🇬🇧 David Bowie (デヴィッド・ボウイ)

Boxセット

Five Years 1969-1973 (ファイヴ・イヤーズ 1969-1973)
2015年
外装:
内容:
価格:
総合:

収録作品

評 価 タイトル 商品情報
65点 Space Oddity (スペイス・オディティ) 1969年 2ndアルバム 2015年リマスター
80点 The Man Who Sold The World (世界を売った男) 1970年 3rdアルバム 2015年リマスター
80点 Hunky Dory (ハンキー・ドリー) 1971年 4thアルバム 2015年リマスター
100点 The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars
(ジギー・スターダスト)
1972年 5thアルバム 2012年リマスター
同上 2003年ケン・スコット・ミックス
50点 Live Santa Monica ’72 (ライヴ・サンタモニカ’72) 2008年 ライブ盤
95点 Aladdin Sane (アラジン・セイン) 1973年 6thアルバム 2013年リマスター
60点 Ziggy Stardust: The Motion Picture Soundtrack
(ジギー・スターダスト・ザ・モーション・ピクチャー)
1983年 ライブ盤 2003年リマスター
50点 Pin Ups (ピンナップス) 1973年 7thアルバム 2015年リマスター
35点 Re:Call 1 (リコール1) 2015年(本作初収録) レアトラック集

 
 デヴィッド・ボウイの一番脂の乗った時期であるグラムロック時代を総括したBoxセットです。私は既にこの時期の作品の大半を持っていたので、リリース後しばらく購入を悩んでいたのですが、2016年1月10日の訃報を聞いて、悲しみに暮れながら本作の購入を決断しました。結果として文句ない出来で、購入して本当に良かったと思っています。

 しっかりとした外箱に、全作が紙ジャケ仕様でスリーブ付。更に分厚い豪華ブックレットも付属しています。Boxの仕様としては文句なしですね。
 
 
 各作品のレビューは重複のため、初出となる『リコール1』のみレビューします。『リコール1』は2枚組のシングル/カップリング曲集となります。
 まずはDisc1。モノラル音源の「Space Oddity」、「Wild Eyed Boy From Freecloud」が続きますが、音質に少し古さを感じつつも優れたポップセンスでじっくり聴かせます。「Ragazzo Solo, Ragazza Sola」は「Space Oddity」のイタリア語バージョン。サイケでスペイシーな演奏はそのままに、イタリア語の特性か巻き舌が目立ちますね。モノラル音源の「The Prettiest Star」を挟んで、「Conversation Piece」は牧歌的な雰囲気の1曲。レトロな音質が温かみのある楽曲に合っていますね。「Memory Of A Free Festival (Part 1)」、「Memory Of A Free Festival (Part 2)」は、7分あるアルバム曲を2パートに分割。パート1はアコギを中心にしつつ、スペイシーなムーグシンセやメリハリのあるエレキギターが彩ります。パート2へ続く印象的なコーラスパートが始まりますが途中フェードアウト。パート2は終始コーラスパートですが、キャッチーなメロディは耳に残ります。モノラル音源の「All The Madmen」でハードロック的なサウンドへ変質。ヘヴィでスリリングな演奏になりますが、メロディはポップです。キャッチーな「Janine」に続き、アルバム未収録シングル「Holy Holy」。どこかほのぼのとした雰囲気。ハービー・フラワーズのベースが印象的です。続く2曲はボウイのサイドプロジェクト「The Arnold Corns」名義でのシングルで、「Moonage Daydream」は歌はキーを下げ、演奏もシンプルなアレンジ。「Hang On To Yourself」はパンキッシュな原曲とは異なり、テンポは速いもののアコースティックで大人しめなアレンジに仕上がっています。

 続いてDisc2。モノラル音源の「Changes」、「Andy Warhol」、そしてシングル版「Starman」といった名曲が続きます。そしてアルバム未収録の「John, I’m Only Dancing」はリズミカルでノリノリの1曲。ファルセット気味のヘロヘロなボーカルに、ウッディ・ウッドマンジーのバタバタとしたドラムが印象的です。ノリ良くほどよくルースな「The Jean Genie」を挟んで、「Drive-In Saturday (German single edit)」はドイツ語…ではなく普通に英語歌詞。ドイツ版は収録時間が若干短いようです。「Round And Round」はロックンロールミュージシャンのチャック・ベリーのカバー曲。コテコテのロックンロールですが、荒々しい演奏は少しパンキッシュな感じ。ミック・ロンソンのギターがキンキン唸っています。「John, I’m Only Dancing (sax version)」はタイトルどおりサックスが加わっているのが特徴。とはいえバンドサウンドがメインといった趣です。米国と日本のみのシングルカットとなった「Time」を挟んで、「Amsterdam」はシャンソン歌手ジャック・ブレルのカバー。アコギ弾き語りのような感じで、淡々と始まりますが終盤は凄い熱が入っています。「Holy Holy (Spiders version)」はオリジナルよりもハードなサウンドで、メリハリのある良アレンジ。スパイダーズ・フロム・マーズの演奏はキャッチーな歌メロを更に引き立て、大きく魅力を増しています。最後に「Velvet Goldmine」は『ジギー・スターダスト』期のアウトテイク。ノリの良いサウンドに、少し影のあるメロディを聴かせます。

 一度聞けば十分といった感じのオマケですが、「Space Oddity」のイタリア語バージョン「Ragazzo Solo, Ragazza Sola」とかは面白いですね。
 
 
 価格は高いですが、内容を考えれば十分妥当だと思います。またデジタル音源やストリーミングもあるので、ブックレットや紙ジャケの現物が目当てでなければ高騰して買えないという事態も避けられそうですね。ストリーミングでひととおり試聴してから購入判断をするのも良いかと思います。
 
 
 個人的には大満足の買い物でした。一番魅力的な時期の作品が並ぶため、Boxを買わないにしてもこの辺りの作品から開拓を進めるのが良いと思います。個人的にはこれがあまりに良かったので、この後次々出るBoxセットを買いたい欲が出てきてしまったわけですが…。

左:輸入盤。私が購入したのはこちらで、本レビューもこちらになります。
右:国内盤。日本語ブックレットや、写真家の鋤田正義によるフォトブックレット等の追加特典があるみたいです。

Five Years 1969-1973
David Bowie
ファイヴ・イヤーズ 1969-1973
David Bowie
 
Who Can I Be Now? 1974-1976 (フー・キャン・アイ・ビー・ナウ? 1974-1976)
2016年
外装:
内容:
価格:
総合:

収録作品

評 価 タイトル 商品情報
90点 Diamond Dogs (ダイアモンドの犬) 1974年 8thアルバム 2016年リマスター
70点 David Live (デヴィッド・ボウイ・ライヴ) 1974年 ライブ盤 オリジナルミックス 2016年リマスター
同上 2005年ミックス 2016年リマスター
50点 The Gouster (ザ・ガウスター) 2016年(本作初収録)
75点 Young Americans (ヤング・アメリカンズ) 1975年 9thアルバム 2016年リマスター
85点 Station To Station
(ステイション・トゥ・ステイション)
1976年 10thアルバム 2016年リマスター
同上 2010年ハリー・マスリン・ミックス
75点 Live Nassau Coliseum ’76
(ライヴ・ナッソー・コロシアム’76)
2017年(2010年のStation To Station Deluxe Editionが初出) 2010年リマスター
35点 Re:Call 2 (リコール2) 2016年(本作初収録) レアトラック集

 
 デヴィッド・ボウイのBoxセット第二弾。前作が5年区切りでかつタイトルも『Five Years』(『ジギー・スターダスト』収録曲)だったので、今回勝手に「アメリカ時代+ベルリン三部作で『Golden Years』(『ステイション・トゥ・ステイション』収録曲)とでも来るかな?」などと期待を寄せていました。情報が出てくると今回Box対象はアメリカ時代でオリジナルアルバムは3作品。期待が大きかっただけに、前作に比べると物足りないBoxでしたが、続きものなのでやはり買ってしまいました。

 しっかりとした外箱に、全作が紙ジャケ仕様でスリーブ付。分厚い豪華ブックレットも付属という仕様は前回Boxに引き続き。パッケージ仕様は文句ありませんね。
 
 
 各作品のレビューは重複のため、初出かつ本作限定となる『ザ・ガウスター』と『リコール2』のみレビューします。

 まずは『ザ・ガウスター』をレビューします。ジョン・レノンとの出会いがなければ『ヤング・アメリカンズ』ではなくこれが世に出ていたことでしょう。
 「John, I’m Only Dancing (Again)」は『ヤング・アメリカンズ』から省かれた1曲。正直省いたのが勿体ないレベルの良曲です。チープなシンセから始まるキャッチーでダンサブルな楽曲で、黒っぽいコーラスとファンキーなギターが軽快な雰囲気。サックスも良いですね。楽しませてくれる1曲ですが、若干籠もり気味な音質だけが残念。メロウなサックスとグルーヴィなベースを中心とした「Somebody Up There Like Me」をまったり聴かせた後は、「It’s Gonna Be Me」。これも省かれたうちの1曲です。メロウな楽曲で、「間」を活かした静かで穏やかな1曲です。正直パンチには欠ける印象…。
 レコードだとここにA面B面の区切りを設定しているようで、今回Boxのタイトルとなった「Who Can I Be Now?」がB面オープニング。メロディアスなバラードで、AORっぽいです。メロウなサックスに渋い歌声が大人びた魅力を醸します。当時のボウイっぽくはないな…と思ったものの、次曲と似た雰囲気でしたね。まったりとしたバラード「Can You Here Me」は『ヤング・アメリカンズ』版と比べストリングスが無いのですが、結構雰囲気が違います。そして「Young Americans」、「Right」という順で並びます。
 正直パンチに欠ける印象は否めず、『ヤング・アメリカンズ』でリリースされて良かったと改めて思い知らされます。
 
 
 ここからは『リコール2』。アメリカ時代のシングル曲集となりますが、そこまで真新しい楽曲はないので、正直1回聴けば十分ですね。
 キレのある「Rebel Rebel」のオリジナルシングル版の後は、「Diamond Dogs (Australian single edit)」。原曲は6分近いですが、こちらは3分で終わるミックスになっています。でもイントロの歓声はきっちり残っていますね。「Rebel Rebel (U.S. single version)」は少し短めの3分。またミックスもいじったようで、ギターが籠もり気味ですが、ボウイのボーカルとギロなどのパーカッションがくっきりしています。「Rock ‘N’ Roll With Me」「Panic In Detroit」はライブバージョン。前者はまったりとした演奏で、丁寧な演奏はあまりライブ感を感じられないかも。逆に後者は歓声だとか陽気なアレンジが加わった演奏など、ライブ独特の雰囲気が強く出ています。終盤はスリリングな演奏バトルというか、各楽器が魅力的な演奏を披露します。これ以降はオリジナルアルバムに採用されたシングル。「Young Americans」、「Fame」、「Golden Years」、「Station To Station」、「TVC 15」、「Stay」、「Word On A Wing」と続きます。キャッチーな楽曲が並びますね。シングル用に短くなっている楽曲も多いですが、バージョン違いで特筆するとしたら「Station To Station」でしょうか。原曲の半分以下の短さですが、後半のテンポアップしたキャッチーな部分だけを切り取っていて、より取っつきやすくなっています。そして、最後にオリジナルアルバム未収録シングル「John, I’m Dancing (Again)」。チープなシンセに始まり、ダンサブルなリズムビートとファンキーなギターが爽快。歌もキャッチーだし、正直これはオリジナルアルバムに起用した方が良い良曲です。
 
 
 2枚組ライブ盤がミックス違いで2種類(=4枚)など、前回Boxに比べると枚数を無理やり嵩増ししている感じは否めず、それでいてBox価格は同じくらいなのでやや割高感はありました。ただオリジナルアルバムは脂の乗った時期ではありますし、ライブのクオリティも高く、悪い作品ではありません。デジタル音源やストリーミングもあり、高騰していた際の選択肢も用意されています。

 続き物なので購入しましたが、オリジナルアルバムもライブ盤も既に大半を持っていたことと、前作よりボリューム不足感は否めず満足度は少し低めです。なお、本作の目玉は未発表アルバム『ザ・ガウスター』と謳われているのを見かけますが、個人的には『ライヴ・ナッソー・コロシアム’76』が収穫でした。単品でも買えますが、これが中々良いライブ盤です。

左:輸入盤。私が購入したのはこちらで、本レビューもこちらになります。
右:国内盤。

Who Can I Be Now? 1974-1976
David Bowie
フー・キャン・アイ・ビー・ナウ? 1974-1976
David Bowie
 
A New Career In A New Town 1977-1982 (ア・ニュー・キャリア・イン・ア・ニュー・タウン 1977-1982)
2017年
外装:
内容:
価格:
総合:

収録作品

評 価 タイトル 商品情報
100点 Low (ロウ) 1977年 11thアルバム 2017年リマスター
95点 ”Heroes” (ヒーローズ) 1977年 12thアルバム 2017年リマスター
60点 ”Heroes” EP (ヒーローズE.P.) 2017年(本作初収録) EP
75点 Stage (ステージ) 1978年 ライブ盤 オリジナル・ミックス 2017年リマスター
85点 同上 2017年ミックス 2017年リマスター
70点 Lodger (ロジャー) 1979年 13thアルバム 2017年リマスター
同上 トニー・ヴィスコンティ2017年ミックス
90点 Scary Monsters (And Super Creeps)
(スケアリー・モンスターズ)
1980年 14thアルバム 2017年リマスター
45点 Re:Call 3 (リコール3) 2017年(本作初収録) レアトラック集

 
 デヴィッド・ボウイBoxの第3弾で、ベルリン三部作+『スケアリー・モンスターズ』という、グラムロック期に匹敵する傑作群を収録。発表される前から期待が大きかったですが、期待を裏切りませんでした。

 Boxの仕様はこれまで同様です。分厚い外箱に、紙ジャケ+スリーブ付、ブックレットが付属。
 
 
 各作品のレビューは重複のため言及は避けますが、特筆する点としてはライブ盤『ステージ』。該当作品でもレビューしていますが、オリジナル・ミックスと2017年ミックスでは曲順や曲数がかなり異なり、2017年ミックスの方がより魅力的に仕上がっています。
 また本作で初出となる『ヒーローズE.P.』と『リコール3』はこちらでレビューします。

 まずは『ヒーローズE.P.』。表題曲はシングルとしてリリースされているものの、この4曲の組合せは本作が初出のようです。
 まず「”Heroes”/”Helden”」「”Helden”」はドイツ語バージョンで、「ヘルデン」と読みます。前者は英独混在のロングバージョン(英語→英独混在→独語と後半に向かうにつれて独語の割合が増します)、後者は全編独語の短縮バージョン。ボウイの力強い歌唱とアクセントの強い独語は相性が良く、また原曲はドイツのベルリンで作られたのですから、この名曲のあるべき姿かもしれませんね。ヒステリックに歌う終盤パートは独語でも心に訴えるものがあります。続いて「”Heroes”/”Héros”」「”Héros”」はそれぞれフランス語バージョン。「エロー」と読み、前者は英仏混在のロングバージョン、後者は全て仏語の短縮バージョン。譜割が若干強引だったり、言語の特性か締めるべきところが締まらない感じがして違和感を覚えつつも、原曲のメロディの良さで牽引している印象です。
 「”Heroes”」だけしかないですが、超名曲の言語違いのアレンジは中々面白いです。

 続いてレアトラック集『リコール3』。
 まずは「”Heroes”」のシングル版で、アルバム版より短く、ヒステリックな歌メロパートが早めに訪れます。「Beauty And The Beast」と豪版シングル「Breaking Glass」は逆に、原曲より長めのアレンジになっています。いずれも『ロウ』と『ヒーローズ』という大傑作を構成する名曲たちですね。続くシングル版「Yassassin」「DJ」はひねたポップセンスを見せる変わった楽曲ですね。オリジナルアルバム未収録の「Alabama Song」は怪しげでダークなパートと、ゆったりと耽美なパートを交互に繰り返す演劇的な1曲です。私はライブ盤『ステージ』が初聴きだったので、このスタジオ版は若干スリルが不足してる印象を受けました。「Space Oddity (1979 Version)」は再レコーディング版。サイケな浮遊感溢れる原曲に比べると楽器は少なくシンプルなアレンジですが、漂うようなメロディは変わらず心地良くて浸れます。そしてその「Space Oddity」に出てくるトム少佐を、宇宙飛行士ではなくただのジャンキーだと否定する「Ashes To Ashes」が続きます。グルーヴ感と哀愁をブレンドした名曲ですね。そしてファンキーでダンサブルな「Fashion」や緊迫感に満ちたスリル満点の疾走曲「Scary Monsters (And Super Creeps)」が続いた後は、インストゥルメンタル「Crystal Japan」。陰があるものの神秘的で、優しく美しいメロディに癒されます。そしてクイーンと共演したシングル「Under Pressure」。クイーンの『ホット・スペース』にも収録されています。高音パートはフレディ・マーキュリーが担い、低音はボウイが担当。声の相性も良く、双方のポップセンスも活きた名曲ですね。
 ここからは『David Bowie In Bertolt Brecht’s Baal』というEPを丸ごと収録。戯曲バールのための楽曲で、いずれもボウイは作曲に関わっていません。「Baal’s Hymn」はクラシカルな演奏にボウイの歌を乗せた1曲。詩的な歌が徐々にリズミカルになっていきますが、ボウイのダンディな低音ボーカルは魅力的です。「Remembering Marie A」は優しい雰囲気で、後半はストリングスや木管楽器が奏でる音色が優雅な気分。続く「Ballad Of The Adventurers」は饒舌なボーカルが魅力的。本当ボウイはイケボというか、カッコ良い声をしています。「The Drowned Girl」もボウイの歌声をフィーチャーしています。EP最後の「The Dirty Song」は1分に満たない短い楽曲ですが、明るい雰囲気で締めます。
 続いて映画『キャット・ピープル』の主題歌「Cat People (Putting Out Fire)」。ビートの利いたダンサブルな演奏にダンディな歌声が響きます。R&B風のコーラスが付いたり華やかなシンセなど、1980年代という時代を感じる楽曲に仕上がっています。ラスト曲は「Peace On Earth/Little Drummer Boy」で、ビング・クロスビーと共演したクリスマスソングです。冒頭2分近くは会話だけですが、歌が始まるとビング・クロスビーのとても渋い歌声、そしてボウイは中高音でメロディアスな歌を歌います。意図してか古くレトロな感じの音質です。
 低音ボーカルを活かして、グラムロック時代やアメリカ時代よりも歌が上手くなり魅力的になりました。名シングルも多いですね。
 
 
 価格は高いですが、値段相応の価値はあると思っています。またデジタル配信もあるので、もし高騰した場合の逃げ道も一応用意されていますね。

 全体的に高い期待に応えてくれた、とても満足感のあるBoxセットでした。この時期も優れた傑作が多くて、単品で手を出すにしてもオススメの作品が多いです。この時期の作品をいくつか聴いて興味を持った方には、是非オススメしたいBoxです。

左:輸入盤。私が購入したのはこちらで、本レビューもこちらになります。
右:国内盤。

A New Career In A New Town 1977-1982
David Bowie
ア・ニュー・キャリア・イン・ア・ニュー・タウン 1977-1982
David Bowie
 
Loving The Alien 1983-1988 (ラヴィング・ジ・エイリアン 1983-1988)
2018年
外装:
内容:
価格:
総合:

収録作品

評 価 タイトル 商品情報
70点 Let’s Dance (レッツ・ダンス) 1983年 15thアルバム 2018年リマスター
75点 Serious Moonlight (Live ’83)
(シリアス・ムーンライト(ライヴ ’83))
2018年(本作初収録) ライブ盤 2018年リマスター
45点 Tonight (トゥナイト) 1984年 16thアルバム 2018年リマスター
50点 Never Let Me Down
(ネヴァー・レット・ミー・ダウン)
1987年 17thアルバム 2018年リマスター
同上 2018ミックス
50点 Glass Spider (Live Montreal ’87)
(グラス・スパイダー(ライヴ・モントリオール’87))
2018年(本作初収録) ライブ盤 2018年リマスター
20点 Dance (ダンス) 2018年(本作初収録)
20点 Re:Call 4 (リコール4) 2018年(本作初収録) レアトラック集

 
 デヴィッド・ボウイBox第4弾は栄光と凋落の1980年代を収録(『スケアリー・モンスターズ』を除く)。バンド名義のティン・マシーン時代をボウイ正史に組み込むのかどうかが気になるところでしたが、おおよそ5年区切りのBox、ティン・マシーンの直前で終わりました。悪評高い『ネヴァー・レット・ミー・ダウン』を全面に推した構成です。

 Boxの仕様はこれまで同様。外箱は文句なしだし、保護スリーブ付のしっかりとした紙ジャケット。ブックレット付属というのもこれまでどおりですね。安心の豪華仕様です。
 
 
  初出の作品も多いですが、各作品それぞれの項でレビューしているため、本作のみの収録となる『ダンス』と『リコール4』のみレビューします。

 まずは『ダンス』と名付けられたリミックス集。
 グルーヴ感抜群の「Shake It (Re-mix AKA Long Version)」は1分半くらい長いです。「Blue Jean (Extended Dance)」は間奏が充実し、また歌の反復を増やしています。原曲の倍くらいの長さになった「Dancing With The Big Boys (Extended Dance Mix)」は演奏パートを伸ばし、また加工されたサウンドでダンサブルな仕上がりに。これはよくあるダンス・リミックスって感じ。「Tonight (Vocal Dance Mix)」はトロピカルな雰囲気です。まったりとしていてリラックスできますね。「Don’t Look Down (Extended Dance Mix)」はダブが用いられ、レゲエのリズムがより強調されています。「Loving The Alien (Extended Dub Mix)」もダブが用いられていますが、こちらはリズムが霧散するような感じでフワフワ漂うかのようなミックスに仕上がっています。「Tumble And Twirl (Extended Dance Mix)」は炸裂するようなドラムにグルーヴィなベースが強烈。ノリノリの演奏を展開します。ダンサブルな打ち込みで長尺の「Underground (Extended Dance Mix)」は8分近くあり、『ダンス』最長の1曲。正直少しだるいです…。「Day-In Day-Out (Groucho Mix)」はリズムを極端に強調したダンスミックス。これはノれるので中々好印象です。「Time Will Crawl (Dance Crew Mix)」もリズムやギターにキレがあります。哀愁の歌メロとは少しギャップを感じますけどね。笑 「Shining Star (Makin’ My Love) (12″ Mix)」はリズムを強調したアレンジですが、単調な印象も受けます。最後に「Never Let Me Down (Dub/Acapella)」で、強烈なダンスビートと歌が中心。ビートは心地良いですが、イントロの色気のあるサックスにもう少し活躍して欲しかったかも。
 全体的に長めにアレンジされた楽曲も多く、元がキャッチーだとしてもやや冗長な印象は否めません。1回聴けば十分です。
 
 
 続いてこのBoxシリーズ定番のレア音源集『リコール4』。今回はボリュームも多く、CDだと2枚組となります。
 まずは『レッツ・ダンス』を飾る名曲群「Let’s Dance」、「China Girl」、「Modern Love」のシングルバージョンが並びます。ポップ化したボウイは迷走している印象がありますが、これら3曲については抜群にキャッチーで優れた名曲だと思います。続く「This Is Not America」は映画『コードネームはファルコン』の主題歌。パット・メセニー・グループの奏でるサウンドは神秘的ですが、ドラムだけはビートが効いています。ボウイの歌は囁くような感じ。メロディアスな「Loving The Alien」とメロウなレゲエ調の「Don’t Look Down」はRe-mixed Versionと銘打たれています。原曲を聴き込んでいないのであまり違いが分からなかったり…。「Dancing In The Street」はカバー曲で、ローリング・ストーンズのミック・ジャガーとデュエットしています。ノリノリでグルーヴ感抜群のサウンドに、ミック・ジャガーの歌が響きます。黒っぽいコーラスも含め、楽曲のカラーも歌においてもボウイの存在感は薄くて、ストーンズ寄りな印象。
 ここからはミュージカル映画『ビギナーズ』の楽曲で、まずは8分に渡る「Absolute Beginners」。メロディアスな歌を聴かせる楽曲で、女性コーラスが心地良く彩ります。続く「That’s Motivation」は若干怪しい雰囲気を持っていますが、歌はキャッチーですね。終盤は豪華なコーラスで壮大な印象です。「Volare」は有名曲のカバー。まったりとしたアコースティックアレンジはハワイアンっぽい感じがします。
 ここからはボウイ主演の映画『ラビリンス/魔王の迷宮』の楽曲が並びます。「Labyrinth Opening Titles/Underground」は中世的というかファンタジックなイントロで開幕。歌が始まるとポップな雰囲気へと変わっていきます。「Magic Dance」はビートの強烈なダンスポップ曲。所々に幻覚的な演出がなされていますが、ポップでキャッチーな仕上がりです。続いて「As The World Falls Down」は夢心地な1曲。まったりしていますが、変化に乏しく冗長な印象です。一転してダークな雰囲気になる「Within You」。前半はダークな演奏に哀愁に満ちた歌ですが、中盤から時折明るくキャッチーな雰囲気が加わります。そして「Underground」はダンサブルな楽曲。サビの歌唱はソウルフルで、アメリカ時代の経験が活きていますね。

 ここから『リコール4』の2枚目。「When The Wind Blows」はアニメ映画『風が吹くとき』の主題歌。イントロこそハードな雰囲気が出ていますが、歌はメロディアスでじっくり聴かせる感じ。その割に際立つドラムに違和感がありますが…。キレのある良質なダンスポップ曲「Day-In Day-Out」を挟んで、そのカップリング曲「Julie」が続きます。ノリノリのアップテンポ曲で、アルバムに起用しても良いくらいの爽やかな佳曲です。そして「Beat Of Your Drum」、「Glass Spider」、「Shining Star (Makin’ My Love)」、「New York’s In Love」、「’87 And Cry」、「Bang Bang」の6曲は短いバージョン。『ネヴァー・レット・ミー・ダウン』はCDメインで作られたため、レコードは収録時間の関係で若干短くしているそうですが、そんなレア音源を持ち出されてBoxの枚数を嵩増しされても全く嬉しくない…。ただでさえ件の作品はミックス違いで2バージョンあるというのに、実質3バージョンです(『ダンス』込だと4バージョン……)。「Time Will Crawl」のシングルバージョンを挟んで、ティナ・ターナーへ提供した楽曲のセルフカバー「Girls」。序盤は哀愁を帯びたメロウな印象ですが、後半に向けてどんどん盛り上がっていきます。泣きのギターソロが良い感じ。リズムを強調した「Never Let Me Down」が続きます。
 ここからはライブバージョン。まずはキャッチーだけど切なさのある疾走曲「Bang Bang」。分厚いコーラス隊が魅力を引き立てます。「Tonight」はティナ・ターナーと共演。というかティナ・ターナーのライブにボウイがゲスト参加したような感じでしょうか?レゲエ調のリズムにソウルフルな歌を聴かせます。続く「Let’s Dance」もティナ・ターナーとの共演。かなり速いテンポで駆け抜けたかと思えば、中盤あたりでテンポを戻して聞き慣れたフレーズが。ですがキーを下げてて別物な印象です。
 俳優として活躍しつつその主題歌を担当したりと、幅広く仕事をしているボウイの一面が垣間見えます。ですがレア音源もそこまでありがたいものでもなく、これも1回聴けばもういいかなぁ…。
 
 
 正直かなり嵩増ししている感があって、価格は割高な印象がかなり強いです。『ネヴァー・レット・ミー・ダウン』が実質3作品分+α(リマスター、リミックス、リコール4の短縮ver、一部『ダンス』にも…)も占めています。もっと削って安くして欲しかったです。

 『レッツ・ダンス』以外は未聴でしたが、第1弾~第3弾Boxまで買い揃えた手前、惰性でこれも買いました。…が、正直あまり聴いておらず、買って失敗だったと思っています。でも『シリアス・ムーンライト(ライヴ ’83)』はかなり良質なライブ盤だったので、単品買いならこれと『レッツ・ダンス』をオススメしたいですね。今回Boxは薦めません…。

左:輸入盤。本項レビューはこちらになります。
右:国内盤。

Loving The Alien 1983-1988
David Bowie
ラヴィング・ジ・エイリアン 1983-1988
David Bowie
 
Brilliant Adventure 1992-2001 (ブリリアント・アドヴェンチャー 1992-2001)
2021年
外装:
内容:
価格:
総合:

収録作品

評 価 タイトル 商品情報
60点 Black Tie White Noise (ブラック・タイ・ホワイト・ノイズ) 1993年 18thアルバム 2021年リマスター
65点 The Buddha Of Suburbia (郊外のブッダ) サウンドトラック 2021年リマスター
75点 1.Outside (The Nathan Adler Diaries: A Hyper Cycle)
(アウトサイド)
1995年 19thアルバム 2021年リマスター
80点 Earthling (アースリング) 1997年 20thアルバム 2021年リマスター
35点 Hours… (アワーズ…) 1999年 21stアルバム 2021年リマスター
65点 BBC Radio Theatre, London, June 27th, 2000
(BBCラジオ・シアター、ロンドン、2000年6月27日)
2021年 ライブ盤 2021年リマスター/既発音源に楽曲追加
55点 Toy (トイ) 2021年(本作初収録)
40点 Re:Call 5 (リコール5) 2021年(本作初収録) レアトラック集

 
 Boxセットシリーズは『ラヴィング・ジ・エイリアン 1983-1988』でぱったり途絶えてしまって、もう発売しないのかと思っていましたが、3年ぶりに続編が出ました。デヴィッド・ボウイBox第5弾は、エレクトロニックに接近して復活を遂げた1990年代と+αを収録。ボウイ正史扱いになるのか気になっていたティン・マシーン時代はBoxには組み込まれず。バンド名義なのでボウイ正史とは別扱いなんですね。

 Boxの仕様についてですが、外箱はキャンバス地のような質感なのがこれまでのBoxと異なっています。保護スリーブ付の紙ジャケットにブックレット付属はこれまで同様です。
 
 
  初出の作品も多いですが、本作の目玉である『トイ』は別の項目でレビューしているため、本作のみの収録となる『BBCラジオ・シアター、ロンドン、2000年6月27日』と『リコール5』のみレビューします。

 まずはライブ盤『BBCラジオ・シアター、ロンドン、2000年6月27日』です。『Bowie At The Beeb』と呼ばれるライブ・コンピレーション盤に収録された既発音源に、楽曲を追加してリマスターを施したものが本作のようです。1970年代の名曲から当時最新作(+発表予定だった『トイ』からも)まで満遍なく網羅した選曲です。アール・スリック(Gt)、マーク・プラティ(Gt/B)、ゲイル・アン・ドーシー(B/Gt)、スターリング・キャンベル(Dr)、マイク・ガースン(Key)、ホリー・パーマー(Cho/Perc)、エム・グライナー(Cho/Key)がサポート。
 
 ライブは「Wild Is The Wind」で幕開け。老成されて更に磨きのかかったソウルフルな歌声が、強い哀愁を醸し出します。渋くてカッコ良い。続く「Ashes To Ashes」はキーを下げていますが、ファンキーで躍動感のある演奏は健在。キャッチーだけどメランコリックなメロディラインは、渋さの加わった歌声により切ない哀愁を誘います。終盤で華やかなシンセが即興演奏を繰り広げます。落ち着いた「Seven」をしっとりと聴かせたあとは、「This Is Not America」。囁くような声の女性コーラスが印象的ですね。メロディアスかつシリアスな歌に聴き浸っていると、時折入るマイク・ガースンのピアノが美しい音色を響かせます。「Absolute Beginners」は映画『ビギナーズ』のテーマ曲で、キャッチーなコーラスワークを聴かせつつ、歌うボウイは年相応の渋さも見せます。「Always Crashing In The Same Car」はメロウな歌を女性コーラスで引き立てます(演出がピンク・フロイドっぽい)。メロディアスなフレーズを奏でるギターが印象的ですね。アコギに変えて「Survive」へ。諦めのような優しさが感じられ、切なさを誘います。続く「The London Boys」も円熟味のある歌が優しくて切ない。終盤は哀愁が強まりドラマチックに盛り上がります。「I Dig Everything」は円熟味はあるものの、躍動感のあるイントロから明るい雰囲気です。牧歌的でポップなメロディラインを楽しそうに歌います。ガラリと空気を変えるのは「Little Wonder」。テンポの速い楽曲でアドレナリンが吹き出しますね。カッコ良い。でも焦燥感を煽るリズムトラックとは違って、ボウイの歌はメロディアスに聴かせる部分も多かったりします。
 
 Disc2枚目は往年の名曲揃いです。まずはニルヴァーナもカバーした「The Man Who Sold The World」で始まります。怪しさがあるものの浸れる心地良さで、特にベースラインが魅力的ですね。ボウイの歌は低音より高音の方が調子良さそうです。「Fame」はズシンとパワフルな演奏に圧倒されますね。ちょっと変だけど抜群に中毒性のある歌メロ、ボウイはソウルフルな歌声で力強く歌い、衰えを感じさせません。続く「Stay」でキレのあるギターを披露するのは、当時も演奏したアール・スリックでしょうか。全体的に重厚感が増したスリリングな演奏で、かつグルーヴィでもあります。ボウイの歌も好調で、カッコ良く仕上がった名演です。本ライブ盤では一番の収穫です。スリルを継続して「Hallo Spaceboy」へ。不穏で凄まじく緊迫した演奏は一気に別世界へと連れ去り、ヒリついていてゾクゾクします。ボウイの歌も焦燥感を掻き立て、演奏と合わせてとてもスリリングでカッコ良いです。「Cracked Actor」でノリの良いロックンロールへと変えます。キーを下げていますが、パワフルな声とダーティな演奏で中々味があります。「I’m Afraid Of Americans」はエレクトロニックなファンクといった趣ですが、時折ヘヴィなギターが重低音をかき鳴らす、オルタナティヴメタルな側面も見せます。スリリングかつグルーヴィな演奏で楽しめます。「All The Young Dudes」はグラムロック時代の佳曲ですね。キャッチーなメロディラインを歌い上げるボウイは絶好調で、この楽曲については若々しさも感じられます。そして名曲「Starman」。キー下げのせいかオルタナっぽい演奏のせいかはわかりませんが、寂寥感のあるアレンジに仕上がっています。続く「“Heroes”」はイントロなく始まります。リズムが際立つ淡々とした演奏は冒頭2分ほど盛り上がりに欠けますが、演奏が盛り上がるとボウイの歌も熱がこもって感情たっぷり。後半はドラマチックで魅力的です。そしてラスト曲は「Let’s Dance」。煌めく1980年代を象徴する楽曲ですが、アコースティックアレンジで妙に落ち着いたメロウな雰囲気。歌も落ち着いて優しく語りかけるようで、時代に合わせて静かなアレンジで聴かせるのかと思いきや、1分40秒頃から豹変。ホーンが鳴り響いて分厚いコーラスで彩る、原曲どおりの華やかさを取り戻します。
 
 最後は拍手なく終わるのが少し寂しいですが、充実した内容です。全体的に渋さはあるものの演奏も歌も好調で選曲も良い、良好なライブ盤です。
 
 
 続いてレア音源集『リコール5』はなんとCD3枚組という大ボリュームです。『アワーズ…』からのバージョン違いがやや多い印象。
 まずはDisc1。「Real Cool World (Sounds From The Cool World Soundtrack Version)」はエレクトロニックなダンスチューン。打ち込みの軽快なリズムと、低音を効かせたボウイの渋い歌声が対照的です。後半加わるサックスがオシャレ。「Jump They Say (7″ Version)」はオリジナルより若干短くなっています。トリップ感のあるノリノリのサウンドですが、ご機嫌なサックスがジャズっぽくもあります。「Lucy Can’t Dance」はシンセベースがブンブンと心地良く唸り、リズムトラックも爽快。華やかなホーンに1980年代ボウイの影を感じさせつつも、クラブミュージック風に仕立てています。ノリノリでキャッチーな良曲です。R&B歌手のAL B.シュア!とコラボした「Black Tie White Noise (Radio Edit)」で抜群のグルーヴを持つファンキーな楽曲を楽しませた後は、「Don’t Let Me Down & Down (Indonesian Vocal Version)」でインドネシア語(?)のボーカルを披露(終盤は英語です)。ファンクのようなグルーヴとメロウな演奏でまったりしています。「Buddha Of Suburbia (Single Version)」はレニー・クラヴィッツがギターを弾きます。穏やかな楽曲で、メロディアスなボウイのボーカルが優しい。ここから雰囲気を変え、「The Hearts Filthy Lesson (Radio Edit)」はノイズまみれで、ダーティかつ緊張感が漂います。アルバム版と比べて1分半ほど短縮されています。続く「Nothing To Be Desired」は強烈なビートを刻む楽曲で、無機質な反復が強迫観念に駆られそう。僅か2分強ですが不気味でインパクトがあります。「Strangers When We Meet (Edit)」は晴れやかですがどこか哀愁が漂います。マイク・ガースンによる個性の強いピアノが、美しい音色を奏でています。「Get Real」はテンポが速くて躍動感に溢れています。何気にベースが結構骨太です。続いて「The Man Who Sold The World (Live Eno Mix)」は大胆なエレクトロニックアレンジが施されています。囁くようなボウイの歌とシンセは空間に広がるようなエコー処理がなされていて、ひんやりとした質感を生み出します。そして無機質なリズムトラックだけが高速でリズムを刻みます。「I’m Afraid Of Americans (Showgirls Soundtrack Version)」は緊張感溢れるスリリングな楽曲です。無機質な電子音とだみ声でパワフルな歌が対照的ですが、これらが合わさって追い詰められるような感覚に陥ります。そして「Hallo Spaceboy (Remix)」は原曲の持つ恐ろしいほどの緊張感はかなり薄れ、怪しげな空気感は残しつつもノリの良いクラブミュージックアレンジに変わっています。「I Am With Name (Alternative Version)」は金属質なギターとスカスカな打ち込みがミスマッチ。単調な演奏とテンションの低い歌は、無機質で不気味な印象を与えます。「A Small Plot Of Land (Long Basquiat Soundtrack Version)」はリズム隊不在の楽曲です。アカペラで始まりますが、儀式のような不気味さがあります。途中加わるシンセもダークなトーン。
 
 ここからDisc2へ。「Little Wonder (Edit)」ですが、6分ある原曲を4分弱に纏めています。BPMの速いドラムループが印象的な、エレクトロニック期の名曲ですね。「A Fleeting Moment (Aka Seven Years In Tibet – Mandarin Version)」は中国語で歌われています。冒頭は落ち着いていますが、サビではヘヴィかつノイジーな演奏に合わせて力強く歌います。「Dead Man Walking (Edit)」は色鮮やかなシンセと力強いビートが脈打つダンスチューンで、ノリノリの演奏に反してメランコリックな歌メロも印象的です。オリジナルから3分ほど短縮されて4分のコンパクトな楽曲に。続いて短縮バージョンの「Seven Years In Tibet (Edit)」。レアトラック集にアルバムの流れを求めるのは酷ですが、2曲前にバージョン違いを聴いているとクドい印象は否めません。「Planet Of Dreams」は落ち着いた演奏でゆったりとしていますが、徐々に盛り上がる展開は雄大な景色が広がっていくような感覚を与えます。「I’m Afraid Of Americans (V1-Edit)」はファンクのようなノリとノイジーな電子音を繰り広げるスリリングな楽曲ですね。ひたすら繰り返す歌詞も中毒性があります。ダンス音楽から一転して「I Can’t Read (The Ice Storm Long Version)」はアコギと靄のように広がるシンセを軸に、静かに哀愁をたたえます。メロディアスで湿っぽい楽曲です。続く「A Foggy Day In London Town」はオーケストラが哀愁を醸し出します。ボウイの渋く落ち着いた歌声をオーケストラが彩り、映画のサントラのような感じ。「Fun (BowieNet Mix)」は重低音が蠢く無機質なエレクトロニカ。ですがサビではノイジーなギターが掻き乱して緩急をつけます。目の覚めるようなヘヴィなギターで幕を開けるのは「The Pretty Things Are Going To Hell (Stigmata Soundtrack Version)」。躍動感のあるメタリックな演奏がスリリングですが、カラフルなシンセが親しみやすさも併せ持ちます。メロディアスな「Thursday’s Child (Radio Edit)」は、1分ほど短縮されたバージョンになります。続いて「We All Go Through」はオルタナっぽいというか、諦めのような優しさ、寂寥感が漂います。「No One Calls」は単調なリズムトラックに電子音を響かせ、鬱々としたボウイの歌を乗せます。電子音は盛り上がるものの、全体的に冷たい印象。
 
 そしてDisc3となります。「We Shall Go To Town」は暗鬱で盛り上がりにも欠けますが、グワングワンと歪んだ特徴的なシンセベースが揺さぶってきます。続く「1917」はグルーヴ抜群の楽曲です。前半は歌がなく、ノイジーですが心地良い演奏を繰り広げ、強烈なベースが際立つだけでなく力強いドラムもカッコ良い。後半に強めに加工したボーカルを楽器のように被せます。「The Pretty Things Are Going To Hell (Edit)」はメタリックかつ躍動感溢れるメリハリのある演奏で、ダークな雰囲気を払拭。ヘヴィですが爽快です。ここからはそれぞれ「Omikron: The Nomad Soul Version」と銘打たれた「Thursday’s Child」「New Angels Of Promise」「The Dreamers」が続きます。アドベンチャーゲーム『Omikron: The Nomad Soul』に採用され、ボウイもボズ役としてゲームに出演しているそうです。「Seven (Demo)」はデモと銘打っていますが、未完成な感は全くありません。アコギとスライドギターが心地良い音を奏で、優しさに満ちています。「Survive (Marius De Vries Mix)」は、12弦ギターが際立って透明感の強い原曲に比べると、バランスを優先したミックスになっている印象です。「Something In The Air (American Psycho Remix)」はメロディアスな楽曲で、生声と機械のような声を織り交ぜています。時折美しくも悲壮感のある音を奏でるピアノが魅力的。「Seven (Marius De Vries Mix)」は牧歌的で優しい歌メロはそのままに、ややテンポを上げてかつロック的なダイナミズムを取り入れたアレンジで、原曲とは違った魅力を放ちます。むしろ原曲よりも聴きやすいかもしれません。ラスト曲「Pictures Of Lily」ザ・フーのカバー曲。ザラついたギターにゴリゴリとしたベース、力強いドラムが骨太な演奏を展開し、そこにポップでメロディアスな歌も合わさってブリットポップ的な魅力を発します。エレクトロニックに傾倒した本作の中でシンプルにロックの魅力が伝わるのと、原曲よりも貫禄があって名曲オーラが漂う良カバー曲です。
 
 
 エレクトロニックを総括する本Boxセット。この時期は良作が多くて、前作Boxよりも魅力的です。なお原点回帰した『トイ』を本作側に含めたことで、次回Boxは何を目玉にするのか気になるところです。

左:輸入盤。本項レビューはこちらになります。
右:国内盤。

Brilliant Adventure 1992-2001
David Bowie
ブリリアント・アドヴェンチャー 1992-2001
David Bowie
 
 

関連アーティスト

 デヴィッド・ボウイは、1988年から1992年までソロではなくバンド「ティン・マシーン」で活動。

 
 友人であり、ストゥージズ時代からの付き合い。プロデューサーとして参加。
 
 ルー・リードの代表作『トランスフォーマー』をプロデュース。
 
 「Under Pressure」では共演を果たします。節操のない音楽的な雑食性は共通点かも。
 
 『スケアリー・モンスターズ』や名曲「”Heroes”」でゲスト参加したロバート・フリップが率いるバンド。
 
 『ネヴァー・レット・ミー・ダウン』でギタリストとしてゲスト参加したミュージシャン。
 
 『ジギー・スターダスト』のレゲエトリビュート『ジギー・スターダブ』を演奏。
 
 
 類似アーティストの開拓はこちらからどうぞ。