🇬🇧 The Beatles (ザ・ビートルズ)

スタジオ盤②

中期:アルバムアーティストへの変革とサイケ化②

Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド)

1967年 8thアルバム

 世界に多大な影響を与えた1枚です。世界初のコンセプトアルバムとして、ロック史に残る名盤として1番に名前が挙がることの多い作品です。ジャケットも非常に有名で、本ジャケットのパロディも結構ありますね。
 『ラバー・ソウル』に衝撃を受けた米国のビーチ・ボーイズが対抗して『ペット・サウンズ』という名盤を生み出します。今度はビートルズが『ペット・サウンズ』に衝撃を受けて本作の制作に至りました。英米で切磋琢磨しながらロックはどんどん発展を遂げていきます。
 架空のロックバンドがロックンロールショーを行うというコンセプトの元制作された本作は非常に斬新で、英国ではビートルズの作品中最も売れました。またキング・クリムゾンのロバート・フリップは、本作を聴いてクラシックギターからエレキギターに持ち替えたという話も有り、プログレッシヴロック形成にも多大な影響を与えた作品です。しかし楽曲の質では『リボルバー』や『アビイ・ロード』等に比べるとやや劣るため、ビートルズの作品中唯一過大評価されている作品とも一部で言われています。でも90点にしたのは、私がビートルズを聴くきっかけが本作だったからです。個人的な最高傑作は『アビイ・ロード』に譲りますが、これも相当に愛着あるんですよね。

 本作は冒頭3曲の流れがあまりにも秀逸です。まずはポール・マッカートニー作曲の表題曲「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」で始まりますが、歓声のSEも含めて始まりを感じさせる1曲となっています。意外とヘヴィなギターリフをはじめ骨太な演奏が繰り広げられます。なおアルバム終盤にもリプライズとして出てきて、アルバム全体に統一感を生んでいます。リプライズの方がテンポが早くてノリが良いですね。そして前曲から繋がってそのまま雪崩れ込む2曲目「With A Little Help From My Friends」は、リンゴ・スターが歌うほのぼのとした1曲です。ポップで素朴な楽曲にリンゴの声がよく似合います。続く3曲目「Lucy In The Sky With Diamonds」ジョン・レノンが作曲したサイケデリックな1曲。耳に残るキャッチーなメロディも秀逸ですね。サイケ感の強い電子オルガンやタンブーラ(インドの楽器)、サビメロでの浮遊感あるコーラスなど幻覚的な演出がなされていす。更に楽曲の頭文字をとるとLSDになることから、ジョンは否定しましたがドラッグソングと言われています。ここまでの冒頭3曲が素晴らしい。
 続く3曲はポール中心に書かれた楽曲が並びます。「Getting Better」はギターのカッティングが割と鋭利ですね。でも全体的にリズミカルですし、歌メロはキャッチーで聴きやすいです。「Fixing A Hole」はゆったりとした雰囲気。ポールの歌声は好きですが、メロディが弱くて印象薄めです。「She’s Leaving Home」はハープやストリングスを用いた優雅な楽曲です。ポールとジョンがボーカル参加していますが、あとは外部のストリングス隊のみが参加した、クラシカルな楽曲です。続いてジョン作の「Being For The Benefit Of Mr. Kite!」は気だるい雰囲気が漂います。強烈なサイケサウンドが印象的で、オルガンやバスハーモニカがカーニバルのような演奏をしますが、ラリってキラキラとしたトリップ感を出しています。
 そしてアルバムは後半に突入。「Within You Without You」ジョージ・ハリスンのインド音楽趣味が炸裂する1曲です。シタールやタンブーラ(いずれも弦楽器)、タブラ(太鼓)などのインド楽器が用いられており異彩を放ちます。続く「When I’m Sixty-Four」はポールの歌うのほほんとしたポップな楽曲。クラリネットやバスクラリネットの音色が心地良い。幼心にテレビで聞いた記憶があって、個人的には懐かしさを覚える1曲です。「Lovely Rita」はジョンのコーラスワークが浮遊感を生みますが、リードボーカルはポール。「Good Morning Good Morning」はタイトルから朝の目覚めを連想しますが、それにしてはやたらと喧しくて賑やかな楽曲です。変拍子に加えてハードな演奏など結構面白いことをしているのですが、こんなにうるさいGood Morningはないだろというツッコミが勝って、聴くたび笑えてきます。そしてアルバムを締めにかかる「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (Reprise)」。表題曲のリプライズですが、テンポが速くて勢いに満ちています。そのままラスト曲「A Day In The Life」に続くのですが、これがまた凄いのです。ジョンとポールが別々に作曲した楽曲をくっつけて、その楽曲を飲み込むかのようなオーケストラの不協和音が襲ってきます。現実と夢の狭間を楽曲で表現したかのよう。ミュージシャンに人気の高い1曲で、こういう実験的な楽曲は後のプログレッシヴロックの隆盛に一役買っています。

 冒頭3曲とラスト2曲が素晴らしく、そしてアルバム全体に纏まりを持たせますが、中盤は地味な楽曲もあるので世界最高峰の超傑作かと言えば少し疑問符が湧きます。
 さて前作『リボルバー』から本作の間にジョンはオノ・ヨーコと出会いました。ジョンはスタジオにしばしばヨーコを連れてきて、メンバー関係に亀裂が入り始めます。またマネージャーのブライアン・エプスタインの死によって、バンドを纏められる人物がいなくなり、ビートルズ崩壊の足音が徐々に近づいてくるのでした。

Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band
(50th Anniversary Deluxe Edition)
The Beatles
Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band
(50th Anniversary Standard Edition)
The Beatles
 
Magical Mystery Tour (マジカル・ミステリー・ツアー)

1967年 9thアルバム

 ビートルズのマネージャーを務めたブライアン・エプスタインが1967年に事故により亡くなった後、ビートルズメンバーは映画『マジカル・ミステリー・ツアー』の制作を決めました。しかしエプスタインの判断なく、またプロの監督も起用せず、映画自体はグダグダに終わったそうです。そのサントラとして、米国の独自編集盤としてリリースされたのが本作でした。CD化に際してオリジナルアルバムに格上げされ、そして2009年のデジタルリマスターにより9作目として位置づけられることになった作品です。
 ジャケット写真は「I Am The Walrus」の撮影中に撮られたもので、楽曲にちなんだ「Walrus (セイウチ)」をはじめ動物の着ぐるみを着ています。

 アルバム前半は、前述した映画のサントラ楽曲が並びます。表題曲「Magical Mystery Tour」はトランペットが晴れやかに鳴り、ノリの良いイントロで始まります。キャッチーな歌メロやコーラスワークが爽快。テレビでもよく流れているポップな楽曲で、思わず口ずさみたくなりますね。「The Fool On Top」はノスタルジックな雰囲気が漂います。ポール・マッカートニーの歌は優しく囁くようで心地良く、そしてリコーダーが強い郷愁を誘います。「Flying」はインストゥルメンタルですが、メンバー4人が作曲者としてクレジットされた珍しい楽曲です。落ち着いていますが、スペイシーで幻覚的な音の広がりを見せます。続く「Blue Jay Way」ジョージ・ハリスン作。インド音楽は脱して、ダウナーな雰囲気でグワングワンと揺られるサイケデリックな楽曲です。ボーカルは加工されて怪しげだし、オルガンやチェロが不気味な雰囲気を助長します。「Your Mother Should Know」はポールがメロディアスで憂いを帯びた歌を歌います。曲調は跳ねるようにポップなのですが、憂いは払拭しきれず感傷的な気分になります。「I Am The Walrus」ジョン・レノン作。サイケ色の強い演奏に加えて、歪められたボーカルと笑い声などの演出で奇怪な印象の楽曲ですが、メロディラインはキャッチーなので耳に残ります。オルタナティブロックバンドのオアシスのカバーが有名ですね。
 ここからアルバム後半で、既発シングルを纏めています。「Hello Goodbye」は小中学校レベルのわかりやすい英語でポールが歌います。とてもポップなメロディで、聴き心地の良い楽曲ですね。続く「Strawberry Fields Forever」はジョンが作った楽曲のなかでは最高傑作に挙げる人も多いですね。オーケストラ風の音色を出せるメロトロンと呼ばれる楽器を用いてフルートに似た音を出しています。これによって音像がぼやけたような、ノスタルジックな感じを生み出しています。そしてジョンのアンニュイな歌が感傷的な気持ちを誘います。ラストの演出はサイケ感が強いですね。続いて「Strawberry Fields Forever」とともにシングル両A面を飾ったポール作の「Penny Lane」。こちらは前曲と違って輪郭が明瞭かつとてもポップな楽曲で、ジョンとポールの音楽的志向の違いがよく表れています。「Baby You’re A Rich Man」はジョンとポールの2つの楽曲を組み合わせてできた1曲だとか。またシンセサイザーの前身となるクラヴィオラインという楽器が使われています。バグパイプのような音がそれでしょうか?そして最後に控える名曲「All You Need Is Love」。私の妻は毎回「おにぎりソウル」に聞こえると言ってるんですが…。笑 CMでもお馴染みのこの楽曲は、とてもキャッチーなメロディとは裏腹に、意外と複雑なリズムを刻みます。イントロはフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」、エンディングはいくつかの楽曲から拝借しているのだそうです。

 サイケデリックロックな作風が表れています。アルバムとしての統一感はありませんが、キャッチーな楽曲も多くて聴きやすく、最初の1枚にも向いているかもしれません。

Magical Mystery Tour (2009 Remastered)
The Beatles
 
 

後期:メンバーの個性爆発とバンドの崩壊

The Beatles (ザ・ビートルズ)

1968年 10thアルバム

 通称『White Album (ホワイト・アルバム)』。2枚組のアルバムで、全30曲の大ボリュームです。録音技術の向上によってメンバーが一堂に揃わなくとも録音できるようになり、メンバー関係の亀裂も相まって個別に制作されることが多くなりました。『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』でトータル的なコンセプトアルバムを作り上げたビートルズですが、本作ではその真逆を行く、雑多で統一感の無さが特徴です。しかしメンバー4人それぞれの個性が発揮された様々な楽曲が収録され、バラエティ豊富で魅力的な楽曲の宝庫です。取っ散らかっているもののバラエティ豊富で魅力的な作品を評するのに『ホワイト・アルバム』風と例えに使われることもあります。
 
 
 レコードでいうA面、CDだとDisc1になりますが、まずはポール・マッカートニー作の「Back In The U.S.S.R.」で始まります。ソ連に帰ってきたと喜びを表現したノリの良いロックンロールです。米ソ冷戦の最中にソ連を称賛したがためにスパイ疑惑が出たようですが、単にチャック・ベリーの楽曲「Back In The U.S.A.」をパロっただけだったようです。なお細かな制作指示に嫌気がさしたリンゴ・スターが出ていってしまい、ベースだけでなくドラムもリードギターもポールが演奏しています。「Dear Prudence」ジョン・レノンの楽曲で、気だるい雰囲気で進行します。サイケ感が強い終盤はドラマチックに盛り上がります。「Glass Onion」はブンブン唸るスリリングなベースが特徴的。ストリングスも鳴っていますが、これも緊張感があります。続いて陽気な「Ob-La-Di, Ob-La-Da」。ポール作の楽曲で、ジャマイカのスカに影響を受けた1曲です。知名度の割に海外では人気がないそうですが、ポップなメロディは耳馴染みも良くて日本では人気の高い曲です。ノリが良く楽しげな演奏に分かりやすいメロディで個人的には結構好き。1分足らずの奇怪な楽曲「Wild Honey Pie」を挟んで、ジョン作の「The Continuing Story Of Bungalow Bill」。牧歌的でコミカルな雰囲気のパートと、ダウナーなパートが交互に繰り返され、無理やり繋げられているような違和感があります。なおビートルズ曲で唯一、オノ・ヨーコのソロ歌唱パートが含まれている楽曲です。そして「While My Guitar Gently Weeps」ジョージ・ハリスン三大名曲の一つで、陰りがあって強い哀愁が漂うメロディアスな名曲です。ジョージの友人であるエリック・クラプトンが泣きのギターを弾いています。エリック・クラプトンの力量に頼ったのもあるようですが、それ以上にメンバーの険悪ムードを打開したいというジョージの意図があったようで、スタジオにエリック・クラプトンが現れると、ジョンとポールの険悪な雰囲気が好転したといいます。続いてジョン作の「Happiness Is A Warm Gun」。3つの楽曲をくっつけたという楽曲で、自然に場面転換するプログレ的な楽曲です。強い哀愁漂うダウナーな序盤はギターも切れ味が鋭いですね。中盤はテンポアップして緊張が張り詰めますが、すぐさまゆったりとした終盤パートへ。でもジョンはシャウト気味の力強い歌唱を聴かせます。
 ここからレコードB面。「Martha My Dear」はマーサと名付けたポールの飼い犬を題材にした楽曲で、ブラスやストリングスが楽曲を彩ります。「I’m So Tired」はジョンが気だるげに歌いますが、途中からソウルフルな歌唱やハードな演奏に変貌してスリリングな楽曲になります。続く「Blackbird」はシンプルな名曲です。ポールによるアコギ弾き語りで、メロディが良くほのぼのしていて、とても聴き心地が良いですね。「Piggies」はジョージ作の楽曲で、ゲストのクリス・トーマスが弾く美しいハープシコードが特徴的。このハープシコードに加えストリングスがバロック調の魅力的な楽曲を作り上げます。ポールの「Rocky Raccoon」はシンプルなアコースティックサウンドに、語り口調のような歌い方で進行。途中から楽器が増えてご機嫌な雰囲気になります。続いて「Don’t Pass Me By」。リンゴが初めて作曲を行った楽曲で、4年間構想して出来上がった1曲なのだそうです。ほのぼのとした歌と楽曲の雰囲気はリンゴの温厚な人柄が表れているようです。「Why Don’t We Do It In The Road?」はポールとリンゴだけでレコーディング。同じ歌詞を反復するポールの歌はかなりソウルフルです。「I Will」は後にポールの妻となる、恋人リンダ・イーストマンに捧げた楽曲。アットホームな演奏に加えて、優しい歌メロに癒やされます。「Julia」はジョンが亡き母ジュリア・レノンについて歌った1曲です。アコギに乗せて、囁くようにアンニュイな歌を聴かせます。

 続いてレコードC面、CDだとDisc2に突入。名曲「Birthday」はイントロのキャッチーなギターリフが印象的です。歌メロが始まると怒鳴るようにパワフルで、こんなに喧しい誕生祝いだと笑ってしまいますね。そしてハードロック気味な演奏はスカッと爽快。4人バラバラの個性が発揮された本作ですが、ポールとジョンの共作曲ではこれが良いです。「Yer Blues」はジョン作のブルージーなハードロックです。スローテンポで泥臭い演奏は骨太で、そして終始シャウト気味のパワフルな歌唱もカッコ良い。「Mother Nature’s Son」は牧歌的な楽曲です。ポールのアコースティックな演奏にブラスを加えて盛り上げます。ブラスは主張しすぎず、素朴で温かい雰囲気です。「Everybody’s Got Something To Hide Except Me And My Monkey」はジョン作のハードロック曲。ジョンはシャウト気味に力強く歌い、そしてキンキンと唸るギターを中心に、グルーヴ溢れる演奏を繰り広げます。「Sexy Sadie」は若干歪んでサイケデリックな雰囲気が漂います。メロディは憂いを帯びています。そしてスリリングな名曲「Helter Skelter」ザ・フーに触発されて「騒々しい楽曲」を目指したというこの楽曲は、ビートルズにしては非常に激しくてヘヴィメタル曲の草分けとも言われています。ハードロック/ヘヴィメタル界でも人気の高い1曲です。どっしりとした力強い演奏によって強い緊張が張り詰め、そして怒鳴るかのようなポールの歌もスリリングでカッコ良いですね。ラストにはリンゴがシャウトしますが「指にマメが出来ちゃったよ!」という叫びで、そこだけはなんだかほっこり。そして「Long, Long, Long」はジョージの楽曲。激しい前曲と比べると気だるさが際立つものの、ラストの不協和音はスリリング。
 そしてレコードD面は気だるいロックンロール曲「Revolution 1」で幕を開けます。この楽曲と終盤近くの「Revolution 9」は、元々は1つの曲で12分に渡る大作でした。ジョンはシングル化を希望したようですが、長すぎるために却下。軽快なロックンロールにリメイクされた「Revolution」がシングルカットされ、そのベースとなった楽曲がアルバム用に「Revolution 1」として生まれ変わり、シングル化に伴いカットされた難解なパートが「Revolution 9」となりました。こちらの「Revolution 1」は4分強で、シングル版と比べると遅くてルースな感じ。時折キンキンとつんざくギターがアクセントです。「Honey Pie」はサックスやクラリネットが入っていることもありますが、レトロ映画のような雰囲気が漂います。「Savoy Truffle」はジョージ作のロックンロール。キレのあるギターに加え、全体的に歪んだ音色がヘヴィな印象を与えます。「Cry Baby Cry」はジョンの楽曲で、どこか不穏で陰のある雰囲気です。ラストにポールの即興演奏が付け加えられています。そして問題作「Revolution 9」。前述のとおり「Revolution 1」の片割れで、ジョンがオノ・ヨーコに影響を受けて制作した実験的な楽曲です。様々なテープや短い演奏、不協和音等がコラージュのように切り貼りされ、実に8分に渡る前衛的で難解な楽曲が繰り広げられます。これは理解できません…。そしてラスト曲「Good Night」はリンゴがボーカルを取っています。元々はジョンが、当時5歳になる息子のジュリアンに向けた子守唄として書いた楽曲です。ストリングスによる演出とリンゴの甘い歌声で優雅な雰囲気。ジョンというよりポールが書いたような印象を受けます。
 
 
 メンバーそれぞれの才能を堪能できる、バラエティ豊富な30曲。初めて聴くには取っ散らかっていて散漫な印象ですが、ビートルズの魅力を知ってから本作に触れると、宝箱のような珠玉の楽曲の数々に魅了されることでしょう。

The Beatles (The White Album)
(50th Anniversary Deluxe Edition)
The Beatles
The Beatles (The White Album) (2009 Remastered)
The Beatles
 
Yellow Submarine (イエロー・サブマリン)

1969年 11thアルバム

 アニメ映画『イエロー・サブマリン』のサウンドトラックとして制作された本作。マネージャーのブライアン・エプスタイン存命中に企画が決まったそうですが、ブライアン・エプスタインは急逝。混乱の中、メンバーは乗り気ではなかったそうですが、アニメーションの試写会で芸術性の高さに感銘を受けたメンバーは新曲を用意、本作の制作に至ったそうです。
 既発曲「Yellow Submarine」(『リボルバー』収録)と「All You Need Is Love」(シングルとして発表/米国独自盤『マジカル・ミステリー・ツアー』に収録)が含まれていますが、ミックスは微妙に変えているのだそうです。

 映画タイトルおよびアルバムタイトルにもなった「Yellow Submarine」で始まります。陽気で楽しい楽曲で、口ずさめるような親しみのあるメロディが特徴的な1曲ですが、元々子供向けの楽曲として書かれたようです。リンゴ・スターの愛嬌のあるボーカルに温もりを感じますね。続く「Only A Northern Song」ジョージ・ハリスンの作曲。ハモンドオルガンを軸に、キラキラとして喧しい効果音が強いトリップ感を生み出す、とてもサイケデリックな楽曲に仕上がりました。メロディよりも演出によって楽しめる1曲です。「All Together Now」ポール・マッカートニー作。リズミカルでノリの良い1曲で、コーラスを繰り返しながらどんどんテンポアップしていきます。そしてジョン・レノン作の「Hey Bulldog」、これがクールで魅力的な1曲です。渋くダーティな雰囲気のイントロに魅せられますね。ギターは時折ヘヴィなリフを刻み、ベースはグルーヴ満点でカッコ良い。「It’s All Too Much」はジョージの作。6分半と長尺な楽曲で、楽曲自体はハンドクラップが鳴る陽気な雰囲気なんですが、キンキンとした音を立てるギターはかなりハードロック寄り。ロック界にハードロックが産声を上げる頃、ビートルズもその影響を受けたようです(台頭してきたジミ・ヘンドリックスを意識したとか)。続く「All You Need Is Love」はCM曲としてもお馴染みの名曲ですね。キャッチーなメロディですが、4拍子と3拍子を組み合わせた意外と複雑なリズムを刻みます。
 アルバム後半はジョージ・マーティンによるオーケストラ楽曲が占めます。ビートルズメンバーの影を感じないのでほとんど聴きませんが、サントラとして出来は悪くなく、ジョージ・マーティンもまた才能ある人だったのだと思います。「Pepperland」はストリングスが優美な楽曲で、華やかなオープニングを感じさせます。「Sea Of Time」はオーケストラのバックでタンブーラが鳴り、インド音楽のような印象。後半インド音楽要素は消え、オーケストラによる優雅な雰囲気に。「Sea Of Holes」ではテープの逆再生が一部用いられます(ごく一部ですが)。ビートルズの楽曲制作で用いた手法がこのサントラにも持ち込まれています。「Sea Of Monsters」はタイトルにMonsterとあるものの、怪しげだけどコミカルな感じも。終盤は少し緊張感が漂います。「March Of The Meanies」は前曲ラストの緊張を引き継ぎ、スリリングな演奏を繰り広げます。サントラでは一番スリリングで盛り上がる場面でしょうか。「Pepperland Laid Waste」は不穏な側面を見せつつ次曲へと繋ぎます。最終曲「Yellow Submarine In Pepperland」は「Yellow Submarine」をアレンジした楽曲で、馴染みのあるメロディをオーケストラが楽しげに演奏します。ちょっと可愛らしい。

 ビートルズのスタジオアルバムで唯一、全英全米ともに1位を獲得できなかった作品です。既発の2曲は名曲ですが別の作品で聴けますし、新曲はあるものの必聴レベルの名曲という訳でもありません。…という訳でほとんど聴くことはありませんが、向き合ってみると聴き心地は良い作品です。

Yellow Submarine (2009 Remastered)
The Beatles
 
Abbey Road (アビイ・ロード)

1969年 12thアルバム

 ジャケットアートが非常に有名な作品です。アビイ・ロード沿いにある「EMI・レコーディング・スタジオ (現アビイ・ロード・スタジオ)」で録音し、ジャケットはそのスタジオ前で撮影されました。髭モジャなジョン・レノンを先頭に、黒スーツのリンゴ・スター、裸足で歩くポール・マッカートニー、ジーンズ姿のジョージ・ハリスンと続きます。いくつかポール死亡説が噂され、「ジョンが神父、リンゴが葬儀屋、裸足で目を瞑ったポールは死者、ジョージが墓堀人」だとか、車のナンバーが28IFで「もしポールが生きていれば28歳」だとか噂を呼びましたが、ポールは2020年に新作ソロを出すなど現在でも現役バリバリで第一線で活躍していますね。
 ビートルズのラストアルバムは次作『レット・イット・ビー』ですが、ビートルズが最後にレコーディングした作品は本作(と長らく思われていたの)で、本作が「事実上のラストアルバム」とされていました。最近になり、アビイ・ロードの録音後にも「ゲット・バック・セッション」が継続されていた事実が判明し、現在では名実ともにラストアルバムは『レット・イット・ビー』となっています。メンバーそれぞれの個性が大爆発した素晴らしい名盤ですが、特に本作はジョージ3大名曲のうちの2曲が収録されていて、ジョージの貢献が本作を名盤に押し上げたのだと思います。また、後半を占めるメドレーが圧巻です。

 まずはジョン作曲の「Come Together」で始まります。ゆっくりしたテンポで進むカッコ良いロックンロールで、ロックンローラーのジョンらしい名曲です。ポールの弾くベースが心地良く、またタムを多用するリンゴのドラムもカッコ良い。続いて「Something」はジョージ会心のバラードで、甘い歌声で優しい楽曲を展開します。中盤の盛り上がる展開でテンポアップするドラムはスリリング。ジョージの楽曲の中でもトップクラスに人気で、「Yesterday」に次いで数多くのミュージシャンにカバーされている楽曲です。ポール作の「Maxwell’s Silver Hammer」はポップでリズミカルな曲調で、コミカルな雰囲気も漂います。でも歌詞はマックスウェルという医学生が銀のハンマーで撲殺を繰り返すという意外に物騒な内容です。続く「Oh! Darling」もポールの楽曲ですが、前曲とはうって変わってロックンロールを披露。ゆったりとしたテンポの演奏はベースが終始心地良く、またリンゴのドラムが時折パタパタとスリリングに盛り上げます。ポールは中盤以降とてもソウルフルに熱唱。アツいです。そして5曲目「Octopus’s Garden」はリンゴ作。リンゴ作曲の楽曲としては2曲目で、ジョージに手伝ってもらいながら完成させたそうですが、これは良い出来です。リンゴの歌は和やかな雰囲気で、リズミカルで心地良い演奏も心地良い。ジョージのギターは天に登るようなご機嫌な雰囲気。そしてジョンの「I Want You (She’s So Heavy)」は、ヘヴィロック的な重さ、ダークさがあります。8分近いこの楽曲はねちっこい反復が妙に耳に残りますが、ひたすらに重苦しく、ジョンの歌も時折叫びのように強烈。スリリングで魅力的です。また、ハモンドオルガンやムーグシンセなどの活用も良い感じ。
 レコードでいうB面、アルバム後半は「Here Comes The Sun」で幕を開けます。ジョージ作の1曲ですが、単曲ではこの1曲が本作のハイライトでしょう。柔らかい太陽の日差しを感じられる、温もりと優しさに溢れたあまりに美しい楽曲です。アコースティックな雰囲気ですが、ムーグシンセが用いられたり、真新しい要素も取り入れられています。そしてCDやストリーミング等では「I Want You (She’s So Heavy)」からの続きで聴けるので(レコードだとまた違うのかもしれませんが)、前曲でどんよりと暗い気分に陥った後に「Here Comes The Sun」で救いのような明るさ、温もりを感じます。続いてジョン作の「Because」。ハープシコードが若干暗い雰囲気を出しますが、それを打ち消す甘美なコーラスワーク。じっくりと浸ることができる楽曲です。
 そしてここから怒涛のメドレーが始まります。『アビイ・ロード』最大の聴きどころでしょう。まずはポールの「You Never Give Me Your Money」で口火を切ります。変化に富んだ楽曲で、ピアノのイントロから鳥肌が立ちますが、中盤はリズミカルで愉快なロックパート、そしてブルージーなロックへと変わります。カランコロンとベルの音が鳴り響いた後、そのままジョン作の「Sun King」へ繋ぎます。ここからジョンのターン。優しく囁くような「Here comes the sun king」という歌詞に「Here Comes The Sun」を思わせ、「ん?」と思っていると、スペイン語が並んでそのまま「Mean Mr. Mustard」へ。1分の短い楽曲ですが、重低音が唸り心地良いです。そしてノリの良いロックンロール「Polythene Pam」に流れ込みます。この楽曲も1分強の短い楽曲ですが、ドタバタとしたドラムをはじめ疾走感があって爽快ですね。そして次曲に自然と流れ込みますが、ここから主導権はポールに移ります。「She Came In Through The Bathroom Window」はダイナミズムに溢れるドラムが特徴的な楽曲です。躍動感があります。そしてここからメドレーのハイライト。ピアノバラード「Golden Slumbers」で鳥肌が立つような美しいメロディを見せます。ストリングスやホーンによる彩りが美しさを引き立てていますね。そのまま「Carry That Weight」へなだれ込みます。コーラスも加わって壮大な演出。メロディがあまりにも心に染み入ります。そのまま続く「The End」は演奏重視のスリリングで爽快な楽曲です。リンゴのドラムプレイが過去最高の出来で、中盤にはドラムソロも用意されています。ヘヴィに荒れるギターも良いですね。いよいよメドレーが終わる、そしてビートルズが終わってしまう。…しかし不完全さをあえて作り出すのがビートルズ。「The End」の余韻を感じさせながらも、最後の最後におまけのように奏でられる30秒に満たない「Her Majesty」で終わります。元々メドレー中盤に挿入しようとした名残で、ジャーンという不自然な始まり方。エンジニアがマスターテープの最後にとりあえずくっつけて置いたものを、ポールが気に入ったためそのまま残したそうです。これで本当に終わってしまったのでした。

 解散前のギリギリの緊張感の中、メンバーの個性が発揮された名盤です。個人的にビートルズのオリジナルアルバム最高傑作だと信じてやまない作品です。
 そして次作『レット・イット・ビー』のリリースを待たずして、1970年4月10日、ポールが大衆紙に脱退宣言したことによりビートルズは事実上解散するのでした。

Abbey Road (50th Anniversary Deluxe Edition)
The Beatles
Abbey Road (50th Anniversary Standard Edition)
The Beatles
 
Let It Be (レット・イット・ビー)

1970年 13thアルバム

 ビートルズのラストアルバムで、ビートルズ解散1ヶ月後にリリースされた作品です。
 1969年、崩壊しかけているバンドを再度纏め上げようと、ポール・マッカートニーが『Get Back (=原点に返ろう)』というコンセプトのもとでゲット・バック・セッションを行いました。エンジニアのグリン・ジョンズをプロデューサーに据え、過剰なオーバーダビングを排した初期のような作品を作ろうと進めていました。しかしセッションの音源をそのまま使うにはこれまでの作品と比べクオリティに劣ることから、アルバムを纏め上げる作業が難航。そうこうしているうちにメンバーの熱量も冷めてしまい、新作『アビイ・ロード』の録音・リリースが先行してしまいました。しかし契約上、アルバムをあと1枚リリースする必要があったことから、1970年に入りジョン・レノン不在のまま本作の追加レコーディングを行ったものの、またも頓挫。ジョンとジョージ・ハリスンが、音源テープを米国人プロデューサーのフィル・スペクターに托して完成したのが本作となります。本来の「オーバーダビングの排除」というコンセプトと全く異なり、オーケストラ等を加えて纏め上げられており、知らされていなかったポールは激怒したそうです。当初タイトルは『ゲット・バック』となる予定でしたが、ビートルズが瓦解してしまったこともあって、タイトルは『レット・イット・ビー』と改名されています。
 ジョージ・マーティンがプロデュースしなかった唯一のオリジナルアルバムで、ジョージ・マーティンやポールは本作を評価しなかった一方、頓挫したセッションの音源を短時間で纏め上げたフィル・スペクターの仕事ぶりをジョンとジョージは高く評価したそうです。

 まずは「Two Of Us」で幕開け。ジョンによるナレーションの後、アコースティックで牧歌的な楽曲が展開されます。優しい雰囲気が漂います。「Dig A Pony」は泥臭いイントロを経て、スローでブルージーな楽曲を繰り広げます。ゆったりとしてグルーヴィ。続いて名曲「Across The Universe」。ジョンの作った楽曲では最高傑作と思っています。アコギのシンプルなサウンドが温かく、ジョンが優しく語るように歌うメロディも心地良く耳に残ります。アットホームな空気ですが、途中からコーラスやオーケストラが加わって、幻想的で神々しい雰囲気を醸し出します。一転して重厚な雰囲気に変える「I Me Mine」はジョージの作。ハモンドオルガンをはじめ暗くメランコリックな空気ですが、サビメロでは攻撃的な楽曲へと変わります。「Dig It」はおふざけな楽曲。ジョンがボブ・ディランの「Like A Rolling Stone」やCIAだのBBCだのを連呼。裏声で語りを加えると突如始まる表題曲「Let It Be」。おふざけな前曲からピアノ伴奏で急に気を引き締める、無茶苦茶なアルバムの流れもビートルズらしいですね。これはポールの作った楽曲の中で1、2を争う名曲だと思っています。初めて聴いたのは音楽の教科書だったでしょうか?ピアノを主体にゴスペルの要素も取り入れた美しいバラードで、語り継がれるべき名曲ですね。「ありのままに、為すがままに」というポジティブなメッセージは胸に響きます。なお「Mother Mary」は聖母マリアではなくてポールの亡き母メアリー・マッカートニーだとも言われています。なお本作ではギターのオーバーダビングのほか、オーケストラを強調したアレンジになっています。「Maggie Mae」はビートルズの故郷リヴァプールに伝わるトラッドで、僅か40秒しかありません。中途半端なところで終わっている印象。
 ここからアルバム後半。「I’ve Got A Feeling」はビリー・プレストンが電子ピアノでゲスト参加。落ち着いたブルージーな曲調ですがポールは熱唱。ポールの歌に引っ張られるように盛り上がります。後半はジョンにバトンを渡し、ジョンの落ち着いた歌声が聴けます。「One After 909」は古びたロックンロール調で、1960年頃に書かれた最初期のレノン=マッカートニー楽曲を引っ張り出して演奏しているようです。オリジナル楽曲なのにカバー曲のような雰囲気です。そして「The Long And Winding Road」は美しいバラード。ポールの甘い歌を優雅に飾り立てるオーケストラ&合唱のアレンジはフィル・スペクターによるものですが、ポールはこの過剰なアレンジに不満があったそうです。「For You Blue」はジョージ作のカントリー調の1曲。リンゴ・スターのドラムが小気味良く楽しげなリズムを刻み、アコギとスティールギターが心地良い音色を奏でます。そしてラスト曲はポール作の「Get Back」。タッタカタッタカ刻むビートが爽快ですね。歌詞の中に出てくる「Jojo」は漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の名前の由来となりましたが、この「Jojo」とはジョン・レノンのことを指していると言われています。「ジョン、元のビートルズに戻ろうよ」というポールの願いが込められているとか。ノリの良いこの楽曲をコンセプトの中心に据えて原点回帰を図ったのですが、願いも虚しくビートルズはGet Backできませんでした。

 正直言ってしまうと楽曲の出来不出来の差は結構感じます。ただ、あまりにも突出した楽曲がいくつかあって、それらが本作を牽引してくれるのが救いです。

Let It Be (2009 Remastered)
The Beatles