🇯🇵 GARNET CROW (ガーネット・クロウ)

編集盤②

THE ONE ~ALL SINGLES BEST~

2013年

 GARNET CROWの解散宣言後にリリースされた、解散前最後の作品。オールタイムシングルスベストとなっており、全曲リマスタリングされています。
 『Best Selection 2000 to 2005』や『THE BEST History of GARNET CROW at the crest…』とは異なり、バージョン違いやアルバム曲/カップリング曲などは収録せず、純粋にシングルだけをかき集めています。また曲順もリリース順どおりで、ディスクの分け方も機械的。無機質な感じは否めませんが、全シングルを網羅しその変遷を追える「記録」としては優れたベスト盤ですね。更に、カップリング曲ベスト『GOODBYE LONELY ~Bside collection~』と合わせれば、主要なシングル/カップリング曲をひととおり揃えられるのも大きなポイントでしょう。
 
 
 Disc1は透明感のある瑞々しいサウンドと、中村由利の歌声がか細くて儚かった、そんな初期のシングル群が並びます。
 「Mysterious Eyes」は軽快なデビューシングル。後々まで長く関わることになるアニメ『名探偵コナン』で起用されました。中村の中性的な歌声は男性に間違われたり、コナンの中の人(高山みなみ)とも言われたりしていました。
 そしてもう1つのデビューシングル「君の家に着くまでずっと走ってゆく」。古井弘人とミゲル・サ・ペソアの共同アレンジで、瑞々しく温もりに溢れるアコースティックサウンドがとても心地良いです。AZUKI七による、恋人と過ごす日常の幸せを描いた優しい歌詞にも癒されますね。個人的にも思い出深くて愛着のある楽曲です。
 「二人のロケット」では結婚して新生活を始めたのでしょうか。飛び抜けた幸福感に僅かな不安を抱えた気持ちを、飛び立つロケットにたとえた歌詞が秀逸です。アップテンポのキャッチーな楽曲で耳馴染みも良い、ライブの定番曲です。
 続く「千以上の言葉を並べても…」は寂寥感のあるサウンドに切ない歌詞が響きます。1番と2番の歌詞の対比が美しく、そして中村の儚い歌声がこの悲しげな歌詞をより切なく引き立てます。
 そしてファン人気の高い名曲「夏の幻」。他のベスト盤では「secret arrange ver.」が収録されるため、本作収録のオリジナルバージョンは意外とレアだったりします(イントロがブリトニー・スピアーズの楽曲に酷似しているとの悪評を気にしたのかもしれません)。小気味良いサウンドにメロディアスな歌が切ないです。
 「flying」はゲーム『テイルズ・オブ・エターニア』のテーマ曲に起用され、GARNET CROWのシングルでは3番目の売上を誇ります。サビでの多重コーラスが、タイトルにもあるように飛んでいるような感覚を生み出して爽快。初期はか細く初々しい中村の歌声をサポートするかのような、分厚いコーラスワークによる浮遊感が魅力です。
 初期のネオアコ路線は「Last love song」で最高潮に。小気味良いアコギにグルーヴ感のあるベース、打ち込みドラムが作る軽快なサウンド。そしてメランコリックな歌声で奏でるメロディはとても切なく、胸に刺さります。メロディは哀愁たっぷりでとても切ないですが、「これが最後の love song の始まりに… なるよう祈る」と純愛を捧げる歌詞は、解釈次第では死ぬまで添い遂げる気概に満ちていて、意外とポジティブにも取れます。GARNET CROW最高の1曲はこれだと思っています。
 「call my name」も素晴らしい名曲。アコギから徐々に楽器が増えて、頭サビでぱっと花が咲くかのように始まるオープニング、これがとても素晴らしくてワクワクさせてくれますが、古井のアレンジの賜物ですね。更にアンニュイな歌声と多重コーラスが作る多幸感もあって、聴いているととても幸せな気分になれます。また、メロディと歌詞のシンクロ具合も素晴らしく、不自然な継ぎ接ぎ感がありません。特に「君と歩いてゆく日々に~(中略)~ふと思い出したように call my name」のハマり具合には感服。
 「Timeless Sleep」は影のある楽曲。か細い声で失意に満ちた歌詞をメランコリックに歌いますが、この歌い方が本人達は気に入らなかったのか、バージョン違いも多いです。私はこのオリジナルバージョンが断然好みですけどね。サウンド面だとベースラインが魅力的ですね。
 「夢みたあとで」はGARNET CROW最大のヒット曲で、私はこの楽曲を契機にGARNET CROWにハマりました。多くのファンを掴んだ名バラードで、桜が舞うPVが印象的なので春先に聴きたい1曲ですね。デビュー前から温めていた楽曲だそうで、儚く切ない歌メロの美しさを引き立てるシンプルなアレンジに仕上がっています。ピアノ伴奏が主体ですが、この頃から岡本仁志がとても良いギターソロを弾くようになり、彼の魅力も大きく増していきます。
 なお『Best Selection 2000 to 2005』でも述べたとおり「Last love song」から「夢みたあとで」までの4曲は個々に独立したシングルであるものの、歌詞が一連のストーリーのように繋がっているようにも見えます。一途な恋を歌い(Last love song)、恋が成就し始まった甘くて幸せな日々(call my name)。しかし「君がいなくなって」どん底を味わい(Timeless Sleep)、一連の日々を思い返しながら、かつての日々を夢見てしまう(夢みたあとで)。続けて聴いても一つのストーリーになりそうな気がします。
 「スパイラル」はライブの定番曲。序盤はノスタルジックな雰囲気を纏って大人しく開幕しますが、途中から加速して躍動感溢れる疾走曲へ変貌。切なさも感じさせながら、清涼感溢れる爽やかさに満ちています。ライブだと更に激しいアレンジで、中村は会場を煽りながらサビを何度も繰り返し、古井のオルガンや岡本のギターもアグレッシブです。AZUKIは一歩引いて楽しんで眺めてる感じ。笑 この楽曲はライブが本番ですね。
 そして「クリスタル・ゲージ」は透明感のある澄んだサウンドに、「La La tu lu Rah Ta」と語感の良い不思議なフレーズとファルセットの多用により浮遊感に満ち溢れています。とても心地良い楽曲です。
 
 
 Disc2は中期シングル群。アニメ『名探偵コナン』のタイアップで有名なGARNET CROWですが、この時期はアニメ『メルヘヴン』のタイアップが集中していた時期でもあります。楽曲のバラエティも豊かになってきたのもこの頃からですね。
 1曲目の「泣けない夜も 泣かない朝も」では開幕ラップを披露して何事かと思いますが、憂いのある中村の歌声にGARNET CROWを感じられます。この楽曲のポイントは古井がこだわったというベースラインで、シンセベースを用いて抜群のグルーヴ感を生み出しています。
 続く「君という光」はゆったりとした曲調の幻想的なバラード。中村の歌声はかつてのようなか細さはありませんが、しっかりとした歌声に憂いを帯びながら、メロディアスな歌をじっくり聴かせます。
 「僕らだけの未来」はラテン調のロック曲。これを契機に、GARNET CROWのロック曲=ラテンという謎の図式が出来上がりました。疾走感のあるカッコ良い楽曲で、力強く骨太なサウンドに岡本のギターが映えますね。また、中村の色っぽい吐息を聴けるのもこの楽曲のポイントだったりします。笑
 そして名バラード「君を飾る花を咲かそう」。知人の身内の葬儀に参加したことにインスピレーションを得て中村が作曲したのを、示し合わせていないのにAZUKIが同じイメージの歌詞を作ってきてお互いに驚いたというエピソードがあります。重厚なアレンジと、そして一語一語噛みしめるかのような切ない歌唱が胸に響きます。
 「忘れ咲き」はお手本のような王道バラード。音楽の教科書に載せてほしいくらいですね。ピアノ伴奏に乗るノスタルジックな歌が、どこか懐かしい気持ちにさせます。途中ストリングスが加わり華やかになりますが、同時に切なさも引き立てます。間奏のギターも泣かせにかかってきますね。名曲です。
 続いて「君の思い描いた夢 集メル HEAVEN」。曲名はアニメ『メルヘヴン』とのタイアップを意識したものですが、ギャグのようなタイトルは意外にもサビで歌われるとしっくりくる気がします。荒々しくロックなギターや無骨なベースがカッコ良い、キャッチーで爽快なアップテンポ曲です。
 岡本の晴れやかなギターで始まる「晴れ時計」は、軽快でほのぼのとしています。軽やかな曲調に可愛らしい歌詞でポップな印象が強く、晴れた日のお出掛けをイメージする明るい楽曲ですね。
 「籟・来・也」はスケール感のある楽曲。ケーナを用いた民族音楽っぽい音楽に、中島みゆきのような歌唱で異彩を放っています。個人的には全シングル中最も苦手な楽曲ですが、良くも悪くも強いインパクトを残します。
 続く「夢・花火」は、「僕らだけの未来」に続くラテンフレーバーのロック曲第二弾。和風テイストも取り入れたとてもカッコ良い楽曲で、情熱的でアグレッシブ。アウトロは急にクールダウンしますが、ここには般若心経が歌われる予定だったとか。結局は却下となったものの、AZUKIのダークな一面が見え隠れします。
 「今宵エデンの片隅で」はキャッチーでダンサブルな楽曲です。華やかで彩り豊かなサウンドに、打ち込みドラムの軽快なノリが気持ち良くて、また耳馴染みの良いポップなメロディは口ずさみたくなります。これもライブの定番曲で、メンバーと会場の掛け合いが楽しめます。
 一転して「まぼろし」は霊的な雰囲気すら漂う、暗くて神秘的な楽曲です。唯一、チープな打ち込みが浮いていますが…。なおドラマ『新・科捜研の女』のテーマに起用されました。
 そして「風とRAINBOW」はラテン風味のロック曲第三弾。情熱的なパーカッションとは対照的に、歌詞は無機質な感じです。
 
 
 Disc3は中期後半からラストシングルまで網羅。この時期の途中からシングルのリリースペースがガクッと落ち、代わりに編集盤の乱発が目立ってきました。
 「この手を伸ばせば」で開幕。両A面シングルの片割れがDisc2ラストに収められていることや、『メルヘヴン』タイアップシリーズ完結という区切りもあるため、この楽曲はDisc2に入れてほしかった…。各Discの収録曲数のバランスを優先した区切り方がなんとも無機質な感じです。ロッカバラードのこの楽曲は中村の力強い歌唱が特徴的で、ラストなんて岡本のギターと思いっきりバトルしています。繊細な初期楽曲からは大きく変わりましたが、個人的にはかなり苦手な楽曲だったりします。
 続いて「涙のイエスタデー」。オープニング向きの楽曲ですが、前述のとおり機械的な分け方のため2曲目のポジションに収まっています。頭サビで最初からフルスロットルな『LOCKS』バージョンの方が爽快ですが、本作収録のオリジナルバージョンは徐々にヒートアップしていく感じ。キャッチーで、そしてとてもダンサブル。とても大好きな楽曲です。
 そして中期屈指の名曲「世界はまわると言うけれど」。包み込むような幻想的なサウンドに、諦めのような歌詞を反映した気だるく憂いのある歌唱。これが音の海に揺られて漂うかのような、とても心地良い感覚を生み出します。サイリウムの幻想的な光やキーを下げるアレンジ(これがしっくりくる!)など、ライブならではの演出でその魅力を更に更に増すので、ライブで聴きたい1曲です。
 「夢のひとつ」は切ないバラード。「愛は終わったと互いに知ってる」から始まる悲しげな歌が、切なく響き渡ります。「なくして気づいてまた淋しがる」などの刺さるフレーズが多く、歌詞カードと向き合って聴きたい1曲です。
 風格漂う「百年の孤独」はヘヴィながら哀愁を湛えた重厚な1曲。シングルというよりアルバム曲のような楽曲で、単曲としてのキャッチーさは少なく突出していない印象ですが、アルバム『STAY ~夜明けのSoul~』の流れの中でその魅力を最大限発揮していました。
 「Doing all right」はアップテンポ曲。クイーンの「We Will Rock You」のような「ズンズンチャッ」の軽快なリズムが楽しいですね。曲調は爽快ですが、メロディアスな歌は切なさも感じさせます。
 「花は咲いて ただ揺れて」はシリアスで悲壮感たっぷりの哀愁バラード。シングルでリリースされたときはあまり好きではありませんでしたが、これも7thアルバム『STAY ~夜明けのSoul~』で大きく見直した1曲でした。ちなみにこの7thアルバム、個人的に魅力に乏しいと思っていたシングル群を一気に救済して魅力を与えた大名盤だと思います。
 そして「Over Drive」は劇場版『名探偵コナン 天空の難破船』のタイアップを果たし、オリコン4位というGARNET CROWのシングル最高位を獲得した楽曲です。可愛らしいPVに、空色のよく似合うポップで爽やかな楽曲で、明るく元気をくれます。ストリングスのアレンジも心地良いですね。
 「Smiley Nation」は「笑顔」をテーマにした爽やかな名曲。東日本大震災の悲しみから立ち直れるようにという意図もあったようで、救いのような底抜けの明るさで、聴く人に元気を与えてくれます。疲れたときに聴くと栄養ドリンクのようにメンタルをチャージできます。
 「Misty Mystery」ではこれまでのGARNET CROWのイメージを自ら脱ぎ捨てて、デジタルロック路線へ転向。この楽曲は個人的にあまり好みではないものの、古井の引き出しの多さには驚かされます。
 そしてラストシングル「Nostalgia」。前曲の路線を拡張した古井のデジタルサウンドに、中村の力強い歌唱は強い存在感を放ちます。とにかく圧倒的という印象。ラストアルバム『Terminus』ではオープニング曲として、とても強い牽引力を発揮しています。
 
 
 本作にそこまで愛着があるわけではありませんが、一部の編集盤と違ってネガティブな感情も特にはないので、GARNET CROWの活動記録として純粋にオススメできる作品ですね。手っ取り早くシングルを聴ける作品として優れているため、今から新規でベスト盤を探している方には本作から入るのが良いと思います。ただGARNET CROWの場合はアルバム曲の水準が高いこともあり、下手にシングルベストを聴くよりも、いきなりオリジナルアルバムを聴く方が入門として適している気もします。

THE ONE ~ALL SINGLES BEST~
GARNET CROW
 
GARNET CROW REQUEST BEST

2013年

 GARNET CROWの解散後にリリースされた、ファン投票で選曲が決まったベスト盤です。ファイナルライブで披露された未発表曲「バタフライ・ノット」が収められています。編集盤なので曲順の良し悪しはさておき、ファン投票結果なので人気曲の揃った選曲が素晴らしい。個人的に好きな楽曲トップ10のうち8つは入っていて、ベスト盤によくある選曲への不満は少ないです(あえて言うなら「アオゾラ カナタ」が欲しかったかな笑)。というか私はファン人気上位の王道曲が好きだったんだなぁとしみじみ感じました。ちなみにインディーズ盤と5th『THE TWILIGHT VALLEY』、7th『STAY ~夜明けのSoul~』の3枚からは残念ながら1曲も収録されていません。
 
 
 Disc1は「夢みたあとで」で開幕。エンディング向きの楽曲だと思いますが、やっぱり1曲目に来るんですね。笑 穏やかなピアノ伴奏を主体としたシンプルなアレンジに、所々入る岡本仁志のエモーショナルなギターがとても良い仕事をしています。そしてなんといっても、美しいメロディと切ない歌詞を引き立てる中村由利の繊細で儚げな歌声がたまらなく魅力的です。最大のヒットとなった看板曲にして、GARNET CROW屈指の名曲です。
 続いて未発表曲「バタフライ・ノット」。穏やかなアコギに乗せて、囁くように優しくアンニュイな歌声。そしてストリングス等が加わって、徐々にドラマチックに盛り上げます。切ない楽曲ですね。
 「海をゆく獅子」は中村の趣味全開のダークな楽曲です。陰鬱な歌と冷たいピアノが不気味な緊迫感を生み出していますが、その中でサックスのメロウな音色が渋いですね。AZUKI七による重苦しい雰囲気の歌詞は、ヘミングウェイの『老人と海』がモチーフだとか。
 そして過去最高のアルバムラスト曲「closer」。緊張感MAXのアルバムのラストというポジションも含めての名曲だったとは思いますが、単曲でも魅力は放っています。優しく諭すような歌は諦めのような悲しみに満ちていて、そして「乗り遅れたバスを待つみたい」の手前で突き落とすかのように一気に低いトーンになる瞬間は特に刺さる…。解散のイメージと強く結び付いたこの楽曲は、聴く度に切なくなります。アウトロの余韻も強い喪失感があって切ないです。
 カップリング曲から採用された「Clockwork」。個人的には意外な選曲ですが、カップリングベストに収録されなかったことも投票動機になったのでしょうか?緊迫したシリアスな雰囲気で、ロック色の強いサウンドに、若干ヒステリックなサビメロが印象的。中々クールな1曲です。
 「Timeless Sleep」は失恋を歌った切ないバラード。消え入りそうな儚い歌声が魅力のオリジナルバージョンではなく、『Best Selection 2000 to 2005』に収録の低く暗い再録バージョンを採用していますが、個人的にはオリジナルの魅力を打ち消している印象で苦手です。
 続いて王道の哀愁バラード「JUDY」。カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』に着想を得た歌詞に、ドラマチックな演出のなされたメロディアスな楽曲です。重厚なサウンドは、音の海に浸るかのような心地良い感覚に陥ります。岡本の泣きのギターも聴きどころ。
 「メモリーズ」は軽快だけどセンチメンタルな楽曲。爽やかなサウンドとメランコリックな歌声の対比が心地良さを生み出し、派手さはないのに(音色は豊かなはずなんですけどね)、不思議と魅力的なのです。近年の楽曲ですが、初期楽曲のような素朴な雰囲気で懐かしい気持ちになります。
 「英雄」はヤマトタケルをモチーフにした楽曲。強い哀愁が漂う重厚なサウンドに、中村と岡本のデュエットが胸に響きます。全編を通して暗鬱で耽美なピアノが印象的です。
 「Maizy」は王道バラード。「こういうの好きでしょ?」と彼らから試されているかのようです。笑 美しいピアノの音色は強い寂寥感があり、ヘヴィなギターが引き締めます。中村の優しい歌声はサビでは感情たっぷりで、そんなメロディアスな歌を荘厳なアレンジで引き立てています。とても切ないです。
 一転「wish★」では趣向を変えてダンスナンバーを披露。はっちゃけている印象ですがこれでも大人しい方で、ライブでは古井のアグレッシブなオルガンをはじめ、とてもノリノリな楽曲へ変貌します。
 続いて「スカイ・ブルー」。個人的にはアルバム曲ナンバーワンで、青春が詰まった大好きな1曲です。「涙を拭いて 逆上がりして 隙間を抜けて 覗くスカイブルー」などの歌詞から子供時代を思い起こすようなノスタルジーを感じます。多重コーラスによる浮遊感と、爽やかなネオアコサウンドの心地良さ。溢れんばかりの清涼感に、どこか懐かしいノスタルジックな切なさを届けます。実に素晴らしい名曲です。
 そして「The Crack-up」、よくぞ選曲してくれました(人気投票の結果ですが笑)!まったりしたイントロからどんどん沈んでいくダークな楽曲です。スケール感のある歌詞は情景を少しイメージしづらいものの、切実に訴えるかのような中村の強い説得力のある歌唱に、切ない気持ちで満たされます。岡本のギターも泣いているかのような演出で刺さります。
 「夕立の庭」はGARNET CROW史上最高のカップリング曲です。透明感のあるサウンドの軸となる、麗しいピアノ。そして、中村のか細く繊細な歌声が奏でる切ないメロディ。とても美しく、庇護欲を掻き立てるような儚さもたまりません。ポリスの名曲をオマージュした古井の遊び心のあるアレンジも気に入っています。
 「忘れ咲き」は音楽の教科書に載せたい王道バラード。ピアノ伴奏にノスタルジックな歌が切ないです。郷愁を誘うAZUKIの歌詞が見事ですね。序盤はシンプルなサウンドですが、後半に向かって楽曲が盛り上がるにつれて、ストリングス等で引き立てていきます。
 そして「夏の幻 (secret arrange ver.)」。彼らの中ではこちらのアレンジバージョンこそ公式という見解なんでしょうか?この楽曲はファン人気が特に高い印象です。小気味良いサウンドに乗せた、転調を駆使した切ないメロディラインが魅力的です。中村のアンニュイで儚げな歌声も、楽曲の魅力を引き立てています。
 
 
 Disc2は「君 連れ去る時の訪れを」で幕開け。アルバムラスト曲をオープニングに持ってくる意地の悪さ。憂いのある曇天のような薄暗さから、晴れ渡って虹が見えるかのような彩り鮮やかなサビ、そしてラストへの展開が素晴らしいです。美しいコーラスやオルガンの音色によって多幸感を得られるので、いつまでも余韻に浸りたいです。すぐさま2曲目に続きますけどね。笑
 続く「Over Drive」は劇場版『名探偵コナン 天空の難破船』の主題歌に起用され、シングルでは自身の最高位(4位)を記録しました。青空を強く印象づける歌詞と、ストリングスに彩られた爽やかでキャッチーなメロディは耳に残ります。また爽やかなPVも魅力的ですね。実は難産だったようで、アウトテイクと思われる楽曲がいくつも存在します。
 「涙のイエスタデー」はシングルバージョンを収録。頭サビが爽快なアルバムバージョンを収録して欲しかったですが、ダンサブルでノリの良いリズムと、抜群にキャッチーなメロディの持つ魅力はどちらのバージョンでも変わらないですね。「イエスタデーと言えばビートルズでしょう」というメンバーのアイディアのもと、エド・サリヴァン・ショーをパロったPVがレトロな雰囲気を出しています。
 「君という光」は幻想的なバラード。ゆらゆら揺れるようなまったりとした曲調を、キラキラと彩るシンセによって幻想的な雰囲気に仕立てています。
 続く「Rhythm」は個人的に意外な選曲その2。隠れた名曲だとは思いますが、いくつかのライブ定番曲すら押しのけて票を獲得したのは素直に凄いですね。サウンドはロック色が強いものの、繊細で暗鬱な雰囲気。そして哀愁と憂いを纏った中村の儚い歌声は、多重録音によって刹那的な緊迫感を放つので鳥肌ものです。蜻蛉の儚い命を楽曲の雰囲気で見事に表現しています。
 「flying」はゲーム『テイルズ・オブ・エターニア』に起用されました。AメロBメロは低いトーンで物憂げな感じですが、対照的にサビは高いキーで、儚げでありながらも飛び立つような爽快感があります。そんなサビ部分は多重コーラスによって心地良い浮遊感を持っています。
 続いて軽快なデビューシングル「Mysterious Eyes」。アニメ『名探偵コナン』との記念すべき初タイアップで、当初は「コナンの中の人(高山みなみ)が歌っているの?」とか言われたりしていたそうな。
 そして超クールな楽曲「As the Dew」。ジャジーで大人びた雰囲気を持ちつつも、泥臭くてグルーヴ感抜群のファンキーなテイストを両立させた、強い個性を放つ名曲です。古井の高いアレンジ力の賜物ですね。とてもカッコ良いので、この路線でいくつか作って欲しかったです。
 「世界はまわると言うけれど」はライブで聴きたい名曲。AZUKIによる何もかも諦めたような歌詞を、中村が気だるげな歌唱で表現します。ですが幻想的なサウンドによって、この気だるさがとても心地良く感じられます。そしてサビの切ない雰囲気も刺さりますね。ライブだとサイリウムの光の海でより幻想的な感覚が強まります。
 「風の中のオルゴール」はラストシングルのカップリング曲。鼻声のような歌声ですね。全編を通して暗い雰囲気で、強い哀愁を放つメロディがとても切ない。特にサビの切ない歌メロは、聴いていると熱くこみ上げてくるものがあります。
 野良猫の視点で描く「Nora」は、カップリング曲でも人気の高い1曲。ほのぼのとしつつ、ノスタルジックな雰囲気で優しい気持ちになります。ラストの転調は夕暮れのようなイメージです。
 続く「call my name」は名バラード。アコギからベースが加わり、歌を彩るストリングスでぱっと花開くかのよう…いつ聴いても高揚感を煽る素晴らしいオープニングで、古井の編曲に脱帽です。そして魅力はイントロだけではありません。メロディにぴったりハマった歌詞も素晴らしく、AZUKI最高の仕事の一つだと思います。非常に高い完成度を誇る屈指の名曲で、聴いていると幸せな気分で満たしてくれます。
 「「さよなら」とたった一言で…」は哀愁のバラード。寂寥感のある歌唱が切ない気分にさせます。間奏のギターや郷愁を誘うハーモニカの音色はブルージーですが、泥臭くならず洗練された仕上がりです。
 続いて「Marionette Fantasia」。AZUKIの歌詞は大人のグリム童話をモチーフにしており、毒気のあるダークファンタジーな世界観を築きます。アコギとピアノを中心とした心地良いワルツに乗せて、メランコリックで影のある歌が魅力的ですね。
 「Holy ground」はファンの間で「聖地」の愛称で親しまれる名曲です。冒頭の「死んでしまえば生きなくていい」は強烈ですが、聴き進めていくと、絶望の淵にある人に救いの手を差し伸べるかのようです。辛い経験をした人へのピンポイントな応援ソングだったりします。静粛で荘厳なサウンドと神々しさすら感じられる多重コーラスで、浄化されるかのようです。
 最後に「Last love song」。曲順を最後にもってきたことで文字どおり「Last love song」になりましたね。私がGARNET CROWで一番好きな楽曲です。初期ネオアコ路線の完成系で、アコースティック主体の小気味良いサウンドに哀愁のメロディ。中村の歌声はか細くも切実に訴えかけてきて、とても切ない気持ちになります。最後を「時を止めた last love song 流れ続ける last love song 回り続ける old player」で締め括りますが、GARNET CROWが届けるラブソングは本作のこの楽曲で最後だけど、これからも末永く我々の楽曲を聞き続けてね…なんて想いを込めてのこの曲順なのでしょうか…。
 
 
 最後の最後にファンへ届けてくれたGARNET CROWからの贈り物です。選曲の良さについては他のベスト盤の追随を許しません。数あるGARNET CROWベストの決定盤と言える作品でしょう。

 本作のあと『GARNET CROW BEST OF BALLADS』なる編集盤がリリースされます。ライブ音源が入っているとは言え新曲が入っているでもなく、解散したグループのベストで稼ぎ続けようとするレーベルの意図が透けて見え、思い出を踏みにじられるような強い嫌悪感があってこちらは買わず終いでした。幸いにしてそれ以降ベスト盤が出続けるということは無いみたいです。

GARNET CROW REQUEST BEST
GARNET CROW
 
GARNET CROW BEST OF BALLADS

2014年

 GARNET CROW解散1年半後にリリースされたベスト盤です。直近3作のリリースが全てベスト盤なうえ、同じビーイング系列のZARDが毎年のように死人商売し続けていることもあって、解散したバンドで延々と搾取しようとするレーベルの意思が透けて見え、私は強い嫌悪感と不快感を抱いて唯一本作だけは購入しませんでした(買おうとして買えなかったリミックス盤を除く)。同じように不快感を抱いた人がそれなりにいたのか、単にリリースが知られていなかったのかは不明ですが、過去のアルバムはオリコン16位以内にチャートインしていたのに本作はオリコン最高55位という結果で終了。レーベル側も売れないと判断したのか、その後は誰得な企画盤が出ることはありませんでした。楽曲に一切の罪はないのですが、レーベルへの嫌悪から私が勝手に毛嫌いしている作品です。聴くことはないと思っていましたが、サブスク解禁に伴いボーナスDiscを除いて配信されたため、この機会に向き合ってみることにしました。上述の理由から強いマイナス感情を抱いている作品ではありますが、極力心をフラットにして笑、向き合いたいと思います。

 さて前置きが長くなりましたが。本作は「GARNET CROWはバラードに定評があるからバラード中心に選曲したベスト盤」となります。そうは言うものの「夢みたあとで」や「君という光」などのメジャーどころを微妙に外した選曲は、ライト層向けではなくディープなファン向けでしょうか。でもコアなファンはオリジナルアルバムや過去のベスト盤だってそれなりに聴いているだろうし…。そうなると、Disc2のライブ音源3曲に聴く価値が見い出せるでしょうか?
 
 
 オープニングを飾るのは王道バラード「call my name」。穏やかなイントロから頭サビ、そして歌を彩る演奏によって晴れやかな景色が一気に広がるかのようで序盤から一気に世界に引き込みます。歌を盛り上げる演奏とコーラスワークは多幸感に溢れ、聴いていてとても心地良い気分にさせてくれます。古井弘人渾身のアレンジに加えて、メロディにかっちりはまったAZUKI七の歌詞も秀逸。1曲目に相応しい名曲です。
 続いて少し珍しい選曲「冷たい影」。幸せいっぱいの前曲とは対照的で、オルガンが冷たく悲壮感のある音を奏でるイントロから一気にトーンを落とします。ギターも比較的ヘヴィですね。喪失感や寒々しさを感じるヘヴィでダークな楽曲ですが、メランコリックで美しさも感じられます。
 そして葬送歌「君を飾る花を咲かそう」。イントロから引き締まるような思いがします。重苦しくも感情たっぷりな中村由利の歌に引っ張られ、思わず涙を誘います。ピアノ主体ですが、オルガンやギターの味付けも良く、コーラスワークも美しいですね。
 「向日葵の色」はゴッホの『ひまわり』を題材にした、GARNET CROWでも屈指のダークな楽曲です。自殺という最期を遂げるゴッホの苦悩を楽曲で表現したのか、ドラマチックかつ終始救いようのない悲壮感が漂っており、とにかく重苦しいです。
 「風の中のオルゴール」はラストシングルのカップリング曲です。A面はデジロックという新たな試みがされていましたが、本楽曲はGARNET CROWお得意の王道バラードですね。暗く哀愁が漂い、メロディアスでノスタルジックなサビが切なく感じます。
 そして名曲「忘れ咲き」。この企画盤に相応しい、お手本のような王道バラードですね。ピアノイントロが優しく、そして中村のメロディアスな歌唱をストリングスが引き立てて郷愁を誘います。
 哀愁のバラード「この冬の白さに」が続きますが、ここまでで4thから4曲もセレクトされるという極端な偏りがあり、『I’m waiting 4 you』の派生のような感じ。
 一転して透明感に満ちた「in little time」。流麗で澄んだピアノが美しいものの、中村の歌唱はアンニュイでメランコリック。1980年代英国の香りが漂う、暗鬱で美しい楽曲です。
 そして中期屈指の名曲「世界はまわると言うけれど」。ポワンポワンとした光が思い浮かぶ優しく幻想的な演奏に、時折エコーをかけたアンニュイな歌唱が心地良さを与えてくれます。ゆらゆらと音の海を漂うかのよう。
 「未完成な音色」は初期の名曲で、イザナギとイザナミ、あるいはギリシャ神話のオルフェウスの物語がモチーフでしょうか。ダークですが神秘的な雰囲気を持つこの楽曲はコクトー・ツインズにも通じます。なお「in little time」とセットで選出された点が『Best Selection 2000 to 2005』とも被るという。
 「この手を伸ばせば」岡本仁志のギターが活躍するロッカバラード。ラストはギターとバトルを繰り広げる、繊細さとは無縁な中村の力強い歌唱。でも個人的には、ライブで岡本が甘い歌声で歌ったカバーバージョンの方が魅力的だったり…。
 続いて珍しい選曲「Anywhere」。ダークかつヘヴィな楽曲で、力強く歌うサビメロの「愛したい?愛さない?愛せないの…」といった三段活用が印象的ですね。
 「「さよなら」とたった一言で…」は寂寥感のあるバラードです。ハーモニカや間奏のブルージーなギターなど随所に渋さが表れていますが、ハミングのようなコーラスが全体を包み込んで、泥臭くならずにノスタルジーを誘う楽曲に仕上がりました。
 「巡り来る春に」は陰りのある楽曲ですが、ぼやけたキーボードや分厚いコーラスによって、繊細かつひんやりと幻想的な印象も与えます。なお本アルバムの流れでは若干浮いている感じ。
 そしてここから2曲はラストアルバムよりセレクト。「Maizy」はコテコテの王道バラードですね。重厚なエレピにエモーショナルなギターソロ。しっとりとした歌を聴かせ、サビメロではドラマチックに盛り上げます。ベタで狙ってる感がありますが、やはり名曲だと思います。
 そして最後は「closer」。「Maizy」の次にこの楽曲を配置したことで『Terminus』の持つ空気感を再現して、この楽曲の持つ寂寥感を増幅させていると思います。派手さはなく優しい演奏故に、諦めのような別れを描く歌詞を優しく諭すように歌う歌メロの切なさが引き立ちます。そして余韻を残すようにラスト曲として配置してくれたことも、本ベスト盤における評価ポイントです。
 
 
 ボーナストラック的な扱いのDisc2には、ライブ演奏の「君 連れ去る時の訪れを~the tales of memories ver.~」「夢のひとつ~THE FINAL ver.~」「夢みたあとで~THE FINAL ver.~」の3曲を収録。サブスクではDisc2は省かれてしまっており、聴き比べできないのでわかりませんが、ライブDVD化しているツアーからの選曲ですので、そこまでレアな感じはしません。
 
 
 選曲・曲順とも唸らせるほどではありませんが、少し意外性のある選曲が特徴です。全体で見ると4thアルバムから多くセレクトされていますが、前2作『THE ONE 〜ALL SINGLES BEST〜』や『GARNET CROW REQUEST BEST』とも多く被るのが残念。
 ベスト盤を乱発するくらいならフルのライブ盤を出してくれる方がよっぽどありがたいし、ファンの期待にも沿うのではと思うんですが、残念ながらオフィシャルなライブ盤は出ないですね。

GARNET CROW BEST OF BALLADS
GARNET CROW