🇬🇧 David Bowie (デヴィッド・ボウイ)

ライブ盤②

A Reality Tour (リアリティ・ツアー)

2010年

 『リアリティ』を引っ提げて行われた世界ツアーの模様を切り抜いたライブ盤が本作です。2003年11月のアイルランド・ダブリン公演の録音で、映像は2004年にDVDでリリースされていますが、同じ音源でボーナストラックを3曲追加しています(デジタル配信で更に2曲追加)。1970年代から2000年代に至るまで満遍なく選曲されており、デヴィッド・ボウイのキャリアを総括するオールタイムベストライブになっています。『ヒーザン』や『リアリティ』からの選曲も多く、往年の名曲に引けを取らない自信作だったことが窺えます。
 サポートメンバーはアール・スリック(Gt)、ジェリー・レナード(Gt)、ゲイル・アン・ドーシー(B/Vo)、スターリング・キャンベル(Dr)、マイク・ガーソン(Key)、キャサリン・ラッセル(Key/Perc)。
 
 
 Disc1、ライブは人気曲「Rebel Rebel」で幕開け。イントロからギターリフが印象的ですね。手拍子に合わせて歌うボウイの声は好調。また、会場との掛け合いを行うパートもあり、初っ端から盛り上がっています。続いて最新作から「New Killer Star」。ロックに回帰した楽曲なので、30年ほど離れた前曲からも違和感なく繋がります。キャッチーかつメロディアスな歌と、心地良いベースラインが印象的。「Reality」は疾走感のあるロックンロールで、ボウイの歌は切羽詰まったような緊張感があってスリリングです。MCを挟んで続くのは名曲「Fame」。バスドラムやベースがどっしりと力強く響き、リズミカルなスネアとファンキーなギターが思わず踊りたくなるようなノリを生み出しています。グルーヴたっぷりで気持ちの良い演奏ですが、パワフルな歌唱のボウイの歌も負けじと魅力を放ちます。「Cactus」ピクシーズのカバー曲。シンプルなギターリフのおかげか、オルタナでありながらロックンロールが並ぶライブの流れにうまく馴染んでいます。「Sister Midnight」は親友イギー・ポップとの共作の楽曲をセルフカバー。ひねた感じを作り出すギターやベースのリフが耳に残りますね。低音を効かせた歌は渋くダンディです。そして近年では屈指の名曲「Afraid」。影があり緊張感のある演奏に加えて、シリアスで焦燥感に満ちた歌が切なく胸に刺さります。力強いドラムはマシンガンのよう。「All The Young Dudes」はモット・ザ・フープルへの提供曲をセルフカバー。スケール感のあるイントロから漂う名曲感。そしてサビでの大合唱はアツいですね。MCを挟んで「Be My Wife」。ピアノやシンセだけでなく、パワフルなドラムも特徴的ですね。全体に漂う憂いが心地良いです。やや狂気を帯びた終盤のピアノはマイク・ガーソンでしょう。そして「The Loneliest Guy」では救いのない強い哀愁・孤独感が漂います。重苦しく悲壮感に満ちたピアノと、シリアスなボウイの歌が染みる1曲です。「The Man Who Sold The World」もダウナーな楽曲ではありますが、まるで救いのない前曲に比べると全然明るい感じ。キャッチーなギターリフにリズミカルな演奏、怪しげな歌メロも口ずさみたくなります。ポップな「Fantastic Voyage」をまったりと聴かせると、「Hallo Spaceboy」で一気に緊張を高めます。本ライブを通しても最も緊迫した1曲で、スペイシーでノイジー、そして焦燥感を煽るスリリングな楽曲はゾクゾクします。怒鳴るように叫ぶボウイの歌からも切迫した感じがビシビシと伝わってきます。騒がしい演奏のバックで美しいピアノが良いアクセント。そして「Sunday」では一気に大人しくなり、メロウなギターの響きを味わえます。そして円熟味に溢れる歌は、当時56歳という年齢に相応しい貫禄を見せます。渋くて深みがあり、間奏での泣きのギターソロも魅力的です。バンドメンバーの紹介を挟んで、クイーンとの共作を果たした「Under Pressure」。本作ではサポートのゲイル・アン・ドーシーとデュエットを行っています。時折ドーシーは故フレディ・マーキュリーを彷彿とさせる高音を披露し、違和感ないどころか、力強いボウイの歌唱や演奏も相まってドラマチックな仕上がりです。「Life On Mars?」はキーの高い楽曲のため流石に原曲キーは出せていませんが、喫煙をやめたことで一時期よりは高音キーが出るようになったのだとか。ピアノがドラマチックです。テンポのかなり速いイントロから「Battle For Britain (The Letter)」が始まります。リズムトラックやドラムは非常に速くてパタパタしているのですが、余裕を持たせた譜割りのせいか歌は普通の速度というギャップ。ドラムンベースを取り入れた、長いボウイのキャリアでも特に異色の楽曲ですが、メロディはキャッチーだし面白くて好きです。

 ここからDisc2、ライブは後半へ。ファンキーな「Ashes To Ashes」はキー下げていることも影響しているのか、少しキレが弱くて魅力を損なっている印象。「The Motel」は哀愁漂う楽曲で、渋くて貫禄があります。じっくり聴ける楽曲で、歌を彩るマイク・ガーソンのピアノが美しい。MCを挟んで続く「Loving The Alien」ではアコギを用いて、しっとりと哀愁漂うアコースティックアレンジに仕上げています。原曲のキラキラしたニューウェイヴとは別物ですが、歌メロの良さが引き立つ良アレンジです。「Never Get Old」はリラックスしたバンド演奏が心地良いですね。楽しげな演奏に、ボウイの歌もパワフルでノリノリです。「Changes」はキーを下げて少し円熟味がありますが、演奏陣のノリノリの演奏もあって楽しめますね。「I’m Afraid Of Americans」はファンクっぽいノリと電子音楽を取り入れ、ひたすら反復する歌詞も中毒性を生み出します。そして名曲「”Heroes”」。リズミカルでノリの良い演奏や円熟味のあるボウイの歌など、リラックスした雰囲気で進行。でも途中からは原曲譲りの、力の入った感情たっぷりの歌に変わります。終わった後の歓声も凄まじいですね。
 ここからメロウな楽曲が続きます。「Bring Me The Disco King」はジャズっぽい演奏でゆったりムード。円熟味のあるボウイの歌唱は落ち着いた演奏に合っていますね。アウトロはピアノ演奏に浸れます。しっとりとして陰りのあるメロディを持つ「Slip Away」をドラマチックに聴かせると、「Heathen (The Rays)」はゆったりとした演奏に手拍子が加わり、ノリの良さを取り戻していきます。演奏は重厚ですが、リズミカルなドラムによって再び盛り上がっていきます。
 再度のメンバー紹介を挟み、そして満を持して『ジギー・スターダスト』から3連発。イントロの特徴的なドラムで始まる「Five Years」はキーを下げていますが、渋さや円熟味を感じるのでこれはこれで良いですね。優しくてメロディアスです。「Hang On To Yourself」はパンキッシュに疾走。ライブ終盤に相応しく、速いテンポでノリノリ。一気に駆け抜けます。そして「Ziggy Stardust」。気持ち遅いですが原曲キーで歌ってくれます。メロディアスで演奏も心地良く、感動を与えてくれます。紛れもない名曲ですね。
 ここからはCDで追加された音源です。「Fall Dog Bombs The Moon」は諦めのような切なさが漂います。「Breaking Glass」はイントロのギターとドラムの響きからワクワクさせてくれます。実験的なシンセサイザーも原曲っぽく、ソウルフルな歌も健在です。マイク・ガーソンのエレピがジャムセッションのようなラフさで、リラックスした感覚を与えます。そして「China Girl」。『レッツ・ダンス』時代のヒット曲ですね。円熟味を増したためニューウェイヴのキラキラ感はやや控えめに、でもキャッチーなメロディで惹きつけます。

 最後に、ここから2曲はデジタル配信限定で追加された音源です。「5:15 The Angels Have Gone」はプリミティブで神秘的な静寂が漂いますが、サビメロ部分はダークな演奏と感情のこもった力強い歌でギャップを覚えます。そして「Days」はシンプルなアコースティック演奏で、アコギとベースが心地良く響きます。牧歌的ですが憂いも帯びています。
 
 
 トータル2時間半を超える大ボリュームです。ボウイの歌はさほど老いを感じさせず絶好調だし、バンドメンバーの演奏もキレがあって楽しめます。ボウイの長いキャリアは、楽曲単位で聴くならベスト盤の方が適していますが、全キャリアを一気に通して聴くならこのライブ盤がオススメできます。

A Reality Tour
David Bowie
 
Live Nassau Coliseum '76 (ライヴ・ナッソー・コロシアム’76)

2017年

 『ステイション・トゥ・ステイション』期のライブで、米国ニューヨーク州郊外のナッソー・コロシアムでの公演を収めています。元々は2010年発売の『ステイション・トゥ・ステイション』デラックスエディションに付属していたボーナスディスクでしたが、2017年に独立して単品のライブ盤としてリリースされました。デヴィッド・ボウイをサポートするメンバーは、カルロス・アロマー(Gt)、ステイシー・ヘイドン(Gt)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)、そして元イエスのトニー・ケイ(Key)。
 
 
 Disc1、ライブの開幕曲は「Station To Station」。アール・スリックの代わりにリードギターを務めるヘイドンの荒々しいギターが唸りを上げ、淡々とした鍵盤とグルーヴィなベースが徐々に台頭してきます。シンセによる味付けも良いですね。歌が始まるまでひたすら同じ旋律を反復するのですが、これが中毒性があって魅力的です。そしてボウイの低音イケボな歌を聴きながら、後半テンポアップすると軽快でリズミカルなドラムを中心に高揚感を煽ります。素晴らしい1曲です。続いて定番の「Suffragette City」。このライブではビート感のあるデイヴィスのドラムが特徴的で、踊りたくなるような軽快なアレンジです。ファンク全開の「Fame」では、原曲よりもグルーヴィなサウンドと、バックボーカルとの掛け合いが楽しい。ひねているけどキャッチーなメロディも良いですね。続く「Word On A Wing」はメロディアスな1曲。哀愁漂う歌を、ソウルフルな歌唱で聴かせます。キレのあるギターで幕を開ける「Stay」はグルーヴ感抜群のカッコ良い演奏に痺れますね。ひたすら反復する旋律は心地良さを生み出します。そして、ボウイのライブではお馴染みの「Waiting For The Man」ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのカバー。歌より演奏で楽しませる感じです。続いて「Queen Bitch」は爽やかな印象のロックンロール。サビに向かってどんどんヒートアップする展開にワクワクしますね。

 Disc2に入り、「Life On Mars?」。美しいメロディが魅力の楽曲なのに、高音がきついのかメロディをあまりに外していてイマイチです。そのまま途切れず続く「Five Years」はメロディアスな歌をゆったりと聴かせます。こちらは前曲と違って、原曲の時点でヒステリックに音を外しているので特に気になりません。笑 「Panic In Detroit」は切れ味鋭いギターにファンキーなリズム隊というアレンジが加わっています。歌もかなり早口にまくし立て、こんな曲あったっけ?と思うくらいには別物な仕上がり。後半にデイヴィスのドラムソロやメンバーの即興演奏も入っていたり、中々面白いアレンジです。「Changes」はスペイシーなシンセが印象的。キャッチーな歌メロを、グルーヴィで楽しげな演奏で盛り上げます。続いて「TVC 15」ではソウルフルな歌を披露。ビートが心地良い演奏に、時折入るピアノの味付けで洗練された印象に仕上げます。「Diamond Dogs」はイントロがとてもカッコ良い(特にベースとバスドラム)。本編もビートが効いていて爽快。良質なアレンジで楽しませてくれます。終えた後に大歓声が続き、手拍子に迎え入れられ始まる「Rebel Rebel」。原曲より速い気がしますが攻撃性は薄めて、ファンキーで親しみやすいアレンジ。陽気な雰囲気で、聴いていると楽しい気分になります。ラスト曲は「The Jean Genie」で、元々リズミカルでしたが、よりリズムを強調した仕上がりになっています。途中即興的なプレイも含め、明るく楽しい演奏で楽しませてくれます。
 
 
 ボーナスディスクで留めておくには勿体ない出来の良さで、独立したライブ盤としてのリリースは正解ですね。全体的にグルーヴ感溢れる演奏で、グラムロック時代の名曲もビートが効いたリズミカルなアレンジで楽しませてくれます。

Live Nassau Coliseum ’76
David Bowie
 
 
Serious Moonlight (Live '83) (シリアス・ムーンライト(ライヴ '83))

2019年

 『レッツ・ダンス』の大ヒットを背景に敢行した大規模なワールドツアー「シリアス・ムーンライト・ツアー」。このツアーにおけるカナダ公演を収録したライブ盤です。DVDは出ていましたが、CD化はBoxセット『ラヴィング・ジ・エイリアン 1983-1988』が初出。それが2019年に単品でもリリースされました。
 スティーヴィー・レイ・ヴォーン(Gt)は薬物癖のためツアーには帯同させず、代わりにアール・スリック(Gt)を起用。カルロス・アロマー(Gt)、カーマイン・ロジャス(B)、トニー・トンプソン(Dr)、デイヴ・レボルト(Key)、その他サックスや管楽器、コーラス隊がデヴィッド・ボウイのライブをサポートします。
 
 
 大歓声で迎え入れられて「Look Back In Anger」で開幕。爽快な疾走曲で、躍動感のあるドラムやグルーヴィなベースが素晴らしい。コーラス隊が飾るメロディもキャッチーです。続いて名曲「”Heroes”」。ドリーミーなシンセによるイントロで始まり、素晴らしい歌メロが展開されます。原曲よりグルーヴ感が強く、歌を堪能するというより、一緒に歌って楽しむ感じのダンサブルなアレンジに仕上がっています。サックスも華やかですね。ファンク色を増した「What In The World」も楽しい。後半の疾走パートは原曲に比べとても速く、終盤更に加速するので笑えるほど爽快です。ボウイのソウルフルな歌唱を楽しめる「Golden Years」とダンサブルな「Fashion」が続きますが、どちらも同じフレーズを反復して中毒性のあるキャッチーな名曲ですね。そして楽曲途中で半ば強引に「Let’s Dance」に繋ぎます。キレのあるギターやポップセンス全開の歌メロなど、魅力に溢れています。明るくて、そしてカッコ良い。「Breaking Glass」はサックス主導の洒落たアレンジのイントロで開始。そしてギターが終始唸ります。「Life On Mars?」は高音パートだけ1オクターブ下げていますが、今の声域の範囲で最大限美メロを活かすための苦肉の策といった感じ。あえてテンポも落として音を外さないようにしてますね。続いて『ピンナップス』収録のカバー「Sorrow」という珍しい選曲。爽やかな曲調にサックスが映えます。少し怪しげだけどキャッチーな「Cat People (Putting Out Fire)」を挟んで、中華風のメロディがキャッチーな「China Girl」が続きます。哀愁が漂うポップなメロディが魅力的ですね。そして「Scary Monsters (And Super Creeps)」、原曲はキャリアでも屈指の緊迫感を誇る異様にスリリングな楽曲でしたが、ライブだとやや狂気性が後退。でもサックスなど華やかな音色でアプローチを少し変え、スリルには溢れています。続いてキレのあるギターが気持ち良い「Rebel Rebel」。これもライブならではの、楽しげな雰囲気に仕上がっています。

 Disc2はヴェルヴェット・アンダーグラウンドのカバー「White Light/White Heat」で幕開け。キャッチーでノリノリのロックンロールですね。キレのあるギターも良いし、ブイブイ唸るベースもカッコ良い。そして「Station To Station」は汽車がゆっくり走り始めるかのような演出で開幕。グルーヴィなリズムにサックスが加わって、それ以外にも多彩な音色でゴージャスな印象に。渋い歌声や、後半のスリリングなテンポアップなど相変わらず聴きごたえのある名曲です。「Cracked Actor」は華やかなアレンジに違和感が無くて、原曲の明るいノリをうまく活かしています。「Ashes To Ashes」はファンキーでちょっとトリッキーなリズムが際立っています。ボウイの歌う哀愁のメロディも良いですね。続く名曲「Space Oddity」でゆったりと漂うかのような心地良い浮遊感。スペイシーなシンセが鳴り響きます。メロディも魅力的ですね。楽曲が終わると大歓声に包まれ、その後バンドメンバーの紹介。そしてまったりとした雰囲気で「Young Americans」へ。若干速めのテンポで、分厚いコーラスとともにソウルフルな歌を披露します。「Fame」はシンセやサックスなど賑やかなアレンジで、ファンキーなリズムは重低音が効いていてとてもカッコ良い。なおコーラス隊に変な歌い方をする人がいて、キャッチーだけどひねたメロディはより奇妙な感じに。最後に「Modern Love」。リズム隊がカッコ良い演奏を披露したかと思えば、抜群にキャッチーな歌メロが始まります。明るい曲調で元気を貰える1曲で、楽しい雰囲気でライブを締め括ります。
 
 
 当時のオールタイムベスト的な選曲のライブで、ニューウェイヴ/ポップ時代の華やかなアレンジで楽しませてくれます。聴いていて楽しい気分になれるライブ盤です。

Serious Moonlight (Live ’83)
David Bowie
 
Glass Spider (Live Montreal '87) (グラス・スパイダー(ライヴ・モントリオール'87))
 
2019年

 『ネヴァー・レット・ミー・ダウン』を伴うワールドツアーの模様を収めたライブ盤です。本作の初出は2007年発売のDVDに付属するボーナスCDだそうで、Boxセット収録を期にCD単品でもリリースになったみたいです。1980年代の楽曲を中心にセレクトされていますが、選曲がイマイチ魅力に欠ける気がします…。
 デヴィッド・ボウイをサポートするメンバーはピーター・フランプトン(Gt)、チャーリー・セクストン(Gt)、カルロス・アロマー(Gt)、カーマイン・ロジャス(B)、アラン・チャイルズ(Dr)、エルダル・キジルケイ(Key/Tr/Vn)、リチャード・コトル(Key/Sax)。またダンサーも何名か帯同させたそうです。
 
 
 テクニカルなギタープレイを披露する「Up The Hill Backwards」でライブ幕開け。怒号のようなナレーションから淡々とした歌が始まり、次曲「Glass Spider」へ。神秘的なサウンドをバックにナレーションが流れ、そして途中からリズムが前面に出てくるとノリノリのダンスチューンに変貌します。続く「Day-In Day-Out」は1980年代ポップスというか、時代を感じる華やかなサウンドにR&Bっぽいコーラスが印象的。ドラムが結構強調されています。「Bang Bang」も時代を感じる疾走曲。華やかさの中に程よい哀愁があって、一昔前の邦楽のような感じです。「Absolute Beginners」では女性ボーカルと掛け合いを行ったあとメロディアスな歌を聴かせます。続いて「Loving The Alien」、こちらもメロウでゆったりとした楽曲ですね。正直この辺でだれるのですが、「China Girl」のキャッチーなイントロから持ち直します。ポップで哀愁のある良曲です。「Rebel Rebel」は切れ味が少ないものの、キャッチーでリズミカルな楽曲は楽しい気分にさせてくれます。ボウイと女性が掛け合いを行った後に始まる「Fashion」、ひねているけどキャッチーな歌メロで楽しませてくれます。自由気ままなギターソロも聴きどころですね。「Scary Monsters (And Super Creeps)」はライブを重ねるごとに、原曲の持つ異様な緊迫感が薄れていくような。笑 キャッチーな疾走曲という印象に変わっています。そして冒頭ボウイの「Rock ‘n’ Roll!」の連呼が印象的な「All The Madmen」は『世界を売った男』からの珍しい選曲。1980年代の音にアレンジされ、明るく晴れやかな雰囲気になっていますが、原曲の優れたメロディは活かしています。昔からボウイのポップセンスはずば抜けていたのだと改めて思い知らされます。メロウな「Never Let Me Down」が続いてDisc1は終了。

 続いてDisc2。「Big Brother」は少しキーを下げていますが、ソウルフルなサビメロは魅力的。終盤のリズミカルな演奏に乗せたサックスソロも良いですね。そのまま続く疾走曲「’87 And Cry」。軽快に駆け抜けた後は名曲「”Heroes”」へ。ダンディな低音ボーカルと後半のヒステリックな歌唱への変貌は相変わらず魅力的ですが、明るくリラックスした雰囲気の演奏に違和感があるのか、原曲ほどの感動が得られなかったりします。続いてメロウな「Sons Of Silent Age」。サックスが魅惑的ですね。原曲に比べ切迫した感じは薄れているものの、円熟味のある哀愁メロディでまた違った魅力を出している気がします。同じくサックスが魅力の「Time Will Crawl」を挟んでメンバー紹介。その後「Young Americans」が続きます。軽やかなテンポで、キャッチーでソウルフルな歌で楽しませます。シンセとドラムが前面に出てくる「Beat Of Your Drum」に続き、名曲「The Jean Genie」もシンセを大胆に活用した派手なアレンジに。原曲とは結構別物に仕上がっています。「Let’s Dance」はポップ時代の名曲ですね。キレのあるギターに華やかなホーン、そして抜群にキャッチーな歌メロで魅せます。続いてベース音が響き渡ると名曲「Fame」へ。ファンキーなギターが中心となって作り出す独特のリズム感はやみつきになるほどで、ひねくれてるのにとてもキャッチー。終盤に即興でいくつかの楽曲を歌い(ロンドン橋落ちたとか笑)、そして一気に急加速して終了。そこで少し空気を変える「Time」。演劇的というか、少し狂気の入った感覚は原曲に違いですね。終盤は華やかなシンセで大団円といった感じで締めます。続いて飛び抜けて明るい「Blue Jean」。キャッチーなメロディはとても魅力的で、ポップ時代では「Let’s Dance」に次ぐ名曲です。ラストは「Modern Love」で、リズミカルな演奏にキャッチーな歌で楽しませてくれます。サックスソロも魅力的です。
 
 
 1980年代ポップソングを中心とした選曲。勿論良曲もありますが低迷期のパッとしない楽曲も多く、往年の名曲群と比べるとどうしても劣って見えます。その往年の名曲も、ポップなアレンジが吉と出る楽曲と凶と出る楽曲とが混在し、個人的には出来がマチマチな印象…。ライブトータルだと若干退屈になる部分がありました。

Glass Spider (Live Montreal ’87)
David Bowie
 
  

編集盤

Nothing Has Changed (ナッシング・ハズ・チェンジド〜オールタイム・グレイテスト・ヒッツ)

2014年

 前年『ザ・ネクスト・デイ』で突如復帰したデヴィッド・ボウイは、2014年に晴れて活動50周年を迎えました(ディヴィー・ジョーンズ名義で活動していた時代も含む)。そんな記念すべき50周年にリリースしたのが、自身のキャリアを総括するオールタイムベスト盤となる本作です。2年後に『★』をリリースすることになるものの、本作収録の新曲「Sue (Or In A Season Of Crime)」を採用してるので、全キャリアを総括したベスト盤になっています。

 アルバムはCDで3種類リリースされました(レコード含めると全4種類)。私が購入したのは3枚組59曲入りのデラックス・エディションで、本レビューはこちらになります。最新曲から過去へ遡る曲順となっています。ディヴィー・ジョーンズ名義の楽曲も含まれる「記録」として優れた作品ですが、ボリュームの多さと降順に並んだ曲順のせいか、ほとんど聴いていません…。
 2枚組39曲入りのスタンダード・エディションは初ヒット曲「Space Oddity」から最新曲へと年代順に並びます。こちらは聴いたことはありませんが、曲目を見る限りは「普段聴き」に適しているのはこちらのような気がします。
 1枚組21曲入りもありますが、各国で曲目が1、2曲程度違っているみたいですね。曲順はマチマチですが、キャッチーな楽曲を中心にセレクトされているようです。
 
 
 Disc1は2010年代の楽曲で開幕。まずは7分半に渡る新曲「Sue (Or In A Season Of Crime)」。渋くもダイナミックな楽曲で、マーク・ギリアナの叩くジャジーなドラムがとてもスリリングでカッコ良く、ですが楽器的にはジャズというよりもクラシック寄りな印象を受けます。そこにとても渋いボウイの歌が響き渡ります。『★』にも採用されるのですが、『★』収録バージョンはロック色が強まって躍動感に溢れており、更にカッコ良くなります。続く「Where Are We Now?」は暗鬱な演奏に哀愁の歌が切なく染み入ります。パタパタとした手拍子から始まる「Love Is Lost」は無機質で実験的ながら、リズムだけはダンサブルですね。時折「Ashes To Ashes」のメロディを引用しています。「The Stars (Are Out Tonight)」は緊迫感に満ちたスリリングな1曲。暗くて緊張の張り詰めた演奏に、ボウイの歌も切迫した感じでヒリヒリとしています。
 ここから2000年代。「New Killer Star」はシンプルな演奏だし歌も比較的淡々としている感じもするのですが、不思議と耳に残るキャッチーさがあります。続いて「Everyone Says ‘Hi’」は渋くて優しいボウイの歌声に癒されます。ポップですが落ち着いた円熟味に溢れる1曲です。「Slow Burn」は哀愁漂うロック曲。ブルージーなギターと動き回るベースが印象的です。続く3曲は未発表アルバム『Toy』収録予定だった楽曲で、この作品はお蔵入りしていたのが2011年にインターネットに流出してしまったそうです。「Let Me Sleep Beside You」は明るいトーンですが、爽やかな演奏と違って、ボウイの歌声は渋く老成した感じですね。心地良い浮遊感のある「Your Turn To Drive」で揺られた後は「Shadow Man」へ。『ジギー・スターダスト』の頃に原案は作られていたようです。ピアノの綺麗な演奏に乗せて渋い歌声が涙を誘います。切なくて美しい1曲ですね。
 ここからは1990年代へ。「Seven」は明るくキャッチーなポップ曲です。落ち着いた印象には仕上がっているものの、『Toy』の楽曲の老成具合と比べれば老いはあまり感じません。気だるげな印象の「Survive」は少し地味ですね。「Thursday’s Child」は単調なドラムに乗せてゆったりとした歌を提供します。囁くような女性コーラスが特徴的。続く「I’m Afraid Of Americans」はノイジーで気だるい演奏をバックに淡々とした歌が乗ります。ダウナーなダンスミュージックといった印象。そして目の覚めるようなインパクトのある「Little Wonder」がカッコ良いのです。ノイジーだけどキャッチーで、リズミカル。メロディは割とシンプルですが、中盤までドラムループが強烈に楽曲を牽引します。終盤は生ドラムっぽいですが、キレッキレで躍動感がありカッコ良い。続く「Hallo Spaceboy」はダンスポップユニットのペット・ショップ・ボーイズがリミックス。歌には浮遊感がありますが、ノリの良いサウンドはとてもダンサブルです。「The Hearts Filthy Lesson」はヘヴィですがグルーヴ感抜群で、中々ダンサブルな楽曲です。「Strangers When We Meet」はビートが心地良いもののメロディアスな歌に浸るタイプの楽曲ですね。アクセントとしてのピアノが魅力的です。
 
 
 続いてDisc2。メロウな「The Buddha Of Suburbia」は、後半に出てくるレニー・クラビッツの泣きのギターが良いですが、イマイチ印象に薄いです…。ダンサブルな「Jump They Say」はプログレッシヴ・ハウスというジャンルらしいですね。1980年代ダンスポップから、ティン・マシーンを経て、1990年代のダンスミュージックへ傾倒していく変遷が見られます(そういえば本作にはティン・マシーン時代は採用されてないですね)。
 ここからニューウェイヴ/ダンスポップな1980年代へ。「Time Will Crawl」はリズミカルですが、歌メロは哀愁たっぷりです。「Absolute Beginners」は自身も出演したミュージカル映画『ビギナーズ』のテーマ曲。メロディアスな1曲ですね。続いてローリング・ストーンズのミック・ジャガーと共演した「Dancing In The Street」。ストーンズ色の方が強くてボウイの存在感が薄めです。キャッチーでノリも良い佳曲ですけどね。「Loving The Alien」は強烈な哀愁が漂うメロディアスな名曲です。ポップ期は優れた楽曲と凡庸な楽曲の差が激しい印象です。「This Is Not America」はパット・メセニー・グループが演奏。囁くような歌は反復するため地味に印象に残ります。ここからはキャッチーな名曲尽くしで、「Blue Jean」は明るく華やか。サックス隊やマリンバが、キャッチーな楽曲を更に華やかに彩ります。低いトーンのボウイも、ノってくるとソウルフルな歌でとてもご機嫌ですね。「Modern Love」はイントロからキレッキレ。メロディには少し哀愁がありますが、それを掻き消すくらいにキャッチーなリズムに乗せられ、とてもポップです。続いて、友人イギー・ポップとの共作にしてセルフカバー曲「China Girl」。チャイナ風のキャッチーなフレーズに、哀愁たっぷりのメロディアスな歌が魅力的です。メロディの魅力に隠れがちですが、ファンキーなギターやグルーヴ感抜群のベースも楽しませてくれます。そしてポップ時代一番の名曲「Let’s Dance」。ビートの効いたノリノリな演奏はとても楽しいし、一度聴いたら忘れられないキャッチーなサビメロにノックアウト。
 ここからはポップスターになる前の、カルトヒーロー時代の奇妙で魅力的な楽曲群が並びます。「Fashion」、これがひねたポップセンスを見せる名曲なのです。変なメロディなのにとても中毒性が強くて、ファンキーなリズムが中毒性を更に増長します。「Scary Monsters (And Super Creeps)」はキャリアでも屈指の緊張感を放つとてもスリリングな1曲です。キング・クリムゾンのロバート・フリップによる強い緊張を生むギター、タムを多用するデニス・デイヴィスのダイナミックなドラム、そしてボウイの狂気混じりの歌唱が異様な空気を作り出します。「Ashes To Ashes」は独特のファンキーなリズムに強い哀愁のメロディが魅力的。自身の生み出した「宇宙飛行士トム少佐」をただのジャンキーと否定し、これまでの1970年代の活動を否定し決別した1曲です。続いてクイーンと共演した「Under Pressure」。高音を担うフレディ・マーキュリーと低音を担うボウイの相性は良く、キャッチーな名曲が出来上がりました。
 ここから1970年代黄金期の活動に突入します。ベルリン時代の「Boys Keep Swinging」は明るいアップテンポ曲ですが、エイドリアン・ブリューの狂気的なギターが単なるポップソングに終わらせません。そしてボウイのキャリアで一番の超名曲「”Heroes”」。冷戦の最前線ベルリンで作られ、後に東西に分かれたドイツを一つにするのに貢献した楽曲のうちの一つで、「僕らはヒーローになれる、1日だけなら」と、聴く者に勇気をくれます。メロディアスな歌を最初は淡々と歌うのに、後半はヒステリックに歌うので、これがとても胸に染み入るんですよね。素晴らしい名曲です。「Sound And Vision」はドイツプログレやブライアン・イーノの影響が強い楽曲で、歌よりも演奏に重きを置いています。寂寥感の漂う切ない雰囲気がたまらなく魅力的です。続いてアメリカンソウル時代の「Golden Years」。ファンキーなリズムとひたすら反復する歌が印象的ですね。最後に映画『野生の息吹』のテーマ曲のカバー「Wild Is The Wind」。渋くてソウルフルな歌唱を披露する1曲ですが、これを入れるなら「Stay」か「Station To Station」が欲しかった。笑
 
 
 そしてDisc3。1970年代黄金時代の続きです。アメリカ時代の「Fame」ジョン・レノンとの共作。抜群のポップセンスを見せるメロディは、ひねているのに強い中毒性があります。ファンキーなリズムも中毒性を高めてくれます。「Young Americans」はアメリカンソウルに最接近した、黒っぽくソウルフルな楽曲。これもキャッチーですね。歓声の演出で始まる「Diamond Dogs」は少し陰のある気だるいロックンロール。収録アルバムは退廃的ですが、この楽曲はまだダークさは少ないです。「Rebel Rebel」は鋭利なリフが強烈。キレがありますが、リズミカルでノリの良いロックンロールです。続いてザ・マッコイズのカバー曲「Sorrow」。憂いのある声で歌い、シンプルで爽やかながらも切なさを感じさせます。
 ここからはジギー・スターダストになりきっていた頃の、グラムロックの名曲群が並びます。サックスがメロウな音色を奏でる「Drive-In Saturday」は、まったりとして気だるい雰囲気ですが、サビの力強い歌唱は迫力があります。「All The Young Dudes」はモット・ザ・フープルへの提供曲のセルフカバー。拙い感じがありますが、メロディは中々魅力的です。続いてライブでも定番の「The Jean Genie」。気だるげですがリズミカルで心地良く、キャッチーなメロディも口ずさみたくなります。「Moonage Daydream」はストリングスやメロディアスな歌が優雅ですが、そこに盟友ミック・ロンソンのハードなギターが冴えますね。アウトロでの浮遊感のあるギターソロも魅力的です。「Ziggy Stardust」はメロディがとても良いですね。演奏はシンプルですが、メロディアスな歌に魅せられます。そして「”Heroes”」に次ぐ超名曲「Starman」。アコギ主体のシンプルな演奏で、メロディもシンプルながらとても魅力的で口ずさみたくなります。盛り上がる部分ではストリングスが引き立てますが、これがぐっとくるんです。素晴らしい名曲です。続く「Life On Mars?」はメロディアスなバラードです。イエスのリック・ウェイクマンの弾く流麗なピアノや、ストリングスに彩られた歌は耳に残ります。ライブだとこの魅惑の高音メロディを再現できず、スタジオ録音でのみ大いに魅力を発揮する楽曲ですね。「Oh! You Pretty Things」は後に映画監督となる息子ダンカン・ジョーンズが生まれたときに、その喜びと不安を表現したポップな1曲です。「Changes」は抜群のポップセンスを見せるキャッチーな名曲です。ここで歌われる「違う人間へと変わるんだ」という決意は、グラムロックの雄として、ロックスターとしてスターダムを駆け上るボウイの未来を示しているかのようです。変化に富んだ名曲の数々をリリースするボウイですが、総括した本作タイトルは「Nothing has changed. (何も変わっていない)」なんですね。本質が変わらないという意味でしょうか?続いて「The Man Who Sold The World」は陰鬱で気だるげな楽曲。暗いのですが中毒性のある名曲です。ニルヴァーナによるカバーが有名ですね。
 そしていよいよ1960年代。代表曲の1つ「Space Oddity」は、管制官と通信が途絶えて宇宙を1人漂う「宇宙飛行士トム少佐」が歌われています。同年のアポロ11号月面着陸という出来事も相まって、ボウイの初ヒット曲となりした。メロトロンを用いた浮遊感のある演奏に、キャッチーでメロディアスな歌がとても魅力的です。オルガンの鳴り響く「In The Heat Of The Morning」は少し古臭さを感じますが、ポップで聴き心地は良いです。ゆったりとして牧歌的な「Silly Boy Blue」は録音状態も古くて時代を感じますね。
 ここからは名義も流動的だった頃の楽曲が並びます。録音も古臭いですね。デヴィッド・ボウイ・ウィズ・ザ・ロウアー・サード名義の「Can’t Help Thinking About Me」はアコギをかき鳴らして、軽快でノリの良い楽曲です。ディヴィー・ジョーンズ名義の「You’ve Got A Habit Of Leaving」はこの時代にしては結構ヘヴィな音色を奏でている印象。そしてラストはディヴィー・ジョーンズ・アンド・ザ・キング・ビーズ名義で出した、1964年の初シングル「Liza Jane」。終始シャウト気味の、捻りのないド直球なロックンロールです。これだけ聴くと、後のあまりに多様な名曲の数々は想像もできませんが、ボウイのキャリアはここからスタートしたんですね。
 
 
 ボリューム満点なので通しで聴くことはまず無いですが(レビューにあたって初めて通しで聴きました笑)、50年のキャリアに生み出した名曲の数々はやはり魅力的。ただアルバム毎にがらりと作風が変わるボウイの楽曲群は、こうして並ぶと全然統一感が無いですね。
 3枚組デラックス・エディションに関して言えば入門には向いておらず、ある程度聴いた人が名曲を振り返るという用途に適している気がします。ボウイはベスト盤よりもオリジナルアルバムの方が入門に向いているというのが持論です。

左:3枚組のデラックス・エディション。本項レビューはこちらになります。
中:2枚組のスタンダード・エディション。
右:1枚組。

Nothing Has Changed (3CD Deluxe Edition)
David Bowie
Nothing Has Changed (2CD Standard Edition)
David Bowie
Nothing Has Changed (1CD Version)
David Bowie