🇬🇧 The Beatles (ザ・ビートルズ)

レビュー作品数: 18
  

スタジオ盤①

初期:ロックンロール・アイドル

Please Please Me (プリーズ・プリーズ・ミー)

1963年 1stアルバム

 ビートルズは英国リヴァプール出身のロックバンドです。ジョン・レノンを中心に、前身となるバンド「The Quarry Men (クオリーメン)」を1957年に結成。メンバーチェンジやバンド名の改名を繰り返しながら、ビートルズが誕生しました。デビューから解散まで不動のメンバーで、ジョン・レノン(Vo/Gt)、ポール・マッカートニー(Vo/B)、ジョージ・ハリスン(Gt/Vo)、リンゴ・スター(Dr/Vo)の4人。またプロデューサーに就いたジョージ・マーティンは、ビートルズの大半の作品のプロデュースに関わっており「5人目のビートルズ」とも呼ばれます。
 なお1962年のデビュー直前まで、ビートルズにはスチュアート・サトクリフ(B)、ピート・ベスト(Dr)というメンバーも在籍していました。スチュアート・サトクリフは画家を目指して1961年に脱退、しかし翌年に若くして病死してしまいます。またピート・ベストは実力が伴わずレコーディング直前で解雇され、代わりに加入したのがリンゴ・スターだったそうです。デビュー直前まで在籍していた2人も「5人目のビートルズ」とみなされることもあるようです。

 本作はビートルズのデビュー作で、ジョージ・マーティンがプロデュース。「Love Me Do」でデビューし、続くセカンドシングル「Please Please Me」のヒットを受けて本作が制作されました。既発曲を除いて僅か1日で録音された本作は、全14曲中6曲がカバー曲、8曲がオリジナル曲でトータル約33分。これら楽曲群の中では前述のシングル2曲が光ります。

 「1, 2, 3, 4!」の軽快なカウントから「I Saw Her Standing There」が始まります。ポールが歌うノリノリのロックンロールで、テンポが速くて爽快です。「Misery」はちょっと気だるげに感じますが、時折アクセントとして入るピアノが綺麗で意識を向けさせます。「Anna (Go To Him)」はアーサー・アレキサンダーのカバーで、ゆったりとしたバラード曲。ジョンの歌をコーラスワークで引き立てます。「Chains」はクッキーズのカバーで、ジョージがボーカルを取ります。ハーモニカがレトロな感じですね。リズミカルで心地良い演奏を楽しめます。続いてシュレルズの楽曲カバー「Boys」。躍動感のあるロックンロールで、リンゴが歌います。「パッシュワ パッパッシュワ」のコーラスが特徴的。「Ask Me Why」は甘くメロディアスな楽曲です。これもジョンの歌をコーラスワークで引き立てていますね。そしてアルバムのタイトル曲「Please Please Me」。これが本作では突出しています。ハーモニカの心地良い音色から、ジョンとポールが歌うキャッチーなメロディ。思わず口ずさみたくなりますね。
 ここからはレコード時代のB面、アルバム後半に突入。「Love Me Do」は古臭いハーモニカから、ベースとタンバリンがリズミカルで心地良い演奏を展開。「ラーヴ ラーミドゥ」のキャッチーな歌も印象的です。「P.S. I Love You」はまったりとして甘い雰囲気。シュレルズのカバー曲「Baby It’s You」を挟んで、「Do You Want To Know A Secret」はジョージのボーカル。レノン=マッカートニーのオリジナル曲で、手本が無くて歌い方を苦労して模索したそうですが、甘く優しい歌声で心地良く聴かせてくれます。「A Taste Of Honey」はミュージカル曲のカバーで、3拍子に乗せて渋くメロウな歌を聴かせます。「There’s A Place」は比較的テンポの速いロックンロールですが、歌はメロディアスで少し哀愁があります。最後の「Twist And Shout」はR&Bグループのトップ・ノーツのカバーで、本作のカバー曲群では光る1曲です。ジョンがヒステリック気味にアツくシャウトして歌いますが、演奏はゆったりムード。

 楽曲もサウンドも古臭くて、時代を感じさせるロックンロールが並びます。でも聴いていて心地よいんですよね。街中のあちこちで楽曲が流れているのもあって、知らず知らずのうちに聴き慣れているからでしょうか。
 全英1位を獲得後、30週連続1位を記録しましたが、その座を引きずり降ろしたのは自身の2ndアルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』でした。

Please Please Me (2009 Remastered)
The Beatles
 
With The Beatles (ウィズ・ザ・ビートルズ)

1963年 2ndアルバム

 数多くのパロディを生み出した有名なジャケット。これはロバート・フリーマンが撮影したものですが、レコードのジャケットがアートとして注目されるきっかけを作った作品が本作だったようです。マッシュルームカットで揃えられたメンバーの髪型が印象的ですが、ビートルズの大成功とともにこの髪型も流行することになります。またスーツに身を包んでいますが、当時英国で流行ったモッズファッションを取り入れています。
 デビュー作に引き続き「EMI・レコーディング・スタジオ」でレコーディングをしており、基本的にこのスタジオを拠点に数々の名盤を録音していくことになります。アビイ・ロードに位置するこのスタジオで後に大傑作『アビイ・ロード』が生まれることになり、このスタジオはビートルズにあやかって後に「アビイ・ロード・スタジオ」と改名することになります。

 前作に引き続きオリジナル曲とカバー曲が混在していて、オリジナル8曲、カバー6曲と基本路線は前作を踏襲。オリジナル曲のほぼ大半がレノン=マッカートニー名義で、これはビートルズ時代最後まで続きますが、実際に共作の楽曲もあれば、ジョン・レノン単独で作った楽曲、ポール・マッカートニー単独で作った楽曲いずれもこの名義で発表しています。

 オープニング曲「It Won’t Be Long」はイントロもなく始まる勢いのある楽曲です。録音の質も前作より向上している印象。ジョンの歌は爽快ですが、時折影を落とします。「All I’ve Got To Do」はジョンの気だるげでアンニュイな歌が特徴的。そして名曲「All My Loving」。イントロなしに始まるこの楽曲は本作でも頭ひとつ抜けている印象があります。レノン=マッカートニー名義ですが実質ポール作のメロディラインが優れていて、メロディメイカーとしての才能の片鱗を既に見せています。横ノリの演奏も心地良くて魅力的ですね。「Don’t Bother Me」ジョージ・ハリスンが初めて作詞作曲に挑戦。比較的勢いのある演奏です。続く「Little Child」はハーモニカがヘヴィに鳴り響くロックンロール。演奏も比較的ハードな仕上がりです。一転してアコースティックな「Till There Was You」は、クラシックギターとボンゴが心地良くてまったりとした1曲。ミュージカル劇中歌のカバーで、メロディアスな歌をポールが甘い声で歌います。「Please Mr. Postman」はマーヴェレッツの楽曲カバーで、リズミカルでノリの良い楽曲です。高らかなジョンの声が爽快です。
 アルバム後半はチャック・ベリーのカバー曲「Roll Over Beethoven」で幕開け。ご機嫌なギターで始まるロックンロールのスタンダードナンバーで勢いがあります。ジョンの歌声はロックンロールによく似合います。「Hold Me Tight」はポールのポップセンスが溢れるキャッチーなナンバー。ポップな歌メロの裏で奏でられるギターリフが、シンプルながらカッコいいですね。ミラクルズのカバー「You Really Got A Hold On Me」でゆったりと聴かせたあとは、リンゴ・スターの歌う「I Wanna Be Your Man」ローリング・ストーンズに提供した楽曲のセルフカバーで、勢いのあるロックンロールです。続くドネイズのカバー「Devil In Her Heart」を挟んで、「Not A Second Time」。憂いのある歌をジョンが歌います。間奏でドラムに埋もれそうになりながらもピアノが重厚感を出しています。ラストはフェードアウト。そして「Money (That’s What I Want)」はバレット・ストロングのカバー。ピアノとギターがユニゾンしてロックンロールを奏でますが、これが他の楽曲と違った質感を生み出しています。シャウト気味のジョンの歌唱はパワフルですね。

 「All My Loving」が頭一つ抜けた名曲です。
 前作と同年に発表され、30週連続全英1位を獲得していた前作を玉座から引きずり下ろした本作は21週連続1位に居座りました。2作合わせて51週連続1位を独占し続けるとは恐ろしいですね。耳馴染みの良いロックンロールが並ぶ、心地良い作品です。

With The Beatles (2009 Remastered)
The Beatles
 
A Hard Day's Night (ハード・デイズ・ナイト)

1964年 3rdアルバム

 旧邦題は『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』。昔のロック作品はこういった独自の邦題も多いですが、あまりに原題からかけ離れたこの邦題は如何なものかと思います…。ファンからもそういう声が多かったのか、再発時には『ハード・デイズ・ナイト』に改題されました。笑
 これまでの2作はオリジナル曲とカバー曲が半々でしたが、本作は全てがオリジナル曲で、かつ全てがレノン=マッカートニーの作曲。初主演映画『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』のサントラ盤として、映画の撮影で作った7曲と、新曲6曲を加えた作品です。

 オープニングを飾る表題曲「A Hard Day’s Night」で一気に引き込まれます。冒頭のジャーンと鳴らすコードのあと歌が始まりますが、この短いイントロがカッコ良いですね。そして始まるノリの良いロックンロールはとてもキャッチーで、ボンゴやカウベルといったパーカッションも良いアクセント。このキャッチーな楽曲はジョン・レノンが作りましたが、ボーカルはジョンとポール・マッカートニーがうまく連携しています。ブルージーなハーモニカで始まる「I Should Have Known Better」は、ジョンの歌う牧歌的な雰囲気の楽曲です。アコギとエレキの絡みが美しい。「If I Fell」は少し憂いのある楽曲ですが、ロックンロール一辺倒から抜け出して幅が出てきました。コーラスワークも美しいですね。「I’m Happy Just To Dance With You」ジョージ・ハリスンが歌います。ノリの良い演奏ですが、憂いを感じさせるメロディ。ポールの歌う「And I Love Her」はメロウなバラード曲。憂いに満ちてしっとりしていますが、優しく甘い雰囲気も内包しています。ギターも落ち着いた雰囲気でじっくり聴かせます。「Tell Me Why」リンゴ・スターのドラムが爽快で、スウィングするような心地良いノリが魅力的です。続く「Can’t Buy Me Love」はポールの歌うご機嫌なロックンロール。ノリが良く、そしてキャッチーな歌メロは耳に残りますね。
 アルバム前半に良曲が集中している印象ですが、後半も耳触りの良い楽曲が並びます。「Any Time At All」は初っ端からジョンが激しい歌唱を披露しますが、そこからメロディアスな歌を展開。勢いがあり程よい緊張感に満ちています。「I’ll Cry Instead」は牧歌的でフォーキーな雰囲気が漂います。タンバリンがノリノリですね。ポールが渋く歌う「Things We Said Today」、ジョンがパワフルに歌う「When I Get Home」と若干地味な楽曲が続きます。そして「You Can’t Do That」ではジョンの歌唱が少しピリついているため緊張感が漂います。最後は「I’ll Be Back」で、歌はメロディアスで憂いを纏っていますね。アコギが心地良い音色を奏でます。

 とにかくキャッチーな楽曲の宝庫。ポップさが加わったロックンロールな楽曲群はあちこちにフックがあって、きっと何かしら引っ掛かることでしょう。
 また特徴的なジャケットアートも、あちこちにパロディやオマージュのようなものを見かけるので、ジャケットアートからして影響力のある作品です。

A Hard Day’s Night (2009 Remastered)
The Beatles
 
Beatles For Sale (ビートルズ・フォー・セール)

1964年 4thアルバム

 クリスマスに間に合うようにと、前作から僅か5ヶ月でリリースされた本作。クリスマスセールとかけて『Beatles For Sale (ビートルズ売出し中)』と名付けられました。ちなみに影響されたかされていないのか、ザ・フーもパロディのような『The Who Sell Out (ザ・フー売り切り)』という作品を後にリリースしています(作品そのものは『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』に影響されたとか)。
 多作のビートルズでも流石に制作期間が足りなかったようで、前作では全曲オリジナル曲でしたが、本作では初期2作と同様に、全14曲中6曲がカバー曲という構成です。

 ジョン・レノンの歌う「No Reply」で幕開け。アコギが心地良い音色を奏でますが、歌は時折シリアスな雰囲気も醸し出します。「I’m A Loser」はボブ・ディランに影響されて作ったというフォーキーな楽曲です。ノリの良いリズム隊が爽快ですね。「Baby’s In Black」はジョンとポール・マッカートニーのツインボーカル。演奏にゆったりと揺られます。続いてカバー曲ですが、チャック・ベリーの「Rock And Roll Music」が中々良い出来で、ノリの良いロックンロールをジョンが激しく歌います。こういう軽快なロックンロールはジョンの十八番ですね。バンド演奏に加わるジョージ・マーティンのピアノも軽やかです。「I’ll Follow The Sun」はポールがデビュー前に作曲したという楽曲で、アコースティックで透明感のあるバラードです。メロディアスな歌が優しくて、染み入ります。「Mr. Moonlight」はロイ・リー・ジョンソンの楽曲カバー。ジョンの切なげな歌唱をコーラスワークで引き立てます。メロディアスな1曲です。「Kansas City / Hey, Hey, Hey, Hey」はリトル・リチャードのカバー曲メドレー。ポールがアツく歌うロックンロールで、横ノリの演奏が気だるくて気持ち良いです。
 アルバム後半は「Eight Days A Week」で幕開け。明るいメロディラインに、手拍子が加わるノリの良い演奏は楽しいですね。本作では唯一、初期ベスト『赤盤』に採用されたキャッチーな1曲です。ちなみにリンゴ・スターの「週に8日も働かされてる」という嘆きの言葉がこのタイトルの由来だとか。「Words Of Love」はバディ・ホリーのカバーで、ハミングが心地良い1曲。続いてカール・パーキンスのカバー「Honey Don’t」はリンゴが歌います。リズミカルでノリの良い演奏に、愛嬌あるボーカルで楽しめる1曲です。「Every Little Thing」はフォーキーで牧歌的なナンバー。私はイエスのカバーバージョンを先に知ったので、ダイナミックなアレンジのイエス版の方が好みですが、メロディの良さはレノン=マッカートニーの才能の賜物でしょう。小気味良いアコギが爽快な、牧歌的な「I Don’t Want To Spoil The Party」を挟むと、ポールの歌う「What You’re Doing」へ。リンゴの力強いドラムとジョージ・ハリスンのギターが作るイントロが中々印象的です。ラスト曲はカール・パーキンスのカバー「Everybody’s Trying To Be My Baby」。ジョージが歌うノリノリなロックンロールです。

 フォークロック的な楽曲が増えました。メンバーが笑っていないジャケット写真に、本作の持つ内省的な雰囲気を感じさせます。聴き心地の良い作品ですがキラーチューンに欠け、若干の地味さは否めません。

Beatles For Sale (2009 Remastered)
The Beatles
 
Help! (ヘルプ!)

1965年 5thアルバム

 旧邦題『4人はアイドル』。なんだその邦題は…。
 さて本作は初期ビートルズの傑作です。超名曲「Yesterday」と「Help!」が有名ですが、カーペンターズが後にカバーした「Ticket To Ride」も収録。耳馴染みの良い楽曲が並びますが、この3曲が突出しているかも。主演映画『ヘルプ!4人はアイドル』の楽曲と新録の楽曲を収録しており、制作背景は『ハード・デイズ・ナイト』みたいですね。
 手旗信号のジャケットが印象的ですが、当初「HELP」を表現しようとしたところ見た目が良くなかったことから今のポーズとなったそうです。ポーズを優先したこの手旗信号を読むと「NUJV」になるんだとか。

 オープニングを飾る表題曲「Help!」はノリの良いロックンロールで、ジョン・レノンがアイディアを出し、ポール・マッカートニーが手伝って完成しました。TV等でも耳にするキャッチーな名曲ですね。ジョンが軽快に歌いますが、加熱するビートルズ人気に対しての悲鳴を歌にしたのだとか。続く「The Night Before」はポールの歌うノリの良い楽曲で、ベースが心地良く揺さぶってきます。コーラスワークも爽やかですね。「You’ve Got To Hide Your Love Away」はアコギをかき鳴らすフォークソングで、ジョンがしゃがれた声でメロディアスに歌います。郷愁を誘う楽曲で、アウトロのフルートも牧歌的ですね。「I Need You」ジョージ・ハリスン作の楽曲。独特のギターの音色が特徴的ですが、エフェクターを用いたヴァイオリン奏法と呼ばれる手法によるものだそうです。そしてバックでは、アコギやパーカッションがアットホームな心地良い雰囲気を作ります。「Another Girl」はポールの歌うノリの良いロックンロール。リードギターはポールが弾いています。「You’re Going To Lose That Girl」はメロディアスな楽曲で、ジョンの歌とポール&ジョージのコーラスの掛け合いが爽やかです。リンゴ・スターがポコポコ叩くボンゴも気持ち良い。そして名曲「Ticket To Ride」。「涙の乗車券」という邦題で有名ですね。ジョン作の、キャッチーで程よく哀愁に満ちたメロディがあまりに素晴らしい出来です。また、リンゴのドラムパターンも印象に残ります。初期ビートルズの名曲はジョンが牽引してきたとしみじみ思います。ですが本作ではポールも「Yesterday」で才能を開花させることに。
 レコードでいうB面、アルバム後半に突入。「Act Naturally」はバック・オーウェンス・アンド・バッカルーというグループのカバー曲で、心地良いカントリーソングです。リンゴの歌が田舎な感じの楽曲によく合っています。「It’s Only Love」は落ち着いた雰囲気のフォーク楽曲で、アコギが心地良い。「You Like Me Too Much」はジョージ作の楽曲。温かく優しい歌メロで、コーラスも魅力的です。バンド演奏に加わる電子ピアノと通常のピアノが楽曲を引き立てます。「Tell Me What You See」はギロやタンバリンなどのパーカッションが、アットホームな雰囲気を出していますね。エレピも良い感じ。続く「I’ve Just Seen A Face」はアコギが絡み合うイントロが美しい。歌が始まるとテンポの速いウエスタンカントリーで、ポールの優しい歌も心地良いです。そして傑作曲「Yesterday」が本作では一番良いですね。ジョンに煽られて素晴らしい楽曲を生み出すことになるポール。この楽曲で稀代のメロディメイカーとして才能を開花させます。ポールが夢の中でこの曲が浮かび、周りに聴かせても誰も知らなかったことから自身のオリジナル曲として認識し、世にリリースされることになります。この楽曲は「世界で最も多くカバーされた曲」としてギネス記録を持ちますが、音楽の教科書で初めて知る人も多いでしょう。サビらしいサビを持たない、良く聴くと不思議な展開をする楽曲ですが、あまりにメロディが良い素晴らしい楽曲だと思います。この素晴らしい名曲でアルバムを締め括らないのがビートルズらしいのですが、ラストはノリの良いロックンロールナンバー「Dizzy Miss Lizzy」で締めます。ラリー・ウィリアムズのカバー曲で、ジョンのアツくパワフルな歌唱がカッコ良い。

 ロックンロール時代ビートルズの傑作です。初期ビートルズを聴こうと思ったなら断然本作がオススメです。
 なおこの時期はローリング・ストーンズと全英チャート1位を奪い合っていたそうです。1964年から1966年末までずっとビートルズかローリング・ストーンズが1位を独占していて、ほかにはボブ・ディランと『サウンド・オブ・ミュージック』のみがチャート争いに現れたそうです。

Help! (2009 Remastered)
The Beatles
 
 

中期:アルバムアーティストへの変革とサイケ化①

Rubber Soul (ラバー・ソウル)

1965年 6thアルバム

 ビートルズ中期に突入しますが、本作はロック史においても非常に重要な1枚だと思います。これまでのアルバムと言えばシングルの寄せ集めだったり一発録りも多かったのですが、アルバム制作に重きを置き、多様な楽器や多重録音などを活用した作品です。アルバムの重要性が増し、ロック界に数多くの名盤を生むきっかけを作った作品ではないかと思います。作曲センスに優れ、アイドル的な扱いだったのがまさしくアーティストに変わった瞬間だと思います。
 なおタイトルの『ラバー・ソウル』についてはエピソードがあります。米国の黒人ブルースミュージシャンが、ローリング・ストーンズのことを「プラスティックソウル(=偽りのソウルミュージック/偽りの魂)」と呼んだそうですが、これを揶揄して、更に「Rubber Sole=ゴム底靴)」とかけて「それなら僕たちは『Rubber Soul (=ゴムのソウル)』だね」ということでこのタイトルになったのだとか。ゴムのように多様に変化する音楽性を指しているのかもしれませんね。

 ポール・マッカートニーが叫ぶ「Drive My Car」でノリ良く始まります。ポールとジョン・レノンのデュエットですが、ポールの方が存在感を見せます。また、ベースと低音ギターが骨太なサウンドを聴かせるので中々カッコ良いんです。続いて「ノルウェーの森」の邦題で知られる名曲「Norwegian Wood (This Bird Has Flown)」ジョージ・ハリスンがシタールを弾きますが、西洋音楽でない要素をポップミュージックに持ち込んだ初の楽曲とされ、音楽的な拡がりを見せ始めます。ジョージはこの頃インド音楽に傾倒していきます。さて本楽曲ですが、アコースティックな雰囲気が溢れ、ジョンの歌もしっとりしていてとてもメロディアスです。「You Won’t See Me」は比較的シンプルな演奏ですが、歌メロをコーラスワークで引き立てるのが特徴的。コーラスといえば、続く「Nowhere Man」もコーラスを多用した名曲です。アカペラで始まりますが、これがとても美しいんです。ジョンがメインボーカルを取り、楽器が増えてもコーラスや歌メロが軸となっています。この哀愁漂うメランコリックなメロディが美しくて、涙を誘います。「Think For Yourself」はジョージ作の楽曲です。ローリング・ストーンズの「(I Can’t Get No) Satisfaction」に触発されて、ファズを効かせたベースをオーバーダビングしたのだそうで、重低音が響く演奏はグルーヴ感があって楽しめます。また、コーラスワークを多用した歌はメロディアスですね。「The Word」は単調なメロディを分厚いコーラスで補っています。シンプルですが骨太な演奏を楽しめます。「Michelle」はポールの歌うアンニュイな楽曲です。哀愁漂うメロディが美しく、また「Michelle ma belle (ミッシェル、美しい)」とフランス語で韻を踏んだ歌詞はアンニュイな歌唱によく合っています。
 アルバム後半は「What Goes On」で幕開け。レノン=マッカートニーに加えてリンゴの名がクレジットされており、ビートルズで初めてリンゴが作詞作曲に携わった楽曲です。ノリの良いロックンロールをリンゴが素朴な雰囲気で歌います。「Girl」はメランコリックで強い哀愁が漂う楽曲です。アコースティックな演奏に、ジョンのアンニュイな歌唱が心地良くも切なさを誘います。「I’m Looking Through You」はアコギを軽快に鳴らしてノリが良いのですが、でもメロディアスな歌は憂いを帯びています。時折エレキギターがキンキンと主張し、良いアクセントになっています。イントロのギターが美しい「In My Life」では、バックにチェンバロのような音色が聞こえます。これはプロデューサーでもあるジョージ・マーティンが弾いたピアノを録音、そのテープを半分の速度で再生してオーバーダビングしたのだそうです。メロディアスな歌も魅力的です。「Wait」はポップな曲調ですが、メロディは少し哀愁が漂っています。「If I Needed Someone」はジョージの楽曲で、翌年妻になるパティ・ボイドに向けたラブソングです。ギターが日差しのように暖かく、コーラスで彩られた歌も優しい印象です。そしてラスト曲「Run For Your Life」はジョンの歌う楽曲で、タンバリンをはじめ軽快な曲調ですが、歌メロには憂いがあります。

 ビートルズの作品の中でもとりわけアンニュイで、メランコリックな雰囲気が漂うアルバムに仕上がっています。メロディアスな良曲揃いで前作からの飛躍的な成長を感じますが、次作で更に成長を見せてくれます。

Rubber Soul (2009 Remastered)
The Beatles
 
Revolver (リボルバー)

1966年 7thアルバム

 LSD常用による幻覚症状が大きく影響して出来上がった本作はサイケデリックロックに大きくシフトした中期の傑作で、ビートルズの一つの到達点です。『アビイ・ロード』に並ぶ最高傑作候補です。
 なお本作の楽曲はライブで披露されることはなかったそうです。録音技術の向上によって出来上がった楽曲群はライブでは再現困難なものが多く、加えて本作リリース(1966年8月5日)直後の1966年8月29日を最後にビートルズはライブ活動を終了してしまいました。
 本作ではジョージ・ハリスン作の楽曲が3つ収録されており、ジョージの作曲家としての目覚ましい成長を感じさせます。逆にこれまでのビートルズを牽引してきたジョン・レノンですが、他のメンバーの成長もあってか、本作の前半はあまりジョンの気配がありません。後半でようやく主張し始めるので安心します。笑

 オープニングを飾る「Taxman」はジョージ作の楽曲で、彼の躍進を感じさせます。ジョージ三大名曲にはカウントされませんが、個人的にはこれを加えたいくらい好みですね。咳払いで始まり、跳ねるようなベースや切れ味鋭いギターがカッコ良い。歌メロはキャッチーですが、歌詞では当時の英国の高すぎる税率に対する政治的批判がなされており、パンクロックの前身だという見方もあるそうです。続く「Eleanor Rigby」ポール・マッカートニー作。メロディアスで美しい頭サビから惹き込まれます。コーラスも効果的に使われていますね。ストリングスが楽曲をドラマチックに彩ります。ジョン作の「I’m Only Sleeping」は気だるげな雰囲気が漂います。アコギやドラムが妙に生々しい音ですが、ジョンの眠そうな歌声でまどろむような感覚に。なお中盤にバックで聞こえるギターは、ジョージのギターを逆再生しているのだとか。「Love You To」はジョージ作の楽曲で、シタールを全面的に用いてインド音楽への傾倒が顕著な1曲です。良くも悪くも強烈なインパクトを放ちますが、アルバムの中で浮いているかと思えばそうでもなく、バラエティ豊富すぎる本作の中においては意外に馴染んでいます。ジョージとリンゴ・スターのみが演奏に参加し、インドの外部ミュージシャンを起用しています。続く「Here, There And Everywhere」はポール作のラブバラード。優しく囁くような子守唄のような歌に加えて、ハミングが心地良い。流石は稀代のメロディメイカーです。「Yellow Submarine」はポール作曲ですがリンゴが歌っています。子どもでも馴染めそうなキャッチーなメロディを持つ名曲です。作曲が苦手なリンゴですが、おどけたボーカルは愛嬌があって魅力的ですね。ちなみに日本でも「イエロー・サブマリン音頭」なんて日本語カバーが流行ったようです。「She Said She Said」はジョンの楽曲で、メロディはキャッチーですが、少し歪んだ演奏はサイケデリックなトリップ感が漂います。
 レコードでいうB面、アルバム後半はポールの歌う「Good Day Sunshine」で幕を開けます。高揚感を煽るイントロに、口ずさみたくなるようなキャッチーな歌メロ、そしてリズミカルで心地良い演奏。聴いていると明るい気分になれます。続いてジョン作の「And Your Bird Can Sing」。ギターリフがカッコ良いロックンロール。晴れやかでノリが良い良曲です。「For No One」はポールとリンゴのみが参加した楽曲で、メロディアスでポップな歌メロが魅力的です。ゲスト参加のアラン・シヴィルが吹くフレンチホルンが、味があって良いですね。「Doctor Robert」はキャッチーな歌メロとベースラインが心地良い。中盤にハーモニウムが鳴ると途端にサイケ感が出てきますが、全体的には比較的シンプルなロックンロールです。そして「I Want To Tell You」はジョージの3曲目。ノリが良くてポップな雰囲気ですが、不穏なリフレインが組み込まれたりして意外に聴きごたえがあります。続く「Got To Get You Into My Life」はブラスが華やかな楽曲。リズミカルな演奏に乗せて、ポールのキャッチーな歌メロが魅力的ですね。口ずさみたくなります。本楽曲で綺麗に纏めに入りかけますが、直後にぶちこまれる強烈なラスト曲「Tomorrow Never Knows」。異様なイントロから何が起こるんだろうとワクワクさせてくれますね。ジョンが作曲し、エンジニアやプロデューサーのアイディアによって、脳みそを掻き乱して目が回るようなサイケデリックサウンドを生み出しています。ライブで演奏しない前提で様々な技術が用いられ、ADTという手法や、テープのループや逆再生などが使われています。サイケデリックロック時代の幕開けを感じさせる超名曲です。タイトルは文法的には間違っているそうですが、リンゴの独特の言い回しが採用されたのだそうです。ちなみにMr.Childrenも同名の名曲を出していますが、洋楽へのオマージュが多いので間違いなくビートルズを意識したことでしょう。

 アルバムとしての纏まりには欠けるものの、溢れんばかりのアイディアが詰まっていて、そして美しい歌メロの宝庫です。1曲たりとも捨て曲がないどころか、名曲じゃない楽曲を探すのが難しい。これまでの作品も名盤でしたが、ビートルズは本作で更に高みへといくのでした。初期から順を追って聴いていくと、それまでの作品と、『ラバー・ソウル』・『リボルバー』の2作品の間で劇的な成長を感じます。もちろん初期は初期で魅力があるのですが、本作は本当に凄い作品です。

Revolver (2009 Remastered)
The Beatles