アンダーソン(Vo)、スティーヴ・ハウ(Gt)、クリス・スクワイア(B)、アラン・ホワイト(Dr)、ビリー・シャーウッド(Gt)の6人体制。前作でギターやキーボードを披露したビリーは本作ではリズムギターに専念しています。
 本作は久々のロジャー・ディーンによる幻想的なアートワークで、プログレ時代を期待させてくれます(楽曲は期待以上の出来!)。なお本作より、バンドロゴが角印のようなデザインに変わっています。

 オープニング曲「Homeworld (The Ladder)」から10分近い楽曲です。少し民族音楽的な雰囲気も混じった幻想的な序盤。ジョンの高音が響き渡ります。途中から楽器が増えますが、比較的淡々と展開します。しかしながらキャッチーなメロディが至福な時間を提供してくれます。中盤からはリズムチェンジを加えて楽曲にメリハリが生まれると、ノリノリな雰囲気に。後半に向け天に昇るかのようで、イゴールのオルガンもリック・ウェイクマンに負けずとも劣らないプレイです。最終盤はしっとりと締めます。まるで往年の名曲「Awaken」を聴き終えたのと同じような幸福感・余韻を感じられる素晴らしい名曲です。続く「It Will Be A Good Day (The River)」は序盤の単語の列挙に「Siberian Khatru」を思わせます。またABWH時代のように、アフリカ音楽等のワールドミュージック要素をほんのり漂わせたポップサウンド。でも1980年代よりも円熟味のある優しいメロディに癒されます。そして「Lightning Strikes」はイントロがなんとなくディズニーっぽさを感じます。本編が始まるとラテン風なサウンドで底抜けにポップな1曲で、スティーヴの小気味良いギターを中心にしつつ、でもクリスのベースはブイブイ唸っています。そしてジョンの抜群にキャッチーでポップな歌メロがこのノリノリなサウンドを更に助長してくれるので、初めて聴いた際にはこれが一番取っつきやすいと感じましたし、今でも大好きな1曲です。続いて僅か1分半の「Can I?」は、部族の儀式のようなプリミティブな歌とパーカッションを演じます。そしてそのまま名曲「Face To Face」へ。これも大好きな1曲です。軽快なイントロはアランのドラムによってメリハリがあり、爽やかでキャッチーなメロディはコーラスによって程よい浮遊感があります。カラフルだけど、あまりゴテゴテはしていなくてさっぱりしています。「If Only You Knew」は一転して少ししっとりとした1曲。ジョンの優しい歌声は癒やされますが、爽やかだけど少し切ないメロディが涙を誘います。メロディが美しい。「To Be Alive (Hep Yadda)」は少し東洋的なサウンドに、ポップな歌メロが乗ります。サビを飾る「イエーイエー」のコーラスが耳に残りますね。「Finally」は中盤くらいまで緊迫感に溢れていて、間奏ではギターが唸ります。終盤は厳かな雰囲気で、シンセがひんやりとした空気を作り出します。続いて「The Messenger」はメタリックなベースが唸りますが、遅いテンポでダルそうな演奏。そこをキャッチーな歌メロでカバーします。終盤だけは雰囲気を変えて軽やかに終えます。イゴールのキーボードソロに始まる「New Language」は9分長の大曲。演奏バトルとでも言えそうな、激しくてスリリングなイントロが2分ほど展開されます。歌が始まると、とてもご機嫌でポップな楽曲に変貌。そして徐々に壮大になっていきますが、高まっていくさまは感動的です。終盤では軽快なスパニッシュギターを皮切りに、緊迫した演奏バトルを再開。とてもスリリングです。最後に、歌をフィーチャーした「Nine Voices (Longwalker)」で、静かに終わります。

 プログレ時代の壮大さと、ハードポップ時代のキャッチーさを上手くブレンドした、イエスの集大成とも言える傑作です。全体的にポップで聴きやすく、それでいて演奏も聴きごたえがあります。

 本作を最後にビリーが脱退。また名プレイヤーであるイゴールはセクハラ問題で解雇になってしまいます。この名盤を生み出した名プロデューサー、ブルース・フェアバーンも天に召されてしまい、この奇跡的なラインナップは本作限りとなります。なおこのラインナップによる本作を引っさげてのライブ盤『ハウス・オブ・イエス』もなかなかの出来ですので、そちらもオススメします。

The Ladder
Yes
 
Magnification (マグニフィケイション)

2000年 19thアルバム

 ビリー・シャーウッド(Gt/Key)とイゴール・コロシェフ(Key)が脱退して専任キーボーディストがまたも不在となったイエス。ジョン・アンダーソン(Vo)、スティーヴ・ハウ(Gt)、クリス・スクワイア(B)、アラン・ホワイト(Dr)の4人体制ですが、今回はかねてより構想があったというオーケストラとの共演を果たします。イエスの音楽性はオーケストラの相性も比較的良く、2nd『時間と言葉』でもオーケストラとの融合は実践済ですね。ティム・ウェイドナーとイエスの共同プロデュース。

 アルバムは表題曲「Magnification」で開幕。キーボードの代わりとなるオーケストラはイエスの音楽にもあまり違和感はありません。途中強引なリズムチェンジがありますが、安定したリズム隊に支えられてオーケストラもすんなりと着いていきます。サビメロはキャッチー。ラストは混沌と渦を巻くような終わり方で、そのまま「Spirit Of Survival」に続きます。ヘヴィで緊迫感に満ちた激しい楽曲で、クリスのメタリックなベースリフを中心に、炸裂するようなホーンがスリリング。そして時々嵐が去ったかのような静けさが現れるという、ギャップの激しい1曲です。「Don’t Go」はご機嫌な1曲で、ジョンの歌うポップでキャッチーな歌メロはコーラスも相まって爽やかな印象です。ただ、ポップな雰囲気とは対照的に、リズム隊はヘヴィで武骨な感じがします。「Give Love Each Day」はオーケストラが前面に出てきてサントラのような演奏。メロディアスな歌が始まると、哀愁漂う切ない雰囲気になります。「Can You Imagine」ではアランがドラムの代わりにピアノを弾き、また歌もジョンではなくクリスがメイン。途中から力強いドラムが出てきてメリハリを生み出します。続く「We Agree」はスティーヴの繊細なアコギで始まり、歌は陰鬱な雰囲気から徐々に感情が込み上げるような盛り上げ方で、胸に響きます。穏やかな小曲「Soft As A Dove」を挟んで、10分超の大作「Dreamtime」。2分過ぎた辺りからの、東洋音楽とアフリカ音楽のエッセンスを加えたようなバンド演奏に、オーケストラの組合せというギャップが意外と面白かったり。多国籍な雰囲気で、そこにリズムチェンジの多用でスリルを生みます。続く「In The Presence Of」も10分超の大作。序盤は核となるフレーズを延々と繰り返すボレロのよう。中盤は雰囲気を変えて浮遊感が漂います。終盤も優美にゆったりとした雰囲気。ラスト曲「Time Is Time」は2分の小曲で、淡々としつつ優しい歌メロに癒されます。

 2004年版にはボーナスディスクが付属します。オーケストラと共演し、サポートにイゴール・コロシェフが参加したライブより、往年の名曲3曲を披露。このボーナスディスクは本編を上回る魅力でとても良かったのですが、これのフルバージョンとなるライブ盤『シンフォニック・ライヴ』は違う日の公演で、出来がイマイチなのが残念。
 1曲目は「Close To The Edge」で、『キーズ・トゥ・アセンション』の頃から既にテンポが遅くなっていたのですが、遅さに磨きがかかっています。笑 イゴールがとても良い仕事をしていてシンセが目立つ反面、オーケストラの存在感は薄いです。「Long Distance Runaround」はオーケストラがとても効果的に活きていて、優雅な木管・弦楽器に、ヘヴィなベース・ドラムと金管。メリハリがあってとてもスリリングです。そして本作最大の目玉「The Gates Of Delirium」。イゴールのシンセはパトリック・モラーツの複雑な演奏を再現し、またスティーヴのギターも少し遅いものの調子は良好です。原曲は音質の悪い中で繰り広げられる、ザラザラしてカオスな演奏バトルが魅力ですが、本作ではそのノイズを取り払って、クリアで煌びやかな演奏大会に昇華しています。そして終盤の歌メロパート「Soon」。老いても変わらず少年声のジョンの歌は癒やしですね。

 所々にスリリングだと感じる場面はあるものの、大曲が多いため、オーケストラによる優美な演奏に浸れるかどうかが本作の評価の分かれどころな気がします。実は本編よりボーナスディスクの方が気に入っています。

Magnification
Yes
 

ジョン・アンダーソン不在の次世代イエス

Fly From Here (フライ・フロム・ヒア)

2011年 20thアルバム

 『マグニフィケイション』以来10年ぶりとなる久々の新作。10年の間に色々あり、『マグニフィケイション』を引っ提げてオーケストラとの共演ライブ、リック・ウェイクマン(Key)が復帰してのクラシックツアー、フルサークルツアー、35周年ツアー。そしてしばし活動停止します。2008年には、リックの代わりに息子のオリバー・ウェイクマンを迎えてライブ宣言するも、ジョン・アンダーソン(Vo)が体調不良により延期(そして脱退)。代理ボーカルとして、イエスのトリビュートバンドを演っていたベノワ・ディヴィッドを迎えてライブツアーを敢行します。ちなみに、YouTubeで新人ボーカルを発掘して新作を出したジャーニーに倣い、YouTubeから探し出してきたのだとか。
 そして、その代理ボーカルのベノワを正式メンバーに迎え、スティーヴ・ハウ(Gt)、クリス・スクワイア(B)、アラン・ホワイト(Dr)のラインナップに加えて、ジェフ・ダウンズ(Key)が久々に復帰して本作の制作に至ります。更にプロデューサーには元メンバーのトレヴァー・ホーンと、約30年前にリリースした『ドラマ』の再来のようです。そして本作の肝でもある組曲は、ドラマ期のライブでも垣間見えた楽曲「We Can Fly From Here」を完成させたものになります。ジョン在籍時はおそらく、ジョンが自分のいない時期の楽曲を歌いたがらなかったので、長らく温めることになったのではないでしょうか。元のアイディアが秀逸だったのか、年齢を感じさせないスリリングな仕上がりです。

 1~6曲目までの約24分弱が組曲形式になっています。インストゥルメンタル「Fly From Here – Overture」で開幕。気合いの入ったギター・ベース・ドラムに、『ドラマ』時に感じた「絶対にバンドを存続させる」という意地を、本作でもなんとなく感じさせます。「Fly From Here, Part I: We Can Fly」で歌が始まりますが、ベノワの歌声はジョンそっくり。音階を下っていくクリスのベースがカッコ良く、駆け抜けていく爽快感があります。「Fly From Here, Part II: Sad Night At The Airfield」はスティーヴのしっとりとしたアコギに乗せて、ダークな歌が乗ります。途中からシンセをはじめとした分厚い音の塊が突如表れ、楽曲をドラマチックに演出します。全体を覆う哀愁たっぷりの雰囲気が切ない。「Fly From Here, Part III: Madman At The Screens」は1曲目のメロディに歌を乗せたような楽曲で、この組曲最もスリリングで、本作のハイライトです。ゴリゴリのベースやヘヴィなギターなど緊張感をビシビシ感じますが、ジェフのキーボードが彩りを与えてシリアスな空気を少し和らげます。とてもカッコ良い。「Fly From Here, Part IV: Bumpy Ride」はテクノポップ風のコミカルなインストゥルメンタル。ですがリズムチェンジを駆使して中々スリリングです。組曲の最後「Fly From Here, Part V: We Can Fly (Reprise)」は大団円といった感じでポップな歌メロで明るく締めます。素晴らしい組曲でした。「The Man You Always Wanted Me To Be」はクリスがボーカルを取る1曲です。派手さはないですが、温もりを感じられます。続く「Life On A Film Set」はギターがダークな雰囲気を作り、そのダークな雰囲気は強まっていきます。しかし後半は闇を抜けたかのように明るい演奏に様変わり。それでも時折力強いリズム隊とともに強烈な緊張感が迫ります。「Hour Of Need」は牧歌的な楽曲で癒されます。軽快なアコギが爽快です。ベノワとともにボーカルを取るのはスティーヴ。続いて「Solitaire」はスティーヴのアコギソロ曲。彼のギターソロは癒されますね。まったりとしていて優しいです。最後の「Into The Storm」はイントロからヘヴィなサウンドに圧倒されます。スタートはヘヴィですが、ノリが良くて軽快なロック曲になります。終盤には「Fly From Here」のメロディが流れながら、緊迫感を伴って終わります。

 バグルスの遺伝子を感じる『ドラマ』パート2的な作品でクオリティも高く、『ドラマ』好きは必聴です。ロジャー・ディーンのジャケットアートも相変わらず幻想的な雰囲気があってよいですね。
 本作を伴うライブツアーでは久々に『ドラマ』収録楽曲も演奏されました。この来日ライブの物販で本作を買ったのを覚えています。参加したライブは最後尾席でしたが、楽しませて頂きました。

 なお私は未聴ですが、2018年にはトレヴァー・ホーンのボーカルで再録した『Fly From Here – Return Trip』と題された作品がリリースされています。

フライ・フロム・ヒア【限定盤 SHM-CD+DVD】
Yes
 
Heaven & Earth (ヘヴン&アース)

2014年 21stアルバム

 ベノワ・ディヴィッド(Vo)が健康を害して脱退、後任にまたもイエスのトリビュートバンドを演っていたジョン・デイヴィソン(Vo)を迎え制作されました。声質だけでなく名前までジョン・アンダーソンそっくりなボーカルを引き入れたもので…本作では新任ジョンをデイヴィソン呼びで統一します。
 本作ではデイヴィソンにかなりの権限を与えられたのか、多くの楽曲制作をデイヴィソンが担っています。トリビュートバンドのボーカリストを引き入れ、その新メンバーに曲を書かせて…と、かなり厳しい目線での評価になる要素だらけですが、残念ながら本家が演奏しているのに出来はそっくりさんレベル。『ドラマ』や前作では新任メンバーの力を借りつつもメンバーの意地を感じ、素晴らしい作品に仕上がっていたのですが。クイーン等を手掛けたロイ・トーマス・ベイカーがプロデューサーに就いています。新任デイヴィソンに多くを頼った楽曲のせいかサウンドミックスのせいか、イエスらしさが薄いと感じ、本家なのにまるでトリビュートバンドを聴いているようで悲しい気分になります。

 「Believe Again」で開幕。幻想的な楽曲が展開されます。デイヴィソンもジョンそっくりですが、でも厳密には違う。そして何より元々のイエスメンバーが奏でる楽曲にイエスらしさが薄く、本家なのに何故かそっくりさんを聴いている感じになるのが不愉快です。「The Game」はメロディアスでポップな1曲。でもあまり印象に残りません。終盤のギターにかろうじてスティーヴ・ハウを感じられます。ジェフ・ダウンズのシンセがポップな雰囲気を作る「Step Beyond」を挟んで、「To Ascend」ではリュートに似たポルトガルギターが楽曲の軸となります。まったりとした楽曲です。「In A World Of Our Own」は渋くてジャジーな1曲。イエスらしくない楽曲ですが、イエスそっくりなのに薄っぺらい楽曲群よりもよっぽど新鮮で、まだ好感を持てます。「Light Of The Ages」は8分近い楽曲。哀愁が漂います。クリス・スクワイアの唸るベースやスティーヴの浮遊感のあるギターに、ようやくイエスサウンドを感じますが、するとジョン不在の穴を感じて物足りないというジレンマ。「It Was All We Knew」はイントロやサビメロが「大きな古時計」そっくりで、そんなわけで取っつきやすかったり。笑 ヘヴィな間奏で楽曲にメリハリをつけます。最後に9分の大曲「Subway Walls」。中盤のダーティなリフとオルガン、歌うようなギター等の間奏が聴きどころでしょうか。

 個人的に本作はどうしても好きになれません。しかも本作がクリス・スクワイアの遺作になってしまい、なお悲しいです。そして本作リリース前後のツアーは黄金期のアルバム再現ツアーばかり。イエスは過去の名曲群を披露するライブさえ開ければ、スタジオ盤新作はライブを行うための大義名分でしかないのでしょうか。確かにファンの立場から言っても、新作より過去の名盤再現ツアーの方に期待してしまいます。
 クリス亡き後、オリジナルメンバーが居なくなってしまったイエス。偉大なベーシストの大きな穴は、ビリー・シャーウッドがベーシストとして正式メンバーに再加入することでカバー。相変わらずキーボード枠は流動的ですが、今も往年の名曲を伴うツアーを続けています。

Heaven & Earth
Yes
 
The Quest (ザ・クエスト)

2021年 22ndアルバム

 イエスに唯一残ったオリジナルメンバークリス・スクワイア(B)は2015年に逝去、脱退したもう一人のオリジナルメンバーであるジョン・アンダーソンは2010年〜2018年頃まで「アンダーソン、ラビン&ウェイクマン」という、旧メンバーとの派生バンドで活動していました。
 オリジナルメンバー不在のイエスは、2019年には結成50周年を迎えました。そして前作から7年ぶりとなる本作のラインナップは、プロデューサーを兼任するスティーヴ・ハウ(Gt)をはじめ、ジョン・デイヴィソン(Vo)、ジェフ・ダウンズ(Key)、ビリー・シャーウッド(B/Key)、そしてアラン・ホワイト(Dr)と、彼の治療期間中に代役ドラマーを務めた元ハリケーンのジェイ・シェレン(Perc)がレコーディングにも参加しています。
 アルバムはトータル60分強ですが、意図を持ってか2枚組に分けられています。

 本編のDisc1は、3部から成る組曲「The Ice Bridge」で幕開け。ファンファーレのようなシンセを皮切りに、ややシリアスな緊張が張り詰めるエネルギッシュな演奏を繰り広げます。クリスの穴を埋めるビリーのベースが中々カッコ良い。老いてなお元気なイエスの演奏には少しホッとしてもいます。「Dare To Know」はメロウでまったりとしたギターを軸に、オーケストラも活用して晴れやかな春の訪れのよう。少しオーケストラが派手すぎる気もしますが、全体的な雰囲気は彼らの得意とする牧歌的な楽曲に仕上がっています。続く「Minus The Man」はイントロで幽玄な雰囲気を漂わせ、歌やドラム、オーケストラが加わって華やかになっていきます。オーケストラの主張が若干煩わしかったりしますが、スティーヴのギターは要所要所で魅力的な音色を奏でています。「Leave Well Alone」は3部構成の組曲で、本作最長の8分。躍動感のあるリズムと楽しげなシンセ、歌が始まる直前で場面転換して繊細な楽曲へ。メロディはそこまでではありませんが、リズムチェンジしながら様々な表情を見せる楽曲はプログレ的な楽しさを感じさせてくれます。デイヴィソンの歌に絡むスティーヴのコーラスも、イエスらしさを感じます。「The Western Edge」は明るい歌とシンセストリングスで晴れやかな雰囲気を作り出します。牧歌的でファンタジックな楽曲は、中盤一時的に倍速になるドラムによってアップテンポになります。「Future Memories」はデイヴィソンの弾く12弦ギターが憂いのある幽玄な音を奏で、コーラスが絡み合ってメロディアスな歌を聴けます。「Music To My Ears」は優しいピアノの音色に浸っていると、アランのドラムが楽曲を引き締めます。コーラスワークが優しい印象ですが、中盤から楽曲はややハードでダークな側面が表出します。そしてDisc1のラストは「A Living Island」。優しく諭すような冒頭から徐々にドライブがかかってきて、歌には切なさを含みつつも躍動感のある楽曲を聴かせます。優しい楽曲で、ラストは派手にならない程度にドラマチックに仕立て上げ、これが中々魅力的なんです。

 Disc2はトータル14分足らずでおまけのような感じです。「Sister Sleeping Soul」はスティーヴの12弦ギターをはじめ、牧歌的で優しくそよ風が吹くかのような感覚。スペイシーなシンセもイエスらしいですね。「Mystery Tour」は円熟味があるものの、リズミカルで小気味良い楽曲です。細かいフレーズに往年の楽曲を想起させます。骨太なベースも良い。そして「Damaged World」はレトロ感がありつつ、跳ねるようなリズムが心地良い。終盤にリズムチェンジして、メロディアスな演奏に浸らせてくれます。

 前作はそっくりさんを聴いているような嫌悪感でどうにも受け付けませんでしたが、個人的な気持ちの整理がついたのかデイヴィソンがこなれたのか、今作は比較的聴けると思いました。強烈な1曲には欠けますが、牧歌的でメロディアスな楽曲が多いです。
 コロナ禍かつメンバーも高齢の中、新作が出ること自体に価値があるというかありがたいですが、残念ながらアラン・ホワイトの遺作となってしまいました。

The Quest
Yes