🇬🇧 David Bowie (デヴィッド・ボウイ)

スタジオ盤⑤

長期療養と突然の復帰、そしてボウイの死

The Next Day (ザ・ネクスト・デイ)

2013年 24thアルバム

 『リアリティ』以来10年ぶりとなる新作で、これが私にとっての初リアルタイムのデヴィッド・ボウイ作品でした。闘病のため事実上引退したとも囁かれていたボウイ。ボウイの66歳の誕生日となる2013年1月8日に突如発表された新作は大きな注目を浴び、リリースするなり世界60ヶ国以上で1位を獲得。2013年に最も売れたアナログ盤も本作だったようです。本作のレコーディングは2010年11月から断続的に行われたそうですが、徹底した情報管理のもと極秘裏に進められていました。
 『ヒーローズ』を上書きしたやっつけのようなジャケットはジョナサン・バーンブルックによるもの。流石に大傑作『ヒーローズ』は超えられてはいませんが、歴代の名盤と比較しても遜色のない傑作に仕上がりました。ボウイとは長い付き合いとなるトニー・ヴィスコンティをプロデューサーに起用し、高いクオリティでリリースされた本作は「史上最高のカムバックアルバム」とも評されたようで、メディアや音楽誌で大絶賛でした。

 表題曲「The Next Day」で開幕。躍動感のあるリズムが気持ち良く、ワクワクした気分にさせます。ボウイの力強い歌唱も年齢を感じさせず、療養中という噂など吹き飛ばすかのように好調です。「Dirty Boys」はスローテンポの楽曲で、サックスとギターが中心となってダーティな雰囲気に仕上げています。怪しげだけどカッコ良い。続く「The Stars (Are Out Tonight)」は緊迫感のあるスリリングな1曲。リズムは軽快なのに、ボウイの切迫した歌唱や哀愁漂うメロディが心をざわつかせます。強く印象に残る楽曲です。「Love Is Lost」は一定のリズムを刻むリズムギターやベースがダウナーな印象で、更に時折入るパイプオルガンが不安な感覚を生み出します。歌にも陰があって暗いですね。倦怠感のある「Where Are We Now?」で少し空気を変えますが、それでも歌は強い憂いを帯びていて、悲しげな雰囲気は中々晴れません。終盤リズム隊が前面に出て盛り上げますが、哀愁のメロディも同じように際立ちます。続いて「Valentine’s Day」、ここでようやく明るさが見えてきます(終盤に向かうにつれ哀愁が強くなりますけどね)。キレのある良質なギターを弾くのはアール・スリック。アメリカ時代からボウイと関わってきた名プレイヤーですね。彼のギターが印象的です。そして疾走曲「If You Can See Me」は追い立てるようなリズムが焦燥感を煽ります。加工された怪しげなボーカルも不気味で、スリリングな楽曲に仕上がっています。「I’d Rather Be High」ではまた少し明るさを取り戻した印象。反復するギターのフレーズが心地良い。そのまま続く「Boss Of Me」はリズム隊とサックスがヘヴィな音を奏で、ダーティな雰囲気です。またサビメロの哀愁は切なくなります。「Dancing Out In Space」 はリズミカルな1曲で、メロディに切なさも感じつつも抜群のノリで楽しませてくれます。そしてイントロが鮮烈な「How Does The Grass Grow?」。サウンドは中々爽やかですね。ですがアルバム全体を占める哀愁はこの楽曲にもうっすら漂います。「(You Will) Set The World On Fire」はこのアルバムでは少し異色で、ヘヴィメタルばりに硬質なギターが主導します。陰のあるメロディはボウイらしいし本作にマッチしていますが、切実に訴える歌唱はヘヴィな演奏に引っ張られたのでしょうか。3拍子が心地良い「You Feel So Lonely You Could Die」は穏やかに哀愁のメロディを奏でます。美しい楽曲で感動的。聴き浸っているとこみ上げてくるものがあります。最後は「Heat」。重苦しい雰囲気で、重厚な演奏に淡々と語るかのような歌。アルバムは最後まで曇天のような重苦しさがあります。

 アルバム全体を覆う暗鬱な空気や哀愁と、張り詰めた緊張感。ベルリン三部作や『スケアリー・モンスターズ』にも通じる雰囲気を持ちつつ、またそれとも違う新しさを持った傑作を生み出しました。往年の名盤にも引けを取りません。

The Next Day
David Bowie
 
Blackstar (ブラックスター(★))

2016年 25thアルバム

 デヴィッド・ボウイの命日である1月10日に本作のレビューを追加させて頂きます。
 2016年1月8日、ボウイの69歳の誕生日当日に本作がリリースされました。このタイミングでの新作に、闘病生活中だけどまだまだ元気だよというメッセージだと勝手に誤解してワクワクしたものですが、その2日後に癌により死去。もう長くないことを悟って最後の作品に取り組んでいたんですね。当時ボウイ死去のニュースを聞いてとても悲しかったことを覚えています。ただ、私は亡くなってすぐ購入に走ったのが『Five Years 1969 – 1973』で、本作を手に取ったのは死後2~3ヶ月後でした。そこで本作を初めて聴いて、その出来の良さに驚かされた記憶があります。老いてなお守りに入らず攻めた作品を…いやむしろ大傑作と呼べる作品を生み出せるのだと。死を覚悟したボウイの、凄まじい気迫・緊迫感に溢れる本作。3年経ったレビュー時点でも、聴く度にボウイの死を思い出して目頭が熱くなります。
 本作はトニー・ヴィスコンティのプロデュース。またバックの演奏陣には、初参加のジャズミュージシャングループがサポートします。本作を傑作に押し上げたのは彼らのサポートも大きいと思います。なおボウイ初となる全米1位を獲得、数多くの国々でも1位やチャート上位を記録しています。

 10分にも渡る表題曲「★ (Blackstar)」で幕開け。エコーのかかったボウイの歌声は、どこか霊的な雰囲気を纏っています。序盤はダンサブルな打ち込みサウンド…にもかかわらず、どうしようもない恐怖を植え付けてきます。オーメンだの執行の日だの不気味なキーワードも並びますしね。悪魔崇拝の儀式のような不気味な序盤を終えると曲調も穏やかになり、ブラックスターと名乗る者が登場。抽象的な歌詞は何かを暗示しているのでしょうか?…そして徐々に怪しげな曲調になってきて、ストリングスとサックスが鳴る中で序盤の主題を繰り返して終わります。ボウイ自身の死を悟っているかのようなこの楽曲、不気味なんですが強烈にインパクトに残ります。続く「’Tis A Pity She Was A Whore」はジャジーでフュージョン寄りの1曲。強烈なリズム隊の上で、サックスやピアノが自由に歌っています。ボウイの歌よりも、ダニー・マッキャスリンのサックス、マーク・ギリアナのドラムが特に印象的。「Lazarus」は入院患者に扮したボウイのPVが強烈。「俺は天国にいる」、「青い鳥のように自由になるんだ」等、もろに死を意識していますね。楽曲はゆったりとしていて、メロウなサックスを中心に穏やかですが、終盤に緊迫感が漂います。そして名曲「Sue (Or In A Season Of Crime)」。バックの演奏陣の実力も大いにありますが、フュージョン的なスリリングな演奏が繰り広げられており、この歳でこんなにカッコ良い楽曲が出来るんだなと驚きです。エコーのきいた浮遊感のある歌とはアンマッチな、殺伐として凄まじい緊張感を放つ演奏に魅せられます。ちなみにベスト盤収録のものとアレンジが異なり、こちらの方がスリリングです。続いて「Girl Loves Me」は妙な裏声が印象に残る、ひねたポップ曲。怪しげですが、反復により変な中毒性を持っています。「Dollar Days」は強い哀愁が漂う楽曲で、ストリングスのアレンジが切なさを引き立てます。そして間奏のサックスソロ、渋くてたまりませんね。最後に「I Can’t Give Everything Away」。暗く重たい楽曲が並ぶ本作において、リズミカルなので際立ちますね。でも強い哀愁が漂っています。

 デヴィッド・ボウイの遺作にして大傑作。最初に手にすべき作品ではありませんが、黄金期の傑作群を聴いた後に手に取ると、死の間際でも新しいことに挑戦して新たな傑作を生み出すボウイの凄さに驚かされるのではないでしょうか。素晴らしい作品を数多く生み出してくれたことに感謝しかありません。

Blackstar
David Bowie
 
Toy (トイ)

2021年

 知名度の低かった自身の1960年代楽曲をリメイクした作品で、デヴィッド・ボウイとトニー・ヴィスコンティのタッグにより制作されていました。2001年頃にリリースされる予定でしたが、当時のレーベルヴァージン/EMIによって拒否されたようです。傷心のボウイはコロムビア・レコードのISOレーベルと契約して『ヒーザン』をリリース、『トイ』に収められるはずの楽曲のいくつかはシングルB面でリリースしました。
 2011年にはインターネット上にリークされてしまいますが、当初意図されたバージョンとは異なっていたようです。そしてボウイの死後5年経って、公式としてBoxセット『ブリリアント・アドヴェンチャー 1992-2001』にて本作が初披露。2022年にはボーナスディスクを2枚加えた3枚組Boxセットとして単体リリースされました。私は『ブリリアント・アドヴェンチャー 1992-2001』で本作を聴いたので、そちらのレビューをします。
 レコーディングにはアール・スリック(Gt)、ゲイル・アン・ドーシー(B)、マーク・プラティ(B/Gt)、スターリング・キャンベル(Dr)、ジェリー・レナード(Gt)、マイク・ガースン(Key)らが参加。ストリングスアレンジをトニー・ヴィスコンティが手掛けます。

 オープニングを飾る「I Dig Everything」はイントロから重厚なバンドサウンドを展開します。元は1966年のシングルだそうですが、演奏はオルタナの影響も受けたモダンなロック。ボウイの歌は若干しゃがれていますが、メロディは牧歌的で落ち着いています。続く「You’ve Got A Habit Of Leaving」はハミングが心地良い、軽快な楽曲です。歌声は老成されているものの、ポップなメロディと跳ねるような演奏はキャッチーで聴きやすく、楽しませてくれます。終盤はしっとりとしたピアノで緩急つけたあと、ラストに向け盛り返していきます。「The London Boys」は優しくも憂いのあるメロディに、ボウイの渋い歌声が良く似合います。終盤の転調と力強い歌唱が胸に沁みますね。「Karma Man」はマンドリンによるファンタジックな音色に力強いドラムが響きます。メロディアスな歌も魅力的で、「Slow down, Slow down」の甘い歌声が耳に残ります。「Conversation Piece」は渋い低音で語るように歌い、内省的ですが優しさが感じられます。ピアノやストリングスが楽曲を穏やかに彩ります。「Shadow Man」は『ジギー・スターダスト』の頃にレコーディングされていた未発表曲をリメイク。透明感のあるピアノをバックに、ボウイの渋く優しい声がメロディアスに歌い上げます。音数が少なくてしっとりとした歌が強調され、美しく感動的な楽曲に仕上がりました。「Let Me Sleep Beside You」は印象的なギターリフで幕を開けます。ダイナミズムのあるドラムをはじめ、躍動感のあるバンド演奏が牽引する楽曲です。力強い演奏に引っ張られてボウイの歌唱もどんどん熱量が増していきます。続いて、パワフルで生々しいドラムで「Hole In The Ground」が開幕。ギター、ベースにオルガンをヘヴィに鳴らし、その一方でアコギが軽快さも加えます。リズミカルでノリの良い楽曲ですね。「Baby Loves That Way」はスローな8分の6拍子を力強く刻みます。気だるげな演奏ですが歌は中々ポップです。そして「Can’t Help Thinking About Me」は躍動感溢れる疾走曲です。勢いのある演奏にご機嫌な歌唱、そして女性コーラスも加わって賑やかです。本作中最もエネルギッシュで、キャッチーな印象が強いです。「Silly Boy Blue」はボウイの歌唱に強い哀愁が漂い、ストリングスが哀愁を引き立てます。切なくなりますね。最後は表題曲「Toy (Your Turn To Drive)」。ファンキーなギターやグルーヴ溢れるベースが力強くリードしますが、優しく寂しげな雰囲気が漂い諦念の感があります。

 老成された渋い声で牧歌的なメロディを歌う佳曲が揃っています。アルバム中盤がエネルギッシュで魅力的です。

Toy: Box
David Bowie
 
 

ライブ盤①

David Live (デヴィッド・ボウイ・ライヴ)

1974年

 トニー・ヴィスコンティによってプロデュースされた本作は、デヴィッド・ボウイの公式初ライブ盤で、米国ペンシルヴァニア州での公演を収めています。『ダイヤモンドの犬』ツアー時のライブで、楽曲はグラムロック時代を総括しつつも、歌唱スタイルには次作『ヤング・アメリカンズ』が既に見えています。デヴィッド・ボウイを支えるメンバーはアール・スリック(Gt)、ハービー・フラワーズ(B)、マイケル・ケイマン(Key/Ob)、トニー・ニューマン(Dr)、デヴィッド・サンボーン(Sax/Fl)ほか。
 なおオリジナルは全17曲・81分ですが、2005年ミックスでは全21曲・103分に。本項では後者の2005年ミックス版をレビューします。
 
 
 Disc1は「1984」で開幕。オーボエの音色に不穏なピアノが絡み、そしてシアトリカルな楽曲が始まります。ノリの良いバンド演奏に乗せたボウイの歌声はソウルフルな感じ。続いて「Rebel Rebel」。ドラムを強調したリズミカルなアレンジで、サックスも楽曲を引き立てます。攻撃的な原曲に比べると親しみやすさを覚える、陽気な感じに仕上がっています。「Moonage Daydream」はゆったりとしつつも原曲の持つ微睡むような感じがないのは、鍵盤の代わりにサックスが前面に出ていることに加えて、ボウイのソウルフルな歌唱スタイルへの変化も影響しているかもしれません。時折裏返る声はご愛嬌。続いて組曲「Sweet Thing」。ダンディな低音ボーカルからハスキーな高音へと変化が極端な歌はやはりソウルフルな印象。原曲の持つ暗く退廃的な雰囲気はほとんど無くて、代わりにメロウなサックスなどを中心にまったりとした心地良さがあります。そしてポップな名曲「Chnges」。サビのメインメロディをコーラス隊に譲ったことで、逆に原曲に忠実なポップなメロディを楽しむことができます。コーラスに限って言えばスパイダーズ・フロム・マーズよりよっぽど魅力的です。逆に、次曲「Suffragette City」は円熟味のあるアレンジに落ち着いているため、こちらはスパイダーズ・フロム・マーズのパンキッシュな演奏で聴きたかった…なんて良し悪しを楽しめます。続いて「Aladdin Sane」。メインフレーズを奏でるのはピアノではなくサックスで、大人びたオシャレなイントロに仕上がっています。全体的に賑やかで楽しい感じですが、間奏では原曲のように狂気に満ちたピアノの即興演奏が入っています。モット・ザ・フープルに提供した楽曲のセルフカバー「All The Young Dudes」で少ししっとりとした雰囲気を作った後はリズミカルな「Cracked Actor」。サックスが良い味を出しています。「Rock ‘N’ Roll With Me」でメロディアスな歌をじっくり聴かせた後は、ノリノリのロックンロール「Watch That Man」が続きます。ニューマンのパワフルながらも軽快なノリのドラムがとても良い。力強いボウイの歌も好調です。なおメインフレーズはギターではなくサックスが奏で、華やかさが加わっています。

 Disc2はソウルシンガーのエディ・フロイドのカバー曲「Knock On Wood」で開幕。ノリノリな雰囲気ですが、正直そこまで印象に残らないかも…。続く「Here Today, Gone Tomorrow」はファンクグループのオハイオ・プレイヤーズのカバー。キャッチーなメロディと力強い歌唱が印象的です。賑やかな演奏から一転、アコギ主体の「Space Oddity」へ。サウンドからはスペイシーな感覚は減ったものの、ゆったりとしたテンポで漂うような心地良さを感じさせます。続く「Diamond Dogs」は角が取れたように円熟味があります。原曲の持つピリピリとした緊迫感は全然ありませんが、キャッチーなメロディを楽しめる仕上がりです。「Panic In Detroit」も緊迫感はありませんが、サックスやオルガンなどのカラフルな音色で彩られ、賑やかで楽しい雰囲気。「Big Brother」はソウルフルな歌唱と黒っぽいコーラスで、次作『ヤング・アメリカンズ』を見据えているかのようです。演奏ではフラワーズのベースが際立っていますね。じっくりと力強い歌を聴かせる「Time」を挟んで、定番の「The Width Of A Circle」。原曲ではギターが暗鬱なフレーズを奏でますが、このライブではオーボエやサックス等の優美な音色に置き換わっています。このイントロが鳥肌ものなのです(特にオーボエが良い!)。歌が始まって以降はスリルがなく若干の物足りなさを感じたり…。「The Jean Genie」はサックスが前面に出たR&Bっぽいアレンジに。後半ではスリックが長尺のギターソロを披露します。そして最後は定番の「Rock ‘N’ Roll Suicide」。ボウイの歌をフィーチャーしたアレンジで、ソウルフルな歌が胸に響きます。正直これまでのボウイって歌は上手くなくて天才的なメロディセンスで牽引してきた印象ですが、これは歌で魅せています。とても良い。
 
 
 ミック・ロンソンがいないせいか演奏のキレが物足りなく、また原曲の持つ毒や攻撃性を排してスリルには欠けます。しかし演奏は安定していて、サックスやコーラスなどの加わった賑やかでキャッチーなアレンジにより、楽しい雰囲気のライブに仕上がっています。音質も良いですね。

David Live (2005mix) (2016 Remastered Version)
David Bowie
 
Stage (ステージ)
2017年ミックスの評価
オリジナルミックスの評価
1978年

 デヴィッド・ボウイのライブ盤2作目。『ロウ』と『ヒーローズ』を伴う1978年のワールドツアーの模様を収めています。ボウイがキーボードを兼任するほか、メンバーはカルロス・アロマー(Gt)、エイドリアン・ブリュー(Gt)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)の布陣。また、サポート扱いでサイモン・ハウス(Vn)、シーン・メイズ(Pf)、ロジャー・パウエル(Key)。
 オリジナルLPでは17曲73分でしたが、1991年のCD化、2005年ミックス、2017年ミックスで着々と曲数を増やしています。また当初は曲順がライブ順どおりでなく年代順に変えられた上に一部フェードアウト加工という余計な細工が入っていますが、2005年以降のミックスは実際のライブの曲順に直しているようです。オリジナルミックスは一部フェードアウトが盛り上がりを削ぎますが、曲順はある意味ベスト盤みたいな感覚で聴けますね。2005年以降のミックスではライブの盛り上がりを楽しめて、かつ「Warszawa」~「”Heroes”」の鳥肌もののオープニングを楽しめるので、個人的には後者が好みです。本項では2017年ミックス(全22曲94分)をレビューします。
 
 
 Disc1は暗鬱なインストゥルメンタル「Warszawa」で開幕。寂寥感に溢れ、寒々しく荒廃したイメージを持つこの楽曲は、冷戦当時の重々しい空気を表現しているのでしょうか。ボウイのインスト曲の最高峰で、鳥肌ものの名曲です。そしてボウイの最高傑作たる超名曲「”Heroes”」。ダンディな低音イケボがメロディアスな歌を歌い、後半は感情たっぷりにヒステリック気味に叫びます。これが涙が出るほど胸に響くんです。2曲目にしてクライマックス的な。笑 なお原曲ではキング・クリムゾンのロバート・フリップがギターを弾いていますが、後にキング・クリムゾンに加わるエイドリアン・ブリューがこのライブで弾いています。続く「What In The World」はテンポを落としてグルーヴ感をかなり強めています。ピコピコシンセがいない代わりに、アロマーのギターとマーレイのベースが際立つ、とてもファンキーなアレンジに仕上がっています。「Be My Wife」はグルーヴィなリズム隊と、浮遊感に溢れるスペイシーなギターが対照的。ですが心地良いサウンドを作り出しています。そしてグラムロック期の「The Jean Genie」。リズミカルで、ギターがファンキーですね。またボウイの歌も荒々しくて弾けています。後半バスドラムを多用するデイヴィスのドラムがスリリングで、そのリズムの上でギターやキーボードが自由な演奏を繰り広げます。続いて「Blackout」で少し緊迫した空気を醸し出します。ボウイのまくし立てるような歌も焦燥感を煽りますね。そして一気に場の空気を変えるインスト曲「Sense Of Doubt」。重々しいピアノとシンセが、救いようのない暗鬱な世界を作ります。不安で押し潰されそうな感覚に陥ります。終わった後の歓声で救われますね。そしてとてもカッコ良い名インスト曲「Speed Of Life」。おもちゃのようなシンセの音色も虚しく、全体を覆う強い哀愁。テンポも速くてリズミカルなのに、ノリの良さよりもそれ以上の寂寥感で上書きされます。でもこれがとても素晴らしい。続くグルーヴ感満載のダンサブルな楽曲「Breaking Glass」で、前2曲の哀愁や不安感からようやく解放されます。キャッチーで楽しい楽曲ですね。「Beauty And The Beast」では躍動感に溢れるロックサウンドを展開。ノリノリな演奏とイケボな歌にワクワクさせられます。そしてファンキーな名曲「Fame」。抜群のグルーヴ感と、ふざけた感じのひねたポップセンスで楽しませてくれます。キャッチーで聴きやすいですよね。

 Disc2は『ジギー・スターダスト』を中心にした選曲。「Five Years」で静かに始まり、そして徐々に盛り上がっていきます。ジギー時代のライブだとラフな演奏が多かったですが、こちらは丁寧な演奏でじっくり聴かせます。歌もだいぶ上手くなった印象。「Soul Love」はアメリカ時代を経たお陰か、原曲よりもファンキーでソウルフルに。テンポが速いのは少し違和感がありますが、歌唱についてはこちらの方がしっくりくるかも。続いて「Star」。軽快なピアノが印象的な、軽やかに疾走するノリノリのロックンロールです。演奏は上手いのに勢いの良さも失っておらず、良い仕上がりです。「Hang On To Yourself」も疾走曲。原曲以上に速くて煽り立てるような感じは非常にスリリングですが、演奏陣が上手いから演奏が破綻することもなく安心して聴けます。もしかするとこのライブがベストテイクかもしれません。「Ziggy Stardust」ではメロディアスな歌をじっくり聴かせます。ラストのロングトーンは迫力がありますね。続く「Suffragette City」で再び疾走。シンセなど豪華なサウンドにはちょっと違和感がありますが、ハードなギターを中心にスリリングな演奏で楽しめます。そしてここから一気に空気を変え、実験的なインストゥルメンタル「Art Decade」。一緒になってノリノリのライブを楽しんでいた空気は、厳かで神秘的な雰囲気へと変わります。不思議な静寂に浸っていると、変態的な「Alabama Song」へ。エキゾチックで妙に緊迫したパートと、耽美なパートを無理やり融合したような楽曲です。続いて名曲「Station To Station」。汽車が進み出すのような演出がなされた後に始まる、一見淡々としつつも緊張感に溢れるグルーヴィな演奏。序盤からスリル満点です。後半テンポアップすると原曲より速く、キャッチーな歌も相まって高揚感を煽り立てます。とても魅力的。そして小気味良いギターで始まる「Stay」。強い存在感を放つリズム隊、特にマーレイのベースを中心にグルーヴ抜群のサウンドを提供します。ブリブリ唸りまくるベースがとてもカッコ良いです。最後は「TVC 15」で、陽気で楽しげな雰囲気。ダンサブルなサウンドに乗せて、ひたすら反復する歌詞が心地良く耳に残ります。そして楽曲が終わると大歓声。大満足のライブでした。
 
 
 デヴィッド・ボウイの数あるライブ盤ではこれが決定盤です。『ロウ』と『ヒーローズ』だけでなく『ジギー・スターダスト』からも多くの楽曲が聴けるという、最高傑作候補の名盤群から数多くの名曲がセレクトされた選曲が素晴らしいです。

Stage (2017 Remastered Version)
David Bowie
 
Ziggy Stardust: The Motion Picture Soundtrack (ジギー・スターダスト・ザ・モーション・ピクチャー)

1983年

 1973年7月のジギー引退公演を収めたライブ映画『ジギー・スターダスト』のサウンドトラックで、実質ライブ盤です。デヴィッド・ボウイを支えるメンバーはミック・ロンソン(Gt)、トレヴァー・ボルダー(B)、ウッディ・ウッドマンジー(Dr)、マイク・ガーソン(Key)、ほかサポートミュージシャンが数名参加。ボウイの歌はそこまで上手くありませんが、名曲の揃った勢いのあるスリリングなライブで楽しませてくれます。
 
 
 Disc1は1分ほどのイントロを挟んで「Hang On To Yourself」で開幕。ハイテンションなロックンロールで、勢いに満ち溢れています。ロンソンの荒々しいギターが爽快。続いて「Ziggy Stardust」。メロディアスな楽曲ですが、原曲に比べボウイの歌はかなり溜め気味な印象。ウッドマンジーのシンバルを多用したドラムが激しくて、中々スリリングです。「Watch That Man」は会場の手拍子が爽快なロックンロール。ノリの良い演奏に合わせてボウイはシャウト気味に歌います。ガーソンのピアノが良いアクセントになっていますね。「Wild Eyed Boy From Freecloud」はしっとりとしてメロディアス。終盤に向けて徐々に盛り上がっていく展開がアツいです。そのまま「All The Young Dudes」に流れ込み、前曲からの流れで更に感情が高ぶります。ボウイの声は裏返っているものの、結構感動的です。「Oh! You Pretty Things」も前曲から続いています。少し巻き気味のテンポでキャッチーな歌を披露。「Moonage Daydream」はメロディを外してます。笑 ですがシンセなどで華やかに盛り上がってくると割と気にならなくなってきます。終盤はサイケデリックなギターソロや激しいシンバルの連打により、ノイジーながらも幻覚的な別世界へと誘います。サックスが印象的な「Changes」は原曲より速いです。キャッチーな歌が良いですね。「Space Oddity」は豪華演奏陣のおかげで原曲よりサイケデリックに、そしてより魅力的になっていると思います。メリハリの利いたバンドサウンドを引き立てる、幻想的な音色を奏でるメロトロンが良い感じ。続いて「My Death」はミュージカル『ジャック・ブレルは今日もパリに生きて歌っている』の楽曲のカバーだそうです。アコギとオルガンが中心の、憂いのある楽曲です。

 ここからDisc2。こちらもDisc1同様に1分ほどのイントロを挟んで始まります。「Cracked Actor」はヘヴィでノイジーなイントロで幕を開けますが、歌が始まるとノリノリで、ルースでリズミカルなロックンロールを展開します。演劇的な「Time」は比較的ダークな雰囲気で、ガーソンのピアノがレトロな空気を醸します。でも歌は徐々に明るくポップになっていく印象。そして「The Width Of A Circle」は本作最長の15分強で、原曲の倍近くの長さに。陰鬱でヘヴィなメインフレーズは手拍子に乗せられノリノリで、そして原曲よりもテンポが速くスリリング。途中に長尺の即興演奏を挟みますが、手数の多いドラムにワウワウ唸るキレッキレのギターソロなど、緊迫感のある演奏バトルで楽しませてくれます。終盤加わるメロトロンが悲壮感のある雰囲気をプラス。でも直後ノリノリのロックンロールに変わって終焉。メンバー紹介を挟んだ後はローリング・ストーンズのカバー「Let’s Spend Night Together」。スタジオ版は原曲より速いですが、そのスタジオ版よりも更に速いパンキッシュな印象。キレがあって楽しませてくれます。その勢いを殺さずに、高速ロックンロール「Suffragette City」が続きます。熱狂の中、ライブが終了。
 アンコールとなる「White Light/White Heat」ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのカバー。荒々しくもノリノリのロックンロールです。キンキンとしたノイジーなサウンド。楽曲が終わるとMCを挟んで、ラスト曲「Rock ‘N’ Roll Suicide」へ。アカペラから手拍子を交え、バンド演奏が始まり…と徐々に盛り上がっていく様が魅力的ですね。哀愁を引き立てるメロトロンとコーラス隊で切ない気分にさせつつ、どんどん高まっていく楽曲は実に感動的です。
 
 
 ジギー・スターダスト期のライブで、名曲の揃った選曲。この時期の傑作オリジナルアルバム群をひととおり聴いた人に薦めたいライブですね。

Ziggy Stardust and the Spiders from Mars (The Motion Picture Soundtrack)
David Bowie
 
Live Santa Monica '72 (ライヴ・サンタモニカ'72)

2008年

 1994年に発売されたブートレッグ『Santa Monica ’72 (デヴィッド・ボウイ・ライヴ 1972)』。ジギー・スターダスト期のライブを収めたものですが、この海賊盤の音源にイントロ(僅か13秒のナレーションですが…)を加えてリマスタリング。そうしてEMIが公式にリリースしたライブ盤が本作だそうです。CD1枚に収まる74分。デヴィッド・ボウイを支えるメンバーはミック・ロンソン(Gt)、トレヴァー・ボルダー(B)、ウッディ・ウッドマンジー(Dr)、マイク・ガーソン(Key)。
 
 
 短いナレーションの後で始まるオープニング曲「Hang On To Yourself」。最初からハイテンションで、勢いに溢れるキレッキレのロックンロールです。終盤のロンソンの狂ったようなギターソロは凄まじい気迫に満ちています。続いて「Ziggy Stardust」。少し音質の悪さが気になりますが、荒くヘヴィな演奏は中々スリリングです。美しいピアノとキャッチーなリフで始まる「Changes」はポップな1曲。ボウイの歌をロンソンのコーラスがサポートしますが、歌が魅力の楽曲のため原曲のメロディから少し外してるのが気になるところ。静と動のメリハリのある「The Supermen」を挟んで「Life On Mars?」。歌をフィーチャーした楽曲ですが、キーを下げた歌は少し不安定で、残念ながらボウイはライブよりもスタジオ盤で真価を発揮する印象。勢いのある曲だとさほど気にならないんですけどね。続く「Five Years」は逆に原曲がヘタウマな歌なので、あまり気にならず、じわりじわり盛り上げる展開で楽しませてくれます。「Space Oddity」はアコギのみのシンプルなアレンジ。ボウイとロンソンの歌の掛け合いで魅せます。そのままアコースティックな雰囲気を継続して「Andy Warhol」。低音ボーカルが渋いですね。「My Death」はミュージカル『ジャック・ブレルは今日もパリに生きて歌っている』の楽曲のカバー。これもアコギで静かに歌を聴かせます。ここからはバンドサウンドになり、まずは「The Width Of A Circle」。陰鬱な雰囲気からヘヴィなハードロックへと変わりますが、荒々しいギターが爽快です。中盤では即興演奏も披露しますが、ロンソンのキレのあるハードなギターがスリリングで、ウッドマンジーのドラムも中々楽しませてくれます。躍動感のあるロックンロール「Queen Bitch」を挟んで、「Moonage Daydream」ではヘヴィなサウンドにメロディアスな歌を展開。荒っぽさが目立ちますが、後半に向かうにつれてダイナミズムに溢れる演奏がスリリングです。「John, I’m Only Dancing」は古臭さも感じつつリズミカルで楽しいロックンロールです。ボウイのご機嫌な歌が印象的。メンバー紹介を挟んで、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのカバー「Waiting For The Man」が続きます。抑揚のない歌は声質も含めルー・リードっぽいですね。楽曲は最初牧歌的ですが、途中から突如アグレッシブになります。そしてリズミカルかつ気だるさを残した「The Jean Genie」で、ノリノリで楽しませてくれます。「Suffragette City」でテンポアップして、荒々しいロックンロールで盛り上がっていきます。高揚感を煽ったところでライブを終えて大歓声。しばらくしてアンコールで「Rock ‘N’ Roll Suicide」。ギターをバックにしっとりとした歌を展開し、そして徐々に高まっていきます。最後はヒステリックな歌で最高潮に。ただ、ラストの余韻は短くてバッサリ終わってしまうのが少し残念。
 
 
 『ジギー・スターダスト・ザ・モーション・ピクチャー』とも時期が近く似た選曲で、本作はそれとの比較になると思いますが、個人的にはサックス等のサポートがつく前者の方が好み。本作はシンプルなバンドサウンドを展開します。

Live Santa Monica ’72
David Bowie