🇬🇧 Blur (ブラー)
レビュー作品数: 9
スタジオ盤
デビュー
1991年 1stアルバム
ブラーは英国イングランドのロックバンドで、デーモン・アルバーン(Vo/Key)、グレアム・コクソン(Gt/Vo)、アレックス・ジェームズ(B)、デイヴ・ロウントゥリー(Dr)の4人組です。
デーモンが1988年に、ロンドン大学の学生時代に立ち上げた前身となるバンド「サーカス (Circus)」。そこにはデーモンの幼なじみのグレアムと、デイヴが参加しています。そしてグレアムの学友アレックスの参加を機にバンドは「シーモア (Seymour)」と改名、その後ブラーを名乗りメジャーデビューしました。スティーヴン・ストリートをプロデューサーに迎えてシングルヒットを出したのちに制作された本作は、全英7位を獲得しています。ジャケットはどうにかならなかったのか…。
アルバムは、デビューシングル「She’s So High」で開幕。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのようなシューゲイザー要素の強い楽曲で、ややノイジーなギターにデーモンの気だるげな声がこだまします。アレックスのベースも歌うようにうねります。「Bang」はストーン・ローゼズを想起させるグルーヴ感満載の楽曲。リズム隊の作るダンサブルなノリがとても気持ち良いです。続く「Slow Down」はノイジーでヘヴィ。ポップな歌メロ以外は暴力的なサウンドで、特にデイヴの変則的なドラムがスリルを生み出していてカッコ良いです。気だるげな「Repetition」は比較的音数少なく始まりますが、サビではグレアムの歪んだギターが分厚い霧のように包み込みます。グルーヴ感の強い「Bad Day」で揺られた後は、哀愁のメロディが魅力的な「Sing」が続きます。アンニュイで消え入りそうな儚い歌。そして淡々と反復する演奏は時折強弱をつけてドラマチックに演出します。そして「There’s No Other Way」はノリの良い1曲。マッドチェスター直系の、ダンサブルでクールなロック曲ですね。「Fool」はキャッチーで爽快な楽曲ですが、間奏にかなり変則的なリズムがぶち込まれるのでドキッとします。一筋縄ではいかないひねくれたところもブラーらしさに繋がっていきます。「Come Together」は躍動感のある疾走曲。デイヴのドラムが生み出す爽快感が中々魅力的で、勢いに満ちています。グルーヴィな楽曲にポップなメロディが光る「High Cool」を挟んで、「Birthday」は気だるく漂うような雰囲気。途中からノイジーなサウンドは強まります。最後は「Wear Me Down」。グレアムの歪みまくったギターがノイジーな音色を出しますが、激しさはなく気だるげな雰囲気です。
次作以降と比べると個性はやや薄く、先人達の影響を強く感じさせます。ポップセンスは流石で光る楽曲もありますが、楽曲のパターンが似通ってるのでちょっと後半だれてきます。
ブリットポップ三部作
1993年 2ndアルバム
『レジャー』でのヒット後にブラーはツアーを行いますが、その際にマネージャーがバンドの資金を使い込んだことが発覚。借金返済のために米国ツアーを行わされたものの、疲弊していたうえにグランジ旋風巻き起こる米国で成功は掴めず、大きな挫折を味わいます。その苦い経験の反動として英国的なものに固執するようになり、その結果生まれたのが「現代の生活はクズだ」とタイトルに銘打った本作です。英国ロックの伝統を取り入れ、ブリットポップ・ムーブメントの幕開けを告げた名盤です。聴きやすくてポップなんだけど、どこかひねていて一筋縄ではいかない作風で、XTCのようなメロディセンスを感じます。そのXTCのアンディ・パートリッジが当初プロデュース予定でしたが、音楽性が合わず解任。スティーヴン・ストリートがプロデューサーに就きました。
名曲「For Tomorrow」で幕を開けます。ノイジーなエレキが主導した前作とは異なり、グレアム・コクソンはアコギをかき鳴らして爽やかな印象。そしてデーモン・アルバーンの歌はほんのり哀愁を漂わせつつもキャッチーですね。サビはラーラーランララーと歌詞がないのですが、これは世界中で歌えるようにという意図があるのだとか。ブラーの楽曲はこういうラララとかナナナという歌が多い気がします。「Advert」はストレートなロックサウンドに乗せて、明るくキャッチーなんだけどどこかひねたメロディ。途中ハンドクラップも加わって、ノリの良い1曲です。続いてアレックス・ジェームズのベースが主導する「Colin Zeal」。ハードなサウンドで、そのメロディには哀愁が漂います。「Pressure On Julian」は引きずるように重たいベースリフが強烈。そしてグワングワンと唸るギターは警告音のよう。サウンドには緊迫感が漂いますが、ひねくれポップな歌メロがこれを茶化して緊張をほぐそうとするような感じです。続く「Star Shaped」は明るく軽快な曲調で、コーラスも含めキャッチーです。デイヴ・ロウントゥリーの力強いドラムが時折リズムを崩してフックをかけてきます。ジャジーなドラムで始まる「Blue Jeans」は牧歌的な雰囲気。ドタバタした楽曲が多いなか、一息つける癒しの1曲です。一転して「Chemical World」はメリハリのあるヘヴィなサウンド。ですが歌はかなり気だるげな感じですね。なお、この楽曲のラストに「Intermission」という短いインストゥルメンタルが付きます。コミカルな雰囲気ですが、徐々に勢いと激しさを増すスリリングな楽曲です。ラストはとても激しい。笑 続いて「Sunday Sunday」はビートルズを思わせる賑やかな楽曲。ホーンとかまんまビートルズ風ですね。ノリの良いリズムに乗せて、ポップセンス溢れるメロディが魅力の楽曲です。「Oily Water」はサイケなギターとバッキバキのベースが印象的。終盤はヘヴィな音の洪水に飲み込まれます。「Miss America」はアコースティックな楽曲。デーモンの歌は低血圧気味で、囁くような呟くような感じ。そして「Villa Rosie」はイントロで緊張感を高めますが、歌が始まると少しコミカルで、それでいて哀愁も纏ったメロディ。ブラーのポップセンスって独特で、それでいて魅力的です。「Coping」はキレのある軽快な楽曲で、小気味良いリズムが爽快です。そして茶化すように入るシンセも印象に残ります。続く「Turn It Up」も晴れやかで軽快。程よくハードなサウンドに、気分を明るくさせてくれるキャッチーでポップなメロディが気持ち良いです。そして「Resigned」は英国流の湿っぽさを持っていて、哀愁メロディがたまらない。これも楽曲の終盤パートに「Commercial Break」というインスト曲が付いていて、コミカルなピアノと、それをぶち壊すあまりにノイジーなバンドサウンドが全体を引っ掻き回して終了。
佳曲揃いでバラエティ豊富。「Chemical World」や「Resigned」のように、終わったかと思いきや突如始まるインストなど、随所にワクワクを感じられます。遊び心溢れた、まるでおもちゃ箱のような作品です。
1994年 3rdアルバム
前作『モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ』は、高い評価を得たもののセールス的にはそこまで大きな成果はありませんでした。しかし前作の影響もあって英国内に英国的な音楽への回帰の機運が盛り上がり、伝統的なブリティッシュロックを取り入れた、前作以上にポップ化を進めた本作によって大ヒット。それだけでなく国内にブリットポップの狂騒を生み出すことになりました。ルックス面でも人気があって、デーモン・アルバーン(Vo/Key)とグレアム・コクソン(Gt/Vo)が人気を二分しているとか。笑
ドッグレースを描いたジャケット。ジャケット表面は犬が走り抜ける場面を切り取っていますが、ジャケット裏面には色のついた番号とともに収録トラックが記載されていて、馬番というのでしょうか?賭けのように表現されています。楽曲については前作に引き続き、スティーヴン・ストリートがプロデュースし、ポップな仕上がりです。
1曲目から代表曲の「Girls & Boys」。これがヘンテコなダンスチューンで、奇妙なのに何故かやみつきになるんです。打ち込みのリズムにアレックス・ジェームズの骨太なベースラインが際立ちます。奇妙な電子音とひねたメロディで歌うデーモン。間違いなく耳に残る名曲です。続く「Tracy Jacks」もポップで明るく、「トライセージャー ウーウーウーウー」と耳に残るキャッチーな歌が魅力。グレアムの開放的なギターとデイヴ・ロウントゥリーの軽快なドラムも良いですね。シングルカットされた「End Of A Century」はキャッチーなメロディの名バラード。切ない雰囲気で、間奏で入るホーンがポップさと哀愁を加えます。表題曲「Parklife」も面白い楽曲です。耳に残るフレーズを反復し、軽快なリズムにハンドクラップも加わって賑やかなバック。俳優フィル・ダニエルズをゲストボーカルに迎えた歌メロは、歌というよりナレーション。サビでようやくメロディがつきますが、これが耳に残るキャッチーさでインパクト大です。「Bank Holiday」は2分に満たない疾走曲ですが、これが強烈なインパクト。ドタバタしていてどこかコミカルです。メタリックなベースがカッコ良いですね。一転して「Badhead」では落ち着きを見せ、穏やかに哀愁漂う切ないメロディを奏でます。「The Debt Collector」はインストゥルメンタル。ブラスとアコギを中心に、時折木管やオルガンを加えながら、少しレトロな雰囲気のワルツを刻みます。続く「Far Out」はアレックスがボーカルを取ります。少しひねたメロディがコミカルな小曲です。「To The End」は昔の映画のようなセピア色な印象。ストリングスが優雅な気分にさせてくれます。女性ボーカルはフランスのミュージシャン、レティシア・サディエール。「London Loves」は現代的な雰囲気に戻って、時折電子音が加わります。シンセで変な味付けがされているものの、サウンドの骨格はシンプルかつリズミカルで、ノリが良いです。「Trouble In The Message Centre」は緊迫感に満ちたヘヴィなイントロがカッコ良い。ポストパンクのような刹那的な雰囲気を持っています。「Clover Over Dover」は港町を感じさせるしっとりとしたナンバー。語感の良いタイトルですね。お得意の「ラーララララー」で分かりやすい「Magic America」を挟んで、「Jubilee」はおふざけ感のあるパワーポップ。キャッチーでコミカルです。そして「This Is A Low」は湿っぽい1曲。哀愁のメロディをじっくりと聴かせます。最後に、おまけ的なお遊びインストゥルメンタル「Lot 105」でおしまい。アルバム通して彩り豊かな楽曲が次から次へと出てきます。
文句なくブラーの最高傑作。ひねているけどポップな楽曲群にはとにかく色々なフックがあるので、何かしら心に引っ掛かりを残すのではないでしょうか。とても面白い作品です。
1995年 4thアルバム
2ndアルバムから続くブリットポップ三部作の3作目です。こちらもスティーヴン・ストリートのプロデュース。
ブラー対オアシスをメディアが煽り、前哨戦となる先行シングル対決では「Country House」が僅差でオアシス「Roll With It」に勝利するも、アルバム対決(本作)ではオアシスの『モーニング・グローリー』に大差をつけられ敗北。本人達にどこまで戦う気があったかはわかりませんが…。そんなブラーからのメッセージは『ザ・グレイト・エスケイプ』でした。ブリットポップの熱狂、その中心に居続けることに嫌気が差しているかのようなタイトル。海に飛び込んで逃げるジャケットですが、内ジャケに鮫が潜んでいるというオチがついています。
オープニングを飾る「Stereotypes」から、ひねたポップスが展開されます。デーモン・アルバーンのキーボードはきらびやかで歌はヘンテコ、でもグレアム・コクソンのギターはヘヴィ。ミスマッチの塊のような感じ。続く「Country House」はオアシスと先行シングル対決を繰り広げた1曲。コーラスを多用し、ホーンも活用して明るい曲調ですが、そこまで特筆するほどの曲ではないような気がします。「Best Days」はアレックス・ジェームズのベースが楽曲をリードします。穏やかな曲調で、時折ストリングスが彩ります。終盤のピアノが美しい。そして「Charmless Man」は「ナナナナナーナナー」とブラーお得意のフレーズで、独特のポップセンスが溢れた名曲。アップテンポで明るく、聴いていて心地よいです。本作では出色の出来でしょう。続く「Fade Away」はファンキーなベースに気だるげなホーンが乗り、サイケデリックな浮遊感に溢れています。コーラスやメロディが変な楽曲「Top Man」を挟んで、優美な「The Universal」。全体的にまったりとした雰囲気ですが、ストリングスが楽曲を優美に壮大に彩り、ホーンが勇壮な印象を与えます。「Mr. Robinson’s Quango」は厚かましい印象をも受ける賑やかなサウンドが特徴的。色々なサウンドを詰め込んで、それらがズカズカ入り込んでくる感じです。続く「He Thought Of Cars」は哀愁漂う楽曲で、シンセが茶化すように入ってくるものの、デーモンの湿っぽい歌や影のあるサウンドはとても英国的です。「It Could Be You」はギターが小気味良い、メリハリのあるサウンド。リズミカルで楽しいですね。「Ernold Same」は政治家ケン・リヴィングストンをナレーションに起用。優美なサウンドでゆったりとしています。続いてポップ曲「Globe Alone」。シンセとボーカルのヘナヘナ感と、ヘヴィなギターとベース、ドタバタしているドラムがアンマッチ。ですが、そんなところがブラーらしい。キャッチーで勢いに溢れており、聴いていて楽しいです。「Dan Abnormal」はビートルズを想起させるポップなメロディ。ひねているけどキャッチーです。ローファイなサウンドの「Entertain Me」はベースが聴きどころ。ノリの良いサウンドです。そして、日本語が出てきてビックリするのがラスト曲「Yuko & Hiro」でしょう。制作に関わった日本人スタッフの名前をそのまま拝借したそうですが、「我々は会社で働いている~ いつも彼らが守ってくれる~」の歌詞に強烈なパンチ力があります。昨今の会社は会社員を守ってくれませんが、当時はまだ終身雇用の日本のイメージがあったのかもしれません。
全体的にポップなのですがそこまで強烈な楽曲はなく、ブリットポップ三部作の中では出来にばらつきがある印象です。収録時間は前2作と大差ないのですが、楽曲の出来のせいでやや冗長な感じは否めません。
ブリットポップの狂騒に疲弊していたブラーは、本作を最後にブリットポップ路線を終了するのでした。
脱ブリットポップ
1997年 5thアルバム
元々ローファイ志向だったグレアム・コクソンと、ポップス志向のデーモン・アルバーン。これまでのブラーはうまくバランスを保っていたのですが、ポップに寄り過ぎていたこともありグレアムとデーモンの仲が疎遠に。ブリットポップの狂騒に疲弊していたデーモンは「ブリットポップは死んだ」の発言と共に脱ブリットポップを宣言。グレアムの趣味であるローファイ路線にシフト。また米国のオルタナティヴロックバンド、ペイヴメントのメンバーで、デーモンの友人でもあるスティーブン・マルクマスとの交流で影響を受けながら、前作までと大きく方向転換したヘヴィな作品が出来上がりました。本作までスティーヴン・ストリートのプロデュース。
グレアムのヘヴィなギターで始まる「Beetlebum」。ギターのリズムと歌メロのリズムを意図的にずらして、始まりに違和感がありますが、でもカッコ良い。デーモンのアンニュイな歌はファルセットを多用しており、かつハミングも加わることで浮遊感に満ちています。ヘヴィなサウンドとは対照的ですね。ジョン・レノンにインスパイアされたのだとか。続いて本作のハイライト「Song 2」。デーモンの「Woo-hoo」を皮切りに始まる、ブラーらしからぬ非常にノイジーな轟音ギター、これがとてもカッコ良いんです。静かなヴァース(≒AメロBメロ)と激しいコーラス(≒サビ)というのはニルヴァーナの得意とする手法ですが(というか楽曲もまんまニルヴァーナですが)、デビュー直後の挫折ゆえに嫌っていたグランジ、そのグランジ路線にシフトしたら世界的なヒットを飛ばしました。米国でもシングルヒットを飛ばしたそうです。このオープニング2曲が突出しています。続く「Country Sad Ballad Man」は気だるくダウナーな楽曲。アコギ主体のサウンドですが、後半に向かうにつれヘヴィなエレキギターがリードしていきます。デイヴ・ロウントゥリーのドラム音が良い感じ。続く「M.O.R.」は軽快な1曲で、デヴィッド・ボウイとブライアン・イーノへのオマージュだそうです。ギターをはじめ演奏はハードですが、弾けるような清涼感のあるキャッチーな楽曲で、前作までのブリットポップ路線をハードに仕上げた感じ。「On Your Own」も同様に、ノイジーなサウンドの奥にひねたポップセンスが垣間見え、根っこの部分はブリットポップの雄ブラーなのだと感じさせます。また「Theme From Retro」はオルガンが暗鬱な雰囲気を作り、強烈にエコーをかけたボーカルが不気味にこだまします。でも浮遊感があって不思議と心地良い。「You’re So Great」はグレアムの弾き語り曲。哀愁漂う歌が切ないです。プチップチッというノイズを入れてチープな感じに仕上げ、少しレトロで懐かしい感じがします。「Death Of A Party」は粗い音で、かつダウナーな雰囲気。これもダークな浮遊感が良い。続いて1分半に満たない「Chinese Bombs」。パンクやガレージロックのように、音が割れんばかりの轟音と勢いで駆け抜けます。とにかく強烈なパンチ力があって魅力的です。ノイジーでダウナーな「I’m Just A Killer For Your Love」を挟んで、哀愁漂うひねたポップ曲「Look Inside America」。アコースティックな始まりですが、ストリングスを加えて優美に盛り上げたり、ヘヴィなエレキギターで荒らしたりと表情豊かです。地味にアレックス・ジェームズのベースが中々良い。そして「Strange News From Another Star」はアコースティックで鬱々とした、メロディアスな楽曲。比較的素朴ですが、終盤は異様な緊張感に満ちています。「Movin’ On」は音は荒いんですが、キャッチーでどこかひねたメロディはブラーらしいポップセンスに溢れています。そしてラスト曲「Essex Dogs」は8分に及びます。荒々しいサウンドを静かに奏で、短いフレーズをひたすら繰り返すミニマルと呼ばれる手法を用いています。他の楽曲がポップセンスを見せるものの、この1曲だけはかなり実験的です。
意図的にチープな音作りだったり、ノイジーな質感に仕上げていて、表面的なサウンドはかなり変化しました。全体的にヘヴィで暗鬱な感じ。しかし根っこの部分にブラーのポップセンスが見えるため、そこまで大きな違和感は感じません。ブリットポップの旗手だったブラーの本領からは少し外れますが、これも素晴らしい名盤です。
1999年 6thアルバム
スティーヴン・ストリートの手を離れ、ウィリアム・オービットをプロデューサーに迎え入れています。前作に引き続き、荒いサウンドと実験的なアプローチが見られ、そしてデーモン・アルバーンがこの頃傾倒していたプログレの影響もあるそうで長尺の楽曲も増えました。
1曲目は8分近い「Tender」。ゆったりとした雄大なバラードで、デーモンとグレアム・コクソンが交互にボーカルを取ります。曲調ゆえかサビを彩るゴスペルのようなコーラスゆえか、アメリカンな雰囲気が感じられ、広大な大地を想起します。続く「Bugman」は前作の延長上にある楽曲で、とてもノイジーで音圧の強いサウンドが強烈。勢いに溢れていて、攻撃的ながらキャッチーなメロディもありますが、ノイジーなサウンドがかなりきつめな印象です。終盤はグルーヴ感のあるダンスビートが気持ち良かったり。「Coffee & TV」はグレアムのボーカル曲。軽快で小気味良いギターとドラムに乗せて、楽曲の軸を作るアレックス・ジェームズのベースが印象的。円熟味のある歌も相まって心地よく聴くことができます。「Swamp Song」は泥臭く渋い1曲。古臭さのあるブルージーなサウンド。ですが、際立つグルーヴとデーモンの奇怪な歌により、ブルースロックとは少し違う怪しげで独特の感覚を生み出します。続く「1992」は米国ツアーの苦い経験を歌った楽曲だとか。鬱々とした歌とサウンドでひたすら沈んでいきます。徐々に迫り来るノイジーな音の洪水は難解でプログレ的です。「B.L.U.R.E.M.I.」は荒く勢いのあるガレージロック風の楽曲。爆音のギターとベース、そして激しいドラムとアツいですが、所々に遊び心というか茶々を入れるような演出も。「Battle」は8分近い実験的な楽曲で、マッシヴ・アタックやレディオヘッドっぽい。不穏なシンセに、炸裂するドラムと極端に響く重低音。そしてひたすら鬱々とした気だるげなボーカルがこだまする…。ダークな色合いですが、どこか心地良い浮遊感も持ち合わせています。一転して「Mellow Song」はアコギ主体の親しみのあるサウンドにデーモンが囁くように静かに歌うので、安心感を覚えます。しかし後半はどんどんカオスになっていき、やはり実験的な色合いが強いです。ローファイな「Trailerpark」は荒いサウンドの中に気だるさが漂います。緩くて心地良い。しかしラスト数十秒はスリリングです。そしてまたも8分近い「Caramel」。静かな音と呟くような歌。そして中盤からは歪んだ音が幻覚的な世界へと誘います。「Trimm Trabb」は時折入る冷たいピアノが印象的。そして終盤の緊張感は凄まじいです。続く「No Distance Left To Run」で何曲ぶりにか、ようやく歌を聴ける楽曲が登場。円熟味のある渋く哀愁のある1曲です。ラスト曲「Optigan 1」はインストゥルメンタル。古い映画のサントラのようにレトロな感じに仕上がっています。
ローファイで実験的。気だるく盛り上がりに欠ける楽曲や難解な楽曲も多いですが、荒い音が作り出す心地良い浮遊感は意外と楽しめたりします。ただ、ブリットポップからは随分遠ざかってしまいました。
グレアムの脱退と活動休止
2003年 7thアルバム
ベスト盤リリース後にブラーは新作の制作を開始。ノーマン・クックをプロデューサーに迎えましたが、彼の起用にグレアム・コクソンが不満を示し、メンバーとの亀裂が深まっていきます。そして2002年にはグレアムが脱退。グレアム抜きで本作のレコーディングが行われました。プロデューサーには前述のノーマン・クックに加え、ベン・ヒリアーと前作のプロデューサーであるウィリアム・オービットが後に加わっています。
なおベスト盤リリースの前にデーモン・アルバーンはアフリカのマリ共和国を訪れています。これが刺激になったのか、本作はアフリカ音楽やアラブ音楽などの影響が見られる意欲的な作品になりました。レコーディングも、北アフリカのモロッコで行われています。ジャケットアートはバンクシーによるもの。
オープニング曲「Ambulance」はデイヴ・ロウントゥリーの軽めなドラムの後ろで、強烈な重低音が響き渡ります。そしてデーモンの歌声は低くダンディな感じです。エキゾチックな色合いが強く、キャッチーさとは遠いですね。続く「Out Of Time」は、前曲で突き放したのを戻すかのように、親しみやすさがあります。民族楽器の音色をバックに、デーモンの円熟味のある歌声が心地良い。そして前半のハイライトとなる「Crazy Beat」は鮮烈な1曲。ノイジーなギターをかき鳴らし、ドラムが強烈なビートを響かせます。ロック色が強いかと言えばそうではなく、ダンス色の方が強いですね。ヘヴィなサウンドだけどイケイケな感じでカッコ良い楽曲です。「Good Song」ではまったりした雰囲気で、楽曲の緩急の差が激しいですね。優しく囁くような歌声で穏やかに歌います。重低音の音圧が強い「On The Way To The Club」は、エコーのかかった気だるい歌声が独特の浮遊感を生んでいます。メロディはどこか懐かしい感じ。途中からノイズを加えたり、チープな音で不気味なシンセが鳴り響いたり、聴いていると病みそうな不穏な気配がどんどん強まっていきます。「Brothers And Sisters」はダウナーで気だるいヒップホップ風の歌唱が特徴的。でも演奏は比較的ノリが良く、フレーズを反復することで中毒性があります。続く「Caravan」はボーカルが加工されていますが、優しくメロディアスな歌を歌っています。3分手前くらいからの間奏のメロディが良くて、泣きたくなります。「We’ve Got A Film On You」はエスニックな色味のイントロから一転して、パンキッシュな激しいサウンドを展開します。所々のメロディは中東っぽい感じでしょうか。1分の短い楽曲ですが、とてもカッコ良い。続いて「Moroccan Peoples Revolutionary Bowls Club」はキャッチーでグルーヴ感抜群のダンスチューン。ですがアフリカ音楽っぽいパーカッションが独特の雰囲気に仕立て上げています。優しく囁くような「Sweet Song」を挟んで、実験的な「Jets」。素朴なギター(民族楽器?)の音色に、パワフルなドラムと爆音ベースが乗り、ひたすら同じフレーズを反復します。途中アラビアンなメロディだったり、終盤にフリーダムなサックスが加わったり。実験的なのですが、中毒性があってやみつきになります。「Gene By Gene」もエキゾチックな異国風のサウンドで実験的なアプローチですが、前曲と違ってデーモンのひねた歌があるのでキャッチーな印象です。ラスト曲は「Battery In Your Leg」。デーモンの少し枯れ気味の歌声が渋く、神秘的なサウンドが浮遊感を生み出します。
そして「Me, White Noise」という隠しトラックが続きます。「Parklife」でナレーションを務めたフィル・ダニエルズが参加したこの楽曲は途中までメロディ不在で、ヘヴィなダンスビートが流れています。後半は少しエスニック風味のメロディを感じられますね。
アフリカ音楽や中東音楽に影響を受けた意欲的な楽曲が並びます。ピーター・ガブリエルっぽいアプローチ。実験的な演奏に円熟味のある歌でまったりとした印象の楽曲も多いですが、時折見せるアグレッシブな一面がメリハリをつけています。聴く人を選びますが、中々面白い作品です。
グレアムの去ったブラーは求心力を失い、デーモンはサイドプロジェクトのゴリラズがヒットしてそちらへ軸足をシフト。アレックスやデイヴも各々の音楽活動を行い、ブラーは自然消滅することになりました。ブラーが活動を再開するのはしばらく後のことになります。
再始動
2015年 8thアルバム
2003年頃に自然消滅したブラーでしたが、2008年にデーモン・アルバーンとグレアム・コクソンが和解し、グレアムがブラーへ復帰。ブラーが再始動します。2009年に行ったリユニオンライブや、ベスト盤・ライブ盤などのリリースを経て、2015年には実に12年ぶりの新作をリリースすることになりました。2013年の香港滞在時に録音したという音源をベースに完成させた本作は、ジャケットに『模糊 魔鞭』と銘打たれただけでなく、歌詞カードにも広東語が出てきたりとアジアンテイストなパッケージに仕上がっています(楽曲はそこまでアジア風ではないですが)。ちなみに「模糊」が「Blur (=ぼんやり霞んでいること)」、「魔鞭」が「The Magic Whip」を指しています。
「Ghost Ship」のみブリットポップ時代のプロデューサーであるスティーヴン・ストリートのプロデュース作となりますが、他はデーモンとグレアムによるセルフプロデュース。
開幕「Lonesome Street」から、ブリットポップ時代を想起させるデーモンのポップな歌メロにワクワク。グレアム、アレックス・ジェームズ、デイヴ・ロウントゥリーの作り出す、小気味良くノリの良いサウンドもまさしく往年のブラーですね。ですが年相応に、弾けた感じは当時より多少控えめに仕上げています。「New World Towers」はデーモンのダンディな歌メロがリードします。しっとりと聴かせる1曲です。「Go Out」は怪しげなシンセやノイジーなギターが包み込むような浮遊感を演出しますが、キレのあるリズム隊がそこに輪郭を加えます。変なメロディもキャッチーですね。「Ice Cream Man」は真面目なメロディや落ち着いた演奏とは対象的に、終始鳴り続けるふざけた感じのキーボードの音色が強烈なギャップで、強く印象づけます。「Thought I Was A Spaceman」は打ち込みサウンドにエコーのかかった囁くような歌声で、不思議な浮遊感があります。後半はドラムが加わってしっかりしたビートを刻み、また音数も増えて賑やかに。それでも幻覚的な感じは変わらずで、ブラーの実験的な側面が現れた楽曲です。続く「I Broadcast」は少し怪しげだけど、ダンサブルでノリの良い楽曲です。デーモンの歌うキャッチーだけどひねたメロディが楽しい。淡々としたリズムに囁くような歌が乗る「My Terracotta Heart」を挟んで、「There Are Too Many Of Us」は勇壮なリズムとは対象的に影のあるメロディ。デーモンの歌は渋くて、そして強い哀愁に満ちています。レゲエのような雰囲気の「Ghost Ship」に続き、怪しげで暗鬱な「Pyongyang」。退廃的で、歌声が似ていることもあってデヴィッド・ボウイのベルリン三部作のような雰囲気。そこにアジアンテイストを少し加えたような感じで、中々好みな1曲です。一転して「Ong Ong」はキャッチーでポップな楽曲。でも気だるげで円熟味もあって、ブリットポップ期より大人しいですね。ラスト曲「Mirrorball」は渋くてブルージーな楽曲。グレアムのブルージーなギターが染みますね。そして中国っぽい味付けが郷愁のメロディとよく合います。
そしてボーナストラック「Y’All Doomed」。これがとてもスリリングなインストゥルメンタルなのです。遊び心があって、でもスリリング。ブリットポップ時代のラスト曲もこんな風にお遊びで終わっていましたね。
突出した強烈な楽曲はないものの、ブリットポップ時代の雰囲気を感じられたり、これまでの集大成とも言える作風。聴いていてワクワクする作品です。
ブリットポップの雄として名盤をリリースしてきたブラー。しかし2015年に新作を出したものの、その後の活動は中断してしまっています。2018年のインタビューでデーモンは「(リユニオンの)可能性が無いわけでは決してない」と発言しているものの、今後また活動再開するのか、このまま具体化せず自然消滅なのか、果たして…。