🇺🇸 Metallica (メタリカ)

スタジオ盤②

原点回帰

Death Magnetic (デス・マグネティック)

2008年 9thアルバム

 ロバート・トゥルージロ(B)が参加した初の作品です。長らくメタリカのプロデューサーを務めたボブ・ロックの手を離れ、リック・ルービンが新たにプロデューサーに就きました。カーク・ハメット(Gt)は『メタル・ジャスティス』の後続的作品だと語っているそうで、スラッシュメタルに回帰した長尺の楽曲群には件の作品の雰囲気が出ています。全10曲ですが、ラスト曲(5分)以外は全て6~10分の長い楽曲が並びます。
 ジャケットアートの棺桶の周りが土を掘ったかのように黒ずんでいますが、実はこれ、ブックレットが棺桶の形にくり貫かれていています。棺桶の型に抜かれた穴がページを進めるごとに小さくなっていき立体感を生んでいるという、非常に凝った仕様になっています。

 オープニング曲は「That Was Just Your Life」。陰鬱で美しいギターで始まり、そこにヘヴィなリフがザクザクと切り込み疾走。「Battery」や「Blackened」を彷彿とさせる楽曲展開は高揚感を煽ります。続く「The End Of The Line」は場面転換が頻繁で、先の読めない展開がスリリングです。時折えぐるかのようなヘヴィなリフが強烈で、間奏では高速ギターソロを聴かせるカークのプレイも聴きごたえがあります。ジェイムズ・ヘットフィールドの歌も激しいだけでなく、時折憂いを見せたりと変化に富んでいます。ラーズ・ウルリッヒの力強いドラムで幕を開ける「Broken, Beat & Scarred」はミドルトンポの楽曲。若干中東風のエッセンスを加えたリフが印象的です。途中からテンポアップして駆け抜けるのでスリリングですね。音圧が凄まじい。「The Day That Never Comes」はイントロが美しく、哀愁のギターが繊細な音色を奏でます。ジェイムズの哀愁の歌メロを徐々にヘヴィに盛り上げていくので、ドラマチックです。時折変則的なリズムを交えて緩急つけ、終盤は銃弾の雨を降らすかのように非常にヘヴィで緊迫していますが、これは名曲「One」を彷彿とさせますね。続く「All Nightmare Long」は重たくも速いギターや力強いドラムが焦燥感を煽る、スリリングな演奏です。メロディはそこまででもないですが、往年のスラッシュメタル曲のようなヘヴィで速いサウンドと、時折入るジェイムズのカウントがスリル満点です。「Cyanide」は本作のハイライト。ヘヴィなリフに跳ねたリズムでキャッチーさを感じさせつつも、かなり強引なリズムチェンジの多用はプログレ的で、先の読めないスリルがあります。ギターが刻む印象的なフレーズや、ラーズのツーバスが強烈ですね。「The Unforgiven III」は『メタリカ』、『リロード』と続く「The Unforgiven」シリーズのパート3。哀愁漂うメロディで、デヴィッド・キャンベル編曲のオーケストラが控えめながら美しく楽曲を彩ります。何気にロバートのベースラインが良い味を出していますね。メロウで渋い楽曲です。そして「The Judas Kiss」は少し変則的なリズムがスリリングな疾走曲。間奏では荒れ狂うカークのギターソロに圧倒されます。続いて、10分に及ぶインストゥルメンタル「Suicide & Redemption」。ノイジーなリフが駆け抜け、中盤はギターが哀愁のメロディで泣かせにきますが、途中うねるベースがスリリング。終盤は緊迫感のある演奏やラーズの高速ドラムで圧倒します。最後に高速スラッシュ「My Apocalypse」。高速テンポにヘヴィなサウンドで、煽られ続けるようなスリルがあります。

 突出した楽曲はありませんが全体の水準は高めで、全盛期スラッシュメタルの影を感じられる好盤に仕上がっています。カークの見せ場もいつもより多い気がします。
 本作は全世界25ヶ国で1位を獲得。その勢いもあったか、翌年2009年にはロックの殿堂入りを果たしました。

Death Magnetic
Metallica
 
Hardwired... To Self-Destruct (ハードワイアード... トゥ・セルフディストラクト)

2016年 10thアルバム

 ルー・リードとのコラボアルバム『Lulu』をリリースするなどの活動を挟み、前作からは実に8年ぶりとなるオリジナルアルバムです。メンバーは変わらず、ジェイムズ・ヘットフィールド(Vo/Gt)、ラーズ・ウルリッヒ(Dr)、カーク・ハメット(Gt)、ロバート・トゥルージロ(B)。ジェイムズとラーズ、そしてグレッグ・フィデルマンの共同プロデュース。
 本作は2枚組(デラックス盤はカバー曲やライブ曲等が付いて3枚組)のボリュームですが、2枚揃っても約78分なので、『ロード』以降の作品とほとんど大差ありません。1枚に収まるのに何故わざわざ分けたのか。通しで聴かずに分けて聴くことを推奨しているのかもしれませんね。そして何気に本作の目玉はデラックス盤。トリビュートアルバムの収録曲を本作のボーナストラックとして持ってきたロニー・ジェイムス・ディオ時代レインボーのカバーが聴きどころで、また初期楽曲のライブも非常にスリリングです。

 Disc1は「Hardwired」で開幕。タカタッタカタッと小気味良くもヘヴィなラーズのドラムで始まる疾走曲です。ヘヴィなリフもツーバスも強烈で、相変わらず煽り立てるようなサウンドでスリルを提供してくれます。メタリカにしては珍しく、僅か3分で終わります。「Atlas, Rise!」は往年の大曲を彷彿とさせる構成です。なお、ギターオーケストレーションはアイアン・メイデンを強く想起させます。「Now That We’re Dead」はヘヴィなリフを中心に鈍重なサウンドです。ジェイムズの歌い方のせいか、歌だけはボン・ジョヴィっぽい感じで、それもあり歌メロが意外とキャッチーな印象。続いて疾走曲「Moth Into Flame」。キレッキレだけど軽快なサウンドで、しかしメロディにはほんのり哀愁が漂います。また、間奏では荒れ狂うカークのギターを堪能できます。「Dream No More」は引きずるように重たい楽曲。どっしりした演奏は時折更にスピードダウンし、重さを強調します。終盤はツインギターでメロディアスな音色を奏でます。そして憂いのある「Halo On Fire」は今作最長の8分超。陰鬱で大人しいサウンドはサビ付近で盛り上げます。ギターがスラッシュメタルではなくアイアン・メイデンっぽい。

 ここからDisc2で、「Confusion」で幕開け。リフのヘヴィさは相変わらずですが、リードギターの奏でるフレーズや歌メロはメロディアスな印象です。「ManUNkind」は怪しげなメロディですが、特徴的なのがリズム。3連符を駆使して一見リズミカルですが、一筋縄ではいかない変則的なリズムが中々のインパクト。癖になる楽曲です。続いて「Here Comes Revenge」。ラーズの響き渡るドラムやダークな雰囲気がスリリングで、相変わらずリフはヘヴィですが、歌はメロディアスな印象。スローテンポな「Am I Savage?」は鈍重な感じ。ですが途中に3連符を含んだリズムチェンジを交え、重苦しいサウンドの中に変化をつけています。「Murder One」はイントロで繊細で陰鬱なギターとヘヴィで超攻撃的なギターが交差。歌が始まると繊細さは消え去り、重たいサウンドが占めますが、正直だれます。そして最後は超速スラッシュ「Spit Out The Bone」。マシンガン連射のような重たいドラムとリフの嵐。追い立てるかのような高速テンポ。メタリカにはこういう楽曲を期待してしまうんですよね。

 ここからはデラックス盤にのみ付属するDisc3。シングル曲「Lords Of Summer」は疾走曲で、ラーズのツーバスが炸裂します。続いて本作の目玉である、レインボーのカバー曲メドレー「Ronnie Rising Medley (A Light In The Black / Tarot Woman / Stargazer / Kill The King)」。原曲よりメタリックな質感で、特に原曲だとそこまで主張しないベースですが、このカバーだとロバートの硬質なベースが際立っています。各楽曲の名フレーズ良いとこ取りで、メドレーの繋ぎ方は見事。原曲の素晴らしさを再確認できる好アレンジですね。「When A Blind Man Cries」ディープ・パープルのカバーで、シングルB面曲というコアな選曲。渋くブルージーな楽曲で、中盤までメタリカ色を消しています(終盤は一気にヘヴィになってメタリカ色全開ですが)。カークの泣きのギターがしんみりとさせますね。続いてアイアン・メイデンのカバー「Remember Tomorrow」。ポール・ディアノ時代からの選曲ですが、ジェイムズの歌声が良く合いますね。原曲の雰囲気を重視した仕上がりですが、最初と最後に強引にメタリカ色をねじ込むアレンジに違和感があったり。
 ここからライブ録音で、ダイアモンド・ヘッズのカバー「Helpless」で開幕。軽快なリズムとヘヴィなリフで始まりますが、途中からツーバスの雨霰を降らせます。その後はメタリカ初期の楽曲が並びますが、これが本作の聴きどころ。まずは「Hit The Lights」。カークのキレッキレのギターと、一撃が超重たいラーズのドラムが特にスリリングで、原曲の比にならないくらいアグレッシブです。「The Four Horsemen」も非常にパワフルですが、リズミカルでノリの良いサウンドは爽快ですね。「Ride The Lightning」はダイナミックなドラムに這うようなリフがカッコ良く、ゴリゴリのベースも魅力的ですね。そしてライブならではの醍醐味Oiコールも楽しませてくれます。「Fade To Black」は陰鬱で美しいアルペジオで始まるバラード。ジェイムズの渋くて哀愁のある歌が切ない気分にさせます。また、後半の緊迫した演奏は鳥肌が立ちますね。続く「Jump In The Fire」はダーティなリフがカッコ良い楽曲。ノリが良く、影のあるメロディもキャッチーです。そして野太いコールが響き渡る「For Whom The Bell Tolls」。本編に入ると重厚なサウンドとドスの利いた歌で説き伏せるかのようで、気が引き締まります。そして重さはそのまま疾走曲「Creeping Death」へ。ゴリゴリとしたサウンドで蹂躙してきます。ライブもヒートアップしていてアツいですね。「Metal Militia」も超速スラッシュメタル曲でゴリゴリえぐってきます。ジェイムズはシャウトしっぱなしで、勢いに満ち溢れています。そして最後に、新作より「Hardwired」。これも疾走しています。馬が駆け抜けるかのような、タカタッタカタッという軽快ながらヘヴィなリズムがスリリング。

 今作ではアイアン・メイデンのようなギターだったり、円熟味を得て聞きやすくなった歌などの変化があります。曲によっては比較的メロディアスで聞きやすいのですが、丸くなった印象もあったり。いくつかの楽曲はだれるので結構BGMとして聞き流してしまいますが、高速スラッシュ曲が救いか。正直なところ、本編よりもボーナスディスクの方が数倍楽しめます。
 本作が今のところ最新作ですが、ロバートが新作の制作を匂わせる発言をしており、近いうちに次の作品を期待できそうです。

Hardwired… To Self-Destruct
(Deluxe)
Metallica
Hardwired… To Self-Destruct
Metallica
 
72 Seasons (72シーズンズ)

2023年 11thアルバム

 前作『ハードワイアード… トゥ・セルフディストラクト』から7年ぶりとなるメタリカの新作です。メンバーやプロデューサーは前作を踏襲。2019年には新作のアイディアは出ていたようですが、パンデミックの影響で遅れ、2021〜22年にかけてレコーディングが行われました。トータル77分に及ぶボリューミーな作品に仕上がっています。

 オープニングを飾る表題曲「72 Seasons」は7分半を超える大作で、アグレッシブな冒頭から高揚感を掻き立てます。リズムチェンジをかましつつ、ザクザクとした重低音を唸らせる、迫力のスラッシュメタルを展開。とてもカッコ良いです。ドスの効いたジェイムズ・ヘットフィールドの歌も絶好調ですね。「Shadows Follow」は、ラーズ・ウルリッヒの叩きつけるようなドラムに圧倒されていると、リズムチェンジをかましてくるので痺れます。少しトリッキーな感じが印象的。終盤ではカーク・ハメットが悠々とリードギターを弾き鳴らします。「Screaming Suicide」はカークの弾くエキゾチックなメロディと、ロバート・トゥルージロの太いベース、ラーズのツーバスが対照的。疾走感があってスリリングです。続く「Sleepwalk My Life Away」は7分近い大作です。連打するドラムにゴリゴリのベース、そして重低音を奏でるギターが、ダーティかつ野性味のある雰囲気を作り出します。歌が始まるとヘヴィなスロー〜ミドルテンポな楽曲に変わって鈍重な感じ。「You Must Burn!」も7分クラスの大作。スローテンポかつグルーヴの強い楽曲で、後半はエキゾチックな感覚を増します。後半には、スローな楽曲の中でカークが速弾きソロを披露して、一人だけスピード感がおかしい。笑 そして「Lux Æterna」は本作唯一の3分台の楽曲で、疾走感に溢れています。ラーズの速いドラムが牽引します。「Crown Of Barbed Wire」は単調なビートが不気味に焦燥感を煽り、かと思えば重低音が憂いのある雰囲気を出したり、変化に富んだ不思議な楽曲です。「Chasing Light」は鈍重な楽曲で、スローテンポに始まりますが、リズムチェンジを交えて緩急をつけます。コーラスがやけに高音ですね。笑 続く「If Darkness Had A Son」はリズミカルなビートで始まり、アグレッシブになり迫力を増していきます。鈍重な楽曲で、時折エキゾチックなメロディを奏でます。「Too Far Gone?」では、切れ味鋭いヘヴィな演奏を展開。中盤からはメロディアスなツインギターを聴くことができます。「Room Of Mirrors」はスラッシーなメタルナンバーで、変化に富んだヘヴィなサウンドを聴かせます。ラーズの叩くツーバスもアツいですね。そしてラスト曲「Inamorata」は、本作最長の11分超。トリッキーなリズムを刻みながら、ミドルテンポで進行します。後半はメロディアスなギターを聴かせます。

 ボリューム多すぎな感じはありますが、佳曲が揃っていて中々の良作です。

72 Seasons
Metallica
 
 

ライブ盤

S & M

1999年

 『S & M』とは『Symphony And Metallica』のことで、メタリカがオーケストラと共演した異色のライブ盤となります。『メタリカ』収録の「Nothing Else Matters」でストリングスアレンジを担当したマイケル・ケイメンが企画を持ち込み実現したそうです。『ライド・ザ・ライトニング』から『リロード』までの楽曲から選曲されています。
 メンバーはジェイムズ・ヘットフィールド(Vo/Gt)、ラーズ・ウルリッヒ(Dr)、カーク・ハメット(Gt)、ジェイソン・ニューステッド(B)、そしてマイケル・ケイメン指揮のサンフランシスコ交響楽団。トータル2時間13分の大ボリュームです。

 オーケストラの奏でる「The Ecstasy Of Gold」で始まりますが、これは映画『続・夕陽のガンマン』の楽曲。そしてインスト曲「The Call Of Ktulu」へ。不穏なアルペジオを、そして激しくなるバンド演奏に合わせて盛り上がるオーケストラが意外と合っている。まるで映画のサントラ曲のようです。そのまま続く「Master Of Puppets」。ヘヴィなリフに合わせた壮大な演奏が鳥肌もので、オーケストラが見事に合っています。歌は会場が合唱し、ツインギターで聴かせる場面はオーケストラが優美に彩る(音数多くて少しごちゃついてますが)。スリルが段違いで、いきなりクライマックス感。笑 とにかくアツいですね。「Of Wolf And Man」はイントロから緊迫感のある楽曲。ヘヴィなリフにOiコールで煽ります。「The Thing That Should Not Be」は鈍重なリフと、ジェイムズのドスの利いた歌声を、優雅なオーケストラが壮大に彩るのでど迫力です。「Fuel」はうねるようなグルーヴ感のある重低音と、オーケストラによる豪華な高音の対比が印象的。ラーズのツーバスも強烈です。引きずるように鈍重な「The Memory Remains」では、オーケストラの影に隠れて会場の合唱も聞こえます。「No Leaf Clover」は本作初出の新曲。緊迫していますが時折美しい演奏で、哀愁たっぷりの歌メロを引き立てています。途中カークのギターソロがオーケストラに張り合っているかのよう。「Hero Of The Day」はジェイムズの歌をフィーチャーしたバラードで、静かな演奏でメロディアスな歌を聴かせます。これもオーケストラとの共演がプラスに働いている楽曲で、後半盛り上がっていく場面をオーケストラが優美に彩り、感動的な演出です。続いて「Devil’s Dance」はスローテンポにヘヴィなリフが効きます。そして9分の大曲「Bleeding Me」。序盤はゆったりとしたメロディアスな歌を聴かせ、中盤以降ドラマチックに盛り上げてきます。

 ここからDisc2で、名バラード「Nothing Else Matters」で始まります。哀愁たっぷりの歌が切ないですね。「Until It Sleeps」も哀愁が漂います。壮大でドラマチックな演奏が、ジェイムズの迫真の歌唱を引き立てています。そして「For Whom The Bell Tolls」、これは壮大な演出が鳥肌ものですね。原曲も気が引き締まるような緊迫感がありますが、ヘヴィなリフを引き立てるオーケストラが素晴らしく、迫力満点でとてもカッコ良いです。続く「- Human」は新曲。引きずるように鈍重でおどろおどろしいリフを、辛うじてオーケストラで中和している感じ。かなりヘヴィです。「Wherever I May Roam」はオリエンタルで怪しげなリフや非常にヘヴィなドラムを、オーケストラが華麗にドラマチックに飾り立てます。とてもスリリングです。スローテンポでヘヴィな「The Outlaw Torn」は10分の大曲。音数少ないパートではジェイソンのうねるベースが際立ちますね。長いので途中少しだれますが、終盤はスリリング。そして「Sad But True」も非常にヘヴィ。踏みつけるかのような力強く重たいサウンドを、オーケストラが派手に装飾。続いてシリアスな名曲「One」。これはメロディアスな原曲の持っていた魅力を、オーケストラの壮大なサウンドが更に引き立てている気がします。盛り上げる部分は本当に感動的だし、終盤は非常にスリリングです。「Enter Sandman」が続きますが、グルーヴィで緊迫感のあるバンドサウンドを華やかに仕上げています。一旦締めて、少し間をあけて名曲「Battery」。イントロはアルペジオに代わりオーケストラが優雅に演奏。そして疾走部分からはとてもスリリングなバンドサウンドが炸裂し、オーケストラは装飾に回ります。超名曲ではありますが、これはオーケストラとの共演じゃなくて純粋にバンドサウンドで楽しませてる感じ。

 収録時間の長さもあって、通しで聴くと正直だれる部分もあります。スラッシュメタルの速い楽曲ももう少し聴きたかったですね。ですが単曲では魅力的な楽曲も並び、特にスリリングで圧巻の「Master Of Puppets」や「For Whom The Bell Tolls」、美しいバラード「Hero Of The Day」や「One」あたりが聴きどころです。

S & M
Metallica
 
Metallica: Through The Never (メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー)

2013年

 メタリカのライブの模様を収めた映画『メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー』のサウンドトラックです。サントラと言いつつ、実質ライブ盤ですね。とても迫力があって、かつベスト選曲とも言える素晴らしい内容です。2012年のカナダ公演を収録しているそうで、この時点のメンバーラインナップはジェイムズ・ヘットフィールド(Vo/Gt)、ラーズ・ウルリッヒ(Dr)、カーク・ハメット(Gt)、ロバート・トゥルージロ(B)。映画は観ていないのですが、映画のハプニング(という演出?)らしき音もそのまま入っています。

 最初に流れるBGM「The Ecstasy Of Gold」は映画『続・夕陽のガンマン』の楽曲で、ライブ盤『S&M』でも聴けるメタリカ定番のオープニング。そして本編は「Creeping Death」で開幕。初っ端から非常にパワフルで速く、とてもスリリング。観客の合唱も響き渡るくらいにテンションが高くて、掴みはばっちりですね。全体的に非常にヘヴィですが、その中でカークのご機嫌なギターソロが楽しい。「For Whom The Bell Tolls」は気が引き締まるような、とにかく緊迫した雰囲気。3連符を駆使したリズムが重たく響きます。続く「Fuel」はグルーヴ感抜群の疾走曲。ロバートのゴリゴリしたベースとラーズのヘヴィなドラムが冴えます。重たいサウンドながらも跳ねたリズムがとても気持ち良い。そして名曲「Ride The Lightning」。ヘヴィなイントロが鳥肌が立つほどカッコ良く、後半疾走する演奏も魅力的ですね。影のある歌メロは意外にキャッチーで、またジェイムズのOiコールも楽しい。なお、途中音が一瞬飛ぶのはそういう演出でしょうか?続いて、戦場のような銃声まみれのSEで始まる名曲「One」。重厚で憂いのあるメロディは、戦争で身体も五官も失い、チューブに繋がれて生かされるだけの男の悲痛な叫びを歌っています。重苦しいテーマを、ヘヴィなサウンドとジェイムズのシリアスな歌で聴かせます。終盤の疾走パートはとてもスリリング。「The Memory Remains」は引きずるように重たいですが、哀愁たっぷりのメロディアスな歌で魅せてくれます。会場の合唱が凄い。続く「Wherever I May Roam」は、オリエンタルな雰囲気のイントロから徐々に鈍重さを増していきます。ですが重たいながらも段々とノリが良くなっていくサウンドが楽しませてくれます。

 ここからDisc2に突入。当時の最新作『デス・マグネティック』より「Cyanide」。跳ねたリズムで疾走しますが、後半はプログレのような変則的なリズムを展開します。そしてここから素晴らしき名曲の嵐。まずは大曲「…And Justice For All」。カークの哀愁漂うギターから始まる、強烈な疾走曲。プログレ的な複雑な構成ですが、とてもスリリングで魅力的です。なお新人虐めのような原曲のミックスとは異なり、ベースの音はしっかりと聞こえます。笑 そのまま続く屈指の名曲「Master Of Puppets」。聴衆を吹き飛ばすかのようなラーズの力強いドラム、そして重たく鋭利なギターとベースがゴリゴリと抉ってきます。ドスの利いたジェイムズの歌も含めて、とてもカッコ良い。中盤では哀愁漂う魅力的なツインギターを聴かせます。8分超の長さを感じさせない魅力的な楽曲です。そしてメタリカ最強の1曲「Battery」。憂いのあるアルペジオに合わせて会場が合唱し、そこからゴリゴリと重低音が凄まじい勢いで蹂躙する。花火の演出もど迫力ですね。とても速くて重い演奏に加え、終盤のOiコールも煽ってきて、追い立てられるような感じです。そして駆け抜けた後は、名バラード「Nothing Else Matters」をしっとりと聴かせます。ギターの音色は美しくも強い哀愁を帯びています。そしてメロディアスな歌も切ない。続く名曲「Enter Sandman」。不穏なイントロから、どんどん踏みつけてくるかのようなヘヴィなリズム隊がとてもスリリングです。ラーズのドラムが特に強烈。ジェイムズの歌う哀愁のメロディは会場も合唱しています。そして1stアルバムより「Hit The Lights」。原曲は荒削りですが本ライブではこなれていて、特に原曲では聴けないジェイムズのドスの利いた歌が非常にスリリングです。最後に故クリフ・バートンが遺したインストゥルメンタル「Orion」。ヘヴィなリフにトリッキーな変拍子、中盤ゆったりと聴かせる美しいギター、そしてテンポアップして複雑でヘヴィなサウンドを奏でてライブは終演。

 メタリカの魅力の詰まった名ライブ盤です。名曲の数々をスリリングな演奏で聴かせるので、ベスト盤を出さないメタリカにとってのベスト盤に近い位置づけですね。個人的には『メタル・マスター』に次ぐ傑作だと思います。

Metallica: Through The Never
Metallica
 
 

編集盤

Garage Inc. (ガレージ・インク)

1998年

 メタリカのカバー曲集です。ディスク1は1998年の新録、ディスク2は1984年~1995年の間に録音された楽曲を収録しています。カバーアルバムでありながら米国では500万枚以上を売り上げたそうで、メタリカの人気の高さが窺えます。
 そしてダイヤモンド・ヘッドやディスチャージといった選曲に、メタリカのルーツを見ることができます。NWOBHMやハードコアの影響が大きいみたいですね。とは言え、私は知らないバンドが大半ですが。笑

 Disc1はディスチャージの「Free Speech For The Dumb」で幕開け。地を這うようなヘヴィなサウンドで疾走します。歌は吐き捨てるような感じ。続いてダイアモンド・ヘッドの「It’s Electric」。跳ねたリズムとキャッチーなメロディで聴きやすいですね。メタリカにしては珍しく爽やかな印象です。ブラック・サバス「Sabbra Cadabra」は、アクの強い原曲をうまく消化してメタリカ色を発揮しており、グルーヴ感の強い『ロード』あたりの楽曲とも馴染みそうな感じです。ボブ・シーガーの「Turn The Page」は重厚でメロウなバラード。中期以降のジェイムズ・ヘットフィールドの歌心のある歌唱は、哀愁たっぷりで染み入ります。ミスフィッツ「Die, Die My Darling」は2分半のパンク曲。メロディは少し影がありますが、演奏はシンプルでストレート。「Loverman」はニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズのカバー。8分近い楽曲で、静と動の対比が強烈なグランジ風。終始ダークな雰囲気に満ちていますが、少し冗長な印象です。「Mercyful Fate」はマーシフル・フェイトのカバー曲メドレーで11分に渡ります。ヘヴィながら爽快な疾走パートで開幕。キャッチーな歌メロやカーク・ハメットの魅力的なギターソロ等が展開されます。メドレーなので途中強引な展開も挟み、メロディアスなパートもありますが、全体的にはノリが良くて楽しめます。「Astronomy」ブルー・オイスター・カルトの楽曲。しっとりとした哀愁のメロディを聴かせます。序盤は静かなサウンドに際立つラーズ・ウルリッヒのバスドラムが良いですね。中盤からワイルドになります。続いて「Whiskey In The Jar」シン・リジィのカバー。毒のない、爽やかで少し切ない雰囲気はメタリカらしくはないですが、キャッチーかつメロディアスで魅力的です。レーナード・スキナードの「Tuesday’s Gone」はアコースティック主体の楽曲。ハーモニカの音色が、ノスタルジックで感傷的な気分を誘います。メタリカ色は消していますが中々味があって良いです。そして再びディスチャージの楽曲で「The More I See」。ジェイソン・ニューステッドの地を這うようなベースが強烈。ギターリフも鈍重で、それでいて速いです。

 Disc2はいくつかの音源を取りまとめていますが、疾走曲が多いのが素晴らしい。まずは『The $5.98 E.P.: Garage Days Re-Revisited』という1987年のEPより、ダイアモンド・ヘッドの「Helpless」で開幕。スラッシーな楽曲はメタリカのオリジナル曲かと思うような出来です。勢い任せのヘヴィな疾走曲ですが、途中にトリッキーなリズムを刻んだりとスリリングです。ホロコーストの「The Small Hours」は、イントロから不気味な雰囲気でホラーです。歌が始まると鈍重なリフで安定のメタリカ節ですけどね。終盤憑依したかのように一気に加速し、狂ったようなカークの速弾きギターなどスリリングな展開を見せます。続いてキリング・ジョーク「The Wait」。これは超攻撃的で冷徹な原曲が好きすぎて、正直メタリカ版はヘヴィだけども、比較するともっさりした印象で少しイマイチかなぁ。「Crash Course In Brain Surgery」はバッジーのカバー。ジェイソンのベースソロが冴え、歌が始まってもゴリゴリ唸っています。カッコ良い。続いてミスフィッツの「Last Caress/Green Hell」。前半はメロコアのような、キャッチーなメロディとストレートな演奏が印象的。しかし後半はがらりと変わって、超速ハードコアで煽り立てます。
 ここから2曲はクリフ・バートン存命時の1984年の録音で、音質は悪いですがスリリング。ダイヤモンド・ヘッドの「Am I Evil?」は8分近い楽曲。邪悪なイントロが強烈で、最初は鈍重ですが徐々にテンポを上げていきます。カークのクラシカルなギターソロは聴きごたえがあります。「Blitzkrieg」はブリッツクリーグのカバー。変拍子を刻む疾走曲で、勢いに満ちて軽快ながらも独特のリズムが耳に残ります。そしてうねるクリフのベースも良い。最後にゲップ音。笑
 続いて1988年から1991年の録音の寄せ集め。バッジーの「Breadfan」はグルーヴ感に溢れる疾走曲ですが、中盤はスローテンポの哀愁溢れる楽曲へと変貌。終盤で再加速する展開はスリリングです。少し音が籠もり気味なのが残念。「The Prince」はダイヤモンド・ヘッドの楽曲。狂ったような速弾きギターが鮮烈です。とても速くて、ラーズのドラムも煽り立てるかのようで印象に残ります。そして「Stone Cold Crazy」クイーンのカバー。早口パートだけはフレディ・マーキュリーっぽい雰囲気も醸していますが、早口が終わるといつもの野太くドスの利いた声です。「So What」はアンチ-ノーウェア・リーグのカバー。シンバルがシャリシャリ鳴る、シンプルながら激しいロックンロールです。スイート・サヴェージの「Killing Time」も勢いに満ちた疾走曲で、ストレートなヘヴィメタルで煽り立てます。
 ここからはモーターヘッドのカバーが続きます。「Overkill」は野性味に溢れる破壊力満点のラーズのドラムがカッコ良い。そして地を這うような重低音が響き渡るヘヴィな疾走曲です。続く「Damage Case」はノリノリの爽快なロックンロール。荒々しいサウンドですが軽快で楽しませてくれます。「Stone Dead Forever」も勢いがありますが、少し哀愁を感じさせます。そして最後に「Too Late Too Late」。これもテンポが速く、最後まで休むということを知らない疾走曲尽くしでした。

 カバーだからと侮るなかれ。とても楽しめる作品に仕上がっています。速い楽曲が多いのも嬉しいところ。正直『ロード』や『リロード』よりも好みです。笑 個人的には原曲を知らないのが大半ですが、違和感のある楽曲は少なく、メタリカ流にうまく消化している印象です。違和感があったとしても新たな魅力という風にプラスに感じられます。

Garage Inc.
Metallica
 
 

関連アーティスト

 バンドを解雇されたデイヴ・ムステインが結成。

 
 ビートルズをメタリカ風に演じるトリビュートバンド。
 
 ルー・リード&メタリカ名義でコラボアルバム『ルル』をリリースしています。
 
 
 類似アーティストの開拓はこちらからどうぞ。