🇬🇧 David Bowie (デヴィッド・ボウイ)

スタジオ盤③

栄光と凋落のニューウェイヴ/ポップ時代

Scary Monsters (And Super Creeps) (スケアリー・モンスターズ)

1980年 14thアルバム

 実験的な作風の前作で既にニューウェイヴ/ポストパンクの兆候はありましたが、本作で全面的にニューウェイヴ化。カルロス・アロマー(Gt)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)を中心に、キング・クリムゾンのロバート・フリップ(Gt)やザ・フーのピート・タウンゼントらが参加しています。特にロバート・フリップの参加が大きく、彼のメタリックなギターが中心となって緊迫感を生み出し、全体的にスリリングな作風に仕上がっています。デヴィッド・ボウイとトニー・ヴィスコンティの共同プロデュース。

 開幕「It’s No Game (No. 1)」から女性の日本語に驚かされます。廣田三知を起用した演劇的な日本語詩の朗読をバックに、ヒステリックなボウイの歌。初めて聴くと強い衝撃を受けますが、これが中々痺れるんです。少しダウナーな演奏もとてもカッコ良くて、マーレイのグルーヴに満ちたベースにデイヴィスのパワフルなドラム、そしてロバート・フリップの不安をかき立てるメタリックなギターがクールです。「Up The Hill Backwards」は緊迫した演奏パートと牧歌的な歌メロのギャップが強いです。続いて表題曲「Scary Monsters (And Super Creeps)」。これがとてもカッコ良い。メタリックなギターやタムタムを多用したドラムが作り出す、疾走感のある超スリリングな演奏が焦燥感を煽り立てます。加工されたボウイのボーカルは不穏な感じで、緊迫した雰囲気をより増長させます。そして名曲「Ashes To Ashes」。「Space Oddity」の続編ですが、トム少佐は宇宙飛行士ではなくジャンキー(薬物中毒者)だと言い切っています。前年に再レコーディングした「Space Oddity (1979 Version)」を出したのに。笑 個人的にはアポロ11号は月に言ってないとするアポロ11号陰謀説もなんとなく連想したり。この楽曲でカルトヒーローとしての1970年代の活動を否定し決別したボウイは、次作で華やかなメインストリーム側のロックスターとしてスターダムを駆け上がることになります。…さて楽曲本編ですが、ファンキーで強烈なグルーヴを持つ1曲です。しかしノリがよいかと言えばそうでもなく、歌メロは強い哀愁に満ち溢れています。続く「Fashion」はキャッチーな1曲。リズム隊を強調した非常にファンキーでダンサブルな楽曲で、語感の良い歌がグルーヴの気持ち良さをより高めてくれます。
 アルバム後半はメロディアスな「Teenage Wildlife」で幕開け。メロディが良いですがそこまで歌をフィーチャーする訳ではなく、力強いドラムも印象的です。またロバート・フリップのギターが良い感じに哀愁を誘います。「Scream Like A Baby」はダークで緊迫した雰囲気ですが、サビに入るとチープなシンセでダークさを誤魔化しポップさを加えます。一撃の重たいドラムがスリリング。「Kingdom Come」はコーラスを駆使してR&Bっぽい歌ですが、演奏はかなり激しいです。続く「Because You’re Young」ではピート・タウンゼントがギターを弾いています。怪しげなイントロから、ダークながらもダンサブルな演奏が展開されます。サビのキラキラしたチープなシンセは1980年代の音楽を予感させます。最後は「It’s No Game (No. 2)」で、オープニング曲のリプライズです。但し廣田三知の日本語詩の部分はボウイの英語詩に置き換わっています。グルーヴが強烈な演奏がカッコ良いですね。

 異様な緊張感を放つ楽曲が多く、一方でグルーヴを追求したダンスポップ色も打ち出した、ニューウェイヴ全開の名盤です。特に前半は素晴らしい名曲揃いです。

Scary Monsters (And Super Creeps)  (2017 Remastered Version)
David Bowie
 
Let's Dance (レッツ・ダンス)

1983年 15thアルバム

 デヴィッド・ボウイはこれまでカウンターカルチャーのアイコンとしてカルト人気を誇っていましたが、本作においてメインストリーム側のロックスターへと変わりました。長らく共同プロデューサーを務めたトニー・ヴィスコンティの手を離れ、本作ではナイル・ロジャースとタッグを組んでいます。またサポートメンバーも一新しており、スティーヴィー・レイ・ヴォーン(Gt)を見出して起用。ダンスポップ全振りの本作はボウイ最大のヒット作になりました。
 1980年代ボウイはまさに「The Rise And Fall Of~」というか栄光と凋落の時代で、ポップ化した本作で商業的には頂点を極めますが、その後は迷走をすることになります。

 オープニング曲「Modern Love」からノリノリ。レイ・ヴォーンのキレのあるギターに、ゲートリバーブを活用しビートの利いたオマー・ハキムのドラムも爽快。ダンサブルなリズムに乗るボウイの歌はキャッチーでメロディアス。そして3名体制のサックスに彩られてとても華やかです。1980年代という煌びやかな時代を反映していますね。「China Girl」は友人イギー・ポップと共作の楽曲。イギー・ポップの『イディオット』収録曲としてリリースされていましたが、セルフカバーしたのは薬物依存で破産の危機に陥ったイギー・ポップを印税で救うためだそうです。程よい哀愁を纏ったメロディアスな原曲を活かしつつ、より華やかな雰囲気です。またロバート・サビーノのシンセによって中華風味も強まり、原曲以上にキャッチーで魅力的に仕上がっています。グルーヴィなベースや泣きのギターも中々良い感じ。続いて表題曲「Let’s Dance」。とても有名な1曲で、どこかで聴いたことがある人も多いのではないでしょうか。ダンサブルなリズムと、サックスやトランペットによるゴージャスな演奏。そしてボウイの低音イケボで歌われるとてもキャッチーなメロディ。シングル向きの名曲ですが、本作収録のフルバージョンはキャッチーなメロディを反復するせいか7分半あります。そこまで長さを感じさせないのですが、意外なほど長尺でした。「Without You」はグルーヴ感の強いポップソング。囁くような歌よりもリズムの方に意識がいきますね。心地良い1曲です。
 アルバム後半は「Ricochet」で幕開け。当時流行していたアフリカンビートを取り入れ、メロディよりリズムを重視した1曲です。時折唐突にリズムを無視した「Ricochet it’s not the end of the world」のフレーズだけ強いインパクトを放ちます。「Criminal World」はファンキーなギターとゴリゴリしたベースが心地良いグルーヴを生みます。そして間奏のギターソロも魅力的。続く「Cat People (Putting Out Fire)」は映画『キャット・ピープル』の主題歌。少し陰のある楽曲で、落ち着いたダンディな声と憑依したかのような狂気的な歌唱がそれぞれ顔を出します。ブルージーなギターが良い味を出しています。最後は「Shake It」で、わざとらしいシンセとダンサブルなリズムでとてもキャッチーな印象のポップソングです。ブリブリ唸るベースも爽快ですね。

 とにかく前半3曲のポップソングは素晴らしいクオリティです。ただ後半やや弱いのとアーティスティックな側面が減退したため、通しではあまり聴かず単曲で聴くことが多いです。

Let’s Dance (2018 Remastered Version)
David Bowie
 
Tonight (トゥナイト)

1984年 16thアルバム

 ナイル・ロジャースに代わり、共同プロデューサーにはヒュー・パジャムとデレク・ブランブルを起用。ヒュー・パジャムは当時数多くのポップな名盤を排出した名プロデューサーで、本作もポップ化した前作の路線を継承しています。ですが、オリジナル曲は少なくて9曲中5曲がカバーです…。友人イギー・ポップとの共作曲「Tonight」に「Neighborhood Threat」(いずれも『ラスト・フォー・ライフ』収録)、イギー・ポップのカバー「Don’t Look Down」等々。大ヒット曲「Blue Jean」を収録していますが、流石に手抜き感は否めません。

 オープニング曲はボウイ作の「Loving The Alien」。メロディアスなバラードで、憂いのあるメロディはひと昔前の邦楽のようにも聞こえます。マリンバの音色が印象的ですね。時代を感じる1曲です。前述のカバー曲「Don’t Look Down」。レゲエのリズムを取り入れていますが、落ち着いた歌や、サックスやコーラスワークからは円熟味のある大人びた印象を受けます。AOR寄りの楽曲ですね。「God Only Knows」はビーチ・ボーイズのカバー。渋いダンディな歌声が魅力的ですね。ゆったりとした曲調で、ストリングスやサックスが優雅に飾ります。続くイギー・ポップのカバー「Tonight」ではティナ・ターナーと共演しています。ゴージャスなサウンドながらも適度な間を設けて歌をフィーチャーしている感じでしょうか。ティナ・ターナーのソウルフルな歌唱が特徴的です。
 アルバム後半はイギー・ポップ共作曲のセルフカバー「Neighborhood Threat」。疾走曲で、シリアスで緊迫感のある雰囲気は中々スリリング。ボウイの怒気を含むラストの歌唱もカッコ良くて、前半のメロウだけど退屈な空気を一気に払拭します。続く「Blue Jean」は大ヒット曲で、流石のポップセンスです。淡々とした歌をリズミカルで心地良い演奏が支え、サビではヒステリック気味にソウルフルな歌唱で魅せます。キャッチーで魅力的なので、これを前半に持ってきたらアルバムの印象も多少はマシになっただろうに…なんて思います。「Tumble And Twirl」はグルーヴ感抜群の楽曲。ノリノリで明るい雰囲気で、ファンキーなベースやリズミカルなドラムが心地良いグルーヴを生み、キャッチーなホーンが華やかな印象に仕立てます。「I Keep Forgettin’」はR&Bシンガーのチャック・ジャクソンのカバー曲。これもアップテンポで明るくキャッチー。最後はイギー・ポップと共演した「Dancing With The Big Boys」。ボウイとイギー・ポップ、カルロス・アロマー(Gt)の共作曲です。キャッチーなアップテンポ曲で、華やかなホーンにグルーヴィなリズム隊、そしてコーラスも豪華な印象です。時代を感じるものの、こういうタイプの明るい曲は良いですね。

 オリジナル曲が少ないだけでなく、前半はまったりとして刺激的な楽曲にも欠け、正直とても退屈です。後半魅力を一気に取り戻しますが、アルバム全体のバランスが悪いです。曲順を工夫すれば良いのに…。

Tonight (2018 Remastered Version)
David Bowie
 
Never Let Me Down (ネヴァー・レット・ミー・ダウン)

1987年 17thアルバム

 ピーター・フランプトン(Gt)が全面的に参加した作品で、デヴィッド・ボウイとデヴィッド・リチャーズの共同プロデュース作。『スケアリー・モンスターズ』から『トゥナイト』まで、1980年代のボウイは全英1位を堅守していましたが、本作は商業的に大きな成功を得られず全英1位を逃しています。ボウイのキャリアの中でも一番の駄作と評価を受けることの多い作品で、ボウイ自身も後に振り返ってどん底の作品だったと語っているそうです。それなのにBoxセット『ラヴィング・ジ・エイリアン 1983-1988』ではリミックスを用意するという謎の好待遇を受けているという…。でも期待値を下げて聴くと、意外に出来は悪くありません。
 ちなみにCDがメインとして作られた作品で、収録時間の関係でレコードはトータル5分ほど短いです。曲数は変えずに各楽曲をちょっとずつ短く加工したみたいですね。

 オープニング曲は「Day-In Day-Out」。エルダル・キジルケイのパンチの効いたドラムが爽快。ボウイとコーラス隊が掛け合いを行うキャッチーな歌メロと、華やかなホーンによる彩りで、1曲目に向いた明るくポップな仕上がりです。「Time Will Crawl」もイントロの鮮烈なドラムが好印象。リズムはノリが良いですが、歌はメロディアスでしっとりとしています。キラキラした音色に時代を感じますね。「Beat Of Your Drum」はダンディな低音イケボが渋くメロウな歌を聴かせますが、サビでは明るいアップテンポ気味に変わります。爽やかな印象です。間奏のギターソロも良い感じ。そしてタイトル曲「Never Let Me Down」は前曲とは真逆で、グラムロック時代のようなファルセット気味の高音でボウイが歌います。グルーヴィなリズム隊はダンサブルですが、ハーモニカがそこに哀愁を加えます。サイケなイントロから始まる「Zeroes」は軽快なアップテンポ曲。これが中々良くて、ポップさの中に程よく切ないメロディも魅力的です。なおシタールはピーター・フランプトンが弾いています。続く「Glass Spider」が面白い楽曲で、淡々と低いトーンでボウイが語りますが、途中から加速。リズミカルで勢いのある演奏と、パワフルな歌声で魅せてくれます。「Shining Star (Makin’ My Love)」も軽いリズムが気持ち良い。高音域メインの歌も軽快なノリを助長しますが、一瞬入る低音イケボがカッコ良い。ダンサブルな「New York’s In Love」は少し時代を感じる哀愁のメロディ。泣きのギターが良い味を出しています。続く「’87 And Cry」もビートの効いたアップテンポ曲。流石にこの辺でバラードなど変化球が欲しいところですが…。とは言え軽快で楽しませてくれます。ラスト曲「Bang Bang」もアップテンポ曲。爽やかでノリノリです。

 1980年代という時代を感じるポップ作品です。特に後半は似たようなダンスチューンが並び駄作と言われても仕方ないですが、全体的にキャッチーでノリが良いです。カバー曲ばかりの前作よりは楽しめました。

 ポップ路線で迷走したボウイは、豪華なポップミュージシャンとなってしまった自分のイメージを一旦リセットするために、本作のあとティン・マシーンを結成。一時的にバンド活動へと軸足を移すことになります。

Never Let Me Down (2018 Remastered Version)
David Bowie
 

ティン・マシーン期

 1988年にデヴィッド・ボウイはティン・マシーンを結成。1992年までバンド活動に軸足を移します。2015年から続くボウイのBoxセットシリーズにティン・マシーン期が組み込まれるのか(ボウイ正史扱いされるのか)が気になっていましたが、その手前の『ネヴァー・レット・ミー・ダウン』まででBoxセットは終わってしまい分からずじまい…。
 メンバー対等のバンド形式を尊重したという経緯も含めて、本サイトではティン・マシーンは別プロジェクトとして扱うことにします。