🇬🇧 Whitesnake (ホワイトスネイク)

レビュー作品数: 17
  

スタジオ盤①

ハードロック/ブルースロック時代

Snakebite (スネイクバイト)

1978年 EP

 デヴィッド・カヴァーデイル、1951年9月22日生まれ。ディープ・パープルのボーカリストとして活躍。脱退後に自身のバンド、ホワイトスネイクを結成しました。ミッキー・ムーディ(Gt)を共同制作者として迎え、デイヴ・ドウル(Dr)、ブライアン・ジョンストン(Key)、バーニー・マースデン(Gt)、ニール・マーレイ(B)。ジョンストンは間もなくピート・ソリー(Key)に代わってバンドはスタートを切ります。あくまでカヴァーデイルのソロプロジェクトであり、彼を中心にしながら頻繁にメンバーチェンジを行います。まずはEPとなる本作でお披露目。ディープ・パープルやレインボー等のハードロックバンドを数多く手掛けたマーティン・バーチのプロデュース。
 オリジナルは4曲で、その後4曲追加され8曲となって再発されました。私はBOXセットで本作を入手しましたが、それは4曲入りだったのでこちらをレビューします。

 オープニング曲「Bloody Mary」は、軽快でブルージーなロックンロールです。軽やかなピアノとブルージーなギター。暴れ回るベースに安定したドラム。カヴァーデイルのソウルフルな歌声はブルースロックがよく似合いますが、1978年の発表にしては時代遅れ感があります。1970年代初頭の音楽ですね。「Steal Away」はギターとユニゾンで歌うカヴァーデイル。リズミカルなドラムが躍動感を生み出すものの、全体的に渋い1曲。「Ain’t No Love In The Heart Of The City」は哀愁を漂わせたブルース全開の1曲。渋い歌声を黒っぽいコーラスで彩り、そんな歌にぴったりの渋すぎる演奏はなかなか良いです。最後に「Come On」はミドルテンポのロックンロール。グルーヴ感が心地良い、ノリの良い1曲です。

 とても渋い。そこまで特筆すべき楽曲はありませんが、旧き良きブルージーなロックンロールに浸ることができます。
 ホワイトスネイクはブルージーなハードロックとしてスタートを切り、しばらくはこのスタイルを貫きますが、徐々にアメリカというマーケットを意識して派手さが加わっていきます。

Snakebite
Whitesnake
 
Trouble (トラブル)

1978年 1stアルバム

 メンバーチェンジでピート・ソリー(Key)から元ディープ・パープルのジョン・ロード(Key)に交代します。前作に引き続きマーティン・バーチがプロデューサーに就き、記念すべき1stアルバムです。

 オープニング曲「Take Me With You」から疾走感抜群のロックンロールを展開。EPからはキャッチーさが大きく向上して、スリリングな演奏に圧倒されます。特にニール・マーレイのベースがカッコ良い。デヴィッド・カヴァーデイルのまくし立てるようなボーカルも良いですね。「Love To Keep You Warm」は一転、ブルージーな楽曲に。メロディラインが心地良いです。そしてベースがよく歌うというか、ギター以上に目立つ気がします。「Lie Down」は荒々しいギターに始まり、軽快な鍵盤が爽快なロックンロールです。アップテンポで楽しい気分になりますね。続く「Day Tripper」ビートルズのカバー曲。アップテンポな原曲と違ってスピードを落として、ブルージーに仕上げています。コーラスワークも含めて黒っぽい雰囲気で渋い。トーキングモジュレーターで途中遊んでいますね。「Nighthawk (Vampire Blues)」はデイヴ・ドウルの疾走感溢れるドラムに乗せて演奏バトルを展開。イントロから非常にスリリングな展開を見せます。早口気味な歌が始まっても緊張感は衰えず、全編を通して鳥肌ものです。
 レコードでいうB面、アルバム後半に入り「The Time Is Right For Love」。ミッキー・ムーディとバーニー・マースデンのツインギターが哀愁漂う雰囲気を作ります。カヴァーデイルの歌もメロディアス。続いて表題曲「Trouble」。ディープ・パープルほど自己主張はしませんが、ロードのヘヴィなハモンドオルガンがアクセントとして映えます。疾走感抜群のスリリングなインストゥルメンタル「Belgian Tom’s Hat Trick」を挟んで、マースデンがボーカルを取る「Free Flight」。ジャムセッションのようなスタートを切って、コーラスも含めてノリが良くて爽快。マースデンのボーカルはカヴァーデイルをマイルドにしたような感じで、渋さは薄れたけど声質は似通っています。ラスト曲「Don’t Mess With Me」はノリの良いロックンロール。テンポの速さが軽快で、また間奏のギターソロもご機嫌です。

 時代にそぐわないブルージーなハードロックを展開。でもEPよりはキャッチーに洗練されていて、気持ちの良いロックンロールに浸ることができます。

Trouble
Whitesnake
 
Lovehunter (ラヴハンター)

1979年 2ndアルバム

 前作に引き続きマーティン・バーチのプロデュース。なお、ドラマーのデイヴ・ドウルが本作レコーディング後に脱退し、元ディープ・パープルのイアン・ペイスが加入することになります。えっちいジャケットはファンタジー系の画家クリス・アキレオスの作。本作から、蛇をあしらったバンドロゴを用いるようになります。

 「Long Way From Here」で開幕。演奏は地味な印象ですが、サビはキャッチーで、カヴァーデイルの渋い歌声がコーラスによって引き立てられています。メロディアスな歌はどこか哀愁が漂います。「Walking In The Shadow Of The Blues」はヘヴィなリフとオルガンが鳴り響く、渋くてブルージーな楽曲です。間奏のギターソロも良いですね。レオン・ラッセルのカバー曲「Help Me Thro’ The Day」では、更に渋さに磨きがかかります。泣きのギターに味があります。ミドルテンポの「Medicine Man」はギターリフにディープ・パープルを想起させます。ここまでスロー~ミドルテンポが並びますが、「You ‘N’ Me」は疾走感があって爽快なロックンロール。コーラスからも楽しげな雰囲気が伝わってきます。
 アルバム後半の幕開けは「Mean Business」。疾走曲で爽やかに駆け抜けます。ジョン・ロードのキーボードが主軸に置かれていて、キーボードソロも用意されています。続いて表題曲「Love Hunter」。タイトルを背負う割には派手さはなくて、渋くてブルージーな楽曲です。後半のコーラスにキャッチーさを少し残していますが、少しくどいかも。「Outlaw」はバーニー・マースデンがリードボーカル。ツインギターの絡みが心地良い1曲です。「Rock ‘N’ Roll Woman」は旧き良きロックンロール。陽気な楽曲の中で縦横無尽に動くニール・マーレイのベースや、ロードの荒々しいオルガンが良い感じ。そして最後の「We Wish You Well」は、ピアノをバックにカヴァーデイルがしっとりと歌います。1分半の短い楽曲ながら、感傷的な歌がとても良いのです。

 ブルースに全振りしたような渋い楽曲群。前半は特にアップテンポ曲が少なく、エンジンがかかるまで時間がかかるのでやや退屈です。でもラスト曲「We Wish You Well」は素晴らしい。

Lovehunter
Whitesnake
 
Ready An' Willing (フール・フォー・ユア・ラヴィング)

1980年 3rdアルバム

 ホワイトスネイクはブルージーな初期と、ド派手なヘヴィメタルの中期以降ではまるで別物のバンドのように様変わりしますが、本作は初期ホワイトスネイクファンに特に人気の高い作品です。
 イアン・ペイス(Dr)が加わり、デヴィッド・カヴァーデイル(Vo)とジョン・ロード(Key)を合わせると元ディープ・パープルのメンバーが3人。でもディープ・パープル色に染まることなく、カヴァーデイル主導のブルージーなハードロックを展開します。ロードやペイスは待遇の悪さが不満だったようで、後の脱退を招くことになります。

 オープニング曲「Fool For Your Loving」は全英でシングルヒットしました。ブルージーながらもキャッチーさを兼ね備えた名曲です。カヴァーデイルのソウルフルで渋い歌を、分厚いコーラスが彩ります。バーニー・マースデンとミッキー・ムーディのツインギター、ブイブイ唸るニール・マーレイのベースなど聴きどころ満載です。ペイスのドラムはタイトに刻みますが、ロードのオルガンは控えめでそこまで主張していませんね。なおこの楽曲は後に『スリップ・オブ・ザ・タング』でセルフカバーすることになります。続く「Sweet Talker」はブルージーなツインギターで渋く開幕。途中から加速して爽快なロックンロールへと変貌します。前曲では控えめだったオルガンがソロパートを披露したり、全体的にはっちゃけた感じで気持ち良いです。表題曲「Ready An’ Willing」は渋いのですが、キャッチーさもあります。カヴァーデイルの色気溢れるボーカルが魅力的です。ゆったりとした「Carry Your Load」を挟んで、バラード曲「Blindman」。とてもブルージーなサウンドと、そして感情のこもった哀愁漂うメロディアスな歌。渋くて、そして染みます。名曲です。
 アルバム後半は「Ain’t Gonna Cry No More」で幕開け。アコースティック基調の牧歌的でフォーキーな楽曲に癒されますが、中盤からハードロックに変貌。英国のバンドですが、アメリカンな空気が強く漂います。続く「Love Man」は気だるい雰囲気を醸し出すブルージーな楽曲です。これも泥臭いですね。「Black And Blue」は手拍子や歓声など、こじんまりとした場で披露した楽曲でしょうか?ノリの良いロックンロールで、コーラスなども臨場感があって楽しいです。軽快なピアノもワクワクさせてくれます。また、終わったかに見せかけてまた反復する即興的なノリも良いですね。ラストは爽快なロックンロール「She’s A Woman」。ハイトーンで攻めるカヴァーデイルのボーカルが強烈。スペイシーなキーボードをはじめ、間奏はレインボーにも通じる雰囲気です。

 ブルージーな路線は変わらず、ジャケットアートもとことん地味なのですが、これまでの作品と比べてかなり洗練され、とても聴きやすいです。初期ホワイトスネイクの入門にどうぞ。

Ready An’ Willing
Whitesnake
 
Come An' Get It (カム・アンド・ゲット・イット)

1981年 4thアルバム

 前作と同じラインナップで制作され、プロデューサーもデビュー時から変わらず安定のマーティン・バーチ。本作からは「Don’t Break My Heart Again」がヒットし、英国や欧州、日本で人気を獲得していきました。しかし米国には届かず、デヴィッド・カヴァーデイルは徐々に米国マーケットを意識するようになります。

 「Come An’ Get It」で開幕。イアン・ペイスのタイトなドラムを中心にシンプルなロックを展開。意図的なのか音はスカスカで(後半は分厚くなりますが)、オープニング曲にしては無難な印象です。続く「Hot Stuff」はアップテンポで、イントロから畳み掛けるような展開です。前曲よりむしろこちらの方が1曲目に向いているのではないでしょうか。ダイナミックなドラムや、ジョン・ロードのオルガンソロ等、聴きどころが多くスリリングです。「Don’t Break My Heart Again」はシングルヒットした楽曲。力強いドラムに支えられてカヴァーデイルのソウルフルな歌声が冴えます。続く「Lonely Days, Lonely Nights」は個人的に本作のハイライト。ブルージーでヘヴィなサウンドが魅力的な1曲で、味のある渋いボーカルと、泣きのギターが作り出す強烈な哀愁がたまりません。「Wine, Woman An’ Song」は一転して爽快なロックンロール。ピアノが軽快なリズムを奏で、ミッキー・ムーディとバーニー・マースデンのツインギターが掛け合いを行う楽しい1曲です。
 アルバム後半は「Child Of Babylon」で開幕。緩やかに始まりますが、徐々に激しく盛り上がっていく展開が鳥肌ものです。終盤が特にアツい。続く「Would I Lie To You」はポップな楽曲で、ひたすら連呼するキャッチーなサビメロが印象的です。ブルージーな「Girl」を挟んで、「Hit An’ Run」はヘヴィなリフがカッコ良い1曲。ニール・マーレイのベースが唸ります。中盤はトーキングモジュレーターも活用しています。最後の「Till The Day I Die」はアコースティックな雰囲気で進みますが、後半はロックンロールに変貌。終盤をリードするオルガンが聴きどころです。

 中盤に名曲が固まっていて、序盤と終盤は少し弱い印象です。キャッチーさも加わりましたが、相変わらず10年くらい時代遅れなブルージーなハードロックです。

Come An’ Get It
Whitesnake
 
Saints & Sinners (セインツ・アンド・シナーズ)

1982年 5thアルバム

 ブルース寄りハードロック志向の最後の作品です。米国マーケットを目指すデヴィッド・カヴァーデイルと他のメンバーの仲が悪化し、本作リリース時にはカヴァーデイル以外のメンバーは解雇。ミッキー・ムーディ(Gt)、バーニー・マースデン(Gt)、ニール・マーレイ(B)、ジョン・ロード(Key)、イアン・ペイス(Dr)のラインナップで制作された最後の作品です。ジャケットにはクレジットされていないし、ジャケット裏面にはカヴァーデイルだけの写真が写っています。

 「Young Blood」で開幕。初っ端からマーレイのベースが唸る唸る。キャッチーさも増して、アメリカンなロックンロールといった印象です(ブリティッシュですが)。コーラスに飾られた歌もキャッチーで聴きやすい。続く「Rough An’ Ready」はメタリックな音ですが、ベースにあるのはブルージーなロックンロールというギャップがあります。続く「Bloody Luxury」は軽快なロックンロールです。前のめり気味のかなりテンポの速い楽曲で、ロードのピアノやシンセサイザーが軽やかな曲調に仕立てています。ここまでテンポの速めのロックンロールが続きましたが、続く「Victim Of Love」でミドルテンポに落として、ヘヴィなリフを響かせます。でも前面に出てきた歌やハミングとか、キャッチーさも忘れていません。続く「Crying In The Rain」は、次曲とともに『白蛇の紋章~サーペンス・アルバス』でリメイクされることになる楽曲です。本作では非常に渋い。ブルージーな1曲で、強烈な哀愁が漂います。序盤は間を大事にしたのかスッカスカ。個人的にはリメイク後の方が好きですが、こちらの強烈な渋さも味があって良いです。
 アルバム後半の幕開けは「Here I Go Again」。この楽曲もリメイク後の方が好みですが、こちらにも違った良さがあります。ロードのオルガンが作る神聖な雰囲気、そしてゴスペルのようなコーラスなどサビで一気に爆発させる展開。本作バージョンは歌を中心に据えて、ヘヴィなサウンドで味付けしています。哀愁のギターソロも良いですね。ノリノリのリズムで展開する「Love An’ Affection」に続き、軽快なロックンロール「Rock An’ Roll Angels」。軽やかなピアノに、ゴスペル風のコーラスなど明るい気分にさせてくれます。「Dancing Girls」はヘヴィでパンチの効いたサウンドにハッとさせられます。オルガンソロもあって楽しませてくれます。最後に表題曲「Saints An’ Sinners」。ヘヴィなリフが印象的なフレーズを奏でます。ギターソロも味があって良いです。

 ファンからの評価はあまり良くない本作。でもノリの良い軽快な楽曲が多く、流して聴くには心地良い作品だと思います。崩壊寸前のバンドを、空元気で誤魔化しているのかもしれませんね。
 本作で分解したホワイトスネイクは、表向きはカヴァーデイルの娘の病気を理由に活動休止に至ります。そして次作『スライド・イット・イン』では新生ホワイトスネイクとして、メンバーも一新して音楽性も大きく変わることになります。

Saints & Sinners
Whitesnake
 

全米での成功(ヘヴィメタル化)~解散

Slide It In (スライド・イット・イン)

1984年 6thアルバム

 米国ゲフィン・レコードと契約し、米国進出の戦略によって本作はUK盤とUSリミックス盤が存在するため、少しややこしいです。
 まず前作でデヴィッド・カヴァーデイル以外の全員が解雇となりましたが、ミッキー・ムーディ(Gt)とジョン・ロード(Key)が復帰。あとはメル・ギャレー(Gt)、コリン・ホッジキンソン(B)、コージー・パウエル(Dr)のラインナップでUK盤が制作されました。その後米国向けに、ムーディとホッジキンソンのパートが、それぞれ元シン・リジィのジョン・サイクス(Gt)と元メンバーのニール・マーレイ(B)の音源に差し替え。ミックスも再調整され、曲順も変更されました。UK盤とUSリミックス盤、どちらが良いの?という最適解は、どちらも聴ける25周年デラックスエディションでしょうか(ちなみに最近2019年リマスターの35周年エディションも出たみたいです)。USリミックスの音源をベースにUK盤に近い曲順で、ボーナス扱いでUK盤ミックスも聴けるという代物です(全ては網羅していませんが)。聴き比べるとUK盤ミックスの方が音が篭もっていて、USリミックスの方が音がクリアでゴージャスな印象。個人的にはUSリミックスが好みです。
 なお、デビューからホワイトスネイクをプロデュースし続けたマーティン・バーチが、本作を最後に離れます。

 本項では25周年デラックスエディションの、ボーナストラックを除いた本編をレビューします。USリミックス盤の音源となります。「Gambler」で開幕。ダークな空間から突如、切れ味の鋭いギターがザクザクと斬り込んできます。楽曲自体は淡々としているものの、パウエルのパワフルなドラムが強烈な印象です。続いて表題曲「Slide It In」。ヘヴィなギターとベースが呼応し、力強いドラムが支えます。カヴァーデイルのボーカルはソウルフルな歌声を活かしつつもキャッチーな歌メロを歌います。ヘヴィながらもポップな印象の名曲です。「Slow & Easy」は音数の少ないシンプルなサウンドをバックに、カヴァーデイルが哀愁漂う歌を聴かせます。途中から楽器が増えてゴージャスに。手拍子も加わり、ソウルフルな歌声を活かす黒っぽいコーラス。キャッチーな歌をひたすら反復するので、口ずさみたくなるような、耳に残る楽曲です。「Love Ain’t No Stranger」はキーボードとアコギが作る静かな音に、哀愁漂うソウルフルな歌声が響きます。かと思えば途中から、ヘヴィメタル的な派手なサウンドが迫ってきて圧倒されます。ふと思い出したように表れる、哀愁ある雰囲気も良い。「Give Me More Time」AC/DCのような縦ノリのロックンロール。というか、ギターリフも含めてサウンドはもろにAC/DCですね。歌メロはホワイトスネイクの独自性を出していて、メロディアスで哀愁が漂います。続く「Standing In The Shadow」はシリアスな雰囲気のダークな演奏に、カヴァーデイルの哀愁漂うメロディアスな歌が乗ります。歌メロがとにかく素晴らしいですが、ヘヴィな演奏も鳥肌ものです。「Hungry For Love」は明るくてノリの良い1曲。T・レックスに影響を受けたであろうギターリフを中心に、モダンなサウンドに仕上げています。「All Or Nothing」になるとヘヴィさが更に増します。ヘヴィなギターに喧嘩を売るかのようにゴリゴリ唸るベースがカッコ良い。終盤オルガンが鳴り響く最中に、大砲を撃つようなドラムがズシンときます。そんなサウンドも魅力的ですが、メロディアスでキャッチーな歌も良い。「Spit It Out」で縦ノリのストレートなロックンロールを展開。グルーヴ感が気持ち良い1曲です。最後は明るい雰囲気の「Guilty Of Love」。疾走感が抜群で、軽快にアルバムを締めてくれます。

 ブルース路線からヘヴィメタル化を遂げる過渡期にある作品です。ポップさとヘヴィメタルを両立したスリリングな楽曲が並ぶ名盤です。

 なお、カヴァーデイルとの衝突から、残念ながら本作限りでコージー・パウエルが脱退。またカヴァーデイルは喉のポリープの手術を行うことに。そんなトラブルを乗り越え、またもメンバーを一新して挑んだ次作で大傑作を生み出すことになります。

Slide It In (Deluxe Edition) (2019 Remaster)
Whitesnake
 
Whitesnake (白蛇の紋章~サーペンス・アルバス) / 1987

1987年 7thアルバム

 ホワイトスネイクの7作目にして、バンド名を冠した自信作です。過去との決別かバンドロゴも新しくなり、また過去の名曲「Here I Go Again」と「Crying In The Rain」をリメイクして収録しています。セルフカバーはホワイトスネイクのお家芸となり、元レッド・ツェッペリンのロバート・プラントから「David Coverversion (デヴィッド・カヴァーバージョン)」と揶揄される始末…。

 本作は全米2位を記録し、当時全米だけでも800万枚を売り上げ(2007年までに全米累計で1000万枚超)、バンド最大のヒット作となりました。ヘヴィメタル界でも屈指の名盤です。マイク・ストーンとキース・オルセンによって共同プロデュースされましたが、両名とも産業ロック等で多くの名盤を排出した名プロデューサーです。
 本作のラインナップは、リーダーのデヴィッド・カヴァーデイル(Vo)をはじめ、前作から参加のジョン・サイクス(Gt)、ニール・マーレイ(B)、そして新加入のエインズレー・ダンバー(Dr)。またゲスト扱いで元レインボーのドン・エイリー(Key)や、ビル・クオモ(Key)、後に正式加入するエイドリアン・ヴァンデンバーグ(Gt)が参加しています。残念ながら本作リリース時には解雇されてしまうものの、本作では作曲面でも演奏面でもサイクスの貢献が非常に大きく、サイクスとカヴァーデイルの化学反応が生み出した奇跡の名盤だと思います。

 本作も『スライド・イット・イン』同様に少しややこしくて、米国盤と日本盤は『Whitesnake (白蛇の紋章~サーペンス・アルバス)』という名でリリース。ヨーロッパ盤は曲順と曲目が異なり『1987』のタイトルでリリース(「Still Of The Night」がオープニング曲という点が良い)。更に日本独自の企画盤として『1987バージョン』というミニアルバムもあります…。本作の25周年エディションがこれら複数バージョンの決定盤になると思いますので、これから聴こうという方には25周年エディションをオススメします。本項も25周年エディションをレビューします。

 オープニング曲「Still Of The Night」からぶっ飛んでいて、ヘヴィメタル界でも屈指の超名曲です。イントロからギュイーンと唸りを上げるサイクスのギターがあまりにカッコ良い。レッド・ツェッペリンの「Immigrant Song」のようなギターリフや「Whole Lotta Love」のようなカオスで色気のある間奏等、これら楽曲に影響を受けつつ現代版にアレンジしたような雰囲気で、またカヴァーデイルも自身の黒髪を金髪に染め上げてロバート・プラントを彷彿とさせる出で立ち。出で立ちだけでなく、ポリープの手術をして絶好調の歌声も、ロバート・プラントの声質に似ている気がします。とても痺れます。色んな要素でディープ・パープルの系譜よりもレッド・ツェッペリンを強く想起させます。続く「Give Me All Your Love」はダンバーのリズミカルなドラムが心地良い、ヘヴィなロックンロールです。間奏のド派手なギターソロも聴きどころですね。「Bad Boys」は爽快な疾走曲です。初っ端からカヴァーデイルが吠える。炸裂という言葉がよく似合うドラムが煽り、ギターがザクザクと切り刻み、マーレイのベースが下支えします。そして哀愁漂う名バラード「Is This Love」。ムーディな演奏にしっとりと歌い上げるカヴァーデイルの「俺が感じているこれが愛なのか…?」と、切ない歌が突き刺さります。メロディがとてもよく、歌を引き立てるのに徹する演奏陣。聴き浸ってしまいますね。続く「Here I Go Again ’87」は『セインツ・アンド・シナーズ』のリメイク。エイリーの弾くキーボードが幻想的で柔らかい雰囲気を作り、歌が盛り上がって感情が溢れ出そうになるタイミングで、ヘヴィな演奏が更に楽曲を引き立てる。タイミングが素晴らしすぎます。ベタな展開ですが感傷的になれます。途中、カヴァーデイルのハイトーンボイスも強烈。そして「Straight For The Heart」は、ポップさを合わせ持つヘヴィメタル曲です。疾走感が素晴らしく、ほのかな哀愁を漂わせつつも爽やかな印象です。間奏で速弾きギターソロを披露したり、ゴージャスなキーボードなど、これでもかとゴテゴテに飾りつけられています。笑 「Looking For Love」は一転、静かで神秘的なサウンド。最初は静かなので、マーレイのベースやダンバーのパワフルなドラムが際立ちますね。そして哀愁漂うメロディアスな歌が進むと、バックの演奏も徐々にゴージャスに。サイクスのギターは所々でギュイーンと唸ります。「Children Of The Night」は「Bad Boys」のような疾走曲です。切れ味の鋭いギターや重低音を響かせるベース、そして爆裂ドラムが強烈ですが、歌は意外とメロディアスです。メロディだけならポップソングにも普通に似合いそう。間奏では俺が俺がと演奏バトルを展開し、いなすようにカヴァーデイルの歌が戻ってきます。低音を響かせるダーティな雰囲気の「You’re Gonna Break My Heart Again」を挟んで、『セインツ・アンド・シナーズ』からもう1曲リメイク「Crying In The Rain ’87」。原曲よりも断然ゴージャスです。スカスカで間のあった原曲、こちらのアレンジではカヴァーデイルのボーカルが聴く者をねじ伏せるかのような説得力があり、歌に呼応する演奏も強烈な音圧です。とにかくド迫力で痺れます。ラスト曲「Don’t Turn Away」は哀愁漂うバラードです。しゃがれた声が渋くて、メロディアスな歌を引き立てます。マーレイのベースも良い仕事してるんだよなぁ。

 ブルース寄りの渋いハードロックバンドを脱ぎ捨てて、ゴージャスという言葉がぴったりのド派手なヘヴィメタルを展開。これがヘヴィメタル界屈指の大傑作で、必聴ものです。名曲揃いですが、まずは「Still Of The Night」でぶっ飛ばされてください。

 なお、本作リリース前にまたもカヴァーデイル以外のメンバーは解雇。本作で大きく貢献したサイクスはブルー・マーダーを結成します。後釜にはエイドリアン・ヴァンデンバーグ(Gt)、ヴィヴィアン・キャンベル(Gt)、ルディ・サーゾ(B)、トミー・アルドリッジ(Dr)が加入します。

Whitesnake (Deluxe Edition) (30th Anniversary)
Whitesnake
 
Slip Of The Tongue (スリップ・オブ・ザ・タング)

1989年 8thアルバム

 『白蛇の紋章~サーペンス・アルバス』のレコーディング後にエイドリアン・ヴァンデンバーグ(Gt)、ヴィヴィアン・キャンベル(Gt)、ルディ・サーゾ(B)、トミー・アルドリッジ(Dr)が加入。このうちキャンベルは本作のレコーディングに関わらずして解雇。本作においてはデヴィッド・カヴァーデイルとヴァンデンバーグが中心となって楽曲制作が進められました。しかし録音前にヴァンデンバーグが腱鞘炎になってしまったため、スティーヴ・ヴァイ(Gt)がピンチヒッターとして参加。また、ゲストミュージシャンが何名か招かれましたが、ディープ・パープル時代の盟友グレン・ヒューズがコーラスとして参加しています。
 プロデューサーはガンズ・アンド・ローゼズを手掛けたマイク・クリンクと、前作から引き続きとなるキース・オルセン。

 私が持っているのが20周年エディションのためこれをレビューしますが、オリジナルとは曲順が違うみたいですね。そして2019年には30周年エディションがリリースされます。
 オープニング曲は「Slip Of The Tongue」。これから格闘技でも始まるかのような、派手でキャッチーなイントロ。そこからヴァイが強烈なギターを披露。ギュインギュインと唸りを上げ、これが非常にカッコ良いのです。カヴァーデイルも張り合うかのように、声を張り上げて終始ハイトーンで応戦。激しいバトルの開幕です。ド派手ですが疾走感もあり爽快。異色なナンバーですが、素晴らしい名曲です。続く「Judgement Day」は重苦しい雰囲気の中で、ヘヴィなリフとパワフルなドラムがズシンと響きます。歌も含めて序盤は淡々と進みますが、時折表れる場違いな華やかさ。キーボードとギターが作るゴージャスでキャッチーな瞬間が、強烈に耳に残ります。「Fool For Your Loving ’89」は名盤『フール・フォー・ユア・ラヴィング』の収録曲のリメイク。激しくて、そしてあまりにゴージャスな仕上がりなので、個人的にはソウルフルで渋い原曲の方が好みです…。ですが、元のメロディの良さを活かしていてキャッチーで聴きやすいです。続く「Now You’re Gone」はイントロから泣きの(…いや、騒がしい?)ギターで始まるメロディアスな歌です。メロディラインがとても魅力的ですが、サビメロはクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの「Have You Ever Seen The Rain」に似ているかも。盛り上げ方はベタな展開ですが、カヴァーデイルの切なさを込めた熱唱も含めてグッときます。素晴らしい名曲です。続く「Kittens Got Claws」は猫のような鳴き声がバックにうっすら聞こえる中、突如として猛犬カヴァーデイルが吠える。笑 そこからスリリングな疾走ロックンロールが始まります。ヴァイのギターも唸りまくりで、ノリが良くて爽快です。ゴージャスなサウンドに埋もれがちですが、地味にサーゾのベースが良い仕事をしています。「Cheap An’ Nasty」もノリの良いロックンロール。アルドリッジのダイナミックなドラムが良いのですが、強烈な存在感を放つギターに意識がいってしまいますね。「The Deeper The Love」ポリスを彷彿とさせる名バラード。しっとりとしていて、そしてどこか心地良いサウンド。そしてじわじわと盛り上げます。終盤の感情たっぷりの歌唱は泣ける…。ベタだけどやはり良い曲です。少しファンキーな「Slow Poke Music」を挟んで、疾走感たっぷりの「Wings Of The Storm」。雷鳴のように唸るギターが激しく、終盤の速弾きギターソロも惹かれますが、全般を通してヘヴィなベースもカッコ良いです。そしてラスト曲「Sailing Ships」、これがまた名曲なのです。アコースティックで湿っぽい雰囲気の中で、カヴァーデイルが哀愁漂う歌を聴かせます。静かな夜の海を思わせます。でも湿っぽく静かには終わらせないのがホワイトスネイク。後半にド派手なバンドサウンドが壮大に盛り上げます。歌もとても熱く、鳥肌が立ちます。ラストの「スカーーーイ」は痺れますね。

 スティーヴ・ヴァイのギタープレイをはじめ、あまりにド派手な仕上がりは一部で賛否あるようです。全体的にゴージャス感が極まりないですが、ベタすぎる展開も納得の名曲揃い。前作を気に入った方ならハマるであろう作品で、個人的には前作に次ぐ傑作です。

 本作に伴うワールドツアー後、モンスターズ・オブ・ロックに出演。そしてホワイトスネイクは1990年末に解散しました。カヴァーデイルは元レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジと組んでカヴァーデイル・ペイジを結成し、1枚の作品をリリース。その後ジミー・ペイジとのプロジェクトは解消し、1994年にはホワイトスネイクを再始動することになります。

Slip Of The Tongue (2019 Remaster)
Whitesnake